前頁 |目次 |次頁

放射線利用の推進について



昭和62年2月26日
原子力委員会
放射線利用専門部会

  1 はじめに

 放射線利用については、原子力発電と並ぶ原子力平和利用の重要な柱として、これまで様々な研究開発が進められ、現在、工業、農業、医療等様々な分野で放射線が幅広く利用され、国民生活の向上に大きく貢献している。

 このような状況に加え、近年、放射線の新たな利用について期待が集まっている。即ち、物質・材料、情報・電子、ライフサイエンス等の先端科学技術の急速な進展及び放射線利用分野における加速器技術の進歩等が相まって、先端科学技術の放射線利用への応用と放射線の先端科学技術分野への応用とが相互に進みつつあり、今後の一層の進展が期待されている。このような従来とは異なる放射線利用の新しい局面は、科学技術の発展に大きく貢献する可能性を秘めている一方、この研究開発には、多額の資金、優れた人材及び長期の期間を必要とするため、今後の研究開発の効率的な推進方策につき検討する必要がある。

 また、これまで研究開発が行われてきた分野で、実用化が円滑に進んでいない分野や今後実用化が期待される分野について、実用化の促進に必要な事項を検討することも必要な状況となっている。

 さらに、放射線利用に係る国際協力は、原子力平和利用における国際協力の重要な柱として、開発途上国協力を中心に様々な分野について進められてきたが、今後とも、我が国が原子力先進国として国際的責務を果たす等の観点から、今後の国際協力のあり方について検討していく必要がある。

 当専門部会は、このような放射線利用に係る最近の状況を踏まえ、今後の放射線利用推進のための研究開発等のあり方について鋭意審議を進めてきたが、今般以下のとおり取りまとめたので報告する。

 なお、加速器を応用した二次ビームの利用のなかには、従来の原子力の研究開発利用における放射線利用の範囲を越えるものもあると考えられるが、加速器技術の今後の全体的なあり方を考える上で検討対象に含めることが望ましいとの判断からこれらを含めて検討を行い、本報告を取りまとめた。

 当専門部会は、本報告に沿って逐次具体的施策が展開され、放射線利用がさらに進展することを期待する。

  2 放射線利用の現状

(1)実用化の現状
 これまで進められてきた放射線利用の研究開発の成果として、放射線は、現在、工業、農業、医療等の分野、さらに広範な研究分野で幅広く利用されている。

 工業分野においては、各種の高分子材料等の製造・加工、検査、計測等に放射線が幅広く用いられている。電子線は、耐熱性電線被覆材料、発泡ポリエチレン、熱収縮チューブ、電池用隔膜等の製造、タイヤ用ゴムの前処理、塗装塗膜の硬化等に幅広く利用されており、現在、これらに用いられる電子加速器は国内で90台以上が使用されているといわれている。また、]線装置や60Co、192Ir等の密封RIが非破壊検査に用いられているほか、密封RIを利用した厚さ計、レベル計、密度計、水分計、硫黄分析計、ガスクロマトグラフ装置等が工程管理等に広範に利用されている。このほか、医療用具等の滅菌が60Coのγ線を用いて国内数カ所の施設で実施されている。

 農業分野においては、食品照射、害虫防除、品種改良等に放射線が利用されている。食品照射は、放射線の生物効果を利用して食品の保蔵性を高める方法であり、近年世界的に実用化等の動きが活発化しているが、国内では、60Coのγ線により馬鈴薯の発芽防止を行う実用照射施設が1カ所稼動している。また、害虫防除については、60Coのγ線により不妊化した害虫を野外に放飼して害虫を根絶させる不妊虫放飼法が実用化されており、南西諸島及び小笠原諸島の3カ所で害虫根絶に成功している。このほか、60Coのγ線等を利用した農作物、園芸植物等の品種改良が行われており、優れた形質を持った品種が育成されている。

 医療分野においては、診断及び治療に放射線が広く用いられている。診断については、RIを結合させた放射性医薬品が特定臓器やがん病巣などの診断、血液や尿中の微量物質の検査等に広範に用いられており、また、]線透視装置、]線装置とコンピュータとを結びつけた断層画像情報を得ることができる]線CT等が広く診断に用いられている。

 治療については、がんが主な治療対象となっており、現在、60Co遠隔照射治療装置及び60Co、192Ir等の密封小線源によるγ線、電子加速器等による]線、電子線を用いたがん治療が広く行われている。

 研究分野においては、特にライフサイエンス関連分野において、RIがトレーサーとして生合成機構や代謝機構、ホルモンや薬物等の作用機構の解明等に広く用いられるとともに、最近の遺伝子工学分野においてもRIは不可欠なものとして幅広く利用されている。また、分析手段として、蛍光]線分析装置やRIを装備したガスクロマトグラフ装置等が広く用いられるとともに、放射化分析法も微量元素の分析に広く利川されている。さらに、様々なタイプの加速器が広範な研究に利用されている。

 このように、これまで進められてきた放射線利用の研究開発の成果のかなりのものが様々な分野での実用化に結びついており、これらの開発された技術は、民間主体の技術分野として、かなり成熟化、定着化してきていると考えられる。

 このような実用化の一方で、後に述べるように、研究開発の成果が実用化に結びつかなかったものもあるなど、いくつかの問題もある。

(2)研究開発の現状
 放射線利用の研究開発は、目指す利用目的において多岐にわたり、また研究開発のレベルにおいても様々なものがあるが、当専門部会における今回の検討においては、今後の研究開発のあり方を考える上で、これを大きく次のように分類して検討を進めた。

@60Coのγ線、電子加速器からの電子線等の照射利用技術や一般的なトレーサー利用技術のように既に基本的に確立されている利用技術を、新たな用途に応用することを目指した、いわば応用的な研究開発

A従来の放射線とは種類、エネルギー範囲等の異なる放射線、高度に制御された放射線の利用、新しいトレーサー利用のように放射線利用の高度化を目指した、いわば放射線の高度利用のための研究開発
(i)応用的な研究開発
 応用的な研究開発は、古くから特殊法人や国公立試験研究機関を中心に行われ、数多くの実用化の成果を生み出してきたが、現在も引き続きこれらの機関を中心に、照射利用及びトレーサー利用について研究開発が実施されている。

 照射利用についてみると、工業分野については、日本原子力研究所や国公立試験研究機関を中心に、機能性高分子材料、耐放射線性材料等の開発、生物活性体の固定化、中性子ラジオグラフィによる非破壊検査、工程管理用オンライン分析計測技術等に係る研究開発が行われており、環境保全分野についても、同じくこれらの試験研究機関を中心に、排煙処理技術、上水原水や下水汚泥の処理技術等の研究開発が行われている。農林水産分野については、農林水産省の試験研究機関を中心に、品種改良、食品照射等の研究開発が、また、医療分野については、放射線医学総合研究所や大学を中心に、速中性子線や陽子線等によるがん治療の研究開発が行われている。このほか、これらの分野での放射線利用の基礎となる放射線標準の研究が電子技術総合研究所を中心に進められている。

 トレーサー利用に係る応用的な研究開発は、現在、農林水産分野や医療分野におけるものが大宗を占めている。農林水産分野については、農林水産省の試験研究機関を中心に、動植物体内や環境中での物質の動態解明等へのRIトレーサーやアクチバブルトレーサーの利用のための研究開発が行われている。医療分野については、厚生省の試験研究機関を中心に、疾患の機構解明、検査、診断等へのRIトレーサーの利用のための研究開発が進められている。

(ii)高度利用のための研究開発
 応用的な研究開発の一方で、加速器技術、ビーム制御技術、新しい放射線の発生技術等の開発が近年急速に進み、放射線の高度利用を目指して、現在のような取組みが進められている。

 近年の放射線の照射利用分野における高度利用は、いわゆるビーム利用として、大学、日本原子力研究所、理化学研究所、国立試験研究機関(電子技術総合研究所、放射線医学総合研究所等)を中心に様々な研究開発が進行中である。大学関係では、新しい放射線の基礎的研究が進められているが、特に、高エネルギー物理学研究所においては、大規模加速器施設による高エネルギーの陽子線、電子線、陽電子線等を用いた原子核・素粒子研究等への取組みを進めているほか、高エネルギー電子線を用いた放射光(SOR)実験施設(第2世代SOR施設)で各種の利用研究が行われている。

 日本原子力研究所では、冷中性子を利用した研究等のためJRR−3の改造が行われているほか、高度に制御された重粒子線等の広範な利用を目指した放射線高度利用研究や、高品質重粒子線及び自由電子レーザーの研究開発に取組むこととしている。理化学研究所では、重イオン科学分野を中心に研究開発を進めてきており、現在、高エネルギー重イオンの原子核物理研究等への利用及び材料、生物学研究等への応用を目指したリングサイクロトロン施設の整備を進めている。

 電子技術総合研究所では、高エネルギー電子線をベースとするSOR、自由電子レーザー、チャネリング放射光、レーザーコンプトン散乱γ線等の基礎的な発生技術の開発等を進めている。放射線医学総合研究所では、高エネルギー重粒子線によるがん治療を目指して、重粒子線がん治療装置の建設に着手することとしている。このほか、民間企業が中心となって小型SORの開発に着手している。

 トレーサーの高度利用のための取組みとしては、医療分野において、ポジトロンCTの高解像度化等に係わる研究が放射線医学総合研究所を中心に民間も参加して進められているほか、短寿命RI標識化合物の開発が放射線医学総合研究所や大学、厚生省の機関等で進行中である。

(3)国際協力の現状
 放射線利用分野の国際協力は、現在、開発途上国協力を中心として、国際機関(IAEA等)を通じた協力、二国間協力、原子力研究交流制度による協力、国際協力事業団(JICA)を通じた協力等各種の枠組みの下で、理工学、医学、農林水産等様々な分野で積極的に進められている。

(i)開発途上国協力
 放射線利用分野の開発途上国協力は、IAEA/RCA協定(原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定)に基づく多国間協力を中心に進められてきているが、最近、関係国の要請を背景に二国間協力等も活発になってきている。

 IAEA/RCA協定に基づく協力計画としては、現在、工業利用プロジェクト、医学・生物学利用プロジェクト等が進められている。我が国は、工業利用プロジェクトについては、日本原子力研究所、民間団体等が中心となり、天然ゴムラテックスの放射線架橋、電子線による木材の表面塗装、非破壊検査、放射線計測機器の維持管理等の分野で、専門家派遣、研修生受入れ等を行うとともに、医学・生物学利用プロジェクトについては、放射線医学総合研究所、国立がんセンター等が中心となり、核医学、放射線治療、環境放射能等の分野で共同研究、専門家派遣等を進めている。また、IAEAの下で、放射線利用による生物活性体の固定化とバイオマス変換に関する個別研究協力、食品照射等放射線の農業利用関係の専門家派遣、研究者受入れ等を、日本原子力研究所や農林水産省の試験研究機関で実施中である。

 二国間協力としては、インドネシアとの天然ゴムラテックスの放射線改質の研究協力、マレーシアとの60Co照射施設の設計等の協力、中国との重イオン核物理・加速器技術に関する情報交換や共同実験、γ線照射線量評価に関する情報交換等を、日本原子力研究所、理化学研究所、名古屋工業技術試験所等が進められている。

 このほか、原子力研究交流制度による研究者交流、JICA協力、WHO等の枠組みの下での研修生受入れ等が関係機関により行われている。

(ii)先進国協力
 放射線利用分野の先進国協力は、二国間協力のほか、IAEA等国際機関の下での多国間協力等も進められている。

 二国間協力としては、理化学研究所が、重イオン科学関係で米国の大学との研究協力及びフランスの国立研究機関との共同研究を、また、日本原子力研究所が、中性子散乱、核物理・加速器技術関係で米国国立研究所等と情報交挨、共同実験等をそれぞれ進めている。また、OECD/IEA(国際エネルギー機関)や米国との核融合炉材料中性子照射共同研究等を日本頂子力研究所等が進めているほか、IAEAの下では、IAEA/CRP(協力研究計画)として進められている放射線利用における各種研究に関する情報交換活動、IAEAや国際度量衡局(BIPM)の下での放射線単位・標準の情報交換活動等に、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所、電子技術総合研究所等が参加して協力を進めている。また、FAO、IAEA等の下で、農林水産省の試験研究機関が、農業分野での放射線利用に関して専門家派遣等を行っている。

  3 放射線利用の今後の課題

 以上述べた放射線利用の現状をみると、これまでの研究開発の成果のかなりのものが実用化に結びついているが、実用化に至らなかったものもあるなど、いくつかの問題も抱えている一方、加速器技術及びビーム利用に関し新しい動きが起こっており、そのいくつかは、原子力平和利用の重要な柱の1つとして進められてきたγ線、電子線の利用等の伝統的な放射線利用から大きく発展しており、原子力という範囲を越えて一般的な科学技術と密接な関連を有し、その発展に大きく貢献しつつある。そのため、長い間行われてきた応用的な研究開発と実用化の推進に係わる考え方の整理、また新しいビーム利用等への対応、さらに国際的研究協力についての新たな展開が今後の重要な課題である。

 このような背景から、今後の放射線利用に係る次のような課題が検討されるべきである。第1に挙げられるものは、これまでのように、放射線利用の実用化の推進を図っていくことである。既に述べたように、放射線利用の研究開発の成果のかなりのものが様々な分野での実用化に結びついているが、研究開発の結果、実用に供することができる程度の技術レベルに達しながら、実用化に至らなかったもの、あるいは、不十分であるものも少なくない。その例としては、照射利用分野における高分子合成・改質のいくつかの例や食品照射、トレーサー利用分野におけるRIの野外トレーサー利用等が挙げられる。このうち、食品照射については、原子力委員会の原子力特定総合研究として、馬鈴薯、玉ねぎ、米、小麦等7品目について研究開発が実施されたが、現在実用化されているものは馬鈴薯にとどまっている。これらの実用化への阻害要因を整理すると、研究開発に係る問題を越える次のような要因が挙げられる。
@ 経済的要因:放射線の照射利用の場合、一般に照射施設は線源、遮へい等の関係から高価なものとなることが多いため、高分子合成・改質の一部のものにみられるように、個々の事業者において、一定量以上の安定的な需要が見込めない場合は、放射線処理法はコスト面で不利となり、実用化には結びつき難い。

A 社会的要因等:特に食品照射に見られるように、放射線によって処理された食品の健全性が消費者等に容易に理解されないという問題がある。また、照射施設の立地が地元住民の反対により難航する例も見られる。このほか、RIの一部の野外トレーサー利用のように、安全確保上の配慮から実用化に至らなかった例もある。
 今後、放射線利用の実用化の推進を図っていくためには、利用の拡大を阻害する上記の要因による問題について、各々の実情に即してその解決を図っていくことが重要である。

 また、実用化の推進を図るための研究開発については、先に述べた応用的な研究開発が重要となるが、この分野については、これまでかなり広範な分野にわたって研究開発が進められ、現在も、国の機関を中心として様々な研究開発が実施されている。しかし、一方で大学や国の機関を中心に様々な新しい利用の可能性を秘める高度利用のための取組みが進められており、一定の限度のある国の資金、人材を考慮すると、応用的な研究開発分野については、国が推進すべき分野を明確にして、重点分野を絞っていく必要がある。

この場合、実用化の可能性について、技術的、経済的、その他の観点からの検討、評価を十分に行う必要がある。

 第2の課題は、多くの新しい利用の可能性を秘める放射線の高度利用のための研究開発を積極的に推進していくことである。この研究開発には、多くの異なる分野の研究者の協力が不可欠であるとともに、特にビーム利用について大型加速器等への多額の資金と優れた人材の確保が前提となるが、これらの研究開発資源には一定の制約があり、研究開発の効率的な推進に十分配慮する必要がある。

 第3の課題は、我が国が、放射線利用分野における開発途上国からの協力要請に応え、また、放射線の高度利用への取組みを通じて放射線の新しい利用分野を創出することなどにより、従来にも増して国際社会に貢献していくことである。開発途上国協力については、協力をより効果的なものにするためには、従来のIAEA等を通じた協力に加え、二国間協力の積極的な推進が必要である。また、国内における放射線の高度利用への取組みの推進に併せ、研究開発資金の重複投資の回避、各国の得意分野の成果の持寄りによる研究開発の加速化等の観点から、今後放射線の高度利用分野における先進国協力が重要となる。

表−1 ビーム利用における今後の高度利用の可能性

  4 具体的施策

(1)放射線利用の実用化の推進
 γ線、電子線等を中心とした放射線利用は、既に述べたように、長い年月にわたる研究開発や市場開拓の努力もあり、多くの分野で実用化されている。今後さらに民間部門で実用化を促進するためには、経済的あるいは社会的な阻害要因を除去していく必要があり、そのため次のような諸点が重要であると思われる。

 まず第1に、放射線法の特徴が十分生かせる分野に重点を絞って応用対象の拡大を目指すことである。従来の実用化例について、放射線法の特徴をみると、放射線の優れた物質透過性、低温での反応が可能などの特性を利用した結果、競合する技術に比べ、製品の高品質化が図れるとともに、プロセスの簡素化、省資源化、省エネルギー化、低公害化等が促進されるなどの点を挙げることができる。

 例えば高分子の架橋についてみると、放射線の優れた物質透過性から、固体内部に均一な反応を起こさせることが可能であるため、反応を促進させる条件として反応開始剤を添加し、これを加熱するなどの手間のかかるプロセスを必要としないといったことが良い例であろう。このように、高分子の架橋、塗装塗膜の硬化、医療用具の滅菌等、放射線の特徴が十分生かせる分野では放射線が不可欠な技術として使用されており、今後も放射線法の特徴を十分認識し、重点を絞って応用対象の拡大を目指すことが重要である。

 第2に経済性になじむような加速器の開発等効率的な照射技術を開発することである。これまでの加速器等の照射装置は多目的に使用できるような設計になっている場合が多いこと、さらに放射線の遮へい等が高価であることから、設備投資に多くの資金が必要となる。

 これに対して、現実には、照射品目が少なく、また、各製品の需要も少ない場合が多く、経済性になじまないことが原因となって放射線法の普及が進まない状況がしばしばみられる。このため、今後は、加速器等のメーカー及びユーザーが協力して、各々の照射対象に適合した効率的な加速器の開発等、必要な性能を維持しつつ装置の簡素化・小型化等を進め、ひいては経済性が発揮できるような、効率的な照射技術を開発することが望まれる。

 節3は、先に述べた2つの点とも深い係りを有するものであるが、民間企業等において施設の共同利用化を図ることである。グラフト改質による機能性膜の製造、食品包装材、半導体等の加工等に加速器が、また、材料の耐放射線性評価等に60Co・γ線照射施設が共同利用されている例が一部あるが、研究を支援する手段としてのみ必要であったり、市場規模が小さいこと等により、独自で照射施設を設置することは投資効率が非常に悪い場合がかなりある。

 この場合、民間企業等において、既存の施設の共同利用を推進したり、新たな共同利用施設を建設する等の取組みが期待される。

 また、消費者の適切な理解を得られないとか、施設の立地に係わる住民の反対など社会的要因等により実用化が阻害されることに対しては、国及び民間により積極的な啓発及び広報活動を行うとか、特に食品照射の分野などについては、国民の理解の促進を図りつつ、関係行政機関において制度面の整備や合理的な運用を行うなどの措置が緊要である。

 さらに、放射線利用の実用化の推進に必要な応用的な研究開発については、次のようなものについて国等の公的機関が主導して研究開発を進めることが適当であると考えられる。
@例えば、環境、資源、医療、農業分野などにおける放射線利用研究のように、社会的要請がありながら民間がその主体になろうとする強いインセンティブが働かない研究

A照射食品の基準、放射線標準等国が定める規格、基準に係る研究

B実用化のために基礎的研究が不可欠であるため、民間から強い支援要請がある研究

C国際協力として必要な研究
 今後の放射線利用の研究開発については、成熟しつつある技術領域での上記の努力のほかに、次に述べるような新しいビーム利用、新しいトレーサー利用といった放射線の利用を高度化の方向へ導く分野に研究開発資源を重点的に投入する必要がある。

(2)放射線の高度利用のための研究開発の推進
(i)ビーム利用
イ高度利用の可能性
 放射線利用の推進のために、既に述べた応用的な研究開発の一方で、ビーム利用を中心として放射線利用のための新たな取組みも行われてきた。即ち、放射線のより高度な利用を目指して、加速器技術、ビーム制御技術、新しい放射線の発生技術等の開発が進められ、従来より高いエネルギーあるいは低いエネルギーの放射線、パルス化やマイクロビーム化された放射線、重粒子線等の新しい放射線等の利用の途が新たに開けてきた。また、情報処理技術等の他の先端技術分野の成果を活用した]線CT等の開発も進められてきた。これらの放射線利用のための新たな技術開発により、新材料開発や材料損傷研究、がん治療や高度な医療診断、各種の高度な計測・分析技術の開発・利用、原子核物理や素粒子物理の研究等の放射線の新たな利用、いわば高度利用が進んできた。

 このように、放射線利用は、その時点で利用可能なレベルの放射線を用いて多分野への利用を目指す応用的な研究開発と、放射線のより高度な利用を目指した技術開発、その成果に基づく放射線の高度利用のための研究開発とが、今日の放射線利用の姿を形作ってきたといえるが、特に後者は、放射線利用に新しい途を開き、新技術の創出等大きな波及効果が期待されるものであることから、特に重要な意義を有している。

 このような観点から、今後は従来にも増して放射線の高度利用のための取組みを推進していく必要があるが、今後のビームの高度利用の可能性について、放射線の種類ごとに検討を行い、研究開発の重点分野ごとに整理すると、おおむね表−1のとおりである。

ロ 具体的な取組み
 特定のニーズに対応した実用化のための装置開発が中心となるものとしては、表に示すように、現在取組みが進められている小型SORのほか、大電流電子線・]線、124Sb−Be中性子源(可搬型)及び大電流重粒子線があり、これらについては、民間が中心となり、必要に応じて国も支援する形で研究開発が進められ、新たな利用分野が開拓されることが望まれる。

 放射線の利用技術の研究開発が中心になるものについては、放射線の発生技術がほぼ確立されており、利用技術への本格的な取組みが進められているか、又は本格的な取組みの開始が確実なものが大部分となっており、全体的には活発な研究開発が実施されていると言えよう。具体的には、2の(2)の(ii)で述べたような研究開発が現在進行中である。これらについては、今後とも着実に研究開発を推進していくことが重要である。

 現在、表に整理した放射線の発生技術の研究開発が中心になる課題を軸に、新領域への放射線利用の展開が始まっている。これらの研究開発課題は、ビーム発生技術が確立すればさらに広範で、高精度の利用を可能にするものであり、その必要性、期待される成果及びその波及効果は非常に大きく、また国際的に見ても欧米諸国が精力的な研究が行われており、国際的研究協力により国際的にも貢献できるものであると言えよう。

 しかし、技術がより高度に複雑化することにより、資金、多分野に係わる人材等研究開発資源の結集が必要であり、各課題に対応した適切な研究開発計画が必要と思われる。

 以上の点を踏まえながら、新しいビームの発生技術の研究開発に係わる取組み方について以下に述べる。
(イ)π中間子・μ粒子ビームは基礎物性研究、がん治療、核融合等、単色中性子線は物性研究等、RIビームは新物質創成や新分析技術等、熱外中性子線は元素別ラジオグラフィーや元素別CT等にそれぞれ有用なものと期待されているが、限られた研究開発資源及び技術的な蓄積を有効に活用するという観点から、理化学研究所、日本原子力研究所、大学等が中心となって、既存施設、整備中の施設あるいは新たに整備される施設の活用等により、当面これらの基礎技術の蓄積に努めることが適当であると考えられる。

(ロ) 第3世代SOR、大強度高エネルギー陽子線(含:重陽子線)、大強度高エネルギー中性子線、冷中性子線(加速器発生)については、目的とする研究を実施するためには、ビームの発生に係わる多くの要素技術を開発していく必要があり、さらに大型施設の建設に、膨大な資金が必要であるため、所要の調査検討を行って研究開発計画を精緻なものにする必要がある。

 第3世代SORは、現在利用可能な第2世代SORよりさらに輝度が高く、短波長領域をカバーするものとして、特に、生体高分子の構造解析、超微細加工、極微量試料の静的・動的解析、医学診断(血骨造影等)に極めて有用なものとして各方面から強い期待が寄せられているとともに、原子力用材料開発のための有力な分析・研究手段として、また、将来の短波長光利用同位体分離や核融合プラズマ診断等のための基礎データの取得など、原子力分野での利用も期待されている。また、高輝度化、安定化等の技術開発が必要であるものの、第2世代SORの研究開発等を通じて基礎技術は蓄積されてきているが、資金規模が非常に大きいこともあり、今後施設の必要性、規模、その他技術的問題点等について調査検討が行われることとなっている。このため、この調査検討の結果を待って具体的な研究開発の方針を決定すべきものと判断される。

 大強度高エネルギー陽子線(含:重陽子線)、大強度高エネルギー中性子線及び冷中性子線(加速器発生)は、核融合炉材料研究、核燃料増殖、TRU核種の核種変挨、短寿命RI生産、核反応研究等の原子力分野を中心に広範なニーズがあり、さらに、物質・材料系科学技術、ライフサイエンス等への波及効果があるが、中心的な課題は、大強度高エネルギー陽子線又は重陽子線をベースとする大強度高エネルギー中性子線の発生技術の研究開発である。重陽子線をベースとするものは、核融合炉材料研究の上で強いニーズがあり、過去のFMIT(核融合材料照射試験施設:米国)計画の検討を通じてその意義及び仕様等がかなり明確になっているが、資金規模が非常に大きく、現在、国際協力による共同建設の可能性が検討されている。

 一方、陽子線をベースとするものについては、核融合炉材料研究に加え、核燃料増殖、TRU核種の核種変換写さらに幅広い応用が期待されるが、資金規模はさらに大きい。このため、これらについては、建設計画の具体化を促進するために、上記の方式の比較検討を含めた調査研究を速やかに進めることが適当と考えられる。

(ハ)大強度単色陽電子ビームについては、基礎技術の蓄種がかなりあり、ここ数年で優れた基礎的な技術闘発成果が得られる見通しがあるため、今後適切な研究開発体制を組み、本格的取組みを開始すべきであると判断される。

 大強度単色陽電子ビームは、電子の運動量分布、電子密度や物質のゆらぎの測定、表面研究、高速反応研究等広く材料科学、固体科学に新しい計測手段を提供するものと期待されている。

 ビーム発生技術、取扱い技術等基礎技術も、大学を中心とするこれまでの研究によりかなり蓄積され、世界的にもトップレベルの位置にあり、研究のさらなる進展は国際的貢献度も大きい。

 このため、電子リニアックの大電流化等基礎技術の開発をさらに進め、最先端の陽電子研究利用施設(ポジトロンファクトリー)の整備を目指して、本格的技術開発に取り組むのが適当であると判断される。なお、本施設は大学、民間等からの共同利用の要請が強く、また共同利用可能なまでに技術が蓄積されてきていると判断されるため、共同利用施設とすることが望ましい。

 主な技術開発課題は、ビームを効率よく発生させるための新しいターゲット部の開発、計測・分析精度の向上のためのビーム制御技術(パルス化、マイクロビーム化等)の向上、陽電子の状態を正確に把握する陽電子計測技術の向上等である。

 また、研究開発を推進するに当たっては、これまで各々の機関で個別に蓄積されてきた知見を結集して行う必要があり、具体的には大学及び日本原子力研究所が中心となり、電子技術総合研究所、理化学研究所等と密接な連携を保ちつつ、共同研究・利用体制を確立することが望ましい。

(ニ)自由電子レーザー、チャネリング放射光及びレーザーコンプトン散乱γ線は、基礎技術の蓄積が必ずしも十分でないが、ビームの強度、性質等から判断して非常に望ましい利用が期待できるため、体系的な研究開発計画の下に基礎技術の蓄積をさらに推進すべきと考えられる。これらは、いずれも高品質電子線をベースとするものであり、高品質大電流電子線の加速技術等基礎技術の蓄積をさらに進める必要があるが、これらのビームはいずれも単色、高強度、エネルギー可変の高品質ビームであり、SORでは対応できない高精度の計測・分析、物質の創成・分離等に秘めて有効なものとして強い期待が集まっている。このため、これらの高品質ビームの利用実現に向けて研究開発に取り組むのが適当と判断される。

 主な技術開発課題は、高エネルギー電子線の高品質化、大電流化等の加速器技術及びアンジュレーター技術、ミラー技術等のビーム発生技術と、ウラン濃縮などの同位体分離、放射性廃棄物の群分離技術、材料分析・評価技術、γ線標準技術等利用技術の開発である。

 また、研究開発を推進するに当たっては、加速器技術等の基礎技術の開発については日本原子力研究所、電子技術総合研究所、理化学研究所等関係機関の力を結集して実施し、利用技術については、これらの機関が、関連する機関と密接な連携を保ちつつ、各目的に応じた開発を推進していくことが望ましい。
 以上のような各種放射線の高度利用に関する研究開発を進めるに当たっては、高度利用の基礎となる放射線と物質の相互作用、ビームの計測技術等基礎的研究も重要であり、これらに関する研究も積極的に進める必要がある。

 また、放射線の高度利用分野の加速器技術等ハード面の技術開発は近年めざましいものがあるが、得られたビームを制御、管理及び利用するソフト面の技術開発が遅れている。このため、ビームの制御、計測、情報処理等を高精度・高効率に行ったり、新しい利用法を創出するソフト面の技術開発の推進が重要である。
(ii)トレーサー利用
 
イ高度利用の可能性
 RI等は、放射線の照射利用と並んで、古くから医学、生物学、農林水産、理工学等の分野においてトレーサーとして幅広く用いられ、生命現象の解明、診断、物質の動態解明等に大きな役割を果たしてきた。これらの研究は、新しいRIの利用、オートラジオグラフィー等の手法開発やシンチレーションカウンター等の測定機器の開発に負うところが大きい。

 最近では、これらの成果を基礎として、新しいライフサイエンスの研究が進展しており、これらの研究等に不可欠な特異的標識化合物の開発が重要になっている。特に、医学分野では、各種の研究や検査・診断に放射性医薬品が広く用いられてきたが、最近では特に超短寿命のポジトロン核種を用いた薬剤が重要になっているほか、農林水産分野では、農薬の薬理作用、各種物質の生体や環境中での動態をより詳細に把握するための新しい標識化合物の開発等が望まれている。

 また環境中における物質挙動の解明に有効な手段として近年次第にアクチバブルトレーサーが用いられるようになってきたが、農林水産分野、理工学分野で新しいトレーサー利用技術の開発等が望まれている。

 このような観点から、新しいトレーサー利用に関する研究開発に重点を置く必要があるが、今後のトレーサーの高度利用の可能性について整理すると、おおむね表−2のとおりである。

表−2トレーサー利用における今後の高度利用の可能性

ロ 具体的な取組み
 トレーサー利用については、既に多くの核種や標識化合物の利用が技術的に確立され、広範な利用が行われており、新しいトレーサー利用を含め、この分野での今後の健全な発展を図るためには、RI等が安定的に供給されることが不可欠であり、今後ともその確保に努めることが重要である。

 トレーサーの高度利用のための研究開発が目指すところは、従来もそうであったように、測定技術を含め、新しい標識化合物、核種等の利用を可能にする技術の体系を創出することであるが、特に近年、これらの研究開発は、医学、生物学、農林水産等のいわゆるライフサイエンス分野の研究に貢献するものであるとして注目を浴びている。具体的には、次のような研究開発課題が重要なものとして挙げられる。
(イ)標識化合物及び標識化技術の開発
 標識化には、化学合成により標識化合物を作る方法と、中性子等により測定試料自体を直接標識化する方法があり、前者については、短時間の半減期を持った標識化合物、特定の生命現象等の解明に必要な特異的標識化合物等の開発に重点が移ってきており、有機合成技術とともに、合成された標識化合物が生体内等で如何に作用するか等の解明が重要である。

 特に最近では、ポジトロン放出核種で標識した超短寿命RI標識化合物が、生体内での生命現象をより詳細に把握し得るものとして期待されている。超短寿命RI標識化合物の開発については、その寿命の短さから国が整備された施設を持つなど、国の役割が重要である。

 主な技術開発課題は、ポジトロン放出核種の効率的な生産技術の開発、目的に応じた有効な標識化合物の開発、超短時間標識法の開発等であり、これには、放射線医学総合研究所、大学、その他国の関係機関が連携して進めることが望ましい。 一方、中性子等により測定試料自体を直接標識化する方法については、原子炉あるいは加速器からのビームによる標識化技術の開発が重要である。

 このための主な技術開発課題は、ビームの制御技術等効率的な照射技術の開発と、標識化に伴って生じる妨害元素の影響の解明等であり、これらについては、日本原子力研究所とその他国の関係機関が連携して進めることが望ましい。

(ロ)測定・解析技術の開発
 トレーサーの高度利用には、標識化合物及び新核種の開発と相まって、測定機器の技術的性能向上が不可欠である。

 近年エレクトロニクス及びソフトウェアー技術の進歩により、計測制御技術が発展し、シンチレーションカウンター、オートラジオグラフィ、インビボイメージング等の分野で、測定・解析技術の著しい改良、改善が民間部門に期待されている。特に、ポジトロン放出核種で標識した超短寿命RI標識化合物を利用する場合は、現在開発されているポジトロンCTの解像度をさらに高めることが重要な課題である。また、S/N比の高い画像を得るための装置開発、物質の動態を三次元的に把握するための装置開発、さらには、ポジトロンCT、NMR−CT、]線CT等を総合的に組み合わせて情報処理を行うシステムの開発等により、一層高度な情報が得られるものと期待されている。これらの技術開発課題については、放射線医学総合研究所等の国の機関と民間とが連携して、相互の技術的蓄積を持ち寄り、取り組んでいくことが望ましい。

(ハ)新トレーサー手法の開発等
 野外におけるトレーサー手法としては、アクチバブルトレーサー法が既に実用化され、広く利用されているが、サンプリングが不可能な場合等の新しいトレーサー手法として、ホウ素等による中性子の吸収を利用した中性子吸収トレーサー法や重水の光核反応による中性子を検出する重水トレーサー法が期待されている。前者については一部実用化されているが、今後さらに中性子吸収測定系等の改良が必要であり、また後者については、高エネルギーγ線源の開発及び低バックグラウンド中性子計測法の開発が必要である。これらの技術開発課題については、日本原子力研究所を中心に取り組んでいくことが望ましい。

 また、RIトレーサーやアクチバブルトレーサーに用いられる新核種の開発については、今後のトレーサー利用の新たな発展の基礎となるものであり、国の機関を中心に基礎的な研究開発を行っていくことが望ましい。
(iii)研究開発体制の整備
 高度利用に係わる研究開発の重点分野をみると、研究領域が科学技術の最先端の進歩と深い係わり合いを持っていること、また、研究開発資金、研究者といった研究開発資源の本分野への投入について調和のとれた効率的な配分が必要であることから、特に研究開発体制については従来の考え方にとらわれない斬新なものが要求される。

 放射線利用分野における研究開発体制については、昭和56年の放射線利用専門部会報告において、放射線化学分野の研究開発体制のあり方の基本が次のように示されている。

 即ち、新分野を開拓し、シーズを提供する純基礎研究は大学、シーズとニーズの結合による実用化への芽を提供する目的基礎研究は国公立試験研究機関及び特殊法人、ニーズに対応した実用化研究開発は民間が中心となって研究開発を推進するという体制が示されている。

 今後の放射線利用に係る研究開発についても、基本的にはこれらの考え方に沿って研究を推進していく必要がある。

 しかし、新しいビーム利用やトレーサー利用のような放射線の高度利用のための研究開発については、次のような特質があり、資金負担等の面から全体的な推進役として、国の役割が特に重要である。
@これらの先端的技術分野は、様々な分野の高度な技術の結集が必要である。このため、従来の役割分担では必ずしも効率的な研究開発は困難であり、中心的機関を明確にして、各々の分野で十分な研究開発ポテンシャルを有する大学、特殊法人、国立試験研究機関、民間等の力を結集してこれに当たることが不可欠である。そのため、産・学・官によるプロジェクト体制の整備など産・学・官の連携の拡大・強化を図り、総合的・計画的・効率的な研究開発を推進する必要がある。

Aまた、研究開発には、優れた人材の確保はいうまでもなく、必要な装置や施設も大型加速器等に多額の資金が必要になる。このため、ビーム利用については、国際的にも先端的なものとして必要な装置や施設を中心的機関に拠点的に整備し、関係機関が共同利用していく体制の整備が重要である。トレーサー利用についても、ポジトロン核種等超短寿命核種の生産・利用体制の整備が重要であり、地域的な拠点施設の整備を検討する必要がある。
 なお、放射線利用に係るデータはこれまで各分野ごとに偏在しがちであったが、各分野の研究開発の効率的推進、資金の効率的運用等を図るため、データベースの整備が必要である。

(3)国際協力の推進
 放射線利用分野の国際協力の今後の取組みとしては、開発途上国協力、先進国協力とも、協力対象国及び協力内容の拡充、受入れ体制の整備・強化等を積極的に進める必要がある。国内の関係諸機関においては、従来の取組みを一層推進することに加え、新たな国際協力にも積極的・計画的に取り組んでいくことが望まれる。

(i)開発途上国協力
 放射線利用分野の研究は、長期的観点に立てば、開発途上国の科学技術の振興のみならず、当該国の経済・社会の発展に大きく貢献するものであることから、従来の多国間協力に加えて二国間協力を積極的に推進し、相手国のニーズ・実情を踏まえ、開発段階に応じたきめ細かい協力を積極的に推進していく必要がある。

 また、本分野の研究は、研究基盤や技術基盤の整備・充実が必要不可欠であるため、従来からIAEA/RCA協力等を通じ、人材養成に重点を置いた技術協力、研究協力等が進められてきたが、今後ともIAEA/RCA協力、二国間協力、原子力研究交流制度等を発展させ、当該国の基盤整備に資することが重要である。この場合、我が国との信頼関係の基礎となる人的つながりの形成にも配慮して取り組んでいく必要がある。

 さらに、このような開発途上国協力を一層効果的なものとし、我が国が原子力先進国としての国際的責務を積極的に果たしていくという観点から、日本原子力研究所に、先進国協力も含め、宿泊施設、人材の訓練施設等の整備を始めとする人材の交流を総合的に行う中核的組織を整備することについても検討していく必要がある。

(ii)先進国協力
 放射線利用分野においては、特に今後の放射線の高度利用のための取組みにおいて、研究設備が大型化、複雑化し、多方面の高度な知見が不可欠であるなど、多額の資金と優れた人材の確保が重要な要素となる。しかし、これには相当の制約も予想され、このような財政上及び人材確保上の制約を克服し、また我が国に期待されている原子力先進国としての国際的責務を十分果たしていくという観点からも、放射線利用分野における先進国協力として、共同研究、研究者交流等を今後さらに積極的に推進していく必要がある。

 この場合、従来の研究組織体制を越えて国内外の多分野の研究者を結集し、最大限の流動性を付与して新たな発想に基づく独創的研究を推進することにより、科学的知見の効率的発掘を目指すなど、開かれた体制の整備についても検討していく必要がある。

(参考)

        放射線利用専門部会構成員
(部会長) 斎藤 信房  東邦大学教授
青地 哲男  日本原子力研究所理事
天沼 w  (財)原子力安全研究協会研究参与
大島 恵一  東京大学名誉教授
斎藤 日向  東京大学教授
佐田登志夫  理化学研究所理事
田畑 米穂  東京大学教授
寺島東洋三  科学技術庁放射線医学総合研究所所長
難波 進  大阪大学教授
浜田 達二  (社)日本アイソトープ協会常務理事
東野 俊一  住友電気工業褐レ問
向山 定孝  三井業際研究所常任委員
森 一久  (社)日本原子力産業会議専務理事
石塚 貢  科学技術庁長官官房審議官
堀田 俊彦  科学技術庁原子力安全局次長
寺松  尚  厚生省大臣官房審議官
西尾 敏彦  農林水産省農林水産技術会議事務局研究総務官
逢坂 国一  通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官


        放射線利用推進分科会構成員
(主査) 田畑 米穂  東京大学教授
後川 昭雄  宇宙科学研究所教授
小田 英輔  古河電気工業褐エ子力技術部長
上坪 宏道  理化学研究所主任研究員
国分 郁男  (社)日本原子力産業会議事務局長
小林 宏信  農林水産省農業環境技術研究所水質管理科長
鹿園 直基  日本原子力研究所東海研究所物理部長
舘野 之男  科学技術庁放射線医学総合研究所臨床研究部長
田村 直幸  日本原子力研究所高崎研究所開発部長
寺尾 允男  厚生省国立衛生試験所放射線化学部長
冨増多喜夫  通商産業省電子技術総合研究所量子技術部長
東野 俊一  住友電気工業褐レ問
平木 昭夫  大阪大学教授
山口 彦之  東京大学教授


        放射線利用専門部会開催状況
   (放射線利用専門部会)
第1回   昭和61年8月14日(木)
第2回   昭和61年12月5日(金)
第3回   昭和62年2月26日(木)

   (放射線利用推進分科会)
第1回   昭和61年8月28日(木)
第2回   昭和61年9月26日(金)
第3回   昭和61年10月14日(火)
第4回   昭和61年10月31日(金)
第5回   昭和61年11月14目(金)
第6回   昭和61年12月2日(火)
第7回   昭和62年1月30日(金)
第8回   昭和62年2月23日(月)


前頁 |目次 |次頁