今なぜ原子力問題なのか?

-基調発言要旨-

1998年9月9日
慶応義塾大学経済学部教授
深海博明

[前おき]

I. 原子力の基本的位置付け-原点に立ち戻っての再検討・選択と新たな発想の必要性

  1. 地球温暖化問題への真の対応のために必要とされることと、COP3での京都議定書との大きな乖離・ギャップ
  2. 原点-化石燃料の燃焼によるエネルギーと原子力エネルギーとの根源における決定的な違い
    化学的な燃焼によって分子の結合力の中に蓄えられていたエネルギーを解放する『火』VS『ビックバン』による元素生成の時に原子核に蓄えられていたエネルギーの解放
    それによる問題の根源的特質・インプリケーション→原点に立ち戻っての検討
  3. 原子力を過渡期の必要悪的なエネルギーとしてではなく、長期・超長期にわたる持続可能な(発展に資する)エネルギーとしての新たな展開・再設定の必要性・望ましさとその可能性
    国内的ベストミックス論から国際的ベストミックス論へ 短期、中・長期、長期・超長期
  4. 原子力の光から影への現実的転換の実態と要因の明確な分析を踏まえての原子力政策の再構築
  5. 原子力開発はその特性ゆえに巨大技術開発によってなさねばならず、また放射線被曝管理、安全性評価等について高度の専門性が求められており、これが独善的な開発政策の推進に結びつきやすく、国民の理解・受容性を損ねる可能性が高い
  6. しかし現状では原子力は地球温暖化防止のための効果的な解決策の一つに過ぎず、それだけでは対応は不可能、現状では電力供給に限定、だが、その重要性はそれなりに大きい
  7. しかも本来原子力の開発・利用の推進は、CO2排出抑制のためになされてきたものではない
  8. 客観的な評価・判断、そのメリット・デメリットの総合的・冷静・客観的な評価・判断の必要性

II.議論や進め方-総合的・合理的な思考・アプローチの不可欠性

  1. 個々の問題・論点別の決定・選択の欠陥・問題点-「合成の誤謬」(fallacy of composition)の周到な回避-スウェーデンのケース
  2. 時間的要素の重要性-潜在的可能性といつどれだけのコストで実現できるのかの現実的可能性
  3. 内からの発想と外からの発想とのギャップ-日本の非核政策への疑念、日本の思い込み、ダブル・スタンダード?
  4. 数学の魔術とその結果の独り歩き
  5. 総合的・合理的・建設的に討論の積み重ね

[終わりに]


参考論文:
深海博明 「地球温暖化問題と原子力-抜本的再構築を迫られる日本の選択」
 『国際問題』 日本国際問題研究所 №453 1997年12月号