第Ⅰ部:世界の原子力発電開発の動向
―1999年12月31日現在―

(社)日本原子力産業会議
平成12年4月18日   

 日本原子力産業会議は毎年、世界の民生用の原子力発電所の動向調査を「世界の原子力発電開発の動向」としてとりまとめている。今回の調査は、当会議が世界31カ国・地域の72電力会社等から得たアンケートの回答などに基づき、99年末現在のデータを集計したものである。

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韓国2基、スロバキア1基が営業運転開始
 99年末現在、世界で運転中の原子力発電所は425基、合計出力は3億5942万5000kW(前回:422基・3億5849万kW)となった。建設中は49基・4356万3000kW(同46基・3806万8000kW)、計画中は40基・2741万3000kW(同46基・3448万8000kW)となった。
 99年に新たに営業運転を開始した原子力発電所は、スロバキアのモホフチェ1号機(旧ソ連型PWR=VVER、44万kW)、韓国の月城(ウォルソン)4号機(CANDU、70万kW)と蔚珍(ウルチン)4号機(PWR、100万kW)の3基。韓国は前年に続いて2基が運転中に加わり、16基・1371万6000kWとなり、設備容量ではウクライナを抜き第7位となった。
 今回の調査から、旧ソ連時代に製造された軍事用プルトニウム生産炉のうち、現在も発電炉として稼働しているトムスク4、5号機(軽水冷却黒鉛減速炉:LWGR、各10万kW)とクラスノヤルスク3号機(同)の3基を運転中の原子力発電所として集計に加えることにした。この3基は、ソ連崩壊後の米ロ合意により閉鎖される予定だったが、他のプルトニウム生産専用炉と異なり電熱併給能力を持つため民生用として利用されている。
 なお、旧ソ連では、1950年代を中心にシベリア地方にある「チェリャビンスク65」、「トムスク7」、「クラスノヤルスク26」と呼ばれる3つの秘密核都市で13基の軍事用プルトニウム生産炉が建設された。チェリャビンスクにあるマヤク1~5号機、トムスク1~3号機およびクラスノヤルスク1、2号機は92年までにすべて閉鎖された。

カザフスタン、スウェーデンで2基が閉鎖へ
 今回の調査で閉鎖を確認したのは、カザフスタンのシェフチェンコ発電所(BN-350、15万kW)、スウェーデンのバーセベック1号機(BWR、61万5000kW)の2基。旧ソ連時代に開発されたシェフチェンコは、FBR原型炉として発電だけでなく海水脱塩にも利用されていたが、出力が小さく経済性が劣っていること、またロシアからの技術支援が得られなくなったことを理由に閉鎖が決まった。唯一、運転中の原子力発電所であった同機が閉鎖し、カザフスタンが原子力発電国から外れたため、原子力発電所が稼働中の国・地域は前年から1カ国減り、31となった。バーセベック発電所の閉鎖は、スウェーデン政府の脱原子力政策にそって実現したものだが、同機を所有・運転する民間会社のシドクラフト社が、政府の提示した閉鎖条件に合意したことが決め手となった。

2基が送電開始、2基が初臨界
 スロバキアは、営業運転を開始したモホフチェ1号機に続き、同2号機(同)も12月21日に送電を開始し、2000年初めの営業運転開始をめざしている。同1、2号機は旧ソ連型PWR(VVER)を採用しているが、西側の技術を導入し改良を加えている。フランスの新型PWRであるシボー2号機(PWR、151万6000kW)も12月24日に送電を開始した。これによってフランスのN4シリーズ全4基はすべて送電を開始したことになるが、いずれも試運転中であり、正式の営業運転には至っていない。
 このほか、インドのカイガ2号機(PHWR:重水炉、22万kW)とラジャスタン3号機(同)の2基が初臨界を達成し、2000年以降の運転開始を予定している。

7基が着工、うち4基がABWR
 99年内に新たに着工したのは、日本の浜岡5号機(ABWR、138万kW)と志賀2号機(ABWR、135万8000kW)、台湾の龍門1、2号機(ABWR、各135万kW)、中国の秦山第3期2号機(CANDU、70万kW)と田湾(旧称:連雲港)1号機(PWR、100万kW)、ロシアのベロヤルスク4号機(FBR、80万kW)の7基。このうち、4基では日米が共同開発したABWRが採用されている。ロシアを除くと新規着工はアジア地域に集中している。また、日本の大間発電所(ABWR、138万3000kW)が正式に計画入りした。

電力市場自由化受け、再編が加速
 99年2月に欧州でも一部自由化がスタートするなど、電力市場の自由化は世界的な流れとなってきた。こうした中で各国の電気事業、原子力産業も再編を余儀なくされている現状が浮き彫りになった。1つの大きな特徴は、巨大電気事業者の誕生だ。米国では、統合資産が1兆円を超える合併が相次いでいる。ドイツでも、VEBA社とVIAG社、RWE社とVEW社など企業規模の拡大をめざす動きが具体化してきた。
 世界的な傾向とは言えないが、原子力発電所に対する各社の位置づけにも微妙な変化が出てきた。「1992年エネルギー政策法」の成立を契機として、電気事業の再編が本格的にスタートした米国では、96年以降、6基の原子力発電所が早期閉鎖された。市場自由化の拡大と合わせ、早期閉鎖が加速するとの見方もあったが、早期閉鎖されたのはいずれも運転実績の劣った発電所であり、99年にはそうした動きは全く見られなかった。一方で、米国では競争力のある原子力発電所の売買が活発化し、少数の電力会社や発電専門会社に性能の良い原子力発電所が次々と買収されている。また、原子力発電所の管理費の低減を目指して、電力会社をまたがる運転保守業務の統合化の動きもある。さらに運転認可(ライセンス)の60年までの延長が多数の原子力発電所で予定されており、その先陣を切って、カルバートクリフス1、2号機の運転延長が正式に認められた(2000年3月)。
 世界的に各産業の垣根が取り払われる中で、各国を代表する企業の再編が相次いでいるが、原子力発電所の発注低迷を受け、原子力関連企業の合併・買収(M&A)も勢いを増している。PWRの大手メーカーである米ウェスチングハウス社は98年に独シーメンスに火力発電部門を売却したのに続き、99年には原子力部門を英原子燃料会社(BNFL)に売却。さらにBNFLは、ABB社から原子力事業部門を買収することでも合意した。また、仏フラマトム社と独シーメンスも両者の原子力事業を統合することで合意し、2000年には新会社が設立される見通しである。

以上


添付資料:世界の原子力発電開発の動向99年の主な動き
世界の原子力発電開発の現状
地域別世界の原子力発電開発の現状
米国の電力市場自由化以降の主な動き

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本件問合せ先:日本原子力産業会議情報調査本部・内外動向グループ〔花光、窪田〕
電話03-3508-2411(代表)、-7930(直通)FAX03-3508-2094
○なお、「世界の原子力発電開発の動向-99年次報告」は5月末に刊行の予定です。