原子力政策円卓会議(第11回)議事概要
- 日 時
- 9月18日(水) 午後1時30分〜午後5時30分
- 場 所
- 東條会館(東京都千代田区麹町1−4)
- テーマ
- 「未来に何を残すのか」
- −エネルギー問題と原子力−
- (1)世界的・歴史的な視点に立ったエネルギー問題と原子力の役割
- (2)核燃料リサイクルの意味
- ・プルサーマルの意味
- ・高速増殖炉の意味
- ・核燃料リサイクルの課題
- ・高レベル放射性廃棄物の処理処分
- 出席者
- モデレーター
茅 陽一 東京大学名誉教授
五代 利矢子 評論家
佐和 隆光 京都大学経済研究所長(議事進行を担当)
鳥井 弘之 日本経済新聞社論説委員(議事進行を担当)
- 招へい者
内山 洋司 財団法人電力中央研究所技術評価グループ
グループリーダー
小沢 徳太郎 環境問題ジェネラリスト
近藤 駿介 東京大学工学部教授
鈴木 篤之 東京大学工学部教授
十市 勉 財団法人日本エネルギー経済研究所理事
長谷川 公一 東北大学文学部助教授
平野 良一 核燃をとめよう浪岡会代表
松浦 祥次郎 日本原子力研究所副理事長
- 原子力委員
中川 秀直 委員長(科学技術庁長官)
伊原 義徳 委員長代理
田畑 米穂 委員
藤家 洋一 委員
依田 直 委員
(敬称略 五十音順)
- 議事概要
注1:文章整理の関係から表現が必ずしも発言通りではない場合がある。
- 参考別紙
- :「原子力政策円卓会議開催に当たっての基本的事項」[別紙1]
- :「招へい者の方から提出のあった資料等」[別紙2]
- :「エネルギー問題と原子力:前半の論点」[別紙3]
- :「核燃料リサイクルの意義:後半の論点」[別紙4]
《中川原子力委員会委員長挨拶》
- この円卓会議は過去10回までに各界・各層を代表される方々にご出席をいただき、活発な討議を行ってきた。
- 我々としては、過去10回を含めて今回の11回に出された意見をきちんと取りまとめて、それなりの答えをきちんと出し、また議論を願いたいと考えている。
《伊原委員長代理開会挨拶》
- 原子力政策円卓会議も、今回で11回目を迎えるが、第10回までに各界・各層を代表される方々、延べ119名にご出席いただき、活発な討議を行っていただいた。
- 過去の議論の内容として、エネルギー、原子力はもとよりそれらを取り巻く世界情勢、社会構造、地域の問題など多岐に亘るものだったが、本日はさらに議論を深める必要がある点について、焦点を当てたいと思っている。
- 「エネルギー問題と原子力」という点については、現代社会において必要不可欠なエネルギーをいかに確保していくかという大命題に対して、原子力の果たす役割といった議論になると考えられる。
- 「核燃料リサイクル」の問題については、これまで第7回、第9回と2回にわたり議論を行ってきた。資源に乏しい我が国では、「核燃料リサイクル」の確立を政策の中心としているが、本日は今一度個別的な課題を中心に、真剣に議論していきたいと考えている。
《モデレーター冒頭挨拶》
- 本日は、これまで10回の円卓会議において行われた議論の中、さらに議論が必要と思われる事項について、議論を進めたいと考えている。具体的には、「エネルギー問題と原子力」というテーマを「世界的・歴史的な視野に立ったエネルギー問題と原子力の役割」と「核燃料リサイクルの意味」の2つに分け、順を追って議論を進めていきたい。
《自由討議》
(1)将来のエネルギー需要とエネルギー源
┌─────────────────────────────────┐
1│発展途上国を中心とした人口増加、生活レベルの向上を考えると、今後の│
│世界のエネルギー需要の増加は避けられず、それには新エネルギー、省エ│
│ネルギーだけで対応することは難しい。また、地球環境問題への対応を考│
│えると、原子力エネルギーは不可欠であるとの意見が出された。 │
│これに関連して、 │
│・現在をベースにトレンドベースで将来を予測するのではなく、2050│
│ 年の社会を真剣にイメージして、社会に必要なエネルギー体系を考え直│
│ すべきであり、原子力発電所は現状に凍結することが必要。 │
│・アジアで原子力発電所が増加すると、日本のリスクが増加することも考│
│ えるべき。 │
│との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
今後世界のエネルギー需要は増加する。
エネルギー技術の計画は、例えば100年以上の長期的視野で方針を決めるべき。
2100年のイメージを、人口は120億人で静定し、エネルギー利用効率が向上し、人類の一人あたりエネルギー消費が現在と変わらない水準に維持されているものとすれば、今の2倍のエネルギーが消費されている社会となる。持続成長状態は、これを、化石、太陽、原子力で賄うことで維持されることになるが、現在はこの3つのエネルギー源それぞれが全消費量の50%は供給できるように考えることが世界全体として重要。原子力を候補から外す理由はない。
2100年のアジアにおける人口、資源、経済活動におけるわが国の相対的規模は現在のヨーロッパにおけるスイスの水準。我が国は、それまでにエネルギー技術などのストックを形成していくことが重要。
太陽への投資が原子力に比べて少ないのは、技術開発課題が前者は変換効率の高い素子の開発であり、後者はシステムインテグレーションであるためである。
電中研の資料では、2050年には世界の人口が100億人、エネルギー消費やCO2排出量も非常に増大するとしているが、人間が動物の次元を越えられないこと、温暖化や廃棄物など環境面からの制約やエネルギー資源、鉱物資源、水および食料の供給などの制約から、こういうことが現実になる可能性は考えにくい。
現在をベースにしてトレンドベースで将来を予測するのではなく、2050年の社会を真剣にイメージして、子孫が今ぐらい自由に活動できる社会に必要なエネルギー体系を考え直すべき。この際、原子力発電所は現状に凍結するということを打ち立てることが必要。
今日の問題が成長の限界をこれからどうやって解決するかであり、2050年の社会に関する会議中の指摘をもう少しきちんと分析して、その可能性を探っていくことが円卓会議開催の趣旨でもある。そしてそれに理解が得られることが大切。
今日の57億人の人口を養っていくためにはエネルギーが必要であり、この社会を支えていくためには、そのエネルギーをどうやって確保するかが大切。この現実を踏まえて議論しないと空論になってしまう。
将来のエネルギー展望をはっきり認識することが大切。短期的には2010年には日本のエネルギー消費量は10%増加する。この増加量だけでタイのエネルギー総消費量に相当する大変な量である。
途上国は先進国と同じ豊かな生活を求めており、アジアでは今後2000年までに年率で4.5〜8%のエネルギー需要増加が予想される。現実問題として増えるエネルギー需要を日本がどう考えていくのかを基本に、判断していくべき。
資料で示した2100年断面の絵はトレンドベースのものではなく、エネルギー利用効率が十分高くなることを前提とした社会が、持続成長可能な社会の一つのイメージではないかと考え、それに必要な主力供給力を伸ばしていくのが現在我々が取るべき選択ではないかとしたもの。
グローバルな観点では、1920年〜2000年までに世界人口は年率1.5%、エネルギーは2.6%で増えており、一人当たりのエネルギー消費は、途上国の生活水準の向上などにより増えていくことが予想される。
エネルギー供給の現在の内訳は、化石が90%、原子力7%、水力が3%で、21世紀前半までは、経済性、技術、資源を考えるとこの傾向は大きくは変わらない。これにより環境問題、安全保障問題、長期的には資源制約が発生する可能性はある。
新エネルギー開発、省エネルギーの推進は重要だが、これだけでは需要の増加に対応しきれない。供給を満たし、グローバルな環境問題をある程度解決し、持続可能な成長をするためには、原子力の役割は正当に評価されてしかるべき。
現代的社会は高品質のエネルギーに大きく依存している。地球規模の人口増加と現代的社会の拡大がおこっている。日本は将来とも、膨大なエネルギー資源の輸入により、現代的生活を維持、発展させようとしている。環境影響物質放出の低減の必要がある。このことから、原子力は、現在及び将来において、地球的及び地域的エネルギーベストミックスのひとつとして選択するのが合理的である。
エネルギー源の選択に当たっては、ベネフィット、コスト、リスクと、将来の技術と産業の発展可能性を考慮して判断すべき。
原子力は現状の軽水炉と高速炉以外にも発展の可能性を広く持っている点も指摘したい。
アジア地域で原子力が重要というのはいいが、原子力発電所は2010年には、日本、韓国、中国、台湾だけでも現状の2.8倍となる。これは、廃棄物も事故確率も増加することを意味しており、この点もよく考えるべき。
┌─────────────────────────────────┐
2│・将来にわたってエネルギーの供給を拡大していくことは、経済活動によ│
│ る廃棄物の問題から不可能であり、エネルギー供給、経済活動の限界に│
│ 達しないためにはどうしたらいいかについて議論するべきとの意見が出│
│ された。 │
│・これに関連して、将来、サステイナブル(持続可能)な状況に入ってい│
│ くプロセスをなだらかにするには、ある程度のエネルギー源が必要との│
│ 意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
絶え間ない努力により、技術の信頼性を向上させていくべきとの考え方は、技術論としては同意。しかし、社会の混乱を避けるためにエネルギー供給を拡大していくことは、少なくとも50年、100年先を考えると不可能。拡大していく方向自体が大変な問題を引き起こす可能性がある。エネルギー供給は、経済活動をするためのものであり、これにより、発生した廃棄物をどうするのか。まず、どうやってエネルギー供給、経済活動の限界に達しないようにするのかということから議論するべき。
将来、エネルギー供給、経済活動の限界を迎えざるをえないだろうが、そういう状態に、どういうプロセスで至っていくのかということを議論するべき。原子力はそこに至る過程を悲惨な状況を起こさないでなだらかにしてくれるもの。人口が少なくて、サステイナブルな状況に入っていくプロセスをなだらかにするためには、ある程度のエネルギー源の確保が必要であり、そのプロセスの選択の議論が必要。
まず、様々な経済活動等を考慮に入れてイメージし、目標を定めて、現時点の技術、知識を総動員して、その目標にどうやって迫るかということを議論するべき。
┌─────────────────────────────────┐
3│フランスを除くヨーロッパ諸国、アメリカがなぜ原子力を選択しないのか│
│という意見に対して、 │
│・西欧、北米の石油、ガス、石炭の一人当たりの資源量はアジアと比較し│
│ て多く、選択の幅を持っているためである。 │
│・持続的な成長が可能な社会の概念を作りそれを支えるエネルギー体系を│
│ 作るかという視点の有無である。 │
│・原子力が事故、廃棄物の不信を解決できなかったことにヨーロッパの選│
│ 択の基本がある。 │
│ との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
OECD諸国で建設中の原子力発電所は、フランスと日本にしかない。フランスを除くヨーロッパ諸国、アメリカの選択がなぜこれまでのみなさんの考え方と異なっているのか、彼らは、エネルギー問題を楽観視しているのかに関して伺いたい。
世界は9割を化石燃料に依存している。石油、ガス、石炭の一人当たりの資源量を地域別に比較すると、西欧、北米と比べてアジア、オーストラリア地域は極めて少ない。アジアのエネルギー基盤は非常に脆弱で、エネルギー危機の影響を受けやすい。それにくらべ、西欧、米国はエネルギー選択の幅を持っている。この点がアジアと欧米の選択の違いに現れている。
米国を中心とした規制緩和の流れは、安いエネルギー価格を利用して、経済を活性化させるという短期政策である。これは、欧米では資源が豊富で、しかも安く、エネルギー問題がないため。日本でも最近はこの傾向があるが、長期的政策が入らず化石依存率も下がらないため、将来の危機に対する不安要因がある。
エネルギーミックスが国により異なる要因は、国内に安い資源があるか、安全保障・安定供給、新技術に対する国民のアクセプタンス・立地しやすさなどの違いによる。発電を見ると、米国、ドイツ、イギリスでも発電の半分以上が石炭であり、ヨーロッパが原子力を増やさないでも対応できるのは、天然ガスがロシア、北海、アフリカからパイプラインで供給可能で、経済的にも有利という状況のため。日本ではどういう選択がよいのかは、そういう視点から議論すべき。
持続可能な社会をどう理解するかが基本的に異なっている。経済活動がどう持続するかという意味では、言われる通りである。しかし、今後50年、 100年後に我々が生きるために、どうエネルギーを調達すべきかという持続可能な社会という概念についてスウェーデンのように議論をすることが重要。日本ではその議論がない。持続可能な社会の概念を作り、それを支えるエネルギー体系を作るかという視点が日本にない点が決定的に違う。
欧米では原子力についてのナショナルコンセンサスを作ろうという動きがあったが、フランスを除いて成功していない。今日の議論にはエネルギー需給面から議論しているという一面性があり、政治、社会過程の面からのエネルギーの議論が弱い。原子力が事故、廃棄物処理問題などで不信を解決できなかった点にこそ、欧米の選択の基本があり、これが重要である。
┌─────────────────────────────────┐
4│現在の先進国の一人当たりのエネルギー消費を半減できたとしても、途上│
│国の一人当たりのエネルギー消費が2倍になっただけで世界のエネルギー│
│消費は増加するということを認識することが重要との意見に関連して、ヨ│
│ーロッパがEU域内でエネルギー需給を考えているのと同様、日本も地球│
│的視点で考えるべきとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
他の方の資料にあるように、1985年の世界人口50億人のうち先進国は15億人、途上国は35億人。控えめに見て2050年にそれぞれ、15億人と70億人となった場合を考える。先進国が一人当たりのエネルギー消費を現状の半分まで減らす努力をしたとしても、途上国の一人当たりの消費が現在、先進国の10分の1程度であるものが倍になると、世界全体では、エネルギー消費増加となる。この事実を共通に認識することが議論の出発点だと考える。
地球規模のエネルギー問題を考えることが重要だという指摘はそのとおり。
一国レベルでエネルギーセキュリティ、需給バランスを考えるのではなく、EUは域内で考えるという視点で、日本も地球レベルで考えて、原子力が本当に最初にくるのかを考えるべき。
(2)原子力発電所の立地について
┌─────────────────────────────────┐
1│原子力発電所の立地について │
│・巻の住民投票の結果は、従来の立地の手法が通用しなくなったことの端│
│ 的な現れである。一度立地すれば、21世紀を通じて原子力から逃れら│
│ れないのでは地域はノーというのは当然。 │
│・東海村では原子力に対するアクセプタンスは高く、他の地域と何か根本│
│ 的に違っているとの気がする。 │
│・原子力の必要性は認めるが、近くに作るのは反対という傾向があり、そ│
│ うであれば、電力の需要の抑制についてどの程度の社会的な規制が可能│
│ かまで踏み込まなければ対応できない。 │
│ との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
円卓会議は、立地地域が現状に対して疑問を呈したことから始まっている。そうであるなら、将来のエネルギー問題を議論する前に、まず、現状のエネルギー利用のしかたがこのままでよいのかといったことを議論するよう、原子力委員会やモデレーターは議論をリードしてほしい。
巻の住民投票は大きな意味を持っている。これについて、円卓会議を1回開く価値がある。
9月6日に資源エネルギー庁長官が巻町長に会わなかったという事件があったが、立地点を政府がどう見ているかを象徴していると考える。
巻の住民投票は地域格差を前提として、経済的恩恵で穴埋めする、また、地域有力者を切り崩すなどの従来の立地の手法が通用しなくなったことの端的な現れだと思う。
自己決定権を求める住民たちの声は大きな流れ。円卓会議で、廃炉になった地域に再度原子力発電所を作るということが明らかになったが、一度立地すると、21世紀を通じて、地域が原子力発電所と使用済燃料から逃れられないというのでは、地域がノーというのは当然ではないか。
立地に関しては、東海村と他の多くの立地点の雰囲気の違いを感じる。東海村では原子力に対するアクセプタンスは高い。他ではリジェクトされ、東海村ではアクセプトされるという状況がどういう経緯から生じたのかをもう一度勉強してみてはどうか。東海村の方々は多くが原子力をリジェクトの対象とせずに、むしろ誇りとしているという感じがある。何か根本的に違ったのではないかという気がしている。
原子力の必要性は認めるが、近くに作るのは反対(not in my back yard)という傾向がある。これは都市ゴミの問題と同じで、人間の本性に近いもの。この意味で、今のエネルギー、特に電力の使い方を考えるべきとの考えは全く同意見。家庭用、業務用の需要の伸びが大きい。自由社会では市場メカニズムが原則で個人の自由は規制してはいけないが、公共的な問題となってきている以上、最低限どの程度の社会的な規制が合意できるかまで踏み込まないと、社会システム、ライフスタイルと言われるが、小手先の対応では需要は大幅には減らない。原子力がいるかいらないかという社会的なコンセンサス作りというのは裏を返せば、使い方についてもコンセンサスを作っていかないと対応できないと考える。
工業化社会を営む場合には廃棄物、ゴミ問題は避けて通れない。原子力問題も同じ。
エネルギー、電力供給システムの形成は社会基盤整備である。自由な消費活動を前提とする経済社会の中で計画的な要素をどうやって取り込んでいくのか、ということになると社会的信頼を得る以外にない。現代の世代を説得して、次世代の健康、文化的生活を保障する、そういう主体がまず信頼されることが必要。国、電力会社とも社会的使命をもった存在として、我が国国民の永続的安全を提供するという長期的利益の観点から無私の心を持って、行動するべき。
┌─────────────────────────────────┐
2│原子力発電所の立地に伴うリスクについて │
│・リスクを公共的な立場で理解し合って、どう管理していくかを議論して│
│ いくべき。 │
│・現実に工業文明を維持するためには、各種のリスクがあり、原子力発電│
│ 所の立地に当たってもそのリスクが総体で比較してどれだけ増えるのか│
│ ということが重要。 │
│・原子力発電については、リスクを負担するもの、利益を受けるものの間│
│ にギャップがあることが問題である。また、個人の問題である自動車事│
│ 故とも根本的に違うもの。 │
│ との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
リスクに関しては客観性がまだない。現実に工業文明を維持するには、毎年1.2万人の交通事故死、数千人の火災、落下による死亡など各種のリスクが生じる。これをどう安全に管理するかが課せられた課題。一番のリスクはエネルギーのストップ。このような、社会的リスク、技術的リスクといったことまでを含めて、リスクを公共的な立場で理解しあって、どう管理していくかを議論していくべき。立地も、リスクの分散や負担といった面で、これに関わる問題である。
リスク評価をする上で比較される自動車事故、航空機事故と大きく違うのは、リスクを負担するもの、利益を受けるものの間に大きな地域間のギャップがあることである。都市で大量の電気を使っているものがリスクだけを過疎地域に押しつけるべきでない。
原子力施設の設置により、それ固有のリスクが増えるということだけを議論するのでなく、地域社会の選択に係わるリスクを総体で比較した上で議論するべき。それぞれの選択肢について、リスクがどのように変わるのかという判断が重要。
自動車事故は個人の問題であり、原子力の立地のように地域の運命が固定されてしまう問題とは根本的に違う。
人々は現実に多数の死に直面すると、それを見ないで注意をそらすことがある。しかし、社会の安全水準の向上という観点から見て、こうした方が良いということを専門家はきちんとコメントするべき。自動車にしても、歩行者の被害は少なくないし、しかも、現状のままでは今後1年間に1万人が確実に死ぬ。それとわかっていて、自動車事故の問題をないがしろにするような発言はすべきでない。
原子力発電所の立地によるリスクが我々の生活空間の中でどのぐらいを占めているのかということについて、納得、理解することが重要。科学者、工学者は「安全」であるということを説明するのではなく、生活していく上で様々に経験するであろうリスクの水準と比べて、十分低い水準になっているというような、リスクの大きさを説明する立場。
┌─────────────────────────────────┐
3│・アジアの原子力発電所が増えるということは、リスクが日本周辺で増え│
│ る。日本が原子力発電所増設をやめることにより、アジアのエネルギー│
│ 政策の転換に貢献するべきとの意見が出された。 │
│・これに関連して、アジアの原子力発電所のリスクを下げていくのは我が│
│ 国の責務であり、将来の重要なエネルギーである原子力の安全確保につ│
│ いて、今後ともどう維持していき、どう世界に貢献していくかを考える│
│ ことが重要との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
アジアの原子力発電所が増えるということは様々なリスクも日本周辺で増えるということであり、技術がリスクを解決できるのでないかという技術楽観論はアジアの原子力発電所の増加に従って問題が出てくる。日本は原子力発電所の建設をこれ以上増やさないという選択肢をとり、省エネルギー、省電力に国、国民が本格的に取り組むことにより、アジアのエネルギー政策の転換に貢献するべき。
リスクは広くとらえていくことが重要。今後、アジアで建設されていく原子力発電所のリスクを下げていくのは我が国の責務。技術の信頼性を向上させていくことには非常に時間がかかる。絶え間ない人間の努力の下に技術は社会に定着していくものであり、私たちは将来に向けてその努力を続けていかなければならない。21世紀の貴重なエネルギー源となっていくであろう原子力をどうやって安全なものにしていくのか、安全技術の基盤をどうやって維持し続けていくのか、どうやって世界に寄与していくのかということを考えていくことが重要。
┌─────────────────────────────────┐
4│立地地域が電気という特産品を生み出している拠点という誇りを持てる仕│
│組みを考えることが必要との意見が出された。 │
│これに関連し、 │
│・原子力は地域の外側からの技術であり、特産品にはならない。地域を二│
│ 分するような葛藤があることも踏まえ議論するべき。 │
│・国は、これまでの原子力政策を反省し今後の方策を打ち出すべき。 │
│ との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
立地地域が、電気という特産品を生み出している拠点であるという誇りを長期間にわたってもてるような仕組みを考えることが必要。そのためには立地地域の人々がその中で働く仕組みが重要。
地域を二分するような様々な葛藤が立地点にはある。地域の重苦しさを私たちは受け止めるべき。原子力というのは地域の外側からもってこられた技術であり、地域の内在的な個性と全く結びつかない。地域の実情に即して立地問題を議論するべき。
これまでの原子力政策に対する反省を率直にするべきである。国、事業者等関係者が反省点を踏まえて、今後の方策を打ち出さない限りは、巻町と同じような動きがまだまだ出てくる。
┌─────────────────────────────────┐
5│・原子力モラトリアムは生産的な方法ではなく、個々の具体的な問題を抱│
│ えているところが新しい提案を世の中に提起していくという方法で努力│
│ していくべきとの意見が出された。 │
│・これに関連して、原子力発電所の立地をめぐってコンセンサスを作れる│
│ と考えることは幻想であり、ある年限を区切ってモラトリアムを実施し│
│ 、その間議論をするべきとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
モラトリアムや凍結などというのは生産的でない。具体的な提案を出すことが重要。世の中は、個々それぞれの拠点でそれぞれの方が誠心誠意努力をしてお互いに共通するところを見出していくものであり、個別具体的な努力なくして世の中は変わっていかない。個々具体的な問題を抱えているところが新しい提案を世の中に提起していくという方法で努力していくことが最善である。
原子力発電所立地をめぐってコンセンサスを作れると考えることは幻想。新しい原子力発電所建設計画が切れようとしている現在、原子力発電所建設のモラトリアムには良いタイミングである。5年あるいは10年間と期間を区切ってのモラトリアムは国民的に合意可能である。原子力政策に関しての合意でなく、エネルギー政策に関する社会的合意が必要。社会科学者が原子力問題にコミットしにくいのは、賛成か反対かという踏み絵を踏まなければ議論ができないということにある。年限を区切った原子力発電所建設モラトリアムであれば、かなりの社会的合意が得られ、その間に議論をするべき。それにより、省電力への取組が国家的に対応可能になる。
┌─────────────────────────────────┐
6│・原子力には世代的、地域的な不公平が根本的にあるのだという問題を立│
│ 地点に即して議論することが問われている、との問題提起がなされた。│
│・これに関連して、世代間、地域間の不公平の問題は原子力だけでなく、│
│ むしろ原子力をやめることにより子孫や、途上国につけを残すこととな│
│ る様々な選択肢について幅広く検討するべき、との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
原子力施設の立地点では、内発的な地域おこしの試みはほとんどない。世代的、地域的な不公平が原子力には根本的にあるのだという問題を立地点に即してどういうふうに議論するのかということが、立地市町村から問われている。
世代間、地域間の不公平の問題は原子力だけではない。今、私たちは様々な形で痛みを分かち合わなければならない立場にある。原子力をやめるということになれば、子孫に安全性のツケを残す。途上国の問題を考えれば、先進国だけが都合の良いエネルギーを使ってよいのか。経済原則に従って石油、天然ガスだけを先に使ってしまってよいのか。そのような問題も含めて、地域間、世代間の問題を話し合うべき。このような問題を原子力だけに特化していくのは非常に狭い範囲の見方である。
将来のエネルギー、電力供給がどうあるべきかということについては、様々な選択肢がありうる。複数のシナリオを提示し、供給、需要サイドを含め、経済面、環境面等、幅広く比較検討するべき。
□核燃料リサイクル
冒頭、モデレータ−より、資料(別紙4)に基づき核燃料リサイクルの論点について説明が行われた後、自由討論。その概要は以下の通り。
(1)リサイクルの意義
┌─────────────────────────────────┐
1│・核燃料リサイクルは、資源の有効利用、環境負荷の低減等の観点から妥│
│ 当であり、着実に進めていくべきとの意見が出された。 │
│・また、これに関連して、プルトニウムをめぐる国際状況等が変化してお│
│ り、リサイクル路線と直接処分路線の共存をしつつ、将来の問題を決め│
│ るのがよいのではないかとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
軽水炉サイクルから高速炉サイクルに向かうという技術的選択は、資源保護と環境保全という長期的視点からみて妥当と考えられるが、諸外国において、その熱が冷めているように見受けられるのは、社会的に、長期的視点をとり難くなっていたり、軽水炉サイクル自体も順調でなかったりするためである。
現代社会の進展の明確な一つの方向として、高度リサイクル社会の実現というものがあり、核燃料リサイクルは、核資源についてこの方向の実現を目指しているものである。
現在の日本の核燃料サイクルは、資源消費の最小化、廃棄物発生の最小化の原則に基づいて進められている。しかし、一挙にできるものではなく、再処理は、経済的に成立する最小限のものを作り、プルサーマルまたは高速増殖炉の研究開発に使っていって、事業を進めながら技術体系を確立していくという形が良いと考える。
核燃料サイクルは資源の有効利用、廃棄物の環境負荷の低減等の観点から行われているが、ウラン値段の低位、プルトニウムを巡る国際状況等、以前とは客観環境が変化しているのが現実。リサイクル路線と直接処分路線を共存させてしばらくやることを前提として、将来の問題を決めるのが良いのではないか。
┌─────────────────────────────────┐
2│青森県六ケ所村に建設中の再処理工場の建設を着実に進めていくべきであ│
│るとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
青森県六ケ所村に建設中の再処理工場については、将来的に日本の核燃料サイクル計画の中心的役割を担うものであり、これを着実に進めていくことが肝要。
┌─────────────────────────────────┐
3│原子力発電所サイトからの使用済燃料の搬出について、まずサイトの地元│
│においてプルサーマルや、高速増殖炉などのプルトニウムの利用に関する│
│合意が得られていないと、「なぜ青森だけが背負わなければならないのか│
│」ということになるとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
これまでの会議でも、サイトから使用済燃料を持ち出してもらいたいとの意見もあったが、そこから取り出されるプルトニウムについては、プルサーマル、高速増殖炉で利用するしかないので、まず、使用済燃料を発生している原発立地点でプルサーマル、高速増殖炉の合意を得ることからはじめるべきである。
原子力発電所立地地域におけるプルサーマルなどの議論もなしに、使用済燃料の搬入をすることは、発電所サイトの使用済燃料搬出の要請に六ケ所が引き受けざるを得ないかたちとなっているということであり、青森県知事も、円卓会議において、国策としてその辺のことをはっきり示してもらいたいとの要望をしている。
これから将来にわたって検討していかなければならないという形で課題を先送りする一方でも、使用済燃料は発生し続ける。再処理でプルトニウム回収だけをやり、事後処理をしないというのでは、腑に落ちない。
青森では、立地を引き受けたのだから使用済燃料を引き取ってくれといわれても、その先が明確でなければ、「なぜ青森だけが背負わなくてはならないか」と思ってしまう。
┌─────────────────────────────────┐
4│使用済燃料の管理に関して、 │
│・使用済MOX燃料の再処理技術に関する技術開発の場として東海再処理│
│ 工場を活用する方策を検討するべき。 │
│・使用済燃料は大事な資源であるので、適切な量を適切な時期に再処理し│
│ ていくとともに、計画的に備蓄していくべき。 │
│・使用済燃料の貯蔵方策について、不透明性があるので、原子力委員会は│
│ 適切な措置をするべき。 │
│・原子炉の廃止措置後も使用済燃料だけを残すことはないと取り決めをす│
│ るべき。 │
│ との意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
プルサーマル利用をした後の使用済燃料の取扱については、発電所敷地内に貯蔵してからの計画が明らかになっていない。使用済MOX燃料の再処理技術に関する技術開発の場として東海村の再処理工場を活用する方策を具体的に検討すべきである。
MOXの使用済燃料の再処理がこれまでのウラン燃料の再処理と本質的な差があるとは思えないが、色々な試験をして安全性を確認しつつ実施していくことが重要であり、東海再処理工場を活用していくべき。
使用済燃料は、大事な資源であるので、適切な量を適切な時期に再処理していくとともに、計画的に備蓄していくことも重要。
仮に六ケ所再処理工場が操業したとしても、2030年くらいには6000トンほどの使用済燃料の扱いが問題となるということで、3つくらいの選択肢をあげ議論するということとなっていると聞いている。さらに、海外再処理により回収されるプルトニウムを利用すると、使用済MOX燃料が発生するが、これらが東海再処理工場で全て再処理出来るとは思えない。
使用済燃料を将来の資源として残しておくのならば、燃焼度を上げるのは、アイソトープの問題などがあり、安全上問題なのではないか。
燃焼度が上がれば、使用済燃料中に含まれる放射能量は増えるが、それに併せて、安全上問題ないようにするのが大前提であり、安全性についてはそんなに問題はないと思う。むしろ、発電コストで考えた場合どちらが適切かということになると思う。
東海再処理工場の処理量は少ないのはその通りであるが、あくまでも技術開発の場として活用するということであり、実際に使用済MOX燃料をどのくらい再処理していくかについては、高速炉の必要性と関連することであり、長期的に考えることが重要。
使用済燃料については、「再処理されるまでの間、適切に貯蔵管理する」ということはすでに、昭和62年の長計で記述されているが、最近になってようやく当事者の間で切迫感がでてきて、その考え方の透明性が不足しているとの指摘もされていた。原子力委員会は、早急に理解を得るよう措置を行うなり、省庁への勧告をしてもよいのではないか。
個人的には、使用済燃料は、スペース、関連付帯設備の面でサイト内貯蔵が合理的と思うが、歴史的な経緯から、個別にはサイト間融通、敷地外貯蔵もありうべしと考える。
「廃止措置後も使用済燃料だけ残る」という懸念をされている向きがあるが、発電所の廃止措置後は使用済燃料だけ残すことはないと取り決めしてはどうか。
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5│再処理技術はこの10年くらいでどのくらい進展があったのかという質問│
│に対して、環境安全面で進んだ技術となっており、廃棄物の発生が非常に│
│減しているとの意見があった。 │
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(議事の概要)
情報通信の分野などは、近年目覚ましい技術革新があったが、プルサーマル、使用済燃料の処理などのバックエンド対策をめぐる技術は、この10年でどれくらい進展があったのか。
バックエンド技術の中心は、再処理技術であるが、フランスで新しくできた再処理工場とアメリカ、ロシア、イギリス等の昔のものの実績と比較すると、環境安全性の面で、際だった成果がでており、進んだ技術となっている。廃棄物の発生量も非常に低減している。その理由は運転そのものがスムーズに行われていることが大きい。ただし、大きな工場であり、要素技術で考えるのは難しい。
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6│日本がプルトニウム利用で突出することは、政治的セキュリティ上危険で│
│あるとの意見が出されたことに関連して、 │
│・現在の保障措置システム上、通常の商業ベースのプルトニウムを軍事利│
│ 用することは大変困難である。 │
│・海外からの懸念については透明性を確保しつつ進めることや、国際公共│
│ 財として他国と共同で進めることが重要。 │
│・日・米・欧の三極委員会では日本における原子力開発の期待が指摘され│
│ ている。 │
│との意見が出された。 │
│また、これらの意見に対して技術者の楽観論ではないかとの指摘がなされ│
│た。 │
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(議事の概要)
プルトニウム利用の持っている高度な政治性を考えると、高速増殖炉技術、プルトニウム利用で突出することは、政治的セキュリティ上、危険である。「21世紀は原子力の時代」で、その原子力技術で日本が世界をリードするという青写真を描いていると、脱原子力に向かっている欧米から第二のジャパン・バッシングを受けることも考えられる。また、環境団体からは「第二の鯨」として叩かれるおそれもある。国際社会をリードした経験のない日本が、高速増殖炉技術で世界をリードすると考えるのはリスクマネジメントとしても危険と考える。
高速増殖炉を進めることによる海外からの懸念等については、開発を進めるか、進めないかということより、透明性を確保しつつ進めることにより安心につながるものと認識。現在、日本は他国ではやっていないプルトニウムの在庫量のキログラム単位での公表を行っているが、こうした姿勢が評価されるし、安心につながっている。
ジャパン・バッシングの話があったが、マスコミの論調は変わるもの。今、石油の依存度の高い湾岸が危うい状況にあるが、先日、日・米・欧の三極委員会で出された報告では、「湾岸諸国への過度依存は望ましくなく、日本は原子力発電に関する一層の技術開発に貢献することが重要」との指摘がされている。それに応じて、マスコミの論調も変化してくると思われる。
核不拡散の懸念に関していえば、現在のセーフガード・システムと今後の技術的対応では、通常の商業ベースのプルトニウム等を軍事利用することは大変困難であり、核不拡散を表明している国家が軍事利用するのは事実上不可能。
高速増殖炉というのは、核資源の高度利用である。核物質の高度利用は、ウラン238とトリウム232を使うしかない。トリウム232は、純粋な高濃縮ウランと組み合わせて使わねばならず、核拡散上も技術上も問題が多く、ウラン238から生成されるプルトニウムを利用することが、技術的には一番可能性が高い。そうした流れで現在のナトリウム冷却の高速炉が計画されている。
なぜ、高速炉を開発するかといえば、100年のスパンで考えたときに、人類として持つべき技術と考えているからである。現在、各国固有の事情でそれぞれの方針をとっているのは、仕方ないとしても、国際公共財として開発する姿勢を維持していくことが重要。志を同じくする国があれば受け入れ、共同開発することも重要であり、それが国際的懸念の緩和にもつながるのではないか。
国際社会は、他国に対して常に懐疑的である。我が国の原子力推進の体制は「多くの人は自分の見たいと欲するものしか見ない」という言葉に象徴されるような、技術者サイドの楽観論になっていないだろうか。
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7│六ケ所村が結局ゴミ処理場になってしまうのではないかという懸念と、そ│
│れに対する責任のとり方として、六ケ所村に首都機能を移転することが提│
│案された。 │
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(議事の概要)
「余剰プルトニウムを持たない」というのは、大切な国際公約であるが、これにより日本は余剰プルトウムに関し、硬直的にしばられる。たとえば、もしプルサーマルが進まないとすれば、プルトニウムが余り、六ケ所の再処理もオープンできず、六ケ所村は結局ゴミ処理場になってしまうのではないか。それに対する政治の責任のとり方として、六ケ所への首都機能の移転を提案したい。
(2)プルサーマル関係
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1│プルサーマルは、ウラン資源の有効利用、プルトニウム利用技術の確立等│
│から意義があるだけでなく、海外再処理委託により回収されたプルトニウ│
│ムが現実に存在することを考えると、国際的にも緊要な課題であるとの意│
│見が出された。 │
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(議事の概要)
海外再処理委託により回収されたプルトニウムが現実に存在することを考えると、それを我が国の軽水炉で再利用できるようにすることは、国内的、国際的に緊要な課題。
プルサーマルは、ウラン資源の有効利用、プルトニウム利用技術の確立、プルトニウムバランスの観点から意義があるもの。
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2│プルサーマルの安全性について懸念が示されたことに関連し、ウランとプ│
│ルトニウムの核特性の差異には技術的に対応が可能であり、これまでの経│
│験でもMOX燃料の利用が原因となる特異な事故はなく、原子力安全委員│
│会においても炉心に1/3程度までMOX燃料を装荷しても安全上特段の│
│問題は生じないとの判断を示しているとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
プルサーマルは、1960年代にウラン濃縮能力の不足への懸念から研究開発が始められ、現在ではヨーロッパ諸国を中心に相当量の実績がある。
プルサーマルの安全性について、ウランとプルトニウムの核特性の差異は十分に技術的対応が可能であり、現在の軽水炉でも燃焼が進んだ段階ではプルトニウムの核分裂が約30%である。また、これまでにMOX燃料の利用が原因となった特異な事故はない。原子力安全委員会においても、炉心に1/3程度までMOX燃料を装荷しても安全上に特段の問題は生じないとの判断を示している。
今まで安全に運転してきたから、経済性を考えて燃焼度をあげてもいいとか、軽水炉でプルトニウムを燃やしても問題ないから、新たにプルトニウムを入れるというようなやり方は、綱渡りをさせられているような感じ。万が一の事故があったときの責任は誰がとるのか。その点、納得を得られるような形でやらないと立地点では了解を得られず、「使用済燃料ははやく搬出してくれ、ただし、プルサーマルは考えさせてくれ」という現状になる。
プルサーマルの安全性について、確かにウラン燃料とMOX燃料を使った場合の原子炉の特性には差があるが、「その差はさほど大きくない」、「その差を考慮して同じ安全基準を満足するような炉心が設計できる」、「実際それで1500体もの実績があり、燃料破損等はない」という事実があり、これ以上何のエビデンスが必要なのか。専門家が様々な国際学会などで議論した結果、問題ないとされ、それが安全委員会の結論にもなっている。
プルサーマルについて、専門家では安全性に問題ないとされても、これが地域社会に伝わっていないとすると、情報公開の問題として議論しなければならない。
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3│・原子力発電所の立地地域で半数以上の理解が得られないまま、プルサー│
│ マルはやるべきではないとの意見が出された。 │
│・これに関連して、物事は必ずしも多数決ではなく、それぞれの地域で理│
│ 解を得つつ進んでいるものである。プルサーマルについても「ふげん」│
│ における実績をもとに地元に説明していくべき。その際、国が表にでて│
│ 対話していくことが必要との意見が出された。 │
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(議事の概要)
タイミング的には、六ケ所再処理工場から回収されるプルトニウムを利用するより、海外再処理で回収されているプルトニウムを利用する方が早い。それを先行的に軽水炉でリサイクル利用することにより、安心が得られるのではないか。
原子力の立地地域は全国でも最も原子力についての理解が進んでいる地域と思う。新たなところでプルサーマルの安全性を議論するよりは、立地地域でまず理解が得られるのかどうか、半数以上の合意を得られるかということを当面を考えないと、プルサーマルはやるべきではないのではないか。
物事を決める時には、それぞれの地域でいろいろ議論し、データを示しながら、理解を得て、個別具体的に決まっていくのがこの世の姿である。全て多数決で半数以上が合意しないと進まないというのは現実的でなく理解できない。プルサーマルに関していえば、すでに「ふげん」で10年以上の実績があり、輸送、受け入れなどを含めた社会的経験もある。そうした経験を参考にして、地域社会に説明していくべき。
プルサーマルについては、個別の問題だけでなく、国が表に出て立地地域と対話し、積極的に受け入れの努力をすることも必要。
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4│プルサーマルと通常軽水炉の発電コストについて、いろいろなケース、条│
│件で違いがあるが、現時点では、天然ウラン価格が低位で推移しているこ│
│ともあり、リサイクルの方が若干高いということが国際的に共通した認識│
│であることが紹介された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
プルサーマルと通常の軽水炉では発電コストはどれくらい違うのか。
リサイクルするプルサーマルとそうでない通常の軽水炉での発電コストの違いは、再処理をどこでやるか等、いろんなケース、条件で違いがあるが、現時点では、天然ウラン価格も低位で推移していること等を考えると、リサイクルの方が若干高いというのが、国際的にはだいたい共通した認識。
(3)高速増殖炉関係
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1│高速増殖炉の研究開発について、 │
│・高速炉の開発計画は「もんじゅ」事故の教訓や核拡散への国際的懸念の│
│ 増大を配慮しつつ再構築すべき時期にきている。 │
│・資源的、経済的側面から高速増殖炉の開発は多少スローダウンし、研究│
│ 開発に重点を置くべき。 │
│・原子力技術は開発に50年といった非常な時間がかかる。必要なときに│
│ 始めたのでは、リスクが高くなるため長期的観点から継続的な研究開発│
│ が必要。 │
│・諸外国が経済的負担を主な理由として高速増殖炉を撤退した経験を吟味│
│ し、開発する工夫が必要。 │
│との意見が出された。 │
│また、「もんじゅ」については、重要な研究開発手段の一環であり、高速│
│炉の様々な特性を研究開発する場として使って行くべきとの意見が出され│
│た。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
高速炉の特徴はサイクルの柔軟性にあり、また実用化の鍵はより安心できるナトリウム技術の習得にある。高速炉の開発計画については、「もんじゅ」の事故の教訓を生かすとともに、核拡散に関する国際的懸念の増大にも配慮しつつ、再構築するべき時期に来ていると考える。
資源的には、ウラン資源の現状は以前より需給がゆるみ資源的側面では時間的余裕がある。経済的には、高速増殖炉が現状の軽水炉より安くなるとは予想しにくい面もある。そのため、高速増殖炉の開発は多少スローダウンし、研究開発に重点を置いてはどうかとの印象を持っている。
原子力技術は開発に非常な時間がかかる。信頼性を得るには50年くらい必要。50年後の世の中を考えると、原子力の中でプルトニウム利用が大事になってくるという考えも出てくる。その時、始めたのではリスクが高くなるおそれがある。現在、コストが高くても長期的にみて、技術基盤を確保するため、継続的な研究開発が重要。
MOX燃料の取り扱い技術は高速増殖炉に直結するものであり、MOX燃料技術の信頼性を高めていくことも重要。
高速増殖炉に関して、研究開発をしっかりやっていくというのは多くの方の意見であるが、具体的に「もんじゅ」については、研究開発の外だからやめるというのでなく、重要な研究開発手段の一環と考える。高速増殖炉の持つさまざまな特性を研究開発していく場として使っていくべき。そうした研究開発のありよう、目的についてきちんと議論すべき、と考える。
原子力開発は、お金がかかるとの印象をもたれがちで、事実そういう面もあるが、高速増殖炉開発を進める際には、その進め方について工夫が必要。諸外国で高速増殖炉を断念した大きな理由の一つは、経済的負担。日本は、その内容をよく吟味し、その経験を活かすことが重要。
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2│もんじゅの事故は、冷却部分の事故であり、それだけを取り上げ高速炉全│
│体を否定するのは短絡的。また、ナトリウム冷却技術は他にも共通する技│
│術でもあり研究することは重要であるとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
「もんじゅ」の事故は、高速増殖炉技術全体の中で、冷却の部分であり、他の部分はこれまでの実績をみても特段の問題は起こっていない。ナトリウムだけをとりあげ、高速炉全体を否定するのは、短絡的ではないか。また、ナトリウムを高温、高密度での冷却技術として扱うが、こうした冷却技術は、大型加速器、核融合などにも共通の技術であり、研究することは重要。
(4)バックエンド関係
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│高レベル廃棄物問題について、国際協力が理解増進に寄与している欧米の│
│例にならい、アジア地域でも日本が中心となった国際協力プロジェクトを│
│考えてはどうかとの提案がされた。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
高レベル廃棄物問題について、欧米では地下研究施設を国際的に活用するなどの国際協力が社会的理解の増進に寄与しており、アジア地域においても日本が中心となり、国際協力プロジェクトを進めることも考えていいのではないか。
(5)情報公開
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1│・原子力政策について、情報が公開されたり、政策決定のプロセスがより│
│ 分かりやすくなることが大切であるとの意見が出された。 │
│・これに対して、これまで非公開にしてきたものを公開するだけでなく、│
│ 考え方まで含めてトータルでオープンすること、また、説明会なども平│
│ 日の昼だけでなく、土、日、平日の夜などにも行い、一般の方が参加で│
│ きるようにしてもらいたいとの意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
原子力委員会が国民に開かれた委員会となるべく努力されていることが明らかになったという点で、円卓会議の果たした役割は大きく、今後ともこのような開かれた議論の場が提供されることを望みたい。
正確な知識や情報が提供されるとともに、政策決定のプロセスがより分かりやすくなることが大切であり、例えば、原子力委員会の各種専門部会や懇談会の議論を原則的に公開するなどの措置がとられてもいいのではないか。
青森においても、宣伝活動を一生懸命やっているが、ウィークディーが多く一般の人々が出席できない。土曜日、日曜日、あるいは夜間など一般の人が出席できる時間にしてもらいたい。資料にしても、時間にとらわれないで土日でも閲覧などが出来るようにしてもらいたい。
青森県の賢人会議でも、座長から「なぜ青森なのかについてもう一度議論しあおうではないか」との提案が出されている。これは、エネルギー需要ありきで、廃棄物問題はそのうち解決できるということで先送りしてきたからと考えられる。科学技術庁、原子力委員会はこのような状況をよく考えてもらいたい。
青森県が最終処分地にならない書きつけをもらったと言っているが、どのような状況になると青森からガラス固化体が搬出されるか解らないし、ガラス固化体の貯蔵年数がどのように決定されるのかも議論されていない。また、その間本当に安全なのか、30年50年経つとガラス固化体がどのような状態になっているかも示されていない。そのような説明からまず始めてもらいたい。
原子力の透明性という以上、これまで非公開としてきたものを公開するだけでなく、こういうふうに考えていくといったものまで含めてトータルでオープンにすべき。
┌─────────────────────────────────┐
2│情報公開について、商業機密についても基本的に公開とし、ただしこれを│
│使って不当な利益を得た者は厳罰に処すというようにするべきとの意見が│
│出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
技術情報が公開されていないという点について、商業機密という問題があるが、公共安全に関わる判断に使った情報は公開として、ただしこれを使って不当な利益を得たものは厳罰に処すというようにすればいいと思う。
企業機密のバリアを閉ざさないで、公開していくことは、賛成。
┌─────────────────────────────────┐
3│原子力発電の単価について、プラントごとに実績値を公開することが重要│
│との意見に対して、原子力発電所の建設費、運転費は公表資料に掲載され│
│ており、基本的に公開しているとの認識が示された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
原子力発電所の発電単価は9円という見積もり値は公開されているが、この値は疑問である。アメリカは、原子力と石炭火力のコスト比較が詳しくなされているし、プラントごとの実績値も毎年公開している。日本でも原子発電所の発電コストの実績値をプラントごとに公開することが重要。
原子力発電所の建設費は「電源開発の概要」にプラントごとに掲載されているし、運転費は「電気事業便覧」により解るようになっており、基本的には公開されている。ただし、プラントごとの運転費については、その都度の運転状況がありデータ整理等時間がかかるので公開されていない。
(6)その他
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│原子力の推進方策に関連して、 │
│・100年後のエネルギーを論ずるのであれば、3〜5年をかけて、 │
│ 100年先を見越して廃棄物をどうするか等の全体としての議論を行う│
│ べきである。 │
│・原子力の推進側は、「このまま成長していける」ということを前提とし│
│ ているが、このままいけるとは思われない。 │
│・たとえ原子力の安全性と廃棄物処理が100%解決したとしても、原子│
│ 力は無理ではないか。 │
│等の意見が出された。 │
└─────────────────────────────────┘
(議事の概要)
原子力をただちに止めろといっているわけではない。100年後のエネルギーを論ずるのであれば、廃棄物についても、100年先を見越して、廃棄物の発生量、処理方法、さらに、原子力を続けなければならないのか、続けなければならないとしたらリスクは誰が負うのか、エネルギーそのものの消費を抑制する方策はないか等を含めた一種の物と金の100年間のバランス・シートを示した上での全体としての議論を、3〜5年のスパンを持って行うことが必要。
原子力については、技術論の範囲は問題ない。一番の議論は、将来をどうみるかの視点の違いである。「このまま、成長していける」というのが推進の側の前提であり、それであれば、原子力と化石燃料しかないと考えるが、このままいけるとは、思われない。
原子力発電所は仮に100%安全であり、廃棄物を100%処理できるとしても、原子力は無理ではないかと考えている。
《中川原子力委員会委員長退席時挨拶》
- それぞれの立場から、エネルギーと原子力といった問題について熱心にご議論を頂いている最中、誠に恐縮ながら退席をせねばならない時間となり、一言、挨拶申し上げる。
- 後半の核燃料リサイクルの問題についても長らくお取り組みを頂いた地元の方もいらっしゃっており、また、それぞれのお立場でご意見があろうかと思う。
- 今日のご議論はしっかりまた議事録で拝見をして、これからの原子力政策にしっかりと受け止めていく決意である。
《モデレーター閉会挨拶》
- 本日まで11回にわたる円卓会議で様々な議論を行ってきたが、モデレーターとしては、本日を一区切りとして、これまでの議論を整理し、円卓会議としての提言を行うことを考えている。その議論の整理の中で、今後ともこういう形での議論の場というもののあり方についても検討したいと考えている。
- 円卓会議は、本日まで11回行ったが、円卓会議そのものについては、いろいろな方の声を聞き、原子力行政に反映していく場として重要というのが、大方の意見であった。しかし、このまま続けるのは物理的に難しいし、いろいろな問題点もあると考える。そこで、こういうふうに変えてはどうかという議論を現在モデレーターの間で行っている。
- これまでの議論の中で、ある程度議論を詰めることができたものもある一方、詰めることができなかったものもある。今後の円卓会議では論点の明確化をきちんとできるようにしていきたいと考えている。
- モデレーターとしては、これまでの皆様の声を分析し、前向きの提言を行っていきたいと考えている。
《伊原委員長代理閉会挨拶》
- 本日は、これまでに議論が十分尽くされなかった点をテーマに行ったが、沢山の示唆に富んだ意見をいただき、かなり深い議論を行うことができた。
- この円卓会議も本日で一区切りとし、これまでの議論をモデレーターの先生に整理していただくこととなっている。その中で、会議の今後のあり方についても含めて検討いただく。
- 原子力委員会としては、これまで、参加いただいた招へい者に改めて感謝申し上げるとともに、モデレーターの先生方による議論の整理をしていただき、行われる提言の内容をこれからの原子力政策に的確に反映していきたい。
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