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特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針

 

 特定放射性廃棄物(発電用原子炉の使用済燃料の再処理後に残存する物を固型化したもの)は、多量の放射性物質を含み、長期間にわたり放射能が高いため、地下深部に設けられた最終処分施設に適切に埋設することにより、人間の生活環境から隔離して安全に最終処分することが必要である。
 最終処分事業は極めて長期にわたる事業であり、安全性の確保を大前提としつつ、安定的かつ着実に進めていくことが必要である。また、概要調査地区等の選定や最終処分の実施を円滑に実現していくためには、概要調査地区等の選定に係る関係住民及び国民の理解と協力を得ることが極めて重要であり、事業の各段階における情報公開の徹底等を図る必要がある。さらに、特定放射性廃棄物の最終処分は、原子力発電を利用していく上での最重要課題の一つであり、国、原子力発電環境整備機構、発電用原子炉設置者その他関係機関が適切な役割分担と相互の連携の下、それぞれの責務を果たしていくことが重要である。
 本基本方針は、このような認識の下、特定放射性廃棄物の最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、必要な事項を定めるものである。
 なお、最終処分事業が極めて長期にわたる事業であることから、本基本方針は、今後の技術の変化等、事情の変更に応じて、所要の見直しを行うものとする。

第1 特定放射性廃棄物の最終処分の基本的方向

 特定放射性廃棄物は、固型化した当初は放射能が非常に高く発熱量も高い状態にあるが、時間の経過とともに放射能が減衰し発熱量も減少することから、30年から50年間程度貯蔵し、冷却することにより最終処分可能な発熱量となる。このため、特定放射性廃棄物は、30年から50年間程度貯蔵した後、順次、安全性を確認しつつ、最終処分することとする。
 原子力発電環境整備機構(以下「機構」という。)は、冷却期間を終了した特定放射性廃棄物を円滑に最終処分することができるよう、適切な時期までに十分な規模及び年間処分能力を有する最終処分施設を設置し、当該施設において安全かつ確実に最終処分を行うものとする。

 第2 概要調査地区、精密調査地区及び最終処分施設建設地(以下「概要調査地区等」という。)の選定に関する事項

 機構は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(以下「法」という。)の規定に従い、概要調査地区等の選定を行うものとする。この際、概要調査地区の中から精密調査地区を、精密調査地区の中から最終処分施設建設地を選定するものとする。
 国は、機構による概要調査地区等の選定過程を監督するとともに、機構の申請を受けて概要調査地区等の所在地を最終処分計画に定めようとするときには、当該概要調査地区等を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならない。
 なお、概要調査地区等の選定主体は機構であるが、国は特定放射性廃棄物の最終処分に関する政策を含む原子力政策を担当する立場から、発電用原子炉設置者は特定放射性廃棄物の発生者としての基本的な責任を有する立場から、機構が行う概要調査地区等の選定に積極的に協力することが必要である。

第3 概要調査地区等の選定に係る関係住民の理解の増進のための施策に関する事項

 概要調査地区等の選定においては、関係住民の理解と協力を得ることが極めて重要であり、そのためには、情報公開を徹底し透明性を確保することが必要である。
 機構、国及び発電用原子炉設置者は、情報公開を行うに当たっては、生活様式や居住環境が地域や人によって異なることを踏まえ、図書館や公的集会所への資料の陳列、広報紙や広告等への掲載やインターネットの活用等、情報へのアクセス手段を多様化し、より多くの人々が必要な情報を入手できるようにすることが重要である。また、求められる情報の提供に誠実に対応するとともに、情報が正確であるだけではなく、情報を受け取る側にとってわかりやすいものとすることに努力する必要がある。
 機構は、概要調査地区等の選定に関し、それぞれ文献調査、概要調査及び精密調査の結果や選定の理由等を記載した報告書の作成や縦覧、報告書の内容を周知させるための関係都道府県内における説明会の開催を行うほか、報告書の内容について意見書を提出する機会の設定等、関係住民の意見を聴く機会を設け、その反映に努めることが必要である。
 国は、機構から得た選定に関する情報、最終処分に関する技術的情報等を含め、特定放射性廃棄物の最終処分に関する必要かつ十分な情報の公開に努めるとともに、その政策的位置づけや安全性の確保のための取組を明確にし、特定放射性廃棄物の最終処分に関する政策に対し、関係住民の理解を得るよう努めるものとする。また、国及び関係地方公共団体は、機構による概要調査地区等の選定にあたり、十分な情報交換を行うとともに、円滑な意思疎通を行うよう努めることが必要である。
 発電用原子炉設置者は、特定放射性廃棄物の発生者としての基本的な責任を有することから、特定放射性廃棄物の最終処分に関する関係住民の理解を得るための活動を、機構及び国と連携しつつ、実施することが必要である。

第4 特定放射性廃棄物の最終処分の実施に関する事項

 最終処分は、特定放射性廃棄物のまわりに人工的に設けられる複数の障壁(人工バリア)と、特定放射性廃棄物に含まれる物質を長期にわたって固定する天然の働きを備えた地層(天然バリア)とを組み合わせることによって、特定放射性廃棄物を人間環境から隔離し、安全性を確保する「多重バリアシステム」により実施するものとする。
 最終処分に当たっては、機構は、実施主体として安全性の確保を最優先し、確実な実施を図るものとする。また、機構の最終処分業務に充てられる拠出金は、電力消費者が電力料金の原価への算入を通じて負担し、発電用原子炉設置者が納付する、公共性の高い資金であることから、機構は、安全性の確保の前提の下、経済性及び効率性にも留意して事業を行う必要がある。加えて、最終処分事業は極めて長期間にわたることから、機構は技術等の変化に柔軟かつ機動的に対応できる体制であることが必要である。
 国は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する政策を担う立場から、その政策的位置づけを明確にしつつ、機構に対して法律と行政による監督と規制を行うものとする。さらに、国は、最終処分に関する安全の確保のための規制に関する法律等について、原子力安全委員会における検討等を踏まえつつ、適切な時期に整備し、厳正に運用することが必要である。その際、国は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する安全性の確保のための取組について、情報の公開に努め、国民の理解の増進に努めるものとする。
 発電用原子炉設置者は、特定放射性廃棄物の発生者としての基本的な責任を有することから、法に基づき拠出金を納付する義務を負うほか、特定放射性廃棄物の機構への適切な引渡、機構に対する人的及び技術的支援等を行うことが必要である。

第5 特定放射性廃棄物の最終処分に係る技術の開発に関する事項

 特定放射性廃棄物の最終処分に係る技術の開発のうち、機構は、最終処分事業の安全な実施、経済性及び効率性の向上等を目的とする技術開発を担当するものとし、国及び関係機関は、最終処分の安全規制・安全評価のために必要な研究開発、深地層の科学的研究等の基盤的な研究開発及び地層処分技術の信頼性の向上に関する技術開発等を積極的に進めていくものとする。
 さらに、国は、最終処分に関する研究者や技術者を養成し、確保する方策について、関係機関と協力しつつ、検討していくことが重要である。

第6 特定放射性廃棄物の最終処分に関する国民の理解の増進のための施策に関する事項

 機構及び国は、特定放射性廃棄物の最終処分その他原子力に関する、広報の充実、強化及び必要かつ十分な情報公開に努めるものとする。その際に、概要調査地区等の関係住民のみならず、原子力発電の便益を受ける電力消費者一般が、特定放射性廃棄物の最終処分の問題について理解を深めることが重要である点に留意することが必要である。また、機構及び国は、最終処分業務に必要な費用として拠出金を徴収することについて、国民の理解を得られるよう、拠出金の算定根拠を明らかにするものとする。
 また、国は、最終処分に関する知識を普及し、国民の関心を深めるため、エネルギー、原子力、放射性廃棄物に関する教育や学習の機会を増やすものとする。具体的には、例えば、教育機関に対する情報提供、学習教材の提供、専門家の派遣、深地層の研究施設の訪問の機会の提供が必要である。
 発電用原子炉設置者は、原子力に関する広報に努めるとともに、特定放射性廃棄物の発生者としての基本的な責任を有することから、特定放射性廃棄物の最終処分等に関し、国民の理解を得るための活動に積極的に取り組むことが必要である。

第7 その他特定放射性廃棄物の最終処分に関する重要事項

 機構が行う最終処分事業は、概要調査地区等に係る関係住民との共生関係を築き、あわせて、地域の自立的な発展、関係住民の生活水準の向上や地域の活性化につながるものであることが極めて重要である。そのため、機構は、最終処分事業と地域との共生について、関係地方公共団体が地域の特性をいかした多様な方策を主体的に検討することができるよう協力することが重要である。また、国及び発電用原子炉設置者は、その実施に当たり、機構と一体となって総合的に取り組むことが必要である。また、機構は、最終処分事業の実施に当たっては、機構と関係住民との様々な交流を積極的に図り、機構と地域の一体感を深めるよう努めることが重要である。
 国は、最終処分事業が長期にわたる事業であることにかんがみ、経済事情の変化、技術進歩や安全規制体系の整備等による事情の変更等に的確に対応できるよう、最終処分業務に必要な費用の見直しを柔軟に行うこととする。また、国は、最終処分積立金が安全かつ確実に運用され、かつ、確実に最終処分業務の実施に充てられるよう、指定法人を指導、監督するものとする。
 国及び関係機関は、最終処分の負担軽減等を図るため、長寿命核種の分離変換技術の研究開発について、国際協力、国際貢献の視点等も加味するとともに、定期的な評価を行いつつ、着実に推進することが必要である。