第4回原子力政策円卓会議「テーマ:原子力の運営体制のあり方について(1)」
発言要旨資料「原子力開発利用の政策決定体制の歴史的アセスメント」

平成10年12月17日
吉岡 斉
1. 原子力政策の歴史的アセスメントへ向けて
私は第1回会議で、原子力政策の問題点を洗いざらい総点検し、できるだけ多くの具体的な改革提言を出すことが、この会議の責務であるとの考えを述べた。さらに、それらの問題点の多くは、歴史的観点から捉えることによってはじめて、明確に浮かび上がるので、歴史的アプローチを重視したいとの考えを述べた。これと同様の考えを、深海博明招聘人も述べた。(「原点に立ち戻っての再検討」「原子力の光から影への現実的転換の実態と要因の明確な分析を踏まえての原子力政策の再構築」)。 残念ながら、議事録を見るかぎり、そうした観点に立って議論が深められた形跡は、認められない。そこで、「歴史的アセスメントにもとづいて原子力政策の改革に関する具体的提言を行う」ための議論を始めることを、提唱したい。

2. 歴史的アセスメントとは何か
歴史的アセスメントの眼目は、過去半世紀近くにわたる歴史の中で、原子力政策がどのように間違ったか、なぜ間違ったか、いかに間違いを改めたかを、解明することである。それは歴史の各時点において、「公共利益」(PUBLIC INTEREST)からみて最善の決定がなされてきたか否かを問うものである。
ここで重要なことは、現在の高みから過去の政策判断(たとえば過去の8次にわたる原子力開発利用長期計画)を裁くのでは決してないということである。各時点において発揮しえた最善の知恵に照らして、それぞれの時代の政策判断を、評価するのである。 なお現在の政策も、当然歴史的アセスメントの対象となる。つまり現時点において、発揮しえた最善の知恵に照らして、最善の判断がなされているかどかが問われる。この点において歴史的アセスメントは、方法論としての普遍性を主張しうる。 ところで、最善の政策判断がなされたことを立証しなければならないという点に関しては、政策立案当事者の立場は、きわめて悪い。なぜなら合理主義的に判断したのだという証拠が、残っていないからである。答申問うの文書を読んでも、作文しか載っておらず、それを文面で評価するかぎり、非合理主義的な判断をしたという結論を出さざるを得ないケースが多い。それについてはオーラルヒストリーなどの手法で補う必要がある。
ただしもちろん、行政機関のアカウンタビリティーを厳しく詮索する習慣が確立している現在(及び将来)に関しては、最善の合理主義的判断が下されたことを、公開資料のみにもとづいて立証しなければならなくなっている。 これから、歴史的アセスメントを加えるべき主題を、2点のみ例示したい。なお、他にも取り上げるべき多くの主題があるが、時間の都合で割愛する。討論の中で時間があれば、今回および次回において、追加的な提案を行いたい。

3. もんじゅ事故以後の行政改革・政策改革プロセスの歴史的アセスメント
もんじゅ事故から3年が過ぎた。この間、原子力開発利用路線の今までの在り方と、原子力開発利用体制(とくに政策決定体制)の今までの在り方に関して、さまざまの意見が噴出した。その多くは、改革の必要性を唱えるものであった。そして現在までに、一定の改革が実現をみた(当円卓会議の設置は、そのひとつに数えられる)。
しかしながら、行政改革・政策改革の在り方について、徹底した議論がなされたかといえば、答えはNOである。路線論については、(一部の領域をのぞいて)なしくずしに原状復帰が図られたという印象である。体制論についても、包括的な改革について論議するための場さえ、作られなかった。その一方で、国民の頭ごなしの行政改革構想が進められた(行政改革会議以降、政府・官庁手動のペースで密室的に)。この間の主なエピソードを列挙する。

総合エネルギー調査会原子力部会報告書」(1997年1月20日)
「当面の核燃料サイクルの具体的施策について」(97年2月4日閣議了解)
動燃改革検討委員会報告書(97年8月1日)
高速増殖炉懇談会報告書(97年12月1日)
行政改革会議最終報告(97年12月3日)
新法人作業部会報告書(97年12月9日)
動力炉・核燃料開発事業団法改正案可決成立(98年5月13日)
通産省総合エネルギー調査会需要部会中間報告(98年6月11日)
原子力政策新円卓会議の設置(98年7月14日)
核燃料サイクル開発機構発足(98年10月1日)
原子力開発利用長期計画の改訂作業(99年〜)

ともあれ、原子力行政・原子力政策に関する抜本的な再検討が、今日に至るまで不発にとどまっているのは、この間の行政民主化(原子力分野のみに限らない)の世論の高まりから考えて、理解しがたいところである。ぜひ初心に立ち返ってそれを行う必要がある。なお行政システム改革に関しては、1975年の原子力行政懇談会――首相の諮問機関、有沢広巳会長、12月に報告書提出――と同様の、首相レベルの審議会を設置して、徹底的な議論を行う必要がある。その際、より民主的な運営方法を取るべきである。

4. 原子力開発利用長期計画の歴史的アセスメント
原子力開発利用長期計画は今まで8回策定されてきた(1956、61、67,72,78,82,87,94)。99年から、8回目の改訂作業(9回目の策定作業)が始まると聞く。しかし、この制度が作られてから40年あまり、そのあり方に関する基本的な見直しの必要性が提起されたことは、私の知る限りでは一度もなかった。その事自体が歴史的アセスメントの興味深い対象テーマである(同様のことは総合エネルギー調査会の長期需要見通しについても成り立つ。石油危機の際に作られたルールが今も健在)。
原子力開発利用長期計画については、次の4つの点に関する見直しが必要である。もちろんそれは長期計画の改訂作業が始まってからでは遅すぎる。長期計画懇談会のようなものを設置するのが妥当であろう。そこでは最低限、次の4点を再検討する。
(1) 長期計画の対象(政府事業のみにとどめるべき)。
(2) 委員選考と運営方法(事務局の役割も含めた民主的な見直しが必要)。
(3) 政策判断の方法論(公共利益の実現が目標なのだから、開発利用推進を前提とせず、全てのフィージブルな選択肢を立てた中立的・科学的な方法論を取るべき)。
(4) タイムテーブル設定の方法論(将来に関して、いたずらに希望的観測に依存したビジョンが示されてきたのは無責任。二度と非現実的な計画とならぬよう)。