ITER-FEAT概要設計報告書国内評価報告書

 

平成12年4月6日
核 融 合 会 議
ITER/EDA技術部会

1. はじめに
1.1 経緯
 国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計(EDA)は、1992年7月より、日本、欧州連合、ロシア及び米国の4極によって実施されてきた。その目的は、重水素・三重水素(トリチウム)の制御された点火及び長時間燃焼を実証し、統合されたシステムにおいて核融合炉に不可欠の技術を実証し並びに核融合エネルギーを実用の目的で利用するために必要な高熱流束及び核工学要素の統合された試験を行うことである。
 1998年6月には、ITER最終設計報告書(ITER-FDR)が完成し、建設段階へ移行する予定であったが、参加各極の財政状況により、建設段階へ移行することが困難となった。そこで、4極(米国は1999年7月に撤退。現在は3極)は、EDAを3年間延長し、低コスト化を図るため、技術目標を再検討し、新たな技術ガイドラインを設定し、建設の実現性を高めることとした。
 この新しい技術ガイドラインに基づき、日本、欧州及びロシアの協力により作成されたITER-FEAT概要設計報告書(ITER-FEAT OUTLINE DESIGN REPORT: ODR)が2000年1月のITER会合に提出され、各極の評価に供されることとなった。核融合会議では、ITER-FEAT概要設計報告を受け、同会議下のITER/EDA技術部会において以下の文書について技術的観点からの国内評価を行うよう指示した。

- ITER-FEAT概要設計報告書(ODR)
- ITER-FEAT概要設計報告書(ODR)付属文書
- ITER技術諮問委員会(TAC)報告書

 本報告書は、当技術部会が行った国内評価の結果を取りまとめたものである。

1.2 ITER-FEAT概要設計報告書の位置づけ
 ITER-FEATは、新たに設定された技術ガイドラインに基づいて、これまでのEDA期間のR&D等で達成した技術、若しくは現在進行中のR&Dで達成されると予見される技術により設計されるものである。今回の概要設計報告書は、ITER-FEAT設計作業上の最初のマイルストーンであり、今後詳細設計を進め最終設計報告書を作成する上でベースとなるものである。

1.3 ITER-FEATの技術目標
 新しい技術ガイドラインに設定されている技術目標は以下の通りである。

(1)プラズマ性能

(2)工学性能

1.4 検討の視点
 ITER-FEAT概要設計報告書の評価を行うにあたり、ITER-FDRに関する国内評価、その後の新ガイドラインの設定等これまでの経緯を考慮して、主に以下の項目について評価を行うとともに、今後の活動の過程で明確にすべき項目についても検討した。

(1)概要設計は、技術目標を満たしているか。
(2)概要設計は、これまでに進められてきた工学R&Dや構築されつつあるデータベースに基づいた設計であるか。
(3)詳細設計に向けて留意すべき点は何か。

 

2.評価
2.1 総合評価
 当技術部会は、ITER-FEAT概要設計報告書のプラズマ性能に関しては、概ね技術目標が達成できる見通しを得られつつあると判断する。ただし、Q≧5の定常運転については現状では信頼性があるとは言えない。工学性能については、各極ホームチームで行われている工学R&Dの成果を取り入れ、技術目標である積算中性子照射量0.3MWa/m2を確保すると共に、プラズマ性能や運転シナリオと整合したものであると判断する。安全設計は、核融合固有の安全性を踏まえ、放射性物質の閉じ込め性能を確保しつつ実験装置としての柔軟性を維持することを基本としており、この原則は妥当であると判断する。コスト及びスケジュールについては、現状おおよそ妥当であると判断するが、技術目標実現の確度を落とさないようにしつつ、一層のコスト削減を目指すことを希望する。
 以上から、1.4節の検討の視点(1)と(2)を満足しており、より詳細な設計に進むベースになり得るものと評価し、今後の最終設計報告書に向けて、継続的な作業を進めることが適当であると判断する。
 また(3)の詳細設計に向けて留意すべき事項として、当技術部会の勧告を物理、工学及びその他の分野に分けて、2.2節から2.6節までに取り纏めた。当技術部会は、これらが今後の詳細設計の過程で充分考慮されることを期待する。
 なお、当技術部会は、ITER-FEAT概要設計報告書をまとめるにあたり、ITER所長、ITER共同中央チーム、各極ホームチーム及び物理専門家グループが払われた多大の努力に敬意を表す次第である。

2.2 物理分野の評価
 ITER-FEAT概要設計報告書に示されたプラズマ性能は、1.3節に示した新しい技術目標を満たすものである。ただし、Q≧5の定常運転については現状では信頼性があるとは言えない。今後さらに詳細な設計を進める過程で、プラズマ性能とこれを支えるトカマク構成機器概念との整合性について、以下の検討を実施することを期待する。

(1)運転限界

(2)閉じ込め時間比例則

(3)ELMyHモード

(4)内部輸送障壁モード

(5)磁場リップル軽減/フェライト材
 リップル磁場によるアルファ粒子損失の軽減は不可欠であり、フェライト材を用いることで、その損失を軽減するための検討が必要である。
 フェライト材の導入により、プラズマの磁気流体特性への影響(ベータ限界値やディスラプションの起こる確率を変える)が予想され、それを評価しておく必要性がある。

(6)ダイバータ機能

(7)計測・制御

(8)燃料供給/イオン密度

2.3 工学分野の評価
 プラズマの性能、運転シナリオから要求される工学機器の概念は妥当と判断される。ただし、FDRからの変更された、超伝導コイルの導体や構造及びブランケット等の主要機器の設計概念について、現在のR&Dからその成立性が保証されるかどうか記述する必要がある。
 今後、詳細設計活動に入るにあたって、各機器の通常運転状態における、また安全に係る機器に関しては異常状態をも含めた、荷重条件や材料特性を明確に記述するすると共に、設計解析の妥当性を評価する基準を明らかにする必要がある。特に、詳細設計においては、下記の事項を明確にする必要がある。

(1)プラズマ電流(17.4MA)運転の工学的制約
 ①デイスラプション条件

 標準運転(15MA)に対する垂直位置移動現象を含むプラズマ急速消滅現象のシナリオを確立する必要がある。その上で、より大きなプラズマ電流(17.4MA)を伴うパルス運転を計画するためには、どのような設計条件を適用するかを明確にすることが重要である。
 ②トカマク機器の健全性評価
 上記検討で確立された垂直位置移動現象を含むプラズマ急速消滅現象のシナリオに基づき、トカマク機器に発生する動的電磁力を系統的に評価する必要がある。特に、真空容器などの安全に係る機器に関しては、運転状態を考慮した構造評価を実施して、健全性が確保できることを明らかにする必要がある。また、トカマク機器の健全性から見た運転回数への制限についても、荷重条件、材料特性、設計基準を明確にして詳細設計を実施する必要がある。

(2)超伝導コイル
 ①トロイダルコイル支持
 巻線構造についてラジアルプレート方式と矩形巻線方式が提案されているが、比較検討を進め、設計を完結する必要がある。トロイダルコイル内側全域が完全接触するウエッジ支持構造についてトロイダルコイルの具体的な製作手順を含む設計概念の妥当性及び実現性を示す必要がある。また、現状の製作技術レベルに基づくトロイダルコイルの製作性及び組立方法を確立する必要がある。
 ②中心ソレノイドコイル
 中心ソレノイドコイルの性能と巻き線構造の実現性を、既に達成された若しくは達成される見込みの技術ベースに基づいて明らかにする必要がある。さらに、現設計の構造概念に対する技術裕度を明確にする必要がある。特に、6重パンケーキ巻き構造については、現状の製作技術レベルからの成立性を評価することが重要である。また、支持構造については、プラズマの各種先進運転要求との整合を図るとともに、運転中に予想される電磁力を含む荷重条件を明確にして、その妥当性を示す必要がある。

(3)ブランケット構造
 ITER-FEATでは、ブランケットを真空容器に直付けする構造を採用しているが、この構造における真空容器の各種運転状態での電磁力負荷、熱負荷に対する健全性を示す必要がある。また増殖ブランケットの設計概念や支持概念及び動作条件を明らかにし、応力解析を実施して、増殖ブランケットの取り付けが排除されないことを示す必要がある。

(4)ブランケット冷却流路
 真空容器内流路構成と真空容器外流路構成の2種類のオプションがあり、いずれのオプションにおいても構造の成立性を確認する必要がある。真空容器内流路構成の場合、これまで検討されてきた真空容器の構造設計基準を満足しているかを確認する必要がある。また真空容器外流路構成においては、中性子遮蔽性能、炉内構成機器との整合性及び電磁力の評価を実施して、設計基準を満たしていることを確認する必要がある。これらの詳細な解析に基づき従来の流路構成も含めた比較検討を実施して、早急にオプションを絞り込む必要がある。

(5)真空容器支持
 真空容器の支持に関し、組み立て手順を含めた検討を実施する必要がある。特に、荷重条件については、垂直位置移動現象を含むディスラプション荷重及びトロイダルコイル高速消磁時に発生する電磁力と地震力との組み合わせを含めて評価し、成立性を示す必要がある。

(6)中性子フルーエンス評価
 現設計における最大中性子フルーエンスを制限する要因の評価が必要である。また、将来、フルーエンスを上げる可能性を維持するために、増殖ブランケットの諸元と運転条件及び設計への適用性評価を行う必要がある。

(7)プラズマ対向壁材料
 プラズマ対向壁材料の検討を進め、使用条件下での性能を評価するとともに、材料中のトリチウムインベントリー評価を継続することが重要である。

2.4 安全性
 ITER-FEATの安全設計では、ITERが実験装置であること及び核融合炉の固有の安全性を考慮して、「深層防護」の原則に立脚することを基本的考えとしているが、これは妥当であると判断する。
 今後、ITERの安全規制にとって重要であるトリチウムインベントリー等のパラメータを明らかにするとともに、安全解析を進めていく過程で、その解析の妥当性を評価することが必要である。また、放射性物質に対する閉じ込め境界の健全性については、今後の設計のなかで十分に確認される必要がある。

2.5 コスト評価
 技術目標の実現性の確度を落とすことなく、ITER-FDRの建設コストを50%削減することを目指して努力することが重要である。

2.6 スケジュール
 現状スケジュールは妥当なものと判断されるので、今後の設計の進展に伴い、機器の試験や組立の検討結果がスケジュールに適切に反映され、また安全規制上の諸手続きの具体化に併せて、スケジュールに対する適切な評価が行われることが望まれる。また工学R&Dのスケジュールに関しては、その成果が今後の最終設計に反映できるよう、一層の努力が重要である。

 

3. 付帯的勧告

  • ITER-FDRとITER-FEATのガイドラインの相違による計画と装置設計に現れる相違を明確にすることが必要である。核燃焼プラズマの実現しうる運転領域や性能予測の確度に相違が現れるので、それらの評価の比較が重要である。
  • 物理の妥当性と工学の成立性の議論は共通の場で行われる必要がある。例えば、下記に示すような検討が必要であることを提言する。

     - ダイバータの排熱やアルファ灰排気の機能とプラズマ性能の両立性及びハードとしての成立性を示す必要がある。
     - 計測と制御はその妥当性が同時に示される必要がある。特に、ITER-FEATの標準運転パラメータがプラズマ運転領域の限界近くにあるので、高い信頼性をもつ制御が必要である。

    • JCTの物理チームは課題の重要性の評価について、既存のデータを活用してその基準を作成すべきである。
    • ITER-FEAT概要設計報告書国内評価報告書で提言される事項について、設計を進める過程での対応状況を、適宜当技術部会に報告するよう希望する。

     

    ITER/EDA技術部会 委員構成

    [主査]若谷 誠宏 京都大学エネルギー科学研究科 教授
    [委員]井上 信幸 京都大学エネルギー理工学研究所 所長
     伊藤 智之 九州大学応用力学研究所 炉心理工学研究センター長
     伊藤 早苗 九州大学応用力学研究所 教授
     岸本 浩 日本原子力研究所 理事
     庄子 哲雄 東北大学工学部 教授
     野田 哲二 金属材料技術研究所 企画室長
     関  昌弘 日本原子力研究所那珂研究所 ITER開発室研究主幹
     早田 邦久 日本原子力研究所東海研究所 副所長
     田中 知 東京大学大学院工学系研究科システム量子工学 教授
     苫米地 顕 (財)電力中央研究所 研究顧問
     早瀬 喜代司 電子技術総合研究所エネルギー部 総括主任研究官
     日野 友明 北海道大学工学部 教授
     藤原 正巳 核融合科学研究所 所長
     松田 慎三郎 日本原子力研究所那珂研究所 核融合工学部 部長
     宮  健三 東京大学大学院工学系研究科システム量子工学 教授