はじめに
フランス、イギリスからのMOX燃料の輸送が間近に迫っています。しかし、この計画にはなお解決されていないさまざまな問題があり、また、「国民的合意」が得られたとは言い難い状況です。
高速増殖炉開発の先進国が技術上および経済上、あるいは国民の意見を反映して、その開発から撤退を進めています。もんじゅの事故で日本の高速増殖炉開発の先行きが見えなくなりました。開発計画を見直すよい機会です。また、もんじゅの運転を再開することの意義は今やなくなっています。
日本原燃(株)がこの4月26日に六ヶ所再処理工場の操業延期を発表しました。同時に発表された建設費の見直しでは、総工費が2兆1400億円に跳ね上がっています。高速増殖炉計画の先送りが確実となっている今、再処理工場建設の意味はなくなっています。
今必要なことは、過去の開発計画に固執せず、他の電源を含めた総合的な見地から再処理−プルトニウム利用の是非を検討することです。
プルサーマル
国際MOX評価の結論
原子力資料情報室は95年から97年にかけてプルサーマルに関する総合的な評価(通称IMA)1を行ない、「MOX総合評価」2として出版しました。この評価は内外の専門家9人によって構成されました。その結論を以下に紹介します。
「プルトニウム分離とMOXの軽水炉利用という路線のデメリットは、核燃料の直接処分の選択肢に比べて圧倒的であり、それは、産業としての面、経済性、安全保障、安全性、廃棄物管理、そして社会的な影響のすべてにわたって言える。換言すれば、プルトニウム分離の継続とMOXの軽水炉利用の推進には、今や何の合理的な理由もなく、社会的な利点も見いだすことができない。」
次に、いくつかの問題点について述べます。
MOX使用の危険性
プルトニウムの核的な性質の違いから、MOX燃料を装荷した炉心においては次のような危険が増すと言われています。1)制御棒の効きが悪くなる2)燃料棒破損の危険が増す3)出力急上昇の危険が増す4)出力の制御が難しくなる5)中性子照射により圧力容器や炉内構造物がより脆くなる、などです(図1)。

これらの変化が生じてもなお安全余裕があるという主張も聞かれますが、MOX利用が安全余裕を切りつめての運転になることは間違いありません。
経済性はない
再処理から取り出されたプルトニウムの価格を「ゼロ」(フリー・プルトニウム)で計算されることがあります。しかし、本来のコスト計算は再処理含めて行われるべきだと考えます。そこでIMAの評価では、ウラン燃料の場合、フリー・プルトニウムの場合、再処理費用を考慮した場合の3つのケースを扱いました。その結果、ウラン燃料を1とした場合、フリー・プルトニウムで1.2〜1.4倍、再処理を考慮した場合2.4〜2.8倍に達しています。
コスト高は現在進められている電力の自由化を阻害する要因となりえます。
核拡散の危惧
原子炉級プルトニウムであっても核兵器の材料となりうる3ことを考えると、再処理−プルトニウム利用技術の獲得は核兵器技術の獲得につながる危険があります。また、プルトニウムを大量に貯蔵することは核開発への疑惑を高めることになります。
それだけでなく、原子炉施設は攻撃の対象となりえます。通常兵器であっても原子炉施設が攻撃されれば、場合によっては莫大な被害に進展します。
輸送の困難
さらに、輸送途上においてテロ行為の対象となりえます。あかつき丸が1.5トンのプルトニウムをフランスから日本へ運搬したとき、その航路は38000キロメートルにおよんだと言われています。現在計画されているヨーロッパからのMOX燃料の輸送ルートは公表されていませんが、同様のルートをとることが予想されます。長距離を運搬すればするほどテロ行為の対象となる危険は増します。今回の輸送計画では2艘の民間船に機関砲などの武器を装備させて相互に護衛しながら運ぶことになっています。しかしながら、テロ攻撃に対して十分とは言えません。
核防護とは別に、輸送の安全性もはっきりしていません。輸送容器に課せられている強度などの基準はIAEAの基準4に基づいたものではありますが、それ自体が不十分です。
輸送には沿線ルート国からの反対が予想されます。92年のプルトニウムの輸送時には30を超える国々から反対や懸念の声があがりました(資料1)。
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<資料1>
★懸念表明、声明、輸送船の通過拒否、回避要請などを発表した政府、国々、団体
原子力資料情報室では4月末より、プルトニウム輸送予想ルート上の沿線国政府に宛て、プルトニウム輸送が貴国のそばを通るかもしれないという、警告のハガキを出したり、プルトニウム輸送に関するさまざまな情報提供をしてきました。その結果ともいえるようなリストですが、日本政府はこれだけの国々の懸念、抗議を無視して、プルトニウム輸送を強行してきたといえます。これは、国際社会のなかにおける日本のイメージをひどく傷つけ、永く汚点として、消えることはないでしょう。 |
さらにそれらの国々から高レベル廃棄物の輸送を含めて、輸送事故時の災害評価を求める声5があがっていますが、未だに日本政府は行っていません。誠意ある対応が必要です。
乏しい海外の実績
MOX燃料の使用実績に関して、日本では美浜1号炉と敦賀1号炉での少数体試験しか行っていませんので、海外の実績が引き合いに出されます。しかし、実際には海外の実績はこれまでの総計でも1800体ほどで、ウラン燃料に比べて実績があるとは言えません。97年現在もMOX燃料を使用している原子炉は23基しかありません。そのうち、東京電力所有の原発と同型の沸騰水型炉の実績はドイツの2基のみです。その内の1基は95年に16体を原子炉に入れてから新たなMOX燃料の追加はありません。もう1基は96年と97年にそれぞれ32体を装荷しています6。これを十分な実績とは言えないでしょう。
幻の実用規模の実証計画
1987年に改定された「原子力の研究開発および利用に関する長期計画」では、加圧水型炉と沸騰水型炉がそれぞれ1基で実用規模の実証計画がうたわれていました7。ところが94年に改定された長期計画では、「海外に多くの実績」があるとして、実用規模の実証計画は消えてしまったのです。その海外の実績が上に述べた実績で、とうてい多くの実績とは言えません。90年代前半には実用規模の実証が終わり、後半には10基程度でMOX燃料が装荷されるという87年長期計画が大きく遅れていたので、その遅れをカバーするために実用規模実証計画をとばしたのではないでしょうか。
資源節約効果は疑問
仮にMOX燃料を利用しても、現在計画8されている2010年までに16基程度という規模ではウラン資源の節約にはほとんどつながりません。
プルトニウム余剰
プルトニウムは高速増殖炉で使うのが本来の姿であり、資源の有効利用につながると説明されています。プルサーマルは高速増殖炉が開発されるまでのつなぎという位置づけでした。ところが、高速増殖炉開発の見通しは長計見直しごとに先に延び、94年長期計画では「2030年頃までには実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指して」いくとなっています。ところがこの見通しと関係なく再処理を続けているので、プルトニウムの貯蔵量が増え続けています(図2)。98年度版原子力白書で公表されている97年末のデータによりますと、フランスに約15.5トン、イギリスに約3.5トン、国内に約5トン、実に約24トンものプルトニウムが在庫となっています。「余剰を持たない」という国際公約のために、結局のところ海外再処理分をプルサーマルで消費しようと言うわけです。特に、もんじゅ事故によって高速増殖炉による利用計画が頓挫したことから、プルサーマルによる消費計画を立てざるをえなくなったのです。
私には現在のプルサーマル計画がどうしてもつじつま合わせに見えてなりません。これ以上プルトニウムを増やさないために、まず、再処理をやめること
が必要です。
