第5回原子力政策円卓会議 「テーマ:原子力の運営体制のあり方について(2)」 発言要旨資料「原子力委員会への提言(吉岡案)」
平成11年1月21日
吉岡 斉

平成10年度原子力政策円卓会議は、平成10年9月から11年1月にかけて、5回にわたり会議を開催した。年度末に当たり、本年度の円卓会議で出されたさまざまの意見を、モデレーターの責任で集約し、以下の6点を原子力委員会に提言する。原子力委員会は、この提言を真摯に受け止め、今後の政策に反映させていただきたい。

1. 原子力政策円卓会議の常設化
原子力政策に対して、国民各界各層の意見を反映させる上で、原子力政策円卓会議の果たしうる役割は貴重なものであり、その常設化が望ましい。
もとより原子力政策の意思決定手続きの民主化は、あらゆる面で推進されるべきものである。とくに重要なのは、政府審議会(原子力委員会では、専門部会・懇談会等)の民主化の推進である。その人選を公正なものとすること(人選過程の透明化、当該分野に関して政策的見識をもつ適任者の選任、賛否のバランスのとれたメンバー構成など)、委員が主導的役割を果たすようにすること、裁判形式の公聴会の開催や、直接民主主義的手法の導入などにより、審議会決定に国民意見を反映させやすくすること、等が必要である。
そうした改革と並行して、原子力政策円卓会議を、原子力政策改革のアジェンダ発掘・開発機能を担うものとして、常設化することが望ましい。その開催の頻度は、年5回程度では少なすぎるので、月1回程度とする。 なお議長団(モデレーター)の人選については、年度ごとに見直すものとする。原子力開発利用の関係者(第一者)を外すとともに、原子力発電に対して賛成・反対の立場に立つものが一致して妥当と認めるような、バランスの取れたメンバー構成とすることがのぞまれる。

2. 原子力開発利用路線のあり方に関する全国民的な討論の場の組織化
もんじゅ事故から3年が過ぎた。事故の衝撃がさめやらない時期には、原子力開発利用路線の今までの在り方について、抜本的に再検討すべきだとする意見が、数多く出された。しかしながら、十分な国民的議論がなされないまま、なしくずしに原状復帰が図られていったという印象を、われわれは抱かざるをえない。それは原子力発電の推進政策全般についても、核燃料サイクル政策についても、言えることである。いま必要なのは、きちんとした国民的議論の場を組織し、そこで従来の政策の公共利益にとっての合理性を、詳細に検討することである。それは原子力政策円卓会議のような簡易仕立ての場では、不可能である。(実際、96年の円卓会議の場でも、各自が意見を吐露して議論が平行線を辿るという結果になってしまった。)円卓会議の果たしうる役割は、アジェンダ発掘・開発機能にとどまる。内容上の本格的検討のためには、新たな場を設定する必要がある。
そこでは、次のような事柄が主な検討対象となる。
(1) 電力供給路線における軽水炉拡大オプションの合理性(「総合評価」の方法論、つまり有力と考えられる全ての政策オプションを列挙し、それらの利点と欠点を総合的に検討し、最後に最前の政策オプションの実施を勧告する方法論の見地から、「原発のみを拡大し、他の全てを抑制する」という現在の政策オプションの合理性を、他の有力なオプション全てと比較して、検証する。)
(2) 商業用原子力発電における使用済核燃料の直接処分オプションと、再処理オプションの合理性の比較(今までの政策は、再処理オプションのみを考慮していた。これは妥当ではありえない。2つのオプション双方に研究開発費を出し、一定期間後に二者択一又は併用の結論を出す、といった程度の改革は必要)。
(3) プルサーマル路線の妥当性(すでに発生したプルトニウムに関する)。
(4) エネルギー研究開発における、核燃料サイクルに関する研究開発への合理的な投資規模(総合評価の見地を全面に出して、再生可能エネルギー開発など、他の開発計画と同等の資格で、新たに優先順位を付け直す必要がある)。
これらの諸問題について、政策当事者が現在の政策の合理性に関する詳細なレポートを準備し、それをたたき台として、本格的な国民的討論が行われるよう、期待する。

3. 中央政府の原子力政策システムを抜本的に見直すための新たな懇談会の設置
本年度(平成10年度)の円卓会議の席上、もっとも頻繁に出された論点は、強すぎる中央政府の権限を、抜本的に見直す必要があるという論点だった。ここで強すぎる中央政府の権限については、次の3つの側面に分けて考えることができる。 (1) 国会等の他の権力機構によるチェックアンドバランス機能が障害を起こしている。国会は立法機能に関しても、予算編成機能に関しても、イニシアチブを発揮できていない。裁判所の独自の判断能力も障害を起こしている。 (2) 州政府や地方政府に大きな許認可権が付与されていることが多い欧米諸国とは根本的に異なり、日本では地方自治体の権限は皆無に近いものであった。都道府県と関係市町村の同意を、原子炉等規制法上の許認可要件とし、各種協定の法的な効力を明確化せよとの議論がなされている。
(3) 「国策」――原子力委員会の原子力開発利用長期計画(長計)をはじめとする一連の決定、通産省総合エネルギー調査会の一連の決定、電源開発調整審議会の電源開発基本計画、など――によって、原子力開発利用の世界が覆い尽くされ、それが民間企業をも拘束してきた。一電力会社の一発電所の建設計画でさえ、国策によってオーソライズされてきた。政府の役割は、推進に関しては、基礎的な研究開発と、間接的手法での政策的誘導にとどめ、主として(安全性、核不拡散等に関する)規制業務を担当するようになるべきであるとも指摘されている。
こうした中央政府の強すぎる権限の弊害と同時に、中央政府における推進機能と規制機能の未分化についても、その改善を求める意見が、本円卓会議では多く出された。こうした中央政府の原子力政策システムの諸問題について包括的に再検討を行う懇談会を設置して検討を進めさせ、改革提言を出させることが強く望まれる。
本円卓会議は、原子力政策改革のアジェンダ発掘・開発機能を担うものであり、新しい審議会設置の提言を行うことは、本円卓会議の中心的機能である。その意味でも、この勧告の真摯な検討を原子力委員会に対して要望する。
なお、この懇談会をどこに設置するかについては、首相直属とするか、それとも他の設置形態にするかについて、さらに検討を進める必要がある。

4. 原子力委員会のあり方の抜本的な見直し
本円卓会議では、原子力委員会のあり方について、多くの疑問が提出された。その最も重要な論点は、原子力政策をエネルギー政策全体とは別枠のものとして企画立案することの妥当性である(そうしたシステムの下では、原子力だけの予算枠が特別に確保され、しかもそれが極端に優遇されてきた)。
モデレーター会議の結論は、原子力を他のエネルギーとは別枠のものとしてではなく、エネルギーの一環として扱うことができるよう、システムを改めるべきであるというものである。それにともない、高速増殖炉やその使用済核燃料の再処理などの開発途上技術に関しては、再生可能エネルギーなどと同じ枠の中で、競争的な形で資金が配分されることとなるのは言うまでもない。
原子力政策を別枠として取り扱う今までの方式を廃止する以上、原子力委員会は抜本的な改組が必要となる。その具体的方策の検討を、上記の懇談会で進めさせる必要がある。因みに本円卓会議では複数の招聘人から、原子力委員会を総合エネルギー委員会(仮称)へと発展的に改組することが妥当である、という意見が提出された。その意見によれば、すでに類似の機関として、通産省の総合エネルギー調査会があるが、エネルギー政策は世界平和の確保、国民の生命・健康の維持、環境保護など総合的な政策判断は必要な分野であり、そこにおいて経済や産業の発展という観点が優遇されるのは妥当ではない。従って、既存の総合エネルギー調査会を廃止し、より総合的・民主的な機関として、総合エネルギー委員会(仮称)を設置する必要がある。
他の具体的提案としては、今までの原子力政策では必ずしも重視されていなかった高い立場からのシンクタンク的機能の強化や、政策アセスメント機能の強化などが、招聘人から意見として出された。また、原子力委員会廃止という意見も出された。これらの意見を考慮しつつ、上記の懇談会で、原子力委員会の改組のための具体的検討を行わせる必要がある。

5. 原子力開発利用長期計画の役割と内容に関する、第三者評価の実施と、それに対する国民意見の反映
原子力開発利用長期計画は今まで8回策定されてきた(1956、1961、1967、1972、1978、1982、1987、1994)。99年から、8回目の改定作業(9回目の策定作業)が始まる。しかし、この制度が作られてから40年あまり、その在り方に関する基本的な見直しの必要性が提起されたことは一度もなかった。(なお、同様のことは総合エネルギー調査会の需給見通しについても成り立つ。石油危機の際に作られたルールが今もなお健在である。)
原子力開発利用長期計画については、その役割と内容の抜本的な見直しが必要である。もちろんそれは長期計画の改定作業が始まってからでは遅すぎる。長期計画の役割と内容に関する、中立的・専門的な立場からの第三者評価が必要である。そこでは最低限、次の4点を再検討すべきである。
(1) 長期計画の対象(政府事業のみにとどめるべき)。
(2) 委員選考と運営方法(事務局の役割も含めた民主的な見通しが必要)。
(3) 政策判断の方法論(公共利益の実現が目標なのだから、開発利用推進を前提とせず、全てのフィージブルな選択肢を立てた中立的・科学的な方法論を取るべき)。
(4) タイムテーブル設定の方法論(将来に関して、いたずらに希望的観測に依存したビジョンが示されてきたのは無責任。二度と非現実的な計画とならぬよう)。
なお、問題の重要性に鑑みれば、この第三者評価においては、国民意見反映のための十分な手だてを講ずるのが妥当である。 総合エネルギー調査会の長期エネルギー需給見通しについても、同様の第三者評価が必要であることは、言うまでもない。

6. エネルギー政策および原子力政策に関する政策研究の振興
今まで、エネルギー政策および(その重要な一環としての)原子力政策に関する研究は、残念ながら活発ではなかった。多様な立場からの政策研究が活発に行われ、そうした政策研究を足場とした政策論争が活発に展開されることが、より良い日本のエネルギー政策および原子力政策を打ち立てていく上で、重要である。「公共利益」に叶った政策を構築するための最重要の必要条件は、原子力政策に関する民主主義的討論を活性化することである。そして実りある民主主義的討論を実現するためには、多様な立場に立ったアドヴォカシー集団が成長することが不可欠である。
それは本質的に、民間の努力によって進められるべきものであるが、政府もその支援のための努力を惜しむべきではない。つまり、民間団体の活動に物質的便宜を与え、その活動を政策に反映させる機会を保障するよう、最大限の努力をすべきである。たとえば、ある分野の政策の立案に際しては必ずさまざまの立場(中立的立場、批判的立場を含む)の団体からレポートの提出を求めたり、市民的立場の調査研究に対する助成制度を構築したりするなどの具体的方策が考えられる。
そうした具体的方策を実現するための検討を、原子力委員会において進めることを、強く要望する。

以上