第40回原子力産業実態調査(平成10年度)報告
− 迫られる構造変化への対応 −
1.はじめに
世界的規模での規制緩和・自由化により、わが国を含めた各国の電気事業は急激な変化に直面している。今回の第40回調査では、そうした視点から、平成10年度(平成10年4月〜11年3月)に実績回答のあった民間企業419社の売上高、支出高、取扱高、従事者数を集計し、わが国の原子力産業の実態を調査した。それによると、鉱工業の原子力関係売上高が2年連続の減少となり、なかでも電気事業への納入比率が大きく低下をしてきている。一方、発電所の運転と密接な関係を持っている原子力専業の売上は安定した動きとなっている。しかし、大きなトレンドとしてみた場合、原子力産業の売上低下は否定できない。
一方で、わが国原子力産業界の輸出意欲が依然として低いという現状がアンケート調査から明らかになった。世界的に原子力開発が停滞するなか、米国、フランスに次ぐ世界第3位の規模を持つわが国の原子力発電市場に対しては海外の原子力企業も高い関心を示しており、国内市場にのみ依存してきたわが国原子力産業界は、市場構造の変化への対応を否応なく迫られている。
-
2.鉱工業の売上高
- 2年連続で大幅減少、1兆5,020億円に
平成10年度の鉱工業の原子力関係売上高は、前年度の1兆8,040億円から17%減の1兆5,020億円となり、9年度(対前年度比12%減)に続く2年連続の大幅な減少となった。
- 電気事業への売上構造の変化が顕著
電気事業への納入比率は平成5年度の78.7%を最高に、5年連続でシェアが低下し、10年度は65%となった。具体的には、過去最高を記録した5年度の1兆7,368億円(鉱工業売上全体では、4年度の2兆2,410億円が最高)から、10年度には43%減の9,821億円まで低下しており、最大の顧客である電気事業への売上減少が全体の売上高に大きく影響する構図が鮮明になった。
電気事業への売上の主要な製品である原子炉機材と発変電機器の10年度の売上高合計は3,885億円となり、過去最高を記録した5年度の1兆1,416億円と比べると、66%の大幅な減少となった。さらに、建設・土木もここ数年で大幅な減少となっており、発電所建設に関連の深い部門の売上が急激に低下している。
一方、電気事業の発電所運転に伴う支出(核燃料費と運転維持費)は、運転基数の増加とともに、ほぼ増加基調で推移してきており、10年度は過去最高の1兆3,653億円となった。これに対応する鉱工業(燃料サイクルと保守メンテナンス)の売上動向をみると、増加傾向がみられるものの、10年度は4,374億円にとどまっており、建設関連の売上減少をカバーするまでには至っていない。
従って、電気事業への鉱工業の売上高の急激な減少は、新規発電所建設の停滞にともなう電気事業の支出構造の急激な変化によるものと考えることが出来る。
- 原子力専業の売上は安定
鉱工業の主要業種の売上高推移をみると、原子力発電所建設に関係の深い機器メーカーと建設業で売上の減少傾向がはっきり現れている。一方、発電所の運転と密接な関係を持った原子力専業は安定した動きとなっている。
プラント機器メーカーの主要業種である電機・重電製造業(本調査の業種分類「電気機器製造業」と「造船造機業」をあわせたもの)の平成10年度の売上高は5,996億円であり、対前年度比25%の大幅な減少となった。過去最高の売上となった5年度の1兆1,061億円と比べると46%減で、およそ半分にまで落ち込んだ。建設業の10年度の売上高は3,375億円で、対前年度比17%減、ピークの4年度の5,958億円と比べると43%減となっている。これに対し、原子力発電所の運転と密接な関係を持った企業が多い原子力専業の10年度の売上高は、対前年度比1%減の2,153億円となり、他業種が売上を減らす中で、比較的安定した業績を示す形となっている。
また、資本金500億円以上の企業の売上が対前年度比21%減の6,984億円と、大幅に落ち込んだ。こうした企業の売上は鉱工業全売上高の46%を占めるとともに、納入先別では電気事業向けの54%、部門別では原子炉機材の79%を占めており、近年売上高の減少の著しい分野でシェアが大きいのが特徴。
3.鉱工業の受注残高
- 6%増の2兆4,135億円
平成10年度の鉱工業の受注残高(年度末現在)は2兆4,135億円で、対前年度比6%増となり、やや回復した。部門別でみると、発変電機器部門は9%の減少となっているものの、近年売上高が大幅に落ち込んでいる原子炉機材と建設・土木両部門がそれぞれ対前年度比15%、47%の増加となっており、冷え切っている発電所建設市場に若干の明るさが伺える。
業種別では、電機・重電製造業が対前年度比14%増の1兆7,956億円となったほか、建設業が同10%増の4,608億円となっており、発電所建設に関連の深い業種での改善が見受けられる。プラント運転関連企業が多い原子力専業は、217億円で微増(+3%)。
4.民間企業の設備投資と研究支出
- 電気事業の設備投資が16%減
平成10年度の電気事業支出1兆6,963億円(対前年度比1.2%減)のうち、設備投資に当たる建設費は2,642億円となり、対前年度比16%減、ピーク時(昭和58年度)と比べると69%減となった。
- 鉱工業の設備投資の中心は燃料サイクル部門
鉱工業の原子力関係支出高1兆4,268億円(対前年度比11%減)のうち、生産設備投資は前年度とほぼ同じ1,931億円であったが、燃料サイクル部門が対前年度比18%増の1,737億円を計上し、全体の90%を占めた。
- 研究支出が過去10年間で最低の水準に
平成10年度の電気事業の試験研究開発費は対前年度比10%減の362億円、一方、鉱工業の研究関係支出高は同41%減の532億円となり、どちらも過去10年間で最低となった。特に鉱工業の研究支出のうち、研究設備投資は35億円で、対前年度比84%の大幅な減少となった。
5.民間企業の原子力関係従事者
- 総従事者数、2%増の5万6,228人
平成10年度末現在の民間企業(電気事業および鉱工業)の原子力関係総従事者(技術系従事者、事務系従事者、工員・その他)は、前年度より850人(2%)増の5万6,228人であった。内訳は、電気事業が1万29人で対前年度167人減となった一方で、鉱工業が1,017人増の4万6,199人となった。また、民間の技術系従事者は対前年度529人増の3万3,795人となっている。
電気事業の技術系従事者は着実に増加してきたが、ここ数年は増加が止まり、平成8年度以降は緩やかな減少となっている。10年度は7,585人で、前年度より微減。
鉱工業の技術系従事者は、ここ10年間では平成4年度の2万9,060人をピークに、以降は年度による増減はあるものの、斬減傾向となっており、10年度は2万6,210人(対前年度比2%増)となっている。研究者は元年度には3,113人いたものが、ほぼ単調に減少し、10年度には1,846人と、10年前の59%にまで減少した。この10年間で技術者が増加した部門は、サービス部門(10年度6,813人、元年度比62%増)、RI・放射線機器部門(同1,212人、6.5倍)であり、4年度から分類を設けた廃棄物処理処分部門も、10年度には4年度比2.9倍の597人に伸びている。原子炉機器製造(10年度1,210人)、建設・土木(同1,153人)、機器据付け(同745人)の各部門は、6年度頃まで横這、以降は減少傾向となっている。すなわち、6年度頃を境に、原子力発電所建設に関わる部門での減少と、サービス、RI・放射線機器部門等で増加が起こっており、各社とも市場の動向を見据えて人員の配置を調整してきている現状が伺える。
- 優秀な技術者の確保が課題(アンケート調査から)
本調査と同時に鉱工業に対して行ったアンケート調査によると、原子力関係技術者の確保の現状に対する質問に対して、回答企業数271社の52%に当たる142社の企業が「量的な確保はできているが、優秀な人材の確保が困難である」(96社)または「質・量ともに確保が困難である」(46社)と回答しており、優秀な原子力技術者の確保という問題が浮上してきている現状が浮き彫りになった。
6.今後の見通し
- 電気事業の支出見込み、5年後は1.16倍に
平成10年度時点における電気事業の原子力関係支出見込み(アイソトープ利用費、関係機関への出資金等は含まない)は、1年後(11年度)には10年度実績(1兆6,817億円)の1.10倍に相当する1兆8,528億円、2年後(12年度)は同1.13倍(1兆8,961億円)、5年後(15年度)は同1.16倍(1兆9,553億円)と着実に増加する見通しとなっている。
- 鉱工業の支出見込み、5年後は1.13倍に
10年度時点における鉱工業の原子力関係支出見込(海外技術導入費、関係機関への出資金等は含まない)は、1年後(11年度)は対10年度実績1.03倍の1兆4,672億円、2年後(12年度)同1.01倍の1兆4,415億円へとわずかに増加したあと、5年後(15年度)には同1.13倍の1兆6,055億円に達すると見込まれており、横這いから緩やかな上昇傾向に向かうことが伺える。
- 民間企業の技術系従事者、穏やかな増加へ
民間企業(電気事業および鉱工業)の原子力関係従業者は、平成10年度実績(5万6,228人)比で1年後(11年度)1.01倍(5万6,551人)、2年後(12年度)1.01倍(5万6,992人)、さらに5年後(15年度)には1.02倍(5万7,584人)へと緩やかではあるが増員が見込まれている。
電気事業については、対10年度実績(1万29人)比で1年後には同1.01倍、2年後には同1.02倍、そして5年後には同1.05倍の1万519人へと増加する見通しとなっており、5年後には設計・建設工事部門が対10年度比1.43倍(845人→1,210人)と大幅に増員される見込みであるが、他の部門では大きな変動はない。
鉱工業の原子力関係従事者については、10年度実績(4万6,199人)比で1年後1.00倍、2年後1.01倍、5年後には1.02倍の4万7,065人となっており、こちらも緩やかな増加が見込まれている。5年後には、建設土木・工事部門(対10年度比1.11倍)と機器据付け部門(同1.16倍)、サービス部門(同1.07倍)、設計部門(同1.05倍)、核燃料サイクル機器(同1.05倍)で人員の増加が見込まれており、残りの部門は横這いとなっている。
以上
※ご質問等は下記担当までお願いいたします。
(社)日本原子力産業会議 情報調査本部内外動向調査グループ(担当:中尾、窪田)
電 話:直通03-3508-7930 代表03-3508-2411 / ファクシミリ:03-3508-2094