<資料6-5>

核燃料サイクルについて

1999年6月15日
原子力資料情報室
共同代表 伴英幸

はじめに
 フランス、イギリスからのMOX燃料の輸送が間近に迫っています。しかし、この計画にはなお解決されていないさまざまな問題があり、また、「国民的合意」が得られたとは言い難い状況です。
 高速増殖炉開発の先進国が技術上および経済上、あるいは国民の意見を反映して、その開発から撤退を進めています。もんじゅの事故で日本の高速増殖炉開発の先行きが見えなくなりました。開発計画を見直すよい機会です。また、もんじゅの運転を再開することの意義は今やなくなっています。
 日本原燃(株)がこの4月26日に六ヶ所再処理工場の操業延期を発表しました。同時に発表された建設費の見直しでは、総工費が2兆1400億円に跳ね上がっています。高速増殖炉計画の先送りが確実となっている今、再処理工場建設の意味はなくなっています。
 今必要なことは、過去の開発計画に固執せず、他の電源を含めた総合的な見地から再処理−プルトニウム利用の是非を検討することです。

プルサーマル
国際MOX評価の結論
 原子力資料情報室は95年から97年にかけてプルサーマルに関する総合的な評価(通称IMA)を行ない、「MOX総合評価」として出版しました。この評価は内外の専門家9人によって構成されました。その結論を以下に紹介します。
 「プルトニウム分離とMOXの軽水炉利用という路線のデメリットは、核燃料の直接処分の選択肢に比べて圧倒的であり、それは、産業としての面、経済性、安全保障、安全性、廃棄物管理、そして社会的な影響のすべてにわたって言える。換言すれば、プルトニウム分離の継続とMOXの軽水炉利用の推進には、今や何の合理的な理由もなく、社会的な利点も見いだすことができない。」
 次に、いくつかの問題点について述べます。
MOX使用の危険性
 プルトニウムの核的な性質の違いから、MOX燃料を装荷した炉心においては次のような危険が増すと言われています。1)制御棒の効きが悪くなる2)燃料棒破損の危険が増す3)出力急上昇の危険が増す4)出力の制御が難しくなる5)中性子照射により圧力容器や炉内構造物がより脆くなる、などです(図1)。

 これらの変化が生じてもなお安全余裕があるという主張も聞かれますが、MOX利用が安全余裕を切りつめての運転になることは間違いありません。
経済性はない
 再処理から取り出されたプルトニウムの価格を「ゼロ」(フリー・プルトニウム)で計算されることがあります。しかし、本来のコスト計算は再処理含めて行われるべきだと考えます。そこでIMAの評価では、ウラン燃料の場合、フリー・プルトニウムの場合、再処理費用を考慮した場合の3つのケースを扱いました。その結果、ウラン燃料を1とした場合、フリー・プルトニウムで1.2〜1.4倍、再処理を考慮した場合2.4〜2.8倍に達しています。
 コスト高は現在進められている電力の自由化を阻害する要因となりえます。
核拡散の危惧
 原子炉級プルトニウムであっても核兵器の材料となりうることを考えると、再処理−プルトニウム利用技術の獲得は核兵器技術の獲得につながる危険があります。また、プルトニウムを大量に貯蔵することは核開発への疑惑を高めることになります。
 それだけでなく、原子炉施設は攻撃の対象となりえます。通常兵器であっても原子炉施設が攻撃されれば、場合によっては莫大な被害に進展します。
輸送の困難
 さらに、輸送途上においてテロ行為の対象となりえます。あかつき丸が1.5トンのプルトニウムをフランスから日本へ運搬したとき、その航路は38000キロメートルにおよんだと言われています。現在計画されているヨーロッパからのMOX燃料の輸送ルートは公表されていませんが、同様のルートをとることが予想されます。長距離を運搬すればするほどテロ行為の対象となる危険は増します。今回の輸送計画では2艘の民間船に機関砲などの武器を装備させて相互に護衛しながら運ぶことになっています。しかしながら、テロ攻撃に対して十分とは言えません。
 核防護とは別に、輸送の安全性もはっきりしていません。輸送容器に課せられている強度などの基準はIAEAの基準に基づいたものではありますが、それ自体が不十分です。
 輸送には沿線ルート国からの反対が予想されます。92年のプルトニウムの輸送時には30を超える国々から反対や懸念の声があがりました(資料1)。

<資料1>
日本のプルトニウム海上輸送に関する各国の反応

1993年 1月4日  原子力資料情報室

★懸念表明、声明、輸送船の通過拒否、回避要請などを発表した政府、国々、団体

  • ハワイ州・・・・・州知事 5月21日
  • 西部州知事連合(アメリカ西部21州)・・・・・6月23日
  • 南アフリカ共和国・・・・・国民教育環境相 7月7日、環境相11月17日
  • ANC(アフリカ民族会議)・・・・・7月7日
  • 南太平洋フォーラム参加15か国・・・・・7月9日
    (オーストラリア、クック島、ミクロネシア連邦、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、パプア・ニューギニア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ、西サモア)
  • フランス緑の党(8月18日)
  • インドネシア・・・・・インドネシア原子力庁・運輸省 8月22日、環境大臣8月28日、外相9月17日
  • マレーシア・・・・・水産省 8月29日、外相  9月14日、科学技術環境相 9月17日
  • アルゼンチン・・・・・国会議員 9月2日、外相 10月11日
  • ブラジル・・・・・原子力国家委員会 9月2日
  • チリ・・・・・国有財産相 9月10日、外相 10月21日、大統領 10月21日、下院 11月3日
  • シンガポール・・・・・外務省9月19日
  • セントクリストファーネビス・・・・・首相 10月1日、議会10月9日
  • プエルトリコ・・・・・議会 10月8日
  • バヌアツ・・・・・首相 10月8日
  • フィリピン・・・・・天然資源環境省 10月17日、大統領 10月19日、海軍提督 11月9日、11月10日
  • ウルグアイ・・・・・外務省 10月19日
  • スリランカ・・・・・10月21日
  • 南米5か国共同声明・・・・・10月26日
    (エクアドル、コロンビア、チリ、ペルー、パナマ)
  • カリブ共同体共同市場共同声明)・・・・・10月30日
  • モーリシャス・・・・・外務大臣 10月
  • 英国バージン・アイランド・・・・・議会 10月28日
  • ポルトガル・・・・・外務省 11月9日
  • コスタリカ・・・・・政府 11月10日
  • 大韓民国・・・・・法曹界 11月17日
  • 核戦争防止国際医師の会(米国)・・・・・11月18日
  • 欧州議会・・・・・11月19日
  • ニューカレドニア・・・・・カナク社会主義民族解放戦線 12月21日
  • ソロモン諸島・・・・・12月21日
  • バヌアツ・・・・・12月22日
  • ナウル共和国・・・・・12月22日
  • 北マリアナ諸島/グアム共同声明・・・・・12月23日
(1993年1月4日現在)

 原子力資料情報室では4月末より、プルトニウム輸送予想ルート上の沿線国政府に宛て、プルトニウム輸送が貴国のそばを通るかもしれないという、警告のハガキを出したり、プルトニウム輸送に関するさまざまな情報提供をしてきました。その結果ともいえるようなリストですが、日本政府はこれだけの国々の懸念、抗議を無視して、プルトニウム輸送を強行してきたといえます。これは、国際社会のなかにおける日本のイメージをひどく傷つけ、永く汚点として、消えることはないでしょう。

 さらにそれらの国々から高レベル廃棄物の輸送を含めて、輸送事故時の災害評価を求める声があがっていますが、未だに日本政府は行っていません。誠意ある対応が必要です。
乏しい海外の実績
 MOX燃料の使用実績に関して、日本では美浜1号炉と敦賀1号炉での少数体試験しか行っていませんので、海外の実績が引き合いに出されます。しかし、実際には海外の実績はこれまでの総計でも1800体ほどで、ウラン燃料に比べて実績があるとは言えません。97年現在もMOX燃料を使用している原子炉は23基しかありません。そのうち、東京電力所有の原発と同型の沸騰水型炉の実績はドイツの2基のみです。その内の1基は95年に16体を原子炉に入れてから新たなMOX燃料の追加はありません。もう1基は96年と97年にそれぞれ32体を装荷しています。これを十分な実績とは言えないでしょう。
幻の実用規模の実証計画
 1987年に改定された「原子力の研究開発および利用に関する長期計画」では、加圧水型炉と沸騰水型炉がそれぞれ1基で実用規模の実証計画がうたわれていました。ところが94年に改定された長期計画では、「海外に多くの実績」があるとして、実用規模の実証計画は消えてしまったのです。その海外の実績が上に述べた実績で、とうてい多くの実績とは言えません。90年代前半には実用規模の実証が終わり、後半には10基程度でMOX燃料が装荷されるという87年長期計画が大きく遅れていたので、その遅れをカバーするために実用規模実証計画をとばしたのではないでしょうか。
資源節約効果は疑問
 仮にMOX燃料を利用しても、現在計画されている2010年までに16基程度という規模ではウラン資源の節約にはほとんどつながりません。
プルトニウム余剰
 プルトニウムは高速増殖炉で使うのが本来の姿であり、資源の有効利用につながると説明されています。プルサーマルは高速増殖炉が開発されるまでのつなぎという位置づけでした。ところが、高速増殖炉開発の見通しは長計見直しごとに先に延び、94年長期計画では「2030年頃までには実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指して」いくとなっています。ところがこの見通しと関係なく再処理を続けているので、プルトニウムの貯蔵量が増え続けています(図2)。98年度版原子力白書で公表されている97年末のデータによりますと、フランスに約15.5トン、イギリスに約3.5トン、国内に約5トン、実に約24トンものプルトニウムが在庫となっています。「余剰を持たない」という国際公約のために、結局のところ海外再処理分をプルサーマルで消費しようと言うわけです。特に、もんじゅ事故によって高速増殖炉による利用計画が頓挫したことから、プルサーマルによる消費計画を立てざるをえなくなったのです。
 私には現在のプルサーマル計画がどうしてもつじつま合わせに見えてなりません。これ以上プルトニウムを増やさないために、まず、再処理をやめること
が必要です。


本当に地元合意が得られたか
 プルサーマル導入について、これまで国や電力会社による地元説明会が幾度か開催されました。地元市町村長や知事の同意という形式を整えてきていますが(福井県を除く、6月9日現在)、しかし、地元住民の合意が得られているとは言い難い状況です。例えば、福島県で行われたアンケート調査では45%が「情報が足りないので判断できない」と答えています。
 これまでの議論で、安全性、経済性、核拡散、輸送などなどの面で十分な議論が尽くされたとは言えません。国や電力会社の姿勢は、計画や安全性にかんする一方的な説明だけで議論ではありません。

高速増殖炉
 原子力長期計画で高速増殖炉が言及された1962年から今日までに6回の改定がありましたが、改定ごとに高速増殖炉の実用化の時期は遠のいています。
このことは高速増殖炉開発が技術的に非常に困難であることを物語っています。
そしてついに、もんじゅ事故後に設置された高速増殖炉懇談会の報告10では、高速増殖炉の実用化の時期を定めないことになりました。
 この間に投じられた資金は総務庁行政監察局の報告11によればおよそ1兆6000億円に達します。そして開発を続けるならさらに2兆円以上の資金が必要12になると見られています。
 前述の行政監督局報告には「研究開発に要する費用とその成果を明らかにし、その妥当性を議論していくことが必要であり、そのような議論を広く巻き起こしつつ事業を幅広く見直していくことが求められる」と結んでいます。この表現は、行政監察局が高速増殖炉と関連技術の開発計画へ大きな疑問を投げかけ、計画の見直しを提言していると受け取れます。
 私は高速増殖炉開発の技術的困難さ並びに経済的困難さを考えれば、開発計画の続行にはメリットが無く、計画の撤回が妥当だと判断しています。
もんじゅ
 高速増殖炉懇談会の報告は、もんじゅについて、このまま止めてしまうとこれまでに投じた資金が無駄になると、もんじゅ運転の必要性を訴えています。
しかし、これは硬直化した考えといえます。
 94年の長期計画によれば、その先の実証炉は2基ていど建設する計画ですが、そのタイプはもんじゅとは異なっています。また、もんじゅが計画から運転開始まで28年の歳月を費やしたことを考えると、未だ場所が未定の実証炉はとても現実的とは見えません。
 実証炉もその先の実用炉も現実的でないのですから、もんじゅの運転を再開することにはメリットがないと考えています。
海外の中止は技術と経済性のなさの証明
 イギリス、ドイツ、フランスなどの国々が高速増殖炉開発から撤退した理由は、技術的困難、経済的困難、社会的合意の困難という3つの要因が重なり合っていると私は見ています。
 これらの要因は日本とて例外ではありません。先達の教訓として率直に受け入れるべきだと思います。

再処理
 再処理は使用済み燃料を扱うことから放射能汚染の激しい施設だと言われます。大規模な再処理施設のあるフランスとイギリスでは周辺住民に放射能による被害が出ていると報告13されています。これらの報告は被害の発生と再処理工場との因果関係をめぐって常に論争の的になっています。
 再処理を廃棄物対策とする見方には納得できません。まず、再処理によってかえって廃棄物の量が増えますので対策とはなりません。また、仮に廃棄物対策だとすれば、プルトニウムは副産物になり、現在の政策におけるプルトニウムの位置づけと矛盾してきます。再処理はあくまでもプルトニウムの抽出を目的とするものです。
 上述してきましたように、現実的にはプルトニウム大量に貯蔵されている状態で、これ以上再処理を続ける理由は見あたりません。
 日本原燃(株)はこの5月に六ヶ所再処理工場の操業延期を申請しました。そして建設費は2兆1400億円を超える見通しを発表しました。
説得力のない東海再処理工場の運転再開
 核燃料サイクル機構は東海再処理工場の運転再開を申請しました。しかし、これには説得力ある理由が見つかりません。これまで、プルトニウムの需給に合わせた運転を行うと科学技術庁は述べています。需給に合わせるのであれば、東海事業所内に貯蔵されている5トンものプルトニウムの需要が見込めないことを考えれば運転を再開する理由にはなりません。
 言われているように、新型転換炉ふげんの燃料貯蔵プールが満杯で、持ち出さなければふげんを止めざるをえなくなるのが理由とすれば、とても納得できません。ふげんは大間ATR計画が中止になった時点で、運転を続ける意義がなくなっています。いきなりの閉鎖を避けて、2003年まで運転を続けて閉鎖する計画になっています。運転にこだわる必要はないと考えています。まして、運転を続けるために、ところてん式に再処理工場を運転することは本末転倒といわざるをえません。
 東海では高速増殖炉燃料の再処理の試験研究のため、リサイクル機器試験施設(RETF)の建設が続いています。これも高速増殖炉開発が遠のいた今、RETFの建設を続ける正当な理由は見あたりません。

まとめ
 高速増殖炉開発およびプルサーマル、さらに再処理には何ら利点が無く、速やかに撤退すべきと考えます。もんじゅ事故や東海再処理工場の事故で、あるいは六ヶ所再処理工場の延期などで、計画が中断している今こそ、再処理−プルトニウム利用政策を転換する好機ととらえています。
 この時期に、他の電源含めて、原子力発電、核燃料サイクルに関する総合的な評価をすることを提案します。