• 長期計画案の取りまとめに対し、那須座長をはじめとする策定会議委員にお礼申し上げる。去る８月には意見募集の段階の案をご報告頂いたが、本日の案は寄せられた意見を十分に踏まえて審議された案であり、国民各界各層の意見が適切に反映されていると考える。原子力委員会としては昨年５月に新たな長期計画の策定開始を決定し、その際、２１世紀に向けての原子力研究開発利用の全体像と長期展望の提示、国民や国際社会に向けたメッセージとしての役割の重視等をお願いしたが、本日の案はその方向に沿った内容であると考える。また、昨年のウラン加工工場臨界事故等により、原子力に対する国民の不安や不信が大変高まっている状況の中で、原子力研究開発利用の原点に立ち戻った議論を経て、原子力発電や核燃料サイクルの意義・役割を再確認して頂いたことは、大きな意味があるものと認識する。東海村では核燃料サイクル開発機構の再処理工場が運転再開し、六ヶ所村でも使用済燃料受け入れを了承頂いたが、皆様の努力が大きな背景の一つにあったと思う。一方、タイで開催されたアジア原子力協力フォーラムでは、参加国は日本の原子力政策に大変な関心を持っており、また各国とも原子力の多様な利用が必要との認識で活発な議論があった。本件は２１世紀の原子力政策の方向性を定めるものであり、原子力委員会にとって大変重要な案件である。本日の報告を受け、原子力委員会としての考え方をまとめることとしたい。
  

（那須座長）長期計画案の策定に当って留意した点を３点申し上げる。第一に、２０世紀における原子力の歴史を踏まえ、今後解決すべき課題と、原子力の多様な可能性を引き出すために取り組んでいくべき長期的展望を提示することを目指し、原子力平和利用の原点に立ち返り、その意義と役割を改めて検討すること。第二に、原子力に対する国民の不安や不信が高まっている厳しい状況を踏まえ、国内外の理解と信頼を得ていくことが大前提であるとの立場から、原子力関係者のための具体的指針にとどまらず、国民・社会や国際社会に向けたメッセージとしての長期計画の役割を重視すること。第三に、国と民間の果たすべき役割を踏まえつつ、将来にわたって堅持し、着実に実施しなければならない理念や政策を示すとともに、機動的に対応すべき研究開発活動等については、課題解決のための多様な選択肢を用意し、適時適切な評価により計画に柔軟性をもって取り組むとの原則を示すことである。策定会議としては、長期計画案で示された原子力研究開発利用の全体像と長期展望に沿って、今後、我が国の原子力政策が展開されていくことを切に希望する。

• 従来の長期計画策定は、原子力推進関係者のコンセンサス作りが主軸となっていたと言える。その過程で国民との認識の違い、パーセプションギャップが顕在化し、信頼関係にヒビが入ってしまった。大変厳しい情勢の中で２１世紀の原子力政策の進め方をご審議頂き、大変意義のある、重要な計画策定であった。非常に多種多様な意見が出る中で、大変真摯な議論が行われ、国民と原子力推進関係者との間に存在していたギャップはかなり縮められたと理解しているが、しかしなお、完全に溝が埋まったとは思っていない。那須座長ご指摘の第二点の通り、国内外の理解と信頼を確立することを名実共に実現できるよう、原子力委員会として取り組んでいかなければならない。
  
• 一年半の審議で、いろいろな意見がありながら、よくまとまったというのが正直な感想である。国際的にも大変な関心を集めており、アジア原子力協力フォーラムでは１時間を超える質疑応答があった。さらにＩＡＥＡでもこのための特別会合が開催されることとなっており、国内ばかりでなく国際社会に対する発信も、今後とも進めていかなければならない。長期計画に書いてあることを積極的に推進し、また破られないようにし、先々のことは別としても原則としてこれを守っていくことが重要である。また、フォローアップを実施する仕組みをどのようにするかが大切であり、省庁再編を踏まえて原子力委員会として早急に考えなければならない。
  
• 今回の長期計画では、内容もフォーマットも前回の長期計画を単にトレースするのではなく、この時代に相応しい、新しいものを作ろうという意気込みがあった。ちょっとぎくしゃくしたり、悩ましい時間を過ごしたこともあったが、結果として１００点満点に近い状況を作ろうと努力されたことに感動した。私見だが、こういうものは常に原子力ありきから始まるのではなく、なぜ私達は原子力を平和利用しているのかとの問い直しを基本的な部分として押さえていなければならない。それがきちんと盛り込まれたと思う。長期計画は当事者だけの問題ではなく、国民全般に関わる問題であり、国民の方々の理解とご支持を頂くこと、常に呼びかけたり話し合ったり、我々がどう実施したらいいのか検討することが次に課せられた課題と思う。いろいろなご批判が続くと思うが、その中で我々が真摯に取り組んで、この計画の内容をお伝えする義務を果たしていきたい。
  
• なぜ今の時期に長期計画を策定するのかということであるが、それは原子力が転換期に来ているからである。我が国の原子力もこれまで国民の理解と支援を得て順調に進められてきたが、もんじゅ事故以来、事故・不祥事に続いて、昨年は臨界事故まで起こり、国民・社会に原子力に対する不安と不信を生んだ。２１世紀の原子力はこれまでの単なる延長上にあるのではなく、ここで再確認・再出発することを社会が求めているのである。豊かさと引き換えにリスク社会の到来を実感しており、人々は科学技術が全て人類に貢献するとは考えていない。平和利用を宣言してきた日本が原子力先進国となった今、２１世紀の原子力について、理念と政策を提言するのに適切な時期である。これまで５年程度で長期計画を見直してきたが、今回は単なる改定ではなく、新たな策定であると認識している。国内外に向けて２１世紀初頭のメッセージを２０００年終わりまでに出すことは、特別な意味合いを持っている。不確実な現代社会で人々は原子力に対して、何をするのか、何が目標なのかを求めているのであり、ここ１０年程度の現実的対応だけを求めてはいないと考える。そこには、原子力の全体像の提示と、長期展望が求められる。今後の原子力を考える上で、広がりのある全体像を示し、バランスのある研究開発及び利用が続けられるためにはどうすればよいかを捉え直し、時代に合った方向に向けていくことが大切である。キャッチアップの時代には個別具体的に計画を立て、タイムスケジュール型の固い計画を進めて成果をあげてきたが、多くの分野においてその時代は過ぎたと考える。また、長期計画がこれまで原子力界の約束事であり、当該分野をオーソライズし予算要求を可能にするものとの認識から脱却し、日本の原子力政策をより広い観点、より広い分野からの議論を通して策定することが大切であると考えてきた。世界で今、原子力に関する長期計画が策定できる環境にある国はけっして多くない。それだけに国内外に示すに相応しいものにしたいと考えてきた。全体像についてだが、今回国民的見地に立った長期計画を求めて、広い分野から参加して頂くようにした。そのため原子力長期計画策定会議の発足に先立ち、原子力委員会は基本的考え方を示した。ご承知のように原子力基本法は、原子力のエネルギー面に限定せず、広く放射線の利用なども含めた原子力科学技術の世界を見ている。加速器、レーザーなど、あるいは今の原子炉、将来には核融合などが、この領域に入ってくることと思う。このような広がりの可能性を考え、２１世紀の原子力に求められる理念として、（１）文明の中の原子力、（２）エネルギーとしての原子力、（３）地球環境と調和を図る原子力、（４）総合科学技術としての原子力、（５）国内・国際を含めた社会における原子力、この五つを原子力委員会は示し、策定会議はこれに基づいて六つの分科会を作ったと理解している。時代の変化への対応については、特に、自由化、経済性重視、規制緩和などの時代の流れのなかで原子力をどう捉えるかである。従来、原子力は、その必然性を中心に、絶対的価値を前提とするような表現をしてきた。しかし、社会は明らかに絶対から相対へと価値観が変化している。従って原子力もその意義付けを再検証しなければならない。エネルギー源としても他のエネルギー源の現状及び将来についての比較検討が必要であり、これが自由化、経済性など、現在抱える課題を解決しても、日本の置かれた地政学的宿命のみならず、２１世紀のアジアや世界の資源・環境問題に応える可能性がある、ということに対する答えを求めた。同時に原子力の全体像をプラス・マイナスの両面から捉えたことも、今回の長期計画で重要なことである。産業革命以降の科学技術が必ずしも全て社会や個人に貢献したとは言えず、軍事や環境汚染の原因にもなっていることの反省がある。原爆の悲劇や、原子炉事故も経験している状況で、原子力も決してその例外ではないことを認識し、その上に立って原子力の全体像をプラスとマイナスの両面から捉えている。特に、マイナスが克服できて初めてプラスを伸ばすことができるということで、２１世紀の求めるものに応えられる研究開発及び利用の姿を見つけようとした。最後に、策定会議からご報告頂いたことに対しての感想を述べさせて頂く。端的に言って従来の原子力関係者のための長期計画からの脱皮を図り、多くの分野からの参加を頂き、その議論の結果、今回の長期計画案には以下のような特徴があるかと思う。これは過去・現在の日本の原子力だけではなく、日本の状況全体を検証するなかで、やはり将来に向けて日本の原子力の研究開発及び利用を進めることが大切だとの結論を頂いていることと思う。さらに多くの議論があったが、その中で、核燃料サイクルの重要性が再認識されていることが特徴的ではないか。これは現在の軽水炉を中心とし、再処理、プルサーマル、廃棄物の地層処分、さらに中間貯蔵を取りあげる一方で、将来の更なる資源の有効利用、環境負荷の低減に向けた高速増殖炉及びその関連核燃料サイクルの研究開発とともに、放射能の短半減期化、非放射化を求めての分離変換技術の研究開発も位置付けられ、大変心強いことである。さらに放射線の利用に関しては、１８９５年、Ｘ線の発見の翌年から始まっている医療分野への応用に加え、食品、農業、工業分野への展開を図るとともに、広島・長崎の経験を活かし、放射線の人体影響を研究することも位置付けられていることを大変評価している。さらに原子力が、一世紀にわたる歴史を通しても、まださらに広い世界の未踏領域を多く含み、その基礎研究や加速器、レーザー、革新的原子炉、核融合の開発など、原子力がまだ新しく挑戦すべき多くの先端分野を含んでいることを示して頂いた。これは若者に、夢多い世界が原子力に存在することを示すものとして大変意義深いものと考えている。さらに、従来と違って、表現がより国民・社会、国際社会へ向けてのメッセージ性を強く打ち出しながら、原子力の全体像、長期展望、さらに現実的方策を明確に示して頂いたと理解しており、大変高く評価するとともに、広い分野からの参加者のご意見が見事に集約され一つの報告書にまとまったことに、大変深い感銘を覚える。今日那須座長から示して頂いた長期計画案に対して、誠実かつ積極的に応えていくことがこれから原子力委員会の役割と考える。策定会議が、初めて公開の場で開催された中で、理解しやすい、しかも常識的な線でまとめられて嬉しく思う。那須座長からの報告と、委員からの意見を早急にまとめ、委員会決定を取りまとめたい。
  
  

（３）北陸電力株式会社志賀原子力発電所原子炉設置変更（１号原子炉施設の変更並びに１号及び２号使用済燃料の処分の方法の変更）について（答申）
　標記の件について、通商産業省より資料２-1に基づき説明があり、平成１２年６月２８日付け平成12・02・07資第15号（平成１２年７月２８日付け平成12・02・07資第15号をもって一部補正）をもって諮問のあった標記の件に係る核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第２６条第４項において準用する同法第２４条第１項第１号、第２号及び第３号（経理的基礎に係る部分に限る。）に規定する基準の適用については妥当なものと認め、通商産業大臣あて答申することとした。
注）本件申請に係る変更は以下のとおり。

• ９×９燃料の採用
  １号炉に９×９燃料を取替燃料として採用する。

  使用済燃料貯蔵プール貯蔵能力の増強

  １号炉の使用済燃料貯蔵プールの貯蔵能力を増強する。

  ハフニウムフラットチューブ型の新型制御棒の採用

  １号炉にハフニウムフラットチューブ型の新型制御棒を採用する。

  使用済燃料の再処理委託先確認方法の一部変更

  １号及び２号炉の使用済燃料の再処理委託先確認方法を一部変更する。

（４）その他
　事務局より、次回は平成１２年１１月２４日（金）に臨時会議を開催する方向で調整したい旨、発言があった。