〈資料5-3〉

原子力政策円卓会議 発言要旨

藤井 石根

「我々は少なからず原子力発電に頼っている現在の状況から可及的速やかに脱却することを目指し、それに向けて努力、その代替策の実現に、より活発な行動を展開すべきである。」
 論者の主張を一口にまとめるとこうなる。
 そもそも我々はこれまで使いたいだけのエネルギーを手にしてきたし、社会システム全体もこうした状況の上にでき上ってしまっている。その一方で世界のエネルギー環境は次第に変わりつつあり、今後、意のままに望む量のエネルギー資源を手にすることは難かしくなろう。同時に地球環境も悪化の一途をたどっている。こうした状況を考えると今後のエネルギー問題を考えるには次の事がらに最大限、気を配る必要がある。

(1)エネルギー確保の持続性
(2)環境負荷の大きさの問題
(3)外部コストを含めた経済性
(4)人的・物的・環境被害に対する修復の可能性と将来の負担度

 加えて、エネルギー問題を当面の事としてのみとらえるのではなく、次世代の人達の身になって考えることも肝要である。即ち、我々の現在の行為が彼等にどう影響し、どの程度の負担を強いることになるのか、この事も当然考えなければならないし、そのほか大気汚染等の例に見られる地域間、国家観の影響についても同様である。要は我々の時代、我々の地域と言った所だけで考えられる時代は過ぎている。
 最後にもう一つ付け加えて置きたいことは物事を行うのに概して治療型であってはならないと言うことである。従来の我が国の政策は一般にこの傾向が強かったが、予防型にしなければならない。治療型は払うべきものが大きい割に得られる効果が概して小さい。経済面でその例を探せば住専関連、旧国鉄債務の問題処理等が好例である。エネルギー問題についても同様で我々はハードの時代からソフトの時代に移行することを余儀なくされている。現在はその過渡期と言える。当然、変革にある程度の犠牲も伴なうが初期ならばその程度も小さいし、やり方次第でカバーできる。エネルギー消費の縮小は経済を鈍化させるとの意見もあるが、それは一面的な見方であろう。例えば省エネ型、環境保全型、リサイクル・リユース型各産業を活性化させれば良い。社会システム、都市構造、住環境を省エネ型・環境保全型に再構築して行けばよい。エネルギーシステムもソフト型に変えて行かなければならない。その先には資源食いつぶし型社会では見えない希望の燈が見えて来よう。

 ここでソフトエネルギーの一つ具体例を示しておく。
 スウエーデンではバイオマスエネルギーの全エネルギーの占める割合は18%に達すると言われる。またある研究者によれば、例えば島根県の場合、もし年間の樹木の成長で得られるバイオマスを活用すれば同県の家庭で消費されている電力、石油のエネルギーをこれまでまかなえると言う。もしこうしたエネルギー源の活用を図ることになれば森林産業にエネルギー供給という新たな役割が加わり再度活性化しよう。また水不足の21世紀と言われるその問題の不安もある程度、軽減されようし、水産業にも良い影響をもたらす。農・畜産業に対しても同様であろう。この事は言うまでもなく深刻な状態が予想される食糧の問題にも関係する。このようにエネルギーの問題は多面的な要素を持ち合わせており、こうした事にも理解を深め将来に禍根を残さない判断を下すことが肝要であろう。