<資料5-1>
1999年7月13日
1999年7月13日  1999年度第2回原子力円卓会議

「高レベル放射性廃棄物処分について」  発言要旨

市川富士夫

1. 核燃料サイクル政策に関連して
 原子力発電の成否は高レベル放射性廃棄物処分の成否にかかっていると言われてから久しい。原子力発電が核燃料サイクルという一連の技術システムをともなって成立する以上、その安全性も経済性もサイクル全体の成熟度に左右される。
 我が国の原子力政策は、(1)低濃縮ウラン燃料を用いる軽水炉の大量設置 (2)使用済核燃料の再処理により回収したプルトニウムの高速増殖炉等での利用 の二つを柱としている。
 (1)は主として日米原子力協定を背景として進められ、当初は軽水炉技術は実証済みとして導入され、日本での軽水炉関連技術の研究開発不用論もあった。その後、国の内外での軽水炉のトラブル続出により国民の不信が高まり、種々の安全対策に関する実証試験が今日まで続けられている。
 (2)は、再処理技術は海外では実証済みであるとの認識のもとに実用規模の東海再処理工場が建設され、日本原子力研究所のパイロットプラントの試運転予算を凍結、湿式再処理の研究が抑制される時期があった。その後、東海工場でのトラブル続出にともない安全規制を中心に研究が進められてきている。
 これらの事例は、いずれも技術の状況を軽視して政策が先行決定されるという共通点をもっており、その結果としてサイクルの下流に向かうほど政策と技術状況との距離が増大しつつある。高レベル放射性廃棄物処分の問題はこのような観点からも検討する必要がある。

2. 高レベル放射性廃棄物の発生に係る問題
 最近、使用済核燃料を原子炉サイト外に期間の定めなく中間貯蔵し、これを民間企業に委託するための原子炉等規制法の一部改訂がなされた。この問題の背景には、再処理計画の遅延停滞にも拘わらず原子炉の運転を継続したためサイト内の使用済燃料貯蔵能力の不足が予想されることがある。そもそも原子力発電所の設置に際しては、その原子炉の使用済核燃料の再処理見通しが求められているにもかかわらずかかる事態に至ったことは、原子力政策、とくに核燃料政策の重大な"そご"の結果といわざるを得ない。
 現在、高レベル放射性廃棄物の対象は再処理工程で分離される高レベル廃液の固化体を主とするが、今後の再処理見通しによっては使用済核燃料そのものを半永久的に保管せざるを得ない場合も考えられ、高レベル放射性廃棄物対策上大きな不確定要素を抱えることになる。

3. 高レベル放射性廃棄物処分の方策について
 我が国で現在選択されている方策は、高レベル廃液は安定な形態に固化し、30〜50年間管理下に貯蔵後、数百メートル以上の深地層処分施設に廃棄するというものである。1976年に原子力委員会がこの地層処分を方針とした段階から、このシナリオを裏付けるための研究開発が始められ、その第2次取まとめ(2000年レポート)の第2ドラフトが最近公開されている。
 このシナリオについて若干の問題点を以下に列記する。

(1)固化体としてガラス以外の材質(例えばシンロック)についての検討が充分になされたとは言い難い
(2)人工バリアが何千年も健全であることは期待できず、隔離期間の大半は天然バリアに依存せざるを得ない。そのためには未解明の地球科学的課題が山積しており、その研究開発には50年以上の年月を必要とすると専門家は指摘している。
(3)高レベル放射性廃棄物は、核分裂生成物、腐蝕生成物、超ウラン元素などを含み、放射能的にも化学的にも媒体中の挙動が複雑である。例えば、地下水中のプルトニウムが粒子状に存在し、従来の予測よりも移動速度が速いことが最近米国のネバダ地下核実験場でのデータから報告されるなど、確定した結論の得られる段階に無い
(4)群分離、消滅処理などのオプションの研究開発は地層処分という政策課題に圧迫されて極めて不十分である。もし、群分離、消滅処理を行うのならば、ガラス固化を急ぐべきではなく、再処理工程に群分離を組入れるシステムを開発すべきである

4. 核拡散問題について  プルトニウム利用に関連して
 保障措置、核物質防護等の核拡散防止措置は原子力が軍事利用技術を平和目的に転用し、なおかつ核兵器保有国が現存することに伴う矛盾の産物である。基本的には核兵器の完全禁止を国際的合意とすることにより真の平和利用が可能になる。
 核拡散対策といえども、自主、民主、公開の原則を侵害すべきではない。