〈資料5-2〉

《徹底した議論》のために

原子力資料情報室 西尾 漢

原子力にエネルギーを頼れない理由は別紙の通りである。過渡的には、熱効率やSOx 、NOx の除去率を高めながら化石燃料を利用しつつ、需要・供給両サイドの分散化と量的低減を図り、エネルギー消費を小さくすることと再生可能エネルギーの利用を拡大することを進めていくのがよいと考えている。それが現実的でないと言われるなら、逆に、原子力に頼ってエネルギー利用を拡大していくことがどれほど現実的かと問いたい。
 当円卓会議について事務局の基本方針には「国民各層の原子力に関する議論を徹底して行い」とある。そのためには、どんな議論をどんな形式で行なうのか、そのための条件は何か、議論の内容を政策にどう反映させるか、といったことを、まず議論の内容を政策にどう反映させるか、といったことを、まず議論する必要がある。
 一つには、「徹底した議論」を行なうという以上、本年度内に開催予定の5回程度では、決定的に時間が足りない。きちんと議論のできる時間的保証が要る。
 また、当円卓会議の進め方についての原子力委員会決定には「国民の原子力に対する理解と協力への取り組みを一層強化することが必要」とあり、原子力利用の推進が前提とされている。これでは議論ができない。これは、原子力基本法第一条が原子力利用の推進をうたい、その計画的遂行を任務として原子力委員会・原子力安全委員会が設置されている(第四条)ことに、根本の問題がある。
この条文は少なくとも時代遅れであって、改正される必要があると思う。藤家洋一原子力委員会委員長代理は、日本の原子力開発の特徴は「国策・民営」であると各所で述べているが、その無理がいま噴出しているのではないか(「国のエネルギー政策で原子力をやっているのだから、廃棄物も国が全責任を持ってほしい」−−荒木浩電気事業連合会会長。)  法改正を当円卓会議の議論の条件とすることはできないとしても、議論の結果として法改正を提言する場合もあることは明示されるべきだろう。さらに、当円卓会議で議論をしていることを無視して原子力に関わる新たな政策決定は行なわないことを、原子力委員会に求めたい。
 それに関連して、事務局の基本方針には「原子力委員会に積極的な提案を行うことを目指す」とあるものの、当円卓会議の議論がどう政策に反映できるのかは、きわめてあいまいである。議論の結果を誰が判断するのか。エネルギー、環境、経済など広い領域に関わる問題について、原子力委員会のみで判断することはとうていできないし、行政だけの判断にもまかせられない。密室の中、官僚主導で行なわれている政策決定のプロセスをこそ議論する必要がある。
 議論の条件として十分な情報公開が必要なことは、論をまたないだろう。しかし、事務局から送られてきた資料を見ても、たとえば電源別の発電単価のように、結果しか示されていない。これでは、その妥当性を検討しようにも不可能で、議論が成立しない。を深め将来に禍根を残さない判断を下すことが肝要であろう。


(別紙)

なぜ原子力に頼れないか

原子力資料情報室 西尾 漢

◎核拡散、核テロリズムの危険性がある。また、その防止のためとして社会的自由が制限されたり、危険回避に必要な情報まで開示されなかったりする。
◎大事故の危険性がある。
◎平常運転時にも、労働者の被爆、環境の放射能汚染を伴う。
◎大量かつ多種の放射性廃棄物を発生させる。
◎エネルギー利用のメリットを得る者と危険性を引き受ける者とが、地域的あるいは世代的に不公平である。(エネルギー利用のメリット自体、トータルなエネルギー収支がプラスとなるかどうか疑問であるし、危険性と均衡がとれるとはそもそも思えないが・・・ ・・・)。
◎プルトニウムを本格的に利用しようとすれば世界中をプルトニウムが動きまわる事態となり、他方、プルトニウムが本格的に利用できないとすればウランの資源量は小さく、原子力利用を抱える問題点の大きさにまったく見合わない。 ◎原子力は電気しかつくれないためにエネルギーの利用形態を電気に特化し、電気がとまったら何もできない脆弱な社会をつくってしまう。
◎原発では電力需要の変動に対応できないので、原発を増やせば調整用の他の電源も増やすことになり、ますます電力化をすすめることになる。
◎原発は事故で運転をとめることが多く、しかも出力が大きいため、電力供給の安定性を脅かす。その対策として、低出力で運転しながら待機しているホットリザーブ用の火力発電所や揚水発電所を必要とする。
◎原発は大都市から離して建設されるために、超高圧の送電線の新設しなくてはならない。経済的に大きな負担となり、鉄塔・送電線に大量のエネルギーを消費し、送電ロスを伴い、環境の悪化をすすめる。また、長距離送電は電圧・周波数の維持を困難にして、この点でも電力供給の安定性を脅かす。
◎核燃料サイクル、原発のために必要となる他の電源、送電、研究開発費などをふくめた原発のトータル・コストは、きわめて大きい。その経済的負担を軽減しようとすれば、定期検査時期の短縮など、安全性を犠牲にする対応策をとらざるをえない。
◎以上のような原発の特性は、エネルギー計画から柔軟性を奪い、エネルギー消費を小さくすることは分散型エネルギー源の開発を圧迫する。
◎「プルトニウムは千年エネルジー」といった宣伝で将来の大量エネルギー供給が強調され、エネルギー問題/環境問題を本気で考えることを邪魔をし、エネルギー政策の意思決定から市民を遠ざける。
◎電源三法交付金などにより立地自治体の財政に一過性の膨脹をもたらし、地域内に対立を持ち込み、地域の自立を妨げる。
◎情報の隠蔽や捏造、操作が(国内でも海外でも)つきまとっている。