1998.12.21
文責 原子力政策円卓会議事務局
第4回 原子力政策円卓会議 議事速報
1.開催日時:1998年12月17日(木) 14:00〜17:30
2.開催場所:ハービスOSAKA ハービスHALL(大阪府大阪市北区梅田2-5-25)
3.議題:「原子力の運営体制のあり方について(1)」
4.出席者:
モデレーター
石川 迪夫 原子力発電技術機構特別顧問(司会)
小沢 遼子 社会評論家
茅 陽一 慶應義塾大学教授(副司会)
中島 篤之助 元中央大学教授
オブザーバー
木元 教子 原子力委員会委員
招へい者
井上 チイ子 生活情報評論家(社団 女性職能集団WARP理事長)
近藤 駿介 東京大学教授(大学院工学系研究科システム量子工学専攻)
鳥井 弘之 日本経済新聞論説委員
中村 融 核勉強会 講師
吉岡 斉 九州大学大学院比較社会文化研究教授
吉村 清 高速増殖炉など建設に反対する敦賀市民の会 代表委員
(敬称略 50音順)
5.議事の概要
- 茅モデレータより前回傍聴者意見を紹介
- 今回の円卓会議司会:石川、副司会:茅。
- 招へい者6人が10〜15分程度のプレゼンテーションを行った後に、自由討論
6.発言要旨
○司会より、スケジュールの確認、今回の円卓会議のテーマの紹介
○引き続き司会より現在の原子力関連の組織・体制について説明
○招へい者からのプレゼンテーション
吉岡 斉
- 歴史的な観点から原子力の運営体制について各時点で最前の判断がなされたか考察(歴史的アセスメント)を行うことが重要。
- もんじゅ事故以降の経過を見ると、当初、原子力政策を見直せという議論があったが、国民による議論のないまま「現状復帰」が進んでおり、もっと民主的に進められるべきである。1975年に設置された「原子力行政懇談会」のような首相の諮問機関を作るべき。
- 原子力開発利用長期計画(以下、「長計」)については、その在り方に関する基本的な見直しがなされてこなかった。「長計の対象」、「委員選考と運営方法」、「政策判断の客観的方法論」、「タイムテーブル設定の方法論」について再検討が必要。
井上 チイ子
- "暮らし"について様々な事を考える勉強会を開いている。阪神・淡路大震災を契機にエネルギーを始めとしたライフラインの重要性を痛感し、また、大阪は電気に関して福井に対して大きく依存していることを知った。
- 大阪(消費地)と福井(生産地)の主婦で討論会を開いたが、双方の住民の間、さらには生産地の中でも住民の間に温度差があることに驚いた。
- 消費地側住民の生産地側住民に対する無意識、無知の怖さがあるが、「知らない」ではすまされないのではないか。もっと両者の対話が必要。
近藤 駿介
- 目に見える議会による統制(国会による行政事務の統制)、行政行為の正当化手続きの充実、計画の変更に対する説明責任が不十分。
- 安全規制行政について規制性能を測る基準と目標を議会が示すこと、規制の決定過程における透明性の確保と情報交流、効果的な規制の推進の方法と体制、原子力安全委員会に対する新しい使命の必要性等が問題。
- 原子力産業活動に関して、発電方式・設備の合理性、安全の確保と信頼を得る努力、高レベル放射性廃棄物の処分問題がある。
鳥井 弘之
- 長計は社会経済情勢の変化、技術の進展に追いついていない。また、単に予算を保証するためのものになっている。
- 研究開発には試行錯誤が重要であり、様々なアイデアについて、段階的なチェック・アンド・レビューが行われることが必要。また、長計はビジョンを示す程度でいいのではないか。
- 今後の原子力は日本だけでなく、アジア全体へのエネルギーの安定供給も考慮すべき。そのことが日本の安全保障にも繋がり、原子力委員会ではこのような戦略を持って検討していくことが必要。
- 安全委員会については個別の事業についてのみ規制するのではなく、安全についてより包括的に考えるようにすることが必要。
中村 融
- これまでの原子力の体制には批判的であるが、原子力エネルギーの有効利用を否定するものではない。
- 原子力政策は原子力委員会ではなく、国権の最高機関である国会に原子力特別委員会を作り、集中的な論議を行うべき。
- 原子力はなかなか市民には理解が難しい問題と考えられがちだが、やり方次第では理解できるのではないか。その工夫が必要。
- 情報公開についてはまだ不十分であり、第三者による情報の公開の仕組が必要。
- プルサーマル計画は少なくとも1年くらいは猶予期間をおいて、慎重に進めるべき。
吉村 清
- 1994年の長計では新型転換炉の実証炉について記述されたが、1年後には撤退した。原子力委員会は単に産業界の追認をしただけで存在意義がない。
- 高速増殖炉は長計の目玉であるが、反対署名も集まっており、核不拡散上も問題であるので見直すべき。
- 原子力安全委員会のダブルチェックは形骸化しており、規制を一元化して、米国のNRCのような安全と規制を行う機関を設けるべき。
- 放射性廃棄物の問題は一番大きな問題であり、先送りすることなく、早急に対応すべき。
《休憩》
○自由討議
以降の自由討議での発言については以下の枠組みで整理した。この枠組みは、一昨年度行われた原子力政策円卓会議での経緯も踏まえて、我が国における原子力政策のあり方に関する議論について、その共通の土俵とするために設定したものである。
議論1:エネルギーの中の原子力のあり方に関する議論
我が国としての原子力の選択に関する基本的なテーマである。ここでの議論は主として、社会経済要因と安全要因に関するものとなる。これらを通じて一義的には国としての方向性を考えることになる。
議論2:運営システム/情報開示に関する議論
具体的な原子力開発・利用にあたっての運営と国民的コンセンサスを得るための手続き(情報開示等)に関するテーマである。情報開示の内容については、安全性に関するものが主であり、これに運営システムについての内容が含まれる。
議論3:立地のあり方に関する議論
原子力施設の立地に関する経済的利益と安心感を含む住民感情等、地域住民の選択のプロセスに関するものである。
1.原子力の運営体制のあり方
●原子力委員会について
- 民主主義は議会を通じてが基本であるが、原子力に関する国民の合意形成は、国会の附帯決議等で行政に任されている。本来は国会は自ら頑張ってやるべき。
- 現在は、行政が優位であり、国会はほとんど原子力について影響力を持っていない。国会に、例えば原子力特別委員会のようなものを置いて、国民の意見を聞きながら進めてはどうか。
- 現在の国会の状況を見る限り、国会に新たな組織を設けても機能しないのではないか。
- 根本的かつ基本的な変革が必要。例えば原子力基本法は、ひたすら推進をうたっている。精神は、民主、自主、公開とあるが、条文では必ずしも明確に規定されておらず、基本法から議論すべき。また、原子力委員会は廃止すべき。
- 原子力委員会についての歴史的な最大の問題は何もしなかったことである。イニシアチブを発揮しなかった。
- 原子力委員会の議論のプロセスや活動が国民から見え、理解してもらえるような工夫が重要。
- 新型転換炉からの撤退は産業界主導で、原子力委員会はそれを追認したのみであり、存在意義がない。三法交付金制度を一旦やめて地域全体の産業基盤や生活基盤を上げる交付金とするというようなことを考えるのが原子力委員会の役目。金をばらまく政策をやめて、原子力委員会は廃棄物、廃炉対策、使用済燃料に重点を置いていくべき。軽水炉が成熟しているのなら、手厚い保護はいらない。
- 原子力委員会は独自の高い立場・次元から権限を示すべきであるが、原子力はエネルギーとして特別ではなく、他の産業と同じであり、細かい方針を示す必要はなく、アセスメント機能を担うべき。
- 原子力だけだと間口が狭い。エネルギー全体を見るような委員会の場を作るべき。
- 原子力委員会では、エネルギー問題だけではなく、放射線利用などの広い分野について議論している。各省にまたがる領域を統合して判断し、ものを言うには、少なくとも5人の見識を持った人が必要。原子力委員会については、内閣府に移った後に十分な機能が果たせるよう運営の改革を行い、国民に見えるようにしていくことが重要。
- 石油危機を契機にエネルギーが国策化され、総合エネルギー調査会が力を持った。総合エネルギー調査会は通産省が仕切っており、インサイダーに任せるのはよくない。中央官庁から独立した高いレベルの組織が必要。
- 内閣府に置かれる原子力委員会では、今までよりも高い見地に立つ必要があり、新しい風を吹き込んで機能を充実させていきたい。インド、パキスタンの核実験の際に、行政として言いにくいことでも原子力委員会は国民の立場を代表して声明を出すことができた。
- 委員会は行政組織の中で専門性、長期性のある事項を扱うために設置されているが、現在なぜ原子力について委員会形式で扱う必要があるのか考える必要がある。
- 多様な立場からの調査研究、例えば批判的立場の研究にもお金をつけるべきと考えている。原子力委員会の企画、立案機能の強化ということには賛成。その一環として東アジア地域への協力というようなことを議論して、提言すればよい。科技庁や通産省に対するイニシアチブが重要であり、原子力委員会が官僚から離れて内閣府に置かれるということは、メリットがあると期待。
- 12/15付の原子力委員会の資料(「省庁再編後における原子力委員会の在り方」)において、強化を訴えるだけでは国民は納得しない。過去に対する反省を明確に記述すべき。
- 従来の長計、原子力委員会等の歴史的アセスメントが必要。ただし、内部による自己評価は無理であり、外部の第三者による評価が必要。
- 政策評価を行うことは重要であり、科学技術政策研究所のような機関で第三者が実施すべきではないか。
- 組織の在り方を考える際には、一般市民の視点も必要。
- 原子力委員会のプレス発表は科学技術庁の記者クラブで行われているが、地方でも同様の情報を流してほしい。
●原子力開発利用長期計画について
- 誰でも使えるぐらい安全性が高く、経済的変動に対応しやすい原子炉をアジアに輸出できれば、アジアの安全保障につながる。このような世界戦略を持って技術目標を立てるべき。
- 東アジアに原発を輸出して運転するのは、日本におけるよりも安全性が危惧される。ドイツの社民党と緑の党との政策協定では、原子力発電には予測不可能な災害を起こすリスクがあるとしている。また、炉型も色々あるので、多様な選択肢を持つことが必要。
- 長計の議論の中で、多様な技術について議論されているが、それが外から見えていないことが問題。軽水炉の確立に長期間を要したのに、他の原子炉をさらに国の予算で開発すべきかという議論がある。今後は産業界にまかせていくのが筋。
- 長計については、硬直的にならないよう柔軟性を持たせ、核燃料サイクルについても国民の意見を聞く必要がある。
●原子力安全委員会について
- 安全委員会は独自の調査能力がなく、基本設計のみに関与しており、現在のダブルチェックはナンセンスである。原子力行政懇談会の報告書では、規制と推進を分離し、行政庁から独立した機関が必要との考えが示されたが、現在の弱体な組織ではだめであり、安全委員会が米国のNRC的な強力な組織になることを目指すべきである。
- 1次審査をやめて、2次審査を徹底的にやるべき。安全委員会を三条委員会化し、原研の支援等を通じて、その機能を強化すべき。
- 安全委員会のダブルチェックは形骸化しており、安全委員会による一本の審査でよい。もんじゅ事故の報告書が、動燃、科技庁、安全委員会からそれぞれ出されたが一本化する方が国民にわかり易く、信頼される。
2.その他
●電源立地地域v.s.消費地の問題
- 地域振興とは電源三法で行うものではない。全国規模の国土開発の一環として行うべき。
- 電源特会のみでなく、電気料金制度などにより、利益と負担の公平性を確保することが考えられる。最低限の生活水準以上の公益のために特定財源を用意するのは正しい。
- 教育、生涯学習、正確な情報伝達等により一般市民の知識レベルを底上げすることは可能であり、それにより生産地と消費地、専門家と一般人などの意識のギャップを埋めることができる。
●円卓会議のあり方、議論の進め方について
- このような円卓で議論を行うことは評価できる。しかし、原子力に関しては情報が一方通行の面がまだまだ多く、今後変えてゆくべき。
●その他
- ウソ、情報隠し、事故などにより、原子力発電所が迷惑施設と考えられるようになってしまった。また、当初原発の寿命が20年といっていたのが、部品の交換等によりどうして60年に延びるのか。正確な情報を役所、電力会社から出してほしい。
- 今まで説明が足りなかったため、不信感が生まれたのかも知れない。きちんとしたデータの提供が必要。また、未来の予測には不確実性がつきものだが、計画を変更した時点で十分な説明が必要。
- 市民側から、どの程度のリスクならば十分安全と考えるのかを逆に提示することが必要ではないか。
- 議論をしていても互いの根拠とするデータが異なる点が問題となることが多いことからデータは検証可能なものでなければならない。しかし現状の公開データだけでの検証は無理である。
●本資料は原子力政策円卓会議事務局の責任で作成したものであり、速報版のため内容に不十分な点が含まれ得ますことを、あらかじめお断りします。
●詳細な議事録につきましては、発言者の校正・確認を経た後、速やかに公開致します。