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昭和61年度原子力産業
実態調査結果について(要約)

昭和62年12月22日
日本原子力産業会議



 本調査は昭和61年度(昭和61年4月1日〜62年3月31日)を対象とし、民間企業(電気事業、鉱工業、商社)の535社についての支出高、売上高、取扱高、従事者数の実績および将来の見込み等についてとりまとめたものである。

〔61年度の特徴〕
○昭和61年度の原子力界はチエルノブイル原子力発電所事故によって幕を開け、その影響によって世界的な原子力開発の混迷感は一段と深まったが、わが国の原子力産業の活動状況については、総じて事故の影響をうけることなく展開した。

 今回の実態調査結果をみると、原子力市場の趨勢を決定づける電気事業の原子力関係支出高は過去最高の1兆6,529億円(前年度比7%増)を記録した。

この支出のうち建設費はほぼ前年度並みで推移したが、運転維持費は前年度比26%増と大幅に増加した。また燃料費は円高の影響もあり、前年度比10%減にとどまった。建設費、運転維持費、燃料費の電気事業支出に占める構成比はそれぞれ41.3%、35.5%、17.4%となっており、運転維持費のウエイトが年々大きくなっている。

 鉱工業の原子力関係売上高は前年比5%減の1兆4,455億円と2年連続して減少した。これは核融合関連機器を中心とする政府向け売上高の減少が大きく影響しており、逆に懸念された電気事業向けへの売上げは堅調な電源投資に支えられて、ほぼ前年度並みの実績を維持している。今回の売上げのなかでは燃料サイクル部門の売上げが35%増と著しい。

 一方、鉱工業の原子力関係支出高は生産設備投資が前年度より2倍以上も増加したこともあり、前年度比4%増の1兆4,230億円を計上した。また鉱工業の研究支出高は前年度比5%減の805億円とやや低調に推移した。

 将来の原子力市場動向を予測する上で重要な指標となる鉱工業の原子力関係受注残高(61年度末現在)は61年度売上高の2.4年分に相当する3兆5,305億円(前年度比2%減)と過去最高だった前年度に次ぐ手持ち量をキープした。しかし今後、1、2年は電気事業の支出のうち建設費がかなり抑制される見通しであるため、この受注残高がそのまま売上増につながるかどうか予断を許さない。

 今回調査の特徴として、電気事業の運転維持費の着実な増加あるいは鉱工業の燃料サイクル部門の売上増にみられるように、これまで新規発電所建設工事に多くを依存していた市場が、保守・サービスや燃料サイクル事業の拡大に伴って多様化しはじめたことが注目される。また今後の市況については、将来見込みを示す指標をみる限りは、ここ1、2年で底固めに入り、5年後頃には再活性化することが期待され、産業界としても業務の多様化という市場構造の変化に対応した基盤の整備、技術者の育成等、バランスのとれた展開を図っていくことが課題となろう。

〔電気事業支出の動向〕
○電気事業支出高は過去最高を計上したが、内訳は最も大きなウェイトを占める建設費が6,828億円(前年比0.03%増)、次いで運転維持費は5,860億円(同26%増)、燃料費2,869億円(同10%減)、また準備費は513億円(同12%増)などとなっている。

〔鉱工業の売上動向〕
○売上高1兆4,455億円の部門別内訳は、原子炉機材7,761億円(前年度比3%減)、建設・土木1,873億円(同3%減)、燃料サイクル1,514億円(同35%増)、発変電機器1,068億円(同26%減)、RI・放射線機器670億円(同8%減)、その他製造1,569億円(同24%減)となっており、今回増加した部門は燃料サイクル部門のみであった。

○鉱工業の納入先別売上高は、電気事業1兆245億円
(前年度比1%減)、メーカー2,530億円(同2%増)、政府1,178億円(同34%減)、公私立大・病院等364億円(同11%減)、輸出139億円(同34%減)となっており、とりわけ政府向けの売上高が核融合関連機器の納入減によって大きく減少した。また懸念された電気事業向けは、前年度並みをキープした。

〔鉱工業支出動向〕
○61年度の鉱工業支出のうち、生産設備投資は下北地区における濃縮、再処理、低レベル廃棄物貯蔵施設の建設着工に向けて先行的な投資が計上されてきたことをうけ、前年度比2.05倍の985億円となった。研究支出は5%減の805億円にとどまったが、鉱工業の原子力関係研究投資率(研究支出高/売上高)は前年度の5.55%から5.57%へと微増した。一般産業のそれが2.31%(60年度実績)であるので原子力産業は依然として研究開発指向の強い産業といえよう。

〔鉱工業の受注残高〕
○鉱工業の原子力関係受注残高(61年度末現在)の主な部門別内訳は、原子炉機材2兆5,740億円(前年度比3%増)、燃料サイクル2,819億円(同7%増)、建設土木3,071億円(同21%減)、発変電機器2,734億円(同25%減)などとなっており、今回受注増となった部門は原子炉機材と燃料サイクルの部門であった。

〔支出見込み〕
○電気事業の支出見込みは1年後の62年度1.01倍(61年度実績比)、2年後1.08倍、5年後の66年は1.23倍の1兆9,807億円となっている。1、2年後までは建設費がかなり抑制されているが、逆に運転維持費は20〜30%増の見込みで、2年後の見込みでは建設費よりその支出が多くなっている。5年後には建設費も今年度の1.18倍が見込まれており、計画通り進めば原子力発電市況は回復することが期待される。

○鉱工業支出見込みは61年度実績比で62年度1.02倍、2年後0.97倍、5年後1.13倍となっており、しばらくは現状水準で推移するが、5年後にはやや上向くという結果となっている。とりわけ燃料サイクル関係を中心とする設備費が高い水準を保っており、5年後には1,600億円近い設備費の計上が見込まれている。

〔人員の動向および見込み〕
○民間企業の原子力関係従事者(61年度末現在)は前年度比1.7%増の59,771人で3年連続の減少にやっと歯止めがかかった。内訳は電気事業8,816人(前年度比1.5%増)、鉱工業50,955人(同1.8%増)である。また民間企業の原子力関係の技術系従事者は4.5%増の31,594人でここ数年漸増している。

○民間企業の原子力関係従事者の見込みは、61年度末実績比で電気事業が1年後(62年度)1.01倍、2年後1.02倍、5年後1.07倍9,423人、また鉱工業も1年後1.02倍、2年後1.04倍、さらに5年後には1.11倍の56,306人が見込まれ、両者とも堅実な見通しをたてている。

〔その他〕
○61年度の原子力産業の財・サービス・フローチャートによれば、国内の市場規模(最終需要者への国内・海外からの調達額から輸出額を差引く)は1兆3,550億円、これから燃料費用を除いた機器材・サービスだけの市場規模は1兆1,900億円となる。これに対する国内調達比率は98.8%で機器・サービス財の殆どは国内で賄われている結果となった。しかし原子力貿易でみると燃料関係の輸入額が大きく、差引1,720億円の輸入超過となっている。

○鉱工業に対して行ったアンケートによれば、61年度における原子力関係製品製造設備の平均操業率は売上げの減少によって前年度の63.7%から60.2%へとやや低下した。なお鉱工業の原子力製品製造における採算ラインは70.5%という結果となっている。

 また原子力事業の戦略についてのアンケートでは、厳しい市場環境を迎え事業方針が従来の方針より変わったかどうかについて、「変わった」と答えた企業が全体の17%、「現在策定中」が21%、「変わらない」が62%となっており、とりわけ原子力事業のウェイトが高い企業が事業戦略(方針)の見直しを進めている結果が示された。その新たな事業戦略の内容についても市場戦略、人員、研究開発等に関し興味ある回答が寄せられた。


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