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時の話題

原子力開発利用状況調査報告
-民間における研究開発の状況について-

昭和61年10月
原子力局



 科学技術庁原子力局は、60年4月、「原子力開発利用状況調査」として原子力開発利用分野、特に核燃料サイクル分野および新型炉開発分野を中心とする民間の研究開発費、研究者・技術者数、さらに研究開発施設、研究開発実績、意欲等の民間の研究開発の状況の調査を統計報告調整法に基づき総務庁の承認を得て行なった。ここにその調査の概要について紹介する。

1.調査の趣旨
 本調査は原子力開発利用分野、特に核燃料サイクル分野及び新型炉開発分野を中心とする民間の研究開発費、研究者・技術者数、さらに研究開発施設・実績、意欲等民間の研究開発の状況を把握すべく実施した。対象企業は原子力を利用する産業(電気事業者)と原子力関連機器・資材・施設・役務・サービスを生産・販売する供給産業(原子力供給産業と呼ぶ)の中から主要415社を選定した。郵送によるアンケート調査を行い415社のうち325社から回答があった。調査対象期間は昭和59年度(昭和59年4月1日~昭和60年3月31日)である。(施設状況と意欲については61年4月現在。)

2.調査結果
(1)原子力供給産業の売上高
 原子力供給産業の昭和59年度の売上高合計は1兆7,554億円でその内訳は図A-1に示すように原子炉・周辺機器が1兆3,278億円と全体の75.6%を占め、以下核燃料サイクルが2,314億円で13.2%、RI・放射線機器、利用が50億円で2.9%、核融合が334億円で1.9%と続いている。

 このうち軽水炉の売上が1兆1,808億円(全体の67.3%)と圧倒的に大きいのが特徴である。納入先別の売上高は表B-1に示す通りで、電気事業者への売上が1兆3,592億円(77.4%)と抜きん出ており、以下メーカーが2,005億円(11.4%)国及び国の機関等が1,432億円(8.2%)、輸出347億円(20%)、公私立大学・病院179億円(1.0%)と続く。したがって売上については軽水炉の発注規模に大きく依存しているといえよう。

図A-1 原子力供給産業の売上高 表A-1 納入先別売上高

(2)原子力研究開発の状況
 ① 民間の研究開発支出
 民間における研究開発支出高は表A-2及び図A-2に示すように内部使用支出866億円、外部への支出509億円、自己資金による支出1,110億円となっている。業種別にみると電気事業者の場合内部使用分が59億円に対し、外部への委託分が268億円と大きい。一方、原子力供給産業においては内部の使用分が807億円に対し、外部への委託は241億円で内部使用分が多く、そのうち外部からの受け入れ分は32%とその割合は比較的大きい。研究開発支出のうち自己資金分については電気事業者320億円、原子力供給産業790億円であり両者を合わせた1,110億円が実質的に民間が負担した研究開発費である。

図A-2 民間における原子力開発研究開発マネーフロー(昭和59年度)


表A-2 民間における原子力研究開発支出


② 項目別の研究開発支出
 民間の自己資金による研究開発支出の項目別支出は図A-3に示す通りであり民間全体では軽水炉の研究開発支出が619億円、全体の55.8%と過半を占めており軽水炉開発に最も力を注いでいることがわかる。特に電気事業者の場合62.4%をこの分野に投入している。一方、核燃料サイクル関係についても再処理、廃棄物を中心に196億円(17.7%)の支出があった。その他FBRが92億円、RI・放射線機器、利用が67億円、ATRが16億円であった。

図A-3 自己資金による研究開発支出の項目別比率(%)

③ 研究投資率
 原子力供給産業の研究投資率(原子力関係売上額に対する原子力開発支出額<自己資金分>の比率)をみると4.50%と全産業の2.26%(昭和58年度)の約2倍となっており研究開発色が強いという結果が得られた。しかしながら各産業の研究投資率を示した図A-4をみてわかるように、極めて高い研究投資率を示している医薬品、電気・通信・電気計測器工業と比較すると、すでに商業化が進んでいる軽水炉市場のウェイトの大きい原子力のそれは相対的に目立った水準にあるとはいえない。

図A-4 各産業の研究投資率

 原子力の各分野の研究投資率は図A-5に示す通りでFBR、ATR、濃縮、RI・放射線分野は高い値であるが、軽水炉、再転換・成型加工については商業化が進んでいることから低い値となってる。

図A-5 原子力関係の主な分野別研究投資率

④ 研究者・技術者数
 民間が有する研究者・技術者数は図A-6、図A-7に示す通りで研究者については原子力供給産業が合計2,948人、電気事業者は155人となっている。そのうち原子炉・周辺機器に従事する割合は5割以上で電気事業者については81.3%とこの分野に最も力を注いでいることがうかがえる。技術についても原子力供給産業は21,948人、電気事業者4,858人で原子炉・周辺機器がそれぞれ60.7%、77.7%と過半をしめている。

図A-6 原子力供給産業と電気事業者が有する研究者の内訳


図A-7 原子力供給産業と電気事業者が有する技術者の内訳

⑤ 研究開発状況
 研究開発の状況について研究開発段階、研究開発実績、成果の納入先、研究開発の優先度に関してアンケート調査を行い以下の結果が得られた。

1)研究開発段階
 全般的な傾向として応用研究、開発研究を行っているとの回答が多数を占めており、基礎研究色が強いと回答しているのは10%前後となっている。特に電気事業者11社、原子力供給産業59社から回答を得た軽水炉分野では、基礎研究色が強いと答えたのは1社のみで、当分野はシステム改良等の研究が中心であることがうかがえる。軽水炉に次いで回答数の多かった廃棄物処理処分(電気事業者9社、原子力供給産業52社)については開発研究色が強いと答えた企業が62%を占め、より実用的な研究が中心であることが示された。一方、核融合については原子力供給産業からのみ27社の回答が得られ3分の1にあたる9社が基礎研究色が強いとの回答が得られこの分野の我が国の研究段階の認識が示されたともいえる。

2)研究開発実績(研究開発成果の使用)
 研究開発実績(研究開発成果の使用)は実用化の度合を反映しているものと考えられるが、実績を有していると答えた企業が多い順に軽水炉(60社)、廃棄物処理処分(50社)、FBR(32社)及び再処理(25社)となっている。実績有の割合が回答数の50%をこえたのは軽水炉(66%)、廃棄物処理処分(53%)でありこれらの分野の研究開発がより進んでいると考えられる。

3)研究開発成果の納入(使用)先
 商業化の進んでいる軽水炉については電気事業者への研究開発成果の納入が過半を占めているが、ATR、高温ガス炉、濃縮、再処理については国や国の機関への納入割合が大きくなっている。また、研究開発実績の多かった廃棄物処理処分についてはその技術が広範囲に使われることから多方面に納入されている。

4)研究開発の優先度
 研究開発の優先度の高い順に4つを選択するアンケート調査を行った結果以下の結果が得られた。電気事業者、原子力供給産業ともに軽水炉に第1位の優先度を置いている企業が圧倒的に多かった(電気事業者9社、原子力供給産業26社)。電気事業者において次に優先度の高いのはFBR(1位2社)、以下廃棄物処理処分、濃縮の順であった。一方、原子力供給産業では軽水炉以下は廃棄物処理処分(1位14社)、再処理(1位9社)、FBR(1位5社)の順であったが、電気事業者に比べて優先度にはバラツキが目立つとともに核燃料サイクルについても重要視していると考えられる。

⑥ 原子力関係研究施設
 民間における原子力関連施設の有無、施設でのRI、核燃料物質の使用の可否についてアンケート調査を行った。その結果をみると全般的に電気事業者については研究施設を保有している企業は少なく、保有施設も軽水炉、廃棄物処理処分、核燃料輸送等6分野に限られている。

 これに対し原子力供給産業は各分野に研究施設を有しており、RI・放射線機器及び同利用分野に多く、次いで廃棄物処理処分、軽水炉、FBR、再処理の順になっている。また、RI・放射線機器、利用の研究施設についてはそのほとんどの施設でRIの使用が可能なのに対し、再処理研究施設の約50%がRI及び核燃料物質が使用できる他はRI、核燃料物質の使用可能施設は非常に少ない。

3.今後の研究開発意欲
 今後の5年後頃までの民間における研究開発の見通しについて研究開発投資意欲研究開発の主体の2項に関するアンケート調査を実施した。

(1)今後の研究開発投資の意欲について
 図A-8、図A-9に研究開発投資意欲の結果を示す。全般的に研究開発投資意欲は旺盛で、殆どの分野で積極的、現状維持を合わせた割合が過半を占めた。特に電気事業者においては再処理、FBR、濃縮、廃棄物処理処分の順に積極的なのに対し、原子力供給産業については再処理、廃棄物処理処分、FBRの順に積極的であった。

(2)今後の研究開発主体について
 アンケートは、①国及び国の機関等が主体となってやるべき、②民間等が主体となってやるべきの二者択一で行ったが電気事業者については、特に軽水炉とFBRの開発に対して民間主体との意見が打ち出されたのに対し、原子力供給産業については項目毎に回答率が異なっているものの、全般的に商業化の進んでいる分野は民間主体、開発段階のものは国主体とする傾向がみうけられた。

4.国等への要望
 効率的な研究開発の進め方、国及び国の機関等への要望について具体的な記述を求めた結果、官民の役割分担の明確化、研究成果の円滑な移転、成果の公開研究施設の開放、補助金の増額等を要望する意見が多かった。

図A-8 原子炉・周辺機器関係の今後の研究開発投資意欲


図A-9 核燃料サイクル関係の今後の研究開発投資意欲



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