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原子力船「むつ」の解役計画

平成4年1月
日本原子力研究所

はじめに

 原子力船「むつ」(以下「「むつ」」という。)は、昭和60年3月に内閣総理大臣及び運輸大臣が定めた「日本原子力研究所の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」に基づき、実験航海終了後直ちに関根浜港において解役に入ることとなっている。解役に係る工事等の方法を定める解役計画は、以下のとおりである。

Ⅰ. 解役計画

1. 基本方針

(1) 解役に係る工事等
① 「むつ」の船体を後利用するため、使用済燃料、中性子源、原子炉等を「むつ」より撤去する。原子炉の廃止措置方式としては、原子炉を遮蔽体と合わせて原子炉室ごと一括して撤去し、陸上にそのまま保管する撤去隔離方式を採用する。
② 解役に係る工事等の実施及び使用済燃料等の保管に当たっては、周辺地域の環境保全及び住民の安全確保を図るため万全の措置を講ずるとともに、事故の発生防止及び作業従事者の放射線被ばくの低減を図るため、十分な作業管理を行う。
③ 解役に係る工事等は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)、船舶安全法等関係する法令等を遵守して行う。

(2) 「むつ」及び陸上施設の後利用等
① 「むつ」及び関根浜施設について
 解役後の「むつ」の船体を、一般動力推進の船舶として、海洋研究、舶用炉の研究開発のための理工学研究等に活用し、併せて関連する関根浜港等を活用するとの方針の下に、検討を進める。
② 大湊施設について
 大湊施設については、大湊港マリン・タウン・プロジェクト構想に配慮してその取扱いについて検討を行う。
③ 原子炉室について
 「むつ」から撤去した原子炉室は、新たに建設する保管建屋内において、適正な管理の下に安全に保管するとともに、これを展示し、一般の見学に供する。
 この保管建屋には、展示スペースを設け、原子力のみならず、その他の先端的科学技術に関する特色ある展示を行う。

2. 解役に係る工事等の計画

 「むつ」の解役に係る工事等の計画は以下のとおりとする。
(1) 使用済燃料の冷却
 「むつ」を関根浜港岸壁に係留し、約1年間、原子炉を冷態停止状態に維持は、使用済燃料の内蔵放射能による放射線及び崩壊熱の低減を図るとともに、原子炉プラント各部の放射能の減衰を図る。

(2) 使用済燃料等の取出作業
 燃料取扱設備を用いて、使用済燃料及び中性子源を原子炉内から取り出し、燃料・廃棄物取扱棟内の所定の場所に移送する。

(3) 水抜き作業
 機器等の撤去工事を円滑に行うこと等を目的として、機器等の撤去工事に先立ち、原子炉室、原子炉下部二重底及び原子炉補機室等の中にある水をすべて抜き取り、陸揚げする。

(4) 原子炉補機室等の機器類撤去工事
 原子炉補機室等にある機器類を撤去し、陸揚げする。原子炉室に通じる配管、ダクト等を切断し、開口部はすべて密閉する。機器類を撤去した原子炉補機室等は、室内の汚染検査を行い、必要に応じて除染し、管理区域を解除する。

(5) 関根浜港内の浚渫及び隣接する陸地の掘削工事
 原子炉室を保管建屋に移送するために、関根浜港内の浚渫及び隣接する陸地の掘削を行う。原子炉室の撤去及び移送終了後、埋戻し工事を行う。

(6) 原子炉室の撤去及び移送工事
 遠隔びょう地において「むつ」を半潜水式バージに上架し、関根浜港岸壁に回航し、係留する。原子炉室を「むつ」船体から切り離し、原子炉容器、格納容器、遮蔽体等を内蔵したまま、海上クレーンで一括して吊り上げ、移送し、新設する保管建屋に収納する。

(7) 保管建屋の建設工事
 撤去した原子炉室、原子炉補機室等からの撤去物等を併せて保管するための建屋を、日本原子力研究所むつ事業所関根浜地区敷地内に建設する。この保管建屋では、原子炉室を展示するとともに、その他の先端的科学技術に関する展示を行う。

3. 撤去物の保管等

(1) 使用済燃料は、動力炉・核燃料開発事業団において再処理することとし、また、中性子源は、日本原子力研究所(むつ事業所を除く。)において再利用することとする。これらは、受け入れ先の準備が整うまでの間、燃料・廃棄物取扱棟において保管する。

(2) その他の撤去物等については、一般の廃棄物を除き、処理処分方法が決定するまでの間、保管建屋及び燃料・廃棄物取扱棟において保管する。

(3) 原子炉室等から陸揚げした水及び解役に係る工事等に付随して発生する雑排水は、液体廃棄物処理設備等により処理した後、希釈して海中に放出する。

Ⅱ. 工事方法及び安全性

1. 工事等の工程

 解役に係る工事等は、平成4年、実験航海終了後直ちに使用済燃料の冷却に入り、使用済燃料等の取出し、原子炉補機室等の機器類の撤去、原子炉室の撤去及び移送を順次行う。並行して、原子炉室等の撤去物等を収納する保管建屋の建設工事、関根浜港内の浚渫、隣接陸地の掘削工事等を行う。これらに要する期間は、実験航海終了後4年程度と考えられる。

2. 工事等の手順

(1) 使用済燃料の冷却
 「むつ」を関根浜港岸壁に係留し、約1年間、原子炉を冷態停止状態に維持する。

(2) 使用済燃料等の取出作業
① 準備作業
 あらかじめ、原子炉室ハッチカバーを撤去し、上甲板上に原子炉室ハッチシャッタ、船上補助建屋等の設置を行う。
② 機器等取外し作業
 格納容器上部遮蔽体、格納容器蓋、上部一次遮蔽体等を取り外した後、燃料交換水槽を中間一次遮蔽体上に設置する。作業場所における放射線量を低減するため水槽内の水位を調節しつつ、原子炉容器蓋及び炉心上部構造物の取外し並びに原子炉容器上部への二重回転遮蔽台の設置を行う。
 なお、取り外した遮蔽体等は、燃料・廃棄物取扱棟及び機材・排水管理棟に一時保管する。
③ 使用済燃料の取出し
 燃料取扱容器、燃料詰替用付属装置等を用いて、燃料体を原子炉内から取り出し、使用済燃料輸送容器に収納する。使用済燃料輸送容器は、汚染検査等の必要な点検を行った後、燃料・廃棄物取扱棟へ移送し、保管する。
 32体の燃料体それぞれについて同じ作業を行う。
④ 中性子源の取出し
 燃料交換水槽内の水位を調節しつつ、二重回転遮蔽台を取り外す。同水槽内に水を漲った状態で、中性子源棒取扱い治具を用いて、原子炉内から中性子源棒を抜き出し、さらに、中性子源をカプセルに収納した状態で中性子源棒から取り出す。取り出した中性子源(2体)は、中性子源輸送容器に収納する。中性子源輸送容器は、汚染検査等の必要な点検を行った後、燃料・廃棄物取扱棟に移送し、保管する。
⑤ 機器等復旧作業
 ①及び②と逆の手順により、取り外した機器等を再配置し、原子炉室ハッチシャッタ、船上補助建屋等を取り外し、原子炉室ハッチカバーを復旧する。

(3) 水抜き作業
 一次冷却水系統、下部一次遮蔽タンク、二重低内水タンク及び原子炉補機室等内の機器類から水を抜き取り、船内に仮設した処理設備により、必要に応じて前処理を行い、陸揚げする。これらの水抜き作業を行うため、必要に応じて、仮設の配管、ポンプ等を設置する。
 陸揚げした水は、液体廃棄物輸送容器に入れて、陸上施設へ移送する。

(4) 原子炉補機室等の機器類撤去工事
① 原子炉浄化系イオン交換塔の取外し
 原子炉浄化系イオン交換塔を架台から取り外し、岸壁クレーンを用いて陸揚げし、燃料・廃棄物取扱棟へ移送し、所定の場所に保管する。同交換塔内のイオン交換樹脂は、燃料・廃棄物取扱棟内の使用済樹脂貯蔵容器に保管する。
② その他の機器類の解体・撤去
 その他の機器類は、必要に応じ、分解、切断、容器への収納等を行い、燃料・廃棄物取扱棟へ移送し、一時保管する。
③ 原子炉室外壁貫通配管等の密閉措置
 原子炉室に通じる配管、ダクト等は、原子炉室外壁の近傍において、切断し、開口部はすべて閉止板等で密閉する。
④ 室内の汚染検査及び管理区域の解除
 機器類撤去後の原子炉補機室等は、室内の汚染検査を行い、必要に応じて除染等を行った後、室内の線量当量率等を確認し、管理区域を解除する。

(5) 関根浜港内の浚渫及び隣接する陸地の掘削工事
① 浚渫工事
 原子炉室を移送する際の海上クレーンの水路を確保するため、関根浜港内の南側の水域の一部を浚渫する。浚渫土砂は、港内の西防波堤脇に仮置きし、原子炉室の移送工事終了後、埋戻し工事を行う。なお、海水の汚濁を防止するため、汚濁防止膜の布設等の対策を講じる。
② 掘削工事
 海上クレーンにより移送される原子炉室の陸地上の通路を確保するため、保管建屋と海岸の間の陸地の一部を掘削する。掘削部の法面は、地質を考慮した安全な勾配とする。原子炉室の移送工事終了後、埋戻し工事を行う。

(6) 原子炉室の撤去及び移送工事
① 「むつ」の上架作業及び半潜水式バージの曳航作業
 関根浜港外の遠隔びょう地において「むつ」を半潜水式バージに上架し、半潜水式バージを関根浜港に曳船し、岸壁に係留する。
② 原子炉室の切断工事
 原子炉室に隣接する区画内にある機器の一部を一時的に撤去し、原子炉室前端部及び後端部において、船体を二重底ごと切断し、原子炉室を船体の他の部分から切り離すとともに、原子炉室の側部の外板等を撤去する。また、原子炉室外壁の上部を鋼板により補強し、吊りピースを取り付ける。
③ 原子炉室の吊上げ及び移送工事
 海上クレーンを用いて原子炉室を吊り上げ、保管建屋の原子炉室保管エリアに移送し、収納する。

(7) 保管建屋の建設工事
 保管建屋を、日本原子力研究所むつ事業所関根浜地区の敷地内に、海面から適当な高さを確保して、建設する。
 建設工事は、原子炉室の収納前に行う主として床部を建設する一期工事と、原子炉室の収納後に行う主として屋根部を建設する二期工事に分けて行う。
 保管建屋には、「むつ」から撤去した原子炉室を保管し展示する地下の原子炉室保管エリア、その他の撤去物等を保管する撤去物等保管エリア、先端的科学技術に関する展示を行うエリア等を設ける。

3. 安全性

 解役に係る工事等では、工事の安全を確保するため、以下の安全対策を講じる。
 なお、解役に係る工事等のうち、原子炉の冷態停止状態における安全性及び使用済燃料の取出作業の安全性については、既に、関根浜港の建設に伴う原子炉設置変更許可等を受けた際に、所要の手続きを行い、国による安全審査等を受けている。

(1) 使用済燃料の冷却
 余熱除去設備及び一次冷却水ポンプの運転を行い、原子炉容器を適切な温度に維持する。また、浄化設備の運転を行い、一次冷却水の水質を良好に保持する。更に、所要の放射線管理を行う。

(2) 使用済燃料等の取出作業
 作業は、原子炉の制御棒がすべて挿入された状態で行う。
 原子炉室上部の原子炉室ハッチシャッタ及び船上補助建屋扉は同時に開放せず、また、原子炉室内を負圧に維持することにより、原子炉室内から周辺環境への放射性物質の漏洩を防止する。
 管理区域からの物の搬出に当たっては、汚染検査等の必要な点検を行い、周辺環境への放射性物質の漏洩の防止を図る。
 作業の実施に先立って、燃料取扱作業訓練用模擬装置を使用して、作業従事者の十分な訓練を行う。

(3) 水抜き作業
 水の陸揚げに使用する配管の接続部には、自動開閉式の接続金具を用いて万一の場合の漏洩を最小限にとどめる等の対策を講ずるとともに、厳重な作業管理を行う。

(4) 原子炉補機室等の機器類撤去工事
 換気装置、放射線管理設備等を用いるとともに、必要に応じ汚染防止囲い等を仮設することにより、作業環境の適切な維持及び周辺環境への放射性物質の漏洩の防止を図る。
 また、管理区域からの物の搬出に当たっては、汚染検査等の必要な点検を行い、周辺環境への放射性物質の漏洩の防止を図る。

(5) 原子炉室の撤去及び移送工事
 本工事を行う時点では、原子炉補機室等は、機器類が撤去され、管理区域を解除されており、また、原子炉室外壁貫通配管等は密閉措置を講じていることから、原子炉室外壁の外表面をはじめ、周辺船内に放射能汚染はなくなっている。一方、原子炉容器等は、十分な遮蔽性能を有する遮蔽体の中にあることから、原子炉室の周囲での放射線のレベルは、バックグラウンド程度である。
 「むつ」の上架作業、半潜水式バージの曳航作業、船体の切断工事並びに海上クレーンによる吊上げ及び移送工事は、いずれも造船、海洋土木工事等で豊富な実績を有する工事等であるが、工事計画の策定、工事用設備の選択、作業の管理、機材の点検等は、万全を期して行うものとする。なお、半潜水式バージ及び海上クレーンは、本工事の実施に必要な十分な能力と実績を有するものである。
 吊上げ及び移送工事は、吊上げ前に試験吊りを行う等、十分に安全を確認しながら行う。また、吊上げ高さ、吊上げ速度及び移動速度を適切に管理する等厳重な作業管理を行う。なお、海上クレーンには、過荷重等を防止する安全装置、吊りワイヤへの荷重の均等化を図る装置等の安全対策が講じられている。
 「むつ」の上架作業、半潜水式バージの曳航作業並びに海上クレーンによる吊上げ及び移送工事は、適切な気象・海象状態のもとで実施する。

4. 撤去物の保管等

(1) 保管場所
 解役に係る工事等では、「むつ」からの撤去物のほか、工事に付随して放射性二次固体廃棄物が発生する。これらの撤去物等は、当分の間、適切な管理のもとに安全に保管するものとする。
 燃料・廃棄物取扱棟には、使用済燃料輸送容器、中性子源輸送容器、原子炉浄化系イオン交換塔等を保管し、また、保管建屋には、原子炉補機室等からの撤去物、原子炉室及び二次固体廃棄物を保管する。
 なお、原子炉補機室等からの撤去物及び二次固体廃棄物のうち、内蔵放射能が相対的に高いものまたは重量物については、燃料・廃棄物取扱棟に保管することとし、他方、燃料・廃棄物取扱棟に貯蔵中の内蔵放射能が相体的に低い固体廃棄物の一部は、保管建屋に保管する。このため、燃料・廃棄物取扱棟の一部を改造し、保管エリアを設ける。
 また、燃料・廃棄物取扱棟内に、撤去物等仮置きエリアを設け、保管建屋完成までの間、原子炉補機室等からの撤去物等を仮置きする。

(2) 保管中の安全性
 使用済燃料及び中性子源は、十分な遮蔽性能を有する輸送容器に入れて保管する。原子炉容器等は、十分な遮蔽性能を有する遮蔽体を備えた原子炉室に入れたまま、保管する。
 これらの撤去物等を保管する建屋は、撤去物等からの放射線に対して十分な遮蔽性能を有する堅固な構造とする。
 保管建屋の建設場所の地盤は、保管建屋の基礎の支持地盤として、十分なものである。原子炉室保管エリアについては、原子炉室の重量に配慮した堅固な構造とする。
 撤去物等の保管中は、これら建屋の内部を巡視点検し、保管の状態に異常がないことを確認する。
 また、建屋内及び周辺環境の放射線を常時監視し、異常のないことを確認する。

(3) 放射性液体廃棄物の処理処分
 放射性液体廃棄物は、液体廃棄物処理設備による必要な処理等を行い、海中放出する。なお、解役に係る工事等に付随して発生する雑排水は、必要に応じ、船内において前処理を行う。
 海中放出に当たっては、放射性物質の濃度の確認、海水による希釈及び放射性物質の濃度の監視を行う。

5. 安全規制

 解役に係る工事等に対する国による主な安全規制として以下のものがある。

(1) 原子炉等規制法に基づく規制
 「むつ」及び附帯陸上施設については、解役に係る工事等の間も、引続き原子炉等規制法に基づく所要の規制が行われる。
① 施設の保安管理は、国の認可を得た原子炉施設保安規定を遵守して行う。
② 原子炉施設は、定期検査等が行われ、その安全性が確認される。
③ 原子炉施設の解体をしようとするときは、国に対して解体届を届け出る。国は、解体届の内容について審査を行い、必要な措置を日本原子力研究所に対し命ずることができる。
④ 保管建屋の建設に当たっては、原子炉設置変更許可申請等を行う。国は、これに対し所要の安全審査等を行う。
⑤ 撤去物等の保管についても、所要の規制が行われる。

(2) 船舶安全法に基づく規制
 「むつ」は、解役に係る工事等の間も、引き続き船舶安全法に基づく所要の検査が行われる。その他、海上において行われる工事に対して、工事用に用いられる船舶を含めて、所要の審査等が行われる。

原子力船「むつ」及び原子炉プラント概要図
原子力船「むつ」及び原子炉プラント概要図

保管建屋概要図
保管建屋概要図

関根浜附帯陸上施設概要図
関根浜附帯陸上施設概要図


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