平成11年度 原 子 力 に 関 す る 教 育 検 討 会
検 討 結 果 の ま と め
平成12年3月
財団法人 日本原子力文化振興財団
はじめに
現代文明の進展に伴い、エネルギー消費の増大とそれが地球環境に及ぼす影響が顕在化し、その克服が人類共通の課題となっている。この課題の解決に向けては、エネルギーや環境が多くの分野の学問領域に関わっていることに鑑み、政治、経済、資源、技術、さらにはライフスタイルなどとの関連の中での考察が必要である。そのため、今日関心が高まっている地球温暖化をはじめとした様々な環境問題は、人類が生存し、生産活動を行っていること自体に由来するものであり、「環境」と「エネルギー」はそれぞれ別個に扱うのではなく、相互に関連づけた教育体系の確立が重要である。
折から教育界では、今回の教育改革に基づく新しい学習指導要領が告示され、この新しい学習指導要領は、小学校、中学校では2002年度から、高等学校では2003年度から学年進行で実施することとしている。今次の教育改革では、教育内容の厳選を行い、「ゆとり」の中で「生きる力」を育成することを重視し、これまでの知識偏重と指摘のある教育の基調を、自ら学び、自ら考え、問題を解決する能力を育む教育への転換を求めている。そしてこのことを実現する場の一つとして「総合的な学習の時間」が創設された。「総合的な学習の時間」の学習活動は、例えば、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うこととされている。
原子力に関する学習内容は、私たち一人ひとりの日常生活上の問題から、地球的な規模での課題までの広がりと、現在から遠い将来にわたる課題が含まれている。また、この内容は自然科学、社会科学、人文科学などの分野や、一人ひとりの人間としての在り方や生き方とも関わり、極めて学際的で総合的な内容を有している。このことを踏まえ、これからの小・中学校や高等学校における原子力に関する教育の推進に当たっては、各教科や科目における学習の充実とともに、その成果を生かし、「総合的な学習の時間」の中で実施していくことの意義は大きいものと考える。
このような背景の中で、本検討会は原子力委員会から原子力に関する教育の在り方について検討し、今後の基本的な考え方をまとめるよう依頼された。そこで本検討会は、昨年7月26日以来、5回の検討会を開催し、原子力に関する教育の現状と問題点をはじめ、21世紀社会に向けた教育の理念、新しい教育課程に対応する教育の在り方やその内容と方法、教育を支援する方策等について検討してきた。これらの検討結果を踏まえ、ここに報告書としてとりまとめた。本検討結果のまとめの内容が今後、原子力に関する教育を推進される上で何らかの参考になることを願ってやまない。
最後に本検討結果のまとめにあたられた検討会の委員各位及びオブザーバー各位の方々に厚くお礼申し上げる次第である。平成12年3月
原子力に関する教育検討会
委員長 天 井 勝 海
目次
はじめに
目 次第1章 原子力に関する教育検討会の設置とその背景
1.新たな長期計画の策定とその背景
2.原子力に関する教育検討会の検討事項第2章 原子力に関する教育の現状と課題
1.現行の学習指導要領における原子力の扱い
1)「原子力」の扱い
2)原子力に関する内容の扱い
3)エネルギーや環境に関する内容の記述
2.教科書における原子力の取扱い
3.関係機関の教育支援活動
4.原子力に関する教育の問題点第3章 21世紀社会に向けた原子力に関する教育の理念
1.これからの学校教育の在り方
2.これからの原子力に関する教育の在り方
1)原子力開発の意義とその必要性
2)社会経済発展の基盤としての原子力
3)国民生活と原子力
4)地球環境問題と原子力
5)リスクと安全確保(安全文化)第4章 新しい教育課程に対応する原子力に関する教育の内容と方法
1.新しい教育課程と原子力に関する教育
2.新学習指導要領における原子力に関する学習
3.「総合的な学習の時間」の設置とその特質
4.「総合的な学習の時間」における原子力に関する学習第5章 原子力に関する教育を支援する方策
1.関係機関における支援の方策
2.教員研修の充実
3.新しい教材開発の視点
4.原子力に関する教育推進のための支援機関の構想
資料編 1.教育改革の流れ
2.環境問題と教育
3.環境問題への対応
4.「総合的な学習の時間」について
5.小学校の年間標準時間数
6.中学校の年間標準時間数
7.高等学校の標準単位数
8.小学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
9.中学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
10.高等学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
11.原子力PA事業と学校教育との関係
12.電力会社の教育支援活動について
13.原子力に関する教育検討会・委員名簿
14.原子力に関する教育検討会・検討経過
第1章 原子力に関する教育検討会の設置とその背景 1.新たな長期計画の策定とその背景
現行の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「長期計画」という)が策定されてから5年以上の年月が経過し、この間に、原子力をめぐる国内外の情勢は大きく変化している。すなわち平成8年12月には、地球温暖化防止京都会議(COP3)において、温室効果ガスの削減に係わる数値目標が合意され、我が国に課せられた削減目標の達成に向けて、エネルギー対策や環境対策が策定されている。この中で原子力は、環境負荷の少ないエネルギー源として、今後の開発利用の進展に大きな期待を寄せられるとともに、医療、農業、工業、環境保全などの分野における放射線利用がすでに産業活動や国民生活の各方面まで浸透し、その成果について大きな注目を集めている。
国内では、新しい原子力発電所の建設認可や青森県六ケ所村のウラン濃縮施設、低レベル放射性廃棄物埋設施設、再処理施設等の事業の進展をはじめ、プルサーマル計画や高レベル放射性廃棄物処分に係わる事業の制度化などにおいて、計画の進展がみられるとともに、使用済み燃料の中間貯蔵、高経年化対策などについても検討が進められている。
しかし一方では、平成9年3月の茨城県東海村における再処理工場での火災爆発事故に続き、11年9月のウラン加工工場での臨界事故の発生など一連の事故等による国民の不安感、不信感が高まっているのも事実である。
国外に目を転ずると、冷戦構造の崩壊に伴う核不拡散をめぐる国際情勢の変化や近年の国際的な経済社会情勢の変化に対応して新しい視点に立った国際的展開が求められている。
このような情勢を踏まえ、原子力委員会は、これまで8回にわたって策定されてきた長期計画が我が国の原子力研究開発利用において果たしてきた役割を踏まえ、21世紀社会に向けた新たな長期計画について検討を行うこととしたものである。
原子力委員会は、新たな長期計画を策定するため、「長期計画策定会議」を設置して、調査審議を行うこととしているが、この調査審議を円滑に行うため、同会議の中に第一分科会から第六分科会まで6つの分科会を設けて、専門的に検討している。このうち第一分科会では、原子力に関する国民の理解と信頼を得るため、情報公開・提供、国民の意見の聴取、原子力に関する教育、立地地域との共生等について、今後の基本方針及び推進方策を明らかにすることとしている。2.原子力に関する教育検討会の検討事項
このような情勢を踏まえて、本検討会は原子力委員会から原子力に関する教育の在り方について検討し、今後の基本的な考え方をまとめるよう依頼された。そこで本検討会では、原子力に関する教育の現状と問題点をはじめ、21世紀社会に向けた教育の理念、新しい教育課程に対応する教育の内容と方法、教育を支援する方策等について学識経験者及び教育関係者の参加を得てこれまで鋭意調査研究を続けてきた。検討会における内容は、第2章以下のとおりである。
第2章 原子力に関する教育の現状と課題 1.現行の学習指導要領における原子力の扱い
1)「原子力」の扱い
現行の高等学校学習指導要領(平成元年告示)において、「原子力」という用語が記述されているのは、「世界史A」「総合理科」「物理TA」「物理TB」などの科目である。
まず「世界史A」では、「現代世界と日本」の中の「科学技術と現代文明」で、「原子力の利用、情報科学、宇宙科学の出現など現代の科学技術の人類への寄与と課題に触れ、人類の生存と環境、世界の平和と安全などについて考察させるとともに、国際的な交流と協調の必要性に着目させる。」としている。このことは、原子力の利用など現代の科学技術の人類への寄与と課題、人類の生存と環境、世界の平和と安全など多様な視点から、学習することの必要性を示しているといえる。
次に「総合理科」では、「人間と自然」の中の「資源・エネルギーとその利用」の内容の取扱いで、「・・・例えば、水資源、化石燃料、太陽エネルギーなどを取り上げ、資源・エネルギーの有限性や再利用にも触れること。また、放射能及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること。・・・」としている。
「物理TA」では、「エネルギーと生活」の中の「太陽エネルギーと原子力」で取扱うこととしている。なお、この内容の取扱いでは、「原子力については、放射能及び原子力の利用とその安全性の問題にも簡単に触れること」としている。
「物理TB」では、「電子と原子」の中に「放射能」の内容が位置づけられ、その内容の取扱いで、「放射能及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること」としている。2)原子力に関する内容の扱い
次に、学習指導要領には「原子力」という用語は記述されていないものの、理科においては、「放射能」「素粒子」「核燃料」などの内容を、地理歴史科及び公民科では、「科学技術」「環境」「資源・エネルギー」などの内容を扱うこととしており、これらと関連して原子力に関する教育が行われるようになっている。
「物理TA」及び「物理TB」では、前述のとおり、「放射能及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること。」としている。
「物理U」では、「原子と原子核」の「原子の構造」の中で「素粒子」が取扱われることになっている。
「地学TA」では、「資源と人間生活」の中の「エネルギー資源」の内容の取扱いで「太陽放射の熱エネルギー、化石燃料及び核燃料のエネルギーを中心に扱うこと」としている。
「世界史B」では、「現代の課題」の中の「科学技術の発展と現代文明」で「巨大技術、環境問題などに着目させ、科学技術と現代文明を歴史的に考察させる。」としている。
「日本史A」では、「現代の世界と日本」の中で「経済や文化の国際的交流、科学技術の発展と世界の平和などに着目して、現代世界の動向と日本の課題及び役割を理解させる。」
としている。
「地理A」では、「現代世界の課題と国際協力」の中の「地球的課題の出現とその要因」で、「環境、資源・エネルギー、人口、食料及び居住・都市問題などの動向に着目させ、現代世界は地球的課題を多く抱えていることを理解させ、それらの諸課題を出現させた要因について考察させる。」としている。
「地理B」では、「人間と環境」の中で広く「人間生活や環境」や「世界の環境問題」について取り上げることとしている。
「現代社会」では、「環境と人間生活」の中の「環境と生活」で「科学技術の発達、資源・エネルギーの需給、都市化の進展及び人口の動きなどを理解させ、環境と生活のかかわりについて考えさせる。」としている。
「倫理」では、「現代社会と倫理」の中の「現代社会を生きる倫理」で「・・・自然や科学技術と人間のかかわり、・・・などについての理解を深め、民主社会を形成する人間としての在り方生き方を考えさせる。」としている。
「政治・経済」では、「現代の経済と国民生活」の中の「現代経済と福祉の向上」で、「・・・資源・エネルギー、環境保全と公害防止、・・・など、経済生活に関する諸問題について考察させる。」としている。
このほか、「世界史A」「世界史B」「日本史A」「日本史B」「現代社会」などの科目においては、その内容や内容の取扱いで、国際的な課題として、核戦争の脅威を認識することによる戦争の防止、平和な国際社会を実現することの重要性について理解させることをねらいとして、「核兵器」などに関して記述されている。3)エネルギーや環境に関する内容の記述
これらの教科・科目以外においても、特別活動を含め、実際の授業では、原子力発電など原子力に関する内容は、学習指導要領の資源・エネルギーや環境に関する内容と関連して取扱われることが多い。例えば、高等学校の学習指導要領における資源・エネルギーや環境に関する内容は、地理歴史、公民、理科をはじめ保健体育、家庭などの教科・科目等で取扱われている。
これらのことから明らかなように、現行の学習指導要領では、エネルギーや環境に関する内容は、各教科・科目のねらいのもとに多くの教科・科目等で取扱われている。
また、資源・エネルギーや環境に関する学習は、総合的・学際的・広領域的な内容を踏まえて行うことが必要である。また原子力(放射線)は、医療・農業・工業・環境保全・宇宙開発などをとおして多方面に活用されており、原子力を限られた側面での取扱いとせずに、私たちの生活との係わりといった視点に立って、多面的で総合的な取扱いが求められる。2.教科書における原子力の取扱い
わが国の教科書は、文部省の検定を経て発行されており、一定の水準が保たれている。検定制度については、学習指導要領に規定のある場合を除き、どのような内容を教科書に取り上げ、どのように扱うかは著者・出版社に委ねられており、その内容が著しくバランスを欠いているものなどについて検定で改善が図られている。また、教科書を作成する出版社においても、できるだけ多くの学校での利用を期待し、限られたページ数の中で何をどれだけ取り扱うかといった内容やその構成にも多大の時間と労力をかけるなどして、各社は創意・工夫を凝らした教科書を作成している。そのため、同じ事項であってもその取り扱い方は異なっており、そのことがそれぞれの教科書の特色にもなっている。児童・生徒の多様化に対応した教科書の作成も大切なことであり、多様な教科書の存在はむしろ必要なことである。
原子力に関する教科書の記述内容については、日本原子力学会が「高等学校教科書(公民、地理、理科)における原子力関連の記述の現状と問題点」(平成8年)で明らかにしている。そこで指摘された内容は、その後記述に変化がみられるなど改善されたものも多い。今後、著者・出版社に検討を望むことは、使用済燃料の発生・累積、放射性廃棄物の発生や保管・プルトニウムの拡散、原子力発電所等の事故の発生やそれに伴う放射線被ばくなど、原子力発電の不安・不信などの問題点や課題の指摘ばかりでなく、エネルギーの安定供給や放射線の国民生活における幅広い利用など、その長所についての記述をより充実させることである。また、原子力発電の安全性や放射線の危険性などについて、より一層客観的な記述が望まれる。
また、原子力と関連して放射線などの医療や工業や農業など広く私たちの生活に係わっている現状などを含めた総合的な取扱いについての配慮が望まれる。
また、我が国においては、ヨーロッパ諸国の生徒に比べ、生徒の原子力などについての知識は、学校の授業よりもテレビや新聞などのマスメディアを通して得ることが多いとの調査結果もあることを踏まえると、今後、マスメディアを含め、分かりやすい広報に努めていくことが望まれる。3.関係機関の教育支援活動
従来より原子力に関する教育の重要性に鑑み、関係機関における教育支援活動が実施されているところである。これらの支援活動は、大別して、児童・生徒を対象とした事業、教材作成、教員研修、情報提供等の分野に区分されるが、その内容では、作文・論文・作品コンクール、副教材・ワークシート・副読本等の作成、サイエンスキャンプ等の実施、実験・実習器具等の貸し出し、発電所等の施設見学会の開催、教員を対象とした研修会、講演会の開催、教育の実態等に関するアンケート調査など実にさまざまな活動が幅広く実施されている。ここでは、一例として、本検討会において報告された日本原子力研究所、放射線計測協会、放射線利用振興協会、社会経済生産性本部、日本原子力文化振興財団など関係機関および電気事業連合会(電力会社を含む)における教育支援活動の概況について、表2−1のとおり紹介する。
4.原子力に関する教育の問題点
これまでの我が国の原子力に関する教育については、前述のように、児童・生徒の発達段階を踏まえ、各教科・科目の学習のねらいのもとに、各教科・科目に位置づけられて推進されている。しかし一方では、原子力に関する教育について、本検討会において下記のような課題も指摘された。
これらの内容は、全ての学校における教育や関係機関に当てはまることではないと思われるが、これからの原子力に関する教育を推進する上で、十分配慮する必要があるように思われる。
- 児童・生徒の原子力・放射線に関する基礎的な知識が不正確であったり、不足したりしている。特に、放射線の量と人体への影響など、放射線に対する正確な知識が不足している。
- 原子力発電に関して、その恩恵と課題をバランスよく取り上げる必要がある。
- 原子力発電に対する不安や不信に関する内容が多く取り上げられ、児童・生徒の原子力発電に対する正しい認識が育成されない状況がある。
- 原子力発電に関する授業がマスコミのセンセーショナルな記事やニュースなどに基づいて行われる傾向があり、広い視点に立った科学的な情報を学校に提供していくことが必要である。
- 我が国の資源・エネルギーの需給状況の実態を踏まえた上で、原子力発電がエネルギー安定供給に果たす役割や今日の私たちの豊かな生活を支えている側面などについても一層充実していくべきである。
- 私たちの生活において、医療、農業、工業などの各方面で放射線の果たしている役割を取り上げる必要がある。
- 地球温暖化防止に果たす原子力発電の役割を強調すべきである。
- 環境問題の中で原子力発電を取り上げる場合、使用済み燃料や放射性廃棄物の発生やその処理を強調する傾向にあり、火力発電などに比べて二酸化炭素の発生率が極めて少ないこと(発電過程においてはゼロ)を取り扱うべきである。
- 原子力・放射線問題に関する体系的・総合的なカリキュラムが開発されていない。安全やリスクについての見方や考え方の量的な認識が不足していたり、他の産業や各種の危機(リスク)などと比較した、安全やリスクのとらえ方の学習が必要である。
- 児童・生徒の発達段階や学習段階に応じ、身近で具体的な内容から学習を始めるなど、教育内容や教育方法の開発が必要である。
- 関係機関から専門的な講師を招いた授業や講演会、教員の研修会などを積極的に実施する必要がある。
- 地域にある原子力発電所、エネルギー館、研究施設などと連携した施設見学やそこでの体験的な学習活動を推進する必要がある。
- 地域やサイエンスレンジャー等のボランティア、さらには活動拠点となる研究施設、生涯学習施設との複合的連携を図る必要がある。
- 関係機関等が教材を作成する場合、学校のニーズにあった、学校で利用される教材を作成する必要がある。その際、関係機関が学校と連携して教材を作成することが必要である。
- 学校に原子力・放射線に関する正確で適切な情報を提供するとともに、教材の開発や授業内容・方法の改善などについて支援する機関の設立が望まれる。
これからの原子力に関する教育の推進にあたっては、今回の教育課程の改訂の基本方針を踏まえ、前述のことにも十分配慮しこれまでの原子力に関する教育の内容や方法などを見直し、新たな学校教育をめぐる変化に対応し一層充実していくことが求められる。特に、原子力に関する教育においては、児童・生徒の発達段階を踏まえ、原子力に関する教育内容がバランス良く厳選された適切で正確なものとするとともに、基礎的・基本的な内容を十分に学習し、その確実な定着を図ることが必要である。また、変化の激しいこれからの社会や科学技術などのことを考慮すると、児童・生徒自らが興味や関心をもち、主体的に学び自ら考える力を育成することを重視した原子力に関する教育を推進することが重要である。そのためには、知的偏重と指摘のある今日の教育を改め、身近で具体的な事象などから学習を発展させ、経験的・体験的な学習や問題解決的な学習を重視し、各種の発電所、
原子力施設などの見学・調査、放射線などの測定などの実験・実習、原子力をめぐってのディベートやパネルディスカッション・ブレーンストーミング・アンケート調査・インタビュー、資源やエネルギー供給のシミュレーションやケーススタディなど、多様な学習方法を導入していく必要がある。
原子力を含めたエネルギーや環境に関する内容は、私達一人ひとりの日常生活上の問題から地球的な規模での問題までの広がりと、現在から遠い将来にわたる課題が含まれている。また、この内容は、社会科・公民科・地理歴史科などを中心とした社会科学や人文科学の分野から、理科などを中心とした自然科学や一人一人の人間としての在り方や生き方にかかわる内容を含んだ、極めて学際的で総合的な学習内容を有しているといえる。そして、エネルギーや環境については、新学習指導要領においても、小学校では社会、理科、生活、家庭などの教科で、中学校では社会、理科、保健体育、技術・家庭などの教科で、高等学校では世界史、日本史、地理、現代社会、倫理、政治・経済、理科基礎、理科総合、物理、化学、生物、地学、保健、家庭基礎、家庭総合、生活技術などの多くの科目で多面的に取扱われている。これらのことを踏まえると、これからの原子力に関する教育の推進に当たっては、教科・科目での学習の成果を踏まえるとともに、教科・科目の枠組みを越えて横断的・総合的な視点に立ち、原子力に関する内容を体系的・総合的に学習を進めて行く必要がある。
また、これからの学校教育の在り方を踏まえると、「学社連携・融合」の視点に立った学校と企業等も含めた関係機関の連携の推進が求められる。これからの原子力に関する教育の一層の充実を図る上でも、これまでも行われたきた関係機関の原子力に関する教育の支援の在り方について、再検討することが必要である。そして、児童・生徒の発達段階を踏まえた、学校のニーズにあった、学校で活用されやすい教材等を提供していく必要がある。また、一方で、教員に対して原子力に関する正しい知識やその指導内容・方法を改善・工夫するための研修等の充実も必要である。
表2−2教科書における記述例 A社(中学社会地理的分野)(平成7年度検定)
電力の使用量は年々ふえ続け、いくつかの国では、原子力発電に依存している。フランスでは発電量の約80% 、スウェーデンでは約40% が原子力発電による。
しかし、原子力発電は強い放射能をもつウランを燃料とするため、反対する住民も多い。
1986年には、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で爆発事故がおこり、飛散した放射性物質によって、人や農作物・家畜が汚染されるという被害を受けた。その後、原子力発電所の新規建設を一時凍結したり、これまでのエネルギー政策を見直したりする国があらわれている。
・・・1965年に茨城県東海村に日本最初の原子力発電所が建設されて以来、各地に原子力発電所が建設され、今では、その発電量は、日本の総発電量の4分の1以上をしめるほどになっている。
電力を主に消費するのは大都会であるが、原子力発電所は、若狭湾の半島部や福島県の海岸など、どれも大都市から遠くはなれた過疎の町に建設されている。 原子力発電所が果たしている役割は大きいが、それらの町や村でも発電するときに出る放射線や事故に不安をいだく人が少なくない。B社(中学社会地理的分野)(平成7年度検定)
若狭湾に多い原子力発電所
現在、日本で稼働・建設中の54基の発電用原子炉のうち、15基が若狭湾岸にあります。ここでおこされた電気は、おもに京阪神地域に送られます。この地域に原子力発電所が多いのは、地盤がかたいため地震に耐え、冷却用の海水が得やすく、海への排水が容易だからです。しかし、捨てられた水の温度や水の流れの変化による漁業への影響、事故の危険、廃棄物の処理などの問題があります。そのため、これ以上の原子力発電所の建設には、地元の根強い反対があります。C社(高校現代社会)(平成8年度検定)
原子力エネルギー
原子力エネルギーは、石油にかわる最も有望な代替エネルギーと考えられてきた。しかし、その安全性や廃棄物が環境に及ぼす影響については、つねに議論がわかれている。1979年にはアメリカのスリーマイル島原子力発電所で炉心の燃料溶融事故がおこり、1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故では原子炉の爆発によってひろい範囲の地域と人が放射能に汚染された。さらに、高レベル放射性廃棄物の輸送や保管、プルトニウムの拡散なども深刻な問題となっている。また、事故にともなう運転の休止や、古くなった原子炉の廃棄には莫大な費用がかかる。こうした事情などから、各国で原発政策の見直しがはじめられている。D社(高校政治・経済)(平成8年度検定)
原子力エネルギー
石油にかわる新しいエネルギー源として実用化がすすめられたのが、原子力である。原子力は、原子核の分裂や融合にさいして莫大なエネルギーを放出する。その力を軍事利用したものが核兵器であり、発電に活用したものが原子力発電(原発)である。1955年にソ連ではじまった原子力発電(原発)は、先進国のあいだにひろまり、日本でも総発電量の29%を占めるまでになった。しかし、スリーマイル島(1979年、アメリカ)やチェルノブイリ(1986年、ソ連)でおきた大規模な事故の例にみるように、原発の安全性は完全なものとはいえない。そのため、各国はそれぞ れの国の事情を考慮しながら、原発への対応を検討している。
第3章 21世紀社会に向けた原子力に関する教育の理念 1.これからの学校教育の在り方
今日、我が国は、国際化、情報化、科学技術の発展、環境問題への関心の高まり、高齢化、少子化など社会の様々な面での変化が急速に進んでおり、今後一層の激しい変化が予想されている。また、教育や子どもたちの生活をめぐっては、知識を教え込む教育になりがちであるといった指摘や、子どもたちの自然体験、生活体験などが不足しがちになっているなどの指摘がなされている。
このような背景の下、平成8年7月の中央教育審議会第一次答申においては、これからの学校教育の在り方として、ゆとりの中で自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成を基本とし、教育内容の厳選と基礎・基本の徹底を図ること、一人一人の個性を生かすための教育を推進すること、豊かな人間性とたくましい体をはぐくむための教育を改善すること、横断的・総合的な指導を推進するための「総合的な学習の時間」を設けること、完全学校週5日制を導入することなどが提言された。
平成10年7月の教育課程審議会答申においては、中央教育審議会第一次答申を踏まえ、完全学校週5日制の下、「ゆとり」の中で特色ある教育を展開し、子どもたちに「生きる力」を育成することを基本的なねらいとし、次の方針に基づき改訂することを提言した。
@ 豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること。 A 自ら学び、自ら考える力を育成すること。 B ゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること。 C 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること。 この答申を踏まえ、平成10年12月に小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領を告示するとともに、平成11年3月に高等学校学習指導要領を告示した。新学習指導要領は、小中学校で平成14年度から全面実施し、高等学校で平成15年度から学年進行で実施することとしている。
2.これからの原子力に関する教育の在り方
1)原子力開発の意義とその必要性
人類は19世紀に、主として西欧社会において産業革命を成し遂げ、豊かな生活を手に入れてきた。この豊かな生活はエネルギーを消費することにより支えられているものである。
20世紀には先進各国で引き続き工業化が進んでいくが、エネルギーの主役は石炭から石油に代わっていった。20世紀の後半、第二次世界大戦後には、それまで植民地として虐げられてきた国々が次々と独立し、自由を手に入れ貧困と劣悪な環境から抜け出ようとする時代へとなっていった。これらの南の国々が北の国々のように成長を求め、豊かさを求めるようになってくると、世界のエネルギー需給は急激に変わっていくこととなる。中国やインド、東南アジアの30億人以上の人々が、従前どおりの形で先進国並の豊かさを求めるとしたら、世界の化石エネルギー資源は極端な不足状態になろう。
エネルギー資源の有限性は広く知られているところであり、現在、石油の可採埋蔵量はは43年、天然ガスは62年、石炭は212年、ウランは72年などがそれである。先進国が高度技術を用い新しいエネルギー源を開拓して行かなければ、特に、石油の需給が近い将来逼迫してしまう。また近年議論されている二酸化炭素等による地球の温暖化を避けるためにも、太陽光、風力等の自然エネルギーや原子力エネルギーなどの二酸化炭素等を排出しないエネルギー源に注目してゆかなければならない。
他方、19世紀にはドイツのレントゲンによりX線が発見され、第1回のノーベル物理学賞を受賞した。引き続き、フランスのベクレルによるウランの放射能の発見、キューリー夫妻による新しい放射性同位体の発見等々の放射能、放射線に関する発見が続き、原子、原子核等の構造の理解が進んでいった。これらはラザフォード(α線の散乱実験)、チャドウィック(中性子の実験)らに引き継がれ、アインシュタイン(相対性原理)らを経て、ドイツのハーンによる核分裂の発見へと続くこととなる。人類はこの約50年の間に従前にない新事実を次々と発見していった。
全く残念なことであるが、この核分裂の発見は原子爆弾の開発へと向かい、1945年に米国により広島・長崎に投下され、瞬時に十万人を超える人の爆死という惨劇になった。しかし、この莫大なエネルギーをフェルミにより考案された原子炉により平和利用したいとする国際的な動きもあり、第二次世界大戦後、国際連合に国際原子力機関(IAEA)が設けられ、時の米国大統領アイゼンハワーにより、“原子力の平和利用(atoms for peace)”が提唱され、核不拡散(核兵器をもつ国をこれ以上広げない)との組み合わせで原子力平和利用が進められることとなった。これらのことも教育の中ではきちんと教えられる必要があろう。
21世紀はこれまで以上に人の活動が活発となり、地球規模での活動、考え方が求められる時代で、エネルギー、環境問題を考える際もこの視点を欠いてはならない。原子力エネルギーは前述のように地球規模でのエネルギー供給に対して大きなメリットを持つが、原子力発電等は従前にない科学技術を駆使した方法であり、これを国民が受け入れるためには、原子炉の仕組みと安全性、放射線の人体影響、放射性廃棄物の処理・処分等について充分な知識を身につける教育が必要である。
資源の少ないわが国がエネルギーの自立を図り、安定した国民生活、産業活動を確保してゆき、先進国の一員として世界のエネルギーの安定化に貢献することは大切なことで、南北問題を乗り越え、世界の国々と共生するためにも原子力エネルギーの利用は必要であろう。2)社会経済発展の基盤としての原子力
エネルギー、食料、人口は国民生活を考えていく際の基礎である。とりわけエネルギーはその安定供給が不可欠で、1998年にはわが国のエネルギーの48.4%が産業分野に、26.4%が民生分野に、25.2%が運輸分野に使われ、我々の生活を支えている。これらの一次エネルギーの52%が石油であり、石炭16%、原子力14%、天然ガス12%、水力4%と続く。このように我々の生活は大きく石油に依存しているわけであるが、石油はその産地が中近東に大きく偏っており、その供給の安定性に不安がある。既に1973年および1979年に第一次、第二次の石油危機を経験したわが国はエネルギーの供給の安定化を図るためエネルギー資源の多様化、電力供給源の多様化(ベストミックス)を図ってきている。
原子力エネルギーの元であるウランの産地は、アジア・大洋州、旧ソ連・東欧、アフリカ、北米、南米とほぼ世界に分布しており、供給に安定性がある。さらにウランは、エネルギー密度が大きく(100万kWの発電所の燃料は、ウラン30t、石炭2,200,000t、石油1,400,000t、天然ガス1,100,000t)、備蓄性に優れており有利である。また生成されるプルトニウムをリサイクルさせれば、1,000年以上にウラン資源の寿命を伸ばすことができる。
既に原子力発電は1998年に36.3%の電気を生産しており、社会経済発展の基礎を作ってきている。3)国民生活と原子力
原子力の利用は総合的である。よく知られている原子力発電以外にも、国民生活の広い範囲で様々な形で利用されている。原子炉や加速器で生産された放射性物質は医療分野で診断、治療に使われ、多くの人の命を救っている。また工業分野ではガスクロマトグラフ装置、厚さ計、レベル計、密度計などで13,461台(1998年)が利用されている。この他、農業、環境保全分野でも先端技術、計測法として利用されている。このことは意外に国民に知られていない。
医療器具の注射筒の相当数が放射線により滅菌されていることを見てもわかるように放射線・原子力が国民生活に深くかかわっているが、我が国は唯一の原子爆弾被曝国であり、一連の原子力関連施設での事故・不祥事等が相次いでいる状況において、放射線の人体影響に関する知識が充分でないこともあって、国民の大半は放射線・原子力の利用に漠然とした不安感を持っている。
放射線・原子力の教育は初等中等教育のみでなく、高等教育でも、また社会教育の中でも扱われていくべきであろう。国民に対して正確な情報を伝えていくことが大切である。4)地球環境問題と原子力
現在の世界のエネルギー消費の約9割は化石エネルギーである。19世紀初頭の産業革命以降、発生する二酸化炭素の量は飛躍的に増大し、地球の温暖化をもたらしている。19世紀末以降、世界の平均気温は0.3―0.6℃上昇しているし、このままの上昇を続ければ、約70年後には現在より約2℃上昇するとされている。そうなれば、海面上昇に伴う土地の水没、洪水被害の拡大、農作物への悪影響等のため、人類の生存基盤が脅かされることになるといわれている。
これを避けるため、1997年12月京都で国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が、わが国を議長国として開催された。この会議で、わが国は2008年から2012年の間に二酸化炭素を初めとする温室効果ガスの平均排出量を1990年比で6%下げることで合意した。この目標を実現するためには徹底した省エネ対策を進めつつ、非化石エネルギーの割合を増やす必要がある。原子力発電は、他の自然エネルギーと同様に発電の過程で二酸化炭素を全く排出しないので、地球の温暖化防止のために大きな役割を果たすと考えられている。しかし残念なことに、このことは正面から議論はされていない。省エネ、自然エネルギーの利用、原子力の利用をきちんと議論すべきであろう。
原子力については、放射性廃棄物の処分が環境との係りで議論されるべきであるが、現状は低レベル放射性廃棄物の処分場が既に青森県六ヶ所村で稼動し、20万本近くの放射性廃棄物が安全に埋設されていることもあまり知られていない。放射性廃棄物については、高レベルの放射性廃棄物処理・処分の取り組みも進められているが、これに関する情報提供と議論はほとんどされていない。最終的には国民の意志で決定されるのであるから、情報の提供と説明、議論は不可欠である。5)リスクと安全確保(安全文化)
我々の生活にリスクは不可欠である。例えば、自動車は便利な乗り物であるが、年間約一万人の人が事故で亡くなっている。飛行機は便利な乗り物であるが時として墜落事故があり、多くの方が亡くなっている。あらゆる機械、産業で事故の無いものはない。便利さとリスクのトレードオフにより、我々はこれらのものを社会的に受容しているのである。原子力の安全性についてもリスクの考え方を基本として教えるべきであろう。
現代社会は複雑になり、あらゆる便利なものが人の生活の中に入り込んでいるが、それと同時に環境リスクをも持ち込んでいる。例えば、水道水とトリハロメタン、ディーゼル車と排ガス微粒子、ペイントと有機溶剤などである。最近では環境ホルモンやダイオキシンなどが問題とされている。放射線、原子力もある意味で環境中の怖いものの一つとして扱われる傾向がある。しかし我々の生活は様々なリスクを内包しているものであり、このような環境リスクの説明を教育の中でも適切に行っていくことも含めて、放射線・原子力の安全文化の醸成を図っていかなければならない。
第4章 新しい教育課程に対応する原子力に関する教育の内容と方法 1.新しい教育課程と原子力に関する教育
教育課程審議会の答申(平成10年7月)では、完全学校週5日制の下、「ゆとり」の中で特色ある教育を展開し、子どもたちに豊かな人間性や自ら学び自ら考える力など「生きる力」を育成することを基本的なねらいとして、前述の4つの教育課程の基準の改善のねらいが示された。また、この答申では、各学校段階・各教科等を通じる主な課題に関する基本的な考え方も示されている。この中で、原子力に関する教育と係わりをもつ事項として、表4−1に示すように「環境問題への対応」が示されている。ここでは、環境やエネルギーの学習の重要性とともに、その学習の推進に当たっては、各教科、道徳、特別活動及び総合的な学習の時間のそれぞれにおいて充実するとともに、問題解決的な学習や作業的、体験的な学習を一層重視することを指摘している。
また、環境やエネルギーの学習の重要性は、表4−2に示すように、文部省が示した教育改革プログラムにも示されている。ここでは、学校における環境やエネルギーの学習の一層の充実を図るためには担当教員講習会を開催するなどして教員の指導力の向上を図ることの必要性や社会教育施設をはじめとする関係機関や関係団体などと学校の連携を図ることの必要性についても指摘していることは重要なことである。なお、第15期中央教育審議会の答申(平成8年7月)では、表4−3に示すように、これからの科学技術の発展と教育について、科学技術に対する信頼感の醸成の重要性について指摘しているが、このことはこれからの原子力に関する教育を推進する上でも必要なことである。
表4−1環境問題への対応
〔教育課程審議会答申より抜粋(平成10年7月)〕
環境問題に対する社会の関心が一層高まるなかで、環境やエネルギーについての理解を深め、環境を大切にする心を育成するとともに、環境の保全やよりよい環境の創造のために主体的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成することは今後ますます重要なものとなってくる。
環境教育は、現在、小学校、中学校及び高等学校を通じて、社会科、公民科、理科、技術・家庭科、家庭科や保健体育を中心に各教科等の特質に応じ、また、それらの関連を図りつつ、環境問題や環境と人間とのかかわりに対する理解を深めることとされている。
今後は、各教科、道徳、特別活動及び「総合的な学習の時間」のそれぞれにおいて、地域の実情を踏まえた環境に関する学習を充実するとともに、児童生徒の発達段階に応じて、例えば身近な自然環境から地球規模の環境までを対象に環境を調べる学習など、問題解決的な学習や作業的な学習、体験的な学習を一層重視する必要があると考える。
表4−2環境教育の推進
〔文部省・教育改革プログラムより抜粋(平成10年4月)〕
地球環境問題に対応するためには、今後、わが国が大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から省資源・省エネルギー・リサイクル型社会へと転換していくことが必要である。教育においても、そうした視点が重要となることから、環境やエネルギーへの理解を深め、環境保全やよりよい環境の創造のために主体的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成できるよう、体験的な学習を重視し、学校における環境教育の一層の充実を図る。そのため、担当教員講習会の開催などにより、環境教育についての教員の指導力の向上を図る。また、環境に関する体験的な活動を一層推進するため、社会教育施設をはじめとする関係機関や関係団体などと学校との連携を図る。情報ネットワークを活用し、環境のための地球規模の学習及び観測を行う国際的な取組(GLOBE計画)や自然環境のみならず社会的な環境問題についても児童生徒が観測・調査等を行う学習などを実施し、環境教育の推進を図る。
表4−3科学技術の発展と教育
〔中央教育審議会第一次答申より抜粋(平成8年7月)〕
科学技術が著しく高度化・細分化・専門化する中で、科学技術と社会との調和が大きな課題となるとともに、人々は、科学技術が生活に欠くことのできない重要な ものであることを承知しながら、何か分かりにくいもの、人々の安全をも脅かすものとなりかねないといった不安感を抱いていることもまた否定できない事実であろう。今後とも科学技術の発展は重要な課題であるが、人々がこうした不安感を抱くことがないような、科学技術に対する信頼感の醸成は極めて重要な問題であることを忘れてはならない。
今日、科学技術は人類に大きな恩恵をもたらす一方、社会との調和が大きな課題となっている。このような状況を踏まえて、科学と人間や自然とのかかわりなどについての学習を充実させていく必要があるが、こうした学習の指導は理科だけでなく、技術・家庭科、社会科、国語科などの教科においても、相互に関連を図りながら行っていくことが大切なことと考える。2.新学習指導要領における原子力に関する学習
前述のような中央教育審議会第一次答申、教育課程審議会の答申などを踏まえて作成された新学習指導要領では、各教科・科目においてこれまで以上に原子力に関する内容を含めた、エネルギーや環境に関する教育の充実が図られている。(資料編8・9・10参照)
例えば、中学校の「社会」の地理的分野では、「資源や産業から見た日本の地域的特色」の中で、日本は世界的視野からみてエネルギー資源や鉱物資源に恵まれていない国であることや、環境やエネルギーに関する課題などを抱えていることを大観させるとしている。
公民的分野では、「世界平和と人類の福祉の増大」の中で、人類の福祉の増大を図り、よりよい社会を築いていくために解決すべき課題として、地球環境、資源・エネルギー問題などについて考えさせるとしている。
「理科」の第1分野では、「科学技術と人間」の中のエネルギー資源で、「人間が利用しているエネルギーには、水力、火力、原子力など様々なものがあることを知るとともに、エネルギーの有効な利用が大切であることを認識させること」としている。また、「技術・家庭」においても技術分野の学習内容として「技術と環境・エネルギー・資源との関係について知ること」を示している。
また、高等学校においても、同様に地理歴史科、公民科、理科などの各教科・科目において、これまで以上に原子力に関する内容を含めたエネルギーや環境に関する教育の充実が図られている。
特に、理科ではエネルギーや環境に関する内容も含め、理科に関する基礎的内容を総合的に学習する科目として「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」の3つの科目が新たに設けられた。
「理科基礎」では、「自然の探求と科学の発展」の中で、「エネルギーの考え方」を取り上げることとしており、「科学の課題とこれからの人間生活」の中で「物質とエネルギー、生命と環境、宇宙と地球などの分野から、現在及び将来における科学の課題と身近な人間生活とのかかわりについて考察させる。」としている。
「理科総合A」では、「資源・エネルギーと人間生活」の中の「エネルギー資源の有効利用」で「蓄積型の化石燃料と原子力及び非蓄積型の水力、太陽エネルギーなどの特性や有限性及びその利用などについて理解させる。」とし、「多様なエネルギー資源が発電や熱源に利用されていること及び蓄積型のエネルギー資源の成因、分布、埋蔵量の有限性及びこれらがエネルギーとして利用できる過程についての概略を扱い、環境への配慮が必要であることにも触れること。原子力に関連して、天然放射性同位体の存在やα線、β線、γ線の性質にも触れること。」としている。
「理科総合B」では、「人間の活動と地球環境の変化」の中で「生物とそれを取り巻く環境の現状と課題について考察させ、人間と地球環境とのかかわりについて探求させる。」とし、「・・・地球温暖化など生物とそれを取り巻く環境に関する身近な課題を取り上げ、人間と環境とのかかわり、地球環境を保全することの重要性などを平易に扱うこと。」としている。
これらの科目は、そのうち少なくとも1科目をすべての生徒が履修することとしており、原子力を含むエネルギーや放射線、資源及び環境などに関する学習を、科目の選択方法にかかわらず必ず行うこととなり、このことに関する学習の充実が図られたといえる。3.「総合的な学習の時間」の設置とその特質
前述した教育課程審議会の答申で、教育内容の厳選を行い、ゆとりの中で生きる力をはぐくむことを重視し、自ら学び自ら考え、問題を解決する能力をはぐくむ教育の必要性が指摘されている。そして、このことを実現する場として「総合的な学習の時間」の創設が提言された。これを受けて文部省が平成10年12月に改訂した小学校・中学校学習指導要領及び平成11年3月に改訂した高等学校学習指導要領において「総合的な学習の時間」が新たに位置づけられた。
この「総合的な学習の時間」は、横断的・総合的な学習や児童・生徒の興味・関心等に基づく学習など、各学校が創意工夫を生かした教育活動を行う時間である。そして、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることや、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすることをねらいとしている。学習活動については、このねらいの下、例えば、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うものとしている。
「総合的な学習の時間」の特徴は、この時間にどのような学習活動を行うかは、各学校の判断に委ねられていることである。すでに「総合的な学習の時間」の実施に向けた先導的な取り組みも行われており、その中では、国際理解、情報、環境、福祉・健康をはじめ少子高齢社会、男女共同参画社会、食糧問題、消費者問題、地域研究、文化、国土・郷土学習、課題研究、進路研究など、多種多様なテーマを設けた活動が展開されている。このように、それぞれの学校において、地域や学校、児童生徒の実態等に応じ、創意工夫を凝らした様々な活動が展開されることが強く期待されている。
「総合的な学習の時間」は、小学校では第3・4学年は年間105 時間、第5・6学年は110時間、中学校では第1学年は70〜100 時間、第2学年は70〜105 時間、第 3学年は70〜130時間の授業時数を定めている。また、高等学校では、卒業までに105 ないし210 単位時間を配当し、これに付与する単位数は3ないし6単位としている。このように各校種にわたって「総合的な学習の時間」にかなりのウェイトが置かれており、その学習の重要性が伺える。(資料編4参照)
「総合的な学習の時間」における学習活動に関して、高等学校新学習指導要領では、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動、生徒が興味・関心、進路等に応じて設定した課題について、知識や技能の深化、総合化を図る学習活動、自己の在り方、生き方について考察する学習活動の活動例を示すにとどめている。そして、地域や学校、生徒の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など各学校の創意工夫を生かした様々な教育活動を展開できるようになっている。そのため、「総合的な学習の時間」の学習活動は、これまでの教科・科目等のそれに比べて一層多様なものとなることが考えられる。
また、このようなことを踏まえると、「総合的な学習の時間」における学習では、これまでの各教科・科目における学習とは異なり、各教科・科目が連携し、総合的・学際的・広領域的な視点に立った学習内容が新たに構築されることになる。総合的な学習の時間においては、各教科等で身に付けられた知識や技能を相互に関連付け、深め、総合的に働くように目指すものであるため、例えば図4−1に示すように、多方面から学習を推進することが可能である。
図4−1「総合的な学習の時間」における学習内容(例) この学習では、体系化された知識を習得させることに重点を置くのではなく、基礎的・基本的な内容を理解させるとともに体験的・経験的な学習をとおして、学習課題に対しての理解や関心を高めるとともに、自ら主体的に判断し行動することのできる実践的な態度を育てることが重要である。中央教育審議会の第一次答申(「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)でも、これからの学校は、「生きる力」を育成する教育へとその基調を転換していくことの必要性を強調している。そして、「生きる力」とは、他人と協調しつつ自律的に社会生活を送っていくために必要となる人間としての実践的な力、生きていくための「知恵」ともいうべき社会生活において実際に生かされる力、単に過去の知識を記憶しているということではなく初めて遭遇するような場面でも自分の課題を見つけ自ら考え自ら問題を解決していく資質や能力、あふれる情報の中から自分に本当に必要な情報を選択し主体的に自らの考えを築き上げていく力などとしている。
4.「総合的な学習の時間」における原子力に関する学習
原子力に関する学習内容は、私達一人ひとりの日常生活上の問題から地球的な規模での問題までの広がりと、現在から遠い将来にわたる課題が含まれている。また、この内容は、社会科・公民科・地理歴史科などを中心とした社会科学や人文科学の分野から、理科などを中心とした、自然科学や一人一人の人間としての在り方や生き方にかかわる内容を含んだ、極めて学際的で総合的な学習内容を有しているといえる。そして小学校では、社会、理科などの教科で、中学校では社会、理科、保健体育、技術・家庭などの教科で、高等学校では世界史、日本史、地理、現代社会、倫理、政治・経済、基礎理科、理科総合、物理、化学、生物、地学、保健、家庭基礎、家庭総合、生活技術などの多くの科目でエネルギーや環境に関する内容が多面的に取扱われている(資料編8・9・10参照)。
これらのことを踏まえると、これからの原子力に関する教育の推進に当たっては、各学校は各教科・科目での学習の充実とその成果を生かし、教科・科目の枠組みを越えた横断的・総合的な視点に立った「総合的な学習の時間」の中で実施していくことの意義は大きいものと考える。「総合的な学習の時間」の指導計画の作成に当たっては、各教科・科目等との連携を図る必要がある。
「総合的な学習の時間」における原子力に関する学習を進めるためには、少なくとも次のことがらについて配慮する必要がある。
その第1は、「学習内容の総合化」である。中学校においては「社会」や「理科」などの、高等学校においては「地理歴史」や「公民」や「理科」などの総合化の前提となる各教科・科目での学習内容の関連性についての検討が必要である。そして、各教科・科目の学習内容を発展させ、例えば、児童・生徒の発達段階を踏まえ、「科学技術の発展と原子力」「文明の発展と原子力」「原子力の開発の意義とその必要性」「エネルギーの安定供給と原子力」「環境問題と原子力」「国民生活と原子力・放射線」「産業の発展と原子力・放射線」「原子力の安全確保」「リスクと安全(安全文化)」「原子力の国際協力」「世界の平和と原子力」など、原子力を含め、資源・エネルギー、環境問題等を総合的・体系的にとらえた教育のカリキュラム開発が必要である。そして、各教科・科目での学習内容と横断的・総合的な課題などを扱う「総合的な学習の時間」で取り上げる学習内容との関係を明確にすることが「総合的な学習の時間」の学習活動を展開していくうえで重要である。また、高等学校においては、学習指導要領に示されていない教科・科目を各学校の判断で設けることができるようになっており、この仕組みを活用し、原子力や放射線などを含んだ資源・エネルギーや環境に関する学習を推進することも考えられる。
第2には、「総合的な学習の時間」が、生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとしていることを踏まえると、「総合的な学習の時間」では、身近で具体的な事象や体験的・経験的な学習を積極的に導入する必要がある。一般に、身近で具体的な事象であればあるほど、児童・生徒の興味・関心は高い。また、身近で具体的な事象は生徒自らが検証することも可能である。そのため、例えば、「電気はどこから」「健康をチェックするX線」「生活と放射線」「生活の中のリスクと安全」といった身近で具体的な課題から学習をスタートしたり、「身の回りの放射線の測定」や「地域の発電所やエネルギー館・PR館」などでの見学や実験・実習などの体験的な学習を導入すると、生き生きした活力ある学習を展開することが期待できる。児童の発達段階を考慮し、児童の身近な生活における放射線の測定を授業に取り入れ、大きな成果を上げている東京都のN小学校の事例などに学ぶところも多い。
第3には、「課題を解決する力の育成」である。「総合的な学習の時間」で取り上げられる内容は、学際的・広領域的・総合的な広がりをもっている。これまでの学習形態では、それぞれの教科・科目で学習した内容を、全体的に把握することは、学習者である生徒一人一人に委ねられていた。しかし、各教科・科目で関連する内容を学習する時期が各教科・科目で異なっていることや各教科・科目で学習した内容の相互の関連性などが十分把握されにくいことなどもあって、各教科・科目で学習した内容を総合化したり再編成したりして、全体的に把握することを生徒一人一人に期待することは困難である。「総合的な学習の時間」においては、各教科等で身に付けた知識や技能を相互に関連付け、深め、総合的に働くようにすることを目指すものであることから、特定の教科や科目に偏ることなく広い視野や視点に立って課題を解決するなど力を育成することが必要である。また、その課題を解決する力は、体系化された知識を習得させることを重視するのではなく、基礎的・基本的な内容を理解させるとともに体験的・経験的な学習をとおして、学習課題に対しての理解や関心を高め、自ら主体的に判断し行動することのできる実践的な力である。そしてそれは、思考力・判断力・表現力・創造力・行動力・実践力といった「生きる力」ともいえる。原子力に関する教育においては、このような、自ら考え、判断して正しく行動することのできる資質や能力などの基礎を養うことが大切である。「総合的な学習の時間」で環境問題を取り扱う場合も、環境問題の多くがエネルギーの大量消費とも深く係わっていることを踏まえ、環境問題と原子力を含めたエネルギー問題とを関連させて取扱うことも大切である。
第5章 原子力に関する教育を支援する方策 1.関係機関における支援の方策
国はもとより、日本原子力研究所等、放射線計測協会、放射線利用振興協会、社会経済生産性本部、日本原子力文化振興財団、電気事業連合会(電力会社を含む)など様々な機関において、原子力に関する教育支援活動が行われている。支援活動としては、表5−1に示すように、児童・生徒を対象とした教材の作成・配布、器材の貸出しなどの事業をはじめ、教員を対象とした研修会や講演会、教育の実態等に関する各種の調査や研究など、幅広く実施されている。
表5−1関係機関におけるさまざまな支援活動
このようなさまざまな関係機関における支援活動は、例えば、作文、論文、作品コンクールへの参加など、児童・生徒を対象とした各種の事業への参加者が年々増加傾向にあることなど、学校における原子力を含めたエネルギーや環境に関する教育の活性化に一定の成果が見られる。しかし一方で、作成・配布した教材が期待通り活用されないことや教材などが確実に担当者の手元に届かず学校のどこかに滞留してしまっているケースも見られる。また、講演会・研修会への参加者の固定化やその拡大が困難なことなども課題になっている。さらに学校と関係機関の連携が双方向のものとならず、学校へ提供された教材等の活用の状況や学習成果の把握などが困難な状況にあることも多い。
学校においては、特定の企業等の作成した教材を授業等で活用することへの抵抗があることも事実である。しかし、これからの学校教育は、開かれた学校づくりを推進する上からも、地域の関係機関や教育関連施設との連携が一層求められる。学校においては、適切な教材や教具などの提供のみならず、地域の人材を学校教育に活用することも今後は一層推進していく必要がある。特に、原子力に関する教育では、大学や研究機関あるいは企業等から専門家を講師として招聘し、生き生きとした授業を実施することも必要である。
一方、関係機関においては、児童・生徒の発達段階や学習内容を十分踏まえた教材の作成など学校のニーズにあった適切な教材の作成をはじめ、講師の派遣などの学校のニーズに適切に対応した多様な支援活動を行う必要がある。それには、学校と関係機関の日常的な交流も重要なことである。
あるエネルギー館では、数年前までは近隣のどの学校からも見学等での来館が見られなかったが、エネルギー館の職員がきめ細かく学校との連携に努めるとともに、学校のニーズにあった教材の作成や展示等の工夫に尽力された結果、現在では近隣の町村のほとんどの学校(小・中学校及び高等学校)が、教育課程に位置づけた学習活動とし、エネルギー館を訪問し体験的な学習などを行っている。このように、学校と各関係機関の双方の努力により、学校教育への支援活動に大きな成果をあげている事例もある。今後は、このような事例に学び、学校と各関係機関の相互に連携の在り方などについても検討していくことも必要なことである。2.教員研修の充実
学校教育を推進する上で、「教育は人なり」といわれるように、児童・生徒と日々直接触れ合い指導に当たる教員の役割とその責任には大きいものがある。エネルギー問題や環境問題が顕在化するとともに深刻化し、エネルギーや環境に関する教育の重要性が増大している。「原子力に関する教育」を推進する上でも、科学的に裏付けられた確かな知識やその指導内容や方法の改善が必要である。また、新学習指導要領の実施や新たに創設された「総合的な学習の時間」のカリキュラムの開発や指導内容や方法等について工夫していくことが必要である。このような教育課題へ適切に対応するための校内研修等の充実が求められる。
また、これから教員をめざす者に対しても、極めて学際的で総合的な内容を含んでいるエネルギーや環境に関する内容を教員養成課程において明確に位置づけたカリキュラムが求められる。具体的には、「エネルギーや環境に関する教育」の教職科目の設置等が望まれる。また、前述のようなエネルギー館、発電所、研究機関を初めとした関連施設などにおける体験的な研修の機会をできるだけ多く提供することも必要である。
図5−1原子力に関する教育推進のための教員研修の充実 K大学の原子力研究所においては、「教員のための原子炉実験・研修会」が、1987年12月以来実施されている。この研修会では、臨界実験、原子炉の運転実習、中性子束分布の測定、放射線の計測と管理、微量元素の放射化分析などが、基本的には宿泊研修で実施されている。この研修に参加した教員の多くは、この研修を通して原子力に関する確かな知識やその安全性などに関する科学的で広い視野に立った見方や考え方などを身につけることができたと感想を述べているという。また、原子力を含めたエネルギーや環境に関する研修においては、関係機関や発電所などの施設等での体験研修の実施も可能である。原子力に関する教育の推進に当たっては、図5−1に示すような参加型・体験型研修や課題解決的な研修を多く取り入れていくことが必要である。そして、各都道府県の教育委員会においても、このような教員研修への参加等について、必要に応じて、後援や情報提供を行うなど積極的に支援していくことが大切である。
3.新しい教材開発の視点
平成15(2003年)年度から実施する新しい教育課程では、生徒に生きる力を育むことを目指し、創意工夫を生かし、特色ある教育活動を展開する中で、自ら学び自ら考える力の育成を図ることを重視している。高等学校では、地理歴史、公民、理科、家庭科などの各教科において、「エネルギーと環境」をめぐる問題について、従来の教育内容よりやや踏み込んだ内容を盛り込む一方、「総合的な学習の時間」 を創設して、例えば、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題について学習活動を推進することとしている。
教材開発は、各学校の生徒の実態に即して、さらに学習する生徒の立場に立って、指導内容の構成や取り扱いについて積極的に工夫することが必要である。どのように指導したら、生徒一人一人がエネルギーに関する基本的な問題について課題意識を持ち、考える力を身につけ、基礎的な知識を確実に学べるか、このことが各学校における指導の展開の課題である。したがって、従来の事項解説中心の形を避け、「総合的な学習の時間」のねらいとしての観点を明確にし、学習の目的や内容に応じて体験的学習や問題解決的学習活動を取り入れる。また、基礎的、基本的内容や学習の仕方を身につけ、思考力、判断力、表現力などを育てることができるものにする。それを具体化するため生徒への切り込み方、指導方法を重視することが大切である。この基本的なねらいの上に立ち、さらに学習を分かりやすく魅力あるものにするために、具体的な事例、問題を数多く提示し、生徒が様々なエネルギーに関する諸問題を見い出し、かつ取り組めるような教材開発が必要である。以下に新しい教材開発の視点および学習活動の視点を示す。(1) 作成の視点
@身近で具体的な事象から学習を発展させる。
A広い視野から総合的な課題の把握を図る。
B主体的で実践的な態度や能力などの育成を図る。
C生徒主体の体験的・経験的な学習を重視する。
D多様な学習方法の導入を図り、工夫された学習活動を展開する。
Eクロス・カリキュラムの視点に立った教材を作成する。
(2) 取り扱い上の視点
@エネルギーと環境をめぐる問題を広くとりあげる。
A生活と密接なかかわりのある問題や地域に密着した話題を取り上げる。
Bエネルギーと環境に関する今日的な課題や賛否両論を含む課題も進んで取り上げ る。
(3) 学習活動の視点
@実験や実習などのほかに、教室外での見学や調査などの学習も取り入れる。
A小グループ活動を取り入れるなどして、生徒主体の学習活動を重視する。
Bゲーム化を図るなどして、楽しい学習を推進するとともに学習の単調化を避ける。
C意思決定を求めるなど、生徒自らが考え、判断することが必要な学習場面の設定 などを行う。エネルギーと環境に関する内容は、学際的、総合的な広がりをもっている。そのため、指導計画を作成する際、各教科における学習上のねらいを踏まえ、各単元での学習達成となる目標を設定する必要がある。「総合的な学習の時間」による学習課題を年間の授業計画配分に留意しながら、各教科・科目のねらいや観点を明確にする必要がある。それを具体化するため、協働授業者との間で、指導を担当する内容区分や細かい学習項目に関する十分な協議と共通理解が必要である。指導に当たっては、課題を設定し、それを追求するといったことの他に教員が意識して生徒に他教科、科目との係わりに気づかせるように導くことが必要であり、生徒は学習した内容を結び付けて、共通のキーワードに沿って考えられるように指導していくことが望まれる。導入、切り口、指導方法などについても、同様に具体的な指導対応が必要となる。
例えば、関連する地域のエネルギー環境問題については、身近な社会事例を抽出し相互に関連付けて学習する。「総合的な学習の時間」では、生徒自らが問題を見つけ、多面的、総合的に学ぶことにより、問題に対する理解をより深めることをねらいとしている。実践するにあたっては、 関連する教科、科目を担当する教員間の連携、さらに学校全体における教員間の理解及び協働を図るための校内研修の位置づけが必要となる。多様で工夫した学習方法を取り入れる必要があるが、次のような学習方法を積極的に導入し、生徒主体の生き生きとした授業を展開し、単なる知識よりも、ものの見方・考え方などを育成し、自ら正しく判断し行動することのできる能力を育てることが大切である。
(多様な学習方法の導入)
@ ディベート I フィルムフォーラム(視聴覚教材) A ロールプレイング J 実験・実習 B ケース・スタディ(事例研究) K 資料分析(読書) C ブレーン・ストーミング L KJ法 D シミュレーション M アンケート調査 E パネルディスカッション N インタビュー F フィールドワーク O 提案・提言文 G 見学・調査(地域調査) P 文献の活用 H ワークショップ Q その他 4.原子力に関する教育推進のための支援機関の構想
原子力に関する教育を適切に推進するためには、今日の現代社会において果たしている原子力の経済社会の基盤とも言うべくエネルギーの安定供給に果たしている役割や医療・農業・工業・環境など、国民生活と密接なかかわりをもっている放射線の幅広い利用などを積極的に学校教育に取り入れていくべきである。また、原子力発電の安全性やそれに伴う使用済燃料や放射性廃棄物の処分などへの対応状況や、放射線の被ばくの影響などについても客観的なデータに基づいた適切な教材を学校に提供していく必要がある。
よく原子力に関する資料や情報はたくさんあるが、児童・生徒の発達段階を踏まえた、適切な教材が不足しているといわれている。教員が必要な時にいつでも正確で適切な教材が提供することのできる、いわば学校におけるける原子力に関する教育を推進するための支援機関の設置が望まれる。この支援機関は、適切な教材や教具等の提供のみならず、図5−2のような普及と推進のための活動、原子力に関する教育の研究と開発、原子力に関する教育情報の収集と提供など、広範にわたって学校における原子力に関する教育の推進をサポートする機関である。
しかし、新たな独立した機関を設置することが当面困難であれば、現に存在し学校教育へ様々な支援活動を行っている機関をネットワーク化し、それぞれの事業の役割分担を明確化し、相互に連携しあい、より効果的に、より合理的に学校を支援していく体制の確立が求められる。その場合も、全体を統括する組織は必要であり、その業務を推進する職員には、学校教育・教育行政・教育実践等の教育経験者を含めることが必要である。
また、本検討会では、学校教育に限って検討してきたが、これからの学校においては、生涯学習の基礎的な資質の育成を重視する方向にあることや完全学校週5日制の実施などを踏まえると、生涯学習の視点に立った原子力に関する教育の支援や学習環境の整備も必要である。この場合には、国公立や企業の各種研究機関、各種社会教育施設等の協力を得ながら、子どもたちにも分かりやすくて使いやすい「原子力の理解増進情報データベース」などを開発することも考えられる。そして、さらにこれらを一般の人々もインターネットから自由に利用できるようにして、原子力に関する教育推進のための環境整備を広く進めることも必要である。
図5−2原子力に関する教育推進のための支援機関の構想
資 料 編
1.教育改革の流れ
2.環境問題と教育
3.環境問題への対応
4.「総合的な学習の時間」について
5.小学校の年間標準時間数
6.中学校の年間標準時間数
7.高等学校の標準単位数
8.小学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
9.中学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
10.高等学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
11.原子力PA事業と学校教育との関係
12. 電力会社の教育支援活動について
13.原子力に関する教育検討会・委員名簿
14.原子力に関する教育検討会・検討経過
1. 教育改革の流れ
2.環境問題と教育(第15期中央教育審議会答申・抜粋) *(平成8年7月)
各学校において環境教育を進めていくに当たっても、各教科、道徳、特別活動などの連携・協力を図り、学校全体の教育活動を通して取り組んでいくことが重要だということである。その際、各学校では、教員間の共通理解を図り、各教科、道徳、るとともに、子供たちの発達段階や学校の周りの環境の特色等を十分に踏まえて、環境教育に取り組むことが大切である。
環境や自然と人間とのかかわりについて理解を深めるとともに、環境や自然に対する思いやりやこれらを大切にする心をはぐくみ、さらに、自ら率先して環境を保全し、よりよい環境を創造していこうとする実践的な態度を育成することが大切だということである。
環境教育を通して、子供たちは、環境問題が、その原因においても、また、その解決のためにも、科学技術と深くかかわっており、その意味で、科学的なものの見方や考え方をもたなければならないことを学ぶ。また、子供たちは、環境問題が、人類が生存し、生産活動を行っていることこと自体に由来するものであり、資源やエネルギーの大量消費、それに伴う多量の廃棄など、現代文明や現代の生活様式に深くかかわっていることなど、人間と環境とのかかわりについて理解を深める。3.環境問題への対応(教育課程の基準の改善の基本方向について・中間まとめ)
*(平成9年11月)教育課程審議会
環境問題に対する社会の関心が一層高まるなかで、環境やエネルギーについての 理解を深め、環境を大切にする心を育成するとともに、環境の保全やよりよい環境 の創造のために主体的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成することは今後 ますます重要なものとなってくる。
環境教育は、現在、小学校、中学校及び高等学校を通じて、社会科、公民科、理科、技術・家庭科や保健体育を中心 に各教科等の特性等に応じ、また、それらの関連を図りつつ、環境問題や環境と人間とのかかわりに対する理解を深めることとされている。
今後は、各教科、道徳、特別活動活動及び「総合的な学習の時間」(仮称)のそれぞれにおいて、地域の実情を踏まえた環境に関する学習を充実するとともに、児童生徒の発達段階に応じて、例えば身近な自然環境から地球規模の環境までを対象に環境を調べる学習など、問題解決的な学習や作業的、体験的な学習を一層重視する必要があると考える。4.「総合的な学習の時間」について(教育課程の基準の改善について・答申)
*(平成10年7月)教育課程審議会
創設の趣旨
- 各学校が、地域や学校の実態等に応じて創意工夫を生かして特色ある教育活動を展開できるような時間を確保すること。
- 自ら学び自ら考える力などの「生きる力」は、全人的な力であることを踏まえ、国際化や情報化をはじめ社会の変化に主体的に対応できる資質や能力を育成するために教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習をより円滑に実施するための時間を確保すること。
- 自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育むことを目指す今回の教育課程の基準の改善の趣旨を実現する極めて重要な役割を担うものであること。
ねらい
- 各学校の創意工夫を生かした横断的・総合的な学習や児童生徒の興味関心等に基づく学習などを通じて、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
- 情報の集め方、調べ方、まとめ方、報告や発表・討論の仕方などの学び方やものの見方を身につけること、問題の解決や探究活動に主体的創造的に取り組む態度を育成すること、自己の生き方についての自覚を深めること。
- 各教科等それぞれで身に付けられた知識や技能などが相互に関連付けられ、深められ児童生徒の中で総合的に働くようすること。
学習活動
- 具体的な学習活動としては、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、適宜学習課題や活動を設定して展開する。
- 自然体験やボランティアなどの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動などの体験的な学習、問題解決的な学習が展開されるようにする。
- 小学校において、国際理解教育の一環としての外国語会話等を行うときは、各学校の実態に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習活動が行われるようにする。
- この時間の展開に当たっては、ある時期に集中的に行うなど弾力的に設定できるようにするとともに、グループや異年齢集団による学習など多様な学習形態や、指導体制を工夫する。
- 校内にとどまらず地域の豊かな教材や学習環境を積極的に活用する。
授業時数
- 小学校 第3・4学年は年間105時間
第5・6学年は年間110時間
- 中学校 第1学年は年間70〜100時間
第2学年は年間70〜105時間
第3学年は年間70〜130時間
- 高 校 年間105ないし210単位時間
単位は3ないし6単位評価
- 教科のように試験の成績によって数値的な評価は行わない。
- 活動や学習の過程、報告書や作品、発表や討論等に見られる学習の状 況や成果などについて、児童生徒のよい点、学習に対する意欲や態度 進歩の状況などを踏まえて適切に評価する。
- 例えば、指導要録の記載は、評定は行わず、所見等を記載する。
5.小学校の年間標準時間数
( )内は現行
6.中学校の年間標準時間数
( )内は現行
(※)外国語は現在、選択教科として位置付けられており、授業時数は各学年
とも105 〜140を標準としている。7.等学校の標準単位数
8.小学校新新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
教科 社 会 理 科 生 活 内容 3・4学年
(3)地域の人々にの生活
必要な飲料水、電気、ガスの確保や廃棄物の処理について、次のことを見学したり調査したりして調べ、これらの対策や事業は地域の人々の健康な生活の維持と向上に役立っていることを考えるようにする。
ア 飲料水、電気、ガスの確保や廃棄物の処理と自分たちの生活や産業とのかかわり
イ これからの対策や事業は計画的、協力的に進められていること
6学年
ア 我が国と経済や文化等の面でつながりのが深い国の人々の生活の様子
イ 我が国の国際交流や国際協力の様子及び平和な国際社会の実現に努力している国際連合4学年B物質とエネルギー
(3)乾電池や光電池に豆電
球やモーターなどをつなぎ乾電池や光電池の動きを調べ、電気の働きについての考えをもつようにする。
ア 乾電池の数やつなぎ方を変えると、豆電球の明るさやモーターの回り方が変わること。
イ 光電池を使ってモーターを回すことなどができること
6学年B物質とエネルギー
(4)電磁石の導線に電流を流し電磁石の強さの変化を調べ、電流の働きについての考えをもつようにする。
ア 電流の流れている巻線鉄心を磁化する働きがあり、電流の向きが変わると電磁石の極が変わる。
イ 電磁石の強さは、電流の強さや導線の巻数によって変わること。(3)自分たちの生活は地域の人々や様々な場所とかかわっていることが分かり、 それらに親しみをもち人々と適切に接することや安全 に生活することができるようにする。
(4)公共物や公共施設はみんなのものであることやそれを支えている人々がいることが分かりそれらを大切にし、安全に気をつけて正しく利用することができるようにする。9.中学校新学け習指導要領におる「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
10.高等学校新学習指導要領における「エネルギーと環境」に関する内容の扱い
11. 原子力PA事業と学校教育との関係