平成11年度 第3回原子力政策円卓会議 議事録

平成11年度 第3回原子力政策円卓会議

1.開催日時:1999年8月23日(月) 13:30〜17:00

2.開催場所:東京ビッグサイト 会議棟6F

3.議題:今後の原子力のあり方について

4.出席者(敬称略,順不同):

 オブザーバー

 お招きした方々

5.議事録:
【事務局】それでは大変お待たせいたしました。定刻の時間になりましたので,ただいまより平成11年度第3回原子力政策円卓会議を始めさせていただきたいと思います。本日はご多忙の中,傍聴の方々を始め多数ご参加いただきまして,大変ありがとうございます。事務局より御礼申し上げます。
 なお,開催に先立ちましてお願いでございますが,傍聴の皆様方におかれましては円滑な会議の運営にご協力賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。
 それでは早速ですが,原子力政策円卓会議モデレーター会議座長の木村孟先生に議事進行のほうをお願いしたいと思います。木村先生は東京工業大学学長を勤められた後,現在学位授与機構長の職におられます。それでは木村先生,よろしくお願いいたします。

【木村(学位授与機構長)】私はただいまご紹介賜りました木村でございます。このモデレーター会議の座長をしております関係で,一言ご挨拶を申し上げて具体的な議論に入りたいと思います。よろしくお願いいたします。
 この原子力政策円卓会議は,本平成11年度,今回で第3回を迎えることになります。まず初めにこの原子力政策円卓会議の主旨についてご説明申し上げ,続いてこの第3回の円卓会議のテーマについて簡単にご紹介申し上げたいと存じます。
 わが国の原子力政策の方向性をめぐり,昨年度,原子力委員会からの要請に基づき,第三者的な立場から行政の評価や提言を行う機関として原子力政策円卓会議が設置されました。計5回の審議を行い,それをまとめて「エネルギー源の中での原子力の位置付け」「立地地域の振興についての対応」「国民に見える形でのエネルギー政策の議論」「政策決定プロセス公開」等について提言をいたしました。その中で最も重要な項目の1つが,この円卓会議の継続的開催の要望でした。
 11年度の円卓会議は,この要望にこたえて設置されたものです。ここでは前回同様,国民各層の間の原子力に関する議論を徹底して行うとともに,広くこれを公開し,原子力問題の状況をより明確に国民の皆様に把握していただくために,原子力委員会に,原子力政策の方向について積極的な提言を行うことを目指しています。
 このような円卓会議の目的が達成されるためには,国民の皆様の広い範囲からの多様なご意見をこの円卓会議にお出しいただき,それについて十分な議論が行われることが必要であると考えています。よろしくご協力のほどをお願いしたいと存じます。
 次に今回のテーマですが,今年度すでに2度この政策円卓会議を行っています。この2度の会議では主として専門家の皆様により,わが国の原子力政策の要である核燃料サイクル,ならびに高レベル廃棄物問題を巡ってさまざまな議論を行っていただきました。今回は再び私どもの原点,すなわち原子力問題の原点に立ち戻り,わが国の原子力を今後どのように考えていくのかという問題について,非専門家の皆様方を交え,広くご意見を求めたいと考えています。ここでは原子力の必要性,安全性,情報公開など,さまざまな側面からの議論があり得ると思いますが,できるだけ相互に噛み合う形で議論を進め,それを本年度末に予定しています円卓会議からの提言作成に役立てたいと考えております。
 次に,本日ご参加いただきます招へい者の皆様方,並びにモデレーターの皆様方をご紹介申し上げます。まずモデレーターの原子力発電技術機構特別顧問の石川迪夫様です。次に慶應義塾大学教授の茅陽一様。それから元中央大学教授の中島篤之助様。私が木村です。それともう1人評論家の小沢遼子様がモデレーターでお加わりいただいていますが,本日は所用のためご欠席となっています。それから毎回原子力委員会のほうから,木元教子委員にオブザーバーとしてご出席をいただいています。
 引き続きまして,本日この議論の場にお招きした方々をご紹介申し上げます。まず最初に私どものほうからお願いした方をご紹介申し上げます。伊藤和明様,文教大学国際学部教授,NHKの解説委員でいらっしゃいます。それから大谷昭宏様,皆様方ご存じだと思いますがジャーナリストでいらっしゃいます。それから,大谷鮎子様。前回は鈴木様が2人いらっしゃいましたが,今回は大谷様が2人いらっしゃいます。オリジナル・メディア・サービス代表取締役社長,女性の暮らし研究所所長でいらっしゃいます。それから環境ジャーナリストのアイリーン・美緒子・スミス様。最後が名古屋女子大学教授で教育研究所長,かつまた付属幼稚園長でいらっしゃいます藤井冨美子様です。
 今回は先ほど申し上げましたように非専門家の方々を加えての議論ということで,一般の皆様方からご意見を募りまして,それに基づいて私どもモデレーターのほうでこの会にお出でいただく方5人を決めさせていただきました。ご紹介申し上げます。中学校教諭の今北真奈美様です。それから会社員の小川順子様。福井県の会社員,杉本英弥様。主婦でいらっしゃいますが,同時に大学院で勉強されております,長野県からいらした中田真佐美様。主婦で茨城県からお越しいただきました山根幸美様です。よろしくお願いいたします。
 私どもでは,毎回円卓会議を控えまして一般の皆様方からご意見を書面でいただいています。それについて簡単にご紹介することを慣例としておりますので,本日も簡単に,いただいたご意見についてご紹介申し上げます。
 7月13日から8月20日まで,傍聴者の方からのご意見が23通でした。その他公募意見が8通,合計で31通いただいています。性別は男性がほとんどで,年代別では60歳代から70歳代までの方が多くなっています。職業別では会社員の方が多く,また地域別では大消費地である東京,大阪からのご意見を多くいただいています。
 ご意見の内容ですが,前回の円卓会議のテーマでありました高レベル放射性廃棄物処分に対する意見については,深地層の研究施設のデモンストレーションとか,地盤,地層のデータの公開を含めて,透明感を持たせてほしいとの意見,またわが国だけではなくて諸外国と共同処分場を持つのが有効ではないかというご意見をいただいています。原子力そのものに対しては,技術的安全性の確保とともに,社会的重要性の検討が重要であるとのご意見,それから再生可能なエネルギーも重要ではあるが原子力エネルギーも21世紀には欠かせないのではないかというご意見等がありました。毎回この円卓会議の運営に対するご意見をいただいておりますが,地方都市開催をぜひやってほしいというご意見,原子力発電所等の現場で働いている方の意見も伺いたいというご意見がありました。いただきました31通のご意見をまとめると,以上の通りです。
 それでは,ただいまから本題に入りたいと思います。本日のスケジュールですが,今日はこれまでになくこの議論に加わっていただく皆様方の数が多くなっていますので,時間上の制約のため,それぞれの皆様方から5分を目途にプレゼンテーションをしていただきたいと存じます。そうしますと時間を守っていただいても50分,たぶんそうでない方もいらっしゃるかもしれませんので,1時間程度になろうかと思います。そこで,20分ほど休憩を取り,それから本格的な議論に入ろうと考えています。
 それでは,アイウエオ順でプレゼンテーションをお願いいたします。ただいま申し上げましたように大変ご発表いただく方の数が多くなっていますので,時間厳守のほどよろしくお願いしたいと思います。
 前にも申し上げたことですが,京都で国際会議がありました時に,私どもの学会で,ある国の方で壇上に立つと絶対下りないという人がいまして,これを何とか下ろそうというので,私が水鉄砲のおもちゃを持って行って彼のこめかみに突きつけるということを計画いたしました。私は水を入れてなかったのですが,だれかいたずらをした人がいて,水を入れたらしく,私が水鉄砲の引き金を引きましたらそこら中が水浸しになり,ひどい騒ぎになってしまったということがあります。今日は水鉄砲を準備していませんが,ひとつよろしくお願いをしたいと思います。
 私はこの全体の座長を務めておりますが,各回の会議ではモデレーターの中で座長と副座長を持ち回りで決めております。きょうは私が座長を務め,隣にお座りいただいている茅陽一さんに副座長をお願いしていますので,よろしくお願いいたします。
 それでは,早速ですが,プレゼンテーションを始めさせていただきたいと思います。アイウエオ順で,伊藤様からお願いいたします。

【伊藤(文教大学国際学部教授,NHK解説委員)】わかりました。そう言われてしまうと,きちんと守らなければいけなくなってしまう。
 私は原子力は素人なのですが,原子力利用というものが,エネルギー政策の面でも,あるいは地球温暖化対策の面でも重要なことはいうまでもありません。しかし一昨日総理府の発表した資料がこの円卓の上の乗っていますが,ご覧のように,総理府の世論調査で原発に不安を持っているという方が7割近くいるということなのです。それから,およそ半数の人たちがこれ以上増設を望んでいないという結果が出ているわけです。やはりその背景としては,最近しばしば起きているさまざまな事故であるとか,そういった事故のデータが改ざんをされていたり,あるいは情報公開が十分でなかったりというような,たぶんそういうことの繰り返しから来る不信感が背景にあるのではないか。ですから,これからの問題としては,そのような国民の不信感をどのように払拭していくか,これが一番大きい課題だろうと思います。
 それから,私は災害屋ですので,災害屋の立場として申し上げておきたいのは,日本の原子力発電所というのは大地震に対して本当に安全なのかどうか,これはやはりいつも疑問に思っているところです。ご存じのように,先日トルコで大地震が起きて悲惨な災害になっていますが,ああいう状況を見るにつけても,日本のような地震国で原子力発電所の地震対策をどのように今後充実していくか,これが大きな課題だろうと思います。
 実は日本の原子力発電所というのは,幸いなことにと言ってよいと思いますが,どこも震度5を超えるような地震に遭っていません。まして震度6,7の体験がないわけでして,これは考えてみれば偶然の幸運という感じがしているのです。
 たしかに原子力発電所の地震対策はかなりしっかりやっていることはよく承知しています。地震対策についての幾つかのポイントというのがよく挙げられているのですが,例えば活断層を避けて立地をするということがまず書かれているわけですけれども,これには活断層に対する誤解というのが少なからずあるのではないかと私は思うわけです。というのは,あとでまた議論の時にゆっくりお話ししてもよいのですが,地表に活断層が認められていない所で直下の地震が起きたというケースが過去には幾つかあります。
 1つだけ例を挙げれば,昭和2年,1927年の北丹後地震は既存の活断層がない所でM7.3が起きました。ですから,活断層がないからといって安心してはいけないという問題が1つあると思います。
 それから静岡県の浜岡原発にいたっては,東海地震の予想震源域の真上にあるということで,住民は大変不安を持っているということを聞いています。
 それから,もう1つの問題。確かに建物の安全性は十分に確保されていると思います。これは「地震対策のポイント」にも載せられているように,一般の建築物の3倍の地震力を考慮して設計がなされているし,あるいは想定した最大の地震が発生した時の揺れをコンピュータで解析して安全性を確認しているとなっていますので,大地震に遭っても,炉心が溶融するというようなカタストロフィックなところまでは行かないにしても,その一方で,地盤災害の問題があると思うのです。
 例えば原発の敷地の地下を走っている配管が,地盤災害の影響を受ける恐れがあるのではないのか。その中で特に重要なのは,液状化現象が起きて地盤が流動してしまう。1964年に新潟地震という地震がありましたけれども,この地震の時に地盤の液状化現象が大きな災害をもたらしたのですが,あとで調べてみたら地盤が液状化によって流動してしまって,ビルの支持杭が折れていたということがわかりました。それから1989年にアメリカでロマプリータ地震というのがあって,サンフランシスコで大きな被害が出たのですけれども,この時も液状化によって地下を走っているガス管が折損して,そこから火災が発生したというケースがあります。
 こういうことを考えると,やはり地下を走っているさまざまな配管類などに,震度5を超えるような揺れが襲った時に,いろいろ厄介な問題が起きるのではないかということを懸念しているわけです。
 過去に発生した地震を調査することによって,これまでの最大地震に耐えられるような設計をしているとされてはいますけれども,はっきり申し上げて今回のトルコがまさにそうなのですが,歴史的に地震のなかった所ほど次の大地震に近づいているという,神戸もそうでしたけれども,そういう認識をやはり持っていないといけないのではないかと考えます。一応問題提起としては,そのぐらいにさせていただきます。

【木村】ありがとうございました。それでは,今北真奈美さん,よろしくお願いします。

【今北(中学校教諭)】先ほど紹介にあずかりました川西中学校の今北と申します。よろしくお願いします。
 私は今後の原子力のあり方について考える時に,現在の学校教育に原子力エネルギー教育を取り入れるということが先決だと考えています。2002年から総合的な学習の時間,年間約 110時間が入りますけれども,その時間を使って原子力エネルギー教育に取り組んでいきたいと私自身考えています。
 まず基本的な視点としては,エネルギー問題に関して,省エネだけで解決せずに,環境エネルギー問題の本質に事実で迫っていく。それに関してはまず環境問題,エネルギー問題,原子力問題について,児童、生徒たちで調査し,学習していく場を与える。そして,さらに疑問点を調べていくという情報処理,問題解決の基本的な技能を身につける。未来の環境やエネルギーについての資料を収集し,関係する方たちからの聞き取り,発電所の見学などを通して,校外学習を進めていく。学習したことを基にして,自分の考えをまとめていく。環境エネルギー問題の重要性について,具体的な資料を通して,個々の問題点について事例を通して理解していく,ということになっていますけれども,特にこれからの環境エネルギー問題に関しては,実際に原子力発電を見学したり,ゴミ焼却炉(クリーンセンター)を見学したりすることも大事になってくると思います。
 実際に1学期に環境問題の授業で取り組んだ生徒の意見がありますので,少し紹介したいと思います。「私たちにできるのだろうか。CO2 ,6%の削減」ということで,この間の京都の地球温暖化防止会議のほうで6%のCO2 削減ということが提案されましたけれども,これがはたして私たちにできるだろうかということを授業で考えたのです。生徒の意見を少し紹介したいと思います。
 まず,自動車をすべてハイブリッドカーにする。自動車に1人で乗ってはいけないことにする。日本の全部のビルを省エネ型に改築する。家庭での冷房を半分にする。すべての住宅を省エネ型にする。太陽光発電を増やす。太陽光発電のソーラーパネルを日本中の建物に付ける。火力発電を減らしていく。原子力発電をもっと増やしていく。こういう意見が出ましたけれども,はたしてこれがすべて今の私たちにできるかどうかというところの話になると,「無理だろう」というような生徒の意見も出てきました。
 このようにエネルギー問題と環境問題は基本的な部分で多く繋がっていますけれども,省エネルギーの意識を高めていくことも大切ですけれども,これからのエネルギー問題を考えていくにあたっては,やはり原子力発電についてのより深い学習を進める必要があります。「もんじゅ」の問題やチェルノブイリの事故についてもしっかりと学習し,これからのエネルギー問題について,自分なりの考えを持てる生徒を教育していかなければいけないと思います。ただ単に原子力発電は危険だとか怖いというイメージを持っている生徒が非常に多いと思うのですが,そうではなくて,怖いというイメージだけで終わってしまうのではなくて,自分たちでエネルギー問題についての課題や問題点を見つけ,それらを総合的に調査し,学習していく中で,自分自身の意見をしっかり持った子供たちに成長させていきたいと思っています。以上です。

【木村】ありがとうございました。それでは,引き続きまして大谷昭宏さん,よろしくお願いします。

【大谷(昭)(ジャーナリスト)】ご紹介いただきました大谷です。私はどちらかというと明らかに非専門家中の専門家のようなものではないかと思うのですが,日頃社会事件とかそういったものばかりを追究しているわけで,ある意味ではそれでは大変場違いな所に来ているのではないかという感じもするのです。ただ,原子力発電というものを,われわれの社会との関わりの中でどのようにとらえていくのかという観点からお話をさせていただけるのであったらということで,おじゃまをしているわけです。基本的に言えば,原子力発電がよいのか悪いか,何がなんでもだめなのか,どうしても押し進めるのか,そういった両極の論議には,私はあまり関わっていないという感じがするのです。
 ただ,これから21世紀に向けての考え方の中で,やはり私たちが一番ここ何年間取材に勢力をそそいだかと言えば,阪神大震災になろうかと思うのです。そうした中で私たち日本人が一番感じたことは,便利さと人間の幸福感とは非常に違うのだと。非常に便利な社会ができることによって,われわれはひょっとしたら幸せな生活を送っているのではないかという大変な勘違いをしていたわけで,これは便利さが人の幸福感を満たすのではないということが,ああいった大災害が起きた時に,われわれは目の当たりに突きつけられるのではないか。そういうことからすると,原発を推進していって,高度に利便性の高い社会を作っていくということが,はたして人間としての幸福感に結びつくのだろうかということを,やはり社会の理念の根底として考えるべきことなのではないかと私は思っているわけです。
 ときどき,30年後の教科書に自分たちのことはどうやって載っているのだろうかということを考えます。 600兆円などとばかみたいに,曾孫どころか玄孫になっても払いきれないとんでもない借金をこしらえて,日本中の山や谷を産業廃棄物で埋め尽くして,だけどわれわれはこれだけのものを使ったのだから仕方がない,現在50基以上あるという原発を2015年,2020年までに70幾つにするのだ,これはわれわれがそれだけのエネルギーを使ったのだから仕方がない,原発というのはそういう意味では化石燃料に比べて環境にやさしいのだというようなことを言ったって,六ヶ所村などに山ほど,何百万年か何万年かわかりませんけれども,少なくともそういった超長期の大変な廃棄物を残していく。
 それで,あの時代に生きてきたわれわれは,それは仕方がなかったのだというようなことをするのであるとすれば,30年後の教科書に「あの時代の人間というのは一体何ということをして生きてきたのだ。とんでもない連中だ。すべて負の財産だけを残してきたのか」ということになって,そういう意味ではわれわれの生きてきた50年,100年というのは,ただひたすら負の財産,しかも人間の幸福感とあまり結びつかない,単なる利便性を求めた上での負の財産というのを残し続けた世代だったということになるのだとすれば,これはちょっと,いささか情けないのではないかという感じがしてならないわけです。
 何とかこの辺で,山道の登り口を右に行くのか左に行くのか,いろいろな論議があるのであれば,何もあわてることはないのだから,いつも進んでいることはないのだから,平気で立ち止まればいいではないか。立ち止まってゆっくり考えるのは,5年,10年あったって,何もその時間というのはもったいないことはない。
 そういう意味ではやはり私は,阪神大震災が1995年,戦後50年の時にちょうど起きたのだから,あの時に日本人は一回立ち止まったほうがよかったのではないかということも,時折思うわけです。
 何かの縁で,滋賀県に琵琶湖放送という小さな放送局がありまして,私は何でも一丁かむのが好きなもので,そこをチョロチョロしていましたら,琵琶湖環境会議のようなものに呼ばれて,時々おじゃまをしているのです。
 ちょっと真面目に琵琶湖のことを考えようかなと思ったのは,ご承知のように琵琶湖というのは,世界で一番目か二番目のすさまじく古い古代湖なわけで,500万年ぐらい経っているわけです。ところが,ご承知のように非常に汚染は進んでいるし,琵琶湖の在来種という動植物が激減してしまっているわけです。琵琶湖ははっきり言うと,いまヒーヒー言って「何とかしてくれ。このままでは単なるでかい泥沼になってしまう」と大悲鳴を上げているわけです。
 けれども,そういうことになった時代というのは,少なくとも1950年以降,昭和25年以降なわけです。そうすると,この50年間で琵琶湖はいままで経験したことのない大変な爪痕を残されている。それは,琵琶湖の歴史からすると,たった10万分の1の期間,全部琵琶湖が生きてきたうちの10万分の1の期間でズタズタにされたわけです。これが日本の戦後やったことなのです。
 これをふと振り返ってみると,私が生まれて育った期間とちょうどぴったり一致するわけです。ということは,俺が生きてきた時というのは,ただ単に,ようするにムチャクチャのことをした,その時期だけ俺は生きたのかということになると,どうもあまり自分の人生として座り心地がよくないというか,案配が悪い。せめてここら辺で軌道修正できるものならば,ささやかなりともしたいという思いがあるわけです。
 そういう意味では,私は原子力発電というのは,大きな意味で言うと,われわれが残し続けてきた負の遺産というものを,やはり残すことになるのではないか。いまはやむを得ないかもしれないけれども,少なくとも次のエネルギーに繋ぐ,バトンタッチをさせる,これが自然エネルギーであるか,さまざまな違った意味のエネルギーの発現なのか,それはこれから少なくとも英知を絞らなくてはいけないわけですが,最低ここいら辺でどこかにバトンタッチをする,違ったエネルギーにバトンタッチできるのだという素地はこしらえていただきたい。それはせめて負の遺産をこれ以上残さないという,われわれの決意に繋がってくるのではないか。
 それからもう1点,水鉄砲が飛んで来る前に大急ぎで言っておきたいのですが,われわれはやはり全国各地を取材して歩くことが仕事ですが,原発が危険であるかないかという前に,日本の地域民主主義をメチャクチャに破壊したという罪深さを,ぜひわかっていただきたい。これは日本の中で言われれば,一番いさかいも争いごともない平穏な地域に,いまだに対話さえできない大きな爪痕を残して,私たちはエネルギーを創出してきた。そういう意味では,せっかく戦後地域の末端まで根を張ろうかとしていた民主主義というものが,非常にいさかいの場になり,なおかつ遺恨を残す場になってしまった。そういうことからすると,私はやはり都市がエネルギーをひたすら使い続けて,ひたすらそのつけを地方に回していく,これはまさしくいわゆる迷惑産業と言われる原発であり,産業廃棄物に象徴されるわけです。都市が非常に脆弱な地方を痛め続けて,そしてそこの民主主義をメチャクチャ破壊してあとは知らない,あそこのおっちゃん,おばちゃんたちは永遠にいがみあっているのだと,これはある種1つの国として暴力的な措置ではないか。こういうことを繰り返しながら,私たちはエネルギーを作り続けていいのだろうか。
 やはり根底的なところで,われわれの社会のあり様というのを,この原子力発電,原発問題というのは,人それぞれからすれば人それぞれの生き方の問題であり,国としてみれば,国のたたずまいの問題になるのではないか。そういうことで私は,早急に違うところにバトンタッチをするための暫定的なものとして,原発を見ていく必要があるのではないか。根源的なところではそんなことを考えています。
 あとは,後ほどのディスカッションの中ででも論議を交わせたらと思っています。ありがとうございました。

【木村】ありがとうございました。それでは次,大谷鮎子さん,よろしくお願いします。

【大谷(鮎)(オリジナル・メディア・サービス代表取締役社長,女性の暮らし研究所所長)】福岡からまいりました大谷です。お隣の大谷さんとはたまたま,大谷という名前は珍しいのでそんなにしょっちゅう会うことはないのですが,何かうれしいなという気がします。

【大谷(昭)】決して夫婦ではありません(笑)。

【大谷(鮎)】いまお隣の大谷さんがおっしゃった最後のことについては,私もちょっと異論というか,考え方が違うというのがあるのですが,その前に私はこの席で,原子力と私たちの暮らしということで日頃から少し疑問に思っていることが2,3ありまして,それを皆さんで議題にして討論の材料にしたらよいのではないかと思っていましたから,それの解決の答えが出るかどうかというのはわかりませんけれども,ぜひ皆さんと一緒に考えてみたいということがあります。
 まず最初に,九州の中で九州山口経済連合会というのがありまして,経済界の団体なのですが,私はその中にエネルギー問題を考える委員というのを拝命しました。当初「九州原子力問題懇談会」という名前でした。環境問題とかエネルギー問題とかそういったものを,大学の先生とか,それこそ有識者の方たちが集まって,それで一般の方たちと一緒に話をしたり聞いたりしましょうということで始まったわけですが,「講師を派遣しますよ」と言っても「講演会をやりましょう」と言っても,主催は九州原子力問題懇談会というだけで,「いや,ちょっと」という感じだったわけです。
 先生のほうに「委員になって下さい」というのも,「原子力ですか」というようなことでなかなか動きがない。それはそれで私はとてもよい勉強になっていたのですが,中に入ってしまえば「言葉がなんだ」ということなるのかもしれませんが,一般的に言うと,やはりどうしても何か「ええっ」という感じで,「何か怖いところに所属しているね」などと言われたら「どうして」と思うぐらいにあったわけです。学校の教育とか,学校の先生たちに何とか原子力発電所の見学にも行ってもらいたい,まず見てもらうことしか始まらないのだからということになって,まず何かネックかというと,学校の先生たちに「来て下さい」と言うと「いや,原子力問題懇談会が主催しているのだったら,ちょっとなかなか皆さんのあれが通らないのですよ」ということでした。
 学校の先生,それから学校の先生が教育する子供たちに,まず原子力を正しく認識してもらうためには,名前を変えないといけないということになりまして,4,5年前に,名前が「九州エネルギー問題懇話会」ということになりました。そうするととたんに「待っていました」という感じで,「ぜひ話に来て下さい」「ぜひうちで講演して下さい」というようなこともどんどん出てきましたし,それから先生たちの見学会というのも非常に増えました。
 ただ主催がということだけで,そのようなことが言葉の問題だけで出てくるというのは,もちろん大きな問題をはらんでいると思います。「なぜ原子力なのか」ということが1つ大きな問題だと思いますけれども,言葉で判断するというその辺も,私たちが言葉だけで判断してはいけないなということも含めて,ぜひとも原子力という言葉について一緒に考えていきたいということが1つです。
 それから,石油の残存年数があと四十数年しかないということが,もう数年前から言われていますけれども,それだけしかないにもかかわらず,本当ならば第1次オイルショック,第2次オイルショックで私たち日本人は大変な教訓を得て,そしてあと四十数年しかなかったらなおのこといつ第3次オイルショックが来るかもしれないと,内心はちょっとハラハラしながら家庭を守る人間としては女性たち心の中にはきっとそういうものがたくさんあると思うのです。
 あるにもかかわらず,この2,3年のガソリン代の安さ。それと,非常にダブついているということ。ガソリンスタンドがこの2,3年どんどん潰れました。どんどん潰れて,どうなったかというと,大きな石油会社が合併しました。そして小さなところは皆潰れていって,スタンドはもうガラガラになってペンペン草が生えているような状態です。その中にもかかわらず,徐々に徐々にまたガソリンの値段が上がってきたのです。たった1,2年の間で,ガソリン代がそれぐらいのことで上がってくるのであったら,小さいところでガソリンスタンドでなくなったところの人たちはどう思っているだろうか。石油が少なくなっているのだからもっと大事に使いましょうということも含めて,そんなに簡単に上がったり下がったりする石油の業界というか,その辺も,私たち暮らしを守っていく人間としては,石油の残存年数が少ないからできるだけ原子力発電もというところをきちんとやっていただこうかなという。私たちは何をしたらよいのかというのもありますけれども。
 それからもう1つ,これを機会に科学技術庁とか環境庁とかのインターネットをしっかり見てみたわけです。たまたまついこの頃,大間の原子力発電所でMOX燃料全部で発電するという記事を見ましたから,ずい分変わってくるのだなと思いました。その時にMOX燃料のこととか高速増殖炉のFBRのことも,原子力辞書ですか原子炉というホームページを見たのですけれども,その中にも入っていないのです。FBRも載っていなかった。せっかくインターネットでそれほど出して下さるのだったらもっと詳しい情報,それから「はかるくん」という放射線の簡易測定器がありますが,それに関しても,どこでどんなふうに借りられるのかということが,「無料で貸し出します」というタイトルだけで,例えば地方だったらどこに行ったらどんなふうに借りられるというようなことが載っていない。そこら辺も,せっかくだったら知りたいというこちらの要求が満たせられるような形とか,どうして取れないのか。
 ちょっと時間になりましたので,その辺の疑問点を問題提起ということで終わらせていただきます。ありがとうございました。

【木村】ありがとうございました。それでは,次に小川順子さん,お願いします。

【小川(会社員)】皆様こんにちは。小川順子と申します。私は原子力関係の会社に勤めています。円卓会議も何回か拝見しましたけれども,いままでは男性中心で技術の話がとても多くて,ちょっと固いなという感じがしていたのですが,今日は出席者が半分以上女性なので,とてもざっくばらんで,市民感覚で話せるかなと期待しています。
 私の主張は応募レポートの題名にありますように,「先進国はCO2 フリーエネルギー社会に」ということです。原子力のあり方はエネルギーという枠の中で考えるべきだと思っています。CO2フリーエネルギー社会を目指す目安としての年限は2020年ぐらいが,石油の残存年数が43年ということですのでその半分ぐらい,そのぐらいを目指してCO2フリーエネルギー社会を目指していくべきだと考えています。それからもう1つ重要なことは,エネルギー問題は世界的視野で考えてもらいたいということなのです。
 まず先進国がCO2 フリーエネルギー社会を目指すべきという提言の第1の理由は,化石燃料を利用する権利というのは世界平等であるべきではないかと思うのです。先進国はすでに化石燃料の相当な部分を使ってきまして,それによる環境の悪化などは全世界に及んでいるわけです。悪いものが全世界に及ぶのだったら,利用する権利も当然全世界平等であるという考えが公平なのではないかと思います。
 いままで先進国が早い者勝ちという感じで使ってきた化石燃料のおかげで,依然として先進国と途上国の格差は解消できず,途上国の生活水準はあまり向上していません。ここで先進国が毅然としてCO2 フリーエネルギー社会を目指すという理念を掲げることによって,石油の価格を安定させ,それを途上国に投入するということで,私が何を目指すかということは人口の抑制なのです。
 環境問題とかエネルギー問題,それから食料問題の根本のところは,人口が増えるということにあると思うのです。一時的に途上国に相当な電力というか化石燃料を投入することで,電力化を進めていって,一時的にはCO2 の世界的全体の消費というか排出は上がるでしょうが,長い目で見れば,人口抑制に成功すれば,その方法がより早くよりよい方向へ向かう手だてではないかと思っています。生活水準を上げれば,人口抑制が可能だというのは,日本の例でも先進国の例でもよくわかっていることだと思いますので,ここでは特に説明しません。
 次にCO2 フリーエネルギー世界を目指すという第2の理由ですが,これは環境問題です。これは言わなくても,もう皆様方よくわかっていらっしゃると思います。二酸化炭素を出さないエネルギー源,そのエースとしてやはり原子力発電があるのではないかと考えています。いろいろな選択肢があると思います。省エネルギーも大事,新エネルギーも大事,水力発電もとても大事です。でも,現実的な選択肢としては,やはり原子力発電を抜くことはできないのではないでしょうか。
 次に原子力発電の分野ですが,FBRというのは高速増殖炉ということで,プルトニウムを使いましょう,ウランから作られるプルトニウムを使いましょうという炉なのですが,FBRは研究を進めて,プルトニウムは資源として有効活用するべきだと考えています。私は個人的には,プルトニウムを使わない原子力発電というのはあまり意味がないと思います。
 原子力は事故があるから怖いとか,何となく不安と,こちらの世論調査にも出ていましたけれども,それは煎じ詰めれば,放射能とか放射線に対する恐怖から来ていると思います。皆様方の原子力発電にかかわる放射線の見方というのは,医療とか産業,それから研究などで扱われている放射線に比べて,極端にきびしいものになっていると思います。これもまた放射線に対しては公平な見方を欠いていると言わざるを得ません。
 原子力と宇宙開発というのは,同じ科学技術庁の分野なのですが,宇宙開発はチャレンジャーのような事故が起こっても「夢は再び持とう」という感じで,大きな夢という感じで報道がされます。でも宇宙では,1日1ミリシーベールト(人が受ける放射線の単位)という量の放射線を受けるのです。これは自然放射線の 300倍の量です。宇宙飛行士がああいう偉業をなした時に,それだけ放射線を受けて仕事をしてきたということは,まったく報道されません。それから飛行機に乗っても,数十倍の放射線を受けます。それから医療や研究などの放射線利用についても,皆さんは特に危険だという思いはないと思います。原子力発電だけが,この自然放射線よりずっと少ない,ほんのわずかなものでもいやだという,これは一般の方のダブル・スタンダードな見方,つまり同じものに対してこれはよいけれども,あれは嫌だという,こういう見方ではないかと思います。いまは科学技術の世界で,科学技術というものに対する目は,もっと冷静な目でなければいけないのではないかと私は思います。
 この問題に対しては原子力で働いている人たちも十分に反省すべき点があります。それはわかりやすい広報をしてこなかったのではないかという反省です。これからはもっと努力して,皆さんにわかりやすく説明していくことを続けていくべきだと思います。
 時間の関係で以上ですが,あと安全性の問題とか放射性廃棄物,それから核燃料を核兵器に転用しないという核不拡散の問題については,話題となった時にお話ししたいと思います。ありがとうございました。

【木村】ありがとうございました。それでは,杉本英弥さん,お願いします。

【杉本(会社員)】非常にあがっています。一般招へい者の中で今回私は男1人なので,男の私がこんなことを言うのも恥ずかしいのですが,あがっています。心臓がバクバク言っています。今時の若い人でいうと,超ヤバイという感じですか。
 こちらの資料にもあるように,以前に事務局のほうに,先ほども今北さんのほうからも原子力発電所云々,エネルギーに関して教育の場でどんどんやっていこうではないかという,私もそういった主旨をレポートの形で作成してお出ししました。ただ1か月前に招へいが決まって,それからこういった形で発表しようという考えもあったのですが,今日実はこれとは違う話をしたいと思います。ここで問題提起をするようなそんな重大なことでもないし,私のいままでの中であったことをただお話ししたい。
 ちょっと言い忘れましたが,私は福井県出身です。「もんじゅ」はいまほとんど動いていませんが,原発が実験炉,実用炉合わせて15基ある福井県出身です。たまたま今日は茨城県出身の方も来ていらっしゃいますが。なぜこのようなことを話すかと言いますと,これが福井県民の声だとは,私も代表して言うという大それたことでもないし,ただ私個人,杉本英弥が,ここで皆さんに聞いていただきたい。
 実はこの円卓会議は,一般招へい者として私が選ばれたのはこれで2度目です。前回は福井県の「もんじゅ」のある敦賀市で,先ほど座長のほうからお話がありましたように,地方で,福井県敦賀市「もんじゅ」のある所で円卓会議が開かれた。平成8年の8月23日,ちょうどいまから3年前です。それに選ばれていました。選ばれていましたけれども,出てはいません。なぜか。出席しませんでした。これは本当に申しわけないのですが,その頃科学技術庁の情報室が事務局を主催していたと思うのですが,その時担当の方とかには非常に申しわけなかったのですが,嘘をついて,病気ということで欠席させていただきましたが,別に病気でもなかったし,別に出られなかったわけでもないのです。たしかに理由はあるのですが,別に突然逃げたわけではありません。では,なぜ出なかったのか。1つは福井県民だからだったのだと私は思っています。
 その前に8月の22日に,ある全国紙で私が明日の敦賀で行われる円卓会議に出席すると,名前と年齢が出ました。どこにでもあるような名前だと思うのですが,たまたまそれを見た人がいて,それを私の父に言った人がいるのです。ただ父は,これも初めてなのですが,仕事中に私の会社まで電話をかけてきて「話がある」と。私も全然そんなことは思っていませんでしたし,明日の会議のことで頭が一杯だったし,何か急に父が話があるからというので行ってみれば,「明日の会議は出ないでくれ」と。「出ないでくれ」と,二十数年間生きていて,初めて父親に頭を下げられました。なぜか。
 これも本当はここで話すべきではないと思うのですが,私の父は,全然関係ないような仕事なのですが,たまたま原電関係と仕事が関連していた。原電とまったく遠い繋がりだと思うのですが。「だから,やめてくれ」と。「お前がそんなところに出て,発言して,賛成か反対かは関係ない。もしそこで発言して,それでお前が俺の息子だとわかったら,俺はどうなるんだ。うちの家族はどうなるんだ。お前はいいよ」と,はっきり言われました。「俺が死んだ後に,仕事を辞めた後に,お前が何をするのも勝手だ。でも俺が働いている間に,そんなことはやめてくれ」と。
 これが福井県民でなかったら,例えば東京都とか大阪の一般の団体職員だったら,ただのサラリーマンだったらどうだったのだろうか。ただの東京,大阪の普通の親子だったらどうだったのだろう。そう思いました。たまたまです。私は,原電と父との会社との関係は,本当に遠い関係だと思うのです。それ以前にも,やはり父は反対とか賛成をそういう場で言うというのも問題があるのではないかということも言っていました。ただ,そこに出席して本当に影響があったかどうかは,そんなことはないと私も信じたいですが,ただ,そういうことがあるのではないかと思っているのは事実です。実際本当にそれで仕事がなくなるわけでもないし,出席してなかったので何とも言えませんけれども。
 いま思えば,3年前は出なかった。では,いまなぜこの場にいるのだと思われる方もいるでしょう。はっきり言います。私はもう父親とは親子の縁を切らせてもらっています。たったそれだけのことですけれども,それでもう私はどうでもいい。私的なことで非常に申しわけないのですけれども,自分の言いたいこと,自分の意見をはっきり言えないような,そんな環境の中に住んでいるというのはもう我慢ができなくなって,それ以来本当に親子の関係というのは,先ほども大谷さんのほうからも地方の民主主義が破壊されているとお話がありましたが,原発が福井にあるだけで親子の関係がぎくしゃくしてしまった。福井に原発がなければという思いもしています。別に私は原発反対論者でもないし,推進論者でもありません。ただその時から,原発が福井にあると。
 先ほどこちらの資料にもいろいろ出したのですが,やはり福井県はいろいろな面で原発に頼り切っているのです。全県民とは言いませんけれども,何らかの形で原発にいろいろ関係があるのです。例えば直接そこには関係していないけれども,親戚だとか,その関連のまた関連だとか,またいろいろな面で政治的なこともあるでしょう。例えば原発で働く人が県外から来る。そこに泊まる旅館だとか,その旅館で原発反対などと言っては困るよと,そんなこともあるのではないか。私だってそうなったのだから,どこでもあると思うのです。
 特に,原発のある高浜町とか大飯町とか,町ばかりです。人口も少なく,昔からの村社会と言われている,そういう所です。隣近所親戚,血縁者だらけ。石を投げれば知っている人という中で,本当に原発について皆が自由に討議できるのか。できないのではないか。したくてもできない。ただ単に言いたくないのかもしれないし,言ったら隣の人は原発関連のそのまた関連のところで勤めているしとか,うちのおじさんのまた従兄弟はねとか,そのようになるのではないか。その中でやはり一生懸命原発反対と叫んでいる方もいらっしゃいます。
 ただ,一番腹立たしいのは,この資料にもありますように,公民館でプルサーマルの勉強会をしようと,たしかに読書会と言っているけれども,それをプルサーマルの勉強会に変えようとしたとたんに,教育委員会は公民館を使用させないと。こんなことが,この新聞の資料にあるように,現実にあるのです。
 その同じ日に載っていた中で,県税収入総額云々と書いてある中で,敦賀市,高浜町,大飯町が補助金が一切ないのです。一番市民が多くて収入の多い福井市ですらも,交付税が118%増となっているのに,こういった補助金が一切なくてもやっていけるというのはやはり原発があるからでしょう。
 これは同じ日の新聞です。「ああ」と私は思いました。「ああ,高浜町は原電さんからいろいろそういった補助も受けているし,箱物と言われるものもいろいろ建ててもらっているし,道路も広くしてもらっているし,そこに従事している人もいっぱいいるし,だから,高浜町は公民館も貸せないのか」と。別に高浜町が憎くて言っているわけではないけれども,教育委員会にしてもそういった意味ではないけれども,やはり先ほども言ったように,何かあるのではないか,何か影響があるのではないか,不利益があるのではないかと。実際本当に原子力関連企業はそういうことはしないと思いますけれども,そういった不安があるのではないか。何らかの形で関連がなくてもあっても,これは福井県民だれしもがそうだと思います。
 そういった中で,私は発言をさせていただいた。実際,今日来るまで,ここへ来るまで本当に逃げたいくらいでした。今日私が発言したことについて,明日新聞報道とか,あればの話ですけれども,なかったら別にいいのですが,それでだれかがまた読んで,「お前は何をやっているのだ」と。これで会社を首になるかなという思いもあるし,別にないかもしれないし,でも何らかの影響もあるかもしれない。周りから言われるのは間違いない。そういったことをはね除けて,よしやってやろうと,自分の意見をここで述べてみましょうと,ただそれだけをここで皆さんに聞いていただきたくて来ただけです。以上です。

【木村】ありがとうございました。それでは,スミスさん,お願いします。

【スミス(環境ジャーナリスト)】ご紹介いただきましたアイリーン・美緒子・スミスです。よろしくお願いします。
 現在,日本の原子力開発と利用に関する新しい長期計画の策定審議が始まっています。今日私の冒頭の発言は,この策定会議の策定委員33名の皆様に向けて提出した提言についてお話ししたいと思います。それともう1つ,今日の私の発言すべては,ここにいま同席されている科学技術庁と通産省の若手官僚の皆様に捧げます。
 私が今日ぜひお話ししたい策定会議へ向けての提案をする前に,まず始めに私自身の原子力についての考え方をかいつまんでお話ししたいと思います。5点あります。
 まず,原子力の増設はするべきではありません。温暖化防止をするという約束で20基原子力発電所を増設するという話がありますけれども,これは中身を見ると,言葉は申しわけありませんけれども,ナンセンスです。その中身をあとの議論でもお話ししたいと思っています。
 第2に,既存の原子力発電所は段階的に閉鎖するべきだと思います。
 第3に,高速増殖炉計画は「もんじゅ」をただちに廃止することをはじめ,高速増殖炉計画はやめるべきです。これもまたあとでの議論でお話ししたいと思いますが,かいつまんで言いますと,この計画は2050年になっても,つまり50年先でも日本のエネルギーの1%も供給できません。これは推進している人の発言から読みとっても,50年先にエネルギーの1%にもならないわけです。ですから,原子・力という名前がつきませんので,計画から外すべきです。
 4番目に,再処理はやめて,MOXを燃やすプルサーマル計画,普通の発電所でプルトニウムを燃やす計画は進めるべきではないと思います。
 最後5点目に,核廃棄物問題ですけれども,これは原子力発電所の段階的廃止が確定され,そのスケジュールが決まった段階で即時話を進めるべきであって,日本の原子力発電所の廃棄物は国内処分をするという国際的約束を世界にして,そして国内で処分を決めていくべきだと思います。
 以上の5点につきまして,説明,理由の時間はないのですが,いま申し上げたように,できるだけ議論の中で織り込んで意見を言っていきたいと思います。
 さて,私が今日提出しました資料5−4「原子力政策策定会議の策定委員の皆様へ」という資料ですけれども,タイトルは「原子力開発利用長期計画策定の進め方と改善策について」というものです。なぜこの円卓でこれにこだわるかということを説明したいと思います。これが私が今日一番言いたいことなのです。
 いままで国民の意見というのは,さまざまなところで原子力について伺われて来ました。私もこれを幾つも目撃しています。例えばFBR懇談会とか高レベル放射性廃棄物処分懇談会とか,さまざまな場で国民の意見が募集され,意見が述べられてきました。すばらしい意見がたくさん述べられてきたのですが,いままではこれはすべき聞きっぱなしです。
 この円卓会議の目的は「原子力委員会に原子力政策の方向について積極的提言を行う」ということです。冒頭にも木村議長からこのように申されました。そこで申し上げたいことは,いままでの円卓会議で述べられた意見,それと今後述べられる意見を,円卓会議のモデレーターの皆様から原子力委員会に提出していただきたいということです。次回の長期計画の策定会議は9月20日です。ですから,いままで述べられてきた意見は,それまでにぜひ提出していただきたい。
 それと,今後円卓で述べられていく意見は,この策定会議がいま行われていますので,随時原子力委員会に提出していただきたいと思います。この円卓は,例えば私はどこかを代表しているわけでもありませんけれども,でも円卓を通して,茅先生の言葉もあって,どういう論理の下で反対がされているか賛成がされているかということは十分議論されてきたと思いますので,その中身を,いま原子力の長期計画が策定中ですので,そこで議論できるように国民の意見を提出して,そしてそれを活かしていくべきです。
 すぐに時間がなくなっていくので,この策定会議に提出した提案ですけれども,本当にかいつまんで1分ぐらいでまとめたいと思います。それは長計の策定審議に国民の意見を随時取り入れるシステムを作ること。それと,原子力の問題について,批判も含めてふんだんな資料があるので,その策定会議に複数の招へい者と報告者を呼んで,各サブジェクトについて説明を設けていくということです。それと,中間報告が出た時には,双方向の公聴会を開くということです。これは国民に向けて,それを取り入れて,最終報告を出すべきです。それからもう1つ,審議のやり方について,脱原子力を含む幅広い選択肢を取り入れて,論理的な判断手続きを行いながら,審議をしていくべきだと思います。
 そして最後に私がこの用紙で提言していることは,脱原発についてのシナリオ作りをするということです。分科会がありますので,その分科会の1つに,脱原子力の審議を行うように会議が開かれるべきです。これは原子力を推進,反対を超えていま社会情勢,政治情勢,経済情勢も変わっています,その中でいまこそ脱原子力の用意が必要でありまして,それを行うべきです。私は日本はまだ鎖国が終わっていないと思います。非常に孤立していくというか,いまの世界情勢に適応していけていないのが,いまの原子力の行政,それと日本全体の行政の問題だと思いますので,この最後の点は本当にいま必要だと思います。
 やはりかいつまんで話すとちょっと乱暴ですけれども,私の発言はこれで終わらせてもらいます。どうも。

【木村】ありがとうございました。それでは続きまして中田真佐美さん,よろしくお願いします。

【中田(主婦,大学院生)】
私はUC Berkeley, Energy and Resources Group(カリフォルニア州立大学バークレー校 エネルギー資源グループ)で再生可能エネルギーの政策を勉強しています中田と言います。もともとアモルファスシリコン太陽電池のエンジニアだったので,原子力発電に関しては,たぶんニュートラルな観点で,大学院でエネルギー政策一般を勉強し始めた学生の立場として感じた疑問を述べさせていただきます。

−−OHP(中田(1))−−

 ここに4つ,私がいま疑問に思っていることを書いたのです。まず最初に電力の規制緩和が行われた場合に,日本の原子力に市場競争力はあるのかということです。電力業界の規制緩和というのは,してもしなくてもよいというわけではなくて,世界的な経済変化の流れですから,日本だけが世界中から非難を受けても電力市場を開放しないということはできないのではないかと思うのです。
 例えばOECDの Nuclear Energy Agencyが去年出したFuture Nuclear Regulatory Challengesという本も持って来ているのですが,その冒頭にも原子力産業の電力市場の変化に対する対応が重要だというのが真っ先に記されています。世界中でも1990年にイギリスを皮切りに,去年カルフォルニア,アジアでもタイ,(南米でも)チリ等,世界中で民営化,規制緩和は賛否両論あるにもかかわらず進められているわけです。
 その規制緩和の結果何が起こっているかというと,消費者が安い電気を売る会社とか,あるいは電気に消費者の好みの付加価値を付けて,例えば環境にやさしい電気とか,そういう価値を付けて電気を売る会社を消費者が選べる状況ができつつあるわけです。その結果,電力会社も経営の高効率化を図って,できるだけ低料金で電力を供給するように努めたり,あるいは再生可能エネルギーを使って環境にやさしいことをアピールして顧客を得るように努めています。この場は規制緩和の是非を問う場所ではないので,そういうことが否応なしに起こっているということをまず述べさせていただきます。
 ですから,私はまず日本の電力会社も消費者も,近い将来電力の市場開放というのは避けられないと思うべきではないかと思っています。さらに電力市場を開放しないと,たぶん日本の電力業界も日本の原子力産業も国際競争力が低下してくるわけで,たぶん市場開放に進むと思います。
 この電力業界の規制緩和がなぜ原子力に関係するかというと,欧米で電力市場の自由化によって,原子力の値段というのが実は膨大であるということを,消費者が初めて知らされています。去年の4月に市場が自由化されたカルフォルニア州では,電力会社の原子力発電などへの未回収投資( stranded cost)が約3兆円,それは州の消費者が払うことになっています。実際に(消費者が)払っています。米国全土では20〜30兆円と言われています。
 この stranded costというのは何かというと,少し違うかもしれないのですが,例えば国鉄が民営化された時に膨大な赤字を結局国民が払ったというような,そういうものに近いと思ってよいのではないでしょうか。この stranded costの半分以上は,原子力発電に投資した費用です。もっとも原子力発電に伴う投資というのはもう高額に過ぎるので,アメリカでは1973年から新しい発電所の注文は止まっていますし,フランスのEDF(エレクトロドフランス)でさえも,近年始まった古い原子力発電所の解体にかかる費用が実は膨大であるということがわかり始めてきて,原子力を減らして天然ガスに移行しようとしているというのを,EUのエネルギー政策を研究している方から聞きました。規制緩和された競争市場では,膨大なキャピタルコストを持っていて,しかも事故もあるし,投資にこれだけリスクが伴う原子力発電を,日本を除くOECDの国ではやめているわけです。
 でも,日本ではなぜか原子力発電は安いと言われています。たしかに既存の発電所で,事故とかシャットダウンとか起こらないで順調に発電をした場合の発電コストは安いと思います。日本の場合は9円/kWh と発表されていますし,アメリカでも成績のよい原子力発電所は2〜4円/kWh という非常に経済的な運転がされています。ですけれども,いまディスカッションしているのは,これからのエネルギー需要を何で補うかと考えているわけで,そういう場合は既存のものではなくて新しい発電所の発電費用の比較になるので,その値段がどうも日本の場合は安いと言われているだけでわからない。いろいろな方が言われるように廃棄物処理費とか解体費とか災害の保険とか研究費とか,非常に費用がかかるであろうものがたくさんあります。それで,なぜ外国と日本と費用の差が生まれたかというのがまずよくわからない。
 もし,現在の日本の見積もりが安すぎた場合は何が起こるのかと考えると,たぶん stranded cost,結局はその差は日本の国民が払うことになるのではないかと思います。それがまず第1点の不安なところで,規制緩和の結果,もし原子力が生き残れないようなものだとしたら,それこそエナジーセキュリティのために選んだエネルギー源として誤っているのではないかと思います。
 2点目が,21世紀の不確実なエネルギー消費に対応できるフレキシビィリティが原子力にあるかということなのですが,政府が発表したように,あと20基の原子力発電所の建設というのは,私はどう考えても無理だと思います。国民の反対もありますし,先ほどの規制緩和が進められるということもあります。規制緩和に対応しようとする電力会社ももしかすると反対するかもしれない。そのようにもし20基建たなかった場合にどのようにエネルギー消費を補おうとしているのかがよくわからない。言い換えれば,手に入らない可能性のある高いエネルギーに日本の将来を託しているということになるわけです。
 ですから,もっと確実なエネルギー源確保に力を入れるか,エネルギー源の分散化を図るべきではないか。エナジーセキュリティというのは,単にエネルギーを確保するというだけではなくて,万が一の時にも困らないエネルギーシステムを作るということなので,例えば原子力1基が止まると一気に1ギガワットとか減りますけれども,それよりもあちらの村に太陽電池 200個で1メガワット,こちらの村に風力発電 300メガワット,こちらの町にバイオマスとか,そういう形のシステムを考えるべきではないか。
 逆に万が一20基建った場合,もし予測に反してエネルギー消費が減ったとしたらどうするのか。そうするとこの20基というのはそのままお荷物になってしまうのだろうかということです。ベースロードにしかならないような原子力20基がドンと使わないまま残ってしまうとするのであれば,やはりヨーロッパのようにコンバインサイクルの天然ガスの発電所だったら,すぐ建てられてすぐ壊せて,始動も停止も分単位でできるような,しかもピークロードを補うのに対応できるフレキシビィリティのあるもののほうが,まだよいのではないかと思います。
 3番目が地球の温暖化に対してなのですが,原子力が地球の温暖化をくい止める切り札となるかということで,もうたぶん時間がないと思いますので,あとでもしご質問があればお見せしますが,実際原子力が75%の電気を供給した場合に,どれだけ二酸化炭素をくい止められるかという計算をしている人がいまして,それがもうほとんど焼け石に水という状態なので,あればよいけれども,切り札にはならないのではないか。
 最後に,では他の選択肢があるのかということなのですが,例えばいまお見せするのはIPCCの95年のレポートから持ってきたものです。
−−OHP(中田(2))−−

 細かくてわからないと思うのですが,これは選択肢のリストなのです。例えば温暖化に真剣に取り組んでいるEUなどは,結局原子力が経済的ではないということで天然ガスに行ってしまいましたし,さらに2010年までに12%程度の再生可能エネルギーの導入を決めています。アメリカでも(国レベルでの)再生可能エネルギー導入目標(Renewable Portfolio Standard)というものも議論されています。カルフォルニアでは11%,約 1.6ギガワットですから原子力発電所1〜2基分のエネルギーは,実際は再生可能エネルギーで補われています。ですから,日本でも再生可能エネルギーが日本経済を支えられないと言ってしまうのではなくて,もう少し国民がエネルギーを公平に比較できるような状態が必要であると思います。
 さらに,日本以外の国が温暖化のために再生可能エネルギー導入を進めることを決めているので,そうした時に,いまの日本が再生可能エネルギーの技術開発に力を入れておかないと,たぶんビジネスチャンスを失うのではないかと思います。
 しかも技術だけでよいかというと,例えばデンマークのように,いまデンマークはウインドタービンの世界のシェアを40%以上占めていると思うのですが,それだけ占めるようになったのは,国内の市場がバックアップしたということもあるわけで,そういうことを考えるべきではないかと思います。
 最後にまとめると,まず経済的負担が消費者にかけられそうな気がするというのと,エナジーセキュリティのためと言われて犠牲を払った結果,ちっともセキュアーではなかったという結果にならないだろうかという疑問です。以上です。

【木村】ありがとうございました。それでは次に藤井冨美子さん,お願いします。

【藤井(名古屋女子大学教授,教育研究所長,付属幼稚園長)】名古屋からまいりました藤井です。すでに個々の皆様から発表のありましたことで重なるかもしれませんが,私自身が用意してきましたものを申し上げたいと思います。
 私たちはエネルギーをまるで空気や水と同じように,いつでもあるものだというので少し気安く使いすぎているきらいはあると思います。ですから,当然その辺りで消費地と生産地の問題も出てくると思います。
 ところが,先ほどからご意見が出ていますが,電気エネルギーを作っている原料となるというと変ですが,燃料の石炭,石油,天然ガス,ウラン,日本はこれをほぼ 100%輸入に頼っているということなのです。この辺りはやはり他国とのすぐ経済計算ができるものでないと思います。それから日本の国というのは,そもそもが天然資源が非常にとぼしい国ですので,エネルギーの原料のみならず,すでに私たちの体のエネルギー源ですら輸入に頼っているわけです。私たちの食べている物,カロリーにすると50%が輸入なのです。世界有数のエネルギー源輸入大国であるということがまず第1と,それから先ほども申しましたように,非常に天然資源に乏しい国ですので,日本の国が日本として生きていくには原料を海外から輸入し,そしてそれに加工という手を加え,付加価値を付けて輸出するというのが日本の構造的な発展を支えてきたわけです。
 それには日本の教育は非常に徹底していて,画一的な製品を生み出したり,よりよい技術者,テクニシャンの人材育成には十分寄与してきたと思います。しかし,これからはもうそれではやっていけないでしょう。ですから,基盤技術を開発する有能な人,いわゆる個性豊かでいろいろな発想のできる人を育成しなければなりませんが,もちろん人材が育成できても,質のよいエネルギーがないと,重要なファクターとして産業は伸びていかないと思うのです。
 もちろん省エネ,効率利用には努めなくてはならないということは十分わかるのですが,すでにもう高齢化が始まり,少子化も始まっています。それからどんどん国際化が進み,私たちは快適な暮らしを求めています。そして高度な産業とか,現在の産業を維持,発展させていかなければなりません。それにはやはりエネルギー確保がきわめて大切なことは言うまでもないと思うのです。
 すでに今北先生を始め,皆様おっしゃいましたが,私たちは教育先進国として非常に自負していました。しかし,小・中・高等学校で,いま電気のエネルギーの3分の1を原子力で補われていますが,でははたして学校で科学的知識としてどれほど教育に取り入れているだろうかということです。これは今後新しく学習指導要領の改訂により,総合で学習が広められるということで,やはり正しい知識を広めていくことが重要な問題ではないかと思います。
 それから,現在の産業を見てみますと,環境にやさしくリサイクルということが非常に叫ばれています。私もあまり原子力については詳しくはありませんが,原子力発電こそリサイクルしているのではないかという見方をしています。
 ただ,原子力発電所における事故が,いろいろな面で対応のまずさから,一般の人たちには非常にマイナスのイメージが大きく出ていることは皆さんご存じの通りです。それから当然ですが,深刻な影響をもたらす放射性廃棄物の問題等もありますが,いずれにしても廃棄物は現在考えられる一番の方法で処理が進められていますが,少し原子力に関しては負の部分が注目されてすぎているのでないかと思わないこともありません。
 それから先ほども申しましたように,すでに3分の1の電気エネルギーに活躍している軽水炉の安全性は,もう国によっては30年ないしは20年電力を生み出していまして,その辺りでは安全性を私たちは理解してもいいのではないかとも思います。ただやはり高レベル放射性廃棄物についての問題は,これからの新しい課題としてもっと研究していかなければいけないと思います。
 それから,いまは原子力を中断するなり新しいエネルギーに,もちろんやはり次世代エネルギーは考えなければいけないとは私自身も思っていますが,ただ,太陽光とか風力発電に高い評価を与えすぎているのではないかと思えるのです。いますぐ原子力に太陽光とか風力発電が代われるということは,少し日本の風土というか,国土としては無理ではないかと思います。
 原子力発電所を造るのも危険を伴いますが,風力発電所を造ろうとすると,音の問題も考えなくてはなりません。それからやはり常にいい方向から風が来るだけでもありませんので,その辺りについてはもう少し考える必要があるのではないでしょうか。もちろんこれは太陽にしても風力にしても,いわゆる資源が枯渇するという問題はありませんので,伸ばすことは非常にいいことだと思いますが,やはり私たちエネルギーを利用する者として考えてみますと,質のよいエネルギーとなるとやはり電気エネルギーで,しかもそれは安定的に供給してもらえるということが第一条件になってくると思います。ですから,自動車もいまではガソリンエンジンと電気駆動のハイブリッド化が進んでいますので,やはり生活自体ももっともっと原子力を含めて電気エネルギーの消費はあがってくるのではないかと思います。
 ただ,チェルノブイリとかスリーマイル島の原発事故による放射能汚染,これがある意味では非常に深刻な問題を多くの方に引き起こしましたし,やはり原子力発電に対する安全性を低下させたということは大きいと思います。しかし,どんなすばらしいものであっても,それを取り扱う人的要素,ソフト面で問題があれば,これは止めることはできないと思います。そういう点で,わが国では原子力発電のハードウェアの技術,私自身は軽水炉ぐらいしか知りません,あとの細かいことは新聞等の事故のことはよく知っていますが,ハードウェアの技術としては確立しているでしょう。それから管理,運営,運用するソフトウェア技術もそれなりにうまくいっていると思います。
 私は実は原子力施設の海外視察団としてイギリス,スイス,フランス,そして中国の施設を見る機会を得ました。原子力発電に対する対応はそれぞれ国によって相違はありましたが,放射性廃棄物を処理する施設も,私どもが尋ねましてもかなりオープンに説明していただけました。それから発電によって生じた熱を家庭の給湯,植物の栽培,動物の飼育等に利用して,発電所周辺の住民の方々ともある程度仲良くやっているのではないかという印象をうけました。
高レベル放射性廃棄物の保管計画は,世界どこの国もまだというようなことでした。ここであえて私が保管という言葉を使いましたのは,夢のような話かもしれませんが,もし研究が進んでいまガラス固化体にしていますが,それがいつの日か再資源として見直されるかもしれないという夢を持っているわけです。そうなると,わが国においても,高レベル放射性廃棄物の安全な保管方法が確立しましたら,原子力発電の見通しは非常に明るくなると私は思っています。以上です。

【木村】ありがとうございました。大変お待たせしました。最後になりましたが,山根幸美さん,よろしくお願いします。

【山根(主婦)】東海村のある茨城県の土浦市からまいりました山根と申します。先ほど福井県からの杉本さんのお話を生々しくお聞きしたのですが,私は少し離れているせいもあるか,幾らか冷めているかなという気がしています。発言要旨,応募したレポートのあとに,発言要旨の補足と今日話すための資料を付けましたので,そちらを参照しながらお聞きいただければと思います。
 先ほどちょっと琵琶湖の話が出ましたけれども,土浦市は第2の湖である霞ヶ浦に面しています。そこで私は市民として,20年ほどになりますが,霞ヶ浦についての市民活動に関わってきました。湖沼の保全に関わる国際会議に参加して,開発の政策と市民活動についての発表などをしています。また,ここ数年はいばらきコープという生協の環境活動推進委員として活動しています。
 原発の問題については,動燃の事故もありました。気になりながらも,まだ全体像はなかなか把握しきれないというのが実状です。そこで,私がいまの私の市民としての立場から,ここの円卓会議で言えることは,発言の補足に掲げた3つのことであるかと思っています。
 その第1は,私にとっての身近な市民の動きだとか,意識はどうだろうか,あるいは行政の動きはどう伝わってきているかということです。
 97年の3月に動燃の爆発事故がありましたが,これに対していばらきコープは公開質問の形で「真相と暮らしの安全を求める決議」を科学技術庁に出し,回答を得ています。資料の1−1にそれを載せています。また,県は原子力広報紙でこのことに関する特集を組み,これは新聞折り込みで県民全戸に配布しました。これがこういう形のものです。その一部を資料に付けました。いずれも問題は起きたけれども,大きな危険には至っていないという回答であり,そういう広報になっています。
 一方資料の1−3に挙げましたけれども,県内の高校生がこれを題材にした劇を演じました。創作劇でしたが,そのチラシが入っています。そのテーマは情報の公開性へするどい問題提起をしたものです。
 この他,あとで参考資料に名前を掲げていますが,市民の調査委員会ができ,東海村にアンケートを実施して冊子を発行しています。「沈黙を破った春」という冊子です。
 そのような動きがありましたが,その後毎日は平穏に過ぎていっていて,問題提起はされても,実際私たちの毎日での緊張感は長続きしていないなというのが正直な実感という感じがします。
 一方,省エネルギーへの関心という点ですが,いばらきコープでは環境マネージメントということにして,電気の使用量を把握するなどという例と,それからその中のグループですけれども,資料に紹介したような活動があり,省エネルギーをその気になっているという芽生えはあると思っています。ただこれはまだ踏み出したばかりで,これからどう育てていくのかということが課題と言えると思います。
 第2点目ですが,市民として私が特にこの原子力,原発問題に関わって納得したいことですが,応募レポートに9項目ほど挙げています。その中でも,原子力政策決定の背景と実態はどうかということです。9項目の中で「儲けの実態はどうか,汚染や被害の実態はどうか」という項目で書きましたけれども,だれがどう儲けているのか,利権の問題があると思います。
 湖に関わる開発の問題でも,このテーマは裏に隠れていて,なかなかいろいろな会議の前面には出てきていませんが,このことで実際物事は決まっていくのだと思います。前回の円卓会議で,市川さんのレポートでしたか,技術に対して政策が先行しているという指摘がありましたが,近い点をついているのかなと思っています。
 次の点は,市民にいろいろ疑問があるわけですが,実際どう答えているのかということです。資料の3に挙げましたリーフレットは,これがその元になる,両面あるうちの1面を載せましたけれども,原発に対しての疑問点が書かれていますし,プルサーマルについても疑問点が書かれています。
 その次に,広瀬隆さんが土浦市で講演をされた時のレジメが手元にありましたので,抜粋を載せましたけれども,多少どぎつい表現ではありますが,利権の動きが記述されています。最後に原子力産業の体質について言及されています。
 また先ほどの東海村のアンケートにもいろいろ地元の不安が載っていますし,あるいは参考図書で挙げましたけれども,「知られざる原発被曝労働−ある青年の死を追って−」などというブックレットも出ていまして,こういうことに対してはどう考えたらよいのだろうという疑問があります。
 最後に市民としての提案ですが,コンセンサス会議というようなものを設立するのがよいと思います。資料4には,原発も含めたリスクについての想像力を欠く日本人という記事を載せましたが,参考図書にその後掲げた環境研での研究者の報告書にも日本人の環境問題,知識はあるけれども,実際行動には移しにくいという同じような傾向が報告されています。しかし,想像力が働いてこそ未来を選択できるのだと思います。やはり考えて自己決定をし,決定に対して責任を持つという場が必要なのではないでしょうか。
 そこで資料5には,先ほどデンマークの風力発電の話が出ましたが,デンマークのコンセンサス会議の例を紹介したものを挙げました。提案までを市民が手がけることが鍵なのではないかと思います。
 「円卓会議をさらに前進させて」とレジメに書きましたけれども,ここでは意見を聞いていただくわけです。その後提案はモデレーターの先生方にお任せなのですが,実はいままでの皆さんの発言を聞いていても,1つのことに対して違う考え方,異なった考え方が種々出ています。いろいろなシナリオが書けているのだと思います。その中で一体どれを選ぶことが日本の国民にとってよりよい選択なのか,前回の会議に,原発問題は選択の問題であるという山地さんのご発言が送られてきた記録の中にありましたけれども,やはりそういうことを市民が提案して,文章化するところまで責任を負うような場があればよいと思います。
 ただし,現実にいろいろなことが進んでいますので,先ほどアイリーン・スミスさんのお話のようないろいろな場面で意見を伝えていくのが現実的かもしれません。その辺は考えていきたいと思います。
 デンマークには実は前回の湖沼会議で私は行ってきましたけれども,この国は原発を採用しないで風力発電を進めているという話が先ほど少し出ました。その会議に行った時に,社会のシステムとして,環境に対してどのような意見が吸い上げられて,どういう提言システムがあるかということも,資料に付けました。日本人はなかなか想像をたくましくして,その気になりにくいのですけれども,でもその気になればやれる力がある国民だと思っています。いままでのお話の中でも,いろいろな切り口が出ましたので,その辺を整理して,一体何について見極めていけばいいのかということが,この円卓会議の中でわかってくればいいということで,1回目の発言は終わりにしたい思います。ありがとうございました。

【木村】ありがとうございました。以上10人の方々からご意見をいただきました。時間については,平均約10分間お使いになっております。最初のほうの方は伊藤さんを始め,ちょっと不公平であったかなと思います。
 それでは,冒頭申しあげましたように,ここで20分ほど休憩をさせていただきまして,3時半から再開をしたいと思います。残り1時間半,90分ありますので,どのような点についてご議論をいただくか,少しモデレーターの間で相談を致します。3時30分から再開いたします。よろしくお願いいたします。

【事務局】それでは,ここで休憩に入らせていただきたいと思います。円卓の先生方が一旦控え室のほうにご退場になります。その間に事務局のほうからお知らせがございますので,傍聴の皆様方におかれましては,しばらくそのままでお待ち下さい。
 若干お知らせをさせていただきます。会議は3時半より再開させていただきますので,それより若干前にこの会議場にお戻り下さいますようお願い申し上げます。
 トイレはロビー,こちらの奥のほうにございます。それからこの会場から出られまして向こう側,奥側にジュースなど飲み物のほうをご用意させていただいていますので,ご休憩の間にぜひご利用下さい。また会場への再入場のさいにバッジのほうを確認させていただく場合がございますので,必ず胸のほうにご着用をお願い申し上げます。また会場内は禁煙となっております。ジュースのサービスをしています所の左側が喫煙できるようになっておりますので,おタバコのほうはそちらのほうでお願い申し上げます。それでは,いまから約20分間ぐらい休憩に入らせていただきます。

−−休憩−−


【事務局】それでは円卓の皆様方もご着席になられましたので,本日の原子力政策円卓会議,後半の議論にむけて再開させていただきたいと思います。それでは,木村先生よろしくお願いいたします。

【木村】それでは,残り90分間の議論を始めたいと思います。先ほどアイリーン・スミスさんのほうから,この円卓会議の意見を長計に反映させるようにというご要求がありました。その問題については,前にアイリーンさんのグループと議論をしたことがありますが,その点につき,副座長の茅先生のほうから,簡単にモデレーターの考え方をご披露いただきたいと思います。よろしくお願いします。

【茅(慶應義塾大学教授)】今回の円卓会議は昨年の4月から始まったわけですが,その時の考え方として,これは原子力委員会の下に置くのではなくて,原子力委員会からたしかに費用は出してもらうけれども,独立に運営をする。そして,モデレーターがすべてを仕切るということで始めた会議であるわけです。そういった考え方から,本質的に原子力委員会の活動に密接に関係するような形でこれを運営することはしないという前提になっていまして,たしかに現在長計の懇談会ができ,そしてたしか2回やったのだと思いますけれども,これが進行していることはわれわれもよく承知していますけれども,それに対して直接われわれが何か毎回ものを言うということは一切考えていません。
 ただ,この会議の提言というのは,おそらく来年早々には出せるだろうと思います。というのは,7回今年度予定していますけれども,12月までで大体7回終わると思いますので,それが終わった段階で,提言をこちらとして考えてまとめるということになります。たぶん来年の初めには提言が出せるだろうと思います。その段階では,長計は議論がたけなわになっている段階であると思いますので,その意味では長期計画のほうには,われわれの意見というのは十分反映できるし,またそれをかなりの程度尊重してもらえるのではないかと,われわれは期待をしています。
 それから,それとは別にですが,この会議は,先ほどもアイリーンさんが言われたように,この中には原子力委員会の方,これは別に木元さんだけではなくて,他の方も出ておられますし,またお役人の方も出ておられます。これは別に今回に限ったことではなくて従来もそうなのですが,そういった方々から,公式的にではないですが,非公式な形で円卓会議でどのような議論がされているかということは伝えていただけるということを私は期待していますし,そのようなことで円卓会議の持っているいろいろな議論というものは,長期計画の策定の中に何らかの形で反映していけるだろうと私は考えています。
 ただ,いま申し上げましたように,基本的にはこの円卓会議というのは原子力委員会とは独立して,したがって長期計画の策定とは独立に動くという形を取っています。そういうことで納得いただきたいのですが。

【木村】それでは時間も限られていますので,できるだけ多くの方にご議論をいただくため,まず私の独断と偏見により,10人の方から出されたご意見を簡単に要約させていただきます。10人の方それぞれご意見が違っていますし,明らかに意見が対峙している部分もありますので,その辺についてご議論をしていただければと思います。
 まず冒頭,ご専門という立場から原子力関係の施設に対する不安が表明されました。ことに自然災害との関係で不安が表明されています。その次,原子力施設,いわゆる嫌悪施設ということで,地方民主主義というものに対して非常に悪い影響を与えたのではないかというご指摘です。これは私自身も産炭地にいましたのでよく理解できるのですが,日本独特の風土に基づいた状況がありまして,かなり難しい問題ではないかと思います。それから,俗に言う発展に対する考え方の切り替えのようなものが必要ではないかというご指摘がありました。
 それから,その次は教育の問題が出されました。教育のフロントにいらっしゃる方からのご発言が中心ですが,どうも原子力発電と言った場合に,他の平和利用のものに比べてバイアスがかかって解釈されているのではないか。そういうことからすると,後半にも出ましたけれども,日本人われわれが自分で考える力というものをもっと養っていかなければいけないのではないかという教育の重要性についてのご指摘が出されました。
 次に,原子力を進めているということに対して,経済的に国民にしわ寄せが来るのではないか。原子力を選択するということが本当にエネルギーセキュリティの面からよいのかというご指摘がありました。同一のご意見で,そういうことからすると次の新しいエネルギー源に引き継ぐために少し立ち止まる必要があるのではないかと,具体的なお言葉は出ていませんでしたが,モラトリアムということを考えるべきだというご意見がありました。それから,原子力というものを,わが国のエネルギーセキュリティという問題の中で捉えて評価すべきではないかというご意見も出されました。
 以上簡単にまとめさせていただきましたが,先ほど申し上げましたように,ご意見がそれぞれ違っている部分もありますので,ぜひ皆様の間で議論を戦わせていただければと思います。
 どなたからでもけっこうです。お手をお挙げ下さい。どうぞ,今北さん。ご発言はなるべくコンパクトにお願いします。

【今北】先ほど藤井先生のほうから,原子力という言葉に負の部分が強調されすぎているという発言があったのです。また,大谷さんのほうからも,原子力という言葉だけで判断してはいけないという発言がありました。いまの児童、生徒たちの意識の中に「原子力=原子爆弾」というものがすごくあります。平和教育の中で原子爆弾についての知識とか,戦争の恐ろしさというものは学んでいるのですが,それに結びつけてしまう生徒が非常に多い。だから,怖い,危険な物。この怖い,危険な物という意識を払拭しない限り,エネルギー問題の本当の学習に繋がらないと思います。
 このエネルギー学習をスムーズにやっていくためにも,このような「原子力=怖い・恐ろしい」という意識を払拭するにはどうすればよいのかということは,私も現在悩んでいるのですが,やはり藤井先生の言われた通り,負の部分に強調されている面が原子力は非常に多いと思います。本当の原子力問題やエネルギー問題を学習させていくために,やはりこういうイメージを払拭しないといけないと思います。こういうイメージを払拭するにはどうやっていけばよいのかということを,皆さんに考えていただきたいと思います。
 杉本さんのレポートの中にも「やはり日本の子供たちに原子力発電や放射性廃棄物がどのようなものであるかを正確に理解させ,事実を深めさせることが大切である」とあるのですが,私もその通りだと思います。やはりこれからの教育に向けて,このイメージを変えていく方法を,皆さんに考えてもらいたいと思います。以上です。

【木村】ありがとうございました。大谷さん。

【大谷(昭)】いまのご意見はよくわかるのですが,その負のイメージを非常に強く作ってきたということになれば,マスメディアを非常に追及されるケースが多いと思うのです。原発報道に関してマスメディアが多大な影響を与えてきたことは事実だと思うのです。
 ただ,われわれからすれば,負のイメージをより増殖させてきたのは,やはりこれまでの原子力政策であり,各原発が事故のたびに何をしてきたのかと,そういった情報公開が一切なされずに,あるいは情報公開どころか非常に虚偽の言葉を並べ続けてきたのです。
 例えば原発事故があった時に,ご記憶だと思うのですが,VTRを撮っていないということを一貫して言い続けてきたわけです。われわれメディアからすれば,あれだけの大事故が起きている時に,技術者たるものがVTRを回さないということは,まず技術者としてはなぜ起きたのかということを探りたいわけですから,これは科学技術者であれば,しかも優れた科学技術者であれば,当然撮っているはずだろう。にもかかわらず,それを隠す,嘘をつく,そういう虚偽と欺瞞の中に政策がずっと続けて来られた。
 これはメディアの責任ではなくて,メディアが嘘を書いたわけではなくて,事実嘘があったからその通りのことを書いたわけで,嘘をついたのはメディアではないわけです。そういうことからすると,ただ単に原発は安全ですよ,負のイメージを払拭しましょうと言ったところで,それは無理ですし,基本的に言えば国民の不信感というのは,何かあるたびに増殖されているということを抜きにして,教育だとかメディアだとかいうところに問題を転嫁していくというのは大変間違えている。もっと根源的な問題のところで論議すべだと私は考えているわけです。
 その辺のところで非常に原子力政策と民主主義というのは,地域民主主義を含めて,あるいは政策を含めて,常に相反する不幸な対峙関係にあったのだということをまずわかっていただきたいということだと思います。

【木村】ありがとうございました。どなたかありますか。では,小川さん。

【小川】いまの大谷さんのご意見ですけれども,卵が先かニワトリが先かの論議のような気もするのです。原子力関係者が安全に対して過大すぎる期待をもたれて,原子力発電は原爆と違うのだということで,関係者はわかっているのですが,それと一般の人とのギャップがあることによって,1995年の「もんじゅ」の事故の時,素直に全部出せなかったというような追い込まれた気持ちもあったと思います。そのことでまた一般の方と捻れてしまったということがあると思うのです。どちらが先かというと,決められないのではないかと思います。原点はやはり広島に落ちた原爆だとは思うのですけれども。
 それで,私は日本原電の人間なのですが,最近の日本原電の敦賀2号機の事故のことを言いますけれども,その時は会社のほうで,「もんじゅ」事故からずっと情報の透明性とか,社員のモラル,社会とともにある原子力の姿などをめざして,会社の中で意識改革ということでずっとしてきました。トラブルそのものは非常に不幸なことですけれども,今回の事故においては,私どもで撮ったVTRの生テープをそのまま出したのを始めとして,記者の方にいろいろと装備をしていただいて現場もお見せしたというように,情報開示については原子力の世界もしっかりと変わっています。ですから,その点を大谷さんも最新の情報を見ていただけると,原子力も少しずつ情報開示に慣れてきたな,意識が普通の産業と同じようになってきたなということを,少しご理解いただけるかなと期待しています。

【木村】他にありませんか。アイリーンさんが先ほどから挙がっていましたね。ではどうぞ。

【スミス】私は日本の市民の原子力に対する不信は,理由があって不信があると思います。
 先ほど教育の話がありましたけれども,負のイメージを変えなければいけないというお話だったと思うのですが,私は教育はイメージではないと思います。やはり,子供たちに原子力の現状を知らせるということが非常に重要だと思います。
 先ほど今北さんのお話にあったように,自分自身の意見をしっかり持つということがものすごく重要ですし,それにはいろいろな情報を提供する必要があると思います。その中にはやはり世界の先進国の原子力事情はどうなっているのかとか,例えば脱原発に向かっているという側面とか,電力の自由化,緩和の事情がどうなっているかなど,知らせていく必要があると思います。それと,やはり原子力防災の日本の現状を知らせる,それと何よりもこの子供たちが私たちが作った廃棄物を解決していかなければいけないので,その事実を知らせるというのが非常に大切だと思います。
 それと情報公開の話がいまありましたけれども,情報公開というのはどんどんされているのですけれども,問題は必要な情報がなかなか手に入らないのです。肝心な情報が手に入らないのです。ですから,情報はこういうものを出してくれというのも,当たり前の安全性にとって評価するに必要な情報とかは,まだまだ不透明な部分がほとんどです。それが現状ですので,その部分を公開していくというのが重要だと思います。

【木村】ありがとうございました。

【スミス】先ほどの茅さんのお話もあとで追加したいと思いますけれども。

【木村】ちょっと待って下さい。では,伊藤さんどうぞ。

【伊藤】教育の問題を今北さんが言われましたけれども,たしかに原発と原爆とが,原子という言葉で繋がってしまっているものだから,子供たちの間で誤解のようなものが生まれているということかと思うのですが,これはやはり考えてみると,私は理科教育の問題,あるいは科学教育の問題だろうと思うのです。
 日本の科学教育というのは,できあがった結果だけを教える,あるいは言葉だけを教えるという教育がずっとこれまで続けられてきたと思います。実は科学というものはできあがるまでのプロセスが重要なのですから,それをいかにこれからの教育の中に組み込んでいくかが問われている思うのです。そうやって論理的なモノの考え方を子供たちに植えつけていく。これを今北さんのように現場でやっていらっしゃる方にぜひお願いしたいと思います。

【木村】ありがとうございました。では,藤井さん。

【藤井】先ほど出てきました情報公開の問題とイメージ,私は決してイメージで原爆がとか原子力発電がどうこうと言っているわけではなくて,原爆はどういうエネルギーであったかということと,それから原子力発電はどういうエネルギーで,それによる私たちの生活への影響というのはもうまったく違うわけです。その辺をきちんと科学的に指導することが必要だろうと思います。
 実は私も女子大ではありますが,理科教育の全国評議員をやりながらカリキュラムについてかなり首は突っ込んでいるのですが,この辺が非常に難しく,文部省と科学技術庁の問題がありますので,やがて今度文部省と一つになって有馬先生あたりがご活躍いただけるのではないかと思いますが。
 本来はもっともっと原子力発電ということに対して,できたらぐっと具体的に,軽水炉でこうやって発電しているのだよという辺りまで踏み込んだらもっと理解が得られると思います。
 それから,たしかに情報公開がというので,私のごとき市民はかなり情報は出ているではないか,求めに行けばどんどん聞かせてもらえる。私は非常に好奇心が旺盛ですので,できたら外国のもと思いまして先ほど申しましたようにイギリス,フランス,スイス,OECDのNEAも行ってきましたが,かなり細かいことを,そこでチェルノブイリの事故も聞きまして,残念ながらスイスでしっかり言われたのです。「日本の原子力発電はそんなにご心配なさらなくても大丈夫ですよ」と。ちょうど帰ってきて空港で新聞を買ったら「もんじゅ」の話が出ていまして,「あれあれ」と思ったようなことですが。
 すでにいま動いている,現実に稼動しているものについて,もっともっと子供たちに理解させれば,やがてその子たちが社会の中心になって活躍する時には,もっと違った目で見てくれると思うのです。ですから,単に私もマイナスイメージのことを言っているのではなく,たしかに大人は新聞から得るマイナスイメージが非常に強いと思いますが,子供たちはまったく白だと思うのです。その辺りをよい悪いは別として,科学的にしっかり把握させる必要はあって,そして子供の意見が賛成か反対かに出てくる結果を待つほうがよいのではないかと思います。

【木村】ありがとうございました。大谷さん。

【大谷(鮎)】私は先ほど杉本さんのお話を聞いて,一つの事例をお話したいと思います。福岡県はエネルギーの大消費地です。その消費を支えるのが,佐賀県の玄海町に原子炉が4号機,鹿児島県の川内市に2号機が運転中です。ここで電気の消費地と供給地の関係を玄海町の場合を1つの例にとってお話しさせていただいたら,少しは杉本さんの気持ちの中に,何か「そうか」と思い直していただけるものがあるのではなかろうかと聞いていたのです。「なんだか救いようがないな」と考えたくないのです。
玄海町に原子力発電所を造ろうという機運が盛り上がったときに,地元の若手経済人たちが中心になって「条件が一つある」と申し出をしたそうです。玄海町の町長さんはぜひ原子力発電所を地元に持ってきたいというお考えでした。その条件というのは「電力の消費地である福岡市を初め,大きな消費地の市長さんたちと地元の電力の供給側の首長さんたちとの,サミットを毎年やってもらいたい。それが条件だ」というようなお話になったということなのです。それで毎年,地元玄海町でいまでもサミットをやっていると聞いています。それでまず首長さんたちが集まられた時に,消費地の市長さんたちが「本当にありがとうございます。おかげさまで何の心配もなく経済活動も市民活動もやっていけます」と感謝の言葉を述べてから,サミットは始まるということを聞きました。
これを提案した当時の若手経済人たちは,現在五十歳を過ぎたいいおじさんたちになって地元経済界を荷っています。彼らが若い時に提言したことがずっと守られているということも,とても良いことではなかろうかと思いますし,やはりいまからは消費地と供給地のコミュニケーションを深く持ちながら,仲良く,いろいろな意見をそのまま,直接双方向でやっていけるということを考えるべきではなかろうかと思いました。

【木村】ありがとうございました。では中田さん,どうぞ。

【中田】怖いというイメージを払拭するにはということだったのですが,本当に怖くないのでしょうか。まず,いま(原子力利用に関する技術を)学習中なわけです。研究者が研究しているということ自体,技術も確立していない部分もあるし,不確定な要素もある。その学習している最中であるにもかかわらず,エネルギー問題を決定しなければいけないという難しさがあると思うのです。学習している最中であるにもかかわらず,怖くないものという結論を植え付けてよいのかと思います。
 その結果が,例えば何かが起こった時に可逆であるものならよいですけれども,実際に何か起こってしまったらもうそれっきりな部分もありますね。そういう結果が,物理的に何か不可逆なものが待っているにもかかわらず,しかも学習中であるにもかかわらず,あまり断定的に,子供たちに怖くないよと言ってしまってよいものかと思いました。

【木村】どうぞ,茅先生。

【茅】すみません。いまちょっと主語がなかったので,誤解を避ける意味で,何が学習中とおっしゃったのでしょうか。

【中田】廃棄物の保管の技術とか。それから,私は原子力の研究についてはあまりよく知らないのですが,日本が原子力にかけている研究費というのは,アメリカがエネルギーのプロジェクト全部にかけている研究費全部合わせたものよりも大きいですね。ですから,その研究費をかけて,研究しているものがあるということではないかなと思いますけれども。

【木村】今北さんがおっしゃっているのは,怖くないというイメージを与えろということではなくて,きちんと教えろということだと思います。そこのところは少し議論が違っているようですね。

【中田】ですから,「払拭する」というのがたぶんいけないのだと思います。ですから,正しい,決定的な,怖くないとか,そういうものを教える前に,やはりもっと判断できるだけの能力と情報を与えるべきだと。

【木村】スミスさんがおっしゃったのと同じことですね。情報を十分与えて判断させろと。
 中教審でさかんに指摘がされていますが,われわけ大人を含めて,日本人は考える力というのが足りないようですね。その辺の問題も非常に大きいのではないかと私は思います。

【大谷(昭)】ちょっといいですか。

【木村】どうぞ。

【大谷(昭)】ですから,議論が分かれていることであれば,さまざまな議論がある事実を,ありのままなぜ子供たちに知らせないのか。安全性を子供たちに強調しなさいというのだったら,そんなのはだれも責任を持てないと思うのです。だからこそこうやって議論が分かれているわけです。だとすればすべての情報を,例えばこれだけ安全性とか,これだけ情報公開が進みましたよと,しかしやはりアイリーンさんのほうから見れば,大事な情報は出ていないではないかという部分だってあると思うのです。すると,例えば子供たちの教育ということで言うのであれば,あるいはメディアが負のイメージを非常に広げているのだというのであれば,例えば原子力政策に関して国の,電事連を始めとするメディアあてのいわゆるPR費,これはおそらく60億から70億になっていると思うのです。それがなぜ原子力政策に関することばかりにお金が使われるのかとか,こういう議論があるのであれば,それはすべて公開すればよいではないか。そういう一環として私はこの円卓会議もあろうかと思ったので出てきたわけです。
 例えば違うエネルギーに対するこういう動きがいまあるのだと,それがすべて取って代わるかどうかわからないけれども,例えば風力発電の試みについて言えば,日本は非常に遅れている,むしろ他の国のほうが先に進んでいるということも,すべて事実を公開して,その中で子供たちに「さあ,君たちの時代にはどれを選択するのだ。残念ながら,われわれは大変な廃棄物を残していることも事実だ。これはあなたたちの時代に処理せざるを得ないのだ」ということも含めて,なぜすべてを出さないのか。
よいのか悪いのかということであれば,よいほうはよいほうを宣伝しろと言うし,悪いほうは悪いほうを宣伝しろと言うに決まっている。この原発論議では常にそういうところでエキセントリックになって,なぜかお互いのお互いの情報を公開していこうという努力がある意味でスポイルされてしまっている部分がある,というようなむなしさを感じるのですけれども,それは出席の委員の皆さんはどうお考えになっているのかというところを,ぜひ聞いてみたいところなのです。

【木村】この辺はどうでしょう。はい,小川さん。

【小川】放射性廃棄物の問題については,もう相当のレポートが出ています。大谷さんが放射性廃棄物の具体的にどういったことをご存じになりたいのかわかりませんが,大谷さんはとてもお忙しいので,これを知りたいと言ってもその時間がないのかわかりませんが,でもいつでもインターネットでも見られるようになっていますし,図書館でも見られるようになっています。こんな厚いレポートが出ているのです。忙しい人間でも日常に見られなくては,それは情報公開だと言わないのだと,そこまでおっしゃることなのでしょうか。

【大谷(昭)】そんなことは言ってないです。私はそういう事実があって,例えば六ヶ所村にこれだけの廃棄物があるのだと。これは何年かかってわれわれがこれだけ溜めて,それに関して言えば,どの世代までこれを背負っていかなくてはいけないのかと。
 小川さんがおっしゃっているのは,例えば貯蔵についての安全性だとか,低レベルだったらどれぐらいきちんと再処理していますとか,そういうのはインターネットとか,あるいは私が六ヶ所村に行って,ちょうど中電の方が広報で,こと細かく説明を聞きました。それは,こういう対策を取っているのだと。ただそこから先,私たちはこういうものを残しつつあるのだということも含めて,子供たちにきちんと教えていきなさいと。

【小川】そのデータも出ているのですが。

【大谷(昭)】ですから,これは私たちの世代では処理仕切れない問題なのだということも含めてきちんと子供に残して,それでそこから議論を始めるべきであって,安全性についてはインターネットをしっかりめくってくれと,これだけ広報をしているのだ,情報公開をしているのだということでこと足れるということではなくて,この問題には必ず次の世代,もう1つ次の世代まで残していくものがある,そのことをひっくるめてきちんとすべて子供たちに知らせていくべきだと。

【小川】それはもちろんそうだと思いますし,その方向に向かってやっていると思いますし,第2回の原子力政策円卓会議は,まさにそのテーマで4時間語られたわけですね。

【木村】それでは,山根さん。

【山根】私もずっと前ですけれども,10年以上前に小学校の教師をしていたことがあります。それで今北さんのお話は,ちょっとその時を思い出しながらお聞きしたのですが。
 ただ先ほどちょっと座長のほうで整理されましたけれども,負のイメージがあまりにも強くてそれを払拭しなければいけないという発言は,では「安全だよ」と教えるのかなという印象を受けましたので,それは「ちょっと待てよ」という感じを受けました。でもそれがそうではなくて,ニュートラルにいろいろな情報を提供して,その中で,さあ自分たちで判断していくのだよという意味であればよいのですけれども。
 それで,一緒に考えていくときに大事だと思うのは,いまの自分たちの暮らしがどのように電力消費と関わっているのかという視点も大事です。
 昨年度の円卓会議の論点と提言の中に,市民の意思・思いをまとめた部分があります。「いままで通りに電気は使い続けたい」あるいは「もっと使い続けたい」,だけど「発電システムは安全であってほしい」というまとめがありますが,そのようにくくって考えて,その間のいろいろなことをなかなか考えないで毎日が過ぎていくのです。
 学校の中でも,そのようにイエスかノーかというように決めてしまうのではなくて,いろいろな選択肢があるということを,ぜひ具体的に,教師も,イメージというのではないとおっしゃったけれども,いろいろな想像力を働かせて,いろいろな場面を考えることが,子供たちと一緒に考えるときには大事だと思います。
 それと同時に社会の,先ほど福井で出たいろいろな動き,あるいは九州のほうの動き,こういうのもあるし,こういうものもある,そういうことをやはり材料として提供すべきでしょうし,あるいはさまざまなリスク,それから先ほど中田さんのおっしゃった国際的ないろいろな国によっての考え方の対比というのは非常に興味深かったし大事なポイントだと思いました。そのようなことも含めて,ぜひ子供たちと考えるということは進めていっていただきたいと思いますが,「安全ですよ」というところからではない出発が望ましいと思っています。

【木村】ありがとうございました。では,スミスさん。

【スミス】いまの教育の問題と,情報公開の問題と,モラトリアムの話を組み合わせて発言をしたいと思います。
 政府は温暖化防止の目標を達成するには原子力発電所20基増設が必要だと言っているわけです。しかし,これはなぜこのような結論に至るのかという説明が不十分というか皆無に近いのです。これはやはり情報公開の問題だと思うのです。
 例えばCOP3,4の1期の削減の目標は6%ですけれども,これは2008年〜2012年までに行わなければいけない。こういう状況なのに,原子力でこの問題を解決していくと言っているのですけれども,だれもこのタイム内で20基建つということは言えないですね。いまやはり原子力発電所はリードタイム20年〜30年ですから,この目標達成のために原子力が寄与できるということはないのです。でも,なぜこういうことが言えるのかということの説明はまったくないのです。情報公開はないのです。
 もう1つ,例えばアメリカとかフランスとかドイツとかもこういう研究をしていて,お金は限られているわけですから,CO2 を削減したいのだったら1つの量のお金をどこに投資したら一番CO2 を減らせるのかと考えるのは当然なのです。例えばアメリカでのデータですけれども,これは原子力に投資するよりも,省エネ,エネルギー効率アップに投資したほうがCO2 ガスを7倍減らせるというデータがあるわけです。ドイツは5倍,フランスは4倍。つまり,限られたお金ですから,そのお金をどこに持っていったら一番CO2 が削減できるのか。これはかいつまんで言っているので,これについての議論,なぜ政府は原子力を選んだのかという理由を,日本に住む人々に十分に説明する。いま言った,例えば外国のデータが間違っているのならどのように間違っているのかとか,やはり政策の理由を説明する必要があるのです。
 例えば,先ほど中田さんの話にも原子力は焼け石に水だという表現があったのですが,本当に日本の全体のエネルギーの12%をいま占めているのを頑張って増設しても15〜17%,このぐらいの寄与で温暖化ガスを大きく削減できるということはできないのです。ですから,これの理由も,なぜ原子力増設20基という結論が出るのかということが不明です。
 他に一番モラトリアムが必要だという理由は,原子力を増設するのは温暖化防止のために必要だという発言の中に,原子力発電所を建てられるか建てられないか,要するに「できるかできないかはわからないけれども」という発言がいつも冒頭にあるのです。これは計画ではありません。これは希望的観測です。ですから,このようなものは計画ということでなく,計画からはずすべきなので,この辺の議論とか情報公開とか不十分です。

【木村】ありがとうございました。では,今北さんお願いします。

【今北】先ほどから皆様に貴重なご意見をたくさんいただきまして,ありがとうございました。このような意見を参考にして,またこれからの教育に活かしていきたいと思います。
 私が言いたかったのは,エネルギー問題や環境学習に取り組むに当たって,児童、生徒たちが持っている意識の中にそういうものがあるので,それで児童、生徒たちがそこから引いてしまう,無関心になってしまうということを私は一番恐れています。ですから,そのような理解を深めるために,もっともっと突っ込んだ学習や教育が必要だということが言いたかったのです。
 やはり,結論づけてしまうのは申しわけないのですが,杉本さんのレポートの一番最後に「正確な情報や現状を自分の言葉で主張したり説明をすることのできる子供を育てること。そして彼らが一人一人原子力発電について意見を述べられる環境作りをすることが私たちの使命である」と書かれています。まさにその通りだと思います。ですから,自分の意見をしっかり言える子供を育てるために,学習について引いてしまわない児童、生徒を,これから教育していかなければならないと思います。

【木村】先ほど伊藤さんから理科教育の問題がありました。私もエンジニアでありまして非常に心配していますのは,最近の若い人が科学技術に対して興味を失っているという事実です。それはもうドラマティックなぐらい下がっています。その辺が,いま今北さんがおっしゃったことと大いに関係していると思います。この問題については国として相当考えていかなければいけないのではないかと思います。それでは,大谷さんお願いします。

【大谷(鮎)】私は,日本の経済ということから考えてみたいと思います。高レベルの廃棄物の問題にしても,よくわからないから,しばらく足踏みをしたらというような意見もありますし,お聞きしていたらなるほどたしかにそうだなと思う部分もあるのですが,一面,ではいまの原子力発電をしばらく止めるとか待つとか,そういうことをやれば経済の成長は止まってしまうわけです。
 いまでも失業率がどんどん増えてきて,私の周りは経済界ですから,失業者,リストラ,そういったものが自分たちの問題として,いつ会社を閉めるかという話なども相当出ているわけです。そういう中で,最善の策とはいわないにしても,いまここで何をすべきかというのは,次善の策としてもやはりやらなければならない。やるためには,本当に私たち国民が真剣に原子力発電というものを学ばなければならないと,思っています。

【木村】ありがとうございました。先ほどのスミスさんのご発言に対して,茅先生のほうからコメントしたいということですので,一言お願いします。

【茅】私は役人ではないのですが,政府のエネルギー需給の見通しに関しては関わっているので,簡単に私の立場から説明をしておく必要があるところは申し上げたほうがいいと思うので申し上げます。
 まず,情報公開をしていないというお話なのですが,実はこのエネルギー需給見通しに関しては,現実にもう本になって出版されているわけです。出版されたのももう1年以上前です。それから,この中に20基という話がありますが,この20基というのはどういう根拠かというのが出ていまして,そこに現在電調審(?)という政府の審議会があるのですけれども,そこに提出されて,何年までに造りたいという予定のものが全部リストアップされているわけです。それで20基という数字が出ています。ですから,その意味では嘘ではないのです。
 ただおっしゃるように,それが現実にできるかというと,私もできるとは思いません。というのは,これは1つの努力目標であって,できるということではないと私は見ています。ですから,努力することは大事だけれども,現実的にどれだけできるかということになると,私個人では半分できたら成功かなと思っています。
 それから,原子力がCO2 の削減に役立つかという議論なのですが,ご承知のように日本の現在の6%削減案というものに対して,一体どういう計画を作っているかというと,原子力発電の増設分,それから省エネルギー,その他の例の京都メカニズムといういろいろな方策でやる部分と,大体これが中心なのですけれども,原子力の占める比率というのは非常に高いのです。
 先ほどの中田さんの話では非常にコントリビューションが小さいとおっしゃいましたけれども,実は20基, 1,800億kWh に対応するのですが,これに対応するCO2 の削減分というのは,石炭火力に換算すると 2,000万トンぐらいになるのです。これは日本全体のCO2 の発生量に対して大体数%以上になるわけです。ですから,だまっていて増えるのが,現在すでに10%ぐらい1990年から増えているわけですけれども,この状況から減らしていくという状況を考えてみると,このコントリビューションというのはやはり計算の上ではかなり大きな比率になる。したがって,これが小さいものであるという言い方は,私はまったくできないと考えています。ということです。

【中田】いいですか。それについてちょっとコメントを。

【木村】中田さん,直接どうぞ。

【中田】コントリビューションが小さいというわけではなくて,例えば原子力を計画通り20基全部建てたとしても,計算から行くとそれだけには頼れないですね。ですから,先ほど私が話した計算に関しても,確かにコントリビューションは大きいけれども,原子力偏重では,しょせん目的が達せられるような数字にはならない。目的が達せられるだけの二酸化炭素削減ができないということで,それが小さいのでしなくてもいいとかという話ではありません。

【茅】わかりました。

【木村】では,スミスさん。

【スミス】いまの茅さんのご発言に矛盾があったと思うので申し上げたいのですが。出だしには20基建つかどうかというのは「出来ないと思う」とおっしゃって,「努力目標だ」とおっしゃって,それから,「でも20基は非常に大きい寄与になる」と。でも,建てられるかどうかわからない,たぶん建てられないものがあったら,ものすごく大きくCO2 を減らせると言っても,それは私は理屈にならないと思うのです。建たないものについて,建ったのだったらたくさん寄与したのにというのは,それでは政策ではないと思います。
 それと,いろいろ本が出版されているとおっしゃっていますけれども,いま私が申し上げた点については,なぜ原子力のほうがベターなのかということははっきりと書かれていません。もし書かれているのでしたら,あとでご指摘お願いします。いま議論が続くとまた他の議論もできないかもしれませんから。
 それと先ほどの……。

【茅】ちょっとよろしいですか。おわかりのように,私はいまチェアマンの立場にありますので,ここで私と皆さんが議論をしてしまうとちょっと話がおかしくなりますのでここでやめますが,ただもう1つだけ申し上げますと,いまの出版物の中にも,例えばコストといった場合に他のもので代替したらどうなるかという検討は一応は入っています。
 それから私が申し上げたのは,先ほども申し上げましたように,私はあくまでも個人として意見を申していまして,それを作った担当の役人として言っているのではありません。私は役人ではありませんから。その意味で,そこのところはお間違いのないようお願いいたします。

【木村】中島さん何かありますか。

【中島(元中央大学教授)】いまそういう議論になってきたから,私からお聞きしたいのですけれども,例えば脱原発のシナリオを作れと先ほどアイリーン・スミスさんはおっしゃったのですけれども,では原子力という選択肢は全部ゼロにしてしまって,その時は日本のエネルギーは大丈夫だというのは,どのような見通しでおっしゃっているのですか。その話がなかったのです。あなたのお話には,日本のエネルギーはこうやってまかなうというお話がないのですね。それをお聞きしないと,私はちょっと納得しがたいので。

【スミス】私は脱原発というのは,これは推進・反対を超えて,いまの世界事情,例えばお話があった規制緩和とか,いろいろ社会的に変わっている。例えば建てようと思っても建たないとか。やはり人権が確立すればするほど,ある一定地域が非常に負担を受けて何かをする,他の地域のベネフィットのために利益のためにするというのが通用しない,私はそれはよいことだと思うのですが,現実として通用しない社会情勢,政治情勢ができているわけです。だから,そこから考えなければいけないと思うのです。
 既存の原発はいまありますし,今日すぐに止めろと言ったらまず初めに現地に対する保障とかいろいろな問題があるので,きょうやっているものを本当に明日全部止めろというのは,もちろん止めなければいけなかったら止めることになるわけですけれども,やはり計画として,世界事情,国内事情を考えると脱原発をしていかざるを得ないと思っているのです。その時に,しなければいけない時に,その用意をしておく必要がある。これはやはり官僚の立派な仕事だと思うのです。ソフトランディングというのを立派にするという。だから……。

【中島】ちょっと待って下さい。世界がそうなっているというのはどういう……。私はそこがわからないからお聞きしているのです。やめさえすればいいということですか。

【スミス】ですから,例えば規制緩和で原子力のコストというのは非常に高い,だから原子力というのはやっていけなくなっていくという事情が経済事情として起こっていく。そうすると,そのオプションというのは,もちろんオプションとしてだんだん不利になっていく。いま私が言いたいのは,これがこのシナリオで全部長い間話すのでなくて,このようなものがきちんと論理的に議論されなければいけないということです。
 それとものすごく重要なことは,この円卓会議は原子力委員会と独立して運営されているというのは重々承知です。ただ重要なのは,目的は冒頭で木村議長がお話ししたように,これは原子力委員会の,原子力政策について積極的に提言していくと言っているので,いまその政策は策定されつつあるのです。先ほどのお話で,長期計画について・・・懇談会が行われると茅さんはおっしゃいましたけれども,懇談会ではないのです。これは政策の決定する策定会議がもうすでに始まっています。1月の段階ではもうずい分進んでいます。進んで,次はこのようにしようと決まりかかっていて,もう方向性が決まってしまっている時に,国民のいままでの意見を出すというのは遅すぎます。これから行われる会議は,これから提出するしかないです。でも,いままでのものは,いま提言しないと……。

【中島】そのことについては,先ほど茅先生から説明があって,モデレーターの立場もお話ししたと思うのです。私が聞いているのはそのことではないのです。それに答えて下さい。そうしないと議論にならない。

【スミス】組み合わせて言います。

【木村】ちょっと待って下さい。整理しましょう。まずどうしましょう,私もスミスさんはきちんと答えられていないと思うのですが。

【スミス】はい。

【木村】それでは代替エネルギーをどうするのかということをおっしゃらないと。

【スミス】では,もう少し説明しますけれども,要するに原子力というのはいろいろな意味で,例えば増やしていくのはオプションでなくなってしまうのです。それは否応なくそうなってしまうということで,例えば建たないというか,増設はできなくなるとか,廃棄物がどんどん増える時に,それは置く所の解決ができないながらずっと原子力発電を運営できなくなっていく状況ができるとか,だから,その社会情勢のために用意しなければいけないわけです。
 ではどうしたらいいのかという時,例えば人間というのは大変な危機が起きた時に,ではこれに用意できているか用意できていないかという話ではないのです。それに対応せざるを得ない。私が申し上げているのは,対応せざるを得ない時期にもう入っていくので,だから,段階的に減らしていくシナリオを考えていかなければいけない。
 そのために,では日本のエネルギーはどうなるのかというときには,否応なくそれを議論しなければいけないわけです。その議論にいま向かっていかなければいけないということで,足りなくなるのではないかと言ったときに,では足りなくなるのであったら,省エネとかエネルギー効率アップとか,場合によっては需給を増やす方法を考えるとか,そういうことをやっていかなければいけないわけで,私は社会情勢の話をしているのです。答えになりましたか。

【木村】いまのお話では説得力がないのではないでしょうか。

【石川(原子力発電技術機構特別顧問)】スミスさんは論理的ではない。もう少しきちんと例えば……

【木村】ちょっと待って下さい。

【中島】そうではなくて,大事なことは,やはり自分の頭で考える必要があるとおっしゃっていながら,例えばデンマークがどうだ,ドイツがどうだということはおっしゃるのです。しかし,その反対に,世界では,隣の中国とかもっと自分たちは原子力発電を増やしたいと思っている国もあるわけです。

【スミス】もちろん。

【中島】それはおっしゃらなかったわけです。都合の悪いことはおっしゃらないで,世界がそういう趨勢だと断定されては,やはり論理的ではないと思うのです。日本のように資源も何もない国では,総理府の調査を見てもわかりますが,国民が自然エネルギー,再生エネルギーに期待しているというのはその通りです。ですから,私もそれは極力やるべきだという意見です。
 しかし,日本は残念ながら大工業国なのです。日本がデンマークのように農業国でやっていけるのならば,私はそれが一番ハッピーだと思う。しかし,そのように転換するのは簡単ではありません。それこそ国民的討論をして,日本は将来農業国でやっていくのだということが合意されてから初めて可能になることでして,そう簡単にいまの現在の状況が簡単に変わるとお考えになっていたら,現実的な政策提言にはならないと私は思います。

【木村】木元さん,先ほどのことで一言お願いします。

【木元】アイリーンさんのおっしゃったことですが,まだそこまで策定会議は進んでいないのです。シナリオができて,もう方向性が決まってしまっているという状況ではないのです。
 策定会議はご覧のようにいろいろなお立場の方がいらして,ご発言をなさって,2度行いました。まだまだご発言が足りない部分がある。基本的に日本はエネルギー政策の中の原子力をどう位置付けしようとしているのだろうか。またエネルギー供給だけではなくて,放射線利用とか,いろいろなことで私たちに寄与している部分が原子力にはある。それをどう長計の中に反映させていくかという基本的な考えを,いま策定会議で話し合っているわけです。
 また策定会議の下に6つの分科会を作ろうとしているわけです。いま議長をご内諾いただいた方もいらっしゃるけれども,まだ各分科会のメンバーは確定していないのです。
 ご存じのことだと思いますけれども,第1分科会が国民・社会と原子力,第2分科会がエネルギーとしての原子力利用,それから第3分科会が高速増殖炉関連技術の将来展望,それから第4分科会が未来を拓く先端的研究開発,第5分科会が国民生活に貢献する放射線利用,それから第6分科会が新しい視点に立った国際的展開。この中に先ほどおっしゃったような原子力をやめようという国もあれば,逆に原子力をやろうとしている国もある。非常に流動的な揺れている国もあります。
 ドイツの一昨日の情報だと,環境大臣のトリッテンさんが夏休みが終わって帰ってらして,また電力会社の首脳とのコンセンサス協議会を再開しようという局面にあるのですが,シュレーダー首相の立場もあって延びていますから。しかしトリッテンさんは,2002年までに原子炉6基を閉鎖するという要求をなさったらしいのですけれども,それを今度は電力会社のほうがちょっと待ってくれ,それだとエネルギーの安定供給ができないということになっている。その一方で,ドイツは民間のレベルで電力会社が電気料金を下げました。下げると風力発電の方が高くなってしまう。そういう問題がドイツの中に錯綜しています。
 ドイツは2025年ぐらいまでにはすべてやめようかという合議がされていますけれども,訴訟までは行かないようにと,まだ電力会社との話し合いは続いています。では,ドイツは原子力発電をやめて,足りない部分はどうするかというとフランスから買うという話が出ている。フランスは原子力発電に依存している国なのです。そこで,ではあなたは自分の国はやめても,フランスが原子力をやってもいいかときくと,それは相手国の問題であって私たちは関係ないという言い方をしている。
 私も脱原子力発電のシナリオというの大変興味があります。ですから,もっとお伺いしたいのだけれども,いまそれを標榜した国の中にもいろいろな問題が抱えているので,一概にこうだからこうだということは言えない。
 例えばデンマークも風力はとてもよくやっているので感心します。だけれども,やはり90%ぐらいは火力発電でまかなっている。CO2 はずっと増えているわけです。そのように現実はいろいろなデータの取り方の問題があるので,私たちはそれをどう解釈したらよいかということがあるのです。
 再度申しますが,もう長計はシナリオができているのではなくて,できていないのです。ですから,これからもう踏ん張ってやらなければいけないという状況です。この円卓会議でも非常に重要なご意見が出ているので,あちらに原子力委員会の遠藤委員もいらしていますし,それから安全委員会の青木委員もいらしていますけれども,このようにいろいろな方が皆さんのご意見を伺って,こういう発言があった,こういうご意見があったということを,長期の策定会議の中に入れていこうとしているわけです。ですから,本当に私たちは正直に申し上げておりますので,そこは信じて下さい。

【木村】では,石川先生どうぞ。

【石川】スミスさん,私はスミスさんの今日の提言を書いた紙の中で1つだけ評価しているのは,一番最後にある脱原発についてのシナリオを作る,また出していかなくては,という点でこれは非常に大事だと思うのです。と言いますのは,いまあるものは,茅先生のお作りになられた原子力発電所20基増設だけで,このシナリオをどうのこうのと皆さんいっているけれども,それ1つしか具体的なものはないのです。ですから,スミスさんのようなお立場になると,どうしてもすべて反対と言う状況になるのでしたら,それに対抗して国民の皆さん方にこれぐらいのところのエネルギーを削減してこの程度のエネルギーを風力で作って,このような程度の生活を送って下さい。というような,もう少し具体的な計画を出していただくと選択肢が増えるわけです。いままで,選択肢のないものしか持ってこないと皆さんに責め立てられているのだけれども,いま1つしかシナリオがないので,ぜひスミスさんたちの脱原発という観点から,具体的に,やはり中島さんのおっしゃったような計画をぜひ出してもらいたい。そうしたらここの円卓会議で取り上げます。議論をします。それがないので困ってしまっているのです。ですから,ぜひ論理的に,こうこうこうだからということを入れてやってもらいたいと思います。

【木村】大谷さん。

【大谷(昭)】茅先生はチェアマンだから論議に参加できないとおっしゃっていますけれども,いまのアイリーンさんとのは,私は非常に興味深いし面白いと思うのです。
 残念ながらこの原発の問題に関しては,議論とかかわりなく事態が進んでいっているということを,ずっとわれわれは繰り返してきたわけです。議論はしているのに,どんどん原発は建っていく。次にはまたCOP3の約束を守るためには20基造れば何とかなるのだと。けれども,できる見通しはないではないかと。にもかかわらず事態は常に変わっている。どんどんどんどん進んでいってしまう。
 ですから,私は同じ大谷で意見が違うかもしれないのですが,経済がこういう状態だから待ったなしなのだという論議は一回やめたらどうですか。そんなにあわてることはないではないですか。そこで,例えばアイリーンさんがおっしゃっているように,省エネで対処したらどこまでできるのか,どれだけ減らせるのか,本当におっしゃっているように省エネのほうがコスト的にも安くつくのであって,国民はそれを実行できるのかどうなのか。それとも,どうしても原発を建てなければいけないのか。
 それから,原発を新たに建てようというのは,本当にエネルギー政策だけの思惑だけで動いているのだろうか。どうもわれわれは世の中の塵芥のところばかり取材しているから,悪いところばかり見てくるのですが,原発1基に関わる利権のすさまじさというのは,われわれはいやというほど見てきているわけです。そうするとそれはエネルギー政策以前に,政治的な思惑が強くあったのではないか。始めにそれありきなのではないか。
 そうすると杉本さんがおっしゃっているように,新たな原発というのは非常に造りにくいですから,高浜何号機だ,玄海何号機だと,要するに一度建ったところは必ず往復びんたをくらってしまう。徹底的にそこは,原発銀座というありがたくない名前を被せられていくのではないか。そういうことを繰り返す前に,なぜ1,2年待って,いま議論しているようなことを,広範に国民に,省エネはどこまで実行できるのか,原発に頼らざるを得ないのか。
 それから,先ほど藤井さんのほうから風力発電は大変あてにならないというお話を伺ったのですが,私は木元さんと三重県辺りまで行っていろいろな話を聞いてきた。そうすると,例えば風力によって非常に力が弱くなるとか,風向きによって違うというのは,ほとんどの国民はそう信じていると思うのですが,いまの風力発電はそんなことは絶対にないわけです。常にコンピュータでクルクル動いているし,年間6〜7の風力があれば稼動しているわけです。けれども,おっしゃるように風力で全部まかなうなどということはできっこないわけです。だけど,そのうちの7%〜8%風力に移行していくという各国の動きを,なぜわれわれは見習わないのだろうか。そこにそれを入れていきつつ,本当に20基必要なのか,省エネでどれだけできるのか,それを事態を進める前に,ちゃんと議論しようよと。
 ずっとわれわれは議論をしながら,先に事態が進んでいくというのを見逃していたではないか。だったらこの円卓会議は何だったのだということで,そこのところをいまアイリーンさんと茅先生がおっしゃったようなことを,本当に国民公開の場でどうするのだということをやらないと,やはり負の遺産を残していくことになると思うのです。以上です。

【木村】では,藤井さんお願いします。

【藤井】ただいま風力発電の私の発言のことで話題になりましたが,もちろん私は風力発電も太陽光発電も進めることはよいことだと思っています。ただ,それにおんぶに抱っこはできないということなのです。

【大谷(昭)】だから7%,10%でもいいではないかと私は言ったわけです。

【藤井】それはそれでいいと思うのです。ですから,ぜひ7%,10%,「ただし」というのが付いて回るのです。風力発電のあれだけの装置を造るのに,ものすごいエネルギーを使うことです。それから,あれが傷んだときの再利用というのはどの程度までいくのか。いっせいにプロペラが建ちました。何十年経ったら,全部いまの自動車の廃車の山のようになっても困るわけです。再生可能なものが何%かで,私は建てられる所には全部建てるとよいと思います。ただアメリカのような広大な土地ではないので,たまたま三重県はあのようなよい土地があったのですが,わが家の屋根の上に建ててもらったりしたら,音と生活は両立できないと思うのです。そういう問題で,日本は非常に平地の少ない国ですので,山の上に立てても発電ロスは非常に多いと思います。そういう点から見ると,できるだけ利用価値の近い所で造るという問題では,どんどんやることは7%,10%に行ってくれてもいいと思いますが,稼働率も非常低いのです。ですから,いままさにあれがすぐに原子力に取って代わるものではないということを言いたかったので,もちろん太陽とか風は資源の枯渇という問題はありませんので,建てられるものなら各家に,扇風機ではないけれども,発電器を建てるといいと思っています。

【木村】茅先生,何かありますか。いいですか。では,山根さん。

【山根】私は1回目の時にお話ししましたように市民として参加していますし,原子力のいろいろな専門的な知識はまだまだ素人で,これから勉強しなければならないのかなと思いますが,いま判断する力はない立場です。
 ただ,先ほど石川さんからお話があった「アイリーンさんの脱原発シナリオを作りましょうという問題提起は評価する。ただし,出しなさいよ」とおっしゃいました。また先ほどの中島さんからのご質問も「いったいあなたはどんなシナリオを持っているのですか」というお尋ねだったと思います。そこのところは,国が原発20基のシナリオしかないと,他のものは出して下さいという立場ではたしていいのだろうかという問題提起だと思うのです。
 国も脱原発のシナリオをぜひ。専門家,ネットワークがいろいあって,前回,前々回,昨年度は専門家の円卓会議でした。それから,いろいろな立場の人が長期計画について論議している。その中で,脱原発ということも1つのテーマとして検討していく立場も取り得るのだと思います。
 先ほど大谷さんから,利権の問題はどうかと。政治的な思惑が先行しているのではないかという指摘がありましたが,私もそこのところは一体どうなのだろうなという疑問を持っています。社会の動きというのは,技術や科学的な知見だけではなかなか動かない。人間社会に対しての知見というか,そういうところで動いて行くのだろうなと思いますので,ここでいろいろな話をする時間はありませんが,ぜひ,たぶんお名前はご存じだろうと思いますが,広瀬さんのこのレジメ,それから私が資料として出した片面だけのの両面あるのを持ってきましたので,これを後ほど検討の材料にしていきたいと思いますので,ご検討下さい。そういう社会の動きが物事を決めていくのだろうということは,あり得る話だと思っています。
 それと,風力エネルギーへの両方からの話がありましたけれども,北海道で生活クラブ生協でしたか,グリーンエネルギーを買うという動きが出ています。全体の中でごく小さな動きかもしれませんし,それがどのくらいの寄与率があるのかということまで私はここで発表する力はないのですけれども,そういう動きもほうぼうで出てきているので,そういう動きを育てていけば一体どうなるのだろうというシナリオを検討して,政策最終決定する前に検討の課題に乗せていただきたいと思います。

【木村】ありがとうございました。他に。では,小川さん先に。

【小川】いま原子力の立地がかなり利権のことでご発言がありましたけれども,今日のテーマではないと思いますが,これは原子力だけではないというのが私の感想なのです。たしかに全部がきれい事で,科学技術だけで決まっているとは私も言いません。でもその程度は,利権というか,ある程度のお金が絡むということは,原子力が飛び抜けてすごいということではないと思います。普通の公共事業も,ある程度のそのようなことはあるでしょうし。

【大谷(昭)】ただ,いま1基……。

【木村】ちょっと聞いて下さい。どうぞ。

【小川】ですから,飛び抜けて原子力だけが,そのように灰色の部分があるとは思いません。橋でも何でも,やはり何千億はかかるわけですから,原子力発電だけではないと思います。
 それから,風力発電の話ですが,これは木元先生の受け売りで申しわけないのですが,日本の場合風力発電は,地形とか風向があまりよくないということで,どんなに頑張っても2010年までには0.05%ぐらいではないかと。ですから,先ほどの7%とか10%というのはちょっと無理な話だと思います。何か先ほどから大谷さんに反発しているようで申しわけないのですけれども(笑)。

【木村】そういう場ですから。大谷さんは好敵手がいていいですね。議論をしていただくことは大変いいことです。大谷さん。

【大谷(昭)】いまの話の中で1つだけ。

【木村】はい。どうぞ。

【大谷(昭)】たしかに公共事業というのは原発だけではない。

【小川】原発は公共事業でなくて,電力会社が……。

【大谷(昭)】いやいや,大型のプロジェクトとして言えばです。それは本四架橋だって公団がやっているわけですから,そういうことから言えばその範疇に入るかもしれないけれども,そういった枝葉末節はどうかとして,他にもいろいろ事業があるではないかとおっしゃっるけれども,1基で,付帯事業までつけて何千億,それが20基あるというような公共事業は,この不景気の中にいくら公共事業をこれから前倒しでやっていくといっても,他にありますか。ないでしょう。

【小川】ちょっと私は,そこの答えの用意はしてこなかったのですが。

【大谷(昭)】そこだけはちょっと確認しておきたかったのです。新しく新幹線も造れば別ですけれども。

【木村】はい。それでは手が挙がったのはどなたでしたか。杉本さん。

【杉本】いまほどの公共事業のことなのですが,利権が絡むとか絡まないとか,実際利権が絡んでいるのかどうか私はわかりませんけれども,いまの額でもそうですが,いろいろな人に影響を与えるのが大きいのは原発だけですよね。瀬戸大橋を建てたからといって,建ったあとにそんなに影響はないと思うのです。でも,原発は建ててから,実用炉でも実験炉でもけっこうですが,建ててからまた延々とその問題が続くわけでしょう。橋もある程度老朽化なり云々というのはあるかもしれないけれども,原子炉は 100年後とか 200年後, 300年後核廃棄物が出てとか,それに関連して長い間の問題が出てくるではないですか。ですから,利権だけで捉える云々ではなくて,そういう影響というのは非常に大きいのではないか。
 私は別に福井県に住んでいるからというのではないけれども,賛成でも反対でもないというのは卑怯な言い方ですけれども,いまここで教育がどうとかと先ほどもおっしゃったし,私もそう思うけれども,実際それを反映するのはどうするのだ。では,町民参加ができるのかと言ったら,実際町民参加するのも,いろいろこういう新聞に出ている問題もありますね。先ほど国民が参加してとかおっしゃったけれども,国民が本当に参加できるのか。そういう疑問があります。いま問題で言うと,すべてそういうことではないのですか。

【木村】参加するというのはどういうことですか。

【杉本】ですから,政治に直接参加するとか,政策に参加するということになるのだろうと思うけれども,それはいまの日本の政治とか政策のシステムはまず無理ですね。せいぜい新潟の巻町ではないけれども,どうなるのかいまだに建設中というマークは付いていますけれども,ああいった段階の提言というか,町民の意見というか,票に現れたというだけで,巻町は実際中止にはなっていませんね。

【木村】では,スミスさんお願いします。

【スミス】先ほどの指摘もありましたので,ちょっとまとめてかいつまんで言いたいと思います。私はまず原子力増設はやめるということです。それはどうせ建たない計画はもうやめましょうということです。どうせ建たないのだから,そういうプランはもうやめましょう。
 それで原子力は段階的に廃止ということで,先ほど石川さんの私への指摘がありましたので,やはりこれは市民もこれを受けて立って,脱原発シナリオを作っていく。そして,国を運営しているエネルギー政策を考えていかなければならない官僚の皆様も頑張って作る。そしておおいに議論しましょう,脱原子力をどのようにやっていくかということを。それが非常に重要だと思います。
 それで,ドイツの例がいい例だと思います。政治的にもうやめようとなった時に,そのやめる用意が十分にできていなかったわけです。 Stranded costが非常に大きい,これからどうやって供給とか,いろいろな問題があるわけです。ですから,ドイツとか,そういうところから学びましょう。
 そして,日本はオイルショックの時に,省エネとかいろいろすごい立派なことをやったのです。それと,マスキー法の時も思い出しましょう。あの時はアメリカの自動車産業ですけれども,ウジャウジャとロビー活動をしていかに進歩しないようにいろいろなことをやろうとした。その間に日本はどんどんすごいことをやったわけです。あとで笑うのはだれなのかということですね。ですから,いましなければいけないことをどんどんしていくというのは重要だと思います。
 また,原子力政策の会議について,まだ私は異論なのです。それはなぜかというと,原子力産業界は原子力委員会が要求して予備的調査というのを出しているのです。でも依然として国民の意見はどんどん聞かれてきて,もう何年も国民の意見を聞いているのですけれども,聞きっぱなしなのです。いま政策をどんどん決めていく中に,早く入れていかないと,もう方向性はどんどん決まっていっているのです。分科会はこれからとおっしゃいますけれども,9月20日の会議ではこのようにしましょうというようになっていますし,1月ではどんどん進んでいるので,いままでの円卓,例えば2回目のシリーズは終わっています。そういうものをどんどん原子力委員会に提出していって,そしていま活かしていきましょう。いませっかく,このようにふんだんないろいろないい意見があるので,それを活かすべきだと思います。これからの5年の長計はどんどん決まってしまいますと思います。以上です。

【木村】ありがとうございました。では,伊藤さん。

【伊藤】少し違った観点からなのですが,やはりこうして原発の問題が議論になるのは一つには安全性の問題でして,冒頭に地震の話をしましたがこれはちょっと置いておくとして,やはり原発周辺の住民というのは,原発ができたことによって,地域の社会基盤の整備というようなメリットは受けていると思うのですが,一方ではいろいろな不安は抱えているだろうと思うのです。もしも何らかの事故が起きる,あるいは放射能漏れが起きるというような事態になった時に,地域住民の安全をどう確保するのか。これについてはたしかに研究所などで風向きを想定したシミュレーションなども行っているのはよく承知していますけれども,やはりそういう事故が起きた時の避難誘導体制,これは十分確立しておかなければいけない。
 よく一般の自然災害については,「自分の身は自分で守って下さい」ということをよく言うのですけれども,原発事故の場合はそれは通用しないのです。ですから,そういったことを考えると,やはり国と自治体とが十分に連携を取った地域防災としての最善の方策を常に考えていないと,先ほどからお話に出ている原発の増設の問題も含めて,なかなか前進しないのではないかという印象を持っています。

【木村】ありがとうございました。それでは大谷さん。

【大谷(鮎)】いまの件なのですけれども,私は,主に一般の主婦の人たちをバスツアーで原子力発電所の見学会にお連れするわけです。バスの中で,まったく素人の方たちですからいろいろな話,どうして原子力ができたかとか,安全性とか必要性とかそういったものもシナリオを作って話をしていきながらお連れするのです。その時に,消防訓練日とか安全訓練日に出くわすことがたびたびあります。バスを待ち合わせたりしないといけませんので,面倒だなと思うこともあるのですが。それはもう大事なことだと思いますし,安全管理に関しては,徹底していていつも見習わないといけないなと思います。そこで働いている所員の人たちの健康管理からすべてを含んでいるというのを現場で見ております。もしかしたらご存知なければと思って。

【藤井】ちょっといいですか。

【木村】はいどうぞ。藤井さん。

【藤井】続きなのですが,私はいま女子大生を連れてよく行きます。たまたま私が行きますのは名古屋の近くということで浜岡へ行くのですが,浜岡のデータはもちろん町の中にもあり,さらには名古屋の栄の真ん中にも全部データが,いまどの状態でどのようかも出されていますし,それから現地の方にお聞きすると,地域住民の方もかなり訓練されているようです。
 学生も最初は「先生,また見学ですか」と嫌がりましたけれども,行きますと「先生,いま炉心の上に立っているのですか」というぐらい安心して見学します。そういう訓練を行き届いてやってらっしゃるのではないかと思います。
 これは日本だけではなく,スイスへ行きました時も発電所からの情報が各方面に調査地点を決めまして,定期的に数字を表に出しておられて,おそらく日本は諸外国に比べたら,さらにもう一段上の手段が講じられているのではないかと思いました。そんな経験がありました。

【伊藤】いいですか。

【木村】はい,どうぞ。

【伊藤】もちろん私は承知していますけれども,防災訓練というのはやはり訓練なのですよ。という言い方はおかしいかもしれませんが,考えてみればそういう事態が生じたという想定の下で訓練を行うわけなのですが,平和な時に訓練をやっているわけなので,いざ本番の時にどういう混乱が起きるのかという点については,まったく予想もできないと思うのです。ですから,そういった観点から,最悪の事態まで想定したシミュレーションを,国なり自治体なりが進めておくことが,非常に重要だろうと思っています。

【木村】では,中田さん。

【中田】先ほどアイリーンさんが何度もおっしゃっていますけれども,私もやはり20基原子力は建たないと思うのです。(国民の感情等に反して)建てようとすると(反対も大きくなり),洪水の時に水面が上がるのを防波堤で押さえて,その防波堤をどんどん高くしなければいけないようなことになるのではないかと思います。そういう要素があるエネルギーにすべてを託してしまうと怖いので,脱原発のシナリオというのに含めて,もし原子力が使えなくなった時のシナリオというのを立てないと困るのではないかと思います。
 例えば再生可能エネルギーはあまり使い物にならないというイメージがありますけれども,実際再生可能エネルギーが使えるかどうかという情報を国民の人が知らないのだと思います。例えば風の賦存量がどれだけ日本にあって,いまどのような技術で1kWh辺り幾らぐらいで発電できていて,例えば太陽光発電にしても,太陽光発電の場合だと送電の費用はいらないですし,そういう経済的なメリットとか,原発がもしできなかった場合日本はどうするかというシナリオを作る場合の情報を,もっとどんどん一般の人が知るべきだと思います。
 先ほど雇用の話とか出ていましたけれども,再生可能エネルギーのマーケットが大きくなることによって,雇用もかなり増えているようなところもありますので,それからまたそれを海外の市場にも,先ほどのオイルショックでの省エネの技術を日本が開発したことによってそれを輸出できるメリットを得たということもありますので,そういう形でぜひ温暖化ということで,これをチャンスに,再生可能エネルギーの技術の輸出など,ビジネスチャンスを逃さないようにしたほうがいいのではないかと思います。
 それから,もう1つは,原子力が経済的である,原子力はそんなに高くはないといわれていますが,もし本当に経済的であるのであれば,規制緩和は原子力発電に有利に働く可能性もあると思うのです。実際に発電のコスト自体は9円とか,非常によいものになると4円/kWh と安いので,その低さを考えると十分にビジネスとしてやっていけると思います。
 さらに自由化されて,事故や隠匿したことが公になると市場の信頼を失って破産に追い込まれるので,それを防ぐために安全性の向上,情報公開に努めるようになるかもしれない。それから,いま競争が入ることによって電力業界とか原子力産業の運営も高効率化されて,さらに競争力がつくかもしれない。それから,温暖化などで環境税等の導入を考えた場合,それも原子力に有利に働くかもしれない。
 ですから,原子力だけを守ってしまわないで,本当に原子力が十分経済的で安全な技術であるのであれば,もう少し他のエネルギー源とフェアな形で比べられる土壌を作るべきではないかと思います。

【木村】ありがとうございました。それでは時間もだいぶ経ちましたので,最後に副座長のほうからご発言はありますか。では,中島先生よろしくお願いします。

【中島】簡単なことです。一番最初に今北さんから原子力のマイナスイメージの話がありました。核兵器と結びついている。これは私はその通りだと思うのです。そのことはそうなのですが,核兵器のほうは脱核兵器などとという必要はないので,これはもうなくせという話で日本国民はすぐ一致できる話なのです。そのイメージがあるから,たしかに原子力発電が非常に損をしているということは,私はその通りだと思うのです。けれども,これは日本の政府の外交政策の全努力をあげて,私は核兵器はなくすべきであるということを教育していただく必要がある。これはだれも反対する人はいないと思う。
 原子力のほうは,やはり複雑な関係なのですが,やはり核兵器というのが普通の兵器と比べれば大変なすばらしい兵器であったために,そのイメージがあって,あれぐらいすばらしいエネルギー源になると日本はいままで信じていたのです。私はずっと原子力研究所が始まって以来そちらにおりまして,私もすばらしいエネルギーだと思ってやってきたけれども,非常にふところの深い技術でまだまだわれわれはほんの端っこをちょっとかじっただけだと,私は思っています。
 したがって,みすみす貴重な選択肢の1つを,いまこの時になぜ廃棄する必要があるのかというのが,私の非常に単純な意見です。変わってきたのは,昔は原子力さえ全部開発できれば日本のエネルギー問題はすべて解決すると,政府も当局も思っていたでしょうし,特にオイルショック以後はそう思ってきた。しかし,いまはそうではなくて,今日ここで議論があるように,いろいろなエネルギーの中での原子力をどう位置付けるかということが問題になっている。
 そういう意味から,先ほど石川さんも言ったように,脱原発のシナリオも含めてやはり考えるべきである。そのためには,やはり自分の頭で考えて,外国がこうだから,あるいは規制緩和だからというような考え方ではなくて,やはり具体的に考えていただきたいと思うのです。
 例えば現在の原子力というのは考えてみれば,ある意味ではばかばかしいのです。はるばると福井とか新潟とか遠い所に大原子力発電所を造って,大送電線を引いて,5%のロスをして,やっと電気を起こしている。しかしこれは何十年かかかってそういうエネルギー供給システムを苦心惨憺して作り上げてきているわけです。現実の問題として,それを一挙になくすことはできないと思うのです。
 ですから,そうでないものの対案を出すためには,その前にまず日本の現在の原子力の供給状況,あるいはエネルギーの消費の状況を本当にきちんと,教育で言えば教えていただきたい。この日本の状況を見れば,例えば自動車がやたらに走って,ガソリンがばらまかれているような状況で省エネルギーなどというのは,言うのもおかしいぐらいだと私は思うのです。ですから,そういう問題も含めて全体的に,総合的にやはり考えていくべきではないだろうか。そのためにこの円卓会議が行われているのだと私は思っていますので,今日は大変貴重な意見があって,大変勉強になりました。以上です。

【木元】すみません。一言だけ。

【木村】はい。

【木元】誤解があるといけないので申し上げますが,中田さんがおっしゃったように原子力にすべてを託すという言い方はどこにもしていないし,原子力偏重という考えは毛頭ない。長計にそのような表現はまったくありませんし,そういう考えはありません。
 それよりも,先ほどアイリーンさんがおっしゃった,脱原発のシナリオを描く場合,その考えに合致するかどうかわかりませんけれども,やはり新エネルギーというか,再生可能エネルギーを評価しようと。十分に評価して,その上で可能性はどれぐらいか,その中で日本にどれだけ寄与できるのか,コストはどうなのか,そういうことを見比べた上で,総合的なエネルギー全体の中で原子力の位置というのはどのようになるのか,そういう論議をしようということです。これは第1回目の策定会議に有馬大臣のおっしゃったことでもありますので,そこのところをちゃんと見ていただければありがたいと思います。

【木村】ありがとうございました。いま中島さんがおっしゃったことの関連で,先ほどアイリーン・スミスさんは,オイルクライシスの時に非常に日本はすばらしいことをやったとおっしゃいましたね。それは,しかしビジネスのレベルの話ですね。私は71〜73年,78〜79年,97〜98年と英国に住みましたけれども,71年の時点から省エネに対しては各家庭が徹底的なことをやっているのに驚きました。それが,その後どんどんステップアップされいます。そういうことから言うと,本当にわが国民は省エネができるのかなというのが私の正直な感想です。
 最後に副座長のほうから一言付け加えていただいて,終わりたいと思います。

【茅】ありがとうございます。円卓会議は,昨年からこれで8回目になるのです。8回目になりますが,その時にやはりそのあとのこともありますので,キーになるポイントを1,2確認させていただいているのです。今日のお話は私はやはり一番皆さんの中でご意見が多かったと思うのは,脱原発,脱原発という言葉がどの程度のものを意味するかはいろいろ違いがあると思いますが,そのシナリオという話で,これについて先ほど中島さんのほうからそれを示せという話もありましたが,むしろ皆様方のご意見のほうは,いままで国が出しているシナリオというのは原子力をこれだけ推進しろという絵ばかりだ,そうではなくて,原子力を推進しない,先ほどの言い方で言いますと脱原発のシナリオというものを国が出して,そういったもので国民のチョイスを考えさせるべきではないかという点があったのではないかという気がします。
 山根さんがおっしゃったのは,たしかそういう意味ですね。大体そういうご意見が比較的今日多かったような気がしていますが,もしそうではないという意見がありましたらおっしゃっていただければと思います。大体そう解釈してよろしいですね。
 それから,もう1つ私の立場ですが,実は大谷さんのほうから私とアイリーンさんとの議論は面白いのだよというお話がありましたけれども,私も自分自身として正直言いますと,ここで言いたくてたまらないケースというのはきわめて多いのです。ですが,どういうはずみかこの円卓会議,初めの段階,平成8年度の段階からモデレーターということに引き込まれまして,まだ抜け切れていないのです。したがって,こういうところでチェアマンの立場になりますと,いまの場合はチェアマンを補佐する立場ですが,どうしてもやはりここにお出でになった方々の議論をできるだけ噛み合わせるということが役目であって,自分がどういう知識を持とうと何があろうと意見を言うのが筋ではないということで意見を言わないのでして,私の意見がないわけではありません。
 私はむしろどこかの段階でこれが解放されて,アイリーンさんと心ゆくまでギャンギャン議論をしたいと思っていますので,覚悟していただきたいと思います。

【木村】どうもありがとうございました。きわめて日本的な慣行で恐縮ですが,時間になりましたのでこれでお開きにさせていただきたいと思います。
 今日は非常にたくさんのご意見をいただきました。スミスさんはいま直ちにこの意見を長計に反映させろということですが,茅副座長のほうから先ほど申し上げましたように,私どもは出来るだけ独立性を保とうと考えておりますのでその辺りはご了解下さい。
 日本では,たしかに議論のしっぱなしということはありますが,最近ではあるセクターの意見を聞かずに物事を強行するということはできなくなっているのではないかと思います。ここには,木元さんもいらっしゃいますので,1月に私どもの出す提言を,十分に長計に反映させていただけるものと確信しています。
 次回はお手元に資料が渡っているかと思いますが,次回は9月の27日,同じくここのビックサイトで「今後の原子力のあり方」について,メンバーを替えてご議論をいただくことになっています。メンバー等はすでにお手元にお渡ししてある通りです。
 その次の回についてはまだ具体的なやり方等について決定していいませんが,公募意見を活かし,10月の30日の土曜日に福岡市でやることになっています。
 本日は大変ご熱心な有意義なご議論をいただきまして,ありがとうございました。また,傍聴者の皆様方には最後までお付き合いをいただきまして,ありがとうございました。それでは事務局,よろしくお願いいたします。

【事務局】それでは,この辺で本日の原子力政策円卓会議を終わらせていただきたいと思います。
始めに,円卓の先生,皆様方,大変長時間のご議論ありがとうございました。できれば拍手でお送りいただきたいと思います。
それから,傍聴の皆様方におかれましては,本日は長時間最後までご静聴下さいまして,本当にありがとうございました。事務局より深く御礼申し上げます。

−−終了−−

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