<資料5-2>
1999年度第2回原子力政策円卓会議・発言要旨

学習院大学法学部
田中靖政

1.「共通の関心」と「異なる視点」:

  1. 「推進」「反対」の違いはあるにしても、違いを超えて原子力問題を「未来選択」の重要課題として捉え、情報や知識の共有を計り、冷静に実現可能な解決法を探るべきである。
  2. 「原子力発電」については30年以上の『学習』ないし『経験』がなされてきているが、「高レベル廃棄物処分」については『未学習』ないし『未経験』の部分が多い。『学習』に必要な情報が提供されなくてはならない。
  3. 原子力燃料サイクルの中で「高レベル廃棄物処分」を「原子力発電」と切り離して考えることができない。
    1. 国民の過半数の世論は「原子力発電」を容認している。
    2. 「原子力発電」から必然的に発生する「高レベル放射性廃棄物」について、「原子力発電」は受け入れるが「高レベル放射性廃棄物」は拒否するという選択はなりたたない。
    3. すでに発生してしまった「高レベル放射性廃棄物」については「慎重かつ安全に処分する」以外に選択の余地がない。

2.「原子力発電の必要性」に関する評価検討ポイント:

  1. 20世紀を通じてエネルギー資源小国の日本の重要な選択肢の一つとしての「原子力」は大きな役割を果たしてきている。
    日本の一次エネルギー構成--(BP統計 1998年)
    石油53%
    石炭19%
    原子力17%
    天然ガス12%
    水力2%
    化石燃料合計84%
  2. 70年代の「石油危機」で象徴される「油断」への対応策としての「原子力」の役割(=「エネルギー・セキュリティー」に果たす役割)は無視できない。
  3. 1997年の「地球温暖化防止・京都会議」(COP3)のCO2排出規制の公約を果たすために、「省エネルギー」と平行して考慮されねばならない「原子力」の役割は大きい。
  4. 「再生可能な自然エネルギー」と相互補完的な「原子力」の役割は重視されるべきである。

3.「高レベル放射性廃棄物処分の安全性」に関する評価検討のポイント:

  1. 「未知」なもの(「高レベル放射性廃棄物処分」)に対する自然発生的な不安は当然である。
  2. 「安心」を「安全」に近づけるために、「高レベル放射性廃棄物処分」を実施する以前に、科学的な安全研究が緊急に必要である。(深地層で起こる事象を研究する研究施設の設置、研究の積み上げ、研究成果の公開など。)研究施設の設置に伴い、「研究者・研究プロジェクトの公募」も考えたほうがよい。
  3. 「リスク」に係わる国民の一般的理解を高める必要がある。「どの程度安全ならば十分に安全と言えるか?」について、専門家と非専門家との対話が必要である。核医学がガン治療に貢献していることを教えるような客観的な学校教育、社会教育も必要である。
  4. 国民の納得を得るために、原子力関係者が「安全性向上」を単に「言葉」だけでなく、「行動」と「実績」によって示すことが必要である。

4.「高レベル放射性廃棄物処分の情報の透明性」に関する評価検討のポイント:

  1. 「高レベル放射性廃棄物処分」に関して「情報公開」の原則が尊重されねばならない。(原子力委員会、原子力安全委員会、総合エネルギー調査会、円卓会議、シンポジュームなどにおける積極的な情報の開示と提供。)
  2. 原子力関連企業や研究組織においても、「情報の透明化」が図られなくてはならない。意図的な「隠蔽」「歪曲」「虚偽」などが発生しないような制度的な取り決めが新たに必要である。
  3. マスコミ等による明白な「誤報」や「事実の歪曲」等に対しては、公式に指摘もしくは抗議がなされ、情報内容の修正や被害の救済がなされるべきである。事情によっては、法的な手段に訴えることがあっても止む得ない。

 以上。