原子力政策円卓会議(第3回)

議 事 録


日 時 : 1996年5月31日(金)

      13:30−17:40

場 所 : 国立京都国際会議場


開  会

【伊原】  皆様、おそろいでございますので、私、原子力委員会委員長代理の伊原でございますが、原子力政策円卓会議を開催させていただきます。
 会議の開催に当たり、まず、大変ご多忙にもかかわりませずご出席いただきました皆様方に心から御礼を申し上げます。
 本来でございますと、原子力委員長の中川秀直科学技術庁長官から開会のごあいさつを行うべきところでございますが、本日、あいにく国会審議の関係で会場に参りますのがかなりおくれる予定でございます。到着次第、大臣よりまたごあいさつがあるかと思いますが、私より簡単にごあいさつを申し上げます。
 円卓会議は、今後の原子力政策に関してさまざまな分野の方々とともに議論を深める、そういうことによりまして国民的な共通認識を形成しようという場でございます。このような趣旨を踏まえまして、皆様方におかれましては、常日頃から原子力に関してお考えになっていることをご遠慮なく率直にお話しいただきたいと存じます。
 また、後半の自由討議におきましては、私どもと出席者の皆様方との直接的な議論だけではなく、出席者の皆様方の間でも議論の輪を広げていただく、そういうことによりまして全体が活発、かつ建設的な議論が行われるということを期待いたしております。
 この円卓会議はこれまで2回開かれたわけでございます。第1回会合では、円卓会議の進め方、あるいは情報公開の問題などについて意見交換が行われております。また、前回は、政策決定への市民の参加、あるいはその透明性の確保を求める意見などが出されております。この円卓会議は、議事を全面公開をする、そういう開かれた場において、参加者の皆様方から幅広くご意見を伺いまして、議論の結果、今後の原子力政策に反映すべき事項が摘出されますれば弾力的に対応していく、こういうものであります。ご意見の趣旨に沿うよう、運営面でも努力してまいります。今後とも、本会議を実りのあるものにするべく努めてまいりたいと存じております。
 また、特に今回は、会議の模様を広く国民の皆様方に見ていただく、そういうことのために、後日、通信衛星放送で放映をする、こういうことにもいたしております。
 そこで会議の進め方でございますが、議論を効果的に行うために、モデレーターの方々6名をお願いしております。そのモデレーターの方々にご分担をいただいて、議事の進行、取りまとめをお願いいたすことにしております。
 本日は3名の方々がお見えになっております。その3名の方々のお話し合いで、まず埼玉大学大学院政策科学研究科長の西野さん、それから、評論家の五代さん、このお二人に中心となって議事を進めていただく。あと、日本経済新聞社論説委員の鳥井さんには、お二人へのご支援をお願いする、こういうことにさせていただきたいと思います。
 それでは、西野さん、五代さん、どうぞよろしくお願いします。
【五代】  それでは、座ったままで失礼させていただきます。
 ただいまご紹介にあずかりました五代でございます。モデレーターという役割は、今もお話にありましたように、会議の進行を円滑に、かつ公平に進めるということにあると理解しております。
 前半は私が議事進行をいたし、後半は、先ほどお話にもありましたように、西野さんにバトンタッチをさせていただきたいと思います。
 原子力政策円卓会議の趣旨や運営に関する基本的な事項につきましては、お手元に資料を配付してございますので、ぜひご一読いただきたいと思います。
 さて、時間の関係もございますので、ごくポイントだけをかいつまんで申し上げてみますと、会議は、原子力に関する国民各界各層のさまざまな意見を原子力政策に反映することを目的としております。また、招へい者の選考は、国民各界の幅広い意見が反映できるように、性別を問わず、幅広い年齢層にわたるさまざまな分野の方をお招きしております。また、今後もお招きするつもりでおります。
 モデレーターは、参加者の意見を公平に取り上げ、円滑な議事進行に努めることを役割といたしております。なお、モデレーターも、会議において個人的な意見を述べることもございます。毎回、発言者を明記いたしまして、会議を忠実に記録した議事録を作成、公表いたします。次回以降の参考にもこの議事録はさせていただきます。
 なお、今お話がありましたように、議事の模様は録画し、公開いたします。通信衛星放送で6月9日より、これは「朝日ニュースター」でございますが、こちらで放映されます。
 それから、会議の中で、今後の原子力政策に反映すべき事項、または検討すべき事項が明らかになった場合は、関係省庁等で具体的にこれを検討するつもりでおります。この8の検討結果につきましては、理由とともにいつも会議にフィードバックすることを旨としております。
 さらに、この円卓会議では、単に原子力政策についてのご意見をお伺いするということだけでなくて、エネルギー確保の観点、あるいは世界的な視点、あるいはまた、歴史的な視点ということもあるかと存じますので、そういったさまざまな視点から原子力をめぐる幅広い議論が行われるよう、議事運営をしてまいりたいと思っております。
 また、今回を含め、当初の数回でございますが、特定の分野にとらわれない全般的な議論を行いまして、その各議論の結果を取りまとめて、次回以降の会議におきまして配付し、議論の幅を広げていきたいと思います。
 本日は、できるだけ多くの分野の方から意見を聞くということと、出席者の発言、対話の時間というものを十分に確保すること、この双方の要請を考慮いたしまして、12名の方々にご出席いただくことになりました。
 私どもモデレーターといたしましては、会議の議事運営に努めるだけではなく、議論の流れを十分踏まえつつ取りまとめをしていく努力をいたすつもりでございますので、よろしくお願いいたします。

招へい者の意見発表

【五代】  それでは、まず初めに、きょうお集まりいただいて、ご意見をいただく招へい者の方々のご紹介をさせていただきたいと思います。
 それでは、お名前をお呼びさせていただきますが、第1回からの取り決めでもございまして、このラウンドテーブルに着席された方々につきましては、先生という言葉はこの際使いませんで、すべての方々をさんづけで呼ばせていただきたいと思いますので、その旨もよろしくご了承いただきたいと思います。
 それでは、ご紹介に入りたいと思います。あいうえお順でご紹介させていただきます。
 では、まず初めに、新潟産業大学講師、福島大学名誉教授の石井澄夫さんでございます。どうぞよろしくお願い申いたします。
 続きまして、日本人間工学会名誉会長の大島正光さんでございます。よろしくお願いいたします。
 次に、科学技術ジャーナリスト、尾崎正直さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、福井県知事、栗田幸雄さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、作家の小松左京さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、東京大学教授、近藤駿介さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、福島県知事、佐藤栄佐久さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、妹島和世建築設計事務所代表、妹島和世さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、大阪大学名誉教授、日本原子力研究所先端基礎研究センター長、伊達宗行さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、関西電力株式会社取締役副社長、楢崎正博さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、「若狭の原発を案じる京都府民」、この世話人をしておられます新實美代子さんでございます。よろしくお願いいたします。
 続きまして、東京大学助教授、松井孝典さんでございます。よろしくお願いいたします。
 以上12名の招へい者の方々をご紹介いたしました。
 それでは、早速、ご意見をお伺いするわけでございますけれども、先ほどもお願いいたしましたように、ご発言に当たっては、お1人7分ということを厳守させていただきたいと思います。実は前回2回の反省に立ちまして、非常に長い方、それから、時間を守られる方と、いろいろとおられ、公平性を期すべきであるというご意見が多々寄せられましたので、今回は、大変恐縮ではございますが、時間を厳守ということをよろしくお願いいたします。後半の自由討議になるべくたくさんの時間を費やしたいと思っておりますので、できれば、前半のお話しのときにはポイントを最初に簡潔的にお話しいただきまして、後半の自由討議で十分補足していただきたい、とこのようにも考えております。
 6分経過したときには、一応こちらからお知らせを申し上げまして、大変恐縮でございますけれども、皆様のご協力をいただければ大変ありがたいと思っております。
 それでは、よろしくお願いいたします。
 先ほど、あいうえお順で最初にご紹介いたしました石井澄夫さんからお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
【石井】  始めさせていただきます。
 原子力が電力形態で利用されるようになったため、戦後の電気事業再編成で生じた電力経済構造上の変則的給電属地主義に基づく相剋性や、阻止的矛盾を増幅する方向ではなく、相互促進的な経済発展を形成し得る原子力の総合政策の確立をここに提起するものであります。
 以下、発言要旨の順で、その要点のみ申し上げます。
 原子力発電所の安全性については、我が国の原子力発電所でもしばしば事故が発生するが、それらの事故は、異常な原子核反応に基づく事故ではなく、そのいずれもが40年前の技術水準で予防し得る事故であった。東京電力、関西電力、そしてもんじゅと。
 この事故の内容から、人事管理上の欠陥が指摘できます。人事管理として、原子力発電技術を通して、人類文化に貢献するのだという誇りと使命感をもって業務を遂行せしめ、安全管理に徹底し得る人事管理を要望いたしたい。
 ここに記しませんでしたが、補足させていただきますと、今回の事故から、プルトニウムの開発研究を中止したほうがよいという意見も起きましょう。しかし、私は逆に、プルトニウム研究を積極的に前進すべきであると強調いたしたい。日本人に高度の自然科学及び技術を研究開発する資質がないわけではありません。多くの分野で優れた学術研究及び工業技術の業績を上げています。プルトニウムの分野だけ特にできないということは考えられません。優秀な能力、豊かな資質を備えた科学者、技術者の集団が組織的に、系統的に十分な討議を重ね、実験を積み上げていけば、必ず納得のできるプルトニウムからのエネルギー利用技術に関する科学技術の確立は可能であります。
 それから、いま一つの視点。国民の生命、健康の安全保障の確立を図るという視点から、研究を進めるべきであるという強い要請があります。それで、細心の注意を払って、プルトニウム研究を積極的に発展なさるよう、期待しております。
 次に、核ハイジャックへの警備対策。核ハイジャックへの万全の備えをするためにも、諸事業体、諸電力企業が、小規模な原子力発電所を各地に散在させ、建設されているのは、警備保安対策上不利なので、原子力発電所の立地上より、自然的条件の優れている箇所に発電所を大規模に集結させて建設すべきである。
 技術力の集約と規模の利益では、結論として、21世紀の原子力発電所は、現在、スケールアップされた効率の高い改良沸騰水型出力135.6万キロワット級以上の発電炉を8基ないし10基、総出力1,200万キロワット以上、柏崎刈羽原発の1.5倍程度の規模を標準として企画すべきでありましょう。今後、我が国の原子力発電所建設は、全日本的な規模で、資本力、技術力を結集して建設すべきであり、資本調達コストが高く、技術力の低い弱小電力会社の散発的な発電所建設は、これを許可すべきではありません。
 揚水式のところは飛ばしまして、三章の給電一元化・潮流主義と属地主義との確執、相剋的矛盾についてはお読みいたたきまして、5ページの一番下から、この潮流主義、属地主義のご都合主義のはざまの中で、発電に関する豊かな自然的条件を有するがゆえに、経済的に劣勢となり、苦労させられてきている新潟県、福島県が発電所建設に協力すればするほど、東京は豊富低廉な電力を使用できるのに対し、新潟県、福島県は、東京よりも高い電気料金を相変わらず負担せざるを得ない状況が続いてきております。
 昭和10年代、東北の冷害対策のため、勅令で設立された東北振興電力が開発した電力は、全国平均より30%安い料金でした。これにより、疎開を兼ねて東北地方に工場が展開しました。そのため、東北の農家は、発電所建設では人夫として働き、子供が工業学校を卒業すれば、疎開工場で工員として働くことができたため、発電所建設を感謝の気持ちで歓迎しました。戦後、只見、田子倉ダムができた際、平地がないので山にスキー場を開設したが、そのリフトを動かす電力がなく、眼前に東洋一を誇る奥只見ダムがありながら、法律上、利用できず、自家発電でリフトを動かしたいきさつがあります。
 四章では、残る課題は地域経済とのかかわりであります。電力経済におけるひずみとして、これを解決するのであれば、電気事業の再々編成であり、新潟、福島の両県における給電一元化を徹底すればよいのです。
 今回、当面の問題としての提起は、大規模原子力発電所に付随した原子力(電力)コンビナートの実現です。原子力発電所の近隣に工業団地を整備し、発電所から団地まで直接送電線を設置し、原子力発電所の発電量に比例して、一定の電力量を供給する。その単価は、発電所の直接原価計算により算出した価格とする。そうしますと、電気料金は、昭和10年代の全国平均の30%減といった程度ではなく、もっと安くなります。この政策は、内需拡大策であり、産業空洞化防止策となりましょう。要点は、地元の雇用を増加させ、発電と就労が連動し、その結果、県民所得の向上が図れるということが目的であります。
 以上、簡単な提起にとどめます。
【五代】  ありがとうございました。
 大体時間どおり、最初の方が始めていただきましたので、モデレーターとしては大変助かっております。
 それでは、引き続きまして、大島正光さん、お願いいたします。
【大島】  原子力発電所の問題を人間工学の観点から眺めますと、人と巨大な組織、あるいは設備との関係という形で眺めてみる必要があろうかと思います。
 私が私見としてその結果言えますことは、放射能問題については、非常にきちんとした方式のもとにやられている。しかしながら、果たして全体の人間とシステムとの関係、マンマシーンシステムの全般についてチェックが行われているかというと、どうも放射能という形にウエートが行き過ぎて、他のところに弱みがあるのではないか、こういうふうに考えられます。やはりマンマシーンシステム全体としては、すべての点に行き届いたチェックが行われる必要があろうかと思います。
 お手元にお配りしました要旨の中で、一つは、安全人間工学の原則が一体守られているかどうか。第二は、システム構築のあり方がきちんと原則にのっとっているかどうか。事故対策のマニュアルは十分用意されているかどうか。教育訓練に使うシミュレーターが設備され、それによって実態に近い教育訓練が行われているかどうか。また、今まで世界的に事故が起きておりますが、それらの事故を他山の石として、事故対策ということが行われているかどうか。放射能の人体への影響はどうか。マイナスの面だけに注目せず、医療の分野で使われているプラスの面にも関心を持つべきではないか、こんなふうな課題を挙げてみたわけでありますが、本日は、その中で人間工学的な事故対策という点に絞りまして、少し発言をしてみたいと思います。
 お手元に資料があるかと思いますが、第一は、マンマシーンシステムを眺めますと、情報の塊である。人間がこの情報と対決してどうするかというふうに見ることも可能であります。したがって、人間にインプットされやすい情報でなければならない。また、アウトプットには、フィードバックを与えて、確認のサインを認めさせる。これは、人間が動作をする、操作をする場合の問題であります。さらに、人間はいかにも万能の生物のように見られがちでありますが、実際にはいろいろな欠点を持っているのが実態でございます。そういう意味で、教育訓練のみですべてが片づく問題ではなく、やはり今の進んだ技術をもとに人間をバックアップすることを考えるべきではないか。それから、人間のシステムと機械のシステム、このマッチングが図られているかどうか。人間は、突如起きたことについては戸惑うことが多いわけでありますが、予測を与えるのにはどうするか。これも技術的な問題として考えるべきではないかと思います。さらに、フェールセーフ、あるいはフールプルーフ、こういう原則が、人間工学の面で言われておりますが、失敗しても安全だけは確保されるというようなシステムになっているかどうか。あるいは、ロックシステム。何か大事なことをする場合に、すぐそこに手が届くのではなくて、これでいいかどうかということを考える余裕を与える。これは、例えば高圧のところに近づく場合に、前に扉があって、それを開けないと先へ進めない、そういうことが人間への一つのチェックということになろうかと思います。また、人間が持っております錯視、錯覚、あるいは誤り、ヒューマンエラーがどういう原因で起きるのかという、これは学問的な面からのアプローチでありますが、不適応状態、これがどうすれば起きないようにできるか。あるいは、ダブルシステム。一つがだめでももう一つが有効に働くというようなダブルシステムを大事なシステムのところでは考えなければならんであろう。適当な警報システム。アポロ宇宙船の場合には、どこに故障があるか調べろという警報でなくて、何々をしなさいという警報が与えられるというようなこと。
 それらのことを考えますと、やはり原子力発電所という大きなシステムに対する人間との関係、まだまだアプローチをする必要があるように思います。
 終わります。
【五代】  ありがとうございました。
 今、大島さんのお話の中の警報システムというときに、ちょうど警報が鳴りましたので、何か申しわけないような気持ちがして伺っておりました。時間を厳守していただいてありがとうございました。
 それでは、続きまして、尾崎正直さん、お願いいたします。
【尾崎】  私はジャーナリストとして考えてみますと、もう半世紀近くやってきております。そのほとんどは新聞社で働いていたわけでございますけれども、それを終えましてからはフリーのジャーナリストとして、もちろんエネルギーだけを見てきたわけではございません。主に科学技術全般を見てきたわけでございますけれども、そのほとんどが原子力の発展の時期と一致しているわけでございます。そういう意味では、原子力というのは、私のジャーナリストとしてスタートして以来のずっと大きなテーマだったわけでございます。
 現在、エネルギー事情を考える場合に、原子力だけを考えるわけにいかないことはご存じのとおりです。考えてみますと、原子力というのは、電気の一部分を賄っているにすぎません。ただ、その率は非常に増えておりますけれども。エネルギーの王様と言いますと、何と言ってもまだ依然として石油でございます。その石油自体は、いわゆる国際石油資本、メジャー、力が衰えたとはいえ、メジャーがかなりの部分、独占しているわけでございます。そういった力関係において、これからのエネルギー、それから、国際情勢の変化も見ていかなきゃならないと思うわけでございます。
 原子力政策はエネルギー総合政策の一部である。エネルギー政策というのは、これは当然、その国々独自のものを持つべきであるし、また、一国がつくり上げた、策定したエネルギー政策に対して、他国が干渉することは、本来ならばできないはずでございます。しかしながら、原子力、石油ともに、今や一国だけのご都合で云々できるような状態じゃなくなってきたわけです。経済情勢におきましても、国際的な相互関係が深まっている情勢でございます。
 そういうことで見てみますと、原子力というのは一体、現在、先進国においてはどうなっているかと言いますと、いつの間にか、実は先進国においては、脱原子力の方向へ進んできておるわけでございます。フランスと日本だけが例外というふうな状況になっているのはご存じのとおりであります。どうしてそうなったのかという点が一つございます。
 そして、原子力を依然として欲しがっている国もたくさんございます。それはアジアに集中しております。そのアジアが原子力を欲する理由というのは、急速な経済成長を求める心と、そしてまた、人口増であります。私は、2年前と、今年もつい今月の初めまで、たまたま北京の国立大学に講義に招かれまして、家内とともに、生活者として、1カ月余りずつ、2回にわたって滞在してみる経験がございました。そういったことを後半、お話ししてみたいと思います。
 それから、実はエネルギーの中において、原子力と石油といったようなものをどういうふうにとらえるかでございますけれども、メジャーから見ますと、原子力というのは、ちょっと薬が効き過ぎてしまって、実は、敵になりつつあるんじゃないかという気がするわけでございます。すなわち原子力発電というのは、現在、世界の総発電量の17%を占めております。これをもし石油火力で賄うといたしますと、サウジアラビアの1年間の原油の生産量を上回る、随分大きな代替石油効果を発揮したわけでございます。これが実は、国際石油資本にとっては、ちょっと効き過ぎたという感じがしないでもありません。ずっとメジャーの業績はよくありませんでした。ただ、ことしの初め、第一四半期は、欧米の寒さが幸いしたか、非常に成績がよかったというデータが出ております。いずれにいたしましても、そういう力関係といったようなものも少し考えなきゃならないんじゃないか。
 実は、昨年の10月に東京で世界エネルギー会議が開かれたわけでございます。皆さん方の中にはご出席になられた方も多いかと思いますけれども、それと軌を一にするというか、その直前、私も愛読しておりますけれども、イギリスの経済雑誌の『エコノミスト』が、去年の10月8日号の巻頭論文で第二点に書きましたような、「アジアのエネルギーへの誘惑」と題する大きな記事を掲載したわけでございます。その要旨はそこに書いてございます。これは私なんかから見ますと、随分メジャー側の言い分が入っているなという気もしないわけではないわけでございますけれども、その辺、皆さん、いかがご解釈になるか、後ほどにでも議論していただきたいと思うわけでございます。
 そしてまた、アメリカが実は1974年以来、もう新規の原子炉の発注はストップしております。どうしてそんなになったのか。現在のところ、原子炉の稼働数では世界一でございますけれども、来世紀の早々にはアジア地区のほうがそれを上回るということはもうはっきりしているわけでございます。じゃあアメリカはどういうふうになっていくかというと、天然ガスへの移行というのがはっきりしておりますし、最近はメジャーも天然ガス開発に力を入れております。いわばアメリカ政府の方針とメジャーの方針というのは、どっちが先か後かわかりませんけれども、非常に軌を一にしているということが見られるわけでございます。その辺のところもひとつ、後ほど議論していただきたいと思います。
 もんじゅのことにつきまして、この京都で初めて・・・・・・、知事さんもご出席になっていらっしゃいます。ぜひ論議していただきたいんですけれども、私は、やはり「もんじゅ」の一番大きな問題は、「隠し」にあったと思うんです。外国の報道もそうしております。この「隠し」は、「もんじゅ」だけの問題じゃなくて、日本の原子力全体に対する不信感を増幅したと言わざるを得ません。
 私も現役の記者として取材した思い出があるんですけれども、ちょうど15年前、1981年の4月18日でしたか、まあ、暁の記者会見というのが通産省で行われました。そして、ヘリコプターがあの敦賀の上空を早朝から舞って、住民の人は何かわからないので大変な不安に駆られた。これは実は、日本原電の敦賀発電所から、わずかな放射能が浦底湾に流れ出て、それを福井県の衛生研究所の人たちがホンダワラから検出して、問題が大きくなった。福井県のその衛生研究所の発見がなかったら、これは、あるいは隠しおおせたのかもしれませんけれども、天網恢々疎にして漏らさずといったことでございます。そういったことをふと思い出したわけでございます。
 今度の問題においても、福井県の原子力のスタッフの方、これは非常にユニークな、また後ほど知事さんから説明があると思いますけれども、私も何人かを存じておりますけれども、あるいはこの席にもいらっしゃっているかもしれませんけど、こうした方々の活躍があったと思います。
 要するに問題は、原子力を立地している県の地方自治体の役割というのは非常に大きい。それが実は住民との信頼感を辛うじてつなぎとめる存在になっているということを強調しておきたいと思うわけでございます。
 そしてまた、これからアジア地区に原子力が増えるということは、原発先進国である、そしてまた、ノウハウをたくさん持っている日本の役割が増すということであります。しかしながら、原子力白書にもありますとおり、近年、我が国の社会においても、大学においても、過去に比べて原子力に対する魅力が薄れ、大学ばかりではなく、産業界や研究機関の人材確保に困難を生じるようになっていると、平成7年版の原子力白書は書いております。これは日本だけじゃありません。アメリカでは、既にメーカーが原子力の技術者の確保が難しい・・・・・・。みんな、まあ、逃げ出してと言ってはあれですけれども、やめざるを得なくなっている。非常に悪い例えですけれども、船が難破しようとすると真っ先にネズミが逃げ出す。そういったネズミが逃げ出すような現象が起こっては困るわけでございます。また、そういった傾向をもし日本が追認するというか、そういったことがもしわかったら、それをつなぎとめるような方法を講じることが、やはり日本の原子力政策においてまず第一点になるべきじゃないかと思うわけでございます。
【五代】  ありがとうございました。
 それでは、福井県知事、栗田幸雄さん、お願いいたします。
【栗田】  福井県知事の栗田でございます。
 この円卓会議は、先ほどの3県知事の提言を政府におきまして真摯に受けとめていただきまして設置されたものであると、このように理解をしているところでございます。橋本総理はじめ、中川科学技術庁長官、また、原子力委員の方々、モデレーターの皆様方のこれまでのご尽力に心から敬意を表するものでございます。
 初めに、科学技術庁長官、後でお見えになるようでございますが、大臣をはじめ、原子力委員、あるいはモデレーターの皆様方にぜひともお願いしておきたいことがございます。それは、この円卓会議が地元の者、あるいはまた、反対派など、いろいろな意見を単に聞きおく場で終わるのではないか、このように心配される向きもあるわけでございまして、どうかこの円卓会議で取り上げられた意見というものが、国の原子力政策に確実に反映されるように、また、必要があれば次の改訂時期にこだわることなく、原子力開発利用長期計画、いわゆる長計の見直しもぜひ行っていただきたい。このことを最初に強くお願いいたしておきます。
 さて、福井県には加圧水型軽水炉、沸騰水型軽水炉、そして、新型転換炉原型炉の「ふげん」、それに、今回、事故を起こしました高速増殖原型炉「もんじゅ」といったようなことで、いろいろなタイプの原子炉がございますし、また、古いものから最新のものまで15基の原子力発電所が立地しておりまして、我が国の原子力発電の約3割を占めております。
 運転から25年余りが経過いたしまして、この間に大きな事故もございましたし、また、県民の原子力問題に対する考え方、意識というものが大きく変化してきておりまして、原子力行政をめぐるさまざまな問題が表面化してきておるわけでございます。
 そこで、きょうは、本県が直面しております3つの課題、3つの問題に絞って発言させていただきます。
 第一に、高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故についてでございます。
 二番目には、原子力政策、特にプルサーマル計画の見直しについてでございます。
 三番目には、原子力防災特別措置法の制定など、原子力防災対策の充実について申し上げたいと存じます。
 まず最初に、今回の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故について申し上げます。
 今回の事故は、諸外国でも、高速増殖炉の開発中止等に追い込まれている原因の一つでございますナトリウムの管理というものに失敗いたしまして、我が国で初めてナトリウムが漏洩するという、「もんじゅ」の安全確保の根幹にかかわる重大な事故でございました。「もんじゅ」の存立そのものにかかわる重大な事態を引き起こした事故である、このように認識いたしております。また、今回の「もんじゅ」の事故をめぐる国、あるいは動燃事業団の対応ですが、福井県や敦賀市の事故への対応、あるいはまた、地元の住民感情とを比べますと、切迫感がない、あるいはまた緊迫感に欠けていると指摘されているわけでございますが、これは安全、安心に対する中央の感覚と地元住民の感覚との間に大きな隔たりがあるためではなかろうかと考えているところでございます。
 国家的な事業を推進するには、国民の理解、協力が不可欠でございまして、そのためには、すべての情報を積極的に開示することが重要である。それにもかかわらず、今回の国、あるいは動燃事業団の事故後の対応には、この基本認識というものに欠ける部分があったことはまことに遺憾でございます。
 また、専門家の間でどのような議論がされましても、一般の国民や県民に対して、今回の温度計部分にとどまらず、「もんじゅ」全体の安全性につきまして、大きな不安と不信というものを増大させてしまったという点は、極めて重要なことであると考えております。
 先日、科学技術庁の中間報告書が取りまとめられまして、原因は温度計さや管の設計ミスであるということがはっきりしてきたわけでございますが、たとえ放射能を含まない二次系のものであっても、ナトリウムを使用する重要な部分での単純とも言えるミスでございました。全く我々にとっては信じられないことでございまして、極めて遺憾であると考えております。したがって、温度検出器の損傷原因を究明いたしまして、再発防止策を講ずるだけでは、国民、県民の納得は得られないものと、このように考えているわけでございまして、時間と労力を惜しむことなく、想定事故の考え方を含めまして、設計思想、あるいは安全審査のあり方にまでさかのぼって、その根本的な考え方、方法、あるいは内容等について、徹底的な再検討をしていただきました。その結果を踏まえて、あらゆる角度から設備、あるいはシステム全体の総点検をしてもらわなければならない、このように考えているところでございます。
 長計の中に、高速増殖炉は、発電しながら消費した以上の核燃料を生成することができる原子炉であり、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができることから、将来的に核燃料リサイクルの中核として位置づけられるものである、そういう視点がございますが、こういった視点だけではなく、いろいろな視点から、国民的な議論を進めていただくことが必要であろう、このように考えます。
 二番目に、原子力政策、特にプルサーマル計画の見直しでございますが、先ほどの3県知事の提言は、プルトニウム利用に関する不安、あるいはバックエンド対策の見通しが明確でないため、核燃料リサイクルについては、国民全体の合意が必ずしも十分でない現状にあるとの認識から、核燃料リサイクルを中心に原子力政策の基本的な方向について、国民の合意を確認していただきたいということで提言をしたわけでございます。
 このプルサーマルの計画につきましては、本県でも、敦賀1号、美浜2号で実験的に行っておりますが、だからといって、今後、本格的な利用について、国民の合意形成がされているとは考えられないわけでございまして、そういった未解決のままである現時点において、プルサーマル計画の検討を県として進める考えは持っていないということを述べさせていただきます。
 時間がきたようでございますので、3番目の原子力防災関係につきましては、後ほどの議論の中でお話しさせていただきます。
【五代】  大変ご協力ありがとうございました。
 それでは、小松左京さん、お願いいたします。
【小松】  私、実は昭和29年11月から原子力に関係しています。まだ日本に原子力基本法が成立するかしないかの時代です。「原爆」という言葉は、実は小学校4年のときに知っていたんですが、やっぱり広島・長崎のショックから、ストックホルムハッピーへの参加というふうなことを学生時代しておりました。昭和29年、ノーチラス号の成功によって、「アトムズフォーピース」とアイゼンハワーは言いだしました。もっともその年、昭和29年3月には第五福竜丸事件が起きております。そういうこともありまして、一つは飯が食えないこともあったんですが、大学を卒業して小さな原子力経済雑誌に入りました。ですから、かれこれ30何年間、原子力には常に関心を持っておりました。
 その意味で今度の「もんじゅ」の事故は非常に残念なんです。「もんじゅ」の先行型の1つの実験炉は、「常陽」というのが、たしか昭和45年、1970年、ここがオープンしたころに設計が始まって、昭和50年、1975年に臨界に達しています。電力はわずか5万キロだったんですが、それから20年間、「常陽」はほとんど事故らしい事故は起こしておりません。それだけの堂々たる経験がありながら、今回どうして、ある意味では非常にケアレスチェックミスといっていいほど小さな設計変更がなされたのか。どうして「もんじゅ」は「常陽」のままのさや管ではいけなかったのだろうか。これは、実は調べたんですが、なかなかわからないんです。きょうの記事を見ていますと、アメリカの機械工学会の、新たに追加された液体ナトリウムに関する共振の基準を知らなかったという話がありますが、そのときになぜフォローできなかったのかということです。
 実は戦後50年たちまして、日本の本格的な産業経済システム、社会システムが昭和30年ぐらい、もはや戦後ではないと言われたころから、非常に高度成長を続けてきているんですが、あちらこちらでその当時の雰囲気の中でできてきた社会の重要なシステムのところにずっと隠れた欠陥が出てきたのだと思います。薬害エイズ事件もそうです。それからTBSのビデオの問題もそうです。同じようなことが「もんじゅ」という、言ってみれば、実用一歩手前の高速増殖炉で、しかも私は、そういうものはステンレスのパイプの溶接のところが難しいですから、てっきりそこかと思ったら、あんなに小さなところの事故がこうなってしまった。実はそういうところで社会的信用云々もそうですけれども、こういった高度先端技術というものに対して、しかもそれが我々の日常生活と非常にかかわってくる問題に関して、国及び産業界、経済界、そしてマスコミももう一度この50年間の歩みというものを、そしてその間に起こったいろいろな事故を検討してほしい。先ほどどなたかがおっしゃったように、日本はバイタルな炉心のメルトダウンなんて全然起こりませんでした。
 それがスリーマイル島ともチェルノブイリとも違います。チェルノブイリのあの事故を見たとき、私はびっくりしたんですが、ちょっとソ連というのはあるときまで人権思想というのはなかったものですから、これは無理ないかもしれない。しかし日本はそんなことはなかった。日本には平和憲法がございまして、原子力は当初から産業平和利用であり、宇宙技術も同じように軍需技術ではなくて、しっかり手を自分でしばってやってきて、これだけの成果を上げているわけです。ですから、今度の事故も、設計変更をチェックするのも、そういうふうな組織上のたるみがなかったかどうか、それをぜひしっかり検討していただきたい。そしてまた我々に教えていただきたい。ビデオなんかを隠すなんていうそんなことはぜひやらないでいただきたいと思います。
 それから、実は「もんじゅ」がいるかいらないかという問題ですけれども、先ほど言いました「常陽」のころから言いますと夢の原子炉だったわけです。使ったら使った以上の核燃料ができるという「増殖炉」になりました。私は最終的にこれをどうするのだろうと思ったのは、世界中でプルトニウムがたまってくる。これを燃料として再利用するのもいいんだけれども、燃料再処理の後のごみ、フィッションプロダクツとをどうするのだろうか。この放射性廃棄物も、まだ利用できるのではないか、と思います。70年ぐらいまでは高度成長をやりながら日本はその前の戦争のときに石油の輸出をとめられてしまったために、ほとんどヒステリックになってエネルギー資源を求めるために仏印などに行ったわけです。だんだんそういう時代ではなくなってきました。世界的に見て、完全に核ミサイル体制というのが、冷戦構造と、ソ連邦の崩壊、二大対決の崩壊によってくずれてしまいました。これはアメリカにも影響が来るでしょう。そして、同時に核弾頭の形で世界中に蓄積されているたくさんのウラン235、プルトニウム239というものを先行き人類としてどうしたらいいのか、という問題を真剣に考える必要があります。日本自身がこれから先もう一度、あの70年代の前、65年ぐらいの高度成長のときに技術と一緒になってやった長期エネルギー政策というものを、新しい状況のもとに見直す必要があるでしょう。
 そしてその後、例えばエネルギー危機が来たときに、思わぬ技術的な適応がエネルギー危機を救ったことがあります。これは私は見ていました。私の「沈没」というのは1973年ですが、12月に石油ショックがまいりました。もう日本はそのとき沈没かとみんな言って、私の本は随分売れたんですが、最後には紙の値段が上がっちゃって、売り上げがとまりました。そのとき、通産が見事だったのは、コンピューターのメインフレームをがんがん変えさせたんです。そして、このコンピューターの技術の発達がものすごい省エネと省資源、それから省力を達成しました。同じ資源を消費して、今までの何割も効率のいいことができるようになりました。
 また、核廃棄物も将来において未利用エネルギー資源の利用ということについて、夢のようなことですけれども、考えることができるかもしれません。ぜひそういうふうな、総合的な、むしろこれから先、日本が世界のIAEAの、長期原子力エネルギービジョンをリードするぐらいのつもりで、人類の将来の環境問題のためにもリードするくらいのつもりで取り組んでいただきたいと思います。
【五代】  ありがとうございました。
 それでは、近藤駿介さんお願いいたします。
【近藤】  私は2つのポイント。一つは、なぜ今、我が国にとって原子力開発利用の推進が必要かということ。それから二つ目として、今、何が問題か。これはたくさんあるわけですが、ある意味では思いつきに近いんですが、4つばかり並べてお話しいたします。
 第一は、「なぜ〜」ですが、私どもの憲法の前文を見ますと、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う」、「全世界の国民が等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と、こうしているわけです。
 そこで、今後100年程度を展望してみますと、世界の人口は大幅に増大し、この増分の多くは相対的には経済的貧困のうちに生まれてくることが多くの皆さんの予見しているところであります。しかし、また極めて明らかなことは、これらの人々が強い成長願望を有していて、これが追求されるといたしますと、世界のエネルギー需要の増大は必至である。これもまた多くの識者の語るところであります。そこで我が国は、憲法で表明した人類への連帯の確認を実行に移す観点から、この多くの人々と「持続する成長」を目指す共同事業に参加し、かつ応援していくべきと思うわけです。
 現在の主要なエネルギー源であります化石燃料資源の持つ地政学的な制約条件や地球環境保全の観点からの制約条件を念頭に置きますと、我が国は率先して、第一にはエネルギー利用効率の高い社会システムを実現する。第二として効率の高いエネルギー利用技術、それから非在来型のエネルギー技術の開発を進めて、今、述べました人類の共同事業への参加・支援の一環として、こうした技術あるいはその成果を国際社会に移転していくべきであると考えます。
 ところで、最後に申し上げました非在来型のエネルギー供給技術には、太陽、地熱、原子力があるわけですが、それぞれ大きな供給ポテンシャルを持っているわけですので、その特徴を生かしつつ開発利用を進めていく、いわゆるベストミックスを追求していくべきであると考えます。その中で原子力は、その潜在する大きな危険性を管理する知恵として生み出された深層防護の哲学−−これは厚い守りの哲学ともいいますが、この哲学のもとで環境負荷が小さく、安全性にすぐれ、他のエネルギー源に匹敵する経済性を有するエネルギー源であることが長年の実績により実証されていると考えます。また、高速増殖炉を含む核燃料リサイクル技術を実用化できれば、これが長期的にわたって人類が利用できる有力なエネルギー供給源になることもまた期待されているところです。
 我が国におきましては茨城県東海村を嚆矢として、各自治体の積極的な姿勢によりまして、さまざまな曲折はありましたが、あるいは現在もあるわけですけれども、当該地域社会の構成員として原子力施設は定着してきているというふうに判断いたします。そこで、我が国はこうした経験を踏まえて、人類が等しく安心して使えるエネルギー技術としてこの原子力を成熟させるとともに、その性能を十分に発揮させていくに必要な核燃料リサイクル技術の開発利用を積極的に進めていくべきと考えます。
 では、今、何が問題か。一つは、プルトニウム利用の継続的拡大です。ご承知のように現在既に軽水炉の中では、プルトニウムが3分の1程度のエネルギー供給を担っており、かつそれを積極的に、当初よりプルトニウムを含んだ燃料を原子炉に装荷して、これをさらに積極的に利用する試みにつきましても、福井県の敦賀市にあります「ふげん」でそうした試みが行われてきた。これはご承知のように、世界有数の実績を示している。ここで、これまでこれをめぐってのさまざまな不安感を乗り越えて、地元の方々が努力された。あるいは当然のことながらこれにかかわって、長い年月にわたってプルトニウムを含む燃料が輸送されてきたわけですけれども、それについても各自治体の方々が献身努力されたことについて敬意を表したいと思う次第であります。最近、この辺についてもいろいろご議論があることを承知しておりますけれども、国の施策というか、多分に情報管理面の問題で意見の不一致があるように伺っていますけれども、この辺は関係自治体の判断を十分尊重するということで、進められていくべきと考えているところでございます。電力業界においては今後軽水炉全般にわたってプルトニウム含有燃料を装荷することが計画されていると思いますが、私は、これは現状の原子炉技術からすると、何ら飛躍もないといって過言ではない。それがおよそ国際的な通念だとに理解しておりまして、そういう意味で不言の経験を踏まえた関係者のご尽力をお願いしたいと思っているところでございます。
 第二が、原子力安全確保努力の継続でございます。これにつきましては、よく言われるように、原子力では「人は誤り、機械は故障することあるべし」と、この認識に立ちまして、深層防護の考え方を使っているます。そして、これは炉心が溶融しても周辺での放射線被爆レベルが自然放射線レベルにとどまったという、スリーマイル島の発電所の事故あるいは、その反面教師としてのチェルノブイリの事故、こういうことでその有効性については実証されていると思うわけでありますけれども。ただ誤解されないように申し上げたいのは、この深層防護というのは我々の気がつかない誤りを修正するゆとりを我々に与えてくれる。したがって、これをもって人が油断してよろしいということではないということを運転者は常々自覚して、誤りや故障の内容を多くの人と共有して、その再発防止に常に努めていくことが、これまた深層防護の一部であるという、そういう認識が必要だということでございます。
 それから選択的不注意。これはリスクの専門家としての立場からの発言でありますけれども、例えば阪神大震災は5,000人の方が亡くなった。交通事故は毎年1万人以上の人々の命を奪っている。そうすると、およそ安全に関する関心を持つとすれば、こうしたことにこそ社会は最大限の資源を投入すべきというふうに思うわけですけれども、しかし人間はそういうふうに行動しない。これを心理学の世界ではセレクティブイナテンションという言葉で、このある意味ではアンバランスな資源配分の発生について説明するわけですけれども、民主社会におきましてこれを訂正するのは実はいわゆる議会です。議会がさまざまなビューポイントを提起して、そこで多角的な議論がなされて、資源配分のあり方が適正化されていくということで、私は国会で、原子力問題をもう少し原子力安全問題も含めて議論されることが必要だというふうに考えております。
 以上です。
【五代】  ありがとうございました。
 それでは佐藤栄佐久さん、お願いいたします。
【佐藤】  栗田知事さん、あるいは新潟県の知事さんが、前々回、地方自治体の立場をかなり組織的にお話しいただきましたし、いただけるわけでございますので、私は8年間県政を立地地域の県民の立場でいろいろ考えてまいりまして、その体験したことやら、問題意識等について、3つ4つお話を申し上げたいと思います。
 まず、福島県は水力発電所に始まって、電力の供給県でございます。そういう中で、残念ながら電力立地地域というのは大体過疎化していっておりますので、何とか振興を図らなければならない。水力発電所のところもそうでございますが、そういう考え方の中で、確かに原子力発電所の立地地域というのは県民所得も上がっておりますし、税収の増加、あるいは立地自治体の財政規模も大きくなっておりますが、ここ20年たって、ある町でこれは町の判断、町民の判断ですからよしあしは別にして、もう一つ地域があいているんで、もう一つ増設したいという話が出てまいりました。私は、これはその判断はよろしいのですが、発電所があって、事業者、あるいは国も含めてその地域の振興をもっと別な形で恒久的に、20年間だけということではなくて、恒久的な振興が図れないかということで、今、真剣に考えておるところでございます。そういう中で、一つの例で、きょうはエネルギー確保の視点からもお話をしていいという座長さんのお話でもございますので、県と地域の市町村と、それから事業者で火発を増設しようとしたときに、あるプロジェクトを組んで進めようとして、一つの振興拠点地域のプロジェクトとして掲げて電力会社さんも協力しようと、恒久的な振興策として進めていたはずなんですが、プロジェクトに乗っかって進めようとした矢先に、それが本当かどうかは別にして、建設費の1%以上は問題であるというような、これは実態はわかりませんが、そういうことでストップをされたという経緯がございますので、この辺については、やっぱりエネルギー確保ということを考える場合、本当に恒久的な地域振興策をどう考えるかを考えていかなければならないと思っています。
 それから二番目に、情報公開、あるいは連絡通報体制の問題ですが、福島県は64年1月に第二原子力発電所の3号機で事故がございました。事故そのものも大変なことでございますが、その後の経緯の中で私は基本的にここ5、6年の事業者さんのいかなる故障、どんな小さなことでもできるだけ早く連絡しようという姿勢なり考え方を十分わかっております。ただ、そこで非常に残念なのは、その後、美浜の事故を新聞で拝見し、それから「もんじゅ」の事故。事故そのものの大きさは大変な問題でございますが、その周辺の問題が、あのことが全然生かされていない。ある一事業者がやっていても、全体的に生かされていないというのは、これは諸先生方も指摘したような、どこかに体質的な欠陥があるのではないかということを感じました。水平展開という言葉があるそうでございますが、残念ながら水平展開されていないと私は判断しております。
 それから原子力発電所というのは周辺の住民にとって、あるいは立地地域の住民にとっては巨大技術でありますので、信用せざるを得ない存在なんです。信用したいし、信用せざるを得ない存在なんです。ですから、その信頼関係というのは本当に細い糸で結ばれておるんです。ですから、そこで少しでも技術的な観点から判断して、「ポーン」と住民の考えているようなことと全然違う世界の話になってしまうと、これはなかなか難しくなるわけでございます。これは住民との関係でございますが、使用済燃料のプールを広げたいという事業者の話がございました。私は、広げるのはいいけれども、いつ広げて、使用済燃料を持っていってくれるのかということをお伺いしたんですが、そのコンファームを国のほうでやってもらいたい。国がいつ持っていくということを決めてもらいたいということでお約束いただきました。しかし、1年たたないうちにその約束は反故にされたわけでございまして、これは県と国の問題でございますが、こういうことはやっぱり巨大技術で、確かに我々が立ち入る余地はないんですが、信頼関係の細い糸がそういうときにプツンと切れるということは非常に残念なことでございまして、栗田知事さんのほうからもお話があると思いますが、バックエンド対策をはっきりどうするということが国で出てこない限り、これからの信頼関係は難しくなると思います。
 最後にもう一つだけ。そういう意味で、原子力政策に対するその政策を決定するプロセス、政策をつくるプロセスの問題について、これは50年間、今と大体同じ形でやってきておられるんだと思います。委員長並びに委員の方は専門家で科学者で立派な方々ばかりでございますが、しかし、今、40年たって、ここで最高の政策決定をこの5人の方々だけで−−もちろん5人の方だけではないでしょうが−−こういう委員会でするのがいいのかどうかも含めて、この原子力政策の政策プロセスについていろいろ考え直す時期がきているのではないかと思います。
 以上です。
【五代】  ありがとうございました。
 それでは妹島さんよろしくお願いいたします。
【妹島】  建築の設計をやっております、妹島と申します。
 はっきり申し上げまして、こういうお話をいただきましたときに、大変場違いだということで、躊躇したんですが、ちょっと考えてみますと、場違いだというふうに一人一人が思ってしまうということが、今、一番状況として問題ではないかというふうに思いまして、非常に緊張して恐々ですが、出席させていただいております。
 こういうお話をいただきまして、初めて恥ずかしながらエネルギーということを意識的に考えてみますと、原子力だけを切り離していいか悪いかと考えるのは、無理なことではないかなと。そこまで私も知識がありませんし、そこから考えていくと、今、供給してくださるほうと供給してもらうほうが立場を明確に分けていて、安定に安全に供給してほしいというふうに思うし、供給をする方はそうしなければいけないというふうにわりと分かれていると思うんですけれども、そういうことがだんだんもう無理な時期にきているのではないかなというのが私の一番の実感です。簡単な趣旨のところに書きましたけれども、それはどちらかといえば専門外で、生活者の一人として、それから仕事が生活空間、いろいろなそういうスペースをつくっていくものとしてふだん感じていることなんですけれども。
 まず最初に、これは私を含めて、一人一人がエネルギーを今どのぐらい使っていて、それがどこから来て、それをどう捨てているのかということを知らないと、そのためにはこういう会議は大変有意義だと思いますが、これをもっとどんどん広げていかなくてはならないと思います。知識のない人が語ってもしようがないという面と、やっぱりみんなわからないから不安だし、わかってみればもう少し自分たちの問題として受けとめられるというところがあると思うんですけど、その辺に進めていかなければいけないだろう。といいますのは、昔にすぐ戻れるわけでもないので、単純にエネルギーを節約するということも無理であるし、一方、だんだん世の中が、どこでエネルギーを使っているのかというのがわからないようなシステムになってきていると思うんです。
 去年、ベトナムの奥地を訪ねましたときに、人がバッテリーを持ってうろうろ歩いていて、何をするのかなと思ったら、それを持っているとテレビを見れる。非常にわかりやすい社会で、バッテリーがなくなったら自分はエネルギーを使っていないということがわかるんです。けれども、私たちの空間を考えますと、例えば空調機なんかは、スイッチのオン、オフも必要なくなってきて、勝手に感知して、これが快適なスペースですよというふうにコントロールするようになっている。そうすると、何となくそのほうが一瞬快適ですから、それが当たり前になってきて、当たり前になるとどんどん次のスペースにもそういうものを要求するようになってきて、体の感覚というのが変わってきているのだと思うんです。でも、それをもう1回このあたりで考え直した上で、どこまではエネルギーとして欲しいか、そのかわりにその場合どういうものを捨てなきゃいけないかとか、何を使ってしまうかということを少しずつ使う側のほうが考えるし、その考えるに当たっての情報はいろいろオープンにしてもらうというようなことが重要であろうというふうに思っています。何か、そこら辺を少しずつ広げていかないと、いつまでたっても必要だからつくらなくてはいけない、自分の生活もこういうことが必要だから、これだけ欲しいというのがまず大前提になってしまって、そこからすべてそれをどう技術でカバーするかという話になるのだと思うんです。そっちの方向だけでずっと考えていくということがエネルギーだけじゃなくて、建築の設計でも公共建築をどういうふうにつくったらいいかということで、同じような問題が起こっているんですけれども、今、時期的にだんだん世の中が食べるのだけが精いっぱいという時代ではなくなってきたので、逆にここでみんなが話し合わなくてはいけない時期に来ているのだろうと思います。
 次に、もう少し自分の専門のことから、ふだん感じることを申し上げますと、快適にするためにどんどん器具の数なり、設備に頼ることが多くなってきてしまっているんですけれども、そこで今度は省エネルギーだということになっていまして、必ず二重サッシを公共住宅に入れようとか、そういう器具自体もネルギーが少なくて済むようなものが開発されているんですが、そこで私もよくわからないのですが、トータルに考えたときに、どれほどエネルギーを使わないという方向に行っているのだろうか。ちょっと考えますと、断熱性を高めたために、確かに負荷は少なくなるんですけれども、今度は風が入ってこないから換気も窓を開けてするんじゃなくて、換気扇でしようと。換気扇で普通に換気してしまうと、今度は熱が損だから熱交換した器具をつければいいというふうに、何というか、自分たちが一番、ちょっと不快だなというふうに感じることを避けて、どんどん設備を取り込んでいって、一つ一つの器具自体は省エネルギーであったり、環境との共生だとかというふうなことなんですけれども、それをたくさん組み合わせて使わなきゃいけない。何か重装備に向かってしまっているんじゃないか。本当にこれを省エネルギーと呼べるのだろうか。一昔前でしたら、暑い中を歩いていて、木陰を通ったときに、ちょっと日影に入って、風がふっと吹いたら、ああ気持ちいいなと喜べたような、そういうある意味で別な快適性みたいなものをどんどん捨てる方向に向かってしまっている。それはいろいろな開発の面から、使う側もそれを何となく要望しているというところがあると思うんですけれども、こういうことをきっかけに考えて、その上でエネルギー、それから原子力というふうに考えていかなくてはいけないということを一番参加させていただくときに思いました。
 ここら辺がますます広がっていって、各自がいろいろ技術の恩恵と、それから片方で、必ずどこまで自分がリスクをしょっているのかというのがわかるような状態を供給する側は、どういうふうに供給したらいいかというのを聞くと同時に伝えるということが重要かと思いました。
 これで終わらせていただきます。
【五代】  どうもありがとうございました。
 それでは伊達さん、お願いいたします。
【伊達】  私は、いわゆる原子力という言葉を聞いたときにイメージされる範囲というものが現在狭い。もっと多彩であるべきだし、実際多彩である。そういう一つの例として、原子力と基礎研究というものをご説明したいと思います。実はOHPの数をそろえてしまいましたので、司会の方には後ろで大変恐縮ではございますが、同じようなことは原稿にも書いてございます。5点申し上げたいと思っております。
 まず、実は原子力の基礎研究というのには大変不幸な出だしがあったということを申し上げたい。それを氷河期と申しておりますが、今はいわば間氷期にあるのではないか。このときに基礎研究を少し冷静に見直してほしい。現に、今、我々はそういうことをやり始めていますということであります。どんな研究が抜けているのかということ。その典型例の一つとして、中性子のお話をいたしますが、決して難しいお話ではなくて、ビジュアルなお話をしたいと思っております。最後にそういうシナリオで、これから3世紀ほど少しイメージアップしてみようということでございます。
 次をお願いします。大体基礎研究で原理的な発見がなされまして、それが実用になるまで実は非常に長い時間がかかるのが普通でございます。例えば液晶なんていうのは、今は大変有名なものですけれども、前世紀の終わりに見つけられた。それが社会との整合性を持って、今日やっとポピュラーになる。いろいろございますが省略いたします。ただ一つだけ、赤字でAと書きました。大変矢印が短い、これが原子力の不幸でございます。大体100万倍も強いエネルギーの発見でありました。これは非常に時間をかけてじっくり、半世紀から1世紀かけて研究すべき仕事量があるものなんですが、10年足らずして原爆という形で不幸なデビューをいたしました。その脇にNと書きました。これは後で申し上げます中性子であります。これもちょっとまだ早いんです。1932年。この辺、どういうことになっているか、今後どうかということを簡単に申し上げたい。
 次をお願いします。さっき、最初に不幸と申しました。その不幸というのは2つの社会的重圧という格好に言えると思います。まず最初、これは冷戦までが特にひどうございました。とにかく原子力を早く実用化しなさいと。例えば超大国では、早く、優れた原爆、水爆をつくれ、エネルギーの代替として急速に原子力の実用化をせいと、早く進められた。これが、やはり後で申しますような研究をスキップして今日に至っていると言わざるを得ないのです。現在は間氷期。このことも後で申します。この次、2050年くらいになりますと、いろいろな意味の危機。下に書きました化石燃料の問題、地球環境の問題、人口爆発の問題。こういうことで非常な困難が来ると思われます。間氷期にぜひやるべきこと。この辺のご理解もいただきたい。こういうことであります。
 次に参ります。化石燃料は一体人類にとってどの程度のものかというのをシンボリックにしました。これはアメリカの雑誌からとりましたが、エジプトの時代、5,000年くらい前から意識が向上したといたしまして、プラスマイナス5,000年とって、化石燃料を見ます。縦軸にはちゃんとアメリカ人が計算しまして、どの程度あるかという評価をしております。結論は「暗夜におけるマッチ1本ではないか」と。我々はこれをもっと重視して、後世の人達のために考えてくれと、こういうアピールでございました。
 次に参ります。来世紀、見えないところでも非常な困難が来る一例。ヘリウムガスというのがございます。これは見えないところですが、非常に重要なガスでございます。これは化石資源でございますが、これがやがて空気中からとらざるを得ないことになります。ある経済学者の評価でございますが、来世紀の途中には10倍以上のコストになるであろう。そういうふうなことが言われております。こういうふうな困難がある。しかし冷戦が終わり、現在ちょっと一息ついている、この間氷期に基礎研究をぜひやっておく。こういうことです。
 次をお願いします。ではどういう研究が欠けているのか。それはウラン・プルトニウムの実用化に走ったあまり、その周辺の物質の基礎研究が非常におくれている。それから放射線応用も非常にやられているように見えますけれども、大変限られている。その証拠の一つが、高レベル放射線廃棄物というのは見るも嫌だという社会的認識にとどまっております。かつて産業革命のときに大量の石炭が使われて、コールタールがそういう状況にあったんです。コールタールをテームズ川に流して、大非難をあびるといったようなことがあった。それが今は宝の山です。キーワードはアニリンでありました。ああいうものからとんでもないものがとれるということがわかった。これらの研究はあと50年ほどある。大体2050年には間に合うんじゃないかと。これは楽観的かもしれません。私はそう思っております。
 次をお願いします。中性子。これは、皆さんは今はあまりご存じじゃないかもしれませんが、来世紀は今のX線並みに使われるようになるんじゃないでしょうか。中性子は、実は核分裂・核融合のキーテリアルなんです。非常に優秀なテスト素子でもあります。それから水が非常によく見えるものであります。次に参ります。これは中性子を使ってごらんのユリの花を撮りました。何が見えているか。これは実は水が見えているんです。水が大変よく見えます。X線では水は非常に見えにくい。そういう意味でX線とコンプリメンタリーになります。次に参ります。これはネズミですが、ポイントは骨が見えていない。X線は骨が見えます。依然として水が見えるんです。尿が見えていたり、その他。これは来世紀の重要なものだと理解しています。次に参ります。中性子でおそらく木の文化の精密な情報、今、山内・丸山遺跡ではただ掘っておりますけれども、あれを掘る前に中性子が見たら、例えば縄を結んでいた、傷をつけていたというのまで見えるようになると思っております。
 次にまいります。透視というキーワードで見ております。今世紀、X線が大変有効でございまして、19世紀までは光だけでした。来世紀前半、中性子が1メータースケールの透視ができます。後半に来ますと中間子が見えてくる。これはキロメーターのものです。来世紀、ニュートリノ、それからその次は重力子というふうなことで、ほぼ300年ほどの展望ができるというのは、大体、現在の物理の基本的な認識です。次、一つだけ。これは、中間子で筑波山を見た例でございます。これは、今はそういうテストだけできております。上の、ごらんのように筑波山の二山がどうやら見える。しかし、これはまだまだ非常に難しい技術であります。あと100年はかかります。
 以上でございます。
【五代】  どうもありがとうございました。
 それでは楢崎正博さん、お願いいたします。
【楢崎】  大変科学的な話から現実的な話に戻して恐縮ですが、私はお手元にお配りしている発言要旨の3番目の3つ目の○から逆に3番を上に上がりまして、1番をお話しして終えることにしたいと思います。
 まず、地域社会と原子力との関係。福島県知事からもお話がございましたが、1番目は情報公開のことについて申し上げたいと思います。情報公開そのものは広報活動の原点だと思っています。たとえ不都合なことが起こりましても、正しく、また素早く公開するということが重要だと思っています。不幸にして1991年に美浜2号機で事故を発生させたわけでございますが、そのときには地元、周辺自治体をはじめ、大変ご迷惑をかけましたけれども、そのおかげで、通報体制が24時間FAXで何が起ころうともご連絡できるようにできておりますし、またそういったことのみならず、プレスに対し、国民的な理解、信頼を得るようにプレス発表をするということを重ねておりまして、平成7年度の実績では103件の発表をいたしております。どんな些細なことでも、先ほどもお話がございましたが、福井県にはすばらしい原子力安全対策課という技術集団がいらっしゃいまして、我々がご説明しただけで十分のみ込んで、それを客観的な立場で県民の方にお知らせできるという仕組みもございまして、大変その辺のところは心強く、また平素から感謝しているところです。何としても事故は事故として、社会的事件にしないようにしないといけないと思っておる次第でございます。
 二番目に申し上げたいのは、生産地と消費地との共感の問題でございます。エネルギーの消費地である大都市、私どもの場合ですと、京阪神はともいたしますとエネルギー確保の重要性について忘れてしまっている。先ほどもどなたかお話がございましたが、スイッチ一つで流れてくるものですから、この電気がどこから来るのか。目に見えないものですから、お考えになっていないきらいがある。現在福井県で、知事からお話がございましたように、私どもの総発電量の46%が発電されております。福井県はまさしく関西のエネルギー基地になっています。そのことが本当に地元にわかっていただけているのか。今、例えば北陸新幹線の計画決定。知事からいろいろともっと頑張れというご要請を受けております。あるいは高速道路の建設についても、地元の声を耳にしておりますが、そういったことを京阪神の皆さんに申し上げて、果たしてどこまで地元から世話になっているということがわかってくれているのか。実にその点については残念な思いをしているところでございます。今後とも、こうした生産地の声を関西地域に伝え、理解を得るように努力してまいりたいと思っているところでございます。
 当社といたしましては、そういう、少しでもそういったことが平素からわかっていただけるために立地地域と消費地との交流の方法としまして、一つは原子力発電所の見学に力を入れております。大体、年間にしますと平均20万人ぐらいの方がサイト、3サイト、美浜・大飯にオープンのPR館がございますけれども、いらしていただいております。特に大飯の3、4号機をつくるときに4号機のほうで、放射線管理区域を見るときに、ご婦人でも子供の方でも着がえることなしに見れるような、鉛ガラスを入れましたシースルーの設備を設けまして、大変好評を得ております。加えまして、皆様方どういうふうな会社かとお考えか知りませんが、美浜2号機で事故を起こしました蒸気発生器そのものを美浜発電所で展示いたしております。これにつきましても、そのときの各紙の新聞をセラミックで大きく拡大しまして、こういう報道をされたんだという、そして事実はこういうことなんだということを見ていただくとともに、社内でも決してこういうことを二度と起こすことがないように、社員の戒めにしている次第でございます。加えまして、大阪市内にナンコウというガスの発電所がございますが、このLNGによります発電所のPR館におきましても、美浜発電所を疑似体験できるようなコーナーを設けまして、こちらのほうは小学高学年にいらしていただきまして、次世代の教育に大変寄与していると自負いたしております。
 3つ目は、地域との共生の問題でございます。これは地域社会と原子力のうちの小さな3つ目でございますが、発電所が順調に動いておりますのは、地元の皆様のご協力のたまものと本当に感謝をいたしております。これにこたえていくように、私どもも地域の一員としてさまざまなお役に立てないかなという努力はいたしております。例えば、私どもでは現在福井事務所に美浜の事故を契機に、平成6年から役付役員を福井市に常駐させております。いろいろ知事のほうからご要請がございますし、厳しいお話も多いわけでございますが、そういったことをきっちりと受けとめ、必要なものはトップに挙げているという次第でございます。また、それぞれ原子力を動かす事務所であったものを若狭支社に変えまして、支社と3つの発電所を、小浜営業所にコミュニケーショングループというものを置きまして、地元のどんな些細なことでも声として聞いてまいるように、そして評価し、対応するようにいたしております。
 若干時間がございますので、一番目のエネルギーと原子力の問題。いろいろと原子力についてご批判もございますが、私どもの設備は、現在4,000万、ピークは3,152万でございまして−−4,000万というのは自社設備3,700万、敦賀半島等にある原電さん、その他融通他社からいただいておりますが300万、これで2%、経済は今は元気がございませんが、仮に伸びるとしますと80万、予備力を入れたら100万うちで毎年要る。全国ですと、1億7,000万ですから、340万、400万という電気が要る。これをどう確保するかというのをアジアの経済成長、あるいは次の世代のことを、地球全体のことを、先ほどマッチのようなお話がございましたが、化石燃料の問題を考えて、どうしたらいいのか。これはやはり国民として真剣に考えていかないわけにはいかない問題だと認識しておりまして、そういう視点から、先ほど申しましたように公開し、技術そのものをもっと知ってもらって、どういう点に力を入れているか、安全にやっているかということをご批判を受けながらやってまいりたいと思っている次第でございます。
【五代】  どうもありがとうございました。それでは、新實さん、お願いいたします。
【新實】  私は、「若狭の原発を案じる京都府民」の世話人をしているんですけれども、今から発言しますのは、個人的な意見でもって発言しまして、ほかの方々が考えていらっしゃるのと同じとは限りませんので、その旨よろしくお願いします。
 レジュメの後ろのほうに固めて1から4まで書いているんですけれども、まず、最初に言いたいことは、「もんじゅ」の事故が起こりまして、今調査がされておりますけれども、ほとんどさや管が問題だという結論が出て、ほかのところの調査がされているのかどうなのか、それがまず第一問題でありますけれども、その問題である調査をしている人たちが、昭和57年だったと思うんですけれども、57年のときに、「もんじゅ」の安全審査をした人たちが、現在、事故の調査をしているということで、重なっているという意味ですけれども、それで、結局、答案用紙に答えを書いて、書いた人がまた答案用紙に丸をうっているという、そんなような印象を受けるので、公正な立場で、きちっと事故の調査ができるかどうかということが非常に不安にあるわけです。そういう意味から、第三者機関という、まあ、結局公正に事故が調査できる、そういう機関をつくっていただきたいということが一つ。
 もう一つは、「若狭の原発を案ずる京都府民」は、原発に賛成の人もおりますし、反対の人もおりまして、政党も関係なく、請願活動とか、知事に要望したりとか、そういう活動をしているわけなんですけれども、私自身は、原発はこの世の中にはあってはいけないと考えているわけです。その大きな理由といいますのは、先ほどから原子力はあってもいいようなことが私の耳に入っているんですけれども、人工的な放射性物質というのは、例えばプルトニウムのようなものは、何万年もしないと半減しないとか、そういうことから言いましても、地球の生態系のサイクルの中に入れないものだと私は思います。そういった要するに人類が受け入れられないようなものを私たちが持っているという、そういうこと自体が問題だと思います。それで、ぜひこういったものは考えから外さなきゃいけないと私は思っているんです。結局、私たち大人は、これで何年かしたら死んでいってしまえばいいわけですけれども、どんどん子孫があるわけですから、その子供たちが生きていけるような地球を残さなきゃいけないと思います。そういう意味からも、原子力というのは一切やめなきゃいけないと思います。それが二つ目です。
 もう一つは、日本というのは、原子力をやめてしまっても、ほかの例えば風だとか、水だとか、自然エネルギー、地熱ですとか、ほかのエネルギーでもって発電ができると私は思うんです。といいますのは、現在、原子力の方に研究費を費やしているのが、大学なんか、そういう研究所なんかですと、九十何%という表を、私はグラフを見たことがあるんですけれども、大体その九十何%も原子力のほうに力を入れていて、自然エネルギーの開発のほうに力が入っていない。たったの4.4%という状況では、新しい自然エネルギーを見つけるのはとてもじゃないけれども、無理だと私は思います。ですから、日本がそういうエネルギーでもってやっていこうと思えばできる、そういう国だと思います。石油もありませんので、そういう方向に力を入れていただきたいということ。
 4つ目は、原子力を進めていく場合に、例えば先ほどから放射線廃棄物のこととか、労働被曝者のことはちょっと出ておりませんでしたけれども、そういった問題はあるわけです。現実にありまして、それはいまだに片づいていない問題なんですね。50年先にどうのこうのなるかもしれないという話では、私たちは納得ができないんです。50年後にできるかどうかもわからないような問題を含めたままで、みんなに知らせもせずに、ほかの何かの形では知らせてはいるのかもしれませんけれども、新聞紙上で放射線廃棄物がどうの、どれぐらい私たちが放射線廃棄物を持っているのか、これからどうなるのか、事故が起こった場合にはどんな状況になるのか。先ほどスリーマイルの話が出ましたけれども、スリーマイル島で放射能の影響がないようにおっしゃいましたけれども、そういったことを私は現地の人から聞いてみましたら、「ないということはない」、そういうふうに心得ています。
 それから、もう少しあるんですけれども、日本では経済性、経済性と言いまして、結局、経済が中心の世の中に今なっておりますね。だから、そういうことじゃなくて、これからは環境のことを考えないと、私たち人類は生き延びられないじゃないかという不安があります。そういう意味から、原子力政策を進めていく場合も、そういった自然環境保護をしている運動家の人たちも交えて、どういうふうな世の中にしていきたいか、結局、そういうことを考えなきゃいけない。
 6つ目に、最後ですけれども、この円卓会議についてですけれども、ごらんになったように、私一人、そしてもう一人女の方。結局、20人ぐらいいらっしゃるんですが、まあ、モデレーターの方は別としまして。その中に一番若いのは私です−−多分。それも40の後半なんですね。そういう面から見ても、若い人たちの意見というのは一切ないわけですね。失礼ですけれども、これから死んでいく人たち、そういう人たちの意見ばかりなんです。傍聴していらっしゃる方を見ましても、男の人ばかりですね。これはどういう結果かといいましたら、京都の新聞に一切出ていなかったんです。一般の方、要するに花屋さんであるとか、サラリーマンであるとか、もっと普通の人の意見というのがもっと入らなきゃならないと思います。というのは、こういった経済的なことばかり考えている方たちが進めていく原子力では、私たち一般人には受け入れられないと私は思います。ですから、栗田知事が「国民の合意」とかおっしゃっいましたけれども、それを得るためには、まず、みんなの意見、これからの子供たちの意見、高校生、大学生、普通の人たちの意見を聞かなきゃいけないと思います。それだけです。
【五代】  ありがとうございました。後半、自由討議がありますので、またそこでいろいろなポイントについてはお話をいただこうと思っております。大変最後になりましたけれども、松井孝典さん、よろしくお願いいたします。
【松井】  原子力に関する意見ということで、私が常日ごろ考えておりますような問題に絡めて、少し意見を述べさせていただきます。まあ、問題をどのような時空スケールで考えるかでいろいろな意見があるのは、ここまでの議論を聞いていれば大体わかるんですが、私は、個別的な問題を論じるというのは、あまり得意ではありません。従って、私のやっていることにも関係しておりますが、非常に長い、大きいスケールで問題を考えてみたいと思います。
 そうしますと、問題は、原子力と人間圏がどういう関係にあるのかということになるわけですが、現代という時代は、地球システム、あまり聞きなれないかもしれませんが、物とか、エネルギーがいろいろな構成要素の中を流れるのを、普通はシステムとして分析するのが都合がいいので、システムという言い方をするんですが、地球も一つのシステムなんですね。従って、それを構成する幾つか箱がある。その箱の一つに、人間圏という箱が生まれたというのが、現代という時代の特徴だろうと思うんですね。人類の歴史というのは500万年近くありますけれども、たかだか1万年ほど前にそういう箱が生まれたと考えられます。農耕・牧畜というのを始めたときから、物の流れあるいはエネルギーの流れとしては、地球システムの中に人間圏という箱ができたということになるわけです。ですから、今我々が考えなきゃいけないのは、地球システムの中で、安定な人間圏とはどういうものなのかということです。
 人間圏というのは、地球システムの中の箱の一つなんですが、人間圏そのものが一つのシステムにたとえられるわけでして、というのは、その内部で、物とか、エネルギーとか、物が流れているわけですね。その物を動かすのにも当然エネルギーが必要でして、まあ、原子力というのは基本的には、そういうエネルギー源として、人間圏の現状とか、未来を考えるときに、問題が浮上してくるんだろうと私自身は思っているわけです。そういう意味で、私のようなスケールで物を考えている人間にとって原子力というのは何なのか、ということになりますが、結局、原子力というのは宇宙の究極のエネルギー源なんですね。これ以外のエネルギーというのはないわけです。星の場合には核融合ですし、地球みたいな惑星というのは、実は核分裂というのがエネルギー源なんですね。先ほどから話に出ているいろいろな自然エネルギーというのも、基本的にはそういうものが形を変えているにすぎない。太陽のエネルギーというのは核融合ですし、地熱というのは核分裂ですし、風力というのは太陽のエネルギーですし、だから、これももとは核融合なわけですね。
 したがって、人間圏がエネルギーというものを必要として、どのぐらいのタイムスケールで考えるかによって、その緊急度というのが違ってきますが、そのエネルギー源をどうするかというのは、これは人間圏がエネルギーを必要としている以上、選択の問題なわけですね。その選択として、原子力を選択するのか、あるいはほかのものを選択するのかということになろうかと思います。だから、その場合、問題というのは、実は3つぐらいに整理できるかと思います。
 一つは、資源・エネルギー問題。もう一つは核廃棄物の問題。それから、もう一つの問題は、原子力発電システムそのものもそうなんですが、巨大なシステムというものをどう考えるか。この三つが問題になろうかと思います。
 資源・エネルギー問題というのを、環境問題、その他に絡めて議論するというのは、これはむしろ私が最近環境問題等でいろいろ意見を請われて、発言していることなので、改めてここで述べませんが、エネルギー問題について、ちょっと述べておきます。問題は、原子力について言えば、日本に限らず世界で原子力みたいなものが必要になるのは、結局は世界的に都市化というものが起こっているからだろうと思います。東京のような巨大都市のエネルギー源を考えると、風力とか、地熱とか、太陽エネルギーというのはとても考えられない。基本的には化石燃料を燃やすか、原子力を使うかしかないと思うんですね。ですから、都市化ということが起こらなければ、おそらく現実として、別のエネルギー源というのを今の社会システムの中に取り入れていくというのは可能だろうと思うので、問題はその点だろうと思います。
 さらにもっと個別的な問題で言えば、都市がエネルギーを必要としているのに、そのための発電所をいわゆる都市でないところにつくるというのがおそらく一番の問題なわけで、本当はそのことをきちっと考えなきゃいけないと思うんですね。どうもこういうところに出てくると、何となく暗い話ばかりで、夢がなくて、僕は非常に不思議に思うんですが、例えば都市が必要とするなら、例えば都市の地下に巨大な空間をつくって、そこに原子力発電システムというものを埋め込んでいくとか、そういった発想をしてもいいと思うんですね。今までの既存の枠の中で問題を考えていると、ここで今出ているような議論しか出てこないのかもしれないんだけれども、もうちょっと発想を変えて、建設的にいろいろ議論していくのが本当のエネルギー問題であるし、環境問題であろう、こう思うんです。核廃棄物にしても、巨大システムにしても、結局は同じ問題でして、まあ、いろいろ言いたいことはあるんですが、どうも時間が7分ということで、今、ベルが鳴りましたので、とりあえずこの辺で終わらせていただきます。最後の要望としては、原子力委員会というものがあるとしたら、やっぱり地球システムのエネルギーや物の流れの中で、問題をもっと積極的に考えていったらどうか。やっぱり夢がないと、話がどうも暗くなっていけないと思います。
【五代】  ありがとうございました。12人の方々にご意見をいただきまして、皆様、最初のお願いをよくお聞き入れいただきまして、しかも、ポイントを列挙していただきましてまことにありがとうございました。
 実は予想よりちょっと早く前半が終わりまして、むしろこの余ったというのは変な言葉ですが、15分は後半の自由討議のときに、 使わせていただきたいと思っておりますので、一応これで前半の部を終わりたいと思いますが、先ほどからちょっとくどいようで恐縮ですが、佐藤さんがお立ちになりますので、もし一言でも何かつけ加えることがあれば、改めて伺っておこうと思いますし、もし、もう何もないというのであれば、それは結構でございます。
【佐藤】  1分ぐらいで申し上げます。きょうは子供さんがいないというお話ですが、私どもは50年、100年後に責任を持って動いておりますので、そういう意味では、子供の声も代弁してきているつもりでございます。それから、バックエンド使用済燃料の問題ですね。この辺については、これは国も真剣に考えておると思いますが、事業者と都道府県、地方自治体に任さないで、基本的にしっかり考えていく。今、松井先生のほうから、例えば大都市圏の地下に、そういうものをつくってもいいのでないかという夢のあるお話も出ましたので、そういうことも含めて、やっぱり国が前面に出て、真剣に考えていく。そして、方向づけをはっきりさせるということが必要でないかと、以上です。
【五代】  ありがとうございます。皆様の、ポイントを絞ったお話が伺えたものですから、この後、15分の休憩をいただきまして、その間、モデレーターと原子力委員会のメンバーともよく話をしまして、後半どういったところに的を絞って、議論を進めていくかということを少し考えてみて、後半に臨みたいと思います。
 それでは、前半はこれにて終わりまして、後半は、西野さんにモデレーターをお引き受けいただいておりますので、後半も、どうぞよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました。(拍手)
 15分の休憩をいただきまして、3時35分にスタートいたしますので、よろしくお願いいたします。

自由討議

【西野】  前半は大変ご協力をいただきましたのに、まだ約束の35分を過ぎたにもかかわらず、何人かそろっておりませんで、モデレーターとして大変恐縮でございます。今、1分ほどお待ちいただきたいと思います。
 それでは、後半は私西野が議事の進行役を務めます。よろしくお願いをいたします。
 先ほどの議論でいろいろな問題点を提起されまして、非常に楽しく、また新鮮に聞かせていただきました。ちょっと言いわけをするわけではございませんが、お断りをいたしますと、大体4回目ぐらいまでは問題点の抽出ということを考えておりまして、いろいろな方に出ていただくということで、多少ご意見のある方をお呼びすることにしております。大変残念なことだったんですが、今週の月曜日になりまして、お一方、どちらかといいますと、原子力に反対の意見をお持ちの方が、突然どうしても出られないというようなことになりまして欠けてしまったというので、過去2回と少し構成が変わっております。
 それから、ある意味では大変厳しいご意見かという受けとめ方をしておりますが、女性や若い人が少ないということがございます。これは一番最初に申し上げましたように、お配りした中にも書いておりますが、そういう方にぜひお集まりいただきたいということを考えております。ただ、一般の人というのを今どういう形でお選びするか、数が限られておりますので、多少苦心しているところもございます。たまたま1回で言いわけになるわけではございませんが、現在考えております次回の構成を見ますと、女性が7人、男性が7人、14人お呼びするようなことになっております。1回そうなったから、女性がたくさん参画しているというわけではございませんが、次回はそうなるであろうと期待をしております。
 それから、今、モデレーターが中心になりまして、原子力委員の方ともちょっとお話をしたんですが、少なくともモデレーターと原子力の方々も含めまして、我々が今考えているときに、人類が300年とか400年で死に絶えるということは考えられない。そういうことを考えているのではなくて、人によっては、先ほどの図面ではマイナス5000年からプラス5000年という話がありましたが、「環境倫理学」というような言葉を言う人もおりまして、こういう人たちによりますと、人類の発生から10万年ぐらいの歴史があるので、やはり10万年ぐらいまでは考えなくてはいけないのではないか。それはある意味では未来というのでちょっと我々は考えにくいんですが、少なくとも数百年間で、人類が死に絶えるというような事態は避けなければならない。子孫にきちっと残すということが、こういう円卓会議のよって立つ一番の基礎であるという確認はしてまいりまして、そういうことでおそらく皆さんもお話をされているという認識でおります。
 いろいろ話題が出まして、どこかに絞ってということもなかなか難しいものですから、総括的に今、自由な討議をしていただければと思うんですが、例えばエネルギーの利用と供給、さらには環境問題。こういう問題に対して、国や地方自治体、あるいは企業、市民、それぞれがどういう役割を果たすのかというような大きなテーマをまず差し出しまして、その上で皆さんのきょうのご発言を少し深めるような形で、自由討議に入っていただければと思います。
 記録をとる関係で、お名前をおっしゃって発言をしていただきたいと思います。それから、自由な討議をできるだけ多くしたいものですから、一回の発言をできるだけ短く、要領よくお願いをしたいと思います。特にこちらから指名をいたしませんので、もしございましたら、言い足りなかったところからでも結構でございますが、どうぞ新實さん。
【新實】  先ほどちょっと言いそびれましたので言いたいんですけれども、最近は自然エネルギーという方向に向いていっている国も、アメリカとか、そういう国もあるものですから、日本もそういった方向にいけないかなという気がするので、そういう点から討論したいなと思います。
【西野】  ありがとうございます。自由な討議というので、先ほどもございましたが、招へい者の方々、いかがでございましょうか。
【楢崎】  関西電力の楢崎ですが、私どもの会社も、自然エネルギーにつきましては、太陽光、風力、燃料電池、あらゆるものを一生懸命やっておりまして、それに加えて電力を貯蔵できないかとか。だけど、残念ながら、これ、商品として扱おうと思いましたら、やっぱり料金的に安くならないと使い物にならない。現時点では、今の太陽なんかでも希薄なエネルギーでございますし、それをインバーターで直流を交流に変えるとか。風力にしましても、風況地図を見ましても、関西地域でそういう四六時中風が吹いているということもございませんので、やっぱり高くなってしまうというのが、現時点では最大10倍ではきかないんじゃないかと思います。
【栗田】  先ほど時間がありませんでしたので、ちょっと補足的にお話をさせていただきたいと思います。一つは、原子力防災対策関係・・・・・・。
【西野】  その前に、今ちょっともう一方か二方か、今自然エネルギーの話が出たものですから、もうお一方か、お二方が、この範囲の話をさせていただきたいと思うんですが、どうぞ、松井さん。
【松井】  東京大学の松井です。自然エネルギーというのはいろいろなものがあると思うんですけれども、今、関西電力の方から発言があったように、その特徴は非常に希薄なわけですね。ですから、現実的に使うとすれば、都市なんかではほとんど不可能に近いので、僕は先ほどちょっと言いかけたんですが、日本のエネルギー事情なものを考えたときに、都市のエネルギー政策と、そうでないところと分けて、例えば地方の電力会社が、例えば東京電力、関西電力と同じような発電システムとか、同じような体制でやるという理由はないと思うんですね。それぞれの地域に合った発電のシステムというものを考えていけば、今よりは、自然エネルギーを利用したようなシステムというのを構築できると思います。しかし、エネルギー問題というのは、基本的に都市のエネルギー問題というのが非常に大きい問題だろうと思うので、天然ガスを使うとかなら別ですが、太陽エネルギーとか、やれ地熱発電とかでというのは現状では難しいんじゃないかと思います。
 むしろ将来、例えば太陽光発電みたいに、地球の周りに人工衛星を並べて、太陽のエネルギーを使って発電するようなシステムを構築していくということなら、それは可能かもしれませんけれども、そういうことがない限り、都市のエネルギー源として自然エネルギーを考えるというのは、現状ではほとんど絵にかいたもちではないかと僕は思いますけどね。
【西野】  新實さんのご意見をちょっと私が代弁しますと、先ほどお聞きしていたときに、原子力というエネルギーに使うお金に比べて、自然エネルギーの開発の投資が足りないのではないか、こういうご意見だったような気がするんですが、どなたか、自然エネルギーに対する投資というのは、投資を増やしたから、例えば太陽電池の開発がさらに早まるとか、今十分に投資されているとか、そういうことのご発言は事実関係、ご存じの方。石井さん。
【石井】  石井と申します。直接的な答えでないのですが、自然エネルギーを活用するということは、やはり現在でも行われているわけで、決してゆるがせにしてはならない。ただ、新實さんのお話を現実的に考えますと、結局現在の生活水準、経済水準を極端に下げればできるんですね。ですから、私が初めて特殊講義、エネルギー商品論の講義をしました昭和46年の時に、学生に電力危機がある。夏場の甲子園の野球の時が電力ピークなので、タイムリーに放送しないで、ビデオにとって夜中に放映する。そうしないと、結局全国のクーラーと、全国のテレビでパンクしちゃうから、野球を夜中に放映してもよいだろうと聞きましたら、学生が、そんなの無茶だと一蹴されました。現実には大口電力の大工場に休んでもらってピンチを乗り越えてます。現在スポーツ熱はもっと高まっていますから、なお困難です。それで経済水準、生活水準を下げるということは容易ではないのです。この会場も、まだ外に出れば明るいわけなので、窓を開ければよいのですが、窓がない。電気を消して討論をやればいいんです。だけど、おそらくできないでしょう。そういったような面で、エネルギー需要は増えていくんですね。ですから、自然のほうも開発していますけれども、需要に追いつかないというところが現実だと思います。
【西野】  議論がつかないので、いろいろなものを先ほど申し上げましたように、4回目以降にそれぞれテーマを絞りながら議論をしていきたいというので、いろいろな絞り込みをやっているんですが。
【楢崎】  数字だけ手元にございました。電力会社とつながないと使えないので全部わかっておりますが、今全国の太陽光発電で全国の電力会社が購入しているのは6,113キロワット、1,437件でございます。ちなみに全国は1億7,000万キロワット弱というのが最大電力でございまして、それに対して、今6,100キロワット。
【西野】  もし新實さん、何かあれば・・・・・・。なければ、このままで次の話題に移りたいと思います。よろしゅうございますか。
【新實】  先ほど石井さんがおっしゃいましたけれども、今、私は寒くて上着をはおったり脱いだりしているんですけれども、大体こういう状況で生活をするというのが間違いだと思います。というのは、冬になりましたら、シャツ1枚で冷房の中で過ごしているんですよ。市役所に行ってもそうです、そんな状況をよく見ます。今、夏でちょっと暑くなりかけましたら、皆さん背広を着て、そのうちにはセーターまで着てという状況で生活をするということがむだだと思うんです。
 ですから、そういうものを減らしていく。家庭の中でもそうですけれども、そういうことをすれば、生活水準を下げるという意味でなくて、必要でない部分を削っていく。一般の家庭でもそうですけれども、トイレに電気がついていたり、それから使っていない部屋全部家中ついていたり、それを使っていないところを消せばいいわけですよ。そういうことをしていけば、今よりも使っている量を減らせると思います。だから、省エネということも考えなきゃいけないと思いますし、現実に、私がさっき言いましたように、自然エネルギーのほうの研究費が足りないという、それは確かだと思いますので、そのことも考えてほしいと。
【西野】  ありがとうございました。私、先ほどちょっと発言を間違えまして、4回目まで、いろいろな話題を抽出するための会議と位置づけをしておりまして、5回目以降、少しデータを持ちながら、テーマを絞り、議論をしていきたいと思っております。今の省エネルギーについては、例えば有名な話は、フランスですと、家に入る、あるいはホテルに入りますと、廊下に電気がつくと、30秒ぐらいで自動的に消えるというような努力をフランスはしているようでございますが、原子力を一番たくさん使っている国だからしているのかどうかは別として、そういう努力も行われているのも事実でございます。
 それでは、栗田さん、どうぞ。
【栗田】  それじゃ、先ほど時間がなくて発言できなかったものを補足させていただきます。原子力防災対策の充実の点でございますが、原子力災害は、通常の風水害とか、地震と異なりまして、放射線による被曝が、通常五感に感じられない。あるいはまた応急時の活動、事前の対策で専門的な知識が必要であるといったようなことから、極めて特殊な災害である、このように考えられます。そこで、一般の災害とは異なった対応が必要でございまして、そのため我々は災害対策基本法とは別に、国の責任を明確にした「原子力防災に係る特別措置法」を制定すべきではないかということで主張しているわけでございます。
 原子力立地関係の14道県で構成しております「原子力発電関係団体協議会」が、今年度から「原子力防災対策の充実の中」で、新たに「原子力防災に係る特別措置法」の制定を追加して、国に対して要望いたしました。今後、原子力の安全と安心を考える上で、こうした防災面での配慮というものが必要ではないか、このように考えておりまして、政府、国会、電力業界等の積極的な取り組みをお願いいたしたいというぐあいに考えております。今、国のほうで、防災訓練に必要な基準というものが明確に示されていない。地域の住民の生命、財産を預かるという立場で、県や立地の市町村が防災訓練等どのように行っていくかといったようなことも取り組んでいるわけですが、こういったことは国の責任において、明確にしていただく必要があるのではないか、このように考えております。
 それから、もう一つは、バックエンド対策の確立でございますが、四半世紀を経過してもなお未解決な課題が山積しているわけでございまして、高レベル放射線廃棄物の処分に明確な展望がありませんし、使用済燃料の第二再処理工場の計画が不透明である。あるいは、また発電所敷地内での使用済燃料の貯蔵が長期化しておりまして、その保管のあり方が明確でないといったような課題があるわけでございます。こういったバックエンド対策は、原子力エネルギーを等しく享受する国民全体の問題として取り組むべきものでございますので、国の責任において、真剣に取り組んでいただきたいというぐあいに考えております。
 そして、国民から支持される原子力行政というものをぜひお進めいただきたいということでございまして、いわゆる事故ゼロに近づける取り組みもしていただかなければならない。このことにつきまして、国並びに関係者が積極的な努力をしていただきたいと思っております。福井県には原子力発電所がたくさん立地しているわけですが、原子力発電所の立地を受け入れたために、かえってその地域のイメージを悪くしている。そして、地元が肩身の狭い思いをしなきゃならないという現状は、我々遺憾に感じているわけでございます。
 先日も、県内の市長会から、原子力発電所の安全管理に関して私に申し入れがありまして、徹底した「もんじゅ」の原因究明、その他、安全防災対策についての要望があったわけでございますが、こういった地元の声というものを、十分国において吸い上げていただきまして、安全で、安心できる県民生活を守っていただく。そのことにさらにご努力をお願いいたしたい、このように考えております。
【西野】  ありがとうございました。先ほど私が申し上げましたように、国、地方、企業、市民の役割という意味の中で、特に立地県であるというので、非常に大事なご発言だということで、いろいろなご発言をされるのを聞いておりました。ちょっと例外とさせていただきまして、ほかの方から、ぜひ一つ一つということでお願いしたいと思います。まず、今の中で、特殊な対策が必要である災害であるということで、原子力防災特別措置法というものをお願いしている。これは、ここで議論をしなくてもよろしゅうございますか、そういう発言があったということでよろしゅうございますか、特にほかの方も・・・・・・。
 それから、使用済燃料がたまっている、あるいは四半世紀たっているにもかかわらず、処分に明確な展望がないというのが問題である。これも、まあ、問題としては非常にはっきりしておりますので、そういう発言があったということで、これについて特に議論するという必要、あるいは伊原委員長代理のほうから何かございますでしょうか。
【伊原】  これは、まさにこの問題を解決しない限り、原子力の将来展望はないということは関係者一同肝に命じてわかっており、真剣な努力を積み重ねておるわけでございます。現在の政策の基本であります原子力研究開発利用長期計画においても、ある程度の展望は示されておるわけであります。非常に長期的な問題でございまして、高レベル廃棄物を実際に処分する時期が2030年代から40年代半ばという、そこまでを踏まえて基礎研究から体制整備、今真剣に取り組んでおるところでございます。詳細につきましては、必要ならばまた後からご説明申し上げますが、まさに真剣に取り組んでおるということを申し上げておきます。
【西野】  どうもありがとうございました。その次に、国民から信頼される原子力行政であるべきだというので、事故を限りなくゼロに近づけるべきであるという発言がありましたが、この辺は本当は大きな問題でございまして、今、モデレーターの意見をあまり言わないようにとしておりますが、放射能が漏れる、あるいはごく微量は別として、大量に漏れるということに対しては、少なくとも事故をゼロに限りなく近づけるという設計がされていると確信をしておりますけれども、これも議論の余地でございますが、おそらく今起こっているのは漏れないというところの事故が小さく起こっている。これが、ある意味では技術者のおごりで、そういうところで起こっても放射能とは関係がないというようなことで来たのか、それも含めてゼロにしていかないと、国民の信頼が得られないのかということは大きな問題であろうと思います。これもそういうことで、ここで取り上げるには少し大き過ぎるような気がいたしますので、1次系、2次系、あるいは発電所にある、極端に言いますと入り口の電柱のポールから始まって、全部壊れないようにするのかというような議論は、いずれしていきたいと思いますので、少し飛ばさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。
 最後に、受け入れによって肩身の狭い思いをしている。これはおそらく立地を受け入れている県の責任者として非常に肩身の狭い思いであろうと思います。これはやはり政府の広報が足りないのか、あるいは過去の、小さなといっては問題があるのかもしれませんが、どこかの軸受けがとまって、循環水が回らなくなったというようなことが原因で起こっているのか。まあ、この辺についてもございますか。あるいは、もっと広報をちゃんとやろうとか。尾崎さん、お願いいたします。
【尾崎】  ジャーナリストの尾崎です。今、知事さんがおっしゃったのは、やはり変化しつつある時代の趨勢にマッチした対策を、国が講じていないということだと思うんですね。新實さんがおっしゃった、きょうの会議に、若い人が、あるいはご婦人が全然出ていないじゃないか。これは今や若い人の意見、あるいはご婦人の意見を聞かない限り、すべての政策が、たとえ立ててもスムーズに動かないという、そういうふうに世の中が変わってきているわけなんですね。いわゆる変化しつつ情勢に遅れているのが、まあ、国の施策である、特に原子力であると言えるんじゃないかと思うんです。
 早い話が、例えばあるところへ立地しようとする。昔は、その地域のボスに話をつければそれは済んでいましたね。今はそういうボスはいなくなっています。逆に、若い人の人気とりと言っちゃいけないんですけれども、例えばこういう例が合っているかどうかはごめんなさい。例えば東京電力が、福島県に5,000人規模のサッカー場を寄附するということで−−知事さん、帰りましたけれども、全会一致でオーケーしていましたね。それに対して、東京電力の株主から、あんなことはけしからん、商法違反だという訴訟も起こったとも聞きまして、若い人たちの受けられるような施策を講じれば、まあ、それが目的ではなかったとは言い切れないかもしれませんけれども、立地もスムーズにいくというような例。すなわち、ここで我々が考えなきゃいけないのは、変化しつつある世の中に即応できるような頭の切りかえだと思うわけです。
【新實】  今おっしゃったのを聞きますと、原子力政策そのものを考えるのじゃなくて、若い人の好きなようになればいいみたいに聞こえましたけれども、そうじゃなくて、若い人は、これから本当に原子力が必要なのかどうかということを討論したいと思っていると思うんです。うちの子供でもそうですけれども、きちっと説明すれば、放射能がこれだけ残っていく、私らが電気をこれだけ使うとこれだけ残る、そういうことを言いましたら、やっぱり考えますよ、子供たちでも。ですから、そういうたぶらかしみたいなサッカー場が欲しいだの、野球場が欲しいだの、そういうものでつられるものじゃないと思います。
【尾崎】  反論です。それじゃあ、初めにモデレーターのおっしゃったエネルギーの需要と供給の問題に立ち返りたいと思います。
 新實さんがおっしゃったので、そっちへいったんですけれども、実はエネルギー、例えば電力だけに限りましても、今一番問題になっているのは、真夏のピーク時の電力の多さなんですね。真夏のある1週間程度のためにそれだけの、さらにそれを上回る電力設備を用意しておかなきゃいけない。これは電力会社にとったら大変なロスですよね。もしそのピークがもっと小さくできれば、原子力発電所をつくらなくても済むということもあり得るわけなんですね。真夜中の電力は余っているのですから、真夜中にいくら使っても有効利用なら構わないわけです。もっと絞って言えば、日本の場合、真夏のピーク時をいかに減らすかということなんです。それには省電力もあるでしょう。
 それから、先ほど自然エネルギーのことをおっしゃいましたけれども、それから、松井さんは、日本のエネルギーはすべて都市化、巨大都市のために地方を犠牲にしているというようなおっしゃり方ですけれども、例えば広瀬隆さんの新宿原発というのもそれを突いた議論だったと思うわけですけれども、これからは、できるだけ需要地で自分の電力を賄おう。ですから、分散型電源というのが今電力会社でもやっております。
 個人にとってみますと、例えば今の技術でできるということは、半導体を使った太陽光発電ですね。そして、屋根瓦になっておりますけれども、そういったもので真夏のピークをしのげば、ピーク時の電力は減らせますね。幸い関西というのはそういった技術が非常に発達しております、関西のメーカーさんね。通産省の援助もありまして、おそらく1個150万ぐらいで今年あたりはできるようになると思います。そういった巨大都市集中型の電力といったようなものから、今議論になっておりますような分散型、地域型の電力供給、需要といったものに考え方を変えていく必要はあると思います。
 そして、それに対して政府は、例えば今の太陽光発電でもそうですけれども、いろんな意味で行政的なインセンティブ、あるいは援助といったようなものに努力しなきゃいけないと思うんですね。研究費が足りないということもあるかもしれませんけど、すぐできることが今の世の中であるわけです。
【西野】  ちょっと私、最初に言い忘れたんですが、1回、2回、きょう3回目までまいりまして、実は国内問題だけではなくて、アジアの人口が今40億くらいおりまして、40億までいっていませんかね。その人口は、今、大変な勢いで経済成長しておりまして電力の需要がものすごく増えるであろう、あるいはエネルギーの需要がものすごく増えるであろうということが何回か議論になっております。つまり、国内問題だけでは済まなくて、アジア地域全体、あるいは地球全体の問題である。それから、先ほどから繰り返しておりますが、50年、100年、200年、300年の問題である。
 今の尾崎さんの発言でちょっと気になりましたのは、1週間我慢すれば今後300年後にも心配がない、こういうふうに聞こえると、そうではないのではないかという気がしたので、どなたかほかの方・・・・・・。
【尾崎】  話の筋でそうなったんですけど、私、実は、先ほども申し上げたとおり中国で生活人として暮らした経験もございますので、また機会がありましたら、その点についてもお話ししたいと思います。
【楢崎】  今、尾崎さんが提起された問題は、こと原子力といいますか、エネルギーの問題については、どれだけ勉強したか、原子力というのはどういう仕組みで発電されているのか。藤家先生のお話を聞いた人、聞かない人で全然反応が違ってくると思うんですね。したがって、尾崎さんはマスコミのご出身のようでございますけれども、我々のような企業とか動燃事業団さんがおやりになることについては、誤りは記事化されますけれども、前向きに科学者が一生懸命取り組んでやっていることはなかなか国民に伝わらないという、そこの教育の問題というのはどうお考えなのか、ご高見あらば伺いたいと思うんです。
【西野】  今の件については近藤さんが今朝方触れられたような気がするんですが、例えばデータを申し上げますと、中国が今11億人ぐらいで、1人当たりの年収が米ドルで220ドルぐらいです。年間平均の成長率が7%から8%、10%近く今後続くであろう。日本の数字が1億2,000万で、米ドルで3万ドル。中国が日本と同じ生活をするようなことは、そんなに近々はないと思うんですが、ちょっと考えると気持ちが悪くなるというような数字もございます。近藤さん、いかがでしょうか。
【近藤】  おっしゃるとおりというか、つまり、例えばWHOの世界人口動態予測というものを信じれば、つい最近もたしかテレビで何か数字が出ていましたけれども、例えば2015年で70億で、2050年で大体100億かと、そういう数字があり、したがって90年で53億ですから、あと50年で倍増かと。したがって、1.4キロワット年という現在の世界の平均水準の一人当たりのエネルギー消費量を維持するとしても、大体倍の消費量になる。
 私はそうすべきだと思いますけれども、現在のデータによりますと、毎年、世界の平均的なエネルギー利用効率、1単位の経済生産に要するエネルギーの量は1%程度下がっていますから、これが今後続くと、続くように努力するとすれば、人口が倍になってもエネルギー消費が倍にならないわけですが、そういうことを考え合わせましても、しかし、生活水準の向上もあるとすれば、おそらく2050年には2倍弱ぐらいのエネルギー需要になるわけですね。
 問題は、したがって私が最初に申し上げましたようにその人類全体の問題を分かち合うとして、長期的観点から我々は何をすべきかということです。私の提案は、一つは、エネルギー利用効率のいい社会を率先して追求していく。少なくとも我々はオイルショックの時代に高い水準のエネルギー効率の向上、年間2.3%というエネルギー効率の向上を10年にわたって達成したという実績があるわけですから、我々の英知をもってすれば、これをさらに進めていくことは不可能ではないと考えるべきで、少なくとも今後2%程度のエネルギー利用効率の向上を追求すべきであり、しかも、これからキャッチアップしてくる国々に、そうしたエネルギー効率のいいシステムをなるべく優先的にトランスファーしていくということ、あるいは共同開発してもいいと思いますけれども、そういうことがまず第一。
 第二は、大きな制約としての環境制約をどうクリアするかということで、環境にやさしいエネルギー供給システムを構築していく。それが、先ほど非在来型のエネルギーの割合を増やしていくべきと申し上げたことの意味はわけですけれども、そういう努力を引き続き行っていくべきだと。
 長期的に見ると、そういうキーになる技術は、いろんな方と議論してもそう変わらない。だから、そういうものについて、あとはだれがどれだけの努力を払っていくか、日本はどこかへ特化していくべきなのか−−日本は自然エネルギーだけ、あるいは原子力だけやればいいという議論もあるかもしれません。しかし、日本が今持っている技術のスペクトラムを見る限りにおいては、もっと総合的に、少なくとも原子力だけやればいいとは決して思わない。原子力もしょせん人間のための原子力、エネルギーのための原子力であって、原子力のための原子力じゃないのですから、エネルギー供給の確保に貢献するという意味で、今考えるべきは、自然エネルギー、原子力、それから効率向上、この3本柱に十分な資源を投入して開発していくことだというふうに考えます。
【西野】  省資源の話が出たんですが、新實さん。
【新實】  今聞いていますと、メリットのあるほうが語られたように思うんですね。私は、いつも、万一何かあった場合には人類は終わりというふうな考えを持っていますから、だから、デメリットのほうを皆さんにもお知らせしてほしいと思います。原子力を進めると、どういう悪いことがあるか。
【近藤】  おっしゃることは私もよくわかりますし、私どもも常にデメリットを合わせ伝えるわけですけれども、自然エネルギーの方は自然エネルギーのデメリットについてあまりおっしゃらないんで、そこは若干不思議なんですけれども、しかし、大事なことは、もう一つ全然違った話をいたしますが、人々が一日に食する肉の量−−それを国によって整理します。それから、当該国の肉に関するガン、直腸ガン系統のガンの発生率を整理しますと、実に見事な曲線が引ける。これは『サイエンス・アメリカン』等に出ているわけです。
 肉の摂取量、例えば日本とニュージーランドでは5倍ぐらい違うわけですけれども、ニュージーランドの肉の摂取に伴うガンの発生率と、我々が放射線を規制しているガンのリスク、そのレベルと比べますと、実はニュージーランドのガンの発生率のほうが高いんですね。
 何を申し上げたいかというと、デメリットの指摘は大事なんですが、公衆安全の問題なのですからトータルに議論することが大事だということです。人間活動の中にはさまざまなデメリット、私の専門分野の用語で言えばリスクなんですけれども、生命・財産にかかわるリスクがさまざまにある。そのトータル・スペクトラムをいつもポケットに持っていて、その上で、今度はどのリスクを減らそうか、どこに投資をしようか、ということについて国民的合意をする。これが本来国会における安全に関する議論の役割だと思います。憲法25条は、第2項で安全向上に政府は努めることを求めているわけですけれども、それにかかわるトータルな議論が国会という場でなされていないことを私は残念だと思っています。
【西野】  近藤さんの今のトータルの安全の話は、先ほど申されたのも記録にとってありまして、メモに、後ほど自由討論のテーマに取り上げたいと思うんですが、今とりあえず近藤さんから、2%とか1%とか省エネルギーの話が出た。妹島さんが午前中にそのことをちょっと言われたような気がするので、あるいは一人当たりのエネルギーの消費量、ちょっと何かございませんでしょうか。
【妹島】  ちょっと離れちゃうかもしれない。近藤がおっしゃることも、あるところではよくわかるんですけれども、効率のよいエネルギー、非常にわかりやすく言っていただくと、今、私がむしろ思うのは、先ほどほかの方からもちょっと意見が出ましたけれども、時代が変わっていて、何が効率がいいか、メリット、デメリットというのも、何がメリットでデメリットか、それ自体が変わってきていると思うんですね。
 例えば建築の例でいいますと、できるだけ速く上がるエレベーターを考えていった。高いところに速く上がれるようになったときに、体がそれについていかないで、上がっちゃったら、今度、1回もとに戻すための装置がもう1個要るなというような話を身近で−−実現するものというよりは、これからのことを考えているときにそういうのが出てきたんですけれども、だから、効率のよいことと、それを直接考えると、近藤さんがおっしゃられた、ただトータルに考えてみるということは、ちょっとバッティングしているようにも私としては受けとれて、そこから考えると、その前に教育の話というのが出てきたと思うんですけれども、いろんな知る努力を、一般のって私も含めて、みんなしていない。それから、知らせようとする努力もなくて、それで、今、全く自然エネルギーだけで都市部を賄うのは、例えば数少ない例では、太陽を取り入れようとか、風力をやろうとしたときに、結局、お金がかかってしまってどうやってもできないというようなことを計画段階で経験したことがあるんですけれども、それでもみんながいいと言えば、ものすごい高いコストをそれに払って、そのかわりにそういうものを得るかどうかというふうな話になってくるだろう。
 そうすると、今、私が、例えば普通の生活者として知りたいのは、専門家の方々が、例えばいろんな視点に立って、こういうことをしてみたらこういうふうな生活になるけど、どうかとか、一人の方がつくると、やっぱりなくちゃだめという前提だったりということになると思うんですけど、いろんな視点から、いろんな専門の人が、こうなったらこうなるんじゃないかというのをみんなに知らせるというか、そういうものがあると、わりとフランクに話しやすいかなと。
 今回これに出席するに当たりまして、エネルギーの小冊子みたいのをいただいて、見ているとすごくおもしろいんですね。私の勉強不足だったんですけれども、ああ、こんななんだなということを自然と見ていけるので、そういう教育といいますか、知らせるというか、そういうことをまず進めていったらいいのではないかなと思います。
【西野】  今、安全といいますか、メリットとデメリットという話が出ておりました。おそらく原子力の一つの問題というのは、デメリットの一番大きいところに安全問題があるのだろうと思うんですね。それがあるのですが、ちょっと置きまして、その前にもうお一、二方、安全とか、デメリットとかメリットということで・・・・・・。
【藤家】  先ほど楢崎さんから私の名前が出ましたので、少しお話ししておきたいと思いますが、私は科学技術の目指す世界というのが変わってきて、利用から調和へと研究開発の理念が変わっているという認識を我々はすべきだという気がしております。したがいまして、原子力を取り上げるときも、これが自然環境と調和できるのか、あるいは人類社会と調和できるのか、それが利用に先立って検討すべきことだろうと思っております。
 幸いきょうは伊達さんと松井さんが来ておられて、自然との関連が大分明らかになったと思います。先回、私、こういう議論をいつかしたらということをお話ししたんですが、きょうはさらに栗田さんと佐藤さんという知事の方がお二人おいでになって、まさに社会環境、特に地点との関係をお話しいただいたと思います。
 明らかにエネルギー問題だけで原子力が社会環境と調和するとは私はとても思いません。かつては原子力が地域に向かって情報を発信し、原子力、その必要性と安全性ということで立地をお願いしてきたわけでありますけれども、時代の変化は、明らかに社会参加をどうするかということを皆さんがそれぞれに考え始められ、実にそれを実行されている段階でありますから、まさに地方が原子力を見る時代。私は、これを10年ぐらい前からお話ししているところでありまして、まさに地域が原子力をみずからのものとしてこれを受けとめるためには、原子力発電といういわば無機質で、非日常的なものをそれだけで受けとめるのは相当難しいだろう。むしろ、ご提言の中にありますようにこれを誘致して誇りに思うような、まさに科学技術の調和を目指した研究で世界的に有名な、住民が誇りを持てるようなもの、あるいは日常的なものの中に、例えば医療利用、あるいは、いろんな意味で科学技術としてこれから伸ばすべきものがある。そういったものを地域がみずから発想することによって受けとめられるか、まさにそういった議論をしていただくのが大事かと思っております。
 第1回目に私は、原子力を総合科学技術と見ていただくということを申し上げました。2回目には、自然環境に調和できるのか、自然との関連をはっきりさせることが大事だろうと思いました。きょう私はこのお話を伺いながら、社会環境に適合し、調和をしていくには我々は何を考えていけばいいのか。その辺をぜひご5回以降に集中的にご議論いただけることがあればと思っております。
【小松】  メリット、デメリットの問題は、これから先、廃棄物の問題では大変大きなものになるんですけれども、私自身は、冒頭で申し上げましたように、終戦のときに14歳、中学校3年でした。全部焼け野原になっちゃいました。電気も来ない。電気が来たのが、あのときはまだ日本発送電の時代でございまして、我が家へ電気が来たのは、終戦の年、昭和20年の10月の頭でした。来たときのそのうれしさってないんですね。今度、阪神大震災で関西電力はわりと早く、1週間で仮送電いたしました。
 そのとき、テレビで、おじいちゃん、おばあちゃんが「電気が来た。明かりがついた」というあの喜びのシーンを押さえている。そのときによかったな、と思ったのは、日本の東ガス、大ガスは非常に早くから天然ガス、LNG専用のタンカーをこさえて、まだあまりメジャーが押さえていない東南アジア地域のカリマンタンだとかあそこら辺を押さえて、大変な設備投資をやっていたわけですね。地震の後、ガスの臭いがして危ないんじゃないかなと思っていたんですが、これはメタンなので、非常に早く拡散して、あまり滞留することがありませんでした。ですから、非常に早い送電に対して、二次災害はほとんど発生しなかったというのが私の見たところです。
 それにつけて思いましたのは、戦後50年間の我々日本社会の生活、食うものも食えず、子供たちが病気になったらどうしようもない。一時、DDTが随分悪者になりましたけれども、しかし、DDTとかBHCだとか、殺虫剤をまくことによって、夏、小さい子が、南京虫だのダニに食われてピーピー泣き、それが栄養状態を悪くしていくという状況から、私たちの生活が少しずつ人間らしいものになってきた。
 戦前、石油封鎖のことにカーッとなって、特に海軍ですけれども、重油が来ないとだめだというので、それでアメリカ・イギリスに戦争をしかけてしまった。
 そういうことから考えますと、戦後、エネルギー供給をどう回復していくか、日本にとっては非常に重要な問題でした。そのエネルギーが質がよくて、しかも、販売価格が世界の水準の中でも安くするために、戦後9分割された電力会社が相当努力したと思うんです。危ないものも買っていたと思うんですが、一番最初に日本へ入ってきた原子力発電所というのは、コールダー・ホール型と言いまして、イギリスから買ってくるんですね。昭和三十六、七年じゃないかと思います。一本松珠"王幾"(表記の都合上、2文字を組み合わせて1つの漢字として記載しております。御了承下さい)さんという関西電力から出向されている方が買いました。茨城県の東海村というところですが、あそこはわりと地震があるんですね。グラファイト(黒鉛)リングを積み上げて、その中に天然ウランの棒が入っている。地震が来たら一発だろうと思ったんですが、これが、ついこの間まで−−おととしぐらいまで、大優等生で16万キロワットの電力を供給し続けました。
 申し上げたいのは、つまり、今まで原子力は原子力で特別に考えていた。それは、アメリカとの原子力協定がありましたね。それから、国際的な原子力協定もありました。一方では、世界各地から石油を運んでくる、あるいは天然ガスに切りかえる。最近ではコジェネレーションをやろうとしている。エネルギー政策というものの見方が、はれものにさわるようにしていた原子力の発電−−平和利用に限るんですけれども、その時代と変わっているのじゃないか。それを原子力委員会の方々がぜひ、この50年間のエネルギー供給の当事者たちの苦心、それから、それによって我々の生活が享受できたメリット、このメリットが大きいと思うので、それで見直して、国民にわかりやすいように説明してほしい。
 失敗もたくさんあったと思います。世界で一番最初にでかい原子力事故を起こしたのはチョークリバーなんです。これはカナダでありまして、チョークリバーという場所にあるんですが、これが天然ウラン重水減速でした。
 それから、アメリカは原子力発電の事故の模擬実験をいっぱいやっているんですね。私どもは今いいところへきたなと思うのは、水爆ミサイル体制が一触即発の状態でなくなってきた。しかし、あちこちの海底には核弾頭を積んだ米ソの原子力潜水艦が何隻か沈んでいるという話を聞きました。原子力というものは、私はメリット、デメリット両方あると思うんです。そして、どれだけ貢献できるか、どこまでやるかということについての見通しを立てるための大きなビジョンというものを、日本がある程度平和利用だけで、これだけ手を縛って30年、40年やってきたのですから、その提案はできる立場にあると思います。ぜひ人類のために、原子力はどこまでやっていいだろうかということについてのビジョンの形成の呼びかけをやっていただきたいと思います。
【石井】  先ほど来の事柄ですと、環境問題に関する事実認識と考え方、これが二つに分かれているんですね。
 まず、環境問題があるからエネルギー需要を減らして、原子力発電所もやめていこうという考え方と、環境問題があるから化石燃料ではもうだめだ、それのかわりに原子力発電を開発していこう、こういった二つの対立する考え方があるわけで、いろいろ考えてみますと、エネルギー需要を減らして、ちょっと減っただけでも不景気だと言って問題の多い経済社会ですから、どうしても経済を維持して発展していかなきゃならないということになりますと、エネルギーは確保しなきゃならない。
 そういうような面で、僕は後者のほうなんですが、現在まで我々の環境問題の受けとめ方は、火力発電から原子力発電への方向といっても、その重点を移動するぐらいに考えてきたんです。しかし、この考え方は甘く、迫りくる環境危機の至上命令として、先進国の電源は水力、地熱、太陽熱、原子力発電に限られ、化石燃料は原材料として物質的利用はよいが、化石燃料火力発電は全廃して開発途上国に譲るべしというようなことに進展するかもしれない危惧が存在している。そういう意味から原子力発電の開発、拡大強化は差し迫った課題と自分は考えているわけです。ですから、新實さんの考えと逆になってくるわけですね、環境問題に対する事実認識と考え方が。
【新實】  環境問題と言うときに、私の場合は、原発そのものが事故じゃなくて、いろんな可能性がありますよね。例えば空から落ちてきたとか、地震があって何かなるとか。そういうときに一挙に何かが起こって、それは押さえられないということをまず考えます。そのときに、だれも補償はできないわけですね。その場所が、例えばチェルノブイリみたいに汚染されてしまった場合に、電力会社がこの人をここによけてあげるとか、そういったことはなされないと思うんですよ。チェルノブイリで子供たちが今も住んでいるわけですよね。そして、その子供たちが感じていることは、自分たちはここしか住むところがない。そこに住んでいたら、放射能にみまれて白血病になって死んでいくしかない。
 例えば少しの放射能が出ただけじゃなくて、いろんな状況が考えられるわけですね、世界的に。私は学者ではありませんので、どういうことが考えられるかというと、飛行機が落ちたりとか、そういったことを考えるんですけれども、核ジャックですか、だれかが何か悪いことをするとか、そういう可能性はあるわけですね。そのときに、何もできない。例えば飛行機でしたら、飛行機に乗って、乗らないで、そういう選択ができるんですけれども、原発の場合は私たちは選択ができないんですよね、現実あるものですから。だから、そういう意味で環境のことを考えて私は思ったんです。
 人類が何もできない状況になってしまうという可能性が0.0何%でもある。そういうものは持ってはだめだというふうに私は思っているんです。だから、例えば石油を使って電気を起こす場合は二酸化炭素が出るとか、もちろんそういう問題もいっぱいありますけれども、選べないような状況をつくってしまうというのが原子力発電所、核を使っている発電の方法だと思うわけです。
 皆さんは、原子力を使うというのを前提にお話しされているような感じがするんですね。私一人が頑張って、原子力は使わないで、ほかの方法を考える、ほかのことを考えるというふうに思っているものですから、私がしょっちゅう発言しなきゃならないようになるんですけれども、原子力政策をどういうふうにというものを考える前に、何で原子力を使わなきゃいけないのか、本当に基本的に、さっき私は近藤さんにデメリットのことをちゃんと言ってくださいと言いましたのは、例えば関西電力の原発で事故が起こったときに、私らはどうしようもない。きっと放射能が降ってくるわけですね。そうしたら、私らはどうしたらいいんですか。原子力を進めはる方はいいですよ。進めはるのはいいですけれども、進めない人がどういうふうに被害をこうむらずに済むか、そういうことを考えていらっしゃるかどうかという疑問があります。
【西野】  ちょっと議論がすれ違っておりまして、お互いにわかっていると思うんです。
【新實】  はい、わかっています。
【西野】  片方で言う環境問題というのは地球全体の死滅の話で、片方は、どちらかというと安全による事故による問題、こういう話だと思います。松井さん、何か・・・・・・。
【松井】  今の議論のどっちの立場に立ってというのは、何せここに出席している委員の比率を考えると、コメントを言うのは差し控えたいと思うんですが、皆さんが環境問題とか、それから、さっきモデレーターの西野さんもおっしゃったんだけど、人類がどうとかと言うとき、事実認識にどうも誤りがあるのではないかという気がしますので、その辺ちょっと確認しておきます。我々は地球の上に生きているんですよね。地球はシステムみたいなものだという言い方をしたんですが、その中で物質の流れとかエネルギーの流れがあるんですね。物質の流れというのはエネルギーによって引き起こされている。
 今という時代は、まさに人間圏という1つの物質圏が地球システムの構成要素に加わったことが特徴でして、生物種としての人類というのとちょっと違うんですね。人類というのは500万年前からいるんですね。それが1万年前に農耕・牧畜を始めたときに生物圏から抜け出て、地球システムの物質循環に直接かかわる生き方をしたのでこれだけ大きくなれたんです。そのときから環境破壊をしているんですね。汚染しているんですよ。だから、そういう議論をここでしても、結局どこまでその程度が許されるかという話になります。しかも、皆さん、物の流れとか、エネルギーの流れがどうなっているかというのを本当に知らない。皆さん、自分の知っている範囲で物を言っておられるから、それはそれで結構なんだけど、事実は大分違っているわけですね。だから、その辺の話をするときに、まずどのぐらいのスケールで自分は考えているとか、どこまでそれを知っているかということを再認識してその問題を発言しないと、結局、言いっ放し、聞きっ放しになっちゃうと思うんですね。
 人間圏というものが生まれたときから、その中で物を動かすためにエネルギーというものを必要としたんですね。最初は森林の木を燃やすとか、あるいは石炭になったりとかというふうにして、当然、人間圏が大きくなると、それを動かすエネルギー源が大きくなりますから、次から次へと新しくして、今現在は少なくとも原子力に頼らないと物の流れが維持できないところまできている。
 したがって、原子力の問題は選択の問題なんですよ。そんなの嫌だ、だから、せいぜい1,000万人ぐらいで、そんなのを使わないで生きていきましょう、これも選択なんですけど、大多数の人がどっちを選択するかといったら、やはり100億人になるとしたら、100億の人がなるべく豊かに暮らすような、そういう人間圏の内部システムを設計しようと思うわけですね。そのときにこの問題は避けて通れない。
 僕は、そういう議論を基本的にはしているのだろうと思っているんですけれども、それが、人間圏という箱がどのくらい続くかといいますと、今のままいきますと300年も続くわけないんですよ。だって、人口が来世紀半ばに100億人になるという。地球システムが維持できる人口がどのぐらいかといったら、それは100億人ぐらいなんですよ。一番上限を見積もってね。ただし、それは、地下水や化石燃料に依存しているから、そのシステムは100年ぐらいしか続かないですよね。そのときに、じゃあ、エネルギーをどうするのかというようなときに、またこの問題は出てくるんですね。エネルギーという問題、核分裂を使うのか、それとも核融合にするのか、それはわかりませんよ。それはわからないですけれども、そういう大枠の認識があって、そのなかに個別的な問題があるというぐらいは共通の問題認識としないと、議論があっちへいったりこっちへいったり、意味のある議論ができないのじゃないかと思います。みんな自分の知っている範囲で環境問題もエネルギー問題もしゃべっていたら議論にもならず、なかなか難しいのじゃないかと思います。
【尾崎】  それじゃあ、ひとつもとへ戻しましょう。
 中国に1カ月ほど生活した経験からお話ししたいと思います。
 ご存じのとおり中国は、アジアの中でも原子力発電所をこれから大いに取り入れていこうとしているところですね。現在も3基動いておりますけれども、北京というのは、中国12億の人口のうちの1%しか住んでおりませんけれども、人口の上では上海に次ぐ第2の都市ですけれども、そこで2年前に1カ月、今度1カ月有余住んだだけで何を言うかというおしかりを受けるかもしれませんけれども、旅行者じゃなくて、ある国立大学を教えに参りまして、家内と一緒にその大学の中へ住んで生活した経験からお話しいたします。
 向こうは、国営企業が大学も含めまして多いわけですね。1億人ぐらいが国営企業に働いているといいます。それはみんな一つの小さな社会をつくっておりまして、その家族やら何やらみんなそこに住んでいるわけです。例えば私の参りました大学は、北京外国語大学なんですけれども、小さな単科大学なんですけれども、1万人の人がいるわけですね。すぐ近くに中国ナンバーワンと言われる北京大学がございます。ここは5万人ぐらいが生活しております。立派な都市なんですね。中に小学校から病院から、屋台も出ますし、いろいろあるわけです。日本食堂もあれば、全世界の食堂がありますというようなことで、その中で生活できちゃうわけなんですね。
 朝、まず皆さんどういうことから−−学生ももちろんその中に入っているわけです。まず、みんな魔法瓶のポットにお湯をもらいに集まるわけです。両手に下げたり、3つ4つ持ったりして、それから生活が始まるわけです。これはどういうことかといいますと、中国は水が悪いですから、硬水ですから飲めません。ですから、全部お湯にしなきゃいけない。それで、それを1日中お茶を注ぎ足して飲んでいるわけです。それがないと、乾燥していますから、すぐどうかなっちゃうわけですね。最近はこういうのができましたけれども、まだビールは高いですから、ビールを飲む人にはそっちのほうがいいんですけれども、そういうことから始まるわけです。
 これは、大学の中にも石炭山ができておりまして、全部石炭です。ですから、まるで半世紀前の札幌のような石炭の生だきのにおいがプーンとするわけです。この間、北京大学に行きましたら、北九州のボタ山みたいのがありまして野積みになっている。一生懸命ホースで水をかけているわけです。北京は暑いですから、5月ともなりますと日本の真夏ぐらいになりますから、自然発火する。そういうことなんですね。
 それはあれなんですけれども、そういうことで石炭に依然として発電も含めて80%依存している中国としましては、大消費地である北京、上海、広東という沿海部の都市と産炭地というのは随分離れております。水力は南の中国ですね。ですから、エネルギーの生産地と消費地がものすごく離れているわけです。
 石炭に例えてみますと、中国の列車は半分以上が石炭列車と言われるぐらいなんです。北京西駅というのが今年からスタートいたしました。私も行ってみましたけれども、相変わらず列車を待っているお客が山のよう。昔ながらの北京駅というのは、みんな駅の前で寝ているわけですね。そのくらいお客さんがさばけない。それもそのはずです。半分以上は石炭を運んでいるんですからね。そういう状態になる。
 要するに石炭依存から離れようとすると、鉄道をつくるか、原子力発電所をつくるか。原子力発電所というのは大需要地に立地できますからね。ということで、その選択しかないんですね。わかります、向こうへ行ってみましたら。
 それから、中国自体が石油の生産国であると言われておりました。ところが、93年から輸入国に転じましたね。輸入国といっても、輸出もしているんですよ。しかしながら、石油製品、ガソリンみたいなものは輸入せざるを得ないということで、そういったものを差し引きますと輸入国に転じたわけです。
 自動車の話をいたしますと、テレビなんかでも日本で報道されているとおり、私どもの住んでいる大学から天安門まではそんなに距離はないんですけれども、朝なんか大変なんです。片側3車線ぐらいで広いんです。それが全部自動車で埋まっちゃうんですね。ということは、朝、中心部への乗り入れを禁止するしかないというんで、今年の2月から排気量1,000cc以下の乗用車、あるいは軽トラックといったものは、奇数ナンバーと偶数ナンバーで1日置きに乗り入れを制限しているんです。それで一番被害をこうむったのは、天津ダイハツといって天津汽車がつくっている、シャレードの技術輸入をしてつくっているあれなんですけれども、売れ行きが一遍にがたんと減ってしまった。この5月から全車種に及ぶというようなうわさが立ちましたけれども、私は5月2日までおりましたけれども、そういうことはありませんでしたけれども、そういうふうにせざるを得なくなってきているんですね。
 それから、4月から北京市の水道と電気の料金が上がりました。どのくらい上がったかといいますと、実は安いんですけれども、電気料金はキロワット時当たり0.248元だったのが0.313元に2割なんですね。水道のほうは、今までトン当たり0.3元だったのが0.5元に4割上がったんです。一遍の通達で上がっちゃうんですね。理由は、水道料金の値上げは水不足。北京は雨が降りません。電気は、石炭価格が65%値上がりしたんです。中国みたいな石炭はたくさん持っているにもかかわらず、65%も値上げしなきゃならなかったというのは、やはり輸送ネックだと思うんですね。
 そういうこともありまして、向こうに行っておりますと、インフレもインフレですけれども、エネルギーがすぐ何とかなるというのは原子力しかないんだなというある一定の理解を示さざるを得なかったですね。もちろん中国はお金がありませんので、そしてまた自主技術を開発したいという意欲も高いものですから、例えば上海近郊の原子力発電所は自主技術をだんだん積み重ねるために、そして、香港にその7割を送っているというダイアワンの原子力発電所はフランスから導入しておりますね。3号、4号もフランスになると思いますけれども、そういう状況で、私自身は、今までの発言ですと原子力に反対みたいに思われたかもしれませんけれども、決してそうではございませんし、ただし、一定の条件つきというイエス・バットの立場でございます。
【西野】  松井さんの言われました枠組みの話は、当然どこかで議論をしないといけないですし、いろんな機関が予測をしておりますね。例えば人口については中位値がこのぐらい、最小値がこのぐらい、最大値が・・・・・・。これはどれだけ信頼度があるかは別として、いずれそういうデータをもとに、少なくとも2050年ぐらいまでの予測は、それが極端に最小値の8割以下に落ちるとか、そういうことはないだろうという前提で話をしないといけないので、今のところまだそこまでいかなくて、いろんな議論をいただいているというのが正確なところ。
【伊達】  エネルギー問題に関して一つだけコメントを申し上げたいんですけど、この議論は、エネルギー源の話に限られるというのが、私はちょっと議論が不十分、つまり原子力エネルギーがいいのか、ほかがいいのかですれ違いになる。問題はエネルギー変換なんですね。エネルギー変換の問題がやはり核心にあるわけで、その辺の議論もじっくりしていただかないと困る。
 要するに、化学エネルギーというのは大体1,000倍の濃度のもとを1,000分の1に変換するということで、例えば物を燃やして暖まるというのは大体そんなものですけれども、原子力の場合は、1,000倍の1,000倍の1,000倍で、数字でいうと10億倍。言うだけでむなしい、よくわからない数字になっちゃう。そこの変換が、これまで半世紀ほどいろいろやってきたけれども、とても尽くされていない。
 エネルギー変換問題こそ、おそらくこれから100年も時間をかけてやらないといけない。
 例えば皆さん新聞で、最近モンゴルで北海道ほどの面積が焼けたことを知っている。じゃあ、火を使うのはやめましょうかというのはだれも言わない。それは、火というのは10万年、あるいは数十万年とも言われています。人間が使い込んでいて、すべての状況を知っていて、それで安心しているから、ほかでいくら燃えたって火をやめようとは言わない。原子力は、どこかで一発ポンとやると、さあ、やめなさいというのは、我々がエネルギーの変換に対して、原子力に対してわずか50年。その辺のことをもう一度肝に銘じて、基本的なところからじっくりやると、そういう社会認識をぜひつけていただきたい。
 以上でございます。
【西野】  ありがとうございます。
【田畑】  先ほど新實さんから、メリット、デメリットを示すようにということと、もう一つは、人工放射性物質は人類、地球と共存できるか、その二つのことでちょっとコメントを申し上げます。松井さんのほうから宇宙、太陽系の生成の由来で、いかに原子力が生物、あるいは人間と共存というか、関係しているかというようなお話がありました。放射線、放射能は天然のアイソトープ、人工のアイソトープ、あるいは加速器から得られるわけですけれども、放射能について、天然の放射能と人工の放射能は区別ができません。実は放射線の種類が決まって、エネルギーが決まれば、例えば人体に対する効果、影響、これはもう区別ができない。全く同じなんですね。
 アイソトープ、放射線が人類と共存できるかどうかというふうなことで、先ほど特にプルトニウムはというお話があったわけですけれども、考えてみますと、天然に原子炉が既に、過去41億年から、20億年前の期間に、6つの天然の原子炉があったことが確認されているんですね。天然の原子炉があるということはプルトニウムも生成しているんだけれども、寿命が短い−−ある意味では短い−−見方によると長いわけですけど−−消えてしまっているというふうな側面があるかと思うんですね。
 先ほどメリット、デメリットに関連して大島さんから放射線の影響がマイナスの面だけでなく医学利用の分野でプラスの面もあるよ。そういう点についても関心をもつべきではないか、そういうふうなお話があったわけですけれども、現在は医学の分野、その他、特に医療の分野では数百種類の放射性の核種が利用されていますし、それから、化合物としても数千種類の化合物が医学医療の分野で使われている。あるいは、医学分野以外でも使われているわけですね。ですから、なくてはならない存在になっているわけです。こういうふうな診断、あるいは治療、それから一般の産業利用その他で放射線は身近に使われている。そんなようなことがありますので、先ほどのメリット、デメリットという点について、ご参考までにということでお話しした次第です。
【西野】  今、大変お忙しい中を、原子力委員長をされています中川さんがお見えになられましたので、自由討議の最中でございますけれども、ちょっとご辛抱いただきまして、一言ごあいさつをお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【中川】  中川でございます。本日は、ご出席の各位、まことにご多忙の中にもかかわらず遠路よりこちらまでお運びをいただきまして、この円卓会議が各方面の第一線でご活躍の皆様方のご参加をいただきましたことに対して、まずもって心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。
 国会の事情が許せば、私も冒頭からこの会議に参加する日程を組んでおりましたが、きょうは参議院の本会議、衆議院の本会議、また、海洋法関連の原子炉等規制法の趣旨説明が入りまして、ただいまの時間になってしまいました。また、5時半前にはこちらを出なければならぬという予定で、そのことを本当に申しわけなく思う次第でございます。
 今、会議の模様について、皆様からお出しを賜りましたレジュメも全部読ませていただきました。また、簡単に事務当局から説明を聞いたところでございますが、いずれも今後の原子力政策を考える上で極めて重要な有益なご意見を賜っている、このように感じている次第でございます。私ども、この円卓会議をお願い申し上げますその姿勢は、何らの前提を置かず、各界各層の皆さんのご意見を、長計も含めまして原子力政策に的確に、そしてまた柔軟に反映させていきたいという趣旨でございますので、どうぞご理解をぜひいただきたいと存じております。
 まことに短い時間で恐縮でございますが、重ねてお礼を申し上げて、ごあいさつにかえさせていただきます。これから少しの時間ですが、私も加わらせていただきます。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
【西野】  新實さんのご発言の前に、田畑さんは原子力委員で専門家なものですから、どなたかフロアからご専門に近い方が田畑さんのことにコメントをいただけませんでしょうか。松井さん、いかがですか。アイソトープの話とか・・・・・・。
【松井】  アフリカにオクロ鉱山というのがありまして、天然の原子炉があるというのは事実だけれども、その種の話はかなり専門的になるものですから、紹介しなかったんですが、地球という星は核分裂で内部の熱を作りだしているわけですから、地上もまた放射能が満ちているわけですね。
 例えば放射能で人類が全滅するのじゃないかというふうな話もありましたけど、昔、「核の冬」という話があったんですね。米ソが核弾頭を全部爆発させたときに、それで人類が絶滅するかというと、放射能で絶滅するというよりは、それによる気候変動とかで死ぬ人のほうが多い。それは影響が出るんですよ。だけど、放射能で全滅して、ほかの要因は考えなくていいという種類の議論は成り立たないので、どれもやっぱりよくないんですね。人類というのは、そういうことをすべて勘案した上で、トータルに物を見て判断しているわけでして、個別的にこれはよくないからとか、あれはよくないからと言ったら、みんなよくないことになっちゃって生きていけなくなる。僕が言いたかったのはそういうことなんですね。トータルで物を見ないといけないですね。
【小松】  今の松井さんのご発言の補足なんです。彼は惑星地球物理学で、これこそ彼の専門なんですけれども、今、私たちの地球環境、自然環境というものは、ある意味で地球が生まれたころから比べると猛烈に汚染されちゃっているんですね。今この中に酸素が21%ございます。窒素が79%ぐらいで、あとはアルゴン、炭酸ガスがあるんですが、原始の大気の中には遊離酸素はゼロでした。一酸化炭素と窒素、そんなものですね。
 それで、あるとき生命が発生いたしまして、その生命が進化していく途中で植物をつくったんです。これが大成功いたしまして、光合成をやりながら炭酸ガスをどんどん分解して遊離酸素を出していったわけです。今から25億年ぐらい前ですかな、今の100分の1ぐらいになりました。そうすると、動物が発生してくるわけです。そのとき、実はそれまでの生物で酸素大嫌いという生物、破傷風菌みたいなやつ、それから、この間オウムでやったボツリヌス菌、あれはほとんど滅びちゃいました。中には石油酵母みたいに石油の深いところにいるのがありました。
 それから、これが今の10分の1ぐらいになりますと、地上が生命が住めるところになるわけです。酸素がオゾンになって紫外線をシェルターいたしまして、今よりもっともっと紫外線がきつかったんですが、それでも植物、動物の進出があって、実はこれも最近わかってきたんですけれども、1,000万年ぐらい前に突然酸素が5%ぐらい増えたときがあるんですね。これはなぜだかわかりません。単子葉植物という、イネ科だとか、ユリ科だとかが急速に増えたときとオーバーラップしているものですから、それじゃないかと言われています。
 それから今ぐらいになったときに何が起こったかといいますと、火事が頻々と起こったんですね。ナチュラル・ブッシュ・ファイア、さっきおっしゃったモンゴルの火事ぐらい、もっと焼けちゃって、アフリカなんかもっと焼けた跡があります。なぜかというと、酸素が増えて危ない状況になったわけです。
 しかし、同時に、その増えた酸素で、これまた進化で対応していったのが、実は人間及び哺乳類で、まさに酸素の大量消費のもとに脳の発達が起こります。そしてまた人間は、その火を逃げないで使ってきて、そして現在の状況があります。将来、炭酸ガスを増やしたらいいのか−−もうじきまた寒くなるという説があるんですね、暖かくなるという説と。
 これはまた地球自身も、人間なんか何にも関係なしに、突然平均気温が3度上がったというのが五、六千年前にありました。三内丸山遺跡のときには、アトランティック大海進といいまして、あまりに暖かくなったので海水面が5メートルぐらい上がってきているんです。7メートル上がった所もありました。
 自然にやさしくというのは最近のはやりですけど、自然はそんなにやさしくありません。そしてまた、できちゃった状況を私たちが利用してきたのも確かでありまして、実はそういう姿を踏まえた上で、新しい技術と環境の問題を考える必要があるのじゃないかと思います。
 松井さんの意見の補足にいたしました。
【西野】  ありがとうございます。
 この件で何かございますか。
【新實】  といいましたら、私たちは、人工の放射能がいっぱい増えてもよいし、それから高レベル廃棄物もどんどん増えても何ともないという判断をすればよいわけですか。松井さん、お願いします。
【松井】  だれもそんなことを言っているわけじゃなくて・・・・・・。
【新實】  何かそういうふうに聞こえます。
【松井】  そういうことのないように、技術者の方が原子力発電システムというのをいろいろ設計してやっているわけでして、原子力発電所ができたから大気中に放射能が増えたとかという観測事実があるわけじゃないわけですよ。人類が原子力発電を始めてから。
【新實】  放射能が増えてないんですか。
【松井】  核実験によるものとかを除けば、そんなに増えてないですね、別に。変動はありますけれども、放射能のレベルが地球全体で何けたも上がっちゃうとか、そんなことがあるわけじゃないわけですね。もちろんそれは原子力発電所を壊して核廃棄物を放出すればどうなるかわかりませんけれども、そういうことのないように一生懸命皆さんやっているわけですから、そういう危険性を考えたらきりがない。例えば、米ソが持っている核弾頭を全部爆発させたらどうなるかというシミュレーションがあるんですね。これは、もちろん今ある放射能よりもっとすごい放射能が出るわけですよ。原子力発電どころじゃないわけですから。
 それで、放射能で全部人類が死んじゃうかというと、そんなことはなくて、放射能の影響も大きいですが、むしろそれによって起こる環境変動、太陽光が入ってこなくなるとか、それによって食物生産ができなくなるとか、そういう種類のことで人類が今のような状態を維持できなくなるということの方が大きい。もちろん、原子力発電所が破壊されたら、それは大変な危機的な状況ですよ。だけど、そういうことのないようにということでやっているわけですから、そういうことが起こったらどうという議論をしても、これはあまり建設的じゃないだろうというのが僕の意見です。
 いずれにせよ、現状ではそんなものが増えているわけでもないし、それから、原子力発電所の破壊の結果どうなるという議論をしても、これは架空の議論なんで、してもしようがないのじゃないですかというのが僕の意見ですね。
【尾崎】  私は、原子力=ハルマゲドンとは思いませんけれども、原子力の事故が過去2回大きなのが起こっております。いずれもヒューマン・エラーが大きな要素をなしていると言われておりまして、幸いここに大島先生、人間工学の専門家も来ていらっしゃいます。ヒューマン・エラーを防ぐような方法はないものか。
 そしてまた、報道によりますと、次世代の軽水炉として、2020年ごろ実用化を目指して、こういう表現がいいのかどうか知りませんけれども、生まれながらにして安全な炉、本質的に安全な炉と言っていいのでしょうか。そういった炉の研究開発がよその国で進んでいると聞いておりますけど、その辺のお話を伺えたらと思います。
【西野】  一応これでこの問題から少しずれることに、似たものに移りたいと思うんですが、せっかく中川科学技術庁長官、原子力委員長がお見えでございますので、先ほど原子力の立地県の知事でおられます栗田さんから、国民から信頼される原子力行政であってほしい、事故は限りなくゼロにして近づけてほしい、こういう発言があったものですから、大島さん、今のことにも関連いたしまして、先ほど人間と巨大なシステムとの難しさがあるというようなことで、ひとつ安全の問題とか、あるいは安全を技術的な意味とか社会的な意味、あるいは、どういうことをすれば国民が安心を感じるかとか、そういうことの話題をお話しいただけませんでしょうか。
【大島】  そこへ到達する前に、ちょっとメリット、デメリットのお話をしてみたいと思いますが、一番危険なのは人間が何を考えるかということではないかと思います。
 私のところへ山梨県の県庁の人が見えて、富士山に垂直のエレベーターをつくって、一気に山頂に上げて外を見てもらったら非常にいいのではないか。これは確かに外を見るという点では立派な意見でありますが、そんなことをしたら、山頂にドームでもつくって、酸素を少し増やすか、あるいは圧力を加えるかしないと、全部酸素不足で倒れてしまうのではないか。したがって、見せるという点ではいいのでしょうが、酸素の問題を考えずに、一方的な考え方だけでうまくいかないのではないか。この案はさたやみになりましたが、もう一つの例は、時差問題がある。空港に一大レジャーセンターをつくって、そこで時差を解消して、それから家に帰ってもらったらどうか。そのときに私が言ったのは、一体そういう悠長なことをやっておれるのかどうか。早く我が家に帰って味噌汁を飲みたいというようなことが優先するのではないか。したがって、時差を解消して、それから我が家に帰るということは、多分取り上げられないんじゃないかと、この話もとりやめになってしまったんですが、そういうことでメリット、デメリットを考えるというのは、要するにトータルとして広い立場で物事を見ていくということではないかと思います。
 先ほどヒューマン・エラーの話が出ましたが、人間は、トータルとして見て手を打っていくというあたりが一番大事ではないか。ヒューマン・エラーの問題は、人間の教育・訓練でカバーできるものではなく、最先端をいっている技術が人間をいかにカバーするか、あるいは支援をできるかというあたりに視点をおいていくべきではないかと思います。
 ちょっと話につながりがなかったかもしれませんが。
【妹島】  先ほどからトータルに見るということは、すごくそうだろうと思うし、いろいろ断片的に専門家の見方を教えていただくと非常におもしろいと思うんですけれども、今問題になっているのは、トータルにみんなが見れるわけではない。ここで話していてもはっきりするように、非常に専門に詳しい方と、その外で、特に私とか新實さんは、特別詳しいわけではないと思うんですけれども、そうすると、トータルに見てこれで安全ですよ、みんなそういうふうに考えているんだって、それは多分そうだろうなと。私はそれほど特別反対という立場でもなく、よくわからないという立場なんですが、だから、先ほどもちょっと申し上げましたけど、わからないということと、それから、トータルといってもいろんな視点とか、人によってそのトータルが違ってくると思うんですよ。その辺を全部教えてもらうなり示してもらった上で考えるということが、トータルに考えるということにつけ加えてないと、今までも多分そういうふうに考えていただいていたと思うんですね。今までここまできたというのは、一応みんな否定しても−−まあ、とにかくここまでやってきたということなんですけど、これからのことについては、そういうことではないかと思うんですが。
【西野】  非常に難しい問題ではあるんですが、それにしても何らかの議論が進む−−きょうは非常に大きな進展があったと思うんです。近藤さん、どうぞ。
【近藤】  一つは、今、松井さんも妹島さんも、皆さん、トータルに考えるべきということをおっしゃっておられる。私もそれはそのとおりであると思うのですけれど、しかし、最後には選択がなされなければならない。その手続きのことを今、最後に妹島さんがおっしゃったと思います。
 選択というのは必ずしも一つに決めるということではないわけですけれども、有限個を選ぶわけで、このときに選ばれないものがでるわけですね。そのときに選ばれないものを担いでいる人に対して、選ばれなかった理由が明らかである−−納得できるか、まあ、納得できないのかもしれませんけど、少なくともおよそ常識的に理解し得る形で提示される。あるいはコミュニケーションがなされる。それが選択の前提だと思うんですね。
 ですから、トータルは大事なんですけど、むしろ、いかにしてトータル像がさまざまな問題意識を持っている方にちゃんと伝わるか、あるいは、そうした方々の問題意識を反映したトータル像が議論され選択の論理が明らかにされる、そこのところの仕掛けが原子力委員会に求められている、そういうふうに整理されたらと思います。
 第二点は、先ほどの新實さんがおっしゃった、自分たちが避けられない、制御できないリスクが原子力に伴っているので、原子力はやめたほうがいいということをおっしゃったんですけど、これは非常に大事なことで、そういう観点は非常に長くリスクの研究分野では議論されているわけで、しかし、幸か不幸か我々の人間社会におきましては、個人のレベルで考えてみますと、私どもが制御できない被害に遭うチャンスに満ちているわけですね。
 ごく卑近な例で、私の友達のお母様が道路を歩いていたら、車線の向こう側で起きた自転車と自動車の衝突事故の自転車が降ってきて足を折られたんですけれども、これは全く想像を絶するわけです。考えられない。しかし、起こるわけですね。
 それから、航空機は乗っている人が勝手に乗って落ちるんだからしようがないねということをおっしゃるんですけど、実は航空業界が持っている保険というのはそうじゃなくて、都市の上空で航空機が衝突して下に被害が起きる。その被害を補償できるだけの保険を掛けているはずですね。したがって、航空機もまた乗る人以外、つまり我々のあずかり知らないのに避けがたいことが起こる。社会システムとして、その中に住んでいる限りにおいては避けがたい、我々がどうしようもないことが起こるんですね。
 こういうものに関して我々の社会は一体どうしているかというと、まずその発生確率を十分下げるために規制を行う。その上で一つには、そういう意味の保険という制度があり、もう一つは国に防災とか、先ほど防災のご主張がありましたけど、そういう形でもって国全体としてそういう技術を使った水準の社会を維持するときに、必然的に伴うデメリット、これを補償するために、そうしたシステムを用意しているのが我々の社会の姿だと思うんです。それが、例えばチェルノブイリの場合、これはまさにご指摘のとおり。これは、ソ連という国が崩壊して、極めて悲惨、まさにおっしゃるとおり人類の悲惨が起きているのだと思うんですけど、こういう形で原子力が運営されては困る。我々は何のために原子力をやっている。人類にエネルギーを供給する手段としてやっている限りにおいて、そんなことで被害者が放置されてはいかんのであって、そういうことがもし万一起こったときには十分な手当てができるようなシステムを用意することは当然、むしろ前提条件になると思うんですね。
 それから、まったくどんな確率−−どんなに小さな確率でもそういうことが起こっちゃいかんということにすると、おそらく論理的に自己矛盾に陥ってしまう。自分が突然発狂して他人にかみつくかもしれないということも含めて、その確率もなんとかしなくてはならないわけですから、そこは自己矛盾に陥っちゃうんで、我々の社会はそういうものを持っていて、そういうものに生活の知恵で種々のシステムを用意しているところ、それが原子力というものについて妥当かどうかということをそういう議論をするべきだと私は思います。
【西野】  ありがとうございます。
 先ほど既にご発言いただいた栗田さん、今、中川委員長が来ておられます。もう一度、何かありましたら、どうぞこの機会に。
【栗田】  先ほどプルトニウム利用、特にプルサーマル計画についての要望をさせていただいたわけですが、プルトニウム利用に関連いたしまして、福井県で新型転換炉原型炉の「ふげん」を運転していたわけですが、実証炉の計画が長計で確認されて1年後に中止になるといったようなことがございまして、「ふげん」の運転目的を変更することについて、今いわば「ふげん」は宙ぶらりんの形になっているわけでございます。それから、今回の「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故ということで、プルトニウム利用を中心とする現在の原子力政策の進め方につきまして、国民・県民の間に不信感が広がっていると言えるのではないかというぐあいに思います。
 そこで、プルトニウム利用につきまして、ウラン資源を有効に利用するためにプルトニウムの積極的な利用が必要であるという視点からだけでは、国民の危惧なり、あるいは不安というものを払拭することはできないのではないか。そこで、国内外いろんな意見もあるわけでございますから、幅広く議論をしていただいて、そして、我が国のプルトニウム利用計画というものがどうあるべきか、そういったものをきちっと国民のコンセンサスを得ながら方向づけをしていただく。その中でプルサーマル計画というものの位置づけをしていただく必要があるのではないかと思います。
【西野】  どなたか何かご意見ございますでしょうか。
 中川原子力委員長、そろそろ退場の時間が近づいておりますので、もし何かありましたらお伺いし、なければごあいさつをいただきたいと思います。
【中川】  まことに申しわけなく、また、失礼この上ないことで、心からおわびを申し上げます。また、私自身も、きょうは、皆さんと決められた時間ご一緒にディスカッションし得なかったことが残念でございますが、いずれにしても、長時間にわたりましてさまざまな観点、お立場から活発なご議論をいただいたことに心から厚く御礼申し上げます。
 特に、きょういただいたご意見の中で、私、レジュメでの判断と、先ほど二、三分事務局から聞いたお話、そして、今ここで数十分聞かせていただいた話の判断でございますけれども、まさに栗田知事、地域社会の中で原子力と背中合わせにお暮らしになっていらっしゃる。そうした地域での課題ということをいろいろな角度からご提出を賜りました。いずれも重要な課題であると、本当に真摯に受けとめてまいりたいと考えております。
 また、いろいろ皆様方から環境の問題、特に地球システム、その中での人間の営みの問題とか、あるいはまたエネルギーと原子力の位置づけといった問題、また、安全、人間工学といったようなご視点のご議論もレジュメ等では拝見いたしておりまして、いずれにしても、本当に幅広い観点から、時間をかけてでもしっかり議論して尽くしていかないといけないということを痛感している次第でございます。
 エネルギーという言葉のもう一つ大きな問題としてあるのは、一つの価値観といいましょうか、もっとズバッと言ってしまえば新實さんのおっしゃる生活水準という問題かもしれませんが、それと、それよりもまして重要な安全・環境の問題、この三つを、今のみならず未来も、そして、日本のみならず世界、地球全体、どう考えるかという議論なのだろうと、そんなふうに考えられます。その合意を完全に得ることは難しくても、正しい合意だとお互いに胸を張れるような合意をやはり目指していかなければいけないんだということを私自身は痛感している次第でございます。
 プルサーマルを中心とするプルトニウムの問題についても、3県知事のご提言の中にもございましたし、我々もそういう提言を受けて、この円卓会議でご議論を賜りたい。そして、それは、長計も含めまして、柔軟に的確に反映させてまいりたい、こういう姿勢を持ってお願いを申し上げている次第でございます。それについても、さまざまな議論が使用済み燃料、放射性廃棄物、その中にもプルトニウムはあるわけでございます。また、単にエネルギー論だけではだめだよという知事のご意見もございましたが、我々もおっしゃる点は理解しているつもりでございます。他方、しかし、43年しかNEA等の推計でも原子力燃料そのものも枯渇をするという議論も全く無視してしまっていいのかということはあるだろうと思っております。いずれにしても、いろいろな観点からのご議論を尽くしていただいて、それを適切に反映していくことが原子力政策の一番正しい姿勢だと考えておりますので、よろしくお願いを申し上げたいと存じます。
 残り時間も少ないようでございますけれども、私、これで、まことに申しわけないことですが、退席させていただきますが、引き続き活発な意見交換を賜りますようによろしくお願いをして、ごあいさつといたします。ありがとうございました。
【西野】  モデレーターの私のほうが少し疲れてまいりまして、大体話題が尽きたのかなというわけでもないんですが、今まで出なかったようなことで何かございますでしょうか。時間的には、あと10分ぐらいございますので、多少のまとめをしたいとは思っておりますけれども。
【尾崎】  原子力発電所の立地県として肩身が狭いというようなご発言がございましたけど、私はこれは全く意外でございまして、と申しますと、お金のことばかり言っては申しわけないんですけれども、先ほど楢崎さんのお話によりますと、福井県は関西の電力エネルギーにとっては大蔵省みたいなものだとおっしゃいましたけれども、電源三法による交付金も、おそらく今まで1兆円くらいに達しているのじゃないかと思うんです。1兆円くらいのお金が入りながら、それが・・・・・・。
【栗田】  1兆円なんか・・・・・・。
【尾崎】  入らないですか?
【栗田】  そんなに入るわけがない。
【尾崎】  どのくらいなんでしょうか。
【栗田】  そんなもの、単位が違いますわ。
【尾崎】  じゃあ、1,000億円ぐらいですか。失礼いたしました、単位が違いまして。
 1,000億円ぐらい入りながら、それで地域振興にあまり役立たなかったというふうなことが私は理解ができなかったんですけど、何がそういうことを阻んでいるのでしょうか。
【栗田】  私が、たくさんの原子力発電所が立地している県として肩身の狭い思いがしている、つまりイメージダウンに結びついているというお話をいたしましたのは、原子力発電所による発電電力を消費している都会の人たちが、原子力発電所についての理解が少ないと申しますか、電力は消費していながら、あの危険な原子力発電所をよくも引き受けたものだというような見方をされておりまして、15基もの原子力発電所を立地している福井県、そして、危険性があって、いわばその危険性と同居しているといいますか、そういう意味で福井県は大変気の毒だなという見方をされていること自体が、我が国における原子力行政のいわば縮図であって、そういうことであっていいのかということを申し上げているわけでございます。
 それから、地域振興、もちろん立地市町村を中心にそれぞれのメリットはございますが、それこそ二十何年の間に何百億かの助成は受けておりますけれども、一けた間違われるような、そういう認識でおられると非常に困るということでございます。
【尾崎】  申し訳ございません。
【石井】  肩身の狭い思いというような面で関連しての話なんですが、新潟県でも福島県でもいろいろと 工場誘致をする、企業誘致をする。東京の中小企業の経営者の方が「原子力発電所のそばは危ない」とはっきりおっしゃって、敬遠するということが一つ。
 それから、新潟産業大学に隔週で講義に行っていますけれども、私が行き始めた動機は、新潟産業大学の先生と東京で会食したときに、「私が講義に行っている間は爆発しないでもらいたい」。それは十何人の中で発言なされたので、「おやおや、乱暴なことをおっしゃる先生だな」とあきれちゃったわけです。そのような東京人の勝手な考え方ですと柏崎市民の人に失礼ではないかという気持ちがありまして、新潟地域の調査をかねて出かけていこうと。そういうことで講義に行っているわけなんですが、いろいろな面で論理的に原子力発電所が安全であるということが、「先生がおっしゃるんだから、そう思う。しかし」ということで、若い女性の方が「しかし、柏崎市で結婚して子供を育てたくない。できれば離れたところで世帯を持ちたい」というふうに言われて、柏崎市というところはそんなに田舎ではなく、江戸時代から発展した街で、現在、市になっています。そして、良寛和尚ゆかりの地であり、我が国の石油産業発祥の地でもありまして、なかなか暮らしよい環境になっているんです。それでも、やはり柏崎市は原発があるから、子供を育てるならばよその土地に行きたい。だから、そういう形で結婚を世話してくれないかというような若い女性の話を聞きましたときに、これは論理ではないなと。どうしてそういうふうになっちゃったのだろうか。これは原子力発電所自身の問題から、発電所を存在せしめている社会問題、政治問題である。何とかこれで考える方法はないかなと思ったときに、企業誘致をして優秀な男性が次々と来る。そういった人たちとカップルを結び、家庭を営んで、そして、そこの地域社会に貢献する。
 ただ単に工場に勤務するというだけでなく、一つのその社会の人間として、大学も卒業し教養あふるる技師さんが多いので、そういった人たちの家庭が地域社会との交流を通して生活条件を発展させる。そして原子力発電所があってよかったというような街づくりにしなければお話にならないじゃないか。それは安全性の論理のみではなく、原子力の総合政策により解決すべき地域経済であり、これはどうも政治の問題らしいなということで、強くお願いしたいと思うんです。
【西野】  大体予定した時刻になりまして、最後に一つ二つご意見を短くお伺いして、閉会にしたいと思いますが、楢崎さん。
【楢崎】  短い意見でございますが、先ほど来、先生方のご意見を拝聴しておりまして、トータルで考える。そして、結局はメリット、デメリットの問題であるというのは、まことに結構な検討の方向だと私は思って聞いておりました。
 ただ、それにどういう項目を入れて、どういう議論をして、それを、要するにいろんな勉強をされて、こと原子力等もひっくるめて、大変に知識のおありの方々だけの議論で終わることなく、それを、知事もご懸念の県民の方、さらには国民大衆にわかるようにしていただいて、原子力というものを選択せざるを得ないフランス、日本のような、多分資源のない国はそっちへいかざるを得ないと思うんですが、そういう国にとって科学知識というものを、もっともっと底辺から知識レベルを上げるということをぜひやっていただけたらありがたい、希望でございます。
【西野】  ありがとうございます。
 きょうは、途中に申し上げましたように、ある意味でどちらかというとあまり賛成でないという方が少なくなって、新實さんに大分ご苦労をかけてしまったんですが、最後の締めの発言、今、手を挙げられたので、聞きまして、閉会にしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
【新實】  まず、五十嵐元官房長官が、北海道幌延に核廃棄物貯蔵施設をつくるということ自体に、非科学的で計画を見直すべきだとおっしゃっていること。それから、もう一人、元動燃の科学者である土井和巳さんが、やっぱり同じように高レベル廃棄物を処分することに関して、いろいろと安全的に見て100年もかかるぐらい期間がないと、それでも貯蔵するところができるかどうかわからないというようなことをおっしゃっていますので、それも考えなきゃいけないことだと思うんです。
 そういう方々のことを聞いていますと、私たちは高レベル廃棄物は恐ろしい。そして、原発で事故が起これば恐ろしい。そういうことはぬぐえないんですよね。現実に新潟に住んでいる人、福井に住んでいる人もそうですけれども、やっぱり事故が起こったら恐ろしい。事故が起こらなくても、毎日放射性物質が出ている。それでガンが増えている。近所の人がガンになった。食べ物とかいろいろあるでしょうけれども、そういうことはぬぐえないと思うんです、現実ですから。先ほどお隣の方がおっしゃっていましても、やっぱり私は納得できないんです。大きく見てとか、そういうふうにおっしゃっても、現実に放射能をかぶる。チェルノブイリで子供たちが苦しんでいる。そういうものはぬぐい切れない。そういう意味で恐ろしいと思います。
 もう一つだけ、最後に。長くなりまして申しわけないですけど、私たちは京都府議会で、「もんじゅ」は事故が起こって徹底的に究明して、安全になるまで動かさないでくださいと、そういった意見書が出ていますし、凍結してくださいという100万人署名なんかもしておりますけれども、私たちは、やっぱり不安なんです。皆さん、学者の方がああだこうだとおっしゃっても現実に放射能があるということの不安はぬぐいきれないんです。どういう説明を聞いても、子供たちが病気になっていく、そういう状況というのはぬぐいきれないんです。ですから、やっぱり学者の方のどういうふうに原子力を進めていったらいいかという意見だけでは、私たちは受け入れられない。普通の方が、柏崎で結婚して、どんな優秀な男性であろうと、そんなところで暮らしたくないという気持ちというのはあるわけです。それを、やっぱり原子力の政策をしていくときに、不安でもって生活していくわけにはいかないんです。現実にドンとなれば、私たちは死ぬしかない、病気になるしかない、そういうことは考えに入れていかなければいけないと私は思います。
【西野】  ありがとうございました。
 大体これで終わりにしたいと思いますが、どうしても何かというものがございましたら、もう一つお聞きいたします。
【新實】  もう一つごめんなさい。
 最後に、この方法です。結局、女の人は私一人で、学者でもない人がぼこんと来まして一生懸命言わなければならない。何か一生懸命言っても、ほかの賢い人たちがこうだと言うと、そうかな、いや、やっぱり違うというふうに思いますので、もっと普通の人の声を聞かないといけないと思います。どうして不安なのか、こういう会議の持ち方自体がちょっとおかしいなと思います。そして、後ろにいらっしゃる方も、普通の人じゃなさそうな方ばっかりお見えで、こうして見ていましたら女性がほとんどいらっしゃらないですよね。これは普通じゃないですよね、社会には半分女の人がいるんですから。そういうことをよく考えていただきたいと思います。
【西野】  この円卓会議の主催は原子力委員会と理解しておりますが、モデレーターは、今のようなご発言に対してはかなりの発言力を持っておりますので、ぜひ、できる範囲で考慮をさせていただきたいと思います。どれだけできるかは別として、先ほど言いましたように、少なくとも次回は、女性が7人、男性が7人というようなことで予定をしております。
 きょうは、皆さんのご協力を得まして、最初のご発言が時間どおりに進んだものですから、私どもが予定をしていたよりも自由な討議ができまして、いろいろなご意見がお聞きできたと思います。このご意見を、もう一度、4回目も同じように繰り返しをいたしまして、その後、問題を絞り、さらに議論を深めていくという方向でおります。きょうのこの全部の議事録がインターネットの上で公開されます。その気になれば、皆さんが読めるという状況になっております。したがって、ここで私がまとめるという必要はないのかもしれません。あるいは、まとめるとかえって間違うのかなという気がするんですが、多少、そういう習慣もあるような気もしないでもないので、ごく簡単に言います。
 一つ、一番大きいものは、人によって考え方が違うとは思うんですけれども、我々地球上に住んでいる全体の人を考えて、トータルに何らかのソリューションを探していくことが必要ではないかというようなことが言われたと思います。それと関連をしておりますが、議論をするときに少なくとも夢みたいな話ではだめで、ある数字、ある枠組みを、一つの枠組みというわけではなく、かなり範囲が広いと思いますが、枠組みをいずれ整理をして、その中で議論をしていかないと話が発散するのではないか、これも非常に大事なことではないかと思います。
 また、それに関連しまして、枠組みの一つでございましょうけれども、年月は特定できないにしても、少なくとも10年、20年の話をしているのではなくて、100年、200年の話をしている、あるいは、それ以上の話をしているというのも枠組みの1つであろうという話も出たかと思います。
 それから、原子力というのがどうしても中心になっておりますが、エネルギー変換の効率が非常に大事である。それによって世の中が少し変わる可能性があるという指摘も、技術的な意味では非常に未来に明るい展望を出す話題かなと聞いておりました。一番大きい問題は、やはりメリット、デメリットの議論につながるんだろうと思います。メリット、デメリットというときに質の違ったものが議論されるということもありますが、ここでも枠組みが大事になると思いますが、そういうことが話題になりました。
 それから、社会システムには、少ないほどいいには違いがないにしても、すべてリスクがあるんだということも指摘をされまして、これも、おそらく、どの程度のリスクかは別として避けて通れない問題であろうということが指摘されたと思います。
 それから、最終処理の問題、バックエンドの処理の問題が、まだはっきりしていないではないかというご指摘も自由討議の中であったようにお聞きをいたしました。既に書いたものが配られておりますので、こちらはそれこそ蛇足かなという気がいたしますが、現在、世界の発電量の中で原子力発電が既に17%に達しているというようなことも言われておりました。一方、アジア全体では、多くの原子力発電所の建設計画があって、その原子力発電に対して、非常に事故率が少ないと言われている日本のノウハウを共有していくべきではないかというのが、地球にとっていいのではないかというようなことも大事な指摘であったかと思います。
 それから、先ほどちょっと触れたことでございますけれども、安全の問題を各種に関するリスクのデータを並べて包括的に国会のようなところで議論する、というようなことも必要ではないかという指摘もございました。
 それから、議論はいたしませんでしたが、「もんじゅ」の事故の経緯を見ておりますと、少なくとも公表の仕方、事故の発表の仕方に大局的に誤りがあったのではないかという指摘もございました。
 それから、原子力委員の5人の委員会で最終的な決定を検討するのを考え直す必要があるのではないか。私は、原子力委員のことはよく知りませんが、下にたくさん下部の委員会があって、実際には5人であるとは思っておりません。おそらく、かなりの方が関係されているんだろうとは思います。しかし、そういう最高の意思決定の委員会であろう、そういう感じがしております。
 それから、一人一人がエネルギーを一体どのぐらい使って今生活をしているのかということを知る必要があるし、省エネルギーを実施すれば、一体どのぐらいのエネルギーが節約できて、どの程度の生活が維持できるのかというようなことを知ってもらうことも大事であろうと。
 一方、情報公開が大事だというのが皆さんの一致した意見なんですが、その中で、少なくとも関西電力では美浜2号機の経験が生かされておりまして、平成7年についても103件の報告があったというようなことも報告されておりました。
 それから、これも繰り返しになりますが、円卓会議で普通の人たちの意見を聞くべきであるという指摘がございました。
 ほかに、大事な指摘はたくさんあったと思いますが、議事録、あるいは、ご提出いただいた文書を私どもモデレーターももう一度きちんと読み直しまして、この次の円卓会議、あるいは、それ以後の円卓会議につなげていきたいと思っております。本当にありがとうございました。

閉  会

【西野】  それでは、閉会に当たりまして、原子力委員長代理の伊原さんより一言お話を。
【井原】  本日は、大変長い時間にわたりまして、幅広く、また、場合によっては非常に深い議論まで活発にご討論いただきまして大変ありがとうございました。西野先生がおっしゃいましたように、次の円卓会議にさらにきょうのご議論を引き継いでまいりまして、ますます幅広い議論を深めてまいりたいと思っています。
 きょうは、大変ありがとうございました。
【西野】  きょう、お見えいただいておられる招へい者の方々でございますが、議事概要を早急につくりまして、第4回の会議の前に、今回も含めて過去どういう議事が行われたかというのをお配りしたいと思っています。大変恐縮でございますが、3日の夜にお手元に何らかの形で届くように案をお送りいたします。そこで、発言の内容と違うとかいうようなことがございましたら、ぜひ、コメントをつけて、大変恐縮でございますが、5日じゅうに事務局に届くように、2日しかございませんが、これは大事なことで、全部の議事録を読めば発言内容は間違いなく伝わりますし、ビデオも撮られておりますが、やはり議事概要というのはそういう意味で読みやすいものですから、ぜひ手を加えていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは、これにて閉会にしたいと思います。きょうは大変有意義な自由討議ができまして、ご協力いただいたことにモデレーターの二人、感謝をしております。本当に長時間ありがとうございました。
── 了 ──

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