ロシア余剰兵器プルトニウム処理処分への協力の現状について
平成13年2月20日
核燃料サイクル開発機構
- 1. はじめに
-
ロシア余剰兵器プルトニウム処理処分への核燃料サイクル開発機構の協力の現状と国際動向について紹介する。
昨年の国際的な動きとしては、九州・沖縄サミットでの議論を踏まえ、本年のジェノアサミットに向けてロシア余剰兵器プルトニウム処理処分への国際的資金支援の枠組みの協議が開始されたことと、2000年9月、米露両国が双方でそれぞれ34トンの兵器級プルトニウムを処分する二国間協定に署名したことが挙げられる。また、今月初めにG8の会合で余剰兵器プルトニウム処理処分の多国間協力のあり方ついても協議が行われ、我が国提案を諸外国の提案にどのように組み入れるかを発表した。
他方、サイクル機構はバイパック(振動充填)法により余剰兵器プルトニウムを用いてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を製造し、ロシアの高速炉BN-600で燃焼させるオプション(BN-600バイパック燃料オプション)に関して協力を既に実施している。オプションの全体を図1に示す。サイクル機構は高速増殖炉開発及びそのMOX燃料製造・取扱い技術の経験を生かして、米露と協力しながら、本オプションのうち、技術開発的要素の強い準備作業としてのフェーズ0並びにフェーズ1の一部について協力を進めている。フェーズ2については、その構想を日本政府から各国に提案している段階である。
- 2. 各国の状況
-
[米国]
- 2000年9月、ゴア副大統領により米露の余剰兵器プルトニウム34トンずつの処理処分に関する二国間協定への署名が行われた。
- 共和党政権は、ロシア余剰兵器プルトニウム処理処分協力には支持の立場と伝えられているが、しばらくはその動向を見守る必要があると考えられる。
- 34トンの処分には、総額約17-19億USドルが必要とのコスト評価がロシアと共同で行われている。
[ロシア]
- 2000年8月末、上述の米露二国間協定にカシヤノフ首相が署名し、11月にロシア議会による批准が行われ協定が発効した。
- 2000年8月初旬、ロシア連邦政府は日本との協力案件である余剰兵器プルトニウム処理処分、日露FBR協力について協力分野を定め、当該協力に関する権限をロシア原子力省(MINATOM)に委任することとした。これに伴い、1999年にサイクル機構がRIARと締結したバイパック燃料集合体3体の製造・照射契約について政府の承認がなされた。
[独・仏]
- 独のハナウのMOX燃料製造施設の設備をロシアに移設し、MOX燃料の製造を行い、軽水炉VVER-1000及びBN-600で燃焼させる計画を進めており、燃料製造施設等の概念設計等を行っている。
- 34トンの処分には総額約17億USドルが必要とのコスト評価が行われている。
[カナダ]
- カナダは、米露の余剰兵器プルトニウムを用いて製造したMOX燃料を自国のCANDU炉で燃焼させる計画(CANDUオプション)を提唱している。
- 同オプションに関し、小規模実証試験計画(パラレックス計画)に基づき、米露の余剰兵器プルトニウムから製造したMOX試験用燃料ピンをチョークリバー研究所へ輸送し、一体の試験用燃料体に組み上げ、同研究所の研究炉による照射を2001年2月から開始の予定。
[G8サミット]
- 2000年7月の九州・沖縄サミットでは、ロシア余剰兵器プルトニウムの「処分に必要な資金の国際的調達計画と多国間協力に向けた支援体制の枠組み作りを、次回サミットまでに行う」というG8沖縄コミュニケを採択した。
- 現在,ジェノアサミットにむけた検討が精力的に進められている。
- 現在まで、ロシアの余剰兵器プルトニウム処理処分に資金拠出を表明しているのは米国(4億ドル)、英国(1億ドル)及び仏国(1.2億ドル)であり、我が国もケルンサミットにおいて応分の負担の意志表明を行っている。
-
3. サイクル機構の取り組み状況
-
1)フェーズ0
フェーズ0は、BN-600バイパックオプションの技術的成立性、安全性のデータを得ること及び本オプション全体のコスト見積もりを行うために実施しており、2件の共同研究作業は概ね順調に進捗している。以下に概要を述べる。
(1)BFS-2臨界実験と炉心解析
- ロシアの臨界実験装置BFS-2を用いてBN-600のMOX炉心を模擬した臨界実験と解析を実施し、露の設計コードの解析精度を把握し、BN-600MOX炉心の設計に用いることを目的とする。
- 現在まで、実験と解析は当初スケジュール通り順調に進んでおり、昨年10月の第3回目の専門家会合に先立ち、サイクル機構職員がBFS-2臨界実験に参加し、測定方法や検出器構造・性能等について確認した。
- 本共同研究は、ロシア物理エネルギー研究所(IPPE)との協力で実施し、平成11年度から平成14年度までの4年間で、総額約100万ドルを予定している。
(2)3体MOXバイパック燃料製造・照射試験
- 余剰兵器プルトニウム約20kgを用いたMOXバイパック燃料集合体3体をRIARのバイパック燃料製造設備を用いて製造し、BN-600で照射した後、照射後試験を行って照射挙動を確認することにより、本オプションの実現性を確認することを目的とする。
- 照射は昨年5月中旬より開始され、現在も3体の集合体はBN-600炉内で照射中。現在まで順調に照射され、燃焼度は3.3%に達している。
- 本研究は、RIARとの共同研究で実施し、平成11年度から平成15年度までの5年間で行うことを予定している。
(3)全MOX炉心化のコスト評価
- ロシア側と協議を行い、作業項目、契約金額等大筋の合意に至った。今後、細部を詰め、関係官庁の了解を得てコスト評価作業に係る契約を締結する予定である。
2)フェーズ1
(1)全体計画
- フェーズ1のスケジュール案について上述のフェーズ0のスケジュールと併せて表1に示す。BN-600のハイブリッド炉心化移行開始は2004年を想定。
- フェーズ1の実施にあたっては、日・米・露間で作業項目を分担する。日本側は主としてバイパック燃料に係る項目を中心として分担する予定で、分担案は2000年2月に米露両国へ提案し、現在も協議を継続している。
(2)日本側実施分担項目
①炉心・燃料設計
- BN-600のハイブリッド炉心の炉心・燃料設計に関し、ロシア側と契約原案について概ね合意に至った。今後は、年度内の契約を締結し、協力作業を開始する予定。
- 本研究は、ロシア機械設計局(OKBM)との共同研究で実施し、平成13年度から平成14年度までの2年間で行うことを予定している。
②安全解析
- BN-600のハイブリッド炉心化のために必要な安全解析の実施項目については日米露間で概ね合意。今後は契約原案について2月末を目途にロシア側と最終的な詰めを行っていく。
- 本研究は、IPPEとの共同研究で実施し、平成13年度から平成15年度までの3年間で行うことを予定している。
③デモンストレーション処分
- ロシア側はBN-600のハイブリッド炉心化に当たっては、更に21体の集合体照射実績(デモンストレーション処分)を実施した上で許認可を得る必要があると主張している。日本側としては、フェーズ0の3体照射で十分であり、本業務に研究開発要素は認められずサイクル機構での実施は困難であると認識している。ただし、BN-600ハイブリッド化に占める緊急性、必要性及び重要性を考慮し、今後の対応を関係機関と協議中である。
④燃料製造施設整備
- BN-600ハイブリッド化に伴い必要な燃料製造施設(年間約50体のバイパック燃料集合体の製造能力)整備の契約原案についてロシア側と合意に至った。現在、関係省庁と協議中であり、ロシア側と年度内に契約を締結する予定である。
- 本研究は、RIARとの共同研究で実施し、平成13年度から平成15年度までの3年間で行うことを予定している。
-
4.今後の進め方等
-
(1)フェーズ0
- 作業は概ね順調に進捗しているが、引き続き作業監理を適切に行う。得られた成果については、サイクル機構の研究開発業務に最大限活用していくとともに、ロシア側の了解を得て原子力学会等をはじめ国内に広く発表してゆく。
(2)フェーズ1
- 3月末のロシア関係機関との契約の締結のため、2月中にすべての契約書案について最終的に合意できるようロシア側と協議を行う。
(3)G8の動向への対応
- G8でのロシアの余剰兵器プルトニウム処理処分の全体計画の作成作業に協力するともに、我が国提案の合理性もアピールしていく。また、バイパック燃料オプションに関する技術的情報を提供していく。
(4)その他
①JNC原子力平和利用フォーラム
- 2月22日に行われるJNC原子力平和利用フォーラムにおいて、本件に関して協力の現状を紹介し、関係者からコメントをいただくとともに、パネルディスカッションを開催する。
②原子力学会春の年会
- 原子力学会春の年会に総合報告として、余剰兵器プルトニウムのセッションが3月27日に開かれ、各国からそれぞれの技術オプションについての進捗状況について報告が行われる。BN-600バイパックオプションについてはサイクル機構及びロシア側研究所との共同発表を含めて3件の発表がなされる予定。
以上