平成11年度 第5回原子力政策円卓会議 議事録

平成11年度 第5回原子力政策円卓会議

1.開催日時:1999年10月30日(土) 13:30〜17:00

2.開催場所:福岡SRPセンタービル 2F SRPホールF

3.議題:今後の原子力のあり方について −電力生産地と消費地のあり方−

4.出席者(敬称略,順不同):

 オブザーバー

 お招きした方々

(敬称略,順不同)

5.議事録
【事務局】それでは大変お待たせいたしました。定刻の時間になりましたので,ただいまより,平成11年度第5回原子力政策円卓会議を始めさせていただきたいと思います。本日はご多忙の中,傍聴の方をはじめご参加いただきまして,大変ありがとうございます。事務局より御礼申し上げます。
 なお,開会に先立ちましてお願いでございますが,傍聴の皆様方におかれましては円卓での円滑な会議の運営にご協力賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。
 それでは早速,原子力政策円卓会議モデレーター会議座長の木村孟先生に議事進行をお願いしたいと思います。木村先生は東京工業大学学長を務められた後,現在学位授与機構の機構長という立場で御仕事をされておられます。それでは,木村先生よろしくお願いいたします。

【木村(学位授与機構長)】皆さん,こんにちは。私はただいまご紹介を賜りました木村でございます。本日は,第5回の原子力政策円卓会議にお運びいただきましてありがとうございます。衷心より御礼申し上げます。それでは,まず冒頭,平成11年度の原子力政策円卓会議の主旨についてご説明申し上げます。
 わが国の原子力政策の方向性をめぐりまして,昨年平成10年度に,原子力委員会から要請があり、それに基づきまして第三者的立場から行政の評価,提言を行う機関として,原子力政策円卓会議が設置されました。昨年度は5回の会議を行いまして,その審議に基づき「エネルギー源の中での原子力の位置づけ」「立地地域の振興についての対応」「国民に見える形でのエネルギー政策の議論」「政策決定プロセスの公開」等について提言をいたしました。その中で最も重要な項目の1つが,円卓会議の継続的な開催の要望でした。
 今回の円卓会議,すなわち平成11年度の円卓会議は,この要望にこたえて設置されたものであります。ここでは,国民各層の間で原子力に関する議論を徹底して行うと共に,広くこれを公開し,原子力問題の状況をより明確に国民の皆様に把握していただくため,原子力委員会に,原子力政策の方向について,積極的な提言を行うことを目指しています。
 このような円卓会議の目的が達成されますためには,国民の皆様からの多様な意見がこの円卓会議に寄せられること,また,それについて十分な議論が行われることが重要であると考えています。この点,皆様方のご協力を心からお願い申し上げる次第です。
 そもそも,この原子力政策円卓会議は平成8年度に発足したものです。平成8年度の場合には,この原子力政策円卓会議は原子力委員会の下部組織という形で運営をされましたが,それに対する強い反省があり,この10年度,11年度につきましては,資金は国から出ていますが,運営そのものは5人のモデレーターが主体的に行うという形で運営を進めてきています。また,会議の運営は,民間のシンクタンクが担当することになっています。本年度は,先ほど申し上げました通り今回は5回目ですが,計7回程度開催する予定になっています。
 それでは,まず,本日議論に参加していただく皆様方,ならびにモデレーターについて簡単にご紹介申し上げます。まず,モデレーターのほうですが全部で5人です。原子力発電技術機構特別顧問の石川迪夫様,社会評論家の小沢遼子様,慶應義塾大学教授の茅陽一様,それから私をとばしまして,元中央大学教授の中島篤之助様。
 次に議論にお招きした方をご紹介申し上げます。西日本新聞社の論説委員の井手俊作様,前福岡市長,元労働事務次官の桑原敬一様,九州電力株式会社,代表取締役副社長の肥前洋一様,生活共同組合連合会,グリーンコープ連合理事会室組織委員会担当事務局を務めておられます松田節子様,鹿児島県の川内市長の森卓朗様,前社団法人九州・山口経済連合会,九州エネルギー問題懇話会事務局長をお務めの森山文彦様,九州大学大学院教授の吉岡斉様。
 それから,毎回原子力委員会のほうから,原子力委員の木元教子様をオブザーバーとしてお招きしております。
 以上が本日議論をしていただく方々でございます。よろしくお願いいたします。
 次に,本日も必ず議論の対象になるであろうと思われます,9月30日に起きましたJCOの事件に関しまして,私ども原子力政策円卓会議のモデレーターは緊急声明を出しています。お手元に緊急声明がお配りしてあるかと思いますが,簡単にその緊急声明を読み上げます。私どもが出した緊急声明であります。
 「原子力政策円卓会議モデレーター一同は,今回の事故を衝撃的に受け止めている。我々は,国が事故原因の究明を一刻も早く行うと共に,核燃料製造関連施設を含む,全原子力施設の徹底的な点検と必要な改善策を実施し,その状況を逐一国民に公開することを切に望む」以上です。
 引き続きまして,今回は,少しただいまの事故の関連もありますので,この事故についてのモデレーターとしての説明をさせていただきたいと存じます。まず,最初に,事故経緯について,モデレーターの石川迪夫様にお願いしたいと思います。石川迪夫様はまた,(事故の起きた東海村に隣接する)ひたちなか市にお住まいです。それでは,石川先生よろしくお願いいたします。

【石川(原子力発電技術機構特別顧問)】それでは,お話をさせていただきます。皆さん方ももう新聞紙上でご存じだろうと思いますが,今日議論にあると思いますので,事故の発端,経過,現在の状況をかいつまんでお話しさせていただきたいと思っています。
 まず,9月30日に起きましたJCOのウラン加工燃料施設の事故ですが,これは核燃料を作る工程におきまして,規定の量,これは 2.4kgと定まっているわけですが,それを超えるウラン溶液,約16kgありますが,これを規定違反の方法で処理しようとしたところ,核分裂の連鎖反応を起こす臨界事故に至ったものです。何か臨界事故というともってまわって難しいようですが,原子炉でいうと反応炉事故,暴走が起こったわけです。
 科学技術庁は,事故当日午後に有馬大臣を本部長として,関係省庁も構成委員とする事故対策本部を設置いたしました。また,稲葉政務次官を本部長とする現地対策本部を設置いたしました。さらに,政府は事態の深刻さを考慮して,小淵総理を本部長とする政府の対策本部を設置いたしました。また,東海村,那珂町では,地域住民に対して 350メートル圏内の避難,また,茨城県では10キロメートル以内の屋内待機措置を勧告する事態になったわけであります。
 現地対策本部では,原子力安全委員会の緊急助言組織の助言,日本原子力研究所等の協力を受けまして,臨界反応を終息させるために,中性子を反射核分裂を起こりやすくしている働きをした沈殿槽の周りの冷却水,これは,沈殿槽というタンクの周りの外にジャケットという水があるところがあるのですが,これが中性子を反射して臨界を起こすような役割をしていますので,この水を抜く作業を実施いたしました。これによって,臨界反応は停止したものです。さらに,それを確実にするために中性子を吸収する働きを持つホウ素( boron),この溶液を沈殿槽に注入して,核分裂の完全な停止を確認したわけであります。
 今回の臨界事故におきましては,事故現場で作業をしておられた3名の従業員の方が重度の被曝,最高にして数十グレイという大きな量を受けていますが,この治療のために,放射線医学総合研究所に移送され,現在も同研究所および東京大学の病院等におきまして治療が続けられているところであります。
 今回の事故の原因,これは現在もまだ調査中のところがありますが,またそれの再発防止対策につきましては,原子力安全委員会の事故調査委員会,委員長は吉川弘之日本学術会議の会長ですが,等において現在検討されているところであります。以上が,私のほうからご報告させていただく要点であります。

【木村】ありがとうございました。引き続きまして,モデレーターからもう一方,事故後に現地に行かれまして村長とのやりとりをされておられます中島篤之助様に,簡単に事故後の情勢についてお話しいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【中島(元中央大学教授)】簡単にご報告いたします。今日の会議に,被害地というべきでしょうか,東海村の責任者である村上村長をぜひともお招きしたいということでご連絡いたしました。最初は,30日頃であれば事態も落ちつくであろうから参加させていただきたいということでしたが,どうもいろいろなことがあって無理だというお話がありました。これはいけないということで,10月16日,土曜日でしたが東海村へまいりまして,村長さんに1時間ほど面会して,いろいろお話を伺いました。
 詳しいことは,この円卓会議の重要性については,必ずしかるべき機会に参加して,いろいろ意見を聞いてほしいというご要望があります。もし東京であれば喜んで出るのだが,福岡だということでちょっと2日もあけるのは無理だということで断られてしまったということなのですが,村長さんの意見等を私から下手にお伝えして誤解を招いてもいけませんが,率直に申し上げれば,科学技術庁や行政当局の対応については大変ご不満をお持ちでして,これは今後,いろいろなこういう事故が起こる際の参考にもなろうかと思います。私どもが今回提言をまとめるにあたっても,聞くべき点が大いにあるだろうと思いますので,次回は円卓会議では国会議員さんを呼んで集まる会を考えているのですが,その回はいやだと,そうでなくてゆっくり聞いてほしいということが現地の希望であるということだけを申し上げて,私の報告に代えたいと思います。

【木村】ありがとうございました。この円卓会議では毎回議論を始めます前に,一般の皆さんからいただいているご意見を披露させていただいております。今回は9月27日から10月29日までにいただいたものです。これは実際にこの会場に来て傍聴された方,ならびに会場にはいらしていないけれども意見をお寄せいただいた方の2種類のご意見です。
 私どもとしては,9月30日にJCOの事故が起こりましたので,かなり多くのご意見をいただけるかなと思いましたが,平常とほとんど変わっていません。合計で19通のご意見をいただきました。会場に来られた方が多くて16通,その他の方が3通となっています。性別では男性がほとんどでした。年代別では,これは毎回似たような傾向ですが,60歳代から80歳までの方が多くて,全体の半分近くを占めています。職業別では,これも毎回同じで会社員の方が多いということになっています。地域別では,これもまた同じで,東京や大阪等の電力の大規模消費地が多いという状況です。
 ご意見の内容を簡単に分類して説明いたしますと,1つのグループの意見が,第3回から4回にかけてのこの円卓会議のテーマであった「今後の原子力のあり方について」に関連の意見です。「原子力に関する知識の草の根的な普及活動が必要である」という意見,「改めて日本がどういう国か自己確認し,その上で原子力のあり方について意見をすべきだ」という意見などがありました。9月30日のJCOの事故関連では「JCOの対処のまずさ,ならびに行政の管理の不行き届きに驚いた」という意見,「これから万が一事故が起きた場合には,地域住民の安全第一を考えて万全の体制で取り組んでほしい」という意見がありました。それから,円卓会議の運営の関連では「国,都道府県,市町村の担当課長レベルを集めて開催してみると面白いのではないか」というサジェスチョンをいただいています。また,これまで昨年までお呼びした方からも「どうして福岡へ来たのだ」という質問がありましたが,「北海道,東北などでも開催してほしい」という意見も出ています。いただいたご意見のあらましは以上です。
 この円卓会議では,私が全体の座長ということになっていますが,毎回2名を座長(司会),副座長(副司会)と決めさせていただいて議事進行をやっています。本日の座長は,小沢遼子様,副座長が中島篤之助様ということになっています。よろしくお願いいたします。それでは小沢座長にマイクロフォンをお渡しいたします。

【小沢(社会評論家)】それでは,先ほどもご紹介いただきましたが小沢です。中島さんとご一緒に議事を進めていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
 今日で,この円卓会議は今年度5回目なのですが,当初の2回ばかりは主に専門家の方々を中心に,核燃料の問題とか廃棄物の問題などをお話ししてきまして,あとの2回はもう少し広い立場でいろいろなご意見をいただいてきました。
 今日は,せっかく東海村の村長さんが来たがったのに来られないほど,東京から遠いと言いますか,茨城からは遠いのですが,福岡にまいりましたのは,消費地と原子力発電所が存在する,いわゆる立地とのいろいろな矛盾とか,そういう問題をお話ししようということで,こちらにお邪魔したわけです。
 お招きした方々もそういうことを考慮してお願いしてありましたが,今もお話がありましたように,東海村での核爆発事故というか原子力の暴走事故がありましたので,たぶん立地の方々はそのことについても格別のご意見がおありだろうと思います。いろいろなご意見が出て収拾がつかなくなることも覚悟で進行役を引き受けましたので,今日は忌憚のないところでお話合いをしていただきたいと存じます。
 それでは,いつものようにアイウエオ順に並んでいただいていますので,恐れ入りますが招へいに応じて下さった7人の方々には,5分程度ご自分のお持ちの意見をまず述べていただいて,それの後にそれを巡ってもう一度ご発言,あるいはモデレーターからの発言も含めて討論に入っていきたいと思います。それでは,井手さんからまずお願いします。

【井手(西日本新聞社論説委員)】井手です。このような場で発言の機会をいただいて,大変嬉しく思っています。
 早速ですが,本題に入りたいと思います。今回の暴走事故,JCOの臨界事故についての国民としての受け止め方,衝撃の深さがどういうものであったかということに最初触れたいと思います。このような場で情緒的な表現をするのはどうかとは思いましたが,私はこの事故が起きた当日,1つの風景を思い浮かべていました。
 それは秋の日ざしの中で,1本の大変大きく成長した柿の木が立っている。そこから,真っ赤に熟した柿が,いきなり地面にポタリと落ちて散らばってしまった。そのようなイメージをとっさに思い浮かべたものでした。
 もちろん,柿の木というのは,国内の総発電の3分の1強を占めるに至った原子力発電の全体像です。熟した柿の実というのは,やはり決して地面に落としてはならない,落ちる前に摘み取らなくてはいけない,そのような種類の原子力事故であった。そのような例えとしての風景です。
 私たちにとって何よりも衝撃が大きかった,深かったというのは,その落ちてはならない熟し柿が,もしかして落ちるであろう,落ちるのならこの枝であろうと思っていた枝ではなくて,全く予想もしていなかった枝から落ちてきた,そのような衝撃の深さであったと思います。核燃料加工施設,民間のそのような施設から起きたという,当然,原子力を扱う施設全体が,その隅々に行き渡らせていなくてはいけなかった多重防護フェイルセーフ,そのようなものが全く欠落していた空白域があった。その空白域で起きた。起きてしまったという衝撃の大きさでした。そのような空白があったということは,他にもそのような空白域がもしかしたらあるのではないだろうか,そのような思いが深いということです。
 あと,1つの衝撃というのは,私にとっては海外の論調に触れての思いです。22日に開かれたと思いますが,原子力安全委員会の事故調査委員会で,海外の論調,主に新聞だと思いますが,新聞を要約した内容が配付されていました。
 それをざっと目を通したのですが,非常に各国のあきれぶりというか,驚愕がよく現れていて,その1つ1つの記述に,日本人の1人として打ちのめされるような,辱められたような,非常に惨めな思いにさせられました。
 おそらく,数字では表されないのですが,この臨界事故によって最も深刻で決定的な打撃を受けたのは,戦後営々と築き上げてきた技術大国,日本,その日本に暮らす国民の一員であるという日本人としてのアイデンティティ,ないしは自尊心,こういったものがこの事故によって深く傷つけられたということではないかと思います。
 現在,昨日開会したばかりの臨時国会では,新しい原子力防災法とか,原子炉等規制法の改正が臨時国会で論議されることになっていますが,おそらく政府がいま対応しようとしているこの対応は,今度の東海村でのJCOの事故で明らかになった,すでに明らかになった空白域に対応するものに過ぎないというようなことではないかと思うのです。国民は,国会のこのような対応を見るだけでは,決して安心していないと言えると思います。では,どうしたらよいかということについては,おそらくこれから議論があるでしょうから,これくらいで私の冒頭の発言にさせていただきます。

【小沢】ありがとうございました。それでは,続きまして桑原さん,よろしくお願いします。

【桑原(前福岡市長,元労働事務次官)】私は最近まで福岡市長をしておりましたし,また,いま政府の地方分権委員として,国と地方の在り方について議論をしている立場と,また福岡市は消費地という立場から発言をさせていただきたいと思います。
 自治体の長というのは,そこに住んでいる住民の健康,安全,生命,財産を守る,これは第1義的な役割だと思うのです。そういった意味で今度のJCOの問題も,たまたま福岡市は生産地ではありませんが,そういう視点を忘れないでいくべきではないか。
 明治以来,中央集権システムになっていますので,権限も財源も国が握っていて市町村は何もわからないのだ,すべて国が指図をする,という発想が霞ヶ関にあるわけです。それを直さないと,今度の事故などでも,国と県と市町村の対応の仕方がばらばらであったということもあるわけです。ですから,第1義的に住民の安全を守り生命を守るというのは,自治体の責任であるということを十分考えなくてはならないのではないかと思っています。
 そういった意味で,これから21世紀の国と地方自治体の役割分担,責任というものをしっかり建て直さなくてはいけないのではないかと思います。
 2つ目に,原子力の問題をどう考えるかということですが,私どもは消費地ですから,特に生産地の川内の市長さんと少し違うかと思いますが,人類は1万年とか5千年とかいう長い間の中で,生活を充実するためにいろいろな懸命な努力をして現在あると思うわけです。最初に火を発見したというのは,やはり動物と人間の違いだと思います。
 そういった意味で,水とか火とかいう人間のライフラインを司るものについて,どのように未来永劫に構築していくかという視点がないといけません。例えば化石燃料を含めて全く自給自足をしていない日本にとってどうあるべきかということも十分国民に知らせるべきだし,国民も知っておかなくてはならないと思うのです。
 原子力というのは、いま33.6%くらいの電力の中に原子力電力が占めているというように聞いていますし,原子力というのは,戦争という悪魔の手に渡さなければ,安全な管理の下に平和利用をすれば,21世紀以降の日本人の生存のために必要不可欠なものではないかなと,これも反論を聞きたいと思いますが,そう思っています。この原子力発電というものが,21世紀の日本人あるいは人類の文明生活の維持向上のために不可欠ではないか。もちろん,安全管理はしっかりとした中でです。
 2つ目は,やはり化石燃料は21世紀の後半には枯渇するという話もありますし,また,環境に非常にいろいろな影響を与えていますから,この原子力の活用によって,地球規模の環境問題にも資するのではないかと思っています。
 九州という視点から見てみますと,原子力発電が全国では33.6%と聞いていますが,電力事情は九州は原子力が45%を占めているというわけです。非常にウエイトが高い。もし,原子力発電をやめるということになると,九州の経済は打撃が非常に大きいのではないか。その代替エネルギーをどうするかということを考えないと,九州の経済は大混乱を起こすだろうと思います。
 3つ目に生産地と消費地の関係ですけれども,水とか火あるいは電力というのは極めて人間生活に不可欠なものです。福岡は大きな川がなくて水が少なくない。53年に異常渇水でたいへんな耐乏生活をしましたし,平成4年にも耐乏生活をいたしました。結局,筑後川の水をいただきながら水を確保しているわけです。水を消費している消費地の市民というのは,水のありがたみ,しかもダムを造ることにより何十軒,何百軒が立ち退きあるいは湖水に沈められるというようなことを十分に市民が知っていて,そのありがたい水をもらうという意識と,そのような生産地に対する感謝の気持ちを市民に持ってもらうということだと思います。それにはまず節水です。
 福岡市民の1日の1人の水の使用料はだいたい 330〜 340リットルです。わりと多く使っているのは京都,大阪ですけれども 700リットル近い。おそらく福岡市は日本一の節水都市ではないか。それを電力にひきなおしますと,原子力発電という非常に不安な中で生産をしている地域のことを考えながら,省エネ,節電ということを新しいキーワードとして,今度の事故を契機にしていかなければならないのではないか。
もう1つは,原子力ではいろいろとお金が出ていると思いますが,私どもは一昨年から,市長の時に,何らかの形で水をいただいている自治体に対してご恩返しをしたいと思って,ちょうど水道料金の改定期に当たりましたので,大体トンあたり 162円ぐらいするのですけれども,その中に1円上積みしまして,50銭は一般家庭から1トンあたりいただく,それから一般会計の税金から50銭ということで,1円上積みをして毎年積み立てています。それが1億数千万円になりますけれども,それを水源地の地域振興あるいは文化に応援することとしています。
 JCOの問題については,後ほどまた各論で申し上げますけれども,科学技術庁が通産省あるいは労働省など各省が縦割りになっていて,必ずしも十分な連携が取れていません。私は,原子力行政は一元化して,内閣の直轄の仕事にして,そして命令を一本にしていかないといけないのではないかと思っています。
 第2の視点としては,JCOの生産工程の省略を見ますと,いま非常にリストラその他で経済環境が厳しいので,工程を省略して,あるいは人を減らしてというようなことが,収益とか生産というものに視点が置かれていると思うのですけれども,この問題はそこに働いている労働者の危険な場所である,あるいは周辺に住民が住んでいるという人間の立場から,この原子力行政をもう1回見直さなければいけないのではないかと思っています。
 それから防災対策というのは,実は福岡市も地震とか水害というものについては防災対策を持っていますけれども,おそらくほとんどのところは原子力については意識がないというように思うのです。そのような意味で,防災対策について市町村段階も含めて,国,県,緊急を要するわけですから,一気に指令が行われるようなシステムを作り上げていかないと,再びこのような事故が起こったときに対応できないことを申し上げて終わります。

【小沢】ありがとうございました。それでは肥前さん,よろしくお願いいたします。

【肥前(九州電力株式会社代表取締役副社長)】九州電力の肥前です。原子力発電所の運転,管理を行っている電気事業者の立場から発言をさせていただきます。
 当社では,佐賀県の玄海町に4基,そして本日ご出席の森さんが市長をされている鹿児島県の川内市に2基,合計6基の(原子力)発電設備を持っています。先ほどお話がありましたように,昨年度の九州で消費された電気の45%を原子力発電でまかなっております。
初めにJCO事故について申し上げてみたいと思います。先ほどモデレーターの石川さんからご説明がありましたが,去る9月30日に発生しましたJCO東海事業所の燃料加工施設における臨界事故につきましては,同じ原子力に携わる事業者が起こした事故ということで大変残念に思っていますし,私どもも極めて重大な事態と受け止めています。
 原子力発電所におきましては,今回の事故のようなウラン溶液は存在しませんし,またこれを取り扱う施設もありません。したがいまして,同様の事故が発生するということは考えにくいわけです。私どもは日頃から,そもそも原子力は危険なものという認識に立ちまして,徹底した安全管理を行ってきましたが,今回の事故を踏まえて,原子力は安全が最優先との原則を再認識し,安全管理をさらに徹底するよう各発電所に指示をいたしたところです。また,不適切な手順書等が作成,使用されていないかどうかにつきましても,チェックをいたしまして,問題がないことを確認したところです。
 現在,JCO事故に関しましては,国を中心に原因の徹底究明と再発防止策の確立に向けて取り組んでおられますが,私ども電気事業者といたしましても,原子力のさらなる信頼回復に向けて,今日まで積み重ねてきました安全文化あるいは安全風土を電力会社だけに留めることなく,広く業界全体に行き渡らせる,共有することが大変重要であると考えました。そして,このための新しい組織を設立する方向で鋭意電気事業連合会において検討を行っているところです。
 次に,原子力開発の必要性について若干申し上げてみたいと思います。1997年に京都で開催されましたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)におきまして,わが国は2010年における二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減する目標を定め,国際公約をしたところです。そしてこの結果などを踏まえまして,国の総合エネルギー調査会需給部会では,昨年6月に長期エネルギー需給見通しを改定しました。それによりますと,排出量の削減目標を達成するためには,需要面では大幅な省エネルギー対策を推進,一方,供給面では原子力の開発を最大限進めることが必要とされています。
 また,昨年10月に成立しました地球温暖化対策推進法の基本方針の中でも,地球温暖化対策として原子力の開発を進める旨,明記をされています。
一方,当地の九州の経済ですが,一部に明るさは見えますものの,依然として厳しい状況にあります。しかし,今後10年間の使用電力量および最大電力の増加見通しでは,それぞれ年平均 1.8%および 1.6%の伸びが見込まれています。このような需要の伸びに適切に対応するためには,発電設備を建設する必要がありますが,当社では,供給の安定性,経済性および地球環境問題の対応など総合的に勘案しまして,原子力を中核に石炭,液化天然ガスなどバランスの取れた電源の多様化を推進することとしています。
特に,原子力につきましては,供給の安定性に優れ,かつ二酸化炭素等の環境負荷が少ないことから,電源の重要な柱の1つとして,安全性を最優先に地域の皆さま方のご理解とご協力をいただきながら,開発を推進することといたしています。
ここで,原子力発電所の立地についてお話をさせていただきます。原子力発電所の立地に際しましては,何よりも地元のご理解,ご協力が不可欠ではありますけれども,その他立地要件としまして発電所用地として広い敷地が必要なこと。2つめは強固で安定した地盤を有すること。3つめに大量の冷却水が得られること。このような要件がありまして,これらを考慮しますと,残念ながら狭い国土の日本において,この要件に適した地点を選定するということは極めて難しい。立地場所に非常に限られた制約が出てくるように思っています。
 次に,今回のテーマとなっています消費地と生産地のあり方についてお話をさせていただきます。
 まず,原子力発電所が順調に稼働できますのは,立地地点の皆さまのご理解とご協力の賜物と日頃から大変感謝をいたしております。当社としましても,これにこたえるべく立地地点の地域振興について国とも協力をし,積極的に取り組んでいるところです。すなわち当社は,電源施設の立地にあたっては地域の長期的,自立的な振興に寄与すべく,企業誘致,産業の振興,地域開発への協力,さらには文化活動への支援等に積極的に取り組んでいるところです。また,発電所建設期間中には,資機材の地元発注,あるいは地元からの雇用等に特段の配慮をしているところです。
 一方,エネルギーの消費地におきましては,ともすればエネルギー確保の必要性,重要性について忘れがちになります。そこで当社におきましては,電力の生産地はもとより,消費地を含めた全九州を対象に,原子力広報活動を積極的に展開しています。具体的にはインターネットや新聞広告等による情報提供,あるいは原子力発電所見学会へのご案内,また原子力をテーマとしたテレビ・ラジオでの広報,お客様の疑問にわかりやすくお答えするパンフレットの配付等を実施しています。また,生産地と消費地の交流の一助としまして,全国大で開催されます電気のふるさと自慢市,物産展等の運営にも協力をさせていただいています。
 このような活動を通して,消費地の方々に生産地の気持ちやエネルギー確保の重要性をご理解いただけるよう今後も努力してまいりたいと考えています。
 最後になりますが,原子力の安全には技術的安全はもちろんですが,広く国民の皆様方から,原子力は安全で信頼できると思っていただける,いわゆる社会的安心も重要な安全の1つであると考えています。当社としましては,今後とも安全,安定運転を続けるとともに,情報公開にも積極的に取り組むことにより,立地地点の皆様にさらに信頼され安心していただける原子力発電所を目指していきたいと考えています。以上です。

【小沢】どうぞ,松田さん。よろしくお願いします。

【松田(生活協同組合連合会グリーンコープ連合,理事会室組織委員会担当事務局)】私はグリーンコープ連合で組合員の活動をサポートする事務局をしています。組合員は29万人いるのですけれども,消費地,生産地,それぞれに組合員がいます。本日は,生活者としての立場で発言させていただきたいと思います。
グリーンコープは4つの共生という理念を持っています。「人と自然・人と人・女と男・南と北」という4つの共生を理念に持っています。そして「みどりの地球はみどりのままで子どもたちに手渡したい」というスローガンを掲げ,環境,平和,アジアとの連帯などさまざまな活動をしています。
 活動しているのは母親が主体ですから,グリーンコープには母親の思いが貫かれていると思います。したがいまして,原発に対しては「いのち・自然・くらし」を脅かし,未来の子どもたちに大きなツケを負わせるものである,共存できるものではないという視点に立って,脱原発の取り組みを行っています。本日の資料に中にも少し触れていますので,ご参照下さい。
 この他にも原発に関する学習会を開催したり,チェルノブイリ原発事故で被曝した子どもたちを支援しているチェルノブイリ支援運動九州の取り組みにも連帯しています。
 このような取り組みを通して,私たちは自分の生活が大きく社会と繋がっていることを知ります。電気のこともその1つです。私たちの暮らしの中で当たり前のように存在する電気器具の1つ1つを通して,その背景にある原子力発電や原子力の問題について考えるようにしています。
 さらに,原発を通してエネルギー問題や環境問題へと視野が広がっていっていると思っています。生活の中のほんの小さなミクロのものを考えることによって,大きなマクロ的視点で,しかも関連性をもって全体を捉えることができているのではないかと思っています。結果,自らの生活を見直し,本当の豊かさについて考えるきっかけになり,ひいては大量生産,大量消費,大量廃棄の社会を見直すことにも繋がるという信念を持って日々取り組んでいます。
 このようなグリーンコープの活動に加わる中で,私自身も脱原発に向かいたいという思いが強くなっています。私が原発に対して問題意識を持ったのは,言うまでもなくチェルノブイリ原発事故でした。それ以前にも,大きな事故としてはスリーマイル島の事故とかがありましたけれども,私の中ではチェルノブイリは非常に衝撃的な事故のように受け取っています。
 それは,子育ての真っ最中と言いますか,本当に子どもと向き合い,命と向き合い始めていた頃だったと思います。対岸の火事ではない,人ごとではないという認識の底流にあったのは,子どもの命を守りたいということでした。自分の子どもの命を守ること,それは未来へ命を繋ぐことだと思っています。わが子を通して,わが子以外の子どもの命やそれを取り巻く社会や環境のことなどにも関心を持つようになりました。私の問題意識は,そのような視点からであることを押さえていただきたいと思います。
 チェルノブイリ原発事故以降,日本においても「もんじゅ」の事故や動燃のデータ隠し,今回のJCOの事故など,原発やそれに関連する事故や事件が相次ぎ,小さな事故まで数えると枚挙に暇がないというように受け止めています。というところで,少し問題意識があります。事前配付資料にも少し記していますので,それに沿って少し発言させていただきます。
 私の居住地からは一番近いのは玄海原発なのですが,距離的には離れています。原発に近い所で生活している人たちのことを考えると,本当に大変なのだろうと察しています。原発のある風景の中で生活を営むこと,危険と背中合わせであり,いつ起こるかわからない事故への恐怖心を抱えながら暮らすことについては,思いを馳せるしかありませんが,原発立地地域と原発を推進する側,とりわけ政策を作る側の国の姿勢がひどくかけ離れていると感じています。政策の中に,本当に生活する人間が介在しているのだろうかとか,あるいは立地地域の人々のことが考慮されているのだろうかとか,少しそのようなところが疑いたくなります。
 最近の政府や官僚のあり方を見ていて,その不信感は本当につのるのですけれども,国民の合意をどのような形で形成構築しようとしているのか,本当に血が通わない政策や方法論はとても受け入れたくないと思っています。
 また,科学技術庁や原子力安全委員会,電力会社の広報についても疑問を持っています。データなどをうまく使って,何も知らない国民を愚弄しているのではないかと思うところもあります。推進派からのそのような広報に対し,脱原発派からのデータや情報というものがありますけれども,命ときちんと対峙しようという視点に立ったときに,どのような情報を私は受け取るのかというと,自ずと答えは出てくるかなと思っています。
 次に,原発立地地域への差別という点については,原発はほとんどが都市部ではなく寒村に形成されています。原発によって,立地地域の人間関係に対立構造が生まれ,住む人の心と心の絆が寸断されてしまっているというような話を聞くことがありますが,そのような状況を知るにつけ,電気だけを享受している消費地に住む人間としては,このような状況が本当に許されてよいのだろうかと感じています。また,立地地域には交付金という形で多額のお金が落とされているようですけれども,本当に地域は活性化しているのでしょうか。人々の心は豊かになり,生き生きと暮らせているのでしょうか。
 もう1つ,差別ということでは,私は十数年前に「原発ジプシー」という本を読み,衝撃を受けたのを覚えていますが,原発で働いている底辺の労働者に対する扱いです。その後どのように変わってきているのか,情報を持ち合わせてはいませんが,原発というのは危険を丸抱えせざるを得ない人々が必要だという現実があるということです。
 今回のJCOの事故でも,結局,臨界を終息させるために冷却水を抜く作業を,大量の放射能被曝を覚悟で人海戦術に頼るしかなかったと伝えられています。これは,1人の市民として,政策策定に携わる官僚の方々も,現場を知るということではそのような仕事に関わるような体制をとっていただくと,「原子力ありき」と本当に進めていけるのかどうかということについては,問題意識を持てる状況になるのかなと思ったりもしています。
 次に,原子力を中心に据えたエネルギー政策は高度成長期のものだと捉えています。石油枯渇が叫ばれる中で,石油に取って代わるエネルギーとして,莫大な費用を投入して進められてきたのが原子力です。その結果は,暗澹たるものであったと総括すべきだというように私は思っています。石油や石炭などの化石燃料は,地球が何億年という気の遠くなるような長い時間をかけて作ってきたエネルギーです。それを私たち現代人が,ここ 100年ぐらいのうちに使ってしまいつつあるということについては,未来を担う子どもたちに申しわけなくて仕方がないというように思っています。

【小沢】すみません。だいたい5分ぐらいと思ったのですが,皆さん長いのですが,松田さんは10分経過したものですから,もしどうしてもということがあれば1つ付け加えて,次の議論の時にもう1度ご発言いただけますか。まだ御三方,控えているのです。何かを付け加えて下さって,後に回して下されば。

【松田】私は子どもたちが生きる未来が,本当に豊かなものであってほしいと願っています。地下には放射能の廃棄物だらけ,地上の海岸線は原発の石棺が一杯,このような風景を私は受け入れることができないという視点に立っています。本当にエモーショナルな発言になってしまいましたけれども,あとでまた発言させていただきます。

【小沢】あとの発言でまた補って下さい。お待たせしてすみません。短めと言うと,前の人に言わなくて森さんから言うと申しわけないのですけれども,あとでまたご発言がありますから,なるべく短めにお願いいたします。

【森(鹿児島県川内市長)】私は長く言うつもりでいますけれども,5分間で。

【小沢】恐縮ですけれども,あとで何度でもご発言ができますから。

【森】私はご案内の通り,原発立地の市町村長を代表して意見を述べさていただきたいと存じます。原子力政策の円卓会議にお招きをいただいたわけですけれども,大変光栄に存じますし,このような機会を与えていただきましたことに対しまして,まず御礼を申し上げます。特に今回は,東海村でのJCOの臨界事故後の始めての会議ということで,大変緊張もしていますし,責任の重大さも感じているところです。
 本日の会議のサブテーマである「電力生産地と消費地のあり方」につきまして,立地の立場からいろいろと申し上げてみたいと思っています。全国には原子力のパイオニアであります茨城県東海村や福井県敦賀市をはじめ,現在運転中,建設中あるいは準備中などのさまざまな問題を抱えながら,毎日電力を作っている市町村があるわけです。実際に作るのは発電所ですけれども,実際に電気を作って送っている地であるということです。
 すべての電源立地地域におきましては,わが国のエネルギー事情とその脆弱性や地球環境問題の中で原子力発電の果たすべき役割というものをそれぞれ受け止めまして,地域の振興を願いながら,国のエネルギー政策,原子力行政には協力をしてきているところです。
 立地地域では,建設から廃炉に至るまで原子力施設の安全対策,住民への広報対策,そして防災対策など,他の地域にはない痛みをいつも感じながら,大変な苦労をしているのが実情です。
 また一方では,地方で生産した電気が大都市圏に送られ,産業界の発展,ひいては日本経済の発展に寄与しているというこの事実は,私もまた誇りであり,自負しているものでもあります。
 このような中に9月30日,東海村の燃料加工施設JCOにおきまして,わが国で初めての臨界事故が発生しました。従業員が多量被曝をし,あるいは先ほど出ました決死隊が中に入って水抜き作業をしたという,被曝覚悟でやったというようなこと,周辺住民の皆さん方が避難退避をする事態に至ったということは,まことに原子力行政の関与をしています一市町村長としましても大変残念です。この事故は,長い歳月,これまで培われてきた原子力に対する信頼性,評価を大きく変えるものです。原子力機関に預かる者として,本当にかえすがえすもこの事故は残念だったと思っているところです。
 原子力の利用にあたっては、平和利用は申すまでもありませんが,原子力発電所が立地する市町村としては,住民の生命,財産を守りながら,すなわち安全確保をしながら地域との共存共栄ができるように,地域振興を前提にしながら,いまこの原子力の推進行政にはこれまで協力をしてきていたところです。
 しかしながら,今日考えてみますと,これまで立地にあたって私ども立地市町村が考えていたような,いろいろな要望したようなことが,国において対策が講じられ,措置されてきたかというと,そうではなかったのではなかろうかと考えるわけです。立地地域にとっては,原子力に対する国民の生の声,市民の生の声が直接伝わってきます。原子力発電所とは,建設から廃炉までの間の長い期間のお付き合いということでもあるわけです。
 このような立場から3点ほど簡潔に申し上げてみたいと存じます。
 まず第一は,安全確保です。国の安全規制の抜本的改革をお願いしているわけです。近年,発生しました「もんじゅ」あるいはアスファルト固化施設における火災爆発事故,燃料輸送容器のデータ改ざん,今回発生しましたJCO事故は,原子力に対する国民の信頼を大きく損なったところです。今回ほど,原子力というのは危険であるという印象を立地市町村の住民に与えたことは,本当に否めない事実です。
 最近でも,この事故が発生する前も,使用済燃料の格納容器のデータ改ざん,本市でも今回2基使用済燃料を運びましたけれども,その容器も改ざんされていたというようなことがあって,本当に信用がなくなりつつあったところに,今回追い打ちをかけるような大変な事故になったわけです。
 かねてから,原発立地の市町村の全国組織の協議会がありますが,安全規制の問題,安全管理の問題については,科学技術庁,通産省に対しまして毎回要望を出し,いろいろな面からお願いをしてきているわけですけれども,先ほどお話がありました通り,空白の地域があったと,原子力発電所の関係だけについては一生懸命いろいろな審査をし,毎年チェックをし,点検をしてきたけれども,いわゆる見落としのところがあったということです。まだ,他にもそのようなことがあるのではないかということは,私どもも想像はできませんけれども,今日考えているところです。
 安全規制の部門につきましては,何とか原子力安全委員会等を今回独立した1つの組織の中において,独自のスタッフをそろえて,米国の原子力規制委員会NRCなどと同じような組織を作っていただくことが,これまでの信頼回復に繋げていけるのではなかろうかと思っています。航空機事故がありましたときには,運輸省の中に別個に航空機事故調査会,あるいはまたいろいろな取引関係等では公正取引委員会等でチェックをしていく機関がありますから,そのようなことにでも早く手掛けていただきたいと思う次第です。
 原子力防災についてです。災害対策基本法の中で原子力防災は市町村がやりなさいと,毎回10年ぐらい私たちも原子力防災というのは,五感に感じない特殊な災害であるので,ぜひ新しい法律を,災害対策基本法の独立法を作って対処していかなければ,いざというときには市町村では対応できませんと言い続けてきました。
昨年4月24日の原子力関係の立地市町村の総会の第2部におきまして,私がこの防災関係につきまして述べたわけですが,過去において水島コンビナートの事故が発生したときには特別な法律ができました。また,東海地震において東海地震の発生後,特別の法律ができました。そして平成7年大きな阪神・淡路大震災が起きて,また地震に対する特別措置法ができました。
 このような大きな原子力発電所の事故が発生しなければ,国は特別措置法を作る考えがないのかということを,昨年強く申し上げたわけです。今回のJCOの事故が発生しまして,急きょそのような対策を講じられていまして,私どものほうにも,このような方向で法律を新しく作ることで準備をしており,次の通常国会に提案していきたいという話を受けています。けれども,事故が発生しなければそのような措置をしない,そして市町村だけを前面に出して「やりなさい。やりなさい」と言ってきた国の態度に対して,非常に怒りを持っているところです。
 今回,東海村の村長が大変なご苦労をなさいましたこと,全く私も原子力の火を日本に最初につけたところの科学の粋を集めた村であるというように考えていましたが,本当に足元で足をすくわれたような感じがします。
 そのようなことで,原子力防災の特別措置法を今回一気に作っていただきまして,そして災害対策に関する関係についての財源的な問題も含めて,措置をしていただきたいというように考えているわけです。
 また,私どもには原子力発電所が2基あります。また全国に51基の商業用の発電所があるわけですが,できているところはこれと共存共生していかなければなりません。したがってそのためには,電源三法の関係をもう少し見直して,この際,思い切って優遇措置をしていただかなければ,これから地球温暖化の問題でいろいろと環境問題の中で改善をしていかなければならない,また化石燃料等限りがある問題があります。そのようなものを解決していくためにも,しばらくはこのエネルギーに依存しなければならないと思いますが,そのためには立地市町村,これから増設をされる所,新設をされる所があるかどうかわかりませんけども,それらにも思い切った対応をしなければ,小出しではもうだめだということを申し上げておきたいと思います。
いずれにしましても,私どもも立地している以上は,この既存の分については30年,40年,場合によっては60年ぐらいは持つであろうといわれています発電所と,また運転が終わったらそれを取り壊して,廃炉になっても取り壊して,その後までも一緒に付き合っていかなければならない大きな問題を抱えているわけです。使用済燃料の問題等もあります。プルサーマルの問題もあります。いろいろな問題がありますが,国はこの際思い切って政策を打ち出していただきたいと思う次第です。
あとはまた次の段階で申し上げたいと思います。

【小沢】ありがとうございました。それでは森山さん,お願いします。

【森山(前社団法人九州・山口経済連合会,九州エネルギー問題懇話会事務局長)】森山です。お手許の資料5です。「お招きした方々の発言要旨」に入っていますが,この4ページにあります。「原子力への誤解を解くために我々は何をすべきか?」という少し大仰なタイトルを付けましたが,かいつまんでご説明いたします。
 初めに申し上げたいことは,今回のサブテーマが「電力生産地と消費地のあり方」,これはそれぞれの住民が原子力をどう判断すべきか,「判断すべきか」が含まれています。私に言わせると,これは少しおこがましいのではないかと思っていますので,まず一般の国民が原子力発電をどう見なしているのか。かなり誤解をされているのではないか。その難問をどう解けばよいのか。ということを踏まえて考えてみたいと思っている次第です。
 それで以下の3本の柱を立てたわけです。
 「1.原子力発電は,本当に要らないものなのか?」原子力発電というものは単に原子力のために,原子力屋のためにと言いましょうか,電力会社のためにと言いましょうか,そのために存在するものでは決してなくて,無資源国の日本で使うエネルギーを確保する供給手段,その中の選択肢の1つに過ぎないのです。このような認識をもう少し広く持ってほしいと思います。
 一般的に世間では,太陽光・風力,新エネルギーに大きく期待しています。私もこれは大いに開発できたらよいと思いますけれども,そのようなもので膨大な需要自体をどう賄うのか。問題の中東地域に過度に依存しています輸入石油を,将来ともどう安定的に確保していくのか。そちらがより重要ではないかと思います。
 さらに地球環境問題の中で最も大事な温暖化対策,これは皆さん色々おっしゃいますけれども,運輸部門,われわれも含む民生部門で遅々として進展していません。そのような状況を考えますならば,せめてエネルギー部門だけででも炭酸ガスを出さない発電を優先すべきではないかということです。
 「2.原子力発電は,どれほど危険なものなのか?」先ほどから何度もお話が出ているJCOの事故,これは当然原子力発電所には直接的には関係はありませんけれども,いわゆる原子力事業での出来事ですし,ずさん極まる管理ミスというよりも,管理不在みたいな感じに受け止めていますが,その意味から考えましても,原子力産業全体での原子力安全文化の不備がどうも明らかになったのではないかと思っています。
 しかしながら,一般国民のほうでも,原子力発電所における安全確保の実態をよりよく認識してほしいと思います。いわゆる反対派の人たちがおっしゃる「安全神話」,何かあると「安全神話が崩壊した」とおっしゃいます。ないしは彼らが「危険だ,危険だ」と「危険神話」を言われます。そのようなものでも単に言葉の上だけでの問題ではないかと思っています。
 より根本的には,少し難しい話を持ち出して恐縮ですが,有名な「利には害をまじえて考えよ」という「孫子」の兵法がありますし,まさに現代社会を覆っています私的安楽を追求するという風潮を排して,「現に存在しているものの有難さ」をまず考えるべきではないかということです。
 「3.原子力発電を,社会にどう組み込むべきか?」いわゆる反対派の人たち,ないしはその対極にある開発側がそれぞれ自己主張を並べ立てても,問題はまったく解決しないと思います。エネルギー環境問題というものは,国民を代表する国会でこそ徹底議論をすべきです。
 しかしながら,それが現在まったく機能せず,なおかつ将来ともこれが期待できない以上,さらにいうなれば供給サイドによるエネルギー需給計画が信用されていない現状を打開するには,むしろ需要サイドから計画をお作りになったらどうか。そのようになりますと,それぞれデータもあまりないでしょうから,それに対しては関係諸機関は情報提供で十分な協力をし,マスコミはその検討過程を具体的に検証して逐一正確な報道をしていただき,得られた判断を国は政策に反映させる覚悟が必要ではないかと思う次第です。
 この3番目に関しては,私が以前,新聞に投稿した論文も後に付けていますのでご覧いただけたら有難いと思います。以上です。

【小沢】ありがとうございました。最後になりましたが,吉岡さん,お願いいたします。

【吉岡(九州大学大学院教授)】吉岡です。私は円卓会議では常連で,昨年度は5回中3回出席したのですけれども,今年度は初めてです。お招きいただきましてありがとうございます。
 今日はプリントを用意したのですけれども,東海村臨界事故に関するプリントを用意しました。全部で3枚からなっています。電力生産地と消費地のあり方についても,手持ちのプリントがあるのですけれども,これについては第1回の報告では遠慮をして,時間もありませんので,JCOの話だけに限定をして,なるべくかいつまんでお話したいと思います。
 私は円卓会議の常連としてのある種の価値観を持つようになりました。つまりどういうことかというと,原子力政策についてのできるだけ具体的な注文を原子力委員会に出して,できるだけ採用してもらうということ。われわれは非常にお金をかけていますし,招へい人の人もただ同然で引き受けているわけですけれども,これだけ努力してやっているのだから,原子力政策に反映しなければいけないというように思っています。ますます強く思うようになっています。
 そこで非常に具体的に9点の提言,注文というものを作ってみました。これについて要約しながら説明をしたいと思います。
 第1番目としては,事故経過を詳細に検証し,それに関するすべての情報を公開すること。これに関しては実態がいまだに科学技術庁としてもつかみきれていませんので,断片的なデータしか出ていませんけれども,これについてもきちんとした報告が必要である。航空事故調査委員会を例に出しましたけれども,将来的には原子力事故調査委員会の常設化ということが必要ではないかと思っています。
 2番目ですけれども,放射線・放射能がどれだけ発生したのかということで,いろいろな推定が行われていますけれども,数百テラベクレルとか数千テラベクレルの可能性すらあるぞというようなことを言う人もいます。これはわかっていないのですけれども。もしそうだとすると,いまのレベル4という暫定値をレベル5にしなければいけない。この点についても,できるだけ正確な推定を行って発表してほしい。放射線被曝量についてもきちんとした推定をしてほしいというのが,2番目です。
 3番目ですけれども,国民世論の動向を正確に把握し,それを政策に反映させること。これはテレビとか新聞で緊急の世論調査が行われて,国民の3分の2程度の人が原子力発電の拡大に否定的な意見を述べました。それ以前に,8月に発表された総理府の調査では,拡大に否定的な人は半分程度だったのですけれども,それが3分の2に達しました。このように,国民世論は不連続な形で否定的な方向に傾きました。これが将来的に戻るかどうかということはわかりませんけれども,これを踏まえて十分に注意して,本格的な調査をさらに続けてほしい。場合によっては国民投票の実施ということも考えられないではない。
 一番重要なことは,この円卓会議が単なるアンケート調査以上に重要な役割を果たすわけで,円卓会議が国民の世論を吸収して,それを政策に提言をする。文句を言ってすみませんけれども緊急声明のメッセージの中にそれも入れるべきではなかったかと思っています。
 4番目ですけれども,国際世論の動向を正確に把握する,それを政策に反映させることということです。新聞記事でひどいことが書かれているということは私も承知していますけれども,私に個人的に外国の新聞社から来た問い合わせなどによると,プルトニウム利用計画の将来と関連付けてこの事件の意味を問う意見が,比較的多く海外から聞かれています。これについて,海外の意見を十分に取り上げなければいけない,吸収しなければいけないと思います。
 これも非常に具体的な注文ですけれども,いままでの円卓会議は国内的な円卓会議だったわけですけれども,国際原子力政策円卓会議というのを何回かにわたって開くべきではないか。それで核不拡散問題とかさまざまな核問題に関心を持つ外国人も入れて議論をしたらよいのではないかというのが第4点です。
5番目は,防災対策。これは川内市長が言われた通りですので省略します。
6番目は,安全規制です。これについては,原子炉等規制法を改正する動きがあると思いますので,それは結構なことだと思いますけれども,川内市長さんがおっしゃったように原子力安全委員会を大幅に強化して,多数の専門スタッフを揃える必要があるのではないかということです。
7番目は,公正かつ十分な損害賠償を実施することということです。原子力損害賠償法が今度初めて発動される見込みであるわけですけれども,これについてだれが払うかということが問題なのです。結局,十分に支払わなければ原子力に対する国民世論はますます離反していくだろう。どこにも立地ができなくなるだろうということです。被害は風評被害も含めて全面的に保障するべきだと思いますけれども,事業者が保障すべきだというのが私の考え方です。
というのは,原子力損害賠償法の考え方によりますと「被害者の保護を図る」というのが重要で,かつ「原子力事業の健全な発展に資する」ということがありますけれども,いま事業者に代わって国が払ったのでは不健全な発展,モラルハザードを助長するということであって,払うべきではない。なお,将来的には「原子力事業の健全な発展に資する」という条項そのものを削除するのが妥当であると思っています。
8番目ですけれども,現在の損害賠償制度を全面的に見直すことが必要であって,賠償措置額を10倍ぐらいに上げる。それを超える分についても,原子力産業が相互扶助制度によって,10兆円程度ぐらいまでは原子力産業が支出するという制度にしてはどうかというのが,この事件をきっかけに言い始めた主張です。原子力事故の場合にはそれを超えるひどい災害というものが予想されますけれども,その場合にのみ政府が出てくるべきだろうということです。
なぜ,このようなことを言うのかというと,原子力開発が始った頃は原子力というのはまだまだ危ないものであって,しかしながら将来のホープであるから育てなければいけない,だから事業者を免責するのだという観点が強かったと思うのです。けれども,いまとなっては原子力はホープでもなくなった,かつ事故のリスクというのも他の産業に比べて高いものではなくなったから,他の産業並みに基本的に事業者が面倒をみるという制度がよいのではないかというのが,8番目です。
最後ですけれども,「原子力を偏愛する」という書き方をしましたけれども,いままではさまざまなエネルギーの中で原子力に対してあまりにも入れ込みすぎていたと思うのです。例えば,研究開発費をみても,エネルギー研究開発費全体の8割が原子力にいっているとか,あるいは電源三法をみても,火力発電よりも原子力発電が何倍も単価が高いとか,そのような形で非常に偏愛をしてきたわけですけれども,他のエネルギー並に改める必要があるのではないかというのが第9点目です。以上です。

【小沢】ありがとうございました。この第5回の円卓会議の開催が決定しまして,それからお招きする方々がレジメを出して下さった方もいらっしゃった後で,たぶん東海村の事故が起こったりしたのだと思います。ですから,やや事前のものといまお話しになったものと違う方もいらっしゃるし,あるいはそのままお話しになった方もいらっしゃいますし,どのような方向に持っていくべきかを討論したいと思います。
 恐縮ですが,普通でしたらここからすぐに15分程度の議論をするのですが,ここで少し休憩をいただきます。いつもよりも早めなのですけれども,20分の休憩をいただきまして,これまでにお話しいただいたものを,前半にもしかしたら事故の話が出て,後半はもう少し消費と立地の話が出るかなと思ったのですが,いろいろと交じって出ていますので,整理をさせていただいて後半に持ち越したいと思います。
そのようなわけで,いまは3時10分前ですから,3時10分までお休みをさせていただきます。たぶん表にコーヒーか何かがあると思いますので,皆さんもお休み下さい。

【中島】初めて今日円卓会議にご出席の方もいらっしゃいますが,お招きした方々双方になるべく議論をしていただくことをわれわれは歓迎しますので,いま聞いておられて,どなたにでもどうですかという質問をしていただいて議論が発展するように,後半の部でお願いできればと思います。それでは休憩に入りたいと思います。

【事務局】それではこの辺で休憩に入らせていただきたいと思いますが,円卓の先生方が一旦ご退場になる間に,事務局よりお知らせがございますので,恐れ入りますが傍聴の皆さま方はそのままご着席下さい。
初めに会議の再開でございます。繰り返しになりますが,3時10分とさせていただきます。それまでにご着席下さいますようお願い申し上げます。トイレは出口を出まして左手奥にございます。また,ロビーでドリンクサービスをしておりますのでご利用下さい。
冒頭にも申し上げましたが,バッジのほうは会場内の再入場のときに確認をさせていただく場合がございますので,胸のほうにご着用願います。また,会場内は基本的に禁煙となっております。お煙草のほうはロビーを出られて右手もしくはエスカレーターを降りて1階でも喫煙をすることが可能なスペースがございます。それではいまから20分間休憩に入らせていただきます。よろしくお願いいたします。

−−休憩−−


【事務局】それでは円卓の皆様方もご着席になられましたので,本日の原子力政策円卓会議,後半の議論に向けて再開させていただきたいと思います。小沢先生,よろしくお願いいたします。

【小沢】それでは会議を再開いたしますが,吉岡さんのほうから何か追加の資料が出されるというお話を聞きましたが,そうですか。

【吉岡】はい。電力生産地と消費地のあり方についてというのを,至急コピーしてもらっていますので,できあがり次第(説明したいと思います)。

【小沢】はい,わかりました。コピーを製作中だそうですから,もうしばらくしてできあがりましたらお手元に配るようにいたします。
 それでは,前半の部分では皆様からお話をいただきましたけれども,これを中心に議論をしてみたいと思います。最初に,どなたかに対するご発言とかご質問とかありますか。どうぞ。

【吉岡】桑原さんにお伺いしたいのですが,原子力行政を一元化し内閣直轄にすべきという考え方を述べられましたけれども,私も一元化ということには基本的に賛成するものであります。ただ,私の場合は,昨年度もしつこく言ったわけですけれども,原子力行政の一元化ではなくて,エネルギー行政の一元化,原子力もその1つのアイテムとして他のエネルギーと対等の資格で評価し,予算を支出すべきだという見解を持っているものですが,桑原さんはどのように思われますか。

【桑原】特に原子力だけを取り出して内閣にという意味ではなくて,今度のJCOの教訓を生かして考えると,私が言いたいのは,国と県,市町村との連携プレー,そしてまたエネルギー問題は通産も扱っていますし,労働者の問題は労働省が扱っているし,縦割りになっているのです。そういった大きな意味で原子力の位置付けという問題も含めて,エネルギー問題について,内閣で一元的に議論をし、政策を立案していくということに広げて,決して私はおかしくないと思っています。
 ただ,進め方ですけれども,JCOの災害の問題と原子力発電の今後のあり方とをごっちゃにやると,国民から見たら,あの延長線上に原子力発電があるのだと取られますので,いまの話のようにエネルギー問題をどう取り扱っていくかという論点と,非常に残念なあのような事態にどのように対応していくかと2つに分けられたほうが,最後は1つになってもよいけれども,そんな感じです。

【小沢】こういうことだろうと思います。この円卓会議などでも議論してきたのが,これまで原子力発電所そのものです。例えば「もんじゅ」のときもそうだし,そこでの情報公開はどうなっているかとか,安全管理はどうなっているかということは,そうとうしつこく論じられてきたわけですが,今度はちょっと,先ほど井手さんがとてもお上手なことをおっしゃいましたけれども,「こちらの枝だと思っていたら,全然別な所の枝から柿が落ちた」と,そういうことなのだと思うのです。
 しかし,私がなぜそのことについて分けようとしなかったのかというと,やはり皆さんが注目していたり,理論の的であった原発というものが実は非常にもろい,いま言った1施設のバケツ,このバケツに支えられていたという関係は否めないと思うのです。これがやはり原子力政策全体の問題であることはまぎれもないわけで,そうすると,今日は立地と消費地の問題とはいえ、やはり政策の問題ですから,ごっちゃにしているつもりはないのです。ごっちゃにしているつもりはなくて,正直に申し上げれば,けっこう立派な施設を私どもも見学させていただいているのですが,今回もこちらで見学をと言われていたのですが,しかしバケツがひっくり返っている所で事故を起こしているのに,何か立派な建物を見てもいたしかたあるまいと思って,私は今回は見学をしなかったのです。これは,全体の問題だろうという気がするものですから。分けているのは皆さんの中で,あれはバケツに象徴される問題だというのはわかっていると思うのですが。

【桑原】どうも原子力行政というのは,エネルギーを含めますが,ハードの問題できちんとしているのだけれども,ソフトの問題で非常に手抜きになっている。ですから,テーマが違うような気がするのです。ソフトがしっかりしていないからこんなことが起こったわけですね。最後は1つになるけれども,ごっちゃにすると,あの沿線上に原子力発電があるのだと,一般の国民に誤解を与えたらいけないのですよ。

【小沢】そうですか。その辺,井手さんどうでしょう。

【井手】いま議論が出てきているように,原子力,特に安全政策について,やはり少し話し合ってみたい,あるいは話を聞いてみたいと思っています。
 森さんのほうからも米国の原子力規制委員会NRCのような強い発言力,あるいは権限,組織力,ともに優れて,独立性にも優れている,そういった組織の安全監督官庁というのでしょうか,規制監督庁をやはり作るべきではないかというご識見があって,私も大変それには同感です。
 やはりJCOの事故によって,これまでこの円卓会議でもずい分議論されてきたこととは思うのですけれども,そのあり方を改めなくてはいけないという議論,それがやはり決定的に今度の事故によって,やはりわが国の原子力安全行政は今度の事故で破綻をきたした,もうすっかり破綻をきたしていたことが明らかになったのだという厳しい認識から出発しないことには,おそらく何も始まらないのではないかという気がしています。
 それで,中央省庁の再編というのが迫っていますけれども,その中で原子力委員会と原子力安全委員会は,新しく設けられる内閣府の中に置かれる。私は詳しく勉強してはいませんけれども,その機能については,どうも現在の延長線上に続けられているような気がするのです。それでよいのかということを,今度のJOCの事故は突きつけたと思っています。中央省庁再編というのは迫っていますので,議論を急がなくてはいけないという気がしているのです。以上です。

【桑原】ちょっといまのに異論があるのですが。JCOの問題が起こったから原子力安全行政が破綻をきたしたというのは,それは速断ではないかと思うのです。つまり,犯罪行為に近いようなことを,手抜きをやって起こった問題が,すべての燃料工場で行われているという議論であるならば,私はきちんと防災問題でやるべきだけれども,原子力発電所の安全問題はどうなっているのだという議論をしてもよいと思いますけれども,だけど一緒になって議論するのはおかしいのではないか。分けて考えなければいけないのではないか。

【小沢】そうでしょうね。そうだと思います。ですけれども,今日はどこの発電所が大丈夫か,どこの施設が安全かを議論しているのではなくて,もう少しトータルに議論をしたいと思っているものですから,特に立地の関係の方々が事故から受けた影響とか,そういうものを含めて議論をしたいと考えているものですから,このまま進めさせていただきます。
 いまの井手さんのご意見に対して,例えば森山さんなどはどのようにお考えですか。お二方のご意見,破綻したというご意見と,いやそうではない分けろというご意見では。

【森山】いまの井手さんと桑原さんのやり取りを聞きます限り,私は桑原さんのご意見に賛成です。JCOで原子力行政が破綻をしたというようなことは,これはちょっと考えられないということだと思います。

【小沢】他にどうでしょう。はい,どうぞ。

【肥前】これで原子力行政が破綻したというのは,いかがなものか。私どもの原子力発電所はハード面,ソフト面,これはもうご覧いただいた通りでして,かなり厳しい管理の下で,規制の下でやっていますから,今回バケツの話が出ましたけれども,あれをもって原子力行政全体が破綻したと言いきるのはどうかと思います。

【井手】よろしいでしょうか。

【小沢】どうぞ。

【井手】破綻という言葉がエキセントリック過ぎたということであれば,こだわるものではありません。ただし,原子力安全委員会の中には原子炉安全専門審査会というのがあります。もう1つは,核燃料安全専門審査会というのがあります。かなり専門性の高い審査会です。おそらくその2つの審査会の中で,いろいろな場,原子力の安全に対する理念というのが,おそらくずれがあったのではないかという気がしているのです。それを総括して,取りまとめていくべき原子力安全委員会本体が,その理論のずれというか,どちらが甘かったかということも含めて総括しきれていなかったという意味で,全体の破綻というよりも,やはり内部に矛盾を生じていた,それに気づかされた,そういう意味で,そういう文脈で言ったつもりです。

【肥前】わかりました。そういう面ではたしかに漏れといいますか,原子力行政に,盲点があったということは言えると思います。ただ先ほど申し上げましたように,同じ原子力を扱っている者として,私どもの安全文化というかそういうものを原子力産業界が共有して,全体の安全のレベルアップを図っていきたいと強く思っていまして,新聞等に出ていますけれども,ニュークリアセーフティネット(仮称)という組織を作りまして,とにかく信頼いただけるように努めていきたいと思っています。

【吉岡】井手さんの「JCO事故によって原子力行政が破綻をきたした」という言葉は,非常に文学的な言葉であって,私としてはあまりそういうことを議論しても仕方がないのではないかと思っています。そういう破綻したか、していないかを議論するためではなくて,改革すべき点というのがすでにたくさん出てきているわけです。それを私はここに書いてみたわけで,たしかに安全審査というのがそういう小さい施設,少量のウランを扱う施設については非常に油断があったとか,あるいは損害賠償とか防災についてもうまく整備されていなかったというような,そういうさまざまな改革の課題というのが浮き彫りになっているわけで,そのことを議論すればよろしいのではないか。
 それで,確かに原子力政策というのは改めるべき点が非常に多くあるということがわかったということで,そういう意味をこめて「破綻を来した」と表現するならば,その表現には一応理解はしますけれども。
 やはり,変えるべき点が非常に多いというところが重要であって,その点でJCO事故と原子力政策とを分けて論ずるというのは不可能であって,JCO事故を受けとめてどのようにしなければいけないかということを,われわれはきちんと議論すべきだと思っています。

【桑原】ちょっといいでしょうか。

【小沢】はいどうぞ。

【桑原】専門的なことはわかりませんけれども,原子力委員会の審査というものが前提にしていなかったという議論がありますけれども,そのへん専門的でないから教えていただきたいのだけれども,計量規制にしてあったですね,貯塔に入れて2.何kgしか入れられない,それを16kg入れたという,沈殿槽にバケツでいきなり入れたという。そういうことは審査の時には前提にしていなかったわけですね。ですから,審査が悪いのではなくて,出してきた書類と実行したことが違うわけですから,だから科学技術庁がおかしいとか,審査委員会がおかしいというのは議論にならないのではないでしょうか。
 それをもう少しフォローして,現場の労働者にそういう資格を持った人がいたのか,その主任者がどういう指導をしたのか,そこまで入っていかないと,ただ書類審査のところが前提していなかったというのは,前提していなかったような工程になっていたわけですから,それを犯罪的な行為でやめたわけですから,それで審査が誤っていたというのは,ちょっとそれはおかしいのではないか。だから私は,分けろといっているわけです。

【中島】ちょっとよろしいですか。

【小沢】どうぞ。

【中島】これは桑原さんがいま言われた通りなのですけれども,構造的原因ということで考えますと,背景には,結局1つは通産省と科技庁が縦割り行政で別れている,つまり,通産省は産業政策を握っているわけです。ですからJCOのような会社を育成するのかどうかという点で,これははっきり申し上げれば,九州電力さんのほうは三菱ですよね。PWRです。三菱は全部やっているわけです。UF6(六フッ化ウラン)から最後のところまで全部,三菱原子燃料でやっている。ところがこちらのほうは,東電さんのBWRの燃料が実は2つに分かれているわけです。しかも,それは外国のほうは,いまUF6からいきなり転換してUO2(二酸化ウラン)にするようなプロセスを開発してしまっているわけです。つまり,JCOが技術革新に遅れているのです。ですからそういうことは,技術立国ということを標榜している日本としては非常に情けないことだったと私は思っているのです。
 その原因というのは,そう言っている電力さんに間接的な責任があるわけです。コストを下げろというようなことを言う。外国との競争のためにコストを下げろというようなことを言う。JCOはこの数年間で人員は半減しているわけです。大学卒の技術者は初め数十人いたのが20人しかいないわけです。そういう中でコストダウンをさせられると,ああいうことが起こる,それは構造的原因だと私は思います。
 やはりそこまで目を届かせて,今度調査をしてほしいと思っているわけです。それをしないと,井手さんが言われたように,とんでもないところから柿が落ちたから俺は関係ないよ,ということでは決して済まないです。今度の事故の結果日本の原子力は,私など円卓会議を去年からやっていて,ああまた無駄になった,という感じがつくづくしましたから。

【肥前】いま私の会社の話が出ましたから,ちょっと補足させていただきますと,私どもの会社は,三菱原子燃料と原子燃料工業という2つの会社に出しています。三菱原子燃料は再転換と成型加工を一緒にやっていますから,ここら辺はよかったのではないかと思っていますが,原子燃料工業は再転換の部分をJCOに委託しておりまして,だいたい30%ぐらい原子燃料工業でやっていますが,どうもそこが一貫していないものですから,安全意識面からちょっと……。

【中島】BWR関係はどんどん外国から買うことが増えているのです。そういう点は通産省もそこまで目が届いていなかったと私は思います。それと,ですからそういう意味では原子力委員会にも責任があって,原子力委員会がそこまで,やはり日本の原子力発電所という非常に複雑な技術的構成品を安全にするためには,産業機器基盤にまで目を配ってきちんとしないと,それこそ井手さんのおっしゃるように,とんでもないところから柿が落ちることになるというのが,私が今度のJCO事故について痛感したところです。
 それからいわゆる昔はそういうことをおっしゃらなかった電力さんが,やはり最近自由化ということで,かなりコストを下げろというようなことを,やはり二次,下請けの会社に言うと,そこからその下請けにさらにコストが押さえろという要望が行く。JCOというのはその意味では孫請けぐらいになりますか。BWRの場合であれば,Japan Nuclear Fuelという会社が全部やっていますけれども,その下になりますから。
 そういう構造的なこともやはり今後きちんとしないと,はっきり言えば,せっかくの国民と相当苦労して築き上げてきた信頼関係を,バケツ一杯で崩されたことは事実なのだ,と私は思うのです。

【肥前】ただ,電力会社のコスト低減がそういうことにつながったと言われると,私どもは非常に辛いわけですね,はっきり申し上げて。

【中島】はい。

【木元(原子力委員会委員)】小沢さん,ちょっと一言よろしいですか。

【小沢】はい,どうぞ。

【木元】いま中島さんが原子力委員会とおっしゃったのですが,原子力安全委員会がこれは管轄しています。それで少し経過だけをお話しさせていただくと,原子力委員会も責任を感じておりますし,もう少しチェックしなければいけないという提言を委員会としても出せるだろうと思っています。先ほどおっしゃったように,今回あまりJCOばかりにこだわっていても,別の時点でのお話ができないのは大変残念なのですが。
 1つ事実だけを申し上げますと,JCOへのチェック,これは間宮さんという科学技術庁の原子力安全局長が国会でお話しなさったことです。JCOへのチェックは「チェックをしなければならないのは,運転状況をチェックするのではなくて,施設や保安措置が中心だった」ということをおっしゃっています。
 で,いま規制とか検査のあり方については謙虚に反省すべきだと思っているということで,原子力安全委員会もいままでの安全審査基準もこれでよかったのだろうか,またチェックする時は,本当に現実に動いているときのチェックは回数が大変に少ない。1992年を最後に7年間なかったのです。というのは,普通のウラン加工施設というのは,原子力発電所と違いますから,定期点検の義務がなくて,作業上の安全対策を定めた保安規定を確認するために,そちらに伺ってチェックをしている。ですから,任意でこれも行っているわけですから,そこに手抜かりがあったということは否めないだろうとは思います。だれもこういう事故を想定していないし,起こり得ないという思いこみでやりましたし,安全基準というものも大変古いときに作られたままになって,それをそのまま踏襲していたということも問題があるだろうと,私なりには思っています。
 そして,この調査ですけれども,調べたところでは84年から92年まで計8回調査はしていますけれども,転換試験塔が稼働中だったのは87年の1回だけなのです。あとは休止中の調査だったということも,大変残念な結果になったのではないかと思います。
それから,この安全審査の手順を定めた原子力安全委員会の基本指針,これは80年に決定ということになっています。これは各施設ごとに個別に安全審査指針を作るようにという求め方をしているのです。ですから,こういう施設には個別方針を安全委員会は作るようにしました。でも,この転換試験塔の,今回のJCOのような5%を超える,より高濃縮度のウラン加工施設には,なぜか指針が作られていなかったという事実もあるわけなのです。そこがやはり問題だということは,安全委員会の委員長もはっきりおっしゃっていて,やはり指針は必要ではなかったろうか,そこまで徹底して末端まで面倒を見る姿勢がないといけないのではないかということは,はっきりおっしゃているので,今回からいろいろなことが,改正なり,反省なりが行われるはずだと思っています。

【中島】ただそこを厳しくしても,5%までは非常に細かい安全基準ができているわけです。それは一番ルーティーンで行われる関係だから作ったのだと思うのです。反対に18%が抜けていたということが問題なのです。

【松田】今回もそうなのですが,JCOの事故,それ自体についての調査というのは,本当にその顛末についてはきちんと総括していただきたいと思うのですが,いつも事故が起こったら,事故そのものに対してだけそのように考えようとしている向きが非常に多いような気がします。
 本当は日本で言えば,例えば「もんじゅ」からとか,そういう一繋がりの関連した事故が起こっているということについてきちんと,本当に原子力が,妥当なエネルギー政策の中で占める位置として,原子力が本当に主体になるのかということについて,世界の流れとか,そういうものから,そういう観点から考えていただきたいと思います。そういう意味で,先ほど井手さんが言われたように,原子力に破綻をきたしたということについては,私も非常に受け入れられて,原子力に未来はないと声を大きくして言いたいと思います。

【井手】よろしいですか。少し違う話をお聞きしていきたいと思います。ちょっと勉強不足をさらけ出すようですけれども,国際原子力事象評価尺度INESというのがあります。わが国で使われ始めたのは,ここ10年ぐらいのことではないかと思います。その中で,それに忠実に従いますと,0〜3までは,これは「事象」であって「事故」ではないわけですから,今度の起きたJCOの事故がレベル4ということで,初めての「事故」となるわけです。ですから,いままでも松田さんがおっしゃったように「もんじゅ」(の事故)も起きてきた。しかし,これはレベル1であって,「事象」に過ぎなかったというわけです。東海村のアスファルト固化処理施設についてもレベル3ですから,これは「事故」ではない「事象」なのだというような考えがありまして,ずっとそれには無事故神話と言いますか,無事故を言い聞かせるというような意識作用が,やはり私たちというか,国民を含めてあったのではないかという気がするのです。
 「もんじゅ」(の事故)が起きた時に,これは記者室での出来事だったでしょうか,私はいなかったのですが,これはあくまでも「事象」なのだということを発表する監督官がおっしゃって,大変国民の顰蹙を買ったということがあったと思います。
 そこで,吉岡先生はお詳しいからお聞きしたいのですが,このINESの「イベント」,事故は「アクシデント」ですか,「イベント」というものをどうして「事象」という訳語を用いたのかというのが,私はどうしてもそのいきさつがわからないのです。というのは,なぜこの「事象」ということにこだわるかというと,「事象」というのは,広辞苑などを引きますと一般的に言って,哲学とか数学とかそういう専門的な分野で使われる言葉なのです。そういう訳語を使ったこともあって,専門家の事故に対する意識と,国民の安全に対する意識に乖離が生じてしまったというか,そういうことがあるのではないかと思います。その辺をちょっと教えていただければ。

【吉岡】私もそれほど専門的に把握しているわけではないですが,IAEAの国際評価尺度は確かに10年ほど前から使われていますが,「事象」と日本では翻訳されていますけれども,「イベント」ではなかったと思うのです。

【木元】「インシデント」です。

【石川】私のほうからご説明しましょうか。IAEA(国際原子力機関)のそういった委員会に入っていますから,きわめて正確にお話をさせていただきます。
 いまIAEAの基準では,原子炉の状態を「事故」と「通常運転」という2つに分けています。日本は「通常運転」と「異常な状態」と「事故」と3つに分けています。ちょっとややこしいですが,「事故」というのはどういうものかというと,IAEAで言っているのは,いまの事象で言いますと,4以上です。それ以下のものはIAEAは「通常運転」と言っている,英語で言いますと anticipated operational transient,普通運転をしている時に何か変なことが起こるが,実際的には大きな現実をもたらさないというようなものを日本ではイベント,いま木元さんがインシデントとおっしゃいましたけれども,そういう呼び方もしている。日本はそれを「異常行為」と言っています。異常行為というのは何か変ですから「事象」と言ったのでしょう。
 先ほど「もんじゅ」の時に,動燃の人が「事象」と言ったら,国民の顰蹙を浴びたのではなくて,新聞記者の顰蹙を浴びたというのは聞いています。ただそれは新聞記者のほうが間違っている。興奮状態ですから「事故」と言いたいのはわかるのですが,IAEAの定義に従えば,動燃の人の言ったことのほうが正しいのです。それをマスコミが受け付けなかったというようにお考え下さい。ですから……。

【吉岡】私は違う意見を持っていますけれども。

【石川】どうぞ。

【吉岡】もう亡くなられた動燃の須田副理事長が「事象」であるというように言ったのだと思うのです。「事象」というのは,私は原子力村の人間ではないので,どのように使うかということは詳しく存じ上げているわけではないのですが,一般的に非常に頻繁に使われます。あらゆるものに使われ,出来事全般を事象,事象と言います。IAEAで言うレベル3までだけではなくて,あらゆるものを事象,事象と使っているわけです。それを専門用語としてIAEAの1〜3までを「事象」と訳させるというのは,これは基本的に間違った考え方であって「事故」と最初から訳しておけばよろしかった。
 インシデントの場合でも,交通事故というのはアクシデントとも言われますし,インシデントとも言われます。インシデントと通称で言われることを,わざわざ「事象」と訳すとか,そういうのは妥当ではないと思っています。

【小沢】はい。では,この議論は,いろいろお考えがあるようですけれども,事故だと国民は受け取るでしょうから,次に進ませていただきます。
 ご意見ありますか。はい,どうぞ。

【井手】これはちょっとまた話が違うことなのですが,最近の新聞でいろいろ論じられています山陽新幹線の例のトンネル内でのコンクリート落下事故ですが,6月に最初に起き,それからJCOが9月末に起き,10月の上旬に2度目(のコンクリート落下事故)が起きました。これに関連づけて,タイミングよくというか悪いというか重なって起きたものですから,戦後日本社会の技術立国,技術大国になってきた過程で,老化現象と言ったらおかしいでしょうか,これは成熟した社会,技術大国が成熟した,あるいは老化の兆しがあるという現在,現時点でこれは必然的に起きてきた印のようなものであるかどうか。これはさまざまな方が論じていますので,興味深く読んでいるのですけれども,その辺まで広げて考えていかないと,どうもこのJCOの事故の本質がよくわからないような気がするものですから。

【小沢】どなたかご意見ありますか。はい,どうぞ。

【桑原】新幹線の崩落とか,ああいう問題に絡めて,何か技術というものが,何というか戦前の職人というか技能者というか,職人というのは最初から終わりまで作り上げていきますが,それは全工程を把握しながら,戦前はやっていたのです。それが何か生産工程が組み込まれて,1つの歯車のようになってきて,今度のJCOなどでも,働いている人はいわゆる技能者でも何でもない,全く無知な,しかも本当は原子力のことを知っていなければならない職場であったはずなのに,未熟練工として使われている。全体の工程も全然わかっていない。これが危ないということがわかっていない。
 私は前に労働省におりました関係で,技能オリンピックというものをやりました。日本は,昭和50年ぐらいまでは大体No.1でした。この頃は台湾とか韓国とか,すべてに追い抜かれてしまって,そして1個か2個しか金メダルが取れなくなりました。旋盤とか,全部技術が落ちてきてしまったのです。
 ですから,やはり今度のJCOの問題でも,コストのために未熟練工を使ってやっていくという,そういう経済計算の中に人間を使ってしまったということだと思います。ですから,おっしゃっている技術が老化して,そして成熟という言葉はよいけれども,何か本当に意味での職人気質のようなものを植え付けなくていけない。それは例えば原子力については,アメリカというのはそうらしいのですが,技術はどんどん進んでいきますから,2年,3年ごとに資格試験をして,そういう重要な,本人にも危険だし,住民にも危険な職場では,そういう技能を持った人でないとだめだと。そういう資格をしないと,どんなにハードが立派になっても,こういう事故はまた起こると思うのです。ですから,いまご指摘は,技術立国と言いながら,何か経済の枠組み中で,1つの単なる労働力の提供者になってしまっているのではないかと思いますが。

【小沢】技能大国とか何かの問題よりも,やはり日本の中小企業から零細企業から孫請けに行くという,そういう生産構造の問題だと思いますよ。技能者はちゃんといるのですけれども,実際に働いているのは。
 ここがやはり原子力の,先ほど別にしろとおっしゃるのに,いや1つではないかというのは,上ではちゃんとやっているつもりが,知らないところで孫請けまで行って,そこで事故を起こしたものが結局上まで響いてしまうわけですから,そこまで抱え込まないと,原子力政策とは言えないのではないかと思うものですから,一緒にこういう議論をしているのですけれども。どうですか,森さん。

【森】私はこの原子力というものについての技術開発というものは,そうとう実績を積んで今日まですばらしい技術が積み上げられてきていると考えています。しかし,いま先生がおっしゃった通り,上のほうはしっかり固まっている。下まで一応固まっているのだけれども,どこか少しほころびるところがある。それはやはりそこに働く人たちのモラルの問題だと思います。
 新幹線の問題でも,かつてトンネル工事に従事した方が,いろいろなものを急ぐために手を抜いてやったとか,新聞記事でしか見ないわけですが,そういう報道もなされている。やはり今回の場合も,JCOの問題に限らず,固化燃料施設の爆発火災事故の時も同じ,やはり1つ1つ従事する人たちが,本当に真剣にその仕事の内容を理解して忠実にやっているかということだと思うのです。いわば安全というものに対しての意識。それがやはり事業を1つ1つやる中で,今日の社会ではやはり抜けているところがあるのではないかと思っています。

【小沢】モラルというとなかなか難しいですね。計量できませんかね。

【森】ですから,そこら辺りを,今回の事故でもそうですが,過去のいろいろなトラブルが出てきた時に,そこまで安全規制の関係をしっかりチェックする,そのチェック能力が徹底してなかったと私は感じるわけです。
 発電所の私どもの協議会の中でも,固化燃料施設の爆発事故があった時も,その後安全規制の問題については,そういうものを一生懸命一元管理でしっかりやりなさいという要望はしているわけです。ところが,原子力発電については,もうその都度通達,通知が出て,その中はきちんとやられる。ですから,大きな事故にはあまり繋がっていない。
 がしかし,いわゆる孫請け,下請け,関連の企業のところまで,そのような安全行政の指導が徹底してなかったというのは事実ですから,こういうところはやはり今後原子炉等規制法の中で改善をして,新しく少し法の改正をして,重点的にやっていくというお話を承っていまして,一応安心をしているわけですが。

【小沢】先ほどから「安全のチェック機関を」というお話が何人かの方から出ているのですけれども,これをもう少し深めてみたいと思うのですが,どなたかご意見ありますか。いま安全委員会があるのですが,その他にというようなお話のようなのですが。

【茅(慶應義塾大学教授)】ちょっとその前に。

【小沢】はい,どうぞ。

【茅】いま皆さんから,今回のJCOの事故でどう対応するかというお話がいろいろ出たのですが,私はまことにもっともだと思うのですが,今後の安全の問題に対応するとしたならば,もう少し広い考え方で問題を捉えたほうがよいのではないかという気がしているわけです。
 というのは,下請けの問題,これはもちろん構造的な問題として大事なのですけれども,これはこういう予測をすると大変物騒ですけれども,仮に今度日本で事故が起きてもそういう問題で起きるのではおそらくないのではないか。たぶんそこのところは皆気をつけて手を打ちますので,おそらくそこでは起きないだろう。しかし,全くまたは全然知らない,考えもしなかったところで,また起きるということがあり得るという気がするのです。つまり,安全の問題というのは,気がつかなかったところで起きているというのがいままであることですし,今回も正直言って,まさかあそこで,あんな論理的に考えられない事故が起きるとは思わなかった。そういう意味で,どうもいままで事故というものは,論理的に考えると可能性が読めるという見方で安全を考えていたのは,どうも今回の教訓は,それではだめだということではないかという気がするのです。
 たまたま最近,東野圭吾という推理作家の「天空の蜂」という小説を読んだのですが,あれは「もんじゅ」になぞられたFBR(高速増殖炉)の上に,ある犯人がヘリコプターを持ってきて,それを落とすと脅して日本の原発を破壊しようという脅迫をするというのがあるのです。この本を読むと,要するに論理的に事故の確率があるとかないとかというのではなくて,全く意図的にではなくて事故が起きる。例えば,落としたのが間違って使用済み燃料の桶の中に落ちて,そして使用済み燃料が周りに飛び散るという例が出ていますけれども,そのように,非論理的な形で事故というの起きる可能性というのはあるわけです。
 ですから,われわれの安全性の問題を考える場合,そういうことも含めて,もっと広い立場から安全性の問題をもう一度見直すべきだという,それが1つの大きな教訓ではないかという気がするのです。
 ですから,体制を作るのは結構なのですが,いままでと同じ見方で安全の問題を論ずるのであれば,次の事故は防げない。もう少し広い立場から安全を見るという見方を導入してほしいというのが,私個人の持っている見方なのです。

【小沢】ただし,広いとなると,相当テロリストから何から考えなければならないとなると,大変だと思いますけれども,そんな危ないものはということに帰着しそうな気がするのですが。いまの茅先生のご意見について。

【中島】モデレーター同士で議論するのも変なのですが。

【小沢】いや,たまにはいいでしょう。

【中島】例えば今度の場合で,事故を起こした人を警察がなんとか法違反だというので刑事罰を加える,科技庁はJCOを操業停止にする,そういうことをやったら問題が解決するかというと,全然解決しないということを茅先生はおっしゃったのだと思うのです。私もそう思うのです。
 ですから,電力会社がコストを下げろなんて言ったのがよくないなどということを,証拠があるわけではないから言うわけではないけれども,やはりかなり広い,考えていなかったことが起こったけれども,何か構造的な欠陥があったに相違ないと考えて,対応を考えようということを私は申したいということで,いまのご意見に賛成します。

【木村】いまの茅先生の発言に関連して一言コメントしたいと思います。私は建設関係の技術を扱っている研究者で、その関係の分野について,警視庁の鑑定人を10年以上やっておりました。これまで、事故の鑑定を10件以上やりました。それらの事故に共通している所は、一番大元のハイテクの部分では事故は起きないということです。例外なく,今回のJCOの事故と同じです。下請けレベルでとんでもないことがやられ,それがまさかと思うような大事故に繋がっているのです。
 私は,どうも利益だけを追求していくと、終局的には下請け体制にならざるを得ないのではないかと思っています。少し長くなりますが,いまドイツが非常に困っています。ドイツというのは,マイスター制度がきちんとしていると言われているのですが、いまはそれが大崩壊し始めているのです。それはどういうことかというと,マイスターが仕事を下請けに出し始めているというのです。ですから,物作りを得意にしていた国の教育制度がいまガタガタになりつつあるようです。
 歴史的に見ると,ローマもそうだったのですね。ローマ帝国も,初めは全部自分たちで武器,食糧を作っていたのが,それをどんどん下請けに出していって結局滅びていった。ですから,私はどうも,最も重要なことについては、日本がやっているような下請け制度はだめなのではないかという気がします。
 そういう意味で言うと,今さかんに問題になっているJRのトンネルの事故も,同じ原因から起きています。高い効率を求めて大量工事したら絶対にどこかでトラブルが起きてくるのです。それをいかにして防ぐかというと徹底したチェックによるしかないのです。それもいまあまりやられていない。ですから,そういう体制が問題なのであって,人命に関わること,国の根幹に関わるようなことはやり方をシステムとして見直すべきだと,強く思っています。

【小沢】そうすると,それは予想されない事故ではなくて,ほとんど予想される事故ということになりますか。

【木村】事故そのものは予想されないですね。ですから,非常に大切なところはシステムで……。

【小沢】カバーしていく。

【木村】たとえば,英国で今度,汽車の大事故が起きました。あれはご承知の通り,英国は完全に鉄道を民有化して,レールを持っている会社,オペレーションをしている会社が全然別なのです。ですから最近,英国の鉄道の駅は非常にきれいになっています。例えばヴァージングループがオペレーションだけ引き受けている所がありますが、駅はものすごく格好よくなっています。ところが,お金の出るところがないからATS(自動列車停止装置)が全然導入できない。結果として,ああいう事故が起こるのでです。英国も日本と同じような問題に直面しつつある。その辺のところを国として考えていかないと,今回のような事故はなかなか防げないのではないかと思います。

【吉岡】茅さんとかがなされた議論に私は基本的に賛成で,私のメモにも書いてあるのですが,警察的捜査の観点というのをあまり前に出したら,航空事故に関しても警察がでしゃばりすぎるというようなことも言われていますし,もう少し冷静に幅広く事故原因を究明するとともに,「ともに」の後が重要なのですけれども,やはり原子力行政の全面的な見直しのための会議を作ってはどうかと実は思っているわけです。
 それで,先ほど中央省庁再編の話が出ましたけれども,あれは結局いまの原子力委員会と原子力安全委員会を基本的にそのままにして,ほとんどいままでの体制を変えずに残すというような決定になったわけですけれども,だれが決めたのかというようなことを見ると,だれが決めたかよくわからないわけです。しかも,ごく簡単な議論でそれがいつの間にか決まってしまっているということで,非常に私は腹が立ちまして,やはりそういうものこそ一番アカウンタビリティが必要な分野です。
 ですから,東海の再処理工場の事故が起きた時も,私としては,首相直属で諮問委員会を作る。それは例えば原子力船むつの放射線の異常事故というものが起こった。あれは事故なのか,私は事故だと思いますけれども,その場合に原子力行政懇談会というものが開かれて,そこで34回ぐらい議論をして,いまの原子力委員会の他に原子力安全委員会を作るとかいろいろなことを決めたわけです。それは当時としては意味のあることだったと思います。ただ,メンバーの構成がいささか偏っていたという意見はありますけれども。
 首相直属で内閣全体の,行政全体の立場からそういうことをはっきりやって,行政改革の提言をしたという点が非常に重要なので,やはりそれと同じようなことを,今度のこの数年来の原子力行政の民主化を踏まえて,より幅広い人々の間から委員を選んで,なおかつ国民との間の双方向の対話というのを重視しつつ,原子力行政全体を見直すような委員会を作る。その一環として事故原因についてのより詳しい文化論的な背景も含めた検討をやったほうがよいのではないか。
 失礼ながら言いますと,吉川弘之さんという方が,いまの事故調査委員会の座長をやっておられますけれども,2年前ですが動燃の改革検討委員会の座長も吉川弘之さんで,どうも動燃の改革というのは非常に不徹底に終わったという印象を持っていて,今度もまた座長で出てきて,こういう形で行政が変わるのかどうかということについては懸念がありますので,より本格的な場で議論をされたらどうなのかと思います。

【小沢】はい,どうぞ。

【肥前】安全につきましては,たしかに法律とか行政指導とかいろいろな規制があると思うのですが,やはり事業者自身が,事業者の責任においてやる部分が,かなり私はあると思っています。私どもは先般のキャスクのデータ改ざん問題もそうですが,決してそれは人ごとではないと。自らの問題だということで,やはりそのような体質,風土が電力の中にもあるはずだと,ないというのではなくて,あるはずだということを前提にして,社内の改革をやりました。
 私どもの原子力発電所で,例えば私の会社の社員が200名いるとすれば,その倍ぐらいの下請けの人が働いていらっしゃるのです。ですから,社員だけしっかりしていても全然だめなわけでして,その下請け,孫請けを含めて,全体が,安全文化と言いますか,そのようなものを共有していかないと私は絶対だめだと思っていますし,それは事業者の責任に頼るところがずい分あると思っています。

【小沢】その点からいうと,今回の東海村については,どこに一番責任があると思ってらっしゃいますか。

【肥前】東海事業所ではないかと思います。もちろくよく実態がわかっていませんから,口はばったいことは言えませんが,やはり管理者の作業者に対する教育訓練と言いますか,そのようなものが非常に欠けていたなと。

【小沢】管理者というとJCOですか。

【肥前】はい。私どもは,やはり人はどうしてもミスを犯す動物ですから,作業ミスを防ぐためには,訓練・教育というのを徹底してやらなければいけません。また,それぞれの個人のモラルにも期待しないといけませんが,人為ミスがあってもそれが大きな事故にならないような,フェイルセーフという言葉を使っていますけれども,設備面での対策,これも私ども原子力事業者としてはやっています。必ず人はミスを犯すという前提に立たなければ,あまり人に期待するのもどうかなという感じは持ちます。

【小沢】なかなか立地とか消費地のテーマに行かないで,やはり事故を巡って,いろいろ心配なせいか,モデレーターもたくさん言いたいことがあるようで話が続いているのですが,森さんにもう一度伺いますが,今度のそのようなことを含めて,新しい計画とか,やはりいろいろ要求されていることもあると思うのですが,川内の首長さんとしては総括的に立地の見地から見て,何か提言とか,そういうことがあおりですか。感想でもけっこうです。

【森】特別いま立地の申し入れは,私のところにはありません。しかし,現状ではエネルギー政策の関係がうまくいかないのではないか。もう少し国のエネルギー政策にも協力をしていかなければならないという考え方を持っている住民もたくさんおられるわけです。そのような中で,またその反対の,こういういろいろなトラブルがありますので,危険との背中合わせでのまち作りはどんなものかという意見を言う人もいます。したがって,私は最終的には住民の最大公約数でものを判断していかざるを得ないということを常に述べているわけです。
 なんとしても,やはり安全性の確保ということをまず第一義にしながら,やはり首長としては地域の住民の皆さん方の最小限,最低の文化的な明るい生活を営むための社会資本の整備というのは,やはり首長としてはしていかなければいけないというテーマもあるわけです。ですから,この問題については,安全確保ということと地域振興ということ,これを両方うまく生かしてやっていくことが,これから私どもに課せられた課題ではなかろうかと思っています。

【小沢】つかぬことを伺いますが,このような事故があった後ですと,地域振興とか電源三法について,より強く現場としては打ちだそうというようなお考えになりますか。

【森】非常に大きなショックを受けた後のことですので,いまこの問題について口火を切るということは非常に難しい面があります。
 しかし,申し上げます通り,いずれどこかの村が,町が,日本の経済を支え,住民のいわゆる文化的な生活を営むためのエネルギーを供給していかなければならない。どこかの地域がそれをやっていかなければいけないと考えています。
 そうしますと,現在立地している全国27の市町村がありますけれども,これらの市町村は,何らかの形で現在もエネルギー政策には協力していかなければならないので、それなりにまた危険との背中合わせを持つそういう市町村であり,どこかの村の発電所で,あるいは町の発電所で運転中の自動停止があったりすると,やはり自分のところの発電所の問題として受け止めて,これはうちの場合はどうなっているのか,どうかということは,日夜やはり苦労するわけです。発電所の現場の所長さんとは毎日のように役所に来ていただいたりして「うちの場合はこういうのはないか」と,「どこかで発電所が止まりました。しかし放射能漏れはありません」という報告は受けるのですけれども,市をあげていろいろと,うちの場合はそういうのはないかということを考えると,日夜眠れないものもあるわけです。
 特に私が出張して上京している時に,「市長,自動的に発電所が止まりました」という連絡があるわけです。先般も,これは9月の初めでしたけれども,7月に1号機の定期検査の点検が3か月ぐらいかかって終わったわけですが,運転したら1か月で自動停止したわけです。なぜかというと,よく調べてみると,先ほどから出てきています通り,九電の本当の社員は一生懸命やっています。たまたま1号機の点検の時に,これは一次冷却水の関係ではありませんけれども,いわゆる発電をするほうの油圧機の関係のところにネジを締めていかなければいけない,1年でパッキンを替えなければいけないのですが,パッキンを毎年替えて,これは1つの油圧の系統のところに何か所もパッキンがあるわけですが,パッキンを締めるただ1ヶ所を,下請けの人がちょっと工程を考えないでネジを締めすぎたわけです。たったそれだけで,パッキンが圧力の関係で,何十気圧とありますからパッキンが粉になって,油圧系統の管の中を抜いてしまうというと,発電所の発電機のほうに行かないようになっているわけです。発電機のほうに油が行かないようになると,自動的に原子炉は止まるようになっているわけです。そのようなことで,セイフティに対策を取ってあるわけですけれども,ちょっとしたネジの,今回もOリングのネジの締め方の1つで,安易に大体この程度だろうということで締めたと,そういう事故があるわけです。
 ですから,徹底した社員教育はもとより,そういう関係に従事される職員の安全教育というものも徹底してやっていかなければいけないだろう。このように立地の市長として申し上げているわけですが,そういう中で,やはり今日の原子力行政,日本のエネルギー政策はどうあるべきかということを訴えていきたいと。これは27の首長は皆同じです。東海村の村上村長さんも,原子力を持つ危険性を踏まえながら,安全性を保証する行政が必要だということを述べておられるわけです。全くその通りだと思います。
 そういう意味におきまして,電源三法等についても,これは吉岡先生とは,おおかたの意見は合っているのですが,原子力,火力,水力と差がつきすぎる,原子力は優遇しすぎるというご意見を述べておられるわけですが,ちょっと火力,水力とはやはり差がなければいけないのではないかと,このように考えるわけです。

【小沢】差があってほしいと。どうでしょう。

【中島】私も原子力研究所にいまして,東海村に20年近く住んでいましたからよくわかるのですけれども,原子力開発に対しては非常に協力的な村だと思うのです。今回のあの事故が起こった日も,村議会は例の核燃サイクル開発機構の再処理工場の再開を議会が容認した日だったのです。それでJCOの事故が起こった。この間お目にかかったら「うーん,議会は容認したばかりだ。今度村長がゴーを出そうというところで事故が起きたら,これはやはり村民としてはしばらく動かすなということになる」ということをおっしゃっていました。ですから,ここでまた開発が具体的に遅れているわけです。原因が究明されるまでは,まだ当分ストップするでしょう。動かしたくても動かせないということになってしまっていますね。

【小沢】そうですか。他にご意見はありますか。どうぞ,森山さん。

【森山】先ほどから茅先生が問題提起なさった構造的な問題,その問題を皆さんもおっしゃいましたけれども,それにまた輪をかけて申しますが,原子力は特有な場所に置かれているという点があります。1つの手記がありますので,これをぜひ紹介したいのです。実は今度の問題を起こしたJCOの元社員が書いた長文の手記らしいのですが,実はこれは報道機関に全部送りつけられているという話です。私が取っている新聞には載っていないのですが,これは別のエネルギー関係の新聞(「かえるの声」11月1日号)に載っていたので,その文を読みます。

【小沢】全部読みますか。

【森山】いやいや,一部です。ほんの一節です。「多くの原子力技術者や優秀な現場作業者らが原子力界を去っているような気がします。このような事情の一因は,マスコミや,原子力に一方的に反対されている方々の偏見です。多くのマスコミ関係者や反対されている方々は都会に住み,文明を最大限に享受されている方々です。この方々は原子力のマイナス面だけを題材にしており,原子力発電の社会的貢献やその意義を賞賛することはありません。ほとんどの原子力関係者,特に下請け事業者らは,いつも肩身の狭い思いをしており,当然仕事に対して充実感を持てないケースも多々あります。責任ばかりを押しつけられ,社会的に正当な評価をされないのが原子力なのです。それでも,電気事業者や大手の原子炉メーカーならまだ体力があり耐えられます。それに比べて小規模の下請け事業者は悲惨です」。以上です。

【小沢】どうぞ。

【桑原】JCOの問題の安全対策に限ってですけれども,原子力発電所のことではなくて,今度の事件というのは,結局先ほどお話の元請け,下請けという経済構造の中から,コスト削減とか人員削減の形で出てきたと思います。ここを何か法制的にできないものか。元請け責任をはっきりさせて,教育訓練をきちんとさせるとか,損害賠償についてはJCOそのものではなくて,元請けの会社がちゃんとやるとか,そのような仕組みをやはり考えないと対応できないような気がします。
 それからもう1つは,例えばクレーンとかボイラーとか,本人も危険があり,人にも危険を与えるものは皆資格試験を通っているのです。なぜ原子力がこういう燃料加工工場に,主任技術者はいたようですけれども,実際扱うその人たちが手を抜いたら大変ですから,ですから,その両方を押さえないとこの問題は解決できないと思いますので,その辺,法制的にできるのかどうかご検討いただきたいと思います。

【小沢】石川先生,その資格というのは,危険物取り扱い何とかという方だったのではないのですか。

【石川】核燃料主任技術者というのは,いまお話にように……。

【桑原】本人は持っていないのです。主任だけです。

【石川】桑原さんに1つだけ。今お話の元請責任の芽が出かかっているのです。2,3年前に日立の溶接の改ざん問題がありましたね。それで今度もうじき変わってくるのは,溶接についてはいままで通産省が全部判子を押していたのですけれども,これではいけないと,むしろ電力がしっかりと溶接を見なさいと。通産省は何を見るかというと,電力がはっきり品質管理をしているというところをダブルチェックする。そのような方向に動き出しかけてはいます。そういったのがなお発展していくように,そのようなところをやはり直していくべきというのが,先ほどからのお話ではないだろうかと,私は承っていたのです。

【小沢】肥前さんは,先ほどやはり事業者の責任だとおっしゃっていましたが,いまの桑原さんのご発言に,元請け責任というのをはっきりしたほうがよいのではないかという,それから訓練をする責任,あるいは賠償する責任まで含めて元請けは持つべきでないかというご意見が出ましたけれども,それはいかがですか。

【肥前】それは,それぞれ責任があるわけです。しかしながら,電力でやっているような安全訓練とか,教育とかそのようなものが,これは私の想像になりますけれども,十分ではなかったのではないかと。他の分野でもありますね。元請けはしっかりしているけれども,子請け,孫請けはどうしても安全面で不十分な面があると。そのようなことがないように,とにかく電力は子請け,孫請けを含めて,例えば川内の原子力発電所には数百名います,私の社員が 250名いまして,その他が 250名,大体 500名ぐらいいるのですが, 500名全体が同じような安全意識を共有しなければだめではないかと。それぞれ請けたところにすべての責任があるというのははっきりしていますが,だからと言って,お宅の責任で全部やってほしいということではなくどこかが漏れると全体の問題になりますから,全体の責任としてやるべきだと。

【小沢】お給料も同じ額でないと,やはり責任だけ言われたら嫌でしょうね。下請けの人は,例えば九州電力に命令されたというか,言われてやるのだけれども,その上のほうはずっと自分よりお給料を取っているのに,ネジを実際巻いて怒られるのはお給料が半分の自分だということになったら,プライドが持てない。先ほどモラルという話が出ましたけれども,モラルはお給料でなければ支えられないような気がしますが,どんなものでしょう。

【肥前】ちょっとそこは答えにくいのですけれども,どなたか。原子力だけではなく,世の中同じようなことはたくさんありますよね。

【小沢】危ないのは他にもありますからね。なかなかそこのところは難しいでしょうね。

【中島】これは企業の責任ということで言えば,5%の濃縮ウランまでは細かい安全基準を作りながら,それ以上がなぜ抜けたか。これは常識で考えると不思議なのです。18%まで,日本では20%まで核不拡散の関係で,最高が20%です。それは,例えばJCOというよりも,(親会社の)住友金属鉱山が言ってきた,だから,しかも滅多にない仕事だから,企業を信頼してよいでしょうということにむしろなっていたという,日本の行政ではあるのです。今度しかし,そこをきちんとしても,全然違うことをやられたら,これは規制のしようがないのです。ですから,私はただ安全規制を強化しろということでは,今度の問題は解決しなくて,やはり構造的背景まで睨んで,それがしかも日本の原子力全体の足をものすごい勢いで引っ張るということをきちんと関係者が考えて,世論を起こさないといけないのではないかと思います。

【小沢】ご意見ありますか。

【木元】ちょっと一言よろしいですか。

【小沢】どうぞ。

【木元】エネルギーの供給の仕方,安定的な安全に供給するということと,もう1つパラレルにあるのは地球上で人口が増えてきた時に,食糧も安全で安定的に供給しなければいけない。食品業界,あるいは食糧を生産する現場のところには,同じように事故を起こしてはいけないという考えがあって,もうすでにご存じの方はたくさんあると思いますが,HACCPというシステムを導入しようというということで,日本でも導入されているのです。HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)というのです。それぞれの工程には,危害が起こりうるプロセスがあるだろう。今回の燃料加工もそうですが,その工程のところで自分たち自らも,危害が起こり得るところを分析して,そのあるところを決めたら,そこに関しては徹底的に責任を持とうということを,その企業そのものがコントロールするのです。そのような思想が原子力の工程の中にも入ってくれば,どんな末端であろうとどんな大きいところであろうと,それぞれが責任を持つ姿勢というのは,自己責任原則で,きちんと守られるであろうということかがあります。何かそういう考え方が,今度の安全審査基準にでも何でも盛り込まれれば,違ってくるのではないかという気がしているのです。そのような方向に行ってほしいと思っています。

【小沢】下請けの,先ほどマスコミに言われて情けないという話がありましたが,私はこの間都内ですけれどもタクシーに乗ったら,昔は原子力のプラントの一部を大型のトラックで運んでいて,1ヶ月の給料を100万円ぐらいもらっていたのだそうで,それができあがってしまったので,仕事がなくなって,タクシーの運転手になったと言っていましたが,すごいプライドを持っていたようですよ。国民が何を言おうが,この大きなプラントを自分は運んでいて,これを安全に,昼夜分かたず千葉のほうの工場で造ったのを九州まで運んでいく,これを大事に壊さないように運んでいってと,全然見ず知らずの人なのですけれども詳しく説明をしてくれました。それでも, 100万円という給料が彼をとても支えていたみたいですね。私はいつも言っているのですが,危険なものを危険でなくするのは,やはりお金をかけないとだめなのだろうと思うのです。
 今回なども,原子力の行政がこれで破綻してはとか,そういうことについて言う人はいるけれども,「本当に気の毒に。まだ若い35歳の人が被曝をして,あの人はあんな会社で下請けで可哀想だ」という声が全然聞こえてこないで,ただただこのことが原子力行政を後戻りさせてはいけないとかなどというのばかりを聞くと,私は本当に下請けという言葉に涙が出てしまうのですよ。気の毒だなあと,しょうがないじゃないかと,そこで働かざるを得なかった人,組織の中でそれしかなかった人に対する思いはないのか。そういうことを何とかしなければ,今後も起こるぞという気がすごくしているので,今日はしつこくそのことにこだわりたかったのです。それだって行政の中の一端だぞと。
 先ほども言いましたけれども,お給料のこともぜひ。司会が言ってはいけないことでも,いまのは置いておきます。
 どうぞ,もう少しご意見があれば。何か。今日はあちらへ飛んだり,こちらへ飛んだりしていますけれども,いかがでしょうか。

【松田】いいですか。

【小沢】はい,どうぞ。

【松田】いまある原発は低空飛行のまま無事に着陸させなければいけないと私は思います。ここの会議の中でちょっとむなしさを感じるのですけれども,今回のJCOの事故を本当にどのように受けとめているのか。本当に原子力ありきで進んでいる一部の人たち,私たちはやはり原子力に対して見直しをしていただきたいというのが心からのお願いなのです。そして例えば原発に反対の主張を持たれている専門家の方たちとかがいらっしゃると思います。そのような方たちときちんとテーブルを持って,今後の日本の社会を作っていくのか議論して頂きたいと思います。私たちの暮らしをいまのまま,先ほど文化的な暮らしと言われましたけれども,どこまで文化的な暮らしを追及していけばよいのか。昔から文化的な暮らしを追及して止まるところがありません。私たちの生活というのは地球上から考えれば,2割か3割かの先進国の暮らしだと思います。そのように地球上トータルに考えて,私たちがそのように生きていいのかどうかという視点からも,ぜひ原子力を捉えていただきたいと思います。

【小沢】はい。ご意見ありますか。先ほど森山さんでしたか,原子力は選択肢の1つに過ぎないということをもっと国民に自覚させよというお話をなさっていましたね。そこのところをもうちょっとお話しいただけますか。もっとあるのに,それをたまたま選んでいるに過ぎないのだという意味ですか。

【森山】いや,ちょっと私の言い方が誤解を招いたかもしれませんけれども,原子力というのが,いわゆる原子力のためにあるのではなくて,エネルギー資源の選択肢の1つである。その1つに過ぎないと。ですから,過ぎないという言葉は原子力にかかっているわけではなくて,選択肢の1つに過ぎないという意味です。いま松田さんがおっしゃるように,太陽光とか風力とかも,大いなる選択肢だよとたぶん言いたいのだと思うのです。
 そこでちょっとすみません。松田さんに1つお尋ねしたいのですが,松田さんのお宅には太陽光発電は付けておられますか。

【松田】太陽光発電を付けられるような家ではありませんので。

【森山】いやいや,付けられるかどうかは別として,付けておられるかどうかです。わかりました。ありがとう。以上です。

【桑原】原子力は危険なものであるという前提はもちろん国民は皆知っているわけで,それを暴走しないようにどう管理していくかという議論をきちんとすべきであって,危なさそうだからやめようというのは簡単ですけれども,そうするといま結局電気というのは人間生活に欠くことはできないわけです。照明だけではなく,動力源にもなっている。それから病院における手術もできなくなりますね。それから,交通機関,通信,それから交通機関の制御システムにもなっているわけです。原子力は例えば九州は45%です。日本が33.6%です。危ないからやめようと言った場合,では何をもって替えるのかという議論をして,反対してもらいたいと思うのです。
 そうしないと,危ないどころの騒ぎではない,人の生命の維持ができなくなる。米も食べられなくなるということもあり得るわけでしょう。ですから,もう少しマクロ的に議論をして,あまり感情論だけではいけないのではないか。その辺の議論をしてほしいと思います。

【小沢】はい,どうぞ。

【吉岡】それに対して,一応私は批判派の論客だと言われていますので,お答えしたいのですが。エネルギー資源の中で原子力というのは選択肢に過ぎない。選択肢の1つとして他のエネルギー源と対等の,同じ共通の尺度を持って優劣を比較して,その上で原子力の占めるべき適切なシェアとか,あるいは長期的に減らすか増やすかということを決めようというのは,私が何年も前から主張してきたことでありまして,ようやくそういう形で選択肢の1つとして考慮するという形で原子力政策の政策文書がまとめられる傾向になりつつあって,これは1歩前進で私の努力も報われつつあると,そういう点では手応えを感じているわけです。
 エネルギー資源の1つとしてどうなのかというと,私自身は原子力というのはあまり優れたエネルギーではないという総合評価をしているわけです。それについて長々と言い出すとしょうがないので,ごく簡単に言うと,経済性は劣る。環境・健康・安全については,炭酸ガスと放射能どちらが悪いかというのは単純には比較はできないけれども,決して原子力が優れているとは思わない。世界安全保障にとっては,核不拡散のリスクがあるから原子力は劣る。最後に資源の安定供給については,1つの選択肢が追加され,増えるということはプラスですけれども,原子力というのは,国際・国内世論に影響されやすいから,不安定である,劣る。ですから,総合的に劣るというような評価をしています。
 長期的には,いまやめては破綻します。例えば九州は45%依存しているわけですから,いますぐやめろとは言わないで,何十年かかけて減らすのがよいと思うのです。何十年かけて段階的にというようなことをやらなければ,必ず破綻すると思うのです。破綻は望むところではない。
 ですから,そのように総合評価をもって,エネルギー資源の選択肢をさまざまな立場の人が参加して議論ができるような場を私は作るように努力してきたし,一定の成果があるものと思っている。ただ原子力委員会の会議に出てきても,そういう批判派の立場の人というのは私1人の場合が多くて,まだ大変つらいわけですけれども,毎回しんどいわけですが,それでもそういう議論が冷静にできるようになってきているわけです。ですから,それをさらに1歩進めなければいけないということです。マスコミや批判派が悪いところばかり原子力のことを言っているというような議論は,先ほど森山さんが労働者の方の発言を紹介されましたけれども,非常にゆがんだ見方になってきているし,もっとそういう状況から一刻も早く脱却するようにわれわれは努力するようにしなければいけないと思います。

【桑原】ちょっといいですか。

【小沢】はい,どうぞ。

【桑原】いまから30年前くらいの,原子力を採用する前の頃の議論ならいいのです。その頃原子力を使うか風力を使うか太陽をやるか,その議論を国民的なコンセンサスを作ったらよいという過去の問題になるけれども,現実に原子力発電を33.6%やっているわけです。これをゼロにする,段階的に減らすとおっしゃっても,ではなぜ可能かという議論もしなくてはならないし,むしろいま使っているものがさらに安全に運行できるように衆知を集めるところに力を注ぐべきではないかと私は思うのです。30年前ならわかるのですが,いま頃言っても仕方がないのです。

【吉岡】簡単にお答えしますけれども,現在33%というのは,例えば30年で転換できるような水準だと私は思っています。それで,私は新エネルギー,再生可能エネルギーというのは,実はそんなに評価していない人間なのですが,風力は完全に商業段階に入っていて,可能な限りの拡大と,それに対する支援策を政府は取るべきであり,自然エネルギーは他のエネルギーと区別して、特別枠として拡大を図るという,それが必要だと思います。それと,エネルギー消費の削減のための非常に高い税率の環境税とか,そういうものを導入して,エネルギー消費を可能な限り削減するということが必要である。
 その2つの前提条件の下であと何をやるかというと,やはり化石燃料は悪玉視されていますけれども,原子力や大規模ダムによる水力よりはましなのではないかというのが大まかに言ったら私の見方です。

【小沢】税金はだれにかかるのかすごく心配になってきますけれども。ご発言をどうぞ。

【井手】日豊線というのが九州の東部に走っていますけれども,それの大分県の一番北に中津市というのがあります。そのすぐ上の県境,福岡県の一番端が豊前市です。その中津市のほうに松下竜一さんという作家が住んでらっしゃることはよくご存じだと思います。その松下竜一さんは九州電力さんにとっては大変思い出深いというか,つらい相手だったと思うのですけれども,20〜30年前になりますが,豊前火力闘争というご存じの闘争がありまして,激しい闘士だったわけですけれども,その頃松下さんが書かれた「暗闇の思想を」という本があります。大変初期の本で,これは松下さんが豊前火力闘争を闘う思想的な柱にした本なのです。その本が密接に豊前火力と結びつくものですから。
 それから離れて,あの本のタイトルということが大変刻み込まれています。常に自分に問いかけるというか,「君は暗闇の思想を持ちうるか」ということです。松下さんは持ち得た。中津市の小さな古い家に住み続けて,いまも大変貧乏してらっしゃるのですが。あのような覚悟を,都市に住みながら,先ほどの話に出たように,文化的な生活を享楽しながら,暗闇の思想というのは持ち得ないわけです。これは自分に突きつめて考えますと,不可能です。話が出ましたように,通信とか交通とか病院,さまざまなところで,私たちはふんだんに贅沢なほど電力を使っています。そういうことを痛いほどやはり自覚した上で,この原子力という問題を考えなくてはいけないと思っています。
 ですから,本当に事故が起こるたびに事前に何の警告も発しきれずに,事故が起こるたびに口うるさく何かを叫ぶといったマスコミの体質については,そうあってはならないと思っているのですけれども。ただ,先ほど例を引きましたように,松下さんのおっしゃった「暗闇の思想」を覚悟できない都市の人間は,原子力について軽々に考えるべきではない。軽々に反対すべきでもないし,軽々に進めよと言うべきでもない。そういう気がしています。ですから,本当に何ができるのか,私はたまたま新聞社にいますけれども,その中にいて何ができるかということを常に自分に問いかけてみます。

【小沢】どうですか。先ほど数字が,国民の何十%が反対という吉岡さんの意見に,木元さん「異議あり」みたいなことをおっしゃっていましたが。

【木元】異議というか,私の持っている調査というか,新聞その他の調査をちょっとご披露したいのです。その前に,上坂冬子さんが,こういう面白いことをおっしゃっているのです。例えば昨日も港区で過酸化水素を積んだタンクローリーが衝突して爆発をした。そういう事故があっても,例えばガソリンスタンドで火事があったとしても,では自動車はやめよう,ガソリンを使うのはやめようということに繋がらない。それはなぜだろうかと。つまり,私が思いますのに,凶器と利器とかあるのだけれども,その凶器の部分をわかりながら,人間は自分に必要なものはちゃんと認めてコントロールして,安全に留意して,そしてそれは何に使うのだという目的をはっきり認知して,そしてお互いを信頼しあいながらやっていくということが,いままで文明の中で構築されてきたのではないかと。そう思っているわけです。
 そういうことを踏まえながら,では原子力発電は,今回JCOの事故があったけれども,どうあったらよいかということで,朝日新聞,毎日新聞,それからテレビ朝日,NHKとそれぞれが調査したのです。吉岡さんの今年総理府でやった調査,それもあるのですが,そういうことと対比しながら,少しばかりご披露します。
 8月22日に総理府がやった「原発の推進について」というので,「積極的に増設しよう」というのは 4.2%,「慎重に増設しよう」というのが38.5%,それから「これ以上増やさないけれども現状は維持していこう」というのが27.2%でした。「将来的には廃止」が19.3%でした。それから「早急に廃止」が8.7%でした。ですから,現状を維持しよう,慎重に増設しよう,積極的に増設しよう,つまり原子力発電を認めているという方が68.9%いらっしゃる。
 ただし,そう言いながら,どこかで不安を感じているという方が,やはり7割いらっしゃるのです。私だって,原子力発電に全く不安を感じていませんかと言われたら,そうではなくて,やはり不安を持っています。ですから,不安をどうやってカバーするかということに皆知恵を働かせているという答えが出るだろう。飛行機について不安がありますかと言われたら,これも不安に思います。ですから,不安に思うことイコール反対とは,皆さん思っていらっしゃらないと言えます。
 ですけれども,今度JCOの事故があった時にどういうことがあったかというと,これは10月4日の毎日新聞の朝刊で,「あなたは今後わが国にある原子力施設の開発,操業についてどうすればよいと思いますか」というと,「原子力開発の重要性は変わらないので開発計画は続けるべきだ」というのが19%。それから「原子力開発を現状維持にしておいて,安全策を先に講じたらどうか」というのが31%。それから「原子力開発をここでストップして,新たな開発はしない」という方が5%。「他のエネルギーの開発を急ぎ,原子力から順番に切り替えていこう」というのが38%でした。ですから,いまのままで行こうという方と,開発を続けるべきだという方を合わせると50%になってしまいました。これが毎日新聞です。
 朝日新聞も58%の方が「増やすべきだ」と「現状維持にとどめる」がいる。
 それからテレビ朝日,久米宏さんがおやりになっていたニュースステーションですが,10月12日ですから彼はやめていましたが,いろいろ論議があった後で,「原子力開発を続けていくべきか」というのが賛成が54%です。反対が35%になったというケースです。
 NHKも同じように「原子力発電を認めていたが進めるべきではない」が38.7%,「原子力発電を認めるべきという考えは変わっていない」というのが33%です。
 想像した以上に,原子力発電はやはり認めざるを得ないというのが出ていたのでびっくりしましたし,それから石川先生もお出たなって私も出た朝まで生テレビでも,結果は……。

【石川】「推進,しっかりやるべきだ」が3分の1,「反対」3分の1,「よくわからない」が3分の1です。

【木元】ですから,今後の原子力行政の中で,これはどういうふうに解釈したらよいものかと思います。

【吉岡】その解釈の仕方というのが,現状凍結というのを推進のほうに集めれば半分を超えることであって,ですから現状凍結というのは造らないということで,増設はしないということだと解釈をすれば,3分の2です。

【木元】増設をするのは別に設問があるのです。

【吉岡】それは先ほどの総理府のものでも,慎重に増設ではなくて,慎重に推進という表現になっていたのですが,それも増設かそうではないかというのがわかりにくいような調査であって,その辺の質問文の非科学性というものをもう少し解消して,われわれはこの事故を契機により大規模に(調査を)やるべきではないかと思います。

【小沢】はい,どうぞ石川さん。

【石川】先ほど井手さんがせっかくいいお話をなさっていただいたので,それに対するレスポンスなのですが,贅沢に電気を使っているということを承知の上で原子力のことを考えていこうという話をしていただきました。私はマスコミの方からそんな話を聞いたのは初めてですが,私がマスコミにお願いをすることがあれば,原子力のよいことも悪いこともけっこうですから,ぜひすべての現実を伝えていただきたい。記事に都合が悪い所だけではなくです。おそらくそういう思いは,原子力の関係者の方は皆持っておられると思うのです。それから,いま吉岡さんが言われましたが,どのようにデータを採るかによっても見方が違うわけでなく,一番初めの新聞の見出し,これによって読者のとらえ方が違ってきますが,この辺りもできる限り公正にやって欲しいと思います。ぜひ西日本新聞ではやっていただきたいと,私はお願いいたします。
 それからもう1つ申し上げますと,この4月に安全条約というのがありまして,世界各国で原子力の安全条約を作って何とか向上させていこうという第一回の検討会議がありました。各国がそれについての報告書を出しまして,ピアレビューというと名前はいいのですが,簡単に言うと,丸1日のつるし上げ会議がすべての参加国に対してあったのです。
 アメリカは今度来なかったのですが,日本,ドイツ,フランスのように原子力についての反対がある国はすべて贅沢に電気を使っている国なのです。むしろ非常に貧しい国,この国の多くは原子力発電所の安全性がわれわれのに比べると低い,例えば旧ソ連から独立したような国をお考え下さい,ソビエト製の原子力発電を使っている国ですが,安全条約の一番初めの目的というのは,チェルノブイリ事故の反映として、何とかして旧ソビエト製の原子力発電を止めさせようではないかという西欧側の意識が働いて始まった会議なのですが,この間の第1回の検討会議でそういうことは成功しませんでした。その理由はロシアとわれわれ側との熾烈なディスカッションの結果でなったのではなくて,先程述べた非常に貧しい国の方々から,先ほど桑島さんがお話になられましたように,原子力発電所を止めたらわれわれは生きていけないと。確かに安全性には欠ける時があるかもしれないけれども,われわれは逃げて行く所がないのだ。ご存じのようにヨーロッパの各国は仲が悪いのですから。ですから,事故が起これば,われわれの民族の上に死の灰は降ってくるのだ。石油を買えと言っても,石油は1週間もたったらなくなる。たしかにいまはソ連からガスを買っているけれども,あれはソ連が止めてしまえば一瞬にしてなくなる。原子力発電があれば,原子力発電の中の燃料があるかぎり,半年か一年ぐらいは発電できて,われわれの民族が生活できるのだ。そこを考えてくれ。この意見に対して,西洋側が答える論理を全然準備していなかったためです。
 それでどういうことになったかというと,第1回目の安全条約というのは,各国レベルが違いますが,ここを出発点として,これから3年後にどこをどういう改善をしていったかということを論議しましょう,お互いに安全を確保しようではないかという所に落ち着いたわけです。
 原子力発電に対しそういう意見も世界にはあるのだということを,1つ知っていただきたいと思います。

【小沢】国際女性会議があった時に,男女平等の話がでたら,男女平等より貧しい国は食べることが大事だという議論がありました。先進国の女性たちは黙ってしまった。いつも同じパターンが繰り返されているような気がします。
 これだけ宣伝をたくさんしているのに,3分の1しか支持しないというのは,やはり読み方,3分の1しか反対をしていないというか,3分の1しか支持していないというか,統計というのはやはりいろいろ見方があると思います。
 先ほど,車は危ないのに自分でやると,車は自分で運転できますからね。原子炉は自分では運転できないし,見えないわけですから,どこをとって比較するか,どこを取ってたとえ話をするかによって,物事はすごく違ってしまうような気がするのです。
 ただ,今日の議論を聞いていても,一応だれもむちゃくちゃに反対しているわけではないので,桑原さんや井手さんのご意見に代表される,やはり黙っていろいろじっと考えたり,どうしたらよいかをやっていくということがいま大事なのかもしれないなという気がしますが,私がそのような結論を出してはいけませんから,もう少し。

【桑原】結局原子力発電は安全性をさらに,国民皆がどの程度安全なのかというのを知ることから始まると思うのです。いままでどちらかというと,専門家だけが安全だと言っているけれども,自分たちで確かめていないのです。ですから,おそらく九電さん辺りも,やはり市民にできるだけ数多く原子力発電所を見にきていただく。そして全部情報公開をして,こうなのだと,やはり実物教育から始めるのが一番よいのではないでしょうか。国民全体で見ていく。一電力会社とか,働いている人たちだけではなくて,そこに住んでいる周辺の人たちが見に行く。例えば福岡だったら佐賀に原子力発電所がありますから,1時間半ぐらいで行きますから,そういう努力を電力会社もやるべきでしょうね。国民皆の目で,目の前で見る,中に入ってみる,そこから始まるのではないでしょうか。

【小沢】でも,バケツは見られなかった。

【桑原】いや,私が言っているのは原子力発電なのです。バケツはあれはもうとんでない話ですよ。あんなものを見ても話にならないですよ。いま問題になっているのは原子力発電で,燃料を作るところが問題だったわけです。

【小沢】そういうものがあるのではないかという井手さんの一番最初の提起が,先ほど森さんもおっしゃったように,まだ何かあるのではないか,何か起きるのではないかとありますから,これはもののたとえで言うのですが,だれかが前にバケツを見ていたら話は違っていたでしょうね。

【桑原】まず原子力発電所を見に行くことから始まるのです。

【小沢】他にどうぞ。ご意見ありますか。

【木元】小沢さん一言いいですか。

【小沢】ちょっと待って下さい。どうぞ。

【肥前】いま桑原さんがおっしゃったように,原子力発電所の見学については,もちろん私どもは重点事項としてやっていまして,数ははっきり覚えていませんけれども,おそらく通算 300万人以上の方々に見ていただいていると思います。見学前と,見学後にご意見を伺いますけれども,やはり百聞は一見に如かずということで,大変好評をいただいております。
 私どもは,これからも情報公開を徹底し,安全管理の実態などについても,国民のみなさまにすべてを示すことが大事だと思っております。そういうことでやらなければ,決して信頼をいただけないと,これは九州電力だけではなくてどこの電力もそうですけれども,一生懸命やっているつもりです。

【小沢】松田さん,いかがですか。

【松田】原子力発電所を見に行っても,その時は事故は起こりませんから、何にもならないと思います。でも,やはり事故は起こる可能性はあるということは,私たちは知り得ています。そういう視点に立つと,原子力発電所の見学よりも,もっと放射能廃棄物を残すとか,そういう観点に立って見ることしか私にはもうできないので,どうしてもまやかしのように思われてしょうがない。
 あと,いま九電などもさかんにコマーシャルされていますが,一時期JCOの事故が起こって少し控えていらしたようですが,CO2を出さないというその1点だけで原発がよいのだと,温暖化に原子力がよいのだとコマーシャルされています。でも,原子力が持つ廃熱とかそういうことに対しては全然触れない。そのように見えないところに,国民も知らされない,私たちが知らされないことがたくさんあるような気がします。何か本当にやはり原子力については再考をお願いしたいと思っています。

【小沢】廃熱というのは,茅先生。

【茅】廃熱はちょっと問題が別で,原子力の場合は(発電)効率が30%ぐらいですけれども,化石燃料でも40%ぐらいですから,出る熱という意味ではあまり変わりません。それに温暖化には廃熱はいま関係がないものですから,それはちょっと別の問題だと思います。
 その他にちょっとよろしいですか。実は先ほど桑原さんが問題提起をされた原子力に替わるものとして何を考えるかということで,吉岡さんが答えをされたのですが,これは1つの答えだと思うのです。やはりこの円卓会議全体を通じまして,原子力を推進すべきだという方とそうではなくて原子力はできるだけ減らしていくべきだという考えと2つが出ているわけですが,その時に常に問題になるのは,では原子力でないとすると何をそこに持ってくるのかという議論なのです。
 一番多かったのは,自然エネルギーという議論なのですが,吉岡さんは自然エネルギーというのではなくて,化石燃料を持ってきておられる。それは1つの考え方なのですが,そこで1つ伺っておきたいのは,そうすると温暖化問題というものについては,吉岡さんは吉岡さんの言う原子力のリスクよりも小さい問題であると考えておられるということになると思うのですが,そう解釈してよろしいかというのが1点です。
 それからもう1つは,原子力を偏愛しないでもっと他のエネルギーと同じように考えるべきだというご意見,それは私は賛成なのですが,吉岡さんが言われるように,いろいろなファクターでエネルギーを評価しなければいけないから,原子力と例えば化石燃料ではいろいろな特性が違うわけです。したがって,愛し方が当然違ってよいはずです。ですから,その意味では,それぞれの特徴を活かしたサポートの仕方があると思うので,その意味では私は現在の原子力に対する愛し方は決しておかしいとは思わないのですが,その辺についてはどう考えるかというのが2番目の質問なのです。

【吉岡】時間も押しているので簡単にお答えしますと,私は原子力の替わりに風力,太陽等の自然エネルギーを促進しようという意見については,論理構造が間違っていると思っています。つまり,先ほど言った他とのすべてのエネルギーを共通の尺度で評価するということを議論すればよいので,そういう論理構造では,まず化石燃料への依存を減らす必要がある、減った分をどこで補うかということで,原子力か自然エネルギーかというような枠組みとなる。その場合,化石エネルギーは最初から悪者になって,原子力か太陽・風力かというような枠組みで議論をされている。そういう枠組みはおかしい。ですから,太陽や風力に私は期待していないわけではなくて,むしろ期待はしているのだけれども,枠組みとしてのそういうのを立てるのはおかしいという点であります。
 地球温暖化よりも軽いかどうかというのは,これは綿密な判断を要するところであって,一概には結論を出せない。ともかく地球温暖化というのがどうなるかというのは不確定性が非常に大きいわけですから,残念ながら定量的判断のしようがないというのであって,それではどちらを重んずるのかということの総合評価をしなければいけないと思っています。
 それで総合評価が原子力政策やエネルギー政策においてなされているのかということを見ると,どなたかが去年の総合エネルギー調査会需給部会の報告を例に挙げておられましたけれども,茅先生はその会長だそうで,面と向かって悪口は言いにくいわけですが,非常に非科学的な論法で,環境の側面についてはCO2だけというような形での判断がなされているわけです。ああいう判断をなされてもらってはやはり困るので,基本的に総合エネルギー調査会の議論というのは,やはりやり直してほしいという意見を持っています。
 地球温暖化の方が総合的に軽いか重いかということは,私にははっきり言ってわかりません。明確な判断というのはできないとしかお答えはできない。しかし,それをどう見るかということについては,その1点を除くと,原子力には不利な状況が多すぎるのではないかという点を私は考えているわけです。
 2番目の,他と共通の尺度で評価すべきだということで,愛し方という問題が出ましたけれども,私の好みとしては,変な言い方ですけれども,吉岡斉(の文字)ですけれども,シンメトリーにできているわけですので,論理的なシンメトリーというのをいかなる場合でもつらぬかなければいけないという,それが私の観点であって,愛していても,露骨に枠組みとして愛する枠組みをとるわけにはいかなくて,同じ共通の尺度で,結果として愛するものを有利になるように努力するということはあるかもしれませんけれども,そういう論理的ルールは守らなければいけないというのが私の考えです。

【小沢】何だかわからない結論で会議を終わりたくないのですが。どなたか。

【中島】天然ガスを愛するか,原子力を愛するかという議論も私はおかしいと思うのです。今日ちょうど肥前さんがいらっしゃいますので伺いたいのですが,これは東京大学の平田賢先生が,現在の原子力発電というのは33%しか熱効率がない,複合発電などができて,最新鋭の天然ガスのコンバインドサイクルだと50%近くまで行っているということがあるわけです。そうすると日本の一次エネルギー 100を投入してどのぐらい仕事になるかというのは,75年,85年,95年でどんどん落ちているのです。その原因は原子力発電の大量導入にあると先生は言っておられて,転換部門でロスが大きいのだと,ですから,それを解決する方法というのにリパワリングがある,つまり原子力発電に天然ガス発電を付けろということを提唱しておられるのですが,そういうのを九州電力ではお考えになったことがありますかということだけを聞いておきたいのです。

【肥前】いまのところ,私の知る限りにおいてはないような気がします。

【中島】ご検討下さい。

【木元】小沢さん,1つ。上坂さんの名誉のために言っておくのだけれども,先ほど申し上げたのは,自動車事故が起きたり,ガソリンスタンドで爆発が起きたりしても,それは自分が運転するからしないからの問題ではなくて,だからといって車社会から抜けようとか,車を追放しようとかそういうことにはならないだろうと。車に依存した社会,そういう構造システムの中で,自分たちが生きている以上,それを何とかコントロールとして認めていこうという社会になっているではないかというご発言があったという意味です。

【小沢】いや,それはたとえとして悪すぎる。なぜなら車は全部見えて,乗れて,止められるのだから,原子力はそうではないから,たとえとして悪いと。

【木元】ならば,見えないようなところは見えるようにしなければいけない。けれど,個別な車そのものというより,車を利用している社会構造システムのことです。

【小沢】モデレーターとオブザーバーが喧嘩をしてもしょうがないですけど,非常に悪いたとえだと私は思います。

【木元】私はそうは思わないけれど,言っておきます。

【小沢】他に意見はありませんか。

【木村】先ほどのJCOの事故に関していえば,私はずっと理科離れとか,そういうことをやってきているのですが,そういうことで言うと,やはり日本は非常に危険な状態にあります。ご承知だと思いますが,いま専門高校,昔の工業高校,そういう所に行く方が,仕方がないから行くという人がほとんどなのです。しかも、専門高校へ行った人の退学率というのが,普通高校の10倍以上になっています。その辺を日本としてどうするかということを考えないと,下請け制度というか,そういうものはたぶん直らないだろうと思います。先ほど桑原さんがおっしゃった技能者とか昔の職人,そのような時代に日本はもう戻れないのではないかと痛感しています。その辺に今回の根本的な問題があるような気がします。

【小沢】消費地と立地との問題を考えようということで始まった今日の会議なのですが,いろいろなことに飛んだり,経済の二重構造からモラルから教育から,いろいろなことにお話が出たと思いますが,やはりざっくばらんに話せば,いま日本の抱えているいろいろな問題に,皆さんがこのようにご発言をすることになるのだということがよくわかって,原子力を巡る議論も賛成か反対かだけではないと,少しずつこうやって深めていくことが大事なのではないかと改めて私は思っております。
 時間ぎりぎりまでお付き合いをいただきまして,ありがとうございました。少し予定よりオーバーしたのですが,まだご不満な方もいらっしゃるでしょうが,この円卓会議はまた続きますので,どうぞいろいろご意見を寄せていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

【事務局】それでは,この辺で本日の原子力政策円卓会議を終わらせていただきたいと思います。
長時間のご議論ありがとうございました。 傍聴の皆様方におかれましては,最後までご静聴下さいまして,本当にありがとうございました。事務局より御礼申し上げます。

−−終了−−


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