原子力委員会への提言

                         1996年10月3日

                    原子力政策円卓会議モデレーター

                             岩男 壽美子

                             茅   陽一

                             五代 利矢子

                             佐和  隆光

                             鳥井  弘之

                             西野  文雄

 原子力政策円卓会議(以後「円卓会議」という)は、1996年4月以来、11回にわたり会議を開催した。

 我々モデレーターは、それぞれの会合を公平円滑に進めるのみでなく、会議での議論内容を検討し、多くの参加者の多岐にわたる意向を出来るだけ反映した提言を原子力委員会に対して行うことがその重要な役割であると考えている。

 すでに、6月24日には、この観点にたって、情報公開と政策決定過程への国民参加の促進について、原子力委員会に第一回の提言を行った。今回、11回までの円卓会議での議論の論点を基盤として、以下に示すような第二回の提言を行うこととした。

 我々モデレーターは、原子力委員会がこの提言に真摯に対応し、原子力政策長期計画の上に反映していくことを切に希望する。

 なお、円卓会議の参加者は毎回異なることもあって、今回の提言はモデレーター内での議論のみに基づいて作成されており、円卓会議参加者に提言の内容についてあらためて意見を求めることは行っていない。したがって、提言の内容は全面的にモデレーターの責任において作られたものであることを断わっておきたい。

1。エネルギー供給の中での原子力の位置付けの明確化

 発展途上国のエネルギー需要の急増する中で、将来のエネルギーを何によって賄うかが世界的課題であることは論をまたない。わが国では、現在、一次エネルギー供給の10%以上を原子力で占めているが、今後原子力がエネルギー供給の中でどのような役割を果たす必要があるのか、また果たしうるのかは原子力の意義を論ずる上での重要なポイントである。

 このことを考慮すれば、今後の需要の伸びと省エネルギー進展の可能性と実現性、非化石燃料供給の拡大可能性などについての議論が徹底的に行われ、その前提のもとに原子力のありかたを考える必要がある。今後、エネルギー供給の中での原子力の位置付けについて、国が国民との議論の場を数多く作り、この点に関する国民の認識を出来うる限り明確化させることを切にのぞむ。

2。核燃料サイクルに関する提言

1)全般

 燃料の製造、再処理から最終廃棄物の処分に至る核燃料サイクルについてはこれまでの会議の中で資源/環境両面から数多くの意見が出されている。国は核燃料サイクルの展開の中で、これらの意見を真剣に取り上げ考慮していくことを強くのぞむ。

2)使用済燃料の管理

 原子力発電所の過去30年にわたる運転の結果かなりの使用済燃料が生じたこと、また今後ともそれらが増え続けることを考えれば、使用済燃料の合理的かつ安全な管理への一層の努力が大きく求められている。特に、今後の使用済燃料のサイト内貯蔵の長期化の可能性を考えると、国は立地地域との相談のもとに使用済燃料の管理の現実的かつ合理的な解決策を早急に策定していくことが必要である。そのための努力を強く要請する。

3)プルトニウムの軽水炉利用

 多数のプロセスが連携して輪を形成する核燃料サイクルを円滑に運用していくためには、その各プロセスを時間的に整合性のある形で展開していくことが必要であり、一つのプロセスの展開の停滞は、その前後のプロセスの展開に大きな支障を与えることになる。現状で核燃料サイクルの展開の先端となっているのはプルトニウムであり、国がその軽水炉利用(プルサーマル)について、その目的・内容を立地地域住民はもとより国民全体に可能なかぎり公開し、合意形成に向け努力を傾注することをのぞむ。

4)高速増殖炉問題

 高速増殖炉は、今後の原子力の鍵となる要素であり、国が、もんじゅの扱いを含めた将来の高速増殖炉開発のありかたについて、幅広い立場から議論を行う場を設定することを要請する。

5)高レベル放射性廃棄物の取扱い

 バックエンド対策の確立は原子力の総合的安全性の向上という意味できわめて重要であり、地層処分実施の手順の確立等、高レベル放射性廃棄物に関わる処分の具体策を出来るだけ速やかに策定し、またその内容を国民にわかりやすく提示することが必要である。そのために国が主体となって最大の努力を払うことをのぞむ。

3。原子力の安全確保と防災体制の確立

 原子力の安全性確保に万全をつくし、国民の不安を払拭する必要はいうまでもないが、万が一の事故時に備えて、国は原子力防災に関して具体的に関係各機関の役割と連携の方法を明確にした強固な防災体制を確立するべきであり、そのための努力を行うことを強く要請する。

4。立地地域との交流・連携の強化

 エネルギー政策は国の政策の一つの大きな柱であり、エネルギー供給の10%以上を占める原子力の展開にあたって、国の役割はその鍵となる。ここでは各立地地域の自治体・住民と一体となった取組が前提であり、そのために国は立地地域への対応の理念を確立すると共に、国と立地地域自治体及び住民との情報の流通公開・意思の疎通の一層の進展に向けて、具体的な方策を打ち出すことが重要である。

 また、原子力の恩恵を受ける電力消費地域が、立地地域との交流・対話などを通じて立地地域の事情を積極的に理解する姿勢を確立することを切にのぞむ。

5。新円卓会議の提案

 円卓会議は、原子力にかかわる諸問題に関する意見を国民の広い範囲にわたって求め、掘り下げた議論を行い、原子力行政に提言を行う場として有効である、というのがこれまでの殆どの参加者の一致した意見である。

 しかし、これまで行われた円卓会議は構成・運営などのさまざまな面で問題があり、このままの形で継続することは可能でもないしまた有効でもない。

 我々は、このような認識をふまえて、以下のような内容の新円卓会議を行うことを提案する。

1)構成 

 モデレーター、委員及び若干名の臨時委員で会議を構成する。

2)メンバーの選定

 モデレーター、委員及び臨時委員は、国民の幅広い層から、原子力についての識見と関心を持つ人を選ぶ。

3)会議の運営

 モデレーターは毎回の議案の選定、議事の進行の責任を持つ。

 会議は、一定の頻度で開催することを原則とするが、状況に応じて随時開催することも考慮する。

4)提言

 モデレーターは、一定の時期に、新円卓会議の議論を総括して原子力委員会に提言を行う。原子力委員会は、その提言を原子力行政の中で十分検討し、その対応について新円卓会議に回答する。_