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資料

我が国における核燃料リサイクルについて

1991年8月27日
原子力委員会
核燃料リサイクル専門部会

 はじめに

 我が国においては、1950年代半ばから原子力の平和利用に関する研究開発及びその事業化を進め、現在、原子力は、基軸エネルギーの一つとして、我が国のエネルギー供給上重要た役割を果たすに至っている。近年になって、地球環境保護への関心が世界的に高まるとともに、中東湾岸を巡る情勢が緊迫化し世界の石油供給に大きた不安感を与えたこともあり、石油をはじめるとする化石燃料への依存をできるだけ抑制すべきとの考え方が再び国際的に広く叫ばれてきている。この点から、今後のエネルギー源としての原子力の重要性はこれまで以上に増してきており、今後の我が国の原子力政策を推進するに当たっては、いわゆるエネルギー・セキュリティ等の国内的視点ばかりでなく、エネルギーを取り巻くこれらの世界の動向を踏まえた国際的視野が重要であり、核燃料リサイクルの将来計画についても、そういった観点をこれまで以上に重視して進めていくことが求められている。

 現在、我が国では、青森県六ケ所村において再処理施設をはじめとする核燃料リサイクル施設の建設計画が進められているところであり、また、本年5月、FBR原型炉「もんじゅ」の建設が完了し、総合機能試験に入り、更に、英仏に委託している再処理によって回収されるプルトニウムの我が国への輸送が近い将来に本格化する計画もある。これらの最近の国内外の動向を踏まえ、長期的展望に立って核燃料リサイクル計画の位置づけを改めて明確にし、その具体化を図ることが必要になってきている。本報告書は、このような認識からその検討結果をとりまとめたものであり、主として、2010年頃までを見通した長期的視野から特に重要と考えられる燃核料リサイクルの具体的方策を提示したものである。

1. 我が国における核燃料リサイクルの必要性及び意義

 我が国の原子力開発利用は、その初期の段階から、使用済燃料を再処理し、回収されたプルトニウム及びウランをリサイクルし、核燃料として再利用することを目指すという、核燃料リサイクル政策を一貫して継続してきたところである。それは資源小国である我が国として、ウラン資源の有効利用を図り、原子力のエネルギー源としての安定性をより高めることが必要不可欠であるとの理由に基づくものであり、かかる核燃料リサイクルの必要性は、今日においてもいささかも変わるものではない。我が国における核燃料リサイクルについて、最近の国内外の動向を踏まえ、その必要性及び意義を改めてまとめれば、次の3点に要約できる。

 第1に、核燃料リサイクルは、リサイクルしなければ、そのすべてが廃棄物とたってしまうものの中から、有用なものを資源として再利用するということであり、資源の保護に貢献するとともに、環境への影響を低減することができる。
 第2に、核燃料リサイクルによって、原子力を長期的に経済的かつ安定なエネルギー源とし、エネルギー・セキュリティーを高めることができる。この点は、資源小国である我が国が従来から特に重視してきているところである。
 第3に、核燃料リサイクルによって、有用な資源と放射性廃棄物を分別、回収し、しかも放射性廃棄物の中で放射能レベルの高いものは量が少たく、安定な形態に固化しやすくなり、放射性廃棄物の管理をより適切なものとできる。このような放射性廃棄物の管理のあり方は、我が国において、環境保護の観点からも適切なものである。
 上記3点の必要性及び意義の内容を補足すれば、次のとおりである。

(1) 資源と環境を大切にし、リサイクル社会の形成に貢献する。
 近年、資源の大量の消費が地球環境の破壊及び生活環境の悪化をもたらしつつあるとして、強く警鐘が鳴らされている。これに対して、資源のリサイクル、省資源、省エネルギー等の推進の強化が唱えられているが、これは、資源のより一層の有効利用を図りつつ、地球環境及び生活環境の保全に努力することを第一義とした考え方であり、原子力、特に、核燃料リサイクルの必要性及び意義についても、そのような考え方からの位置づけが重要になってきている。
 この点から原子力の特徴を考えると、原子力は、もともと、少量の資源から大量のエネルギーを産み、消費する資源量及び発生する廃棄物量が少ない上に、地球温暖化現象の原因の一つとされている二酸化炭素を化石燃料のように発生しないという優れた特徴を有している点が指摘できる。安全確保を徹底しつつ原子力の利用を進めていくことは、エネルギー供給源としての重要な役割に加えて、地球環境保護にも貢献し得ることが先進国サミット等の国際的な場においても確認されている。

 核燃料リサイクルとは、その実現によって、上記の原子力の特徴をより一層活かしていくことを意図しており、いわゆるリサイクル社会の形成に貢献しようとするものである。実際、核燃料リサイクルは、リサイクルしなければ、すべてが廃棄物となってしまう使用済燃料の中から、有用なものを資源として再利用するということであり、また、リサイクルによりウラン資源の節約を図れば、結果的に環境への影響を低減することができ、資源及び環境の保護にとって大きな意義を有する。更に、このようだ資源の節約と再利用の努力は、我が国のようた資源大量消費国が率先して取り組むべき重要な課題でもある。

(2) 原子力を長期的に経済的かつ安定なエネルギー源とする。
 核燃料リサイクルの経済性は、他の資源のリサイクルと同様に、資源の市場価格に依存する。ウラン価格が近年比較的低位で安定していることから、ウラン資源を長期的に経済的かつ安定的に確保していく上での核燃料リサイクルの必要性と意義に対する関心が薄れがちであるが、石油市場と同様にウラン市場も又、将来的に不安材料がないわけではなく、我が国のような資源小国にとっては、ウラン資源の有効利用及びエネルギーの安定的確保の見地から核燃料リサイクルは必要である。さらに、核燃料リサイクルを行うことによってウラン市場の需給を安定化させ、結果的にウラン価格を長期的に安定化させ得る効果も無視できない。
 核燃料リサイクルの経済的意義として重要なもう一つの点は、リサイクルすることによって、核燃料サイクル全体の経済性が、ウラン価格のような外的要因にあまり左右されないようにすることができる点にある。リサイクルをすれば、核燃料サイクルコストに占める天然ウランの費用の割合が低くなるなど、その経済性がウラン価格に依存する程度を軽減できるからである。

 原子力は、少量の資源から技術によって大量のエネルギーを産み出すことから技術エネルギーとよばれて苅り、その経済性が資源よりむしろ技術によって決められる点に特徴がある。経済性が技術によって主として決められるということは、技術の成熟度が進めばそれだけ経済性が向上し、原子力のエネルギー源としての基盤をより一層強固なものとすることができることを意味している。実際、核燃料リサイクルの経済性は、研究開発の一層の推進、経験の蓄積、規模の段階的拡大等を通じ、将来的に向上していくことが期待されており、我が国がそのようだ技術開発に率先して取り組んでいくことは、長期的に見て原子力を世界的により経済的かつ安定なエネルギー源としていく上においても有意義たことと考えられる。

(3) 我が国における放射性廃棄物の管理をより適切なものとする。
 原子力発電に伴って発生する廃棄物は、火力発電等に比べてその量はわずかであるが、放射性であることから特に留意してその管理を行う必要がある。特に、使用済燃料中にほ放射能レベルの高い放射性物質が多く含まれており、半減期に従ってその放射能レベルは急速に低減するものの、放射性廃棄物としてその管理にほ特段の留意が必要である。

 現在のところ、核燃料のリサイクルを行わずに、使用済燃料を廃棄物としてそのまま処分することとしている国もあるが、核燃料のリサイクルを行う場合には、使用済燃料中に多量に含まれる有用な資源を回収できると同時に、それによって、放射能レベルの高い放射性物質を含む廃棄物を別に分離して管理することが可能となる。
 実際、使用済燃料を再処理した後に残る高レベルの放射性廃棄物は、使用済燃料をそのまま廃棄物とする場合に比べて、量が少なく、安定な形態に固化しやすくなり、放射能の継続時間も相対的に短くなる。このような放射性廃棄物の管理のあり方は、我が国においては、環境保護の観点からも適切なものである。他方、リサイクルを行うことによって二次的に放射性廃棄物が発生するが、これについては、その発生量をできるだけ低く抑えることが重要である。

 核燃料サイクル全体から発生する放射性廃棄物管理の最適化は、核燃料のリサイクル方法にも関
連する。リサイクルによる資源の利用効率が高ければ、それに応じて結果的に放射性廃棄物となる量を減少させることが可能となるなど、放射性廃棄物管理が一層適切なものとなり、環境保護の観点からも益々望ましいものとなるからである。この点では、放射能の継続性と密接に関連する超ウラン元素をいかに効率よくリサイクルするかが重要になる。この超ウラン元素の資源としての価値を高めるリサイクル方法に関し、今後、その研究開発を進めていくことによって、放射性廃棄物の管理は一層適切なものとなる可能性があり、この点から核燃料リサイクルを行うことの意義は更に大きくなっていくことが期待できる。

2. 核不拡散への取り組み

 我が国においては、原子力開発利用は国是として平和目的に限ることを原子力基本法に定めており、また、国際的には、核不拡散条約(NPT)及び核物質防護条約に加盟し、我が国の原子力活動に係る全ての核物質に対して国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れるなど、これらの国際条約上の義務を誠実に履行してきており、我が国の原子力平和利用の政策を内外に明らかにしてきているところである。

 我が国の原子力利用に係る核不拡散への取り組みはこれらの政策で明らかであるが、核燃料のリサイクル利用は、回収されたプルトニウムの利用を前提としており、このプルトニウムは軍事的に機微た物質とされているので、その点に更に十分留意しつつ利用を進めることが肝要である。即ち、我が国の核燃料リサイクル計画の推進に当たっては、いかなる場合であっても、核不拡散問題について国際的に懸念を生じないよう、その計画の透明性に配慮するとともに、今後とも核不拡散に対する厳格な対応をとることが肝要である。
 従って、プルトニウムの核物質管理に厳重を期することはもとより、今後の核燃料リサイクル計画の推進に当たって必要な量以上のプルトニウムを持たないようにすることを原則とする。そのためには、核燃料リサイクルによって核燃料として積極的に利用していくことが核不拡散上も意義があることを考慮しつつ、我が国としては、適切な計画に基づいたプルトニウム利用を着実に進めることとする。

 昨年のNPT再検討会議において、NPTが核不拡散に関する基本的枠組みであり、IAEA保障措置がそれを担保する上で中心的役割を果たしており、また、プルトニウムの平和利用の拡大に対応して、再処理、プルトニウム利用等へのIAHA保障措置の効果を引き続き確保すべきである旨が改めて確認されたところである。我が国は、かねて、IAEA保障措置の効果的かつ効率的適用を図ることが重要との見地に立って、その体制の維持強化に積極的に努力してきたところである。1981年度に発足させた「対IAEA保障措置支援計画(JASPAS)」及び1987年度からIAEAに特別拠出することによって検討を進めている大型再処理施設の保障措置のための国際共同プロジェクト(LASCAR)はその重要な事例である。また、MOX燃料加工施設の保障措置要素技術に関し、日米間において実施された共同研究の成果を活用し、動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム燃料第3開発室にIAEAの保障措置が既に実施されている。今後、核燃料リサイクル利用の本格化を迎えるに当たり、このような従来からの姿勢を堅持していくことがまず重要である。また、プルトニウム利用を実用規模で進めていくに当たり、これまでに我が国に蓄積されてきた技術及び経験を基に適切な保障措置の適用を図るだけでなく、その高度化にも積極的に取り組み、核不拡散の面で国際的に更に理解を得て、計画が進められるよう、引き続き、努力していくことが肝要である。更に、これらの努力を通じて、今後ともIAEA保障措置の健全な発展と世界の核不拡散体制の強化に貢献していくことが重要である。これは、プルトニウムの平和利用を進めようとする我が国の責務でもあると考える。
 なお、プルトニウムの長距離にわたる国際輸送については、その核物質防護措置に特に万全を期すべきことが国際的に求められている点を十分に認識し、輸送の実施に当たって、二国間原子力協定、核物質防護条約等の業務を誠実に履行するとともに、関係国との必要な協議を行い、国際的な理解と協力を十分に得ていくこととする。

3. 我が国における今後の核燃料リサイクル計画

(1) 基本的考え方
 我が国における今後の核燃料リサイクル計画を推進していくに当たって重要た点は、基軸エネル
ギーたる原子力が社会的により広く理解されるような体系の構築を目指すことであり、また、そのような計画が国際的にも理解されるよう努力していくことである。この観点から、今後の核燃料リサイクル計画は、社会的に関心の高い放射性廃棄物の管理を一層適切なものにするなどの点にも配慮しつつ、計画的、かつ確実に進めていくことが必要である。また、その計画を実施する際、リサイクルの規模及び方法については、将来の変動要因等を考慮しつつ弾力的対応が可能となるよう対処していくことが肝要である。

 核燃料リサイクル計画の利用面についてみると、まず、高速炉(FBR)については、ウラン資源の利用効率が特に高いという特徴があり、更に、超ウラン元素をリサイクルできれば、それによって放射性廃棄物問題を軽減できるということも期待できる。従って、我が国においては、FBRを将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発を進めてきており、核燃料リサイクル利用の基本と位置付けている。このため、今後とも引き続き、FBRの実用化を目指すこととする。また、我が国の原子力発電計画においては、当面、軽水炉が主流であり、軽水炉自体によるリサイクル利用を図ることとし、それによってエネルギー供給面での一定の役割を果たすとともに、併せて、FBRの実用化に向けて、実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術、体制等を整備していくことが必要である。この軽水炉へのリサイクル利用は、ドイツやフランスを中心にヨーロッパにおいて既に相当の実績があることにも着目しつつ、我が国のリサイクル計画を着実に遂行していく上から、まず、軽水炉へのリサイクル利用を進めていくこととする。

 さらに、このリサイクルの体系の柔軟性を高める観点から、核燃料利用方法の面で融通性に富む新型転換炉(ATR)において、その特徴を活かしつつ、リサイクル利用を進めることが適当である。
 これらの核燃料リサイクル計画を遂行していくに当たって必要とたる今後のプルトニウムの供給源としては、六ケ所再処理工場がその中心的役割を担うことになる。同工場は、長期的観点からみて、我が国のリサイクル計画の基本であるFBR計画を遂行する上で必要不可欠なものであると同時に、軽水炉リサイクル計画及びATRの研究開発の遂行に必要なプルトニウムを継続的に供給するものである。同工場の本格操業は2000年過ぎに予定されており、その回収プルトニウムの用途としては、当面のFBR及びATRの研究開発への利用及びその後のFBRの実用化への利用とともに、実用規模での軽水炉へのリサイクル利用に充当することとする。

 海外に委託されている再処理は、当面の経過的措置であり、それによって回収されるプルトニウムは、FRR及びATRの研究開発及び軽水炉へのリサイクル利用に充当することが適当である。
 東海再処理工場からの回収プルトニウムは、引き続き、FBR及びATRの研究開発に利用していくことを基本とするが、六ケ所再処理工場の操業が開始されれば、東海再処理工場の主要な役割は、将来に向けての再処理に係る技術開発に重点を移していくことが望ましい。

 なお、これらの計画を実現していくためには、特に、六ケ所再処理工場の建設計画を地元の理解と協力を得つつ進めるとともに、海外再処理によるプルトニウムが我が国に円滑に輸送されるよう、政府としても適切た協力を行うことが必要である。また、それらの計画と関連して、リサイクル燃料(回収プルトニウムをウランと混合した燃料でMOX燃料とよばれる。以下、MOX燃料という。)の国内における供給体制の確立を図ることが必要である。

(2) 2010年頃までを想定した核燃料リサイクル計画
 上記の基本的考え方に基づき、2010年頃までを見通した核燃料リサイクル計画については、次のとおりとすることが適当である。核燃料リサイクル計画はプルトニウムの利用を前提としており、その計画に関し国内的にも国際的にも広く理解を得ていくためには計画の透明性が重要であるので、現時点で最も妥当と考えられる計画を示すものである。将来の計画であるので、今後の情勢変化等により影響を受けることは当然であるが、そのような場合であっても、「2.核不拡散への取り組み」で示した姿勢を堅持しつつ、上記の基本的考え方に基づき、計画を着実に遂行していくことが肝要である。
〔以下の記述においてプルトニウム量(試算値)は核分裂性プルトニウムの量で表示。〕

① プルトニウムの利用
 (イ) FBR及びATRによる利用計画
 FBRについては、今後とも、実験炉「常陽」における研究開発を続けるとともに、原型炉「もんじゅ」によるリサイクル利用を推進していくことが、FBR開発において果たしているこれらの炉の役割の重要性から見て適当である。これら2つの炉に必要なプルトニウム量は、毎年約0.6トン、2010年頃までに今後必要となる累積量は12~13トン程度である。

 FBR実証炉については、1990年代後半に着工し、2000年過ぎに運転開始することを目途に計画が進められており、これを積極的に推進するとともに、実証炉以降についても、FBRの実用化に向けて、計画的かつ着実に推進していくことが重要である。実証炉及び実証炉以降のFBRに必要なプルトニウム量については、それらの計画が今後より具体化して行く過程において正確に評価する必要があるが、現時点で、2010年頃までの累積所要量を推算すると、10~20トン程度になるのとみられ、この変動幅は主として実証炉以降のFBRの導入時期と規模如何によって生ずる。このように、2010年頃までの需要量については、実証炉ばかりでなく実証炉以降の計画如何が大きな影響を与えるので、今後とも長期的観点にたってそれらの計画を継続的に検討していくことが望まれる。

 ATRについては、原型炉「ふげん」において、現在、信頼性の一層の向上等を目的とする運転が続けられているとともに、2000年頃の運転開始を目途に青森県大間町に実証炉の建設計画が進められており、核燃料リサイクル体系の柔軟性を高める観点から、今後とも着実に推進していくことが重要である。「ふげん」及び現在計画中の実証炉の運転に必要なプルトニウム量は、年間0.5~0.6トン、今年度から2010年頃までの累積では10トン弱である。

 (ロ) 軽水炉による利用計画
 軽水炉による今後の核燃料リサイクル計画については、現在の少数体規模での実証計画の成果を踏まえつつ、最初の利用計画として、1990年代央に、80万キロワット級以上のBWR及びPWRそれぞそ1基において、その1/4炉心相当分をMOX燃料とするリサイクル方法を採用することが適当である。電気事業者においては、今後、この計画の円滑な実施のために必要な諸準備を進めていくことが適当である。

 軽水炉による核燃料リサイクル利用の目的は、エネルギー供給面で一定の役割を果たすとともに、FBRの実用化に向けて、実用規模の核燃料リサイクルに必要な技術、体制等をそれによって整備することにある。そのためには、実用再処理施設及び実用MOX燃料加工施設の規模等を勘案し、適切な規模の軽水炉リサイクル利用を継続的に行っていくことが不可欠であり、我が国の場合は、1/3炉心相当分のMOX燃料を装荷する100万キロワット級軽水炉に換算して、1990年代末には4基程度、2000年過ぎには12基程度の規模にまで段階的かつ計画的に拡大しリサイクル利用を行えるよう、準備を進めていくことが適当である。

 以上の軽水炉による利用計画を実施するに当たって必要なプルトニウム量を見積もると、2010年頃までの累積量として50トン程度にたる。この軽水炉による1〕サイクル規模の具体的な拡大のテンポに関しては、FBR及びATRによるリサイクル利用の今後の展開等を踏まえて、弾力的かつ着実に運用していくことが重要である。
 また、これらの計画には官民が一致して取り組んでいく必要があり、関係省庁において必要な支援を行うことが適当である。

② プルトニウムの確保
 FBR及びATRによる利用計画と軽水炉による利用計画とを合わせると、2010年頃までを想定したリサイクル利用計画に必要なプルトニウム量は、80~90トン程度になるものとみられる。
 一方、プルトニウムの供給源である、東海再処理工場、六ケ所再処理工場及び英仏に委託している海外再処理から、将来それぞれ供給されるプルトニウム量は、実際に再処理される使用済燃料の種類及び量に依存し、推算によらざるを得ないが、現時点で最も妥当と考えられる供給量を見積もると、次のとおりである。

 まず、東海再処理工場については、当面の年間の再処理量は70~90トン程度(使用済燃料の量・ウラン換算)と考えられ、年間約0.4トンのプルトニウムが回収される。しかし、六ケ所再処理工場の運転が始まれば、東海再処理工場の役割はMOX燃料の再処理等に関する技術開発が中心になるものと見られるので、回収されるプルトニウム量は、毎年0.1~0.2トン程度に下がることが予想される。
 六ケ所再処理工場については、1990年代末の運転開始が予定されており、再処理量を段階的に上げていき、2000年過ぎには所定の再処理能力である年間800トン(使用済燃料の量・ウラン換算)の操業に入る計画とたっている。六ケ所再処理工場の規模は、現在実用化されているフランスのUP3工場と同じであり、実用再処理施設の規模として適切なものである。六ケ所再処理工場が本格操業に入った場合、毎年4.5~5トン程度のプルトニウムが回収される見通しである。

 海外再処理によって回収されるプルトニウムの累積量は、我が国の電気事業者と英仏の再処理事業者との契約量から推算して約30トンと見積もられ、これらのプルトニウムは、2010年頃までには全て我が国に持ち帰られているものと考えられる。
 以上から2010年頃までの総供給量を推算すると、東海再処理工場から約5トン、六ケ所再処理工場から約50トン、海外再処理から約30トンの計約85トンとなる。実際のプルトニウムの需給計画においては適正なランニングストックが必要であること等も勘案すると、総需要量が80~90トン程度とみられることから、この約85トンという総供給量は、今後のリサイクル計画を遂行していく上で必要な量である
と判断される。

4. 国内におけるMOX燃料加工体制

(1) FBR及びATR用MOX燃料の加工体制
 FBRの実験炉「常陽」と原型炉「もんじゅ」及びATRの原型炉「ふげん」に用いるMOX燃料については、今後とも、動力炉・核燃料開発事業団が、燃料の製造を行うとともに、ATRの実証炉用MOX燃料についても、これまでの方針に従い、動力炉・核燃料開発事業団が、プルトニウム燃料第3開発室において燃料加工施設の整備を進めることとする。
 FBRの実証炉用MOX燃料に関しては、1987年の原子力開発利用長期計画において、「動力炉・核燃料開発事業団の施設を拡張することにより供給が可能であるが、MOX燃料の製造経験、実証炉の建設計画の進展状況、民間におけるMOX燃料の供給体制の整備の進展状況、製造施設整備のためのリードタイム等を勘案し、1990年代の早い時期に、具体的な燃料加工体制に関する考え方を定めることとする。」とされており、実証炉計画が具体的に進みつつあることから、動力炉・核燃料開発事業団のFBR用MOX燃料製造技術を活用するための具体的検討を早期に進めることが必要である。

(2) 軽水炉用MOX燃料の加工体制
 六ケ所再処理工場における再処理の事業化に対応して、軽水炉用MOX燃料加工の国内事業化の推進を図る必要がある。原子力開発利用長期計画においては、「軽水炉によるプルトニウムの本格的利用におけるMOX燃料については、原則として、民間事業として実施することとし、遅くとも1990年代の早い時期に、具体的な燃料加工体制を確立することとする。」との方針が示されている。軽水炉による核燃料リサイクル利用計画及び1990年代末にも予定されている六ケ所再処理工場の操業開始を踏まえると、2000年頃には年間約100トン程度の国内MOX燃料加工の事業化を図る必要があり、民間関係者を中心として、事業内容に関し具体的に検討を進めることが適当である。ただし、この国内MOX燃料加工事業については、軽水炉リサイクル規模の拡大テンポに応じ弾力的に対応できることが重要である。事業主体の決定、工場の立地地点選定、その設計・安全審査、建設・試運転等のリードタイムを勘案すれば、この事業化方策はできるだけ早期に策定すべき段階にきている。
 なお、上記の国内MOX燃料加工事業化の推進のためには、国内における軽水炉用MOX燃料加工技術の実証を図るとともに、動力炉・核燃料開発事業団の有するMOX燃料加工技術の民間事業者への円滑な移転を行う必要がある。そのため、動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム燃料第3開発室の活用等について、動力炉・核燃料開発事業団と民間関係者の間で早急に検討を進める必要がある。

5. 海外におけるMOX燃料加工

 海外再処理により回収されるプルトニウムについては、少なくとも一定期間の間、適切な量について海外においてMOX燃料加工を行うことが適当である。このため、電気事業者においては、海外MOX燃料加工の開始時期や委託加工の規模等について、早急に検討を進めるべき時期にきている。
 海外で加工されたMOX燃料の我が国への輸送は海上輸送により行われることとなるが、同輸送に関しては、国内の諸法令はもとより、日米原子力協定上の関連する規定や核物質防護条約、IAEA輸送規則等の国際的取り極めに合致した方法で円滑に実施できるよう、電気事業者においてその具体的輸送方法について検討を進める必要がある。なお、その際の輸送計画については、1990年代央からの軽水炉リサイクル計画が遅滞なく進められるように実施する必要があり、政府としても、関係省庁の密接な協力の下に必要な施策と支援を講じることが求められている。
 なお、我が国と原子力協定を締結していない国においてMOX燃料加工が行われる場合には、我が国のプルトニウムが第三国に移転されることにたることから平和利用担保のために必要な措置を新たに講じる必要がある。

6. 回収ウランの利用方策

 再処理により回収されるウランについては、資源リサイクルの考え方を一層進める観点から、その利用を積極的に図ることが重要である。経済性及び利用可能量の点で最も適切であると考えられるのは再濃縮によるリサイクル利用方法であり、国内においては、これまでの成果を基礎に、実用規模における転換、再濃縮、加工及び原子炉での利用に関し、民間関係者と動力炉・核燃料開発事業団が協力して開発を行い、将来の本格的利用に備えることが適当である。
 また、海外に委託している再処理からの回収ウランについては、輸送の効率性等から考えて、海外において転換し再濃縮することが適当であり、電気事業者は必要に応じ、そのための準備を進めていくことが望ましい。なお、この転換又は再濃縮が我が国と原子力協定を締結していない国において行われる場合は、平和利用担保のために必要た措置を新たに講じる必要がある。

7. 使用済MOX燃料の再処理

 核燃料リサイクルに伴い発生する使用済みのMOX燃料についても、資源のリサイクル利用を図る観点から、これを再処理しプルトニウムとウランを回収することが重要である。このため、今後、FBR及びATRの使用済燃料を含め、動力炉・核燃料開発事業団において、MOX燃料の再処理回収効率の向上等を目指した技術開発を進めることが適当である。


(参考) 核燃料リサイクル専門部会の設置について
1989年5月9日
原子力委員会

1. 目的

 原子力委員会が1987年6月に策定した「原子力開発利用長期計画」に基づき、海外に委託して行う再処理の本格化、青森県六ケ所村における民間再処理工場計画の進展、新型動力炉(FBR及びATR)の開発の進捗等に対応した総合的かつ具体的な核燃料のリサイクル政策について調査審議することを目的に、原子力委員会の下に「核燃料リサイクル専門部会」を設置する。

2. 審議事項

(1) 軽水炉におけるプルトニウム利用の進め方
(2) 混合酸化物燃料の加工体制の整備の進め方
(3) 英仏からのプルトニウム返還輸送の進め方
(4) 回収ウランの利用の進め方
(5) その他、核燃料のリサイクルに関する重要事項

3. 構成員

 別紙のとおりとする。

4. その他

 核燃料リサイクル専門部会の下に、必要に応じ、分科会を置くものとする。


作業分科会の設置について
1990年5月30日
核燃料リサイクル専門部会

1. 設置の目的

 核燃料リサイクル専門部会の調査審議事項のうち、軽水炉燃料リサイクルの推進に関し、国として検討を要する当面の課題について検討するため、「作業分科会」を設置する。

2. 作業分科会の構成員

 核燃料リサイクル専門部会の部会長が、別途指名する。

3. その他

 作業分科会は、その検討状況を、適宜、核燃料リサイクル専門部会に報告するものとする。

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