<資料5−5>

「今後の原子力のあり方について」

中田真佐美   主婦、大学院生

 原子力エネルギーは使わなくて済むのであれば使いたくないのが大半の国民の気持 ちだと思う。それにもかかわらず、エネルギーの確保や地球温暖化に対する対策として 日本が原子力を選択するのであれば、他の先進国が原子力を捨てている以上、もっと明 らか理由と情報を提示するか、あるいは過剰な保護政策を取り除き規制緩和をすすめて 電力市場を開放し、原子力を他のエネルギー選択肢と公平に比べられる機構の導入が必 要であると思う。いくつかの理由を下記に述べる。

原子力発電にかかる費用
 電気会社が地域独占構造をもち、いくら費用をかけて商売をしても必ず利益を保証 されている現在の電気料金構造では、原子力発電の値段が正当に評価され得ない。さら に、原子力発電の値段が妥当であるかどうかと消費者が判断する十分な情報も基準もな い。原子力の本当の値段がわからない状況で、原子力というものが、国民がどこまで犠 牲を払って保持すべきものかどう判断すればいいのか。
 欧米では、電力市場の自由化により原子力の本当の値段は実は膨大であることを消 費者がはじめて知らされた。去年4月に電力市場が自由化されたカリフォルニア州では、 電力会社の原子力発電等への未回収投資$28billion(約3兆円)を消費者が払う事になり、 米国全土では$200billion以上とも言われている。[1]原子力発電にともなう投資が高額に 過ぎるため、米国では既に73年から新しい発電所の注文がとまっているし、フランス のEDFでさえ、近年始まった古い原子力発電所の解体にかかる費用が膨大であること から、原子力発電を減らす計画があり、日本を除くすべてのOECDの国で原子力推進を やめている 。
 では、日本での原子力発電はなぜ安いといわれているのか。既存の発電所で発電を する場合のマージナルコストは安いということだが、新発電所での発電、廃棄物処理費、 解体費、災害保険、研究費など化石燃料による発電と比べて費用がかかるであろうもの がたくさんある。安く見積もり過ぎてはいないか。例えば、日本の原子力業界は198 4年に解体費を$0.2/Weと見積もっているが、米国のシッピングポート原子力発電所の 実際の解体費用はは$1.23/Weであり、少なくとも日本の見積りの6倍かかっている。日 本の原子力関連の研究には一年に約5000億円が費やされ、これは米国の全エネルギ ー関連研究費よりも多い。[2]

エネルギー消費予測
 21世紀のエネルギー消費は20世紀の高度成長期とは違いかなりの不確定要素を もっている。ガス発電に比べて原子力発電はその変化に対応するflexibilityがあるのか。 はっきりいって現在の状況であと20基の原子力発電所を建設する事は不可能に近いと 思うが、もし立たない場合どのようにエネルギー消費をおぎなうのか。手に入らない可 能性のあるエネルギーに日本の将来を託してよいのか。もっと確実なエネルギー源確保 に力をいれるべきではないのか。さらに、万が一20基立った場合でも、もし予測に反 してエネルギー消費が減ったらベースロードにしかならない原子力はそっくり国の荷物 になってしまうが、そうなった場合にどうするのか。

規制緩和
 規制緩和はしてもしなくてもいいわけではなく、世界的な経済変化の流れであるか ら、日本だけが世界中の国からの非難を受けても電力市場を開放しないということがで きのか。さらに電力市場を開放しないことは、日本の電力産業、原子力産業の国際競争 力低下につながるのだから、電力会社も消費者も規制緩和は近い将来起こるものと考え るべきではないか。本当に原子力発電が経済的であるのなら、電力自由化が原子力発電 に有利に働く可能性はある。電力業界および原子力産業の運営が高効率化された結果発 電費用が安くなり市場競争力がつくし、事故やその隠匿が公になると多大な費用がかか るうえに、信頼を失って破産に追い込まれることが明らかなのだから、安全性向上と情 報公開をすすめるかもしれない。もし地球温暖化防止のために炭素税等が導入されれば、 原子力は化石燃料よりも経済的に有利になる。原子力発電に関する経済性、安全性等に 関する情報が正しければ、ある程度の電力自由化が進められても原子力がなくなること にはならないはずである。

他の選択肢
 IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change) Reportにもあるように、他の発電技術 選択肢はたくさんある。温暖化に真剣に取り組んでいるEU(ヨーロッパ連合)は、電力 市場を開放した結果原子力以外の選択肢を選び、石油の半分以下の炭素排出量であるコ ンバインドサイクルをもつガス発電所への切り替えを進め、さらに2010年までに 1 2パーセント程度の再生可能エネルギーの導入を決めている。アメリカでも RPS(Renewable Portfolio Standard 再生可能エネルギー導入目標) の議論がすめられてい る。
 日本でも、再生可能エネルギーでは日本経済を支えられない、原子力発電しか選択 肢はないなどの情報を押しつけるよりも、もっと情報を与え、国民がエネルギーを公平 に比較出来る状態が必要であると思う。金融業界や住専の経営破綻が結局国民の負担に なったように、専門家と国に押しつけられた選択に従った結果、原子力にかけられた経 済的負担がまた消費者に課かせられる事は避けてほしい。

1. Public Utilities Fortnightly, Mar 15, 135(6): 10-11 1997.
2. Decommissioning of nuclear facilities NEA OECD 1991.