1999.8.25
文責 原子力政策円卓会議事務局
平成11年度 第3回原子力政策円卓会議 議事速報
1.開催日時
1999年8月23日(月) 午後1時30分〜午後5時00分
2.開催場所
東京ビッグサイト 会議棟6階(東京都江東区有明)
3.議 題
今後の原子力のあり方について
4.出席者(敬称略)
モデレーター
石川 迪夫 | 原子力発電技術機構特別顧問
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茅 陽一 | 慶應義塾大学教授(副司会)
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木村 孟 | 学位授与機構長(司会)
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中島 篤之助 | 元中央大学教授
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オブザーバー
お招きした方
伊藤 和明 | 文教大学国際学部教授、NHK解説委員
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今北 眞奈美 | 中学校教諭:兵庫県
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大谷 昭宏 | ジャーナリスト
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大谷 鮎子 | (株)オリジナル・メディア・サービス代表取締役社長、女性の暮らし研究所所長
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小川 順子 | 会社員:神奈川県
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杉本 英弥 | 団体職員:福井県
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アイリーン・美緒子・スミス | 環境ジャーナリスト
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中田 眞佐美 | 主婦、大学院生:長野県
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藤井 冨美子 | 名古屋女子大学教授、教育研究所長、付属幼稚園長
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山根 幸美 | 主婦:茨城県
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(敬称略 五十音順)
5.議事の概要
- 木村モデレーター座長より会議の主旨の説明、公募意見の紹介、モデレーター・お招きした方の紹介
- お招きした方のプレゼンテーションを行った後に、自由討論。
6.発言要旨
伊藤 和明
- 原子力は重要なエネルギー源であり、地球温暖化に対しても有効であるのは明らかである。
- 総理府のアンケート調査によると「原子力に不安を感ずる人」は回答者の7割、「これ以上、増設を望んでいない人」は5割に達している。これは国民の原子力に対する不信感の現れであり、どのように払拭するかが課題である。
- 原子力は災害に対して強いのか、特に地震に対して検証する必要がある。幸いこれまで日本の原子力発電所は震度5以上の地震に見舞われたことがないが、もしそのような地震が起こった場合は、液状化現象などの地盤災害の影響を受ける可能性を考慮する必要がある。
- また、日本の原子力発電所は活断層上に建てないこととされているが、活断層以外の地域でも大きな地震は起こる可能性があり、安心はできない。
今北 眞奈美
- 日本の中学校では、2002年から「総合的な学習の時間」が設けられるが、この時間を使って、環境・エネルギー教育に本格的に取り組んでいく必要がある。そこでは自分で問題点を見つけ、調査し、話し合いを進め、自分なりの意見を持てるようにしなくてはならない。
- 原子力については、恐い、危険という人が多いが、より深い学習を進めて、これからのエネルギー問題について自分なりの考えを持てるようにしなくてはならない。
大谷 昭宏
- 原子力発電と社会との関係において、利便性と幸福感の違いを考える必要がある。
- ダイオキシン問題、放射性廃棄物等、今の世代は後世に対して負の遺産ばかりを残した世代であると思われるのは避けなくてはならない。原子力発電は長期的には負の遺産が多いと思われ、その政策について時には立ち止まって考えて、軌道修正することも必要である。
- 原子力発電の利用は、次のエネルギーへの過渡的な措置と考えるべきである。
- 原子力発電は、立地地域において、諍いや遺恨を残し、民主主義を破壊してしまったという側面もあるのではないか。
大谷 鮎子
- 自分たちが運営している研究会の名称から原子力と言う言葉を除いてから、急に教育関係者の心象が良くなったという経験があり、言葉だけで判断されるという点も原子力の抱える問題だと思う。
- 石油の残存年数が40数年しかないにもかかわらず、石油がここ2,3年、安価に安定供給されている。このような状況がいつまで続くのかといった疑問が、生活者にとって原子力発電の必要性について考える機会となるのではないか。
- MOX燃料や高速増殖炉についても、知りたい情報が入手できるようにしてほしい。
小川 順子
- 先進国は、CO2フリーエネルギー社会を目指すべきである。石油等化石燃料を使う権利は途上国も平等にすべきである。先進国はすでに割り当て分を消費している。
- 原子力発電は二酸化炭素を出さないエネルギーのエースである。省エネルギー、新エネルギー、水力発電も大切だが、やはり原子力発電所が最も現実的な選択なのではないか。
- 高速増殖炉の研究を進めて、プルトニウムの利用を進めるべきである。プルトニウム抜きの原子力利用では、その魅力が半減してしまう。
- 原子力発電に不安を感じるというのは、放射線や放射能に不安を感じているということではないのか。例えば宇宙船で浴びる放射線量は、原子力発電所よりもはるかに大きいにもかかわらず、原子力の方がはるかにイメージが悪いという、偏見がある。科学技術を見る目はもっと冷静であるべきだ。
- 反省点としては、わかりやすい広報をしていくことが必要であるということである。
杉本 英弥
- 電源立地地域に在住していることから、原子力発電により立地地域の民主主義が破壊されているというのは良く分かる。
- 例えば福井県には原子力発電に関連する産業に従事している住民が多く、その意味で原子力発電に頼っている部分が大きい。そのようなところで原子力発電について自由な討論を行うことは難しい。
アイリーン・美緒子・スミス
- 原子力について、原子力発電所を増設すべきではない、既存の原子力発電所は段階的に止めていくべきである、高速増殖炉の開発は止めるべきである、使用済燃料の再処理は止め、MOX利用を止めるべきである、廃棄物は国内処分を国際的に約束して、それを速やかに実施していくべきである、ということを主張したい。
- 円卓会議で出された意見は、聞き放しではなく、随時、長期計画の審議に提出されるべきである。また、国民の意見を随時審議に取り入れて、双方向的な公聴会を開くべきである。
- 長期計画策定会議に、脱原発のシナリオを検討する分科会を設けるべきである。
- 他の先進諸国は原子力発電の推進を見直している中で、日本の原子力行政はこれら先進国に対して遅れているのではないか。
中田 眞佐美
- 世界的な潮流から電気事業に関する規制緩和も避けられないと思うが、そのような環境でも原子力が経済的な競争力を持ち得るのか疑問だ。
- 近年、欧州では原子力発電のコストが高いことが判明し、原子力発電所を推進しなくなっている国が増えている。規制緩和で生き残れないのであれば、エネルギーセキュリティー上もまちがいだったということになる。
- 原子力発電所の20基増設というのが現実性があるとは思えないが、実現できなかった場合どうするのか、また、建設できてもベースロード用にしか使えない電源であり、使われなかった場合どうするのか。
- 原子力は地球温暖化防止の切り札となり得るかと言う点では、新エネルギーの方がより良いと思う。
藤井 冨美子
- 日本は世界有数のエネルギーの輸入大国であり、今後の高齢化・少子化・国際化の進む中で、快適な暮らし、高度の産業を維持発展させていくには、エネルギー確保が極めて重要である。そのエネルギー供給の中で重要な役割を担っている原子力について、電力の3分の1を賄っていることや科学的知識がどれほど教育されているのか疑問だ。正しい知識を広めていく必要がある。
- 原子力については、事故時の対応のまずさなどマイナスのイメージばかりが多く報道され、逆に新エネルギーについては高い評価がされ過ぎているのではないか。太陽光や風力は伸ばすことが必要だが、質の高い電力の安定供給が重要である。
- 原子力発電のハードウェア技術は確立され、それを運用管理するソフトウェア技術も確立している。
- 海外の原子力発電事情を見ると、高レベル放射性廃棄物保管計画が確立している国はまだ無いようだ。技術の早期確立とともに、廃棄物が将来再び資源化されると良いと思う。
山根 幸美
- 身近な市民の動きや意識を見ると、例えば動燃の事故の対応をきっかけに問題が提起されても、その時の緊張感が持続しにくいようだ。省エネルギーへの取り組みも重要である。
- 市民として、原子力政策決定の背景と実態、市民の疑問に対する回答方法などを納得する形で得たい。
- デンマークの例のように、政策決定への市民参画、具体的には市民が専門家から情報を得て判断を行うコンセンサス会議の設立を提案する。
○自由討議
●原子力に関する教育について
- 今の子供達の意識の中では、原子力という言葉を原爆に結びつけてしまい、だから怖い、危険と連想される。このようなイメージを払拭することが必要であり、問題をどう解決すればよいか、議論すべきである。
- 教育はイメージではない。世界の脱原発や電力自由化の流れ、原子力防災の現状、放射性廃棄物問題等、原子力の現状を知らせる必要がある。
- 日本の理科教育では、結果や言葉だけを教えており、プロセスを教えないことが問題である。
- 原爆と原子力発電の違いについて、子供達を科学的に指導することが重要である。難しい問題だが、省庁再編で文部省と科学技術庁が統合されるので、その改善を望む。原子力発電について具体的に踏み込んだ教育をすることにより、もっと理解が得られるようになるのではないか。
- 子供達は真っ白な状態であり、科学的にしっかり把握させ、大人になった時に原子力について判断できるようになるのを待つべきである。
- 議論が分かれているのであれば、様々な議論がある事実をそのまま子供達に伝えるべきである。安全性だけを主張しても、誰も責任を持てない。
- 放射性廃棄物については我々の世代だけでは処理しきれない問題であり、このことを含めて子供達に伝えて行くべきである。
- 教育においては、安全だと教えるのではなく、ニュートラルにさまざまな情報提供を行っていくことが重要である。いろいろな選択肢があることを具体的に示し、子供達に自ら考えさせることが大切である。
- 原子力という言葉に対して、子供達が引いてしまうことが問題である。自分の言葉で説明できるよう子供を教育していく必要がある。
- 最近の若い人は、科学技術に対する興味を急速に失いつつある。この点について、国として考えていく必要がある。
●情報公開の在り方について
- 負のイメージには、マスメディアの影響が大きいが、それを増殖させてきたのは原子力政策や、事故時の虚偽報告等であり、それはメディアの責任ではない。原子力発電は安全であると言っても、負のイメージ、不信感はなくならない。
- 原子力関係者が安全に対して過大な期待を持たれ、一般とのギャップがあった。「もんじゅ」事故の対応では担当者は追い込まれ、素直に情報を開示できなかったのではないか。これにより負のイメージがさらに増幅されてしまったと思う。この問題の原点には、広島・長崎の原爆があると思う。
- 動燃の教訓を踏まえ、事業者は透明性、モラル向上等の意識改革を進めてきた。敦賀2号の事故では、情報を全て公開している。
- 情報公開が進んでいるといっても、肝心な情報が出されておらず、その部分の公開こそが重要である。
- かなり細かな事でも、求めれば得られるようになっている。
- 原子力だけでなく、なぜ他のエネルギーに関する議論も含め、全てを出さないのか。
- 放射性廃棄物の問題については、相当な報告が出ている。インターネット、図書館で見られるようになっている。
●原子力発電所の立地について
- 玄海町に原子力発電所を作ろうとした時、地元の若手から、電力の消費地と供給地の首長サミットを開催するという条件が出された。このサミットは今でも毎年開催されており、消費地の首長から、供給地に対して謝意が表されている。消費地と供給地のコミュニケーションを持ちながら進めていくべきである。
- 原子力発電に関する利権構造の問題もあるのではないか。
- 利権の問題は、公共事業にも見られることであり、原子力発電が突出している訳ではないと考える。
- 1基当たり数千億円の原子力発電所を、20基建設するのに相当する公共事業があるとは思えない。
- 原子力発電所の建設では、廃棄物の問題等、50年後、100年後も地域へ与える影響が大きいので、公共事業と同じ扱いとするべきではない。
●再生可能エネルギーについて
- 風力発電を推進しているデンマークは農業国だが、日本は高度な工業国で、同列に論じることはできない。中国のように原子力発電を増やしたいという国もあり、世界の情勢から脱原発という議論はおかしい。再生エネルギーにも取り組むべきだが、日本のように資源の乏しい国では、原子力発電は必要である。
- 風力発電で全部を賄うことはできないが、数%程度は賄える。なぜ各国の動きを見習わないのか。
- 風力や太陽光は進めるべきだが、施設の建設にどのくらいコストがかかるのか。また、広大な平地の必要性や、騒音の問題、送電ロスの問題があることを考えるべきである。
- 一般的に、再生可能エネルギーは実用化が遠いとのイメージがあると思うが、最新の技術レベル等、いろいろな意味で情報が不足していると感じる。
●原子力発電の今後の展開について
- 原子力発電は円卓会議等での議論とかかわりなく、どんどん進められてきた。
- 政府は温暖化防止のために20基の原子力発電所が必要と言っているが、その根拠の説明が不十分である。リードタイムも考えると、誰も目標年次までに20基建設されるとは思っていない。
- エネルギー需給見通しは、1年前に本として出版されている。その中で原子力発電所20基増設の根拠も出ている。これは努力目標の数値である。個人的には、それが現実にできるとは思っていないが、半分できれば成功と思う。
- 原子力発電所20基分に対応するCO2削減量は石炭換算で2000万tに対応し、貢献度はかなり大きい。
- 努力目標値という実現性に問題がある数値をカウントするのは政策ではない。エネルギー需給見通しには、なぜ原子力がベターなのかは書かれていない。
- 原子力をゼロにするという主張について、その場合日本のエネルギーをどう賄うかを伺いたい。
- 脱原発を主張するのなら、具体的な脱原発シナリオを出していくことが必要ではないか。是非出してもらいたい。
- 立地の困難さや、世界の情勢から、現実として原子力発電の増設はできなくなる。ソフトランディングに向け、今からその場合のシナリオを用意する必要がある。省エネ促進などについて議論しなければならない。
- 国の政策として、原子力発電を20基増設するというシナリオしかないのは問題があると考えるので、市民だけでなく国としても脱原発のシナリオを作成するべきである。
- 2010年までに20基原子力発電所を増設することは、現在の状況を踏まえて不可能であると思われるので、どうせ不可能な計画はやめるべきである。
- ドイツでは、連邦政府と電力業界との間でコンセンサス協議が行われているが、脱原子力の情勢は混沌としている。原子力をやめて足りない電力は、原子力に依存しているフランスから買うと言っている。
●原子力長期計画策定会議との関係について
- 円卓会議は原子力委員会から独立した立場をとっており、原子力長期計画の審議等、原子力委員会の活動に逐一ものを言うことは考えていない。本年度の円卓会議は来年早々にも提言をまとめる予定である。その段階では原子力長期計画は議論の最中であり、円卓会議からの提言については尊重されることを期待している。円卓会議には原子力委員をはじめ関係者も出席・傍聴しており、何らかの形で原子力委員会側に伝えられると考える。
- 長期計画への提言は、来年1月の段階ではかなり議論が進んでおり、遅過ぎるのではないか。
- 原子力長期計画については、予備的検討という形で骨子が作成されている。円卓会議においては、原子力委員会へ原子力政策の方向性について積極的な提言を行うことを目指しているのだから、これまでの円卓会議で出された意見を原子力長期計画へ反映させるよう働きかけるべきである。
- 長期計画策定会議では、基本的な考え方を検討している段階である。その下に6つの分科会を設置しようとしているが、現在、メンバーを選定している段階である。
●原子力防災対策について
- 原子力発電が問題になるのは、安全性に対する国民の不安が要因として考えられる。万一、事故が起きた場合、自己責任での防災は不可能であるので、政府及び自治体においては、避難・誘導体制等の構築を真剣に考えて欲しい。
- 何度か原子力発電所を見学する機会を得たが、発電所では防災訓練等の対応がしっかり行われているとの印象を持っている。
●エネルギー全体の中での原子力の位置付けについて
- 限られた予算の中で、どこに投資すれば、最もCO2削減の効果があるかを考えるべきである。欧米では、エネルギー利用の効率化が原子力よりも数倍も有効であるとしているのに、なぜ、日本では原子力を選んだのかについて説明が必要である。
- 経済状況がどうであろうと、あわてて結論を出さずに、原子力発電に頼らざるを得ないかどうか、省エネの方が安くて、国民が実行できるかなどを検証すべきである。
- 経済面から見ると、原子力発電をしばらく止めて、今後のことを議論するというようなことをやれば、経済が停滞してしまう。原子力発電は最善とは言わないが、やらなければいけないと思う。
- 原子力発電に経済的な競争力があるのであれば、電力自由化は、原子力発電に有利に働くと思う。また、電力自由化により市場原理を導入することで、事故等に対する一層の情報公開が期待できる。以上の理由から、原子力ばかりを保護するのではなく、他のエネルギーと平等な比較ができる土壌作りが重要である。
- 核兵器を廃絶すべきとの意見には賛成であるが、原子力発電は貴重なエネルギー源であり、今、何故、この選択肢を放棄する必要があるのか疑問である。
- 日本のエネルギー全てを原子力発電に託すといった考えは、現在の長期計画においても全くないが、現在、策定中の長期計画の中で、新エネルギーの可能性についても評価し、総合的にエネルギー全体の中での原子力の位置付けを議論することになっている。
● | 本資料は原子力政策円卓会議事務局の責任で作成したものであり、速報版のため内容に不十分な点が含まれ得ますことを、あらかじめお断りいたします。
| ● | 詳細な議事録につきましては、発言者の校正・確認を経た後、速やかに公開致します。
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