第2回高速増殖炉に関する日露専門家会合の結果について

平成12年8月8日
科 学 技 術 庁

1.経緯
 1997年11月に作成された「橋本・エリツィン・プラン」の実現のため、1998年3月に第3回日露原子力協議が開催された。ここで、高速増殖炉分野に関する二国間協力について、今後の協力の可能性を検討する場として両国政策担当者を含めて意見交換を行う場として日露FBR専門家会合の設置が合意され、同年10月に第1回会合が開催された。
 その後、協力項目の具体化のため作業会合等を通じ、実施機関を中心に協議が進められ、今回、これまでの協議の成果をレビューし、研究開発リストを確定するとともに、今後の協力を促進する上での課題を協議するため第2回の専門家会合を開催した。

2.日時及び場所
 平成12年7月27日(木)~28日(金)、ロシア原子力省(モスクワ)

3.出席者
 別紙1

4.議事内容
(1)挨拶及び議題確認
 共同議長であるベズズープツェフ局長及び和田課長から挨拶があり、双方出席者の自己紹介が行われた。
 また、議題について合意し、議事録(Minutes)については、その記載されるべき内容についてのみこの場で確認し、後日外交ルートを通じて確定することとした。

(2)ロシアにおけるFBR及びその核燃料サイクルの研究開発計画について
 ベズズープツェフ局長から、原子力発展戦略(STRATEGY OF NUCLEAR POWER DEVELOPMENT IN RUSSIA in the first half of the 21st century)を中心に、今後のロシアの原子力開発について説明があった。

主な発言は以下のとおり。
○ロシア政府の原子力発展戦略
 ロシア政府の原子力発展戦略が本年5月に決定された。
 ここでは、現状及び今後の50年間の計画が含まれている。計画を50年としたのは、学問的にアイデアが発生してから現場で物ができるまでは非常に長い時間がかかり、21世紀の後半に実用化する技術は今から考えないといけないからである。
 このための基本的考え方としては、
 ①核燃料サイクルの安全かつ効率的な運用を確保すること。
 ②現行の炉を安全度のさらに高い第三世代の原子炉によって置き換えること。
 ③次の世代にふさわしい大規模な原子力技術を実施するのための準備を進めること。
があげられる。この際、技術に取り入れるべき原則は、経済性、安全性、優れた核燃料サイクル、核不拡散である。
○原子力発電設備の今後
 現行炉を寿命延長しないと2024年には無くなる。現行炉を新規炉に代えるというのが大きな課題。
 この発展戦略における今後の設備容量の推移は、もっとも楽観的な場合、2010年において32GWe、2020年において55GWe、2030年において60GWeである(2000年現在では21.2GWe)。
○原子力の優位性
 発電企業の大部分はロシアのヨーロッパ部にある。しかもこの地域で人口密度が高いため、重油、石炭で発電するのは、環境上好ましくない。また、原料を遠いシベリアから運んで来ねばならず不経済。したがって、電力増強の手段は、天然ガスか原子力に限定される。天然ガスは国際価格と国内価格は4倍違う。このため、天然ガスを国内で安く燃やすより輸出する方が得である。これも原子力をやる上で有利。
○燃料の評価
 燃料について、確定済みの資源と在庫を考慮すると、その資源量は軽水炉で燃やした場合80~90年分となる。ロシア国内の消費量は約3,000t/年であり、解体核を混ぜてMOXにすると20年延長できる。高速炉で品位の低い(U-238)燃料を使った場合は、発電量を4,000GWとした場合2500年くらい燃やすことができる。
○直近の計画について
 ロストフ原子力発電所の1号(VVER-1000)がこの秋に運転開始の予定で既に許可を取得。8月には設備の最終運転試験、ホット試験がある。
 また、現行炉の寿命延長作業中。炉型により寿命が40年か50年かについて検討中であり、将来は現行炉の寿命が切れたら、新世代のPWRの増設を考えている。
○BN600について
 BN600は、最近10年間の稼働率が73~75%。今年の前半は、約1ヶ月のメンテナンス期間があり、稼働率60%位と低くなっているが、年間の総発電電力量は例年程度と考えている。
○BN800について
 BN600の近くにBN800の建設地がある。州政府との間に最終合意が得られている。州政府が建設に投資することとなっており、建設費の3分の1を負担する。あとの3分の1は電力会社、残りの3分の1は、原子力省を含むその他の投資。現行のプログラムで、BN800は2010年完成。建設工事は来年から開始したい。現在BN800にMOX燃料を装荷する許可を得ているが、MOX燃料を製作する大規模なプラントがない。現行の許可は酸化物燃料に対するものだが、将来的には窒化物の許可も取らなければならない。
 燃焼させるプルトニウムについては、BN800に限っていえば解体核プルトニウムを考えており、軽水炉から発生するものも可能性ある。
○BR10及びBOR60について
 BR10は、2002年に停止を決定。現在は、同位体製造、材料研究、医療目的で使用。BOR60は、積極的に活用しており、材料、MOXの運転可能性について研究をしており、近いうちにBRESTプログラムのための補助ループを設置予定。この炉は、基本的研究炉として10年間は継続利用する。
○BRESTコンセプト
 この戦略における研究開発の原則は、①高速炉、②固有安全、シビアアクシデント除去、③再処理技術を進めて廃棄物を最小限にする、④核不拡散維持、である。この原則を競合性を考慮しつつ検討する中で次世代炉BRESTコンセプトが出てきた。これらにはBRESTコンセプトが完全に合致。
 BREST計画については、今年8月からの科学技術委員会でその構想が議論され、全面的に支持されてきている。BRESTを進めるための研究開発、経済的根拠を確かめるための作業にはいる。約300MWの実証炉を建設するこを2007年から始める。立地については、ベロヤルスク原子力発電所のサイトで検討中。高速炉の運転経験があるためであり、その近くにおかれている研究機関に豊富な人員もいる。
 また、BREST炉のクローズド燃料サイクルの可能性を検討中であり、先日イワノフ次官立ち会いで、討議が行われた。BRESTはウランとプルトニウムの分離を想定せず、また、マイナーアクチニドを除去することも想定しておらず、現在の技術と大きく異なるものであり、大規模なR&Dが必要。
○核燃料サイクルについて
 高速炉用の核燃料は2つの方向。1つはMOX。解体核及びエネルギー・グレイドのプルトニウムを混ぜる作業を行い、多様な燃料の作成技術を開発。第2の方向は密度の高い窒化物燃料の作成。再処理技術、燃料サイクルをクローズする技術は検討されてきた。このコンセプトでは、いろいろな廃棄物(実験炉から大型高速炉のものも含む)について現在の能力による処理可能性、将来の施設増強による可能性を分析する。
 現在、MAYAK工場のRT-1では、実験炉及びBNシリーズの照射済燃料、VVERの照射済燃料の再処理に加え、原子力潜水艦の使用済燃料も再処理する能力がある。
 BN600については、約6t/年(約120体の集合体)の使用済燃料が出て、RT-1に運ばれる。RT-1において得られた、エネルギー・グレードのプルトニウムは約30tである。解体核も数十トンある。
 MOX燃料を大規模生産するための立地等諸問題を検討中。立地については、MAYAKかクラスノヤルスクのどちらかで検討中である。
また、MAYAKのPAKETを改良し、BN600のハイブリッド炉心をまかなう可能性を検討中。  RIARでは振動充填燃料を試作する装置が2002年までに改良される。

ベズズープツェフ局長からの説明の後質疑が行われた。主なやりとりは以下のとおり。

Q.原子力開発発展計画の中で2030年には60GWまで高めるとの話だが、新しい立地が必要と考える。地元住民の反対とか、立地は困難ではないのか。
A.ロストフ原子力発電所を完成するにあたり、ある程度の住民には反対するグループがあるが、グリーンピースにあおり立てられた住民ばかり。特に、ロストフ推進における経験では、できるだけ専門的、詳細に説明すると大部分には納得してもらえる。
 他の立地地点もこの戦略には書いてある。
 また、旧ソ連邦でも同程度を想定、つまり、2030年に60GWに増設することになっていた。かなりの立地候補があり、建設工事も始めている。例えば、極東で電力危機が続発しており、この地域に原子力が必要である。VVER640のうち3つが極東で予定されている。これらは新世代のプロジェクトで、投資環境が良ければ3つの新規炉は現実的。
Q.BRESTコンセプトとナトリウム系FBRとの関係について、優先性はどうなっているのか。日本の場合は地震の問題が大きくナトリウム炉を考えてきた。重金属炉は難しい。国内の地震の問題等はどう考えるのか。
A.優先性について。BN800は商業炉として推進するものである。BRESTは実証炉としてみている。BREST実証炉により、純技術的な問題を解決する必要がある。冷却材、炉心、廃棄物、サイクル等についてやらなければならないことがある。
 耐震性について。現在建設中の新型炉、BNPP等は、リヒター・スケールで7を上限としている。規制当局の許可の入手のため、全面的な地質調査が義務づけられている。重金属炉の場合は、300MWの実証炉を設計するにあたり、サイトについて二つの候補があり、BNPPの場合は既に実施済である。日本では耐震が重要な問題と認識している。BRESTの耐震性については、日露共同会合を設けBREST300の耐震方策を協議する必要があるのではないか。

(4)日本におけるFBR及びその核燃料サイクルの研究開発計画について
 和田課長から、日本の原子力開発の状況について、原子力長期計画の策定を中心に説明がなされた。説明に対する露側関係者からの主な質問は以下のとおり。

(5)協力項目リストについて
 前回の会合で両者から提案された協力項目の具体化状況について、各実施機関から報告があり、別紙2の通り、協力項目(Cooperation Items)及び責任担当者(Responsible Person)が確定された。特に、「高速増殖炉燃料の分離法における改良及び試験」及び「フッ化物揮発法に関する調査」の2項目については新規に立ち上げることが合意されるとともに、高速増殖炉システムについて将来日露間でセミナーを行うべく準備を進めていくことが合意された。

(6)その他
①イワノフ第一次官との会談
 会議の途中、イワノフ第一次官が出席し、高速増殖炉及び解体核にかかる協力について意見交換を行い、両者でこれらを推進していくことを確認した。
②FBR協力に関する日露協議議事録について
 昨年6月に露側から提案された本協力の枠組みを定める了解覚書について、日本側から討議の記録として再提案した。これに対する意見は、後日、外交ルートでロシア側から提出されることとなった。
③今後の予定について
 日本側から、来年の同時期に専門家会合、それまでにコーディネイター会合を開催したい旨提案し、両者で合意された。


(別紙1)

第2回高速増殖炉に関する日露専門家会合出席者

日本側 
・和田智明科学技術庁原子力局動力炉開発課長
・小山雅臣科学技術庁原子力局動力炉開発課業務係長
・大和愛司核燃料サイクル開発機構理事
・川妻伸二核燃料サイクル開発機構経営企画本部事業計画部
・山村司核燃料サイクル開発機構国際核物質管理部国際協力課
・稲垣達敏日本原子力発電株式会社研究開発室室長代理高速炉開発部長
・魚谷正樹電力中央研究所原子力政策室部長
・星野利彦在露日本国大使館二等書記官
  
ロシア側 
・イワノフ 原子力省(MINATOM)第一次官
・ベズズープツェフ 原子力省原子力局長
・ズベレフ 原子力省原子力局主任専門官
・エメリャノフ 原子力省国際・対外経済協力局課長
・シャリフ 原子力省国際・対外経済協力局専門官
・シドロフスキー 原子力省サイクル局長
・ポプラフスキー ロシア物理エネルギー研究所(IPPE)副所長
・ツィブリャフ ロシア物理エネルギー研究所原子力発電部長
・レフシン ロシア物理エネルギー研究所
・ザブチコ ロシア物理エネルギー研究所主任研究員
・ビチコフ 原子炉科学研究所(RIAR)
・ジルベルマン フローピンラジウム研究所(KRI)室長
・シャドリン フローピンラジウム研究所主任研究員
・マルシェフ ベロヤルスク原子力発電所(BNPP)
・バフルーシン 無機材料研究所(VNIINM)






今回の会議にて配布した資料は多量な資料の為、入手を希望される方は下記3機関において閲覧・複写(有料)に応じております。

●原子力公開資料センタ-(東京都文京区白山5-1-3-101)
 TEL 03(5804)8484  東京富山会館ビル6F
 土・日・祝日、10/1日は休館

●未来科学技術情報館(東京都新宿区西新宿)
 TEL 03(3340)1821  新宿三井ビル1F
 第2・第4火曜日は休館

●サイエンス・サテライト(大阪府大阪市北区扇町)
 TEL 06(6316)8110  扇町キッズパーク3F
 月曜日、祝祭日の翌日は休館