第4世代(GenerationIV;GEN-IV)原子力発電システムについて

平成12年7月4日
エネルギー総合工学研究所
プロジェクト試験研究部
松井 一秋
核燃料サイクル開発機構
システム技術開発部
鈴木 聖夫

1.はじめに
 米国次世代原子力発電システムの開発計画の策定に関して、本年1月から、後述する一連の会議に参加した。会議での入手情報などを基に最近の米国の動向を紹介すると共に会議の概要を報告する。

 

2.米国における次世代原子力発電システムの開発計画の策定
 1)今なぜ第4世代原子力発電システムか
  GEN―IVとは

 十分なエネルギー供給、世界の原子力技術、産業のリーダーの観点から、第4世代の開発を言い出したのは米国エネルギー省(DOE)原子力エネルギー・科学技術局マグウッド局長で、1999年の米国原子力学会(ANSミーティング)であったといわれる。第1世代とは初期の原型炉的な炉で、シッピングポート(PWR)、ドレスデン(BWR)など。第2世代とはその後の商用炉群で、PWR、BWRの軽水炉、CANDU重水炉、ロシアの軽水炉であるVVERやRBMK。第3世代は第2世代の改良型で、大型化による経済性追及のABWR,EPRや静的安全性を取り入れた中型のAP600など。
 第4世代はその次の世代のシステムであり、以下の特徴をもつものとしている。

 DOEでは、2020年ごろを目標に、電力需要急拡大が確実視されるアジア諸国の市場を対象として、核拡散の恐れと安全性の心配の少ないシステムを米国主導のもとによる国際協力で開発することができるならば、米国の産業技術の維持・発展ならびに核拡散上からもイニシアティブを取ることができると考えていたようである。核拡散抵抗性の強化は米国の識者や議会では原子力再興にとっての必須の条件と目されている(核不拡散法)。また国立研究所群にとっては原子力関連研究の生き残りゲームという側面もある。

背 景

 米国の原子力発電実績は近年良好を極め、電力自由化の中で原子力発電所の価値も上がっているが、1970年代から新規発注がないことから中長期的には原子力発電のシェア低下が危惧されており、温暖化ガス発生抑制、原子力技術力の維持・発展という観点からの施策の必要性が指摘されていた。(大統領科学技術諮問委員会;PCASTの勧告,1997)
 PCASTの勧告を受け昨年度予算(FY1999)より、革新的原子力研究の促進を目的として提案公募による原子力研究イニシアティブ(NERI)が始まっている。(今年度の新規開始テーマ一覧を添付資料3)に示す。)この他にも、既存の発電所については主としてプラント寿命延長を目的とする原子力発電プラント最適化プロジェクト(NEPO)が始まっている。(図2米国DOEの原子力研究開発予算参照)
 即ち、大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の勧告に基づき、米国(DOE)による原子力開発が確実に動き始めていると言える。その背景を次のように考えている。

 2)次世代原子力発電システムの開発ロードマップの作成
 DOEは今年10月を目途に、下記の活動を集大成して次世代原子力システム開発のロードマップを作成しようとしている。(図1参照)

 3)GEN-IV,TOPSの経過と今後の予定
  (1)第4世代原子力発電システム政府レベル国際ワークショップ(平成12年1月27日、28日、ワシントンD.C)
参加国:日、英、米、仏、韓、加、ブラジル、アルゼンチン、南ア
オブザーバー:OECD-NEA,IAEA
⇒共同声明-1(添付資料1)

  (2)民生用原子力利用の核拡散抵抗性向上のための技術的可能性(TOPS)」に関するタスクフォース(3月10日、ワシントンD.C.)
参加国:日、米、仏
⇒米ロ2国間協力交渉の現状紹介、核拡散抵抗性の属性評価の検討
  (3)「民生用原子力利用の核拡散抵抗性向上のための技術的可能性」関する国際ワークショップ(3月29日~30日、ワシントンD.C.)
参加者:日、米、仏、IAEA、総勢約60名
⇒核拡散抵抗性向上に関する研究開発課題及び国際協力のテーマ検討

  (4)「第4世代原子力発電(GEN―Ⅳ)システムに関する国際上級技術専門家会合」(4月5日~7日、ワシントンD.C.)
参加国:日、米、仏、韓、加、アルゼンチン
⇒各国の次世代炉開発の状況(添付資料4)
国際協力の進め方を討議⇒共同声明-2(添付資料2)

  (5)第4世代原子力発電(GEN-IV)システム国際ワークショップ(5月1日~3日、ベセスダ)
参加者:日、米、仏、韓、加、ブラジル、アルゼンチン、南ア、中国、英、IAEA、EC、総勢約100名
⇒開発目標、要件と特性レベルを討議(ドラフトレポートレビュウ中)

  (6)民生用原子力利用の核拡散抵抗性向上のための技術的可能性(TOPS)」に関するタスクフォース(6月15日、16日、シカゴ)
参加国:日、米、仏
⇒各種システムの核拡散抵抗性の特徴評価と開発課題の審議(添付資料5)

  (7)5月の第4世代国際ワークショップ報告書(第4世代原子力システムの要件と特性)完成(6月26日予定)
  (8)TOPSタスクフォースドラフトレポート(7月中旬)

  (9)第4世代原子力発電(GEN―Ⅳ)システムに関する政策及び上級技術専門家会合(本年8月下旬を目途に、DOEが主催、韓国で開催予定)

  (10)第4世代原子力システム技術開発に向けてのロードマップの作成(本年10月を目途)

このロードマップによる予算獲得が成功すると、米国会計年度(FY)2002年度、すなわち2001年10月からの予算執行ということになる。米国は拡大NERI計画(International NERI、FY2001では7M$を要求しているが下院段階ではゼロ査定)などともに国際協力、開発の分担を模索すると考えられる。

 4)日本の対応状況
 1月のGEN-IV政府レベルワークショップには、相澤JNC理事、落合氏(原研)、松井(エネ総工研)と在米大使館の岡谷一等書記官、等が参加。その後、DOEから第4世代原子力発電システム技術専門家会議ならびにTOPSタスクフォースへの参加については、鈴木聖夫(JNC、大洗)と松井一秋(エネ総工研)の2名を代表として対応している。

 GEN―Ⅳは米国における原子力の復活に向けたステップと捉え、米国の動きに協力することはわが国の国益にもなると考えられる。
日本の考え方を積極的に米側に伝え、日本の計画とも整合する米国の研究開発計画の実現に努力すべきと考える。
 TOPSに関しては、核拡散抵抗性強化に特化した主張は少なく、核拡散抵抗性を評価する手法の開発が必要である、経済性が第1の目標であり拡散抵抗性の強化により経済性が損なわれないようすべきであるなど、妥当な意見が多い。しかしながら、米国には、プルトニウムを悪とみなし、核拡散抵抗性の強化を第4世代原子力システムの最優先の要件と考える人々がおり、議論の行く末を見極める必要がある。
 今後、これらの検討に係わる報告書の内容がわが国の高速炉を中心とするリサイクル政策の障害にならないよう対応していくべきと考える。

 

3.所感
 1)経済性、核不拡散、安全性、廃棄物の4つの目標を掲げて出発したGENE―ⅣはNERIの公募研究、昨年6月にローレンスリバモア国立研究所(LLNL)で開催された核拡散抵抗性向上の新しいアイデアに関するワークショップ、ANSでのGEN―Ⅳの発表を見た限りでは、特定のコンセプトとしての今後の開発目標の目玉を未だ見出し得ていない。
 2)GEN-IVでは、当初は核拡散抵抗性強化を主眼として、開発途上国向け輸出用の長寿命炉心小型炉の開発という印象が強かったが、本年初めのワークショップなどへの我が国など米国以外の国々の参加により、より広い概念としての次世代原子力システムを目指すものに方向転換がなされたようである。
 3)GEN-Ⅳが、どれだけ魅力のある開発目標を設定できるか、或いはその国際協力の下地ができるか、であるが、結局,FBRを脇において、将来目標の設定に苦吟しているようにも見える。若者が参加したくなるような夢のある開発目標の設定を期待したい。
 4)国により、開発のステージが異なり、各国が考える次世代炉には差がある。これを、2~3の共通目標概念に絞るのは難しい仕事である。将来目標に向けた共通のキー技術を摘出し、基礎基盤技術と共に、国際協力の目玉にするのが良いのでは、と考える。
 先ずは、緩やかな連合体の枠組みの中で、2国間協力など、出来るところから国際協力を進めるのが現実的方策であろう。
 5)GEN―Ⅳについての米国内のコンセンサスが大統領選挙前に得られるのか、疑問視し、クールに対応する人も多いと聞いている。
 NERIなどは基礎的な研究シーズの発掘といった色彩が強く、主として大学の研究・教育能力の維持・拡大が主眼であり、米国国研ならびに産業の技術開発能力の維持・拡大という観点からは物足りないものである。米国内の予算の獲得や拡大にわが国など海外諸国の参加が有効であるなら、積極的に協力すべき、と考える。
 6)米国がリサイクル路線に戻るとしても、リサイクルシステムが現行のワンス・スルーと同等以上の核拡散抵抗性を有することが詳細な評価により確認されることが条件であると言われている。核拡散抵抗性を向上するリサイクルシステムの提案やその核拡散抵抗性の評価手法の開発などに関して、わが国の考え方を提示し、米国との協力関係を主体的に構築することも期待される。
-以上―


図表リスト
図1 次世代原子力発電システムの開発計画の策定工程
図2 米国DOE原子力研究開発予算

添付資料1 GEN-IV政府レベル国際ワークショップ共同声明
添付資料2 GEN-IV国際上級技術専門家会議共同声明
添付資料3 NERI2000年度新規テーマ一覧
添付資料4 第4世代原子炉候補
      (国際上級技術専門家会議(2000年4月)などより)
添付資料5 各種新型概念の技術的特徴と核拡散抵抗性
      (TOPSタスクフォース(2000年6月)資料などより)