1999.6.16
文責 原子力政策円卓会議事務局
平成11年度 第1回原子力政策円卓会議 議事速報
1.開催日時
1999年6月15日(火) 午後1時30分〜午後5時00分
2.開催場所
東京ビッグサイト 会議棟1F レセプションホール(東京都江東区有明)
3.テーマ
我が国の核燃料サイクルについて
4.出席者(敬称略)
モデレーター
石川 迪夫 | 原子力発電技術機構特別顧問(司会)
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小沢 遼子 | 社会評論家
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茅 陽一 | 慶應義塾大学教授(副司会)
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木村 孟 | 学位授与機構長
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中島 篤之助 | 元中央大学教授
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オブザーバー
説明者
招へい者
鈴木 岑二 | 久留米大学教授
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関本 博 | 東京工業大学教授
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中村 融 | 原子力政策転換全国ネットワーク
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中村 政雄 | 科学ジャーナリスト
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服部 禎男 | (財)電力中央研究所特別顧問
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伴 英幸 | 原子力資料情報室共同代表
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(敬称略 五十音順)
5.議事の概要
- 木村モデレーターより、昨年度会議からの経緯、今年度における会議の運営方法、開催予定回数(7回)、公募意見の紹介。
- 鈴木篤之氏より核燃料サイクルについての説明があり、その他の招へい者からプレゼンテーションを行った後に、自由討論。
6.発言要旨
鈴木 篤之
以下の項目に沿って、中立的な立場から「核燃料サイクルの現状」を説明。
I.核燃料サイクルの概念
1)軽水炉ワンススルー型、2)軽水炉リサイクル型、3)高速炉リサイクル型のそれぞれの選択肢について、ウランの資源利用効率の観点から定量的に比較。
II.核燃料サイクルの特徴
それぞれの選択肢について、コスト、廃棄物の発生、エネルギー供給不安への対応、核拡散等の観点から比較。
III.各国の核燃料サイクル計画
米国、スウェーデンのようにワンススルーを基本とする国、フランス、ロシア、中国、日本のようにリサイクルを基本とする国、ドイツのように両方を併用している国の現状を比較。
IV.核燃料サイクルのバックエンド対策(使用済燃料の管理)
直接処分、中間貯蔵、再処理という方法について、場所等により分類して、それぞれの選択肢を比較。
各招へい者からプレゼンテーションが行われた。
伴 英幸
- 原子力発電は、多種多様な放射能が発生し、また、大量の放射能漏れを伴う事故が起こる可能性があり、人類と共存できない。
- MOX利用に対する住民の不安、再処理による放射性物質の放出の増大、プルトニウム利用に伴う核拡散の危険性、膨大な研究開発コスト等、原子力発電や核燃料サイクルには問題が多く、代替電源を検討すべきである。
- コジェネ等の電気の効率利用や新エネルギーが広まらないのは、制度的な問題があるから。
- 「もんじゅ」が止まり、六ヶ所再処理工場が遅延している今こそ、原子力だけでなく、他の電源を含め総合的に評価する機関を作り、メリット・デメリットを評価すべきである。
服部 禎男
- 太陽光、風力、バイオマス等は行うべきだが、どこでもできるわけではない。
- また、これからの原子力は、PA(Public Acceptance)から、PR(Public Requirement)、つまり人々が何を求めているかに対応する段階に入ったのではないか。
- 高速増殖炉は、未来のエネルギー資源確保のためにも素晴らしいものが開発されなくてはならない。そのための新たな高速炉として、米国アルゴンヌ研究所で研究されている金属燃料を利用した小型高速炉と乾式再処理が有効である。
- この新しい概念を採用した小型高速炉は、固有の安全性を有し、運転員が不要であり、さらに負荷追従運転が可能であるという点で優れている。米国でも、カリフォルニアグループが検討し始めた。電中研もカリフォルニア大学等との共同研究も考えられる。
中村 政雄
- 原子力の開発は、これまで急ぎ過ぎており、再検討の時期にあると感じる。
- 核融合の困難さ、新エネルギーの限界を考えると、100年も経てばエネルギー資源が足りなくなる。その時のためにもプルトニウムは人類に必要な資源だ。
- ワンススルーと再処理のどちらが良いかについて、専門家だけでなく十分な議論を尽くし、国民に示すべきである。
- 高速増殖炉は「もんじゅ」の延長上で実用化できるのか、経済性があるのか、核不拡散性の高い小型炉が良いのではないか等について、検討を行うべきである。
- 核燃料サイクル開発機構(以下、「サイクル機構という。」)からの技術移転等、開発体制のあり方についても検討を行うべきである。
中村 融
- プルサーマルについては、安全性・経済性に問題があり、ウラン節約効果も乏しいため、計画は中止すべきである。
- 高速増殖炉開発については、サイクル機構の開発体制、組織の問題の解決が不十分であり、「もんじゅ」は安全性と経済性が保証できないので、「もんじゅ」での高速増殖炉の開発は中止して、基礎から考えるべきである。
- 再処理については、放射能による環境汚染もあり、中止すべきである。それに伴って余剰Puの発生も抑えるべきである。
- 高レベル廃棄物処分については、深地層処分は放射能汚染の可能性があり、浅地層処分、地上保管等の他の方法についても再検討されるべきである。
- 省エネルギー、新エネルギーの技術的可能性の徹底した追求も必要である。
関本 博
- 自然エネルギー、核融合は半永久的なエネルギーであるが、核分裂も海水ウランを使うと「100万年のエネルギー」となる。
- 人類の文明は「高密度」な「貯蔵エネルギー」の利用が基本となっている。一方、自然エネルギーは「低密度」な「非貯蔵エネルギー」であり、将来にわたって人類の主要なエネルギー源とはなり得ないのではないか。
- 人類は軽水炉によりローカルオプティマムを追求してきたが、高速炉でなければグローバルオプティマムは達成できない。しかし、いったんローカルオプティマムに達すると、それより優れたところへの移動は困難である。
- 核分裂エネルギーを有効に利用するシステムとして必要な研究(放射性毒性を持つ物質の分離、消滅)の推進体制の整備が不十分である。これらの研究は着実に進められなくてはならず、大学等にも予算措置を講ずべきである。
鈴木 岑二
- 原子力全体において高速増殖炉は必要であるが、高速増殖炉なしの原子力でもかなりの間、成り立つということも考える必要がある。
- 高速増殖炉は「資源問題を低コストで解決できる」というのが開発当初の考え方であったが、それも今は状況が変わっている。現在のエネルギー情勢の中で高速増殖炉を実現することの意義、そのための費用、資源の節約効果等について議論し直さなくてはならない。
- 高速増殖炉を実用化するとしても、さらにどのようなタイプの高速増殖炉の実現が可能なのか、ということも議論されるべきである。
○自由討議
●高速炉について
- 高速炉は、何が何でも必要不可欠な物と位置付けられるべきものではなく、経済性、資源制約、国際動向等を踏まえて検討されるべき。
- プルサーマル、再処理の問題を議論するためにも、高速炉開発の位置づけを明確にする必要がある。「もんじゅ」がだめなとき高速炉路線をどうするのか、「もんじゅ」と高速炉開発は区別して議論すべきである。
- 米国や欧州は、日本と国情が異なり、これらの国々がやめたから日本も高速炉開発から撤退するというのは危険である。
- 高速炉と高速増殖炉と2種類の呼称があるが、国策としての高速増殖炉開発はやめるべきである。コスト的に引き合わず、増倍時間が40年〜90年というのも、国の目標として適切ではない。
- 増倍時間とは、再処理等サイクルの時間も含めて、自らが必要とする燃料を生産する時間で、再処理能力等状況によって変わっていくものであり、決定的なファクターではない。
- 高速炉についての問題には、資源(エネルギーセキュリティ)の観点とともに、安全性、廃棄物処分、核拡散防止の問題がある。私は、安全性はさほど心配していない。廃棄物処分はこれからやっていくべき。核拡散防止は、原子力利用した方がコントロールできると思う。
- 現状はローカルオプティマムでしかなく、軽水炉の効率は30%しかない。電力会社はその範疇で大型化を図り、ABWRを増やそうとしている。20世紀の遺物とならないよう、考えを転換する必要がある。
- 高速炉の開発が始まってから既に40年を経過していて、あと30年で見通しを得、2050年頃に実用化と言われている。実用化とはどのような姿か。何をもって実用化なのか。1基だけで実用化なのか。また、開発段階は動燃がやっていて、それを引き継いでいく原電では実証炉に違うタイプが計画されており、なぜ「もんじゅ」の運転を再開する必要があるのか。
- 実用化というためには、経済性も大切だが、まず工学的な信頼性を獲得することが必要ではないか。ユーザーが惚れ込んで発注しなければ、実用化できない。
- 従来の原型炉、実証炉、実用炉という段階を踏んだ開発のあり方は変わりつつある。高速炉開発のような時間のかかる計画が硬直化していたことが、むしろ問題である。
- ウラン需給面で余裕のある現在では、将来の選択肢を十分に考える時間がある。過去に捨てられた技術も含め、高速炉を総ざらいして議論する場が必要である。
- 高速炉に対するニーズが必要。いつになるかは不明だが、将来のある時に確実に必要になってくると思う。現在は出来るだけ、幅広い研究を行う必要がある。
- 高速炉の実用化時期は、誰が考えても今判断できない。エネルギー需給等から、目標設定はできるが、早い方がいいということになると、「もんじゅ」の延長線上しかないという議論になってしまう。
- 目標設定は「安全性が本当に確保できる高速炉」とするべき。
- 小型の固有安全炉については、出力密度が低くコストも割高になる短所もあり、人工的な安全装置を信頼し大型炉を選択するか、小型の固有安全炉を選択するか、判断を行う必要がある。
- 信頼性を考えた場合、今後もナトリウムにしがみつくのか疑問。水の扱いは何百年の経験があるが、ナトリウムの扱いは経験が少ないため、機器の信頼性が2桁程度低い。データベースを構築する努力が必要である。
- ウランは、貴重な資源として有効に利用しつくすべきである。高速炉では圧倒的によく燃やすことができる。ただ、炉型等については1〜2年をかけて十分議論するべきである。
- 高速炉開発のあり方は、資源問題によって変わってくる。海水ウランの回収が50年で実用化するならば、高速炉は当面いらなくなるかもしれない。旧動燃はやはり硬直化した計画を与えられていたといえる。
- 高速増殖炉では、燃料の利用効率を軽水炉の100倍にできる。また、海水ウラン利用が実用化しても、廃棄物の問題が残ることは認識すべきである。
- 高速炉開発はエネルギーセキュリティの観点から必要である。高速炉と海水ウラン利用の両方について、ある程度の技術的ポテンシャルを確保していることが、エネルギーセキュリティにつながる。
- 世界的なエネルギーセキュリティを考えるのは当然であるが、そこで直ぐにウラン、原子力が出てくるのが問題。自然エネルギー、省エネの可能性を汲みつくすことが大事である。
- 21世紀の中頃までを考えると、新エネが一定の役割を果たすのは、エネルギー需要が横這いかマイナスの場合だと思う。高速増殖炉についても、評価の基準をはっきりさせるべき。
- 高速炉のように先の見えないものに投資するよりは、制度的な問題を解決して、省エネ、新エネに力を入れるべき。
- 高速炉が必要か否かについて、否という意見の主な理由は安全性である。高速炉が必要と考える方の理由は、主として資源論的(エネルギーセキュリティ)な理由である。また、その方々は、省エネ、新エネは高速炉の代替とならないと見ている。
●「もんじゅ」について
- 「もんじゅ」は実用化に向けた原型炉と位置付けられているが、資源制約、国際動向等を踏まえて、この際、見直すべきではないか。実用化とはこれまでのものを外挿するのとは違う。研究開発とは自ら実用化の条件を探し、いろいろな物を試す期間であり、「もんじゅ」で知見を積むことは有益である。
- 「もんじゅ」の位置付けを実用化への確実なステップとするのではなく、不明確な将来に対する大型装置として活用することが必要。一方、他の方式についても小型装置を作って試すべき。
- 「もんじゅ」が研究用として利用できることは理解できるが、あくまで副次的な効果であり、期待していた主目的が達成できないからといって、理由をすり替えて推進するという議論はおかしい。
- MOX燃料、ナトリウム冷却材でよいのかを議論するに当たっては、外国がこうであったからという議論ではなく、エンジニアリング上の経験の蓄積が必要であり、そのためのプロセスとして「もんじゅ」が必要という主張は理由のすり替えではない。
- 「もんじゅ」には多数のコンポーネントがあり、それらのトラブルで頻繁に停止することも予想される。しかし、ナトリウムに慣れていくことは必要で、「もんじゅ」で経験を蓄積することが、工学者の道であり、やらなければいけない。これは冷却材を鉛とした場合にもあてはまる。
- 実用段階というのは、電力会社が2つ以上原子炉を作る段階だと思う。「もんじゅ」は早く動かした方がよい。但し、「もんじゅ」の延長線上に実用化がないのなら、途中で方向を切り替える必要がある。「もんじゅ」を動かす場合のメリットとデメリットについて、比較し、地元に示すべき。
- 「むつ」には1000億を費やし、実験航海までやったが、「もんじゅ」に6000億を費やした以上、何らかの形で活用すべき。
- 6000億円かけたから動かすべきと言うが、福井では合意ができていない。メリット、デメリットの議論をすることには賛成であり、それを踏まえて地元合意を作って欲しい
- 「もんじゅ」については泥沼化して、さらに膨大な予算を費やすこともあり得る。
- 「もんじゅ」の再開について、専門家に加え、1/2か1/3ぐらい素人を入れた場で議論を行うべき。
- 「もんじゅ」の再開には反対。炉心崩壊事故や蒸気発生器伝熱管の高温破断の危険性が否定できない。
- どのような原子炉でもいろいろな仮定を置いていけば、炉心溶融の可能性はある。
- 「もんじゅ」は、現に動いており、年間100億の運転、保修費がかかっている。これだけの税金を使うことについては、国民に対して責任が生じており、早期運転再開が当然である。
- 「もんじゅ」は、燃料を取り出し、ナトリウムを抜き取れば、100億円はかからず、その上で判断すべきである。
- 「もんじゅ」では、放射性物質が漏れた訳ではない。ただ、地元に「ナトリウムは漏れません」と説明したのは、適切ではなかった。今後は「何度か漏れることもあり得ます」と説明しないといけない。ただ、地元の賛成をいただくことは、選挙との兼ね合いもあり、技術開発とは別の次元の問題となってしまっている。
- 漏出したのは二次系ナトリウムであるが、放射性トリチウムが含まれているので、放射性物質が漏れていないということには異論がある。
- 「もんじゅ」の2次系配管から漏えいしたナトリウムにはトリチウムが含まれていた。これは、燃料中で発生したトリチウムの一部がステンレスの被覆管を通り、熱交換器を通って2次系ナトリウムに入ったもの。建屋内の床面の他、エアロゾルとなって外に出たものがあるが、周辺環境におけるトリチウム量は平常時と変わりなかった。
- 「もんじゅ」の安全評価に当たっては、独国のカルカー炉の場合のように、批判的な立場の研究者にも参画させるべきである。
●再処理について
- 米国で研究が進められている核兵器に転用しにくい乾式再処理について、日本で十分な議論がなされていない。
- 乾式再処理でもFPの中にアクチノイドが入ってきている。系外に放射性毒性を出さないという目標の達成は難しい。
- プルトニウムは高速炉用に取っておくべき。そのため再処理は遅らすべきである。
- 再処理について「高速炉が実用化するまで待つ」という考え方では、技術は進歩しない。ABWRの開発に20年かかったことも踏まえ、技術開発を通じて経験を踏むことが必要。
●サイクル機構について
- 原子力安全委員会や原子力委員会では、報告書をまとめるに当たって国民の意見を聴いているのに、サイクル機構の中長期事業計画ではそれをしていない。乾式再処理や高速炉の炉型についても、多様に進めるとされているのに、現場では「もんじゅ」の路線を進めるという談話を出すなど、サイクル機構の意志統一が図られていない。
- サイクル機構の運営審議会は、外部からいろいろな意見を申すところで、オーソライズする機関ではない。サイクル機構を作ったときに法律で中長期事業計画を策定することが決められている。
- 旧動燃が硬直化してしまったのは、必ずしも彼らだけの責任ではなく、開発計画そのものが硬直的であったことに責任がある。また、「常陽」の無事故運転や「ふげん」のプルトニウム燃焼実績など、成果を上げている面にも目を向ける必要がある。
- 国民の信頼が得られない原因は、情報の発信源が1カ所であることである。基礎的研究を大学等で広く行い、サイクル機構の主張に誤りがあれば指摘できるようにするべきである。
- 高速炉開発の停滞が旧動燃だけの責任でないことはわかるが、ナトリウム漏出の対応等を見れば、基本的に開発のために必要な能力を備えていないといえる。
●その他
- 日本の原子力の使い方には、世界のウラン市場など外部の状況の変化を安定させるようなものとしていくことがふさわしい。
- 日本にとってどんなに大事なことでも、地元が決定権を握っており、了承が得られないと先に進まない。
- 核燃料サイクルについて、複数の選択肢がもっと早く国民に提示され、平易な言葉で説明されていたら、今とは変わっていたと思う。原子力がいつのまにか国民のお荷物になってしまった。この円卓会議のように、その時々で十分に議論していくべきだった。
● | 本資料は原子力政策円卓会議事務局の責任で作成したものであり、速報版のため内容に不十分な点が含まれ得ますことを、あらかじめお断りいたします。
| ● | 詳細な議事録につきましては、発言者の校正・確認を経た後、速やかに公開致します。
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