自由討議
以降の自由討議での発言については以下の枠組みで整理した。この枠組みは、一昨年度行われた原子力政策円卓会議での経緯も踏まえて、我が国における原子力政策のあり方に関する議論について、その共通の土俵とするために設定したものである。
また、自由討議ではこれらの枠組み以外でも円卓会議の運営そのものに関する発言も出されたため、それらについては別の項目で整理した。
議論1:エネルギーの中の原子力のあり方に関する議論
我が国としての原子力の選択に関する基本的なテーマである。ここでの議論は主として、社会経済要因と案全要因に関するものとなる。これらを通じて一義的には国としての方向性を考えることになる。
議論2:運営システム/情報開示に関する議論
具体的な原子力開発・利用にあたっての運営と国民的コンセンサスを得るための手続き(情報開示等)に関するテーマである。情報開示の内容については、安全性に関するものが主であり、これに運営システムについての内容が含まれる。
議論3:立地のあり方に関する議論
原子力施設の立地に関する経済的利益と安心感を含む住民感情等、地域住民の選択のプロセスに関するものである。
1. 原子力政策について
1.1. 議論1:エネルギーの中の原子力のあり方に関する議論
1.1.1. 社会経済要因
- 政府の2010年までの見通しでは、2%の経済成長、原子力モラトリアムを前提とすれば、2.7%の省エネルギーが必要とされている。因みに、年間約2.7%の省エネルギーというのは、世界で最も省エネルギー化が進んだ石油危機直後の日本の省エネルギー率を越える値であり、このような省エネルギー化を進めるのは困難である。どうすべきか?(経済成長2%を止める or 2.7%の省エネルギーを実行する→大型自動車への高額課税、都市への乗り入れ規制、炭素税等?)
- 成長経済か安定化経済か
- そもそも政府の掲げる前提でエネルギー消費が将来も増加するとしていることが、問題だ。
- エネルギー多消費型のライフスタイルの変更が必要だ。
- 政府見通しの前提である経済成長2%は現実的でなく、かなり達成が困難な数字。
- 昨年の総理府の世論調査では、8割程度が生活水準は現状あるいは以前の生活水準で良いと言っている。つまりエネルギー需要は抑制の方向で考えても良いのではないか。
- “生活水準を以前に戻しても良い”と言っているのは、年齢の高い層ではないか。若年層は異なると思われる。過去を知らない若者に省エネ社会を作らせるのは容易でない。
- 経済成長とエネルギー需要の伸びは同値ではない。経済とエネルギーのあり方の議論が必要。
- 政府見通しは、需要横這いの前提に基づくものであり、経済成長2%が出発点ではない。成長率が低いと、失業・年金の問題が出てくる。
- 物の豊富さと、生活の豊かさは異なる。省資源・省エネを行いつつ、生活を豊かにすべきであり、経済成長と豊かさをリンクさせるのは時代おくれである。
- 現代の若者にとってエネルギーを大量に消費するのが当然であり、従来の生活を続ければ、今後ますますエネルギーは必要になる。
- 再生可能エネルギー利用の可能性
- 現在は、まだ新エネルギーのみで原子力には代われないという視点から議論すべきである。
- 日本の原子力推進政策そのものが再生可能エネルギーの開発を阻害していると思う。その結果、再生可能エネルギーの導入に関して、日本はヨーロッパ諸国に対して大きな差ができてしまったのではないか。
- 再生可能エネルギーは稼働率が低く、大きな設置規模が確保されてもエネルギー供給に対する寄与は小さなものに止まると考えられる。(再生可能エネルギーには)期待すべきだし、大いに推進すべきではあるが、2050年まで見越してもエネルギー供給に占める割合は小さいのではないか。
- 政府は過去に再生可能エネルギーの導入目標を5%から3%に下げたことがあり、努力不足である。一般市民の初期投資負担を減らせるような抜本的な政策を導入すべきである。
- 再生エネルギーの導入が進んでいる国々では政策的にもその後押しをしてきた。日本はそのことから学び、それ以上の対策を付けて再生可能エネルギーの普及に努めるべきである。
- 再生可能エネルギーに大きなシェアは期待できないというが、本気で取り組んだ場合、何%まで導入可能なのか?
- 例えば、バイオマスは太陽光からの変換効率は最大で1%程度しかない。エネルギーの特性も踏まえたポテンシャルは、太陽光の場合、一次エネルギー供給の1%をカバーできれば成功であろう。
- 環境保全性(省エネ、CO2削減方策のあり方)
- 政策的に実行手法を考えれば、多様な方法があり得る。炭素税について言えば、税徴収対象のシフト、使用方法のシフトにより効果が得られるのではないか。また、政府自ら議論を進めるべき。
- 環境志向型税体系はあり得る。ただし、省エネ効果はそれほど大きくないと見られるが、国際的に導入の流れはある。
- 石油価格が上昇した時には省エネが進んだが、価格が下降時にも省エネが進む政策はないのか。
- 省エネ、新エネは当然やるべきことであるが、NGOで象徴的、国民的運動はできないのか。
- 活動を広げる努力はしているが、国の支援(政策面、制度面)も必要。
- 新エネの研究、補助は国として実施できるものだが、ライフスタイルの改善といった省エネは政策ですべきことか疑問。
- エネルギー問題、環境問題、原子力問題全体を視野に入れた“エネルギー・環境・原子力委員会”のような組織があると良い。
- ライフスタイルの改善は政府の問題ではないのではないか。政府の役割として、税の活用方法、技術開発、研究開発について検討をすべき。
- 2010年の温暖化対策を考える場合、需要の伸びの大きな輸送部門および家庭用電力をターゲットとすべき。これらのうち、原子力が貢献できるのは、家庭用電力である。原子力を考える場合、発電量でのシェアを考えるべきではないか。
1.1.2. 安全要因
- 原子力は安全面に問題がある。
- 社会的安全性も含め、広い意味で安全性に問題がある。
- 品質管理、安全装置の改善等により、安全になっているといえる。一方、今後の導入が予定されているアジアでは経験不足が不安だ。これら諸国での原子力エネルギー利用に対して日本が協力できることもある。
- 100%の安全性はあり得ず、明日からでも止めて欲しい。原子力発電からは可及的速やかに脱却すべき。
- 次世代への負担
- エネルギー政策では「持続性」、「将来への負の遺産を残さない」という点から原子力の利用推進に反対である。また、その点から再生可能エネルギーは有望であり、その利用推進が図られるべきである。
- 放射性廃棄物、廃炉等、次世代への負担が生じる点が問題。
- 廃炉については、既に世界で十数台の実績がある。日本でも既に経験もあり、その費用も建設費の1割程度で、必ずしも次世代への負担にはならない。また、原子力発電所から排出される廃棄物の量も非常に少ないため、それなりにお金をかけて、しっかり処理することが可能だ。
- 廃炉済となっているのは、数百あるうちの十数台であり、残りのものについて今後の処理が問題。
1.1.3. 議論1 その他
- 原子力に関してよくあることが「発電利用」と「兵器利用」を混同して議論されているという問題がある。
- 超伝導技術の実用化や米ソのデタントにより核兵器が不要になった等の例からも分かるように、現在の知識、状況から先の事を決めてしまうのが良くない。
- 現状の原子力発電所の維持について:将来も現状維持で良いのかどうか?
- 気候フォーラムとしては増設反対の立場であり、現在存在するものは、いずれ廃炉とすべきという見解である。
- エネルギー源の多様化は重要だが、原子力は多様化のための選択肢には含まれない。含めると多様化が保てなくなる。ただし、すぐ閉鎖するのではなく、経済・地域的問題も考慮すべきだ。
- 化石燃料は今後も中心となるエネルギー源であり、原子力も電源構成において重要な要素となろう。
- 政府のエネルギー需給見通しが“原子力増設ありき”なのが問題。今日の議論では、増設賛成の人は少なかったのではないか。欧米では、原発は減少傾向にあるが、この現実をどう見るのか。
- 増設に賛成である。
- 原子力の発電量でのシェアは維持すべきであり、需要が増えれば伸びうると考えられる。
- 省エネの技術的可能性
- ハイブリッド車が急速に実用化されたように、現在実用段階になくとも、新たな技術の可能性はある。
- 新たな技術導入により、我が国で20%の削減可能とのシミュレーション結果がある。
1.2. 議論2:運営システム/情報開示に関する議論
1.2.1. 情報開示
- 原子力発電の運用に関しては「ヘマをしてしまう」→「隠す」→「謝る」ということをして、不信感が募ってしまったという問題がある。
2. 円卓会議の運営について
2.1. 議事
- 今年度中での円卓会議の開催が全5回であるというのは予算上の問題である。来年度以降も継続して円卓会議を開催していきたいと考えている。
- 今回の新円卓会議は完全に原子力会議から独立して運営されているものであり、その分、思い切った提言ができるはずであり、政策への反映も要望する。
3. その他
- 若者は経験がない分、省エネを神聖な、面白いものと捉えることができるのではないか。
- 日経の調査では、特に20代の若者が将来について暗い予測をしている。しかし、努力する意志はあるはずであり、それを活かすために必要な制度、仕組みについて議論をすべきではないか。
- 現在の日本の若者は省エネルギーに無関心な層が多い。
- 電気や自動車がある社会に生まれてきた若者の多くは、その利便性の享受はするが、それを得るためのプロセスには関心が低いようだ。
- 大学生にエネルギー政策について例えば「エネルギーの種類は何を選ぶか」と尋ねても、それに関する知識がない。今の大学に環境、エネルギー、戦争等を教育する講座もないことが問題だ。
- 反対派の人は、絶対反対なのか、それとも条件付き反対(例:安全面、受け入れの有無)なのかを明確にすれば議論が進む。
- 電力会社は、需要が伸びないと会社として成立しないという問題を抱えているのではないか。電力会社のシステムのあり方を考えるべきではないか。