諸外国におけるエネルギー・環境・原子力
に係る理解促進活動に関する調査
2000年5月
株式会社 三菱総合研究所
■調査の概要
- 諸外国の原子力に関する理解促進活動に関する調査を実施
- 主たる対象国:アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、(その他:スウェーデン、台湾、韓国など)
- 切り口:エネルギー・環境・原子力教育、広報活動
- 調査方法:現地ヒアリング、文献調査 など
■教育制度
- 調査対象とした各国で、教育制度などに様々な相違点(小学校、中学校などの区切りの年齢、教科書の採択制度など)などがあるものの、制度の大枠としては、日本との比較において顕著な違いはない。
- 欧米(フランスを除く)では教育の地方分権化が進んでいる。
- イギリス・アメリカ等では教育現場の教員に権限が大幅に委譲されている。
■教科書
- イギリスのように決められた教科書が存在しない国(検定などもなし)、日本のように厳しい審議に基づいて利用が許可される国、台湾のように国定の教科書を利用する国、アメリカ・ドイツのように州政府などが検定を実施する国など様々。
■教育における特徴的な取り組み(1)
●あらゆる問題には2つ以上の側面がある
- イギリス文部省では、特に科学技術教育の際の方針として「あらゆることには2つ以上の側面が存在し、両者を理解させた上で、是非の判断は子供にゆだねる」というコンセプトを強調。
- イギリスでは原子力発電の問題、遺伝子組み替え食品の問題など科学技術と社会との関わりを、上記のような文脈の中で教育していくことは非常に重要であるとの意識が強い。
- このような観点から、エネルギーに関しては、原子力、火力、自然エネルギーなどのメリット・デメリットの両者をバランスよく明確に示している教科書などが多い。このような傾向は、台湾などでも明確に見ることができる。
■教育における特徴的な取り組み(2)
●原子力教育はあらゆる面から
- ドイツ(バイエルン州)では、物理の中で原子力に係わる教育をあらゆる面から実施。具体的には、「いわゆる物理学的な原子、陽子、電子に係わる事項」、「原子エネルギーに係わる事項」、「原子力発電の仕組みとそのメリット」、「原子力発電所の事故とデメリット」、「被ばくした際の人体への影響」、「放射線モニタリング」、「医療や工業における放射線利用」、「放射性廃棄物の処理問題」などが教科書の中に記載。
●原子力教育は社会問題としての取り扱いも重要
- ドイツでは上記に加えて、「地球環境問題との関わり」、「他国の一人あたりのエネルギー消費量と自国との比較」など社会問題との関連などに関する教育も実施。
■教育における特徴的な取り組み(3)
●自ら考えるエネルギー問題
- イギリスの教科書などには、エネルギー問題に関する知識を詰め込むという思想のものより、一定の知識を与えた上で、自ら考える機会を与えるという形態をとっているものが多い。
- 「(ある一定の資料を読ませた上で、)小さいグループを作りなさい。一組は電力会社の社員、一組は原子力に批判的なNGO、一組は市役所の人の役となり、この町に原子力発電所を建設するかどうかについてグループで話し合い、話し合った結論をみんなの前で発表しなさい」「英国政府は、○○年に風力発電に○ポンドの資金を投入しています。あなたはより多くの資金を風力に費やすべきだと思いますか。理由と共に説明しなさい」「原子力発電推進と反対のポスターをそれぞれ作りなさい。その時にはあなたの意識がみんなに伝わるような工夫をしなさい」といった設問などが掲載。
- 事実に基づく判断能力の養成、自己判断に基づく発表能力の養成などに力を入れている。
■教育における特徴的な取り組み(4)
●原子力を一つのエネルギー源として教育
- アメリカでは、NEEDと呼ばれるエネルギー教育のプロジェクトが、イギリスではCREATEと呼ばれるプロジェクトが存在し、「産(エネルギー関連産業に係わらず)官(中央・地方)学(小中高大)共同」でエネルギー教育に取り組んでいる。特にアメリカでは、近代国家を支えるエネルギーに関する知識などを国民が身につけることはリテラシーであるとし、積極的な活動を展開。
*具体的には「学習目標の設定」、「教材作成・配布といった情報センター的な機能」、「企業などからの支援の受付」、「シンポジウムの開催」、「イベント開催、各種表彰」、「教育カリキュラムの作成」、「教員向け研修会」などを実施。
- これらの中での原子力の取り扱いをみると、エネルギー源の一選択肢として取り上げられているという特徴があり、産業界から参加している企業も電気事業者、石油会社、ガス会社、水道会社など様々。
■教育における特徴的な取り組み(5)
●電気事業者は積極的に教員に情報提供を実施
- インターネットなどが浸透している米国の電気事業者は、ホームページを利用した情報提供を積極的に実施。明確に「教員向け」、「子供向け」のページを構築している点は、他国の事業者にはあまり見られず特徴的。
- また、ドイツの電気事業連合会の広報を担当する組織では、エネルギー教育用の素材として、数冊にわたる非常に詳しい教育用資料などを作成し、希望のあった教員に対し有料で販売。また、同機関では学校に対するPR担当として教員経験のある職員を常時2名配備。
- フランスEDFでは、学校教員をメンバーに入れた編集員で編集されたエネルギー教育キット(テキスト、ビデオ、ポスター、カードゲームなどを含む)を配布。
■教育における特徴的な取り組み(6)
●エネルギー教育はエネルギー政策の一環として
- 台湾では、「現実認識」に重点が置かれており、若年層、つまりは将来、社会の中枢を担う人材に対して、正確なエネルギー観念を持った上での客観的、冷静な判断を求めることを大きな目標としている。このため、エネルギー教育は環境教育の一部分としてのみならず、エネルギー政策の一貫としても明確に定義されており、1996年12月に開催された国家発展委員会の重要議題としても取り上げられている。
●教員には研修会で原子力に関する情報を
- 多くの国で、教員に対する正確な情報提供を重要な課題と見なし、様々な活動が実施。中でもドイツのミュンヘン市などでは教員の参加する再教育制度(研修制度)の中に原子力発電所の見学会を組み込むなどの方策をとっている。
- 台湾では、小中学校の教員を対象としたエネルギー教育の研修会(「中・小学教師現代エネルギー(原子力)発展研究会」)が行われている。夏休みと冬休みの期間を利用して、全国各地から約1,000名の教員が参加し、6日間の研修を実施。
■教育における特徴的な取り組み(7)
●フランスではリスクに関する教育も
- 1993年にフランスの環境省、内務省、防衛庁が作成した"緊急事態における行動指針"の冊子がすべての学校に配布。また、文部省は、環境省、内務省、防衛庁とともに、"学校と大規模リスク"という資料を次のような目的のために作成し、その教育の実施の必要性を強調。"子供たちが自然環境及びリスク・危険を理解し、技術発展のインパクト、それから生じる責任と安全の問題を認識するのを助ける必要がある"。
●原子力教育は客観的に
- ドイツのシュレスビッヒ・ホールシュタイン州では、原子力に関する教育を非常に重要なテーマと位置づけ、明確にカリキュラムに記載。しかしながら、教員には原子力利用に批判的な人が増加する傾向にあり、カリキュラムの中に"原子力の問題は感情を除いて教育しなければならない"‐すなわち客観的に‐と明記。
■広報における特徴的な取り組み(1)
●マスメディア広告の効率的な活用
- マスメディアへの広告の出稿を、一般への広報手段として多用。
- 欧米では、原子力発電所の新規立地予定がなく、放射性廃棄物の処分、放射性物質輸送等が原子力に関する主たる課題となっている現状から、地域を限定した資料配付などに重点が置かれている場合が多い。
- 費用対効果の観点からテレビ広告などについては実施しない機関も散見。
- 特に、アメリカの放射性廃棄物を直轄する機関では、話題性の高さを考慮してテレビ広告を見送っている。
- ラジオ広告については、ラッシュアワー時間帯への集中的な放送により大きな効果が得られたとの報告もある。
■広報における特徴的な取り組み(2)
●報道関係者との良好な関係づくり
- 報道関係者への対応では、小規模なトラブルなどを含め、情報の公開が原則となっており、広報担当者が記者などに積極的な情報提供を行っている。
- 放送用の資料提供、防災訓練などのイベントへの報道関係者の招待なども行われている。
- オフレコによるコミュニケーションを行うなど、総じて報道関係者との良好な関係づくりに努めている機関が多い。その一方で、原子力に関するマスメディアの報道姿勢には特に注意が払われており、報道内容の追跡、媒体の特性に応じた報道対応などを行っている機関もある。
■広報における特徴的な取り組み(3)
●効果を意識した戦略的な広報活動
- 広報活動の内容を決定する際に、世論調査・アンケート調査の結果を反映したり、専門家の参画を得るなどし、効果的かつ戦略的な広報活動に努めている機関もある。
- 重点的な広報対象層の抽出・解析、適切な広報内容と広報対象に合ったアプローチの方法の検討などが、効果的な広報活動を検討する際の視点となっている。
- 広報内容に関する情報の統一に留意している機関(業界団体など)もある。
■広報における特徴的な取り組み(4)
●効率的な情報提供素材の作成
- パンフレットなどの作成に当たっては、統一的なフォーマットに基づいたテーマごとのリーフレットを作成している機関もあり、過不足のない的確な情報提供、最新情報の提供に役立っている。
●組織内を優先した情報伝達
- 広報活動は、組織の外への情報発信に注力するのが一般的であるが、組織内の従業員などへの情報伝達を優先し、組織内で正確な情報共有を徹底することを重要視している機関もある。
- 同機関では、社員への情報提供については、事前の研修において、伝達された情報を正確に認識できるよう訓練することが重要であるとし、従業員(関係会社を含む)を中心とした正確な情報に基づく口コミの広報効果を期待している。
■広報における特徴的な取り組み(5)
●リスク・コミュニケーションの重視
- 原子力発電所に関係する事故や放射線測定結果などの様々な情報を、周辺住民に積極的に提供している機関が多い。
- 広報活動においてもベネフィットだけでなく、リスクに関する情報も含めた内容としている機関もある。
- 周辺住民個人レベルでの万が一の事故に備えた緊急時対応ガイドを毎年作成し、発電所周辺住民全員に配布している機関や、政府決定に基づき周辺住民にヨード錠剤を配布している機関もある。