中期的展望に立った核融合炉

第一壁構造材料の開発の進め方について

 

 

 

平成12年5月17日

核融合会議計画推進小委員会


目  次

1.はじめに
2.第一壁構造材料の要件
   2.1 設計条件
   2.2 開発項目の特徴
   2.3 候補材料の選定と主要課題
3.候補材料の開発状況
   3.1 開発段階の定義
   3.2 候補材の位置づけ
   3.3 材料開発の優先順位
4.開発期間と開発の方法
   4.1 開発期間
   4.2 開発の方法
5.構造材料の研究評価と開発スケジュール
   5.1 研究評価
   5.2 開発スケジュール
6.照射及び照射後試験施設
   6.1 高エネルギー中性子照射施設
   6.2 核分裂炉
   6.3 その他の照射施設
   6.4 照射後試験施設
7.研究開発推進体制と研究開発の方策
   7.1 研究開発推進体制
   7.2 研究開発の重点化と所要研究装置
8.まとめ
図1:核融合炉構造材料の開発の進め方

(参考)本報告書で使用している用語の解説


1はじめに

 我が国の核融合研究開発は、現在、第三段階核融合研究開発基本計画(以下、第三段階計画という。)等に基づいて進められている。
 当該基本計画においては、
(1)自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現
(2)発電の実証を行う原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成
が主要な開発課題となっている。これを達成するための研究開発の中核を担う装置として、トカマク型の実験炉を開発するとしている。
 実験炉については、現在、国際協力の下に進められているITER(International Thermonuclear Experimental Reactor;国際熱核融合実験炉)という形で実現が図られようとしている。そして、ITERの開発を通して、原型炉に向けた主要な炉工学技術の開発も行われる予定である。
 しかしながら、ITERにおいては、

(1)核融合炉としての統合システムの実証を目指しており、必ずしも高い稼働率が要求されていないことから、想定される構造材料の中性子フルエンスも0.3MWa/m2と小さいこと、
(2)このため、第一壁構造材が過大な中性子損傷を受けるとは考え難いため、通常のオーステナイト系ステンレス鋼(SS316など)が構造材料として採用されること、
などから、原型炉以降の核融合炉に要求される材料の開発要件を十分に備えたものとはなっていない。
 原型炉以降の核融合炉にあっては、第一壁などの構造材料が100~150dpa以上の高エネルギー、高蓄積照射量(フルエンス)の核融合中性子の重照射に曝されることが想定されていることなどから、中性子照射耐性に優れた材料の開発等が不可欠なことになる。
 第三段階計画に示された実用化時期に適合する原型炉開発とその見通しの時期及び材料開発に要する時間を考慮すれば、炉工学技術開発として、整合性のとれた材料開発の中期的計画を策定し、その下で体系的かつ効率的な第一壁構造材料の研究開発を行っていく必要がある。
 このため、計画推進小委員会は、材料開発と原型炉開発の双方向からの検討を行い、1995年1月25日に「中期的展望に立った核融合炉構造材料の開発の進め方について」の中間報告をとりまとめ、1995年2月22日に核融合会議に報告した。
 計画推進小委員会は、この中間とりまとめをより詳細に検討し、具体化するために、核融合炉構造材料、とりわけ主要な構造物に使われる材料であって、高エネルギー、高フルエンスの中性子照射を受ける第一壁構造材料の開発のあり方に関して、構造材料の要件、材料開発の現状を踏まえた開発戦略と研究計画、構造材料開発スケジュールなどについて審議した。
 本報告書は、核融合エネルギーの実用化へ向けた展開スケジュールを踏まえながら、原型炉への適用を前提とした国内の核融合炉材料に関する中期的な開発戦略を構築し、第一壁構造材料開発の具体的進め方をとりまとめたものである。なお、本計画については、核融合研究開発の進捗状況にあわせた、弾力的な対応が求められるとともに、今後必要が生じれば見直されるべきものである。

2 第一壁構造材料の要件

2.1 設計条件
 研究開発の内容を具体的に決定するためには、構造材料がおかれる使用環境等を特定しておく必要があるが、これまでの設計研究によって公表されている原型炉の概念設計例を参照することができる。その例として日本原子力研究所のSSTR炉やProto-DREAM炉、米国のARIES-RS炉等がある。材料への要件に関係する設計条件が表1にまとめられている。特徴的なことは次の3点に要約される。

(1)主たる候補材料として、低放射化フェライト鋼(RAF;Reduced Activation Ferritic/Martensitic Steel)、低放射化バナジウム合金(V-4Cr-4Ti;バナジウム合金)、シリコンカーバイド複合材料(SiC/SiC複合材料)の3種類が提案されている。
(2)これらの構造材料に対する冷却材としては、軽水、液体金属、ヘリウムガス等が提案されているが、その組み合わせは、材料の強度特性と冷却材との両立性によって決められる。また、冷却材温度はこれらの冷却材の特性に依存しており約300℃から高い場合は800℃となっている。なお、冷却材温度や冷却材出入口温度差を高く設定することにより、高効率の熱変換が可能となる。
(3)材料劣化にとって、最も支配的な中性子フルエンスの許容値は、上記の設計例では、8MWa/m2から14MWa/mとなっている。これは電気出力で100万kWの核融合炉の場合、第一壁構造物を2~5年毎に交換することを意味する。

なお、これらの材料は低放射化材料であり、放射性廃棄物としての処理を容易にするものである。

表1.主な核融合炉の設計条件

2.2 開発項目の特徴
 一般に構造材料への要件は、材料への負荷の形態と過酷な負荷による破損様式の2つから決められる。
具体的には、
(1)考慮すべき重要な破損様式には、過大な荷重(主に熱荷重、機械荷重、電磁力があり、それらによる劣化は中性子照射によって増幅される)による塑性崩壊と、これらの負荷の繰り返しによる疲労破壊の2種類がある。これらに対する材料特性を総称して強度特性と呼ぶことにする。クリープ効果なども両者に影響を及ぼすことになる。
(2)静的荷重であっても動的荷重であっても、第一壁などの構造機器の不安定破壊は防止されなければならない。これには、ディスラプション時の過大な電磁力による不安定延性破壊とDBTT(延性脆性遷移温度)の上昇による不安定脆性破壊がある。
中性子照射下で、これらの損傷に耐える材料を開発することが必要項目の1つであるが、それとは別に、
(3)冷却材中での耐食性、加工、接合を含む製造性、長寿命放射性核種の生成量の低減化なども重点的に考慮されなければならない。

2.3 候補材料の選定と主要課題
 候補材料の選定に当たっては主として、
(1)先に述べた原型炉の設計条件に適合するか否か、
(2)十分な研究実績と国内外の研究活動の広がりがあるか否か、
(3)選定すべき材料に固有の高いポテンシャルがあるか否か、
の3点を勘案して、次の3種を選定し、主要課題を検討した。

これらの材料にとっての開発項目の特徴は2.2節で簡単に述べたとおりであるが、材料ごとに整理すると次のようになる。

低放射化フェライト鋼:
 (イ)高温強度、破壊靱性などの強度特性
 (ロ)耐食性
 (ハ)製造性
 (ニ)放射化特性
 (ホ)強磁性のプラズマへの影響

バナジウム合金:
 (イ)高温強度、破壊靱性、などの強度特性
 (ロ)絶縁被膜の開発
 (ハ)気体不純物による劣化の防止、耐食性
 (ニ)製造技術の開発、加工法、接合法
 (ホ)液体金属冷却の安全性

SiC/SiC複合材料:
 (イ)照射劣化に対する熱伝導度の確保
 (ロ)核変換生成ヘリウムによって受ける影響の評価
 (ハ)低放射化のための不純物制御
 (ニ)気孔、マイクロクラック等によるHeリークの防止
 (ホ)大型構造物製造技術、加工法、接合法

3.候補材料の開発状況

3.1 開発段階の定義
 材料には使用条件とは無関係に実用材料として要求される基本特性や要件がある。それらは、
 (イ)製造実績の規模(実験室規模か工業レベルか)
 (ロ)加工性・接合性の十全性
 (ハ)構造材としての使用実績
に要約される。
 これらの成熟度に加えて、中性子照射耐性の基礎的見通しに関連した性能の観点から、材料の開発段階を次のように定義する。

(1)最初の材料開発段階を「素材開発段階」と定義する。その特徴は、独立した固有の材料特性を明らかにするものであり、高温における応力などの負荷や中性子照射との相関も考慮した材料特性ということにある。しかし、この段階でも次の段階を想定し、核融合環境における負荷に対して材料がどのように振る舞うかについて、その性能に着目して評価することが肝要で、もし不満足な点があればフィードバックがかけられ必要な工夫が施されて改良されていくことになる。
(2)これに引き続く段階を「工学材料段階」と定義し、第一壁の構造設計に必要な重照射効果も含んだ基礎的データが蓄積される段階とする。この段階の特徴は、「素材開発段階」に比べ実際の使用条件により一層近づいたものであることである。
(3)最後の段階を「工学実証段階」と定義し、近似条件下等での実証的材料挙動、高度化された材料データベースの構築など構造設計基準の確立に必要なデータベースを本格的に提供することを目標とする。

 これらの3つの発展段階の定義は、材料開発の指標となるものであって、今後開発の達成度を評価するときに有効に使用されるべきものである。

3.2 候補材の位置づけ
 材料開発に3つの段階を定義したが、それらに基づいて候補材料の位置づけを行っていくことは、材料開発の妥当性を確保して行く上で必要である。

(1)低放射化フェライト鋼
 低放射化フェライト鋼は、高温用鋼として培われたフェライト/マルテンサイト鋼の組織安定性、製造性等に関する技術を活用して効率的に開発されてきた照射耐性に優れた構造用材料である。
 低放射化フェライト鋼はこれまでの開発鋼や類似鋼の実績から、適切な規模の研究・開発により原型炉での使用が見通せる程の性能向上が達成されていると判断される。すなわち、この材料は製造性や加工性など工業材料として必要な技術基盤を有しており、また高温特性や照射データ等も蓄積されていることから、「素材開発段階」から「工学材料段階」へ移行している。
 さらに、主要構成元素の調整・置き換え、微量元素の添加、熱処理の最適化等により性能の一層の向上が期待できる上、加工、接合、熱利用システムに関する既存の確固たる技術基盤を有することも重要である。これらを有効活用することで、統合的な核融合炉開発計画に沿って早期に「工学実証段階」に移行し、原型炉用材料開発を高い確実性をもって実現することが強く望まれる。

(2)バナジウム合金
 近年の急速な研究開発の進展により、V-4Cr-4Ti合金(バナジウム-4クロム-4チタン合金)をはじめとする開発合金は、高温強度に関して原型炉はもとより実用炉も展望し得る性能が得られており、使用温度を比較的高く選べるため高い熱効率の炉を実現し得る。更に低放射化特性に優れた非磁性の金属材料として長期的に有望であることから、着実な研究開発を進める事が重要である。しかし、微量添加元素の照射耐性に関する最適化や磁気圧力損失対策(MHD圧力損失対策)の絶縁被膜の開発状況を勘案すれば、「素材開発段階」にあると評価される。開発にあたっては、チタン(Ti)合金やジルコニウム(Zr)合金などの化学的活性の高い材料の実用化のために確立した技術をV合金に応用するなど、産業界の協力を得て適切な体制を組むことが重要である。これにより、信頼性のある耐熱性・耐食性材料開発が可能となり、核融合以外の原子力材料への波及効果も期待できる。

(3)SiC/SiC複合材料
 高効率化を目指す産業用ガスタービンや超高速化を目指す航空機エンジンの開発プロジェクトにより、SiC/SiC複合材料の製造技術は、近年急速な進歩を遂げており、改良の余地が未だ多いものの将来性に富んだ材料といえる。低誘導放射能によるシステムの保守・点検の容易さに加えて、高温強度に優れ、3つの候補材料中で最も高い熱効率での運転が見込めること、更にディスラプション時に構造体に加わる電磁力が無視できる等のメリットを有する。しかしながら核融合分野では最近になって注目を集めるようになったため、特に照射耐性に関してのデータベースが不足しており、この観点から「素材開発段階」にあると評価される。一方、非核融合分野では上記のプロジェクトの進展により、部分的には工学材料段階を見込める材料でもあり、それらの技術の応用や産業界の協力が得やすいという利点がある。従ってこれらの材料を照射下などの核融合炉特有の条件下で使用可能になるように改良して行く研究開発が特に重要である。

3.3 材料開発の優先順位
 各材料の開発段階と技術基盤を基準にして判断すれば、

(1)低放射化フェライト鋼を優先順位が最も高い第一候補材料に位置付けることができる。
(2)一方、バナジウム合金やSiC/SiC複合材料については、その将来性に期待するものの、素材開発段階での開発要素が多いため、第一候補材料とせず、先進候補材料に位置付けることが適当である。
(3)開発に当たっては、先進候補材料の第一候補材料への格上げも含めて、研究課題に対する達成度を適切な期間をおいて研究評価を行い、開発戦略を常に活力あるものにし、その妥当性を維持していくことが肝要である。

 なお、これらの先進候補材料は、原型炉に採用されない場合でも、長期的には実用炉に採用される可能性を有していることにも留意しておく必要がある。

4.開発期間と開発の方法

4.1 開発期間
 一般的に、新材料の開発は10年以上の長いリードタイムを必要とすることが多い。例えば、ジェットエンジンのタービンブレード等に用いられる高強度耐熱合金であるスーパーアロイの場合は、最近の40年の間に、鋳造材、一方向凝固材、単結晶材へと概ね10~15年の間隔で開発が進展してきた。また、工業的な基盤が整ったSS316鋼の場合も、実証炉段階での高速炉用炉容器構造材料としての材料強度に関する基準は、1985年から整備が開始され、現在ようやく整備されるに至っている。このように、材料の実用化には相当な時間を要している。
 低放射化フェライト鋼であっても、核融合炉への適用にあたっては、高エネルギー中性子照射場に曝された材料の特性評価と、照射による破壊靭性及び耐食性等の劣化防止のための改良が必要である。同時に、照射効果を含む設計手法の確立とその実証も必要である。さらに、照射実験の1サイクルが現有の照射施設を使えば3~5年であることを考えると、材料の改良研究と設計法の確立に15年程度の時間が必要である。また、核融合特有の使用条件での照射特性評価に、現在国際協力などで検討されている核融合近似中性子源を利用することを仮定すれば、その照射速度、照射体積の限界から判断して、10年以上要すると考えられる。さらに、照射耐性に優れた接合方法の開発、材料データベースの整備等を引き続き実施する必要があることも明らかであり、実用的な材料とするまでのリードタイムとしては概ね30年前後の期間を見込まざるを得ない。

4.2 開発の方法
 また、研究開発の方法上、特に留意すべき点として、

(1)核融合炉材料開発には原子炉照射等を伴うなど時間がかかるため、研究開発を効率的に行うという観点から、優先して開発を進めるべき第一候補材料を選定し、限られた研究資源の重点的な配分を行うこと、
(2)原型炉開発を対象として期待されている以上、時間的制約を考慮に入れなければならないが、そのためには、第一壁構造材料の要件の現時点における充足度や性能向上の確実性や材料としての成熟度について配慮すること、
(3)しかしながら、他の材料についてもブレークスルーが早期に達成されて、開発テンポが早まることも否定できないので、「素材開発段階」にある材料についても補完的に先進候補材料として位置付け、適当な時期に研究評価を行って第一候補材料を再選定し直す余地を残しておくこと、
(4)構造設計基準は、構造強度評価手法、欠陥評価手法、材料データベース等から構成されるが、本開発計画ではできるだけ実機条件を反映させた材料データベースの構築を企ること、
 などの諸点が指摘される。

5.構造材料の研究評価と開発スケジュール

5.1 研究評価
 研究開発の適正化と効率化を達成、維持して行くためには、多くの開発要素から構成される各技術間の相対関係を把握しておく必要があるので、進捗の指標を定めておくことが重要である。進捗の指標を適切に定めるためには、予め炉の開発スケジュールに整合した研究開発を設定しておくことが必要である。そして研究評価の目的は、研究開発計画の再評価と適切な軌道修正を行うことにある。研究評価はおよそ5年毎に3回実施することが適切と考えるが、以下に評価項目を各材料ごとに示す。

第1回研究評価
(1)低放射化フェライト鋼:
 工学材料段階の中間評価であって研究の進捗について評価する。
 (イ)候補材の組成や組織等を選定する。
 (ロ)ODS(Oxide Dispersion Strengthened)鋼の見通しについて評価する。

(2)バナジウム合金:
 素材開発段階から工学材料段階への移行の可否について評価する。
 (イ)絶縁被膜の見通しを評価する。
 (ロ)製造技術の見通し

(3)SiC/SiC複合材料:
 素材開発段階から工学材料段階への移行の可否について評価する。
 (イ)製造方法の選定と最適化
 (ロ)照射データベースの評価

 なお、この段階までに以下の項目が終了していることが期待される。
(1)強磁性のプラズマへの影響評価:JFT-2Mでのフェライト鋼の適合性評価
(2)ITERテストブランケットへの低放射化フェライト鋼の利用:製作技術開発、試作/試験

第2回研究評価
(1)低放射化フェライト鋼:
 工学材料段階から工学実証段階への移行の可否について評価する。
 (イ)原子炉を用いた重照射後の材料特性評価
 (ロ)ODS鋼の最適化

(2)バナジウム合金:
 工学材料段階の中間評価であって研究の進捗について評価する。
 (イ)候補材の組成、組織等の選定
 (ロ)絶縁被膜の特性を評価する。

(3)SiC/SiC複合材料:
 工学材料段階の中間評価であって研究の進捗について評価する。
 (イ)性能確認
 (ロ)要素試作技術の開発

 特に、先進候補材料であるバナジウム合金やSiC/SiC複合材料については、第2回研究評価において、
 (イ)優先度を引き上げ第一候補材料として開発を開始するか、
 (ロ)引き続き先進材料として開発を継続するか、
 (ハ)候補材から外すか、
の3点について評価を開始し、次の第3回研究評価を目処に結論を得る。

第3回研究評価
 ここでは、低放射化フェライト鋼並びに先進候補材料であるバナジウム合金及びSiC/SiC複合材料を再評価し、原型炉候補材料を決定する。決定にあたっては、これらの候補材料に関し、高エネルギー中性子照射施設による候補材特性の核融合炉近似中性子条件下での部分的確認や、核分裂炉等の照射データの有効性の確認が行われていることが望ましい。

 選定した原型炉候補材料に対して、高度制御環境での核分裂炉照射と核融合炉近似中性子条件での照射試験による評価、及び動的照射効果の評価を含む設計データを取得して行く。特に、核融合炉近似中性子条件下での評価にはIFMIF(International Fusion Materials Irradiation Facility;国際核融合材料照射施設)などの高エネルギー中性子照射施設の利用が不可欠であると認識する。

5.2 開発スケジュール
 研究・開発資源が適切に投入され、本計画が順調に進捗すれば、3回の研究評価を経て原型炉候補材料が決定され、次いで高エネルギー中性子照射施設等を用いた本格的な材料データ・ベース整備のための実証試験に移行できると期待される。この段階では、

(1)原型炉候補材料について、設計用の材料データ・ベースの充足性や炉の構造設計手法開発に注意を払いながら、必要に応じて核分裂炉等を用い、動的効果を含む損傷シミュレーション手法開発のための照射実験や原型炉候補材料のコンポーネント等の照射試験を実施し、また、機器レベルの照射実験に関しては、ITERテストブランケットを利用して、原型炉における想定照射量の数%の範囲で、システム内でのブランケット性能の実証試験を行い、
(2)その他の材料については、将来の構造材料の可能性を依然として有することから、研究評価の結果に基づき引き続きその開発研究を進めること、
が重要である。図1には、核融合炉構造材料の開発の進め方を模式的に示している。その特徴は以下のように要約される。
(1)30年間の材料開発は前期と後期に分けられ、前期15年は、5年毎の3回の研究評価によって区切りがつけられる。後期15年では、3回目の研究評価によって決定された原型炉候補材料に対して、高エネルギー中性子照射施設を用いた工学実証試験を実施する。
(2)研究計画開始時期を西暦2000年とすれば、当面の第一候補材である低放射化フェライト鋼は現時点から第2回目の研究評価(2010年)の時期までの間は工学材料段階にあり、それ以降工学実証段階に移行していくことが期待される。また、2つの先進候補材料は第1回研究評価(2005年)の時期までは素材開発段階にある。
(3)第一壁構造材料の研究開発を30年程度で完結させるには、近似度の高いエネルギー中性子照射施設による中性子照射試験を実施する必要がある。
(4)既設の照射設備についても、出来るだけこれを活用することとし、他の施設に比べて照射損傷速度の高いHFIRや常陽の利用を積極的に推進する。
(5)材料に関連する他の研究分野(プラズマへの影響,ブランケット開発等)については、材料開発の進捗との整合性を図りつつ進める。

6.照射及び照射後試験施設

6.1 高エネルギー中性子照射施設

(1)核融合炉での中性子照射環境は14MeV中性子がもたらす、高エネルギー弾き出し原子によるカスケード損傷とヘリウム等の核変換元素生成、により特徴づけられる。
現在利用されている加速器や核分裂炉では、これらを部分的に模擬できるに過ぎないため、少なくとも、
(2)工学材料段階や工学実証段階では、14MeV中性子による損傷を近似できる高エネルギー中性子照射施設の利用が不可欠である。
 高エネルギー中性子源には幾つかの方法が提案されている。中性子スペクトルの近似性、経済性等の点から、d-Liストリッピング反応を用いた加速器型中性子源が最適と評価され、IEAの国際協力で、この方式を採用したIFMIFの概念設計が実施された。高エネルギー中性子源の実現は材料開発の成否に大きな影響を及ぼすので、そのための技術開発計画を立案し、着実に実施していくことが重要である。

6.2 核分裂炉
現在、核分裂炉は強度試験片等に大きい弾き出し損傷を与えるために不可欠である。

(1)今後10余年間で最も重要な炉としてはHFIRがある。JMTRも計装照射の高度化が可能な点で重要である。
中性子スペクトルの違い等については、
(2)多重イオン照射や計算機シミュレーションを活用したモデリングによる補完研究を期待する。
今後は、現在稼働中の核分裂炉の老朽化が問題となるのは避けられない。このため、
(3)国内で唯一利用可能な高速炉である常陽の積極的な利用を進める。
 なお、将来の高エネルギー中性子源稼働以降(主に工学的実証段階)での核分裂炉の役割は、許認可等に向けた模擬構造物の照射試験、動的効果評価等が中心的となる。

6.3 その他の照射施設
 ITERテストブランケット、イオン加速器、核破砕中性子源等の利用が有用である。

(1)ITERテストブランケットは、核融合炉における実際の使用条件での材料挙動を総合的に評価するために不可欠で、構造体への適用のための材料技術の確立を図る。
(2)イオン加速器やイオン加速器付き超高圧電子顕微鏡は、弾き出し損傷とヘリウム等の核反応生成物との相乗効果の解析に利用され、材料損傷・寿命予測コード整備のための損傷モデル構築等に不可欠であり、施設の利用、拡充、整備が重要である。
(3)核破砕中性子源は、その中性子スペクトルは極めて広く、それを利用して材料中に多量の核変換ヘリウムや、極めて高いエネルギーの一次弾き出し原子を相当量まで導入できる。中性子スペクトル効果の基礎的研究を含め、積極的な利用を図る。

6.4 照射後試験施設
 中性子照射試料の試験等は主にホットラボで実施する。現在のホットラボの多くは、軽水炉燃料等の試験を前提にして整備されている。このため今後は早急に、

(1)核融合炉材料の評価試験に重要な微小試験片試験機等の整備を図ることが重要である。
また、核分裂炉照射による損傷解析の高度化のために、
(2)再照射のための試験片取扱技術を確立する。さらに、施設の老朽化がはやく、このための対策を適切に講じることも重要である。

7.研究開発推進体制と研究開発の方策

7.1 研究開発推進体制
 核融合炉開発において必須である炉構造材料の開発にあたっては、その研究開発が長期にわたることから、研究開発の重点化と効率化を図るとともに、その方向性が適正なものとなるよう計画を立案し、研究の進捗を評価するため、先に言及したように、適切な場において必要に応じて計画を見直していくことが重要である。
 また、候補材料として選定された材料については、その研究開発を加速するため、研究開発の中核的役割をはたす拠点を設けるとともに、国内の関係研究開発機関との有機的な連携を図っていくこととする。

日本原子力研究所

(イ)日本原子力研究所は、第一候補材料についての研究開発を進める中核的役割を果たすための拠点として、速やかに適切な体制と開発・試験環境を整える。
(ロ)また、第一候補材料を中心とした核融合炉材料開発計画の企画立案と推進を図るとともに、効率的な計画推進のために、国内の関係機関との密接な連携・協力を積極的かつ主体的に進める。
(ハ)国際協力の下に進められているIFMIF計画については、参加各国との調整を図りつつ、大学等国内の関係機関と緊密な連携協力のもとで推進を図る。

大学等、国立試験研究機関

(イ)大学等においては、大学等が有する広範な知見を活かしつつ、先進候補材料に関する基礎的若しくは先導的研究を積極的に進めるとともに、これらの研究に必要な中核的役割を果たす拠点を速やかにかつ適切に整備する。
(ロ)このため、長期間の照射及び照射後試験を有効に行うため、大学の材料試験炉利用施設を整備し、核融合炉材料研究の機能を充実させる。
(ハ)また、大学間の連携を図るため、現在、核融合科学研究所を中心として進められている、炉工学研究ネットワークの構築を推進する。
(ニ)金属材料技術研究所をはじめとする国立試験研究機関においては、知識・経験などの知的資源を有効活用し、日本原子力研究所、大学等と連携して研究を行う。

産業界
 今後の研究開発においては、材料の製造技術開発など産業界のポテンシャルに負うところが大きく、特に先進候補材料については、素材開発の面で重要な役割を果すことが期待される。このため、産業界の積極的な参加が得られるように配慮していくことが重要である。

国際協力
 材料開発の効率化を図るため、国内での開発状況等を踏まえつつ、国際協力の活用も積極的に行っていく。

(イ)高エネルギー中性子照射施設:高エネルギー中性子照射施設の重要性とこれに必要な資源規模を鑑みると、IFMIF計画に参加して、当面その設計と技術開発を進めつつ、核融合開発計画をもつ米国、EU等との間で、適切な時期に共同建設及び共同利用の可能性について検討することが重要である。
(ロ)核分裂炉:二国間及び多国間の協力枠組みを活用し、核分裂炉や加速器等の利用について検討することが重要である。
(ハ)材料開発:低放射化フェライト鋼開発でのIEAラウンドロビン試験等の国際的な協力の枠組みの活用や、バナジウム合金開発に関する国際協力などを検討することが重要である。

7.2 研究開発の重点化と所要研究装置
 長期間にわたる核融合炉用構造材料の研究開発を進めるにあたっては、その開発段階に応じて、研究投資、運用、人員等を考慮して推進する必要がある。

(1)研究開発の重点化に関する基本的な考え方
(1-1)短期的
 今後10年間程度の間に、

(イ)第一候補材料の低放射化フェライト鋼については、確実に目標性能の達成を図る。このため低放射化フェライト鋼及びODS鋼の開発に集中的に投資することが適当と考える。
(ロ)中性子スペクトルの違い等については、高エネルギー中性子源が利用できないため、影響の推定等 を行うための、シミュレーション手法や損傷診断技術の開発と関連装置整備を実施する。
(ハ)また、先進材料については、素材開発の見通しを得ることを目的に研究開発を実施する。
次いで、研究開発の成果を踏まえて、現在の第一候補材料と先進候補材料の区分けの再検討を含めて第2回目から第3回目の研究評価にかけて重点化の見直しを検討する。
(1-2)中期的
 短期的計画で決定する原型炉候補材料に対し、中期的には、
(イ)高エネルギー中性子照射施設等を利用して、核融合炉近似条件下での照射挙動を把握する。 この結果を設計に利用可能とするため、
(ロ)材料データベースを整備して、構造設計基準に照射効果等を組み込む。
(ハ)また、核融合炉での多様な使用条件に対応するため、モデルに基づいた材料挙動や損傷の評価手法(計算コード化したもの)等の開発を実施する。これらの知識等は、保守時の余寿命評価でも有用なため、これに向けた開発も行う。

 これらの照射試験の実施に遅延をもたらさないよう、特に高エネルギー中性子照射施設については、技術開発から、建設・運転ならびに照射後試験施設の整備までを含んだ一貫性のある研究投資が重要である。

(2)所要の研究装置
 原型炉候補材料の選定がなされるまでに研究・開発に必要となる主な装置は以下の通りである。

(イ)照射施設(核分裂炉やイオン照射装置等の利用及び利用高度化、IFMIF等の高エネルギー中性子照射施設)、
(ロ)照射後試験装置(トリチウム取り扱い施設の新たな整備とIFMIF用試験片を含む微小試験片試験装置等のホット試験施設の拡充)、
(ハ)材料プロセスシステム(ODS鋼、バナジウム合金、SiC/SiC複合材料等の試作及び製造設備)、
(ニ)ミクロ・マクロ損傷評価装置(弾き出し過程、中性子スペクトル効果、各種非破壊評価法、コンポーネント破壊のシミュレーション装置等)、
(ホ)プラズマ制御実証試験装置(強磁性の影響評価のための装置)

(3)人材の育成
 計画の推進に当たっては人材の確保が不可欠である。日本原子力研究所や核融合科学研究所、国立試験研究機関は、大学や産業界と積極的に人的交流を行い、協力して人材の養成に努める。具体的には共同研究を推進することにより、積極的な研究員の受け入れを図る。

8.まとめ

 第一壁構造材料の候補材として、現在研究開発を進めている低放射化フェライト鋼、バナジウム合金及びSiC/SiC複合材料を対象とし、原型炉の概念設計例からみた要件に照らしながら、材料開発の現状、開発戦略と研究開発計画等について検討を行い、実用段階までを見据えつつ研究開発の体系的かつ効率的な推進方策を明らかにした。これをまとめると以下のようになる。

(1)現時点における各材料の開発段階、技術基盤及び将来の開発見通しを評価した結果、低放射化フェライト鋼が原型炉構造材料の要件を最も高い確実性をもって満たす可能性があると判断されることから、開発優先順位の最も高い第一候補材料に位置づけた。一方、潜在的には優れた特性が期待できるバナジウム合金及びSiC/SiC複合材料は、現在のところ素材開発段階での開発要素が多いことから、先進候補材料として位置づけた。
(2)重要課題を適正かつ効率的に解決するための材料開発計画を提案した。計画の推進にあたっては、進捗の指標を定め、炉の開発スケジュール等も考慮して時期を定めて研究開発を行い、結果等を実施計画に適切に反映することが必要である。
(3)照射試験施設は核融合炉材料の開発において中核となる試験施設である。現在使用している核分裂炉、イオン加速器はもとより、高速炉常陽等の既設の照射施設等を積極的に活用する。また高エネルギー中性子照射施設については適切な時期までに建設することが不可欠である。
(4)二国間及び多国間の協力の枠組等を活用した国際的な協力も積極的に行い、研究開発の効率化の検討を行うことが重要である。
(5)原型炉以降の核融合炉材料に関する研究開発を組織的・効率的に推進するため、研究開発の重点化と効率化を図るとともに、その方向性が適正なものとなるよう必要に応じて研究の進捗を評価し、計画を見直していくこととする。



(参考)

 

本報告書で使用している用語の解説

 

 


オーステナイト系ステンレス鋼
ニッケル(Ni)約8%以上、クロム(Cr)約18%以下を含有するオーステナイト相の鋼。18-8鋼(304鋼)を基本鋼種とし、それ以外にも十数種類の改良鋼種が規格に定められている。いずれの鋼種も溶体化処理の後では、非磁性のオーステナイト組織を有し、耐酸化性、耐食性に優れている。

核破砕中性子源
比較的重い原子でできた物体に、数100MeV以上の高いエネルギーの陽子等を入射すると、核破砕反応によって多数の中性子が発生する。この反応を利用して中性子ビームを得る装置。

クリープ
荷重下で時間の経過とともに材料が次第に変形する現象。照射により促進される。

ジルコニウム(Zr)合金
軽水炉の燃料被覆管材料であるジルカロイがよく知られている。Zrを主成分とする材料で、耐食性が比較的高い。

スーパーアロイ
ジェットエンジンのタービンブレード等に使用する目的で開発された、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)を主成分とする高い高温強度と耐食性を有する金属材料。しばしば、Niとアルミニウム(Al)の金属間化合物相を組織中に含む、あるいはその相で構成されている。

絶縁被膜
液体金属ブランケットにおいて、磁気圧力損失を低減させる方法の一つとして、ブランケット構造体と液体金属を電気的に絶縁することが考えられる。このための電気的な絶縁被膜であって、ブランケット構造体の液体金属側表面に生成させる。使用中の損傷等に対して自己修復性を有することが要求されている。

塑性崩壊
構造材料が塑性変形を生じる程の力が構造物に作用し、構造物の機能を阻害するような変形が生じる状態。

弾き出し損傷
中性子や荷電粒子などが、ある値以上の運動エネルギーをもって結晶中に入射すると、結晶格子にある原子に運動量を与えることによって、この原子を格子点から弾き出す。照射損傷を引き起こす素過程の代表的なものの一つ。

第一壁
プラズマに直接面する壁の総称。機能的に分類すると、リミタ、ダイバータ板、高熱流防護壁、ブランケット壁などがある。一般に、第一壁はプラズマと直接作用し、大きな熱、粒子負荷を受ける。このため壁から不純物が発生し、これがプラズマに与える影響が無視できない。第一壁の設計は、除熱、不純物放出、プラズマ粒子リサイクリング率、表面侵食、照射損傷、熱疲労などを総合的に評価して行われる。

チタン(Ti)合金
チタンを主成分にした高温強度及び耐食性の高い合金。アルミニウム(Al)やバナジウム(V)を数%含む材料等が実用化されている。熱伝導度が小さい点で、第一壁等の材料には適さない。

中性子照射
核融合炉構成材料に中性子が当ることを言い、これにより、スエリング、延性低下などの材料損傷が発生する。これは、①構成原子が格子点から弾き出されるカスケード損傷、②(n,α)反応によって材料中にヘリウムが生成する等の核変換元素生成によって起こされる。構成原子1個あたりの中性子による平均弾き出し回数をdpa(displacementsperatom)という。核分裂炉に比べてヘリウムの生成がかなり大きいことが核融合炉の特色である。

中性子フルエンス
単位面積を通過する中性子の数の時間積分で、単位は[中性子の入射数/m2]。

長寿命放射性核種
中性子照射によって構造物が放射化することにより、生成される核種のうち、比較的半減期の長い核種。核融合炉の停止後数10年後以降において主要核種として残り、主にコバルト(Co)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)等の放射性同位元素等がある。

低放射化フェライト鋼
高温用構造鋼であるフェライト/マルテンサイト鋼のモリブデン(Mo)等をタングステン(W)等で置き換えることで、放射化のレベルを低く、減衰を比較的速くした構造用鋼。高温加圧水との共存性に優れる。

ディスラプション
プラズマの構造が急激に変化し場合によっては崩壊する現象。メジャー・ディスラプションではプラズマ温度が急減し、その後電流が減りプラズマが崩壊する。マイナー・ディスラプションでは温度の減少が小さく電流の減少にはつながらない。

破壊靭性
き裂を有する材料において、き裂が伝播して破壊する際に示す材料の抵抗性をいう。

バナジウム合金
放射化のレベルを低く、減衰が比較的速いバナジウム(V)を主成分にした低放射化材料である。クロム(Cr)やチタン(Ti)を4重量%程度含んだ合金が開発されている。バナジウム合金は液体金属との共存性に比較的優れるため、液体金属ブランケットの構造材料としても有望視されている。

疲労破壊
繰り返し応力により材料が破壊に至る現象。応力の振幅が降伏点あるいは弾性限以下の場合においても生じ得る。

不安定延性破壊(延性不安定破壊)
き裂の成長に連れて、き裂を成長させる力が増加するような状況下での破壊を不安定破壊と呼ぶ。このとき、き裂の形成機構が延性破壊による場合を延性不安定破壊と呼ぶ。

不安定脆性破壊(脆性不安定破壊)
へき開あるいは粒界破壊機構により、き裂の進展が生じ、短時間に構造物が破壊することをいう。

フェライト/マルテンサイト鋼
クロム(Cr)等を数%以上含む鉄基の高温用構造材料で、焼き入れ焼き戻しによりマルテンサイト中に微細な炭化物を析出させた材料。

ホットラボ
原子炉で照射した燃料・材料など、非常に放射能の強い物質の取扱および試験を行う施設。

ラウンドロビン試験
共通の材料や試験法について幾つかの研究機関で評価を行うこと。

ARIES-RS炉
熱出力2.6GW、正味電気出力100万kWの商業炉構想であり、保守性と環境安全性に重点が置かれている。特徴はJT-60の実験で実証された負磁気シアを用いた高ベータ定常運転炉であること、また構造材料にバナジウム合金を導入し、冷却材にはトリチウム生産も兼ねた液体リチウム金属を用いている点にある。ARIES-RS炉のRSはReversed Shearの頭文字をとったもの。

ATR Advanced Test Reactorの略
米国アイダホ国立工学研究所の高中性子束の研究炉。

DBTT(延性脆性遷移温度)
体心立方晶の金属、とくにフェライトおよびマルテンサイト系鉄鋼材料は、ある温度以下の低温になると延性破壊から脆性破壊に破壊様式が変化する。この現象を延性脆性遷移といい、その遷移が起こる温度を延性脆性遷移温度という。照射により上昇することがある。

EU(欧州連合)European Unionの略
旧EC(欧州共同体)が発展した共同体で、仏、独、伊をはじめとするヨーロッパ15カ国が参加。

HFIR High Flux Isotope Reactorの略
米国オークリッジ国立研究所の高中性子束の研究炉。

IEA(国際エネルギー機関)International Energy Agencyの略
石油資源需要問題などを契機に発足したOECD傘下の国際機関。供給構造を改善することを目的として1974年11月に設立。主要な任務の一つに代替エネルギー源を開発するための加盟国間の協力の推進がある。

IFMIF(国際核融合材料照射施設)International Fusion Material Irradiation Facilityの略
IEAのもとで、日、米、EUの国際協力で進めている核融合材料照射施設。およそ40MeVに加速した重陽子ビームをリチウム標的に照射し、核反応を利用して核融合プラズマで生成される14MeVの中性子にピークを持つ中性子を生成する。発生した中性子を各種核融合炉用構造物等の試験材料に照射して特性の変化を試験する装置。

ITER(国際熱核融合実験炉)計画 International Thermonuclear Experimental Reactor Projectの略
日、米、ロ、EU4極の共同設計による核融合実験炉プロジェクト。重水素-トリチウム(三重水素)を燃料として自己点火プラズマによる長時間核燃焼を設計目標とし、核融合炉の科学的及び工学的可能性の実証を目指す計画。

JFT-2M JAERI Fusion Torus-2Mの略
1983より運転中。中型の高性能トカマク開発試験装置。当初、JFT-2としてスタートし、1982年の改造によりJFT-2Mと名称を変更して、非円形断面プラズマによるプラズマの加熱、閉じ込め研究の他、先進研究を実施。また、中型装置の機動性を活かし、フェライト鋼を用いたトロイダル磁場リップル低減などの先進プラズマ試験を計画している。

JMTR Japan Materials Testing Reactorの略
原研の軽水減速冷却タンク型で熱出力50MWの汎用型材料試験炉。ループ、キャプセル等の各種照射設備が設置されている。

常陽
核燃料サイクル機構が大洗工学センターに設置している日本最初の高速実験炉。現在の出力は100MW。

ODS鋼
母相である鋼中に微細な酸化物を均一に分散させることにより強化した合金。特に高温における強度、クリープ特性に優れている。

Proto-DREAM炉
DREAM炉は熱出力6.4GW、正味電気出力300万kWの商業炉構想であり、保守性と環境安全性に重点が置かれている。構造材料としてシリコンカーバイドの複合材を導入し、ヘリウムガスを冷却材としている。Proto-DREAM炉は、材料開発の進展に対応して裕度を持たせることでITER実験炉とDREAM商業炉の中間に位置づけた設計案のこと。

SiC(シリコンカーバイド)/SiC複合材料
高温まで極めて高い強度を示すSiC繊維で織物を作り、これにSiC(基材:マトリックス)を高密度に付着させた材料。放射化のレベルが低く、減衰が速く、高温ヘリウムガスとの共存性に優れる。

SSTR炉
熱出力3.7GW、正味電気出力108万kWの発電炉構想であり、JT-60における高ブートストラップ電流放電の実証に基づいた定常核融合動力炉。SSTRやその先の実用炉A-SSTRにおいては、低放射化フェライト鋼をブランケット構造材料とし、高温加圧水を冷却材とした設計となっている。


核融合会議計画推進小委員会の設置について

平成5年5月20日
原子力委員会核融合会議

1.目的及び設置
 第三段階核融合研究開発基本計画に基づく研究開発を効率的に推進するため、当会議に計画推進小委員会(以下「小委員会」という。)を設置する。

2.開催頻度及び任期
 ①小委員会は、必要に応じ開催する。
 ②委員の任期は、2年間とする。但し、再任を妨げない。

3.小委員会の構成
 ①小委員会に主査及び顧問を置く。
 ②小委員会の委員は、核融合会議の座長が指名する。
 ③必要に応じて、小委員会に、技術的事項の検討を行い、又は意見を聴取するため、関連する分野の学識経験者を参加させることができる。

4.その他
 ①小委員会の主査は、小委員会の検討結果を適宜核融合会議に報告を行うものとする。
 ②小委員会の庶務は、科学技術庁原子力局技術振興課が行う。

 


原子力委員会核融合会議計画推進小委員会構成委員(平成12年5月)

主査
東京大学大学院工学系研究科教授 宮 健三
  
大阪大学レーザー核融合研究センター教授 三間圀興
  
核融合科学研究所大型ヘリカル研究部研究総主幹 本島 修
  
日本原子力研究所炉心プラズマ研究部 菊池 満
炉心プラズマ計画室長
  
日本原子力研究所核融合工学部 西 正孝
トリチウム工学研究室長
  
核融合会議座長 井上信幸
京都大学エネルギー理工学研究所教授

 


核融合会議計画推進小委員会核融合炉構造材料開発ワーキンググループの設置について

平成8年7月4日
原子力委員会核融合会議
計画推進小委員会

1.目的及び設置
 核融合炉構造材料開発は、低放射化等の技術目標及び開発スケジュールの点において、将来の核融合炉の実現に必要不可欠な要素である。材料開発には、一般に20年以上の期間を要し、また、核融合炉の高エネルギー・高フルエンスの中性子照射環境に耐える材料であって、低放射化性の高い材料の開発には、数多くの課題を抱えていることから、効率的かつ計画的に材料開発を進める必要がある。このため、第117回核融合会議において報告された「中期的展望に立った核融合炉構造材料の開発の進め方について」(中間報告:別添)を踏まえて、構造材料開発のマスタープランについて議論していく核融合炉構造材料開発ワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」という。)を当小委員会に設置する。

2.ワーキンググループの構成
 ①ワーキンググループに主査を置く。
 ②ワーキンググループの委員は、核融合会議計画推進小委員会主査が指名する。
 ③必要に応じて、ワーキンググループに、技術的事項の検討を行い、又は意見を聴取するため、関連する分野の学識経験者等を参加させることができる。

3.その他
 ①ワーキンググループの主査は、核融合会議計画推進小委員会にワーキンググループの検討結果を平成9年2~3月を目途に報告を行うものとする。
 ②ワーキンググループの庶務は、科学技術庁原子力局核融合開発室が行う。

 


(参考)

 取り上げられる議題例

(1)構造材料開発の現状
 ①フェライト鋼における研究開発の現状及び課題
 ②その他の材料における研究開発の現状及び課題

(2)構造材料開発のマスタープラン
 原型炉の建設開始を2020年代と設定した場合のマイルストーン
 ①20-00年代初頭候補材料の絞り込み(2種類程度)
 ②20-20年代手前原型炉用構造材料の決定
 上記マイルストーンを想定した開発スケジュールの策定

(3)研究装置
 ①「常陽」の利用
 ②ITERにおける照射
 ③中性子照射装置の整備
 ④その他の照射施設の検討

(4)開発推進体制
 ⑤産業界、大学、国研、原研等の研究者の協力体制及びその実施機関の確立

(5)その他
 上記(1)~(5)における問題点の検討、さらに、上記以外の検討項目の抽出

 


核融合炉構造材料検討ワーキンググループの構成員(平成10年3月)

主査 宮 健三  東京大学工学部教授
   阿部勝憲  東北大学大学院工学研究科教授
   井口哲夫  名古屋大学大学院工学研究科教授
   関村直人  東京大学大学院工学系研究科助教授
   永川城正  金属材料技術研究所第2サブグループリーダー
   中島 甫  日本原子力研究所材料研究部次長
   野田健治  日本原子力研究所材料設計研究室長
   正村克身  日本鋼管総合材料技術研究所准主幹
   松井秀樹  東北大学金属材料研究所教授
   室賀健夫  核融合科学研究所大型ヘリカル研究部教授