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委員会の決定等

昭和62年度原子力関係経費の見積りについて

昭和61年9月9日
原子力委員会



Ⅰ 昭和62年度施策の概要

 我が国が、原子力研究開発を開始してから30年余を経、その間幅広い分原で、原子力開発利用が着実な進歩を遂げている。

 原子力発電については、全発電電力量の約26%(60年度実績)を占め、また、安定した運転実績を持ち、世界的にも高い水準の信頼性を有するに至っており、今や、国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギー源として定着している。昨今の国際的なエネルギー需給は緩和基調にあり、また一部欧州諸国においては原子力開発利用に対する消極的気運が見られるが、我が国におけるエネルギーの対外依存度は主要先進国の中でも依然として最も高く、また、中長期的観点からは石油需給の逼迫に適確に対応できるよう体制を整えておくことが我が国にとって極めて重要であることから、我が国としては、従来と変わることなく、石油代替エネルギーの中核として、原子力発電を積極的に推進していく必要がある。

 また、国産エネルギーに準じた高い供給安定性を持ち得るという原子力発電の特長を最大限に生かすためには、自主的な核燃料サイクルの早期確立が必要であり、現在、青森県六ケ所村において進められている商業用核燃料サイクル事業について、円滑な事業化が図られるよう諸施策を講ずる必要がある。また、プルトニウムの有効利用を目指した新型動力炉の開発、将来のエネルギーとして期待される核融合の研究開発、原子力船の研究開発等も計画に従い、着実に推進していく必要がある。さらに、これら原子力のエネルギー利用とならんで放射線利用についても、積極的な推進を図ることが重要である。

 これまでの30年余に及ぶ研究開発努力により、我が国の原子力技術は、諸外国に比肩するまでに至っていると認められる部分が多くなっているものの、非常に広範囲な領域の技術体系から成り立つ高度な先端複合技術である原子力技術について、今後長期にわたり、その発展を目指した場合、必ずしも従来の技術体系にとらわれることなく、画期的な新技術を創出する可能性のある分野について基礎的段階から積極的に研究開発を進めていくことが重要である。

 一方、国際的には、我が国は原子力の利用は厳に平和目的に限るとの立場を堅持し、世界の核不拡散体制の確立に積極的に貢献していくとともに、より効果的な保障措置体制の整備等を図る必要がある。また、核融合等の大型化していく研究開発を効率的に推進していくため、先進国との協力を強化していくとともに、研究交流等を通じ、開発途上国に対する協力を積極的に展開することが重要である。

 なお、本年4月にソ連のチェルノブイル原子力発電所で起きた事故は、原子力の開発利用の推進に当たっては、安全の確保が大前提であることを改めて認識させるものであった。国としては、この事故を警鐘として受けとめ、今後一層の安全確保に努めていくことが必要であり、安全研究の強力な推進を始めとする安全確保対策の積極的な推進を図るとともに、万一の事態に備えた防災体制の整備充実に努めることが重要である。さらに、原子力開発利用の必要性と安全性について、国民の一層の理解を得る方策を充実強化する必要がある。以上の原子力をめぐる内外情勢を踏まえ、昭和62年度は、以下の施策を講じ、原子力開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。

 原子力開発利用については、計画的にこれを進めることが重要であるが、昭和62年度原子力関係経費については、昨今の厳しい行財政事情から、スケジュール及び資金の支出計画等について可能な限りの調整を行ったところである。政府においては、このような事情を十分考慮し、昭和62年度の予算編成に当たっては、所要資金及び所要人員の確保に特段の配慮がなされるよう期待したい。

1.安全確保対策の総合的強化
(1)原子力安全規制行政の充実
 原子力安全委員会においては、安全確保総合調査及び公開ヒアリング等を実施し、行政庁の行った安全審査の再審査(ダブルチェック)等に万全を期すこととする。また、ソ連チェルノブイル原子力発電所の事故を踏まえ、原子力施設の事故故障に関する分析評価体制の強化を図るとともに、原子力先進国間の安全委員会レベルの協議、原子力安全に関する国際シンポジウムの企画等安全確保に関する国際協力の充実強化を図る。

 行政庁における安全規制については、引き続き原子力施設の審査、検査、運転管理監督に万全を期すとともに核燃料サイクルの事業化、高速増殖炉「もんじゅ」の建設等原子力開発利用の進展に対応して、技術基準の整備、検査体制の整備等により、安全規制行政の充実強化及び効率化を図る。

(2)安全研究の推進
 安全規制の裏づけとなる各種データの蓄積、安全評価手法の確立、原子力施設等の各種の安全審査基準・指針の整備・充実等に資することを目的として以下の安全研究を推進する。
① 工学的安全研究
 軽水炉については、日本原子力研究所において国立試験研究機関の協力を得て、引き続き加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-Ⅳ計画)、実用燃料照射後試験施設(大型ホット・ラボ)による燃料の安全研究等を実施するほか、原子炉安全性研究炉(NSRR)を用いて新燃料反応度事故に関する試験研究を継続し、照射済燃料の反応度事故に関する試験研究についても必要な実験設備の整備を引き続き行うとともに、過酷事故(シビアアクシデント)時の安全研究として、炉心損傷時核分裂生成物ソースターム評価試験等に着手する。また、新型転換炉については、動力炉・核燃料開発事業団においてプラント異常時の安全確保に関する研究に新たに着手するとともに、燃料の健全性評価等に関する安全研究を行う。さらに、高速増殖炉については、動力炉・核燃料開発事業団において開発の一環として事故時の炉心挙動等に係る安全研究を行う。

 核燃料施設については、動力炉・核燃料開発事業団においてクリプトン除去等放出低減化技術の開発研究を実施するなど再処理施設、プルトニウム取扱施設、廃棄物処理貯蔵施設に関する安全研究を進める。また、日本原子力研究所において各種安全解析コードの開発等を行うとともに、臨界安全、TRU廃棄物に関する安全研究等に必要な実験施設の建設を進める。さらに、金属材料技術研究所においても再処理施設の耐食安全性に関する研究を進める。

 輸送容器については、国立試験研究機関等において、その健全性評価に係る安全研究を推進する。

 さらに、国際協力による安全研究については、ROSA-Ⅳ計画を引き続き推進するとともに、燃料挙動に関する試験研究としてのハルデン計画、及びシビアアクシデントに関する試験研究として炉心損傷事故に関する研究計画(SFD計画)並びにOECD/LOFT計画等に引き続き参加する。

② 環境安全研究
 放射線医学総合研究所を中心に、環境放射能の挙動に関する研究、低レベル放射線による晩発障害、遺伝障害及び内部被曝に関する研究等を実施する。特に、プルトニウムの内部被曝に関する研究を一層充実するため、内部被曝実験棟の機器整備を行う。また、人体に対する放射線のリスクの評価解析を行う。

 さらに、日本原子力研究所において、より広範囲な環境放射能影響を予測するためのシステムの開発に着手する他、気象研究所において大気拡散数値モデル等に関する研究を引き続き行う。

③ 放射性廃棄物安全研究
 低レベル放射性廃棄物の陸地処分については、日本原子力研究所において、環境安全評価に資するため、環境シミュレーション試験、放射性核種の地表面移行試験等を実施するほか、実サイトに適用しうる総合安全評価モデルの整備を図る。また、海洋処分については、国立試験研究機関等において、海洋学的知見を一層蓄積するための調査研究等を引き続き実施する。

 高レベル放射性廃棄物の地層処分については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、地質調査所において、地層処分に関する安全評価、指針基準等の考え方に係る基本的な調査研究を進めるほか、人工バリアに係る試験研究として、地層処分施設の安全評価手法に関する研究、ガラス固化体、固化体容器等の安全性評価に関する研究等を実施する。また、天然バリアに係る試験研究として、処分場周辺の地層の安定性に係る安全性評価に関する研究、天然バリアによる閉じ込め性能の安全性評価手法に関する研究、天然バリア中のウランの挙動研究等を実施する。さらに、地層処分の総合安全性評価手法に関する研究等を進めるとともに、確率論的評価手法の開発に着手する。

 TRU廃棄物の処分については、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団において、TRU核種の地層環境下における挙動に関する試験研究等を国際協力等により実施する。
(3)防災対策の強化
 原子力施設の万一の緊急時に備えて防災対策に係る知識の普及並びに緊急時連絡網、緊急時環境放射能監視体制、緊急医療体制及び防災活動資機材の整備を一層進める。また、緊急時迅速放射能影響予測システムの整備、緊急技術助言組織の助言の迅速・適確化等のためのシステムの整備、実用発電用原子炉に係る緊急時対応の迅速・適確化に資するためのシステムの整備等防災対策の拡充・強化を図る。

(4)放射線障害防止対策の充実
 国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告を踏まえ、原子力施設等における従事者の放射線被曝による障害の防止対策及び放射性同位元素等に関する安全規制体制の充実を図る。

(5)環境安全の確保
 ソ連チェルノブイル原子力発電所事故を踏まえ、環境放射能の適確かつ広範な監視体制を整備することとし、放射線監視交付金の拡充及び環境放射能クロスチェック調査の拡充等を図る。また、一般環境の放射能水準調査、原子力軍艦の寄港及び外国の核実験に関する放射能調査等を引き続き行い、環境放射能の監視に万全の措置を講ずる。

 また、原子力利用に係る環境保全に万全を期すため、原子力発電所等の立地に際し、温排水等に係る環境審査を引き続き実施する。

(6)放射性物質輸送の安全確保
 放射性物質の輸送の増大、多様化に対処し、輸送の安全確保を図るため、放射性物質の輸送の安全評価及び緊急時対策のための調査検討を進める。

2.原子力発電の推進
(1)原子力発電の定着化
 軽水炉については、信頼性、稼動率の向上、保守点検作業の効率化、作業員の被曝低減化等の観点から、自主技術を基本として技術の高度化を図り、日本型軽水炉を確立するための調査を行うとともに、原子力発電検査技術の開発及び原子力発電施設の補修作業等を行うロボットの開発を行い、民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。

 また、軽水炉の安全性・信頼性を実証するため、大型再冠水効果実証試験、配管信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験、蒸気発生器伝熱管信頼性実証試験、原子力発電施設安全性実証解析等を行う。

 さらに、作業員の被曝低減化のための技術開発を実施するとともに、高性能燃料確証試験、高機能炉心に関する技術調査、高燃焼度燃料確証試験をその実用化のため引き続き実施し、その実用化の促進を図るとともに、次世代の軽水炉に適用しうる高度安全システムの調査、実用原子力発電所のヒューマンファクター関連技術開発を実施する。さらに、軽水炉の長寿命化及び稼動率向上のための技術開発、使用済燃料貯蔵対策の調査等を実施する。

 このほか、原子力発電所の廃止の時期に備えて、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして解体実地試験を行うなど、原子炉解体の技術開発を推進する。また、発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験を行うとともに、原子炉廃止措置に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査を行う。また、原子力発電所の新立地技術として高耐震構造立地技術の確証試験を実施する。

(2)原子力発電所等の立地の促進
 原子力発電の円滑な推進のためには、原子力発電をはじめとする原子力の研究開発利用について、広く国民の理解と協力を得をことが極めて重要である。

 このため、前述の安全確保対策の強化を図るほか以下の施策を進める。
① 広報活動等の強化
 国民の原子力に対する正しい認識に資するため、テレビ、出版物等の活用、講演会、各種セミナーの開催、オピニオンリーダーに対する資料送付、原子力広報映画の作成、原子力モニター制度の活用などにより、広報活動を積極的に推進する。

 特に、原子力発電所、核燃料サイクル施設等の立地を円滑に進めるために、地方自治体に対する交付金等により、その立地予定地域等における広報活動を積極的に展開する。さらに原子力発電所、核燃料サイクル施設の立地予定地域の住民及びオピニオンリーダーを対象とした原子力講座等の開催、フォーラムの開催等を行うとともに、地域ごとに講習会等を行うなど地元住民の理解と協力を得るための施策を充実する。また、原子力発電所の立地推進に資するため、放射性廃棄物の処理処分の経済性評価を行う。さらに、電源立地調整官等の機能的活動により原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに、原子力発電所の設置県及び核燃料サイクル施設の立地予定地域については、原子力連絡調整官による地元と国との密接な連絡調整を進める。

② 立地地域の振興方策の充実
 電源三法等を活用し、原子力発電施設等の周辺の地域の振興を図るため、公共用施設の整備、地域の産業振興及び住民、企業等に対する給付金の交付等の施策を引き続き講じることとし、昭和62年度においては、電源立地促進対策交付金の交付対象施設に商業用ウラン濃縮施設及び低レベル放射性廃棄物最終貯蔵施設を加える。
3.核燃料サイクルの確立
(1)ウラン資源の確保
 動力炉・核燃料開発事業団による海外ウラン調査探鉱活動を重点的に実施するとともに、民間企業による海外ウラン探鉱開発活動に対する助成を行い、ウラン資源の確保に努める。 海水ウランの回収システムについては、現時点においては、技術面、経済面での評価を行うことを目的として、金属鉱業事業団において進めてきたモデルプラントの建設による技術確証を62年度まで進めることとする。

 また、ウラン資源開発に関連した研究開発として、動力炉・核燃料開発事業団において製錬転換パイロットプラントの運転等を進める。また、金属鉱業事業団において深部高品位ウラン鉱床の採掘技術の確証調査に着手する。さらに、転換の事業化に関する調査を行う。

(2)濃縮ウランの確保
 遠心分離法によるウラン濃縮の国産化を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてパイロットプラントの運転試験を引き続き行うとともに、原型プラントの建設を継続して行い、一部運転を開始する。

 また、高性能遠心分離機の信頼性試験を進めるとともに、低コスト化及び複合材料機の開発を含む高性能化に必要な研究開発等を引き続き進める。

 さらに、ウラン濃縮の事業化に関する調査を行うほか、テイルウランの再転換貯蔵システム技術の確証調査に着手するとともに、民間における遠心分離機の製造技術確立及び耐振動衝撃システム開発に対し助成を行う。

 また有望な将来技術として期待されているレーザー法ウラン濃縮の技術開発については、早期に技術的見通しを得るよう、積極的に推進することとし、原子レーザー法に関するデータベースの整備及び民間が共同で行う原子レーザー法に係る機器開発に対する助成を行うとともに、理化学研究所において、分子レーザー法の原理実証試験を行う。さらに、化学法ウラン濃縮技術については、民間企業によるシステム開発に対して引き続き助成を行う。

(3)使用済燃料の再処理並びにプルトニウム及び回収ウランの利用
 再処理技術の実証と確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設及びプルトニウム転換施設の操業を行うとともに、第2高放射性固体廃棄物貯蔵庫の建設等所要の施設整備を行う。また、同事業団において再処理の改良技術、工程管理技術等の研究開発を進める。

 55年度より進めてきた民間再処理工場の設計・建設に必要な技術確証については、最終年度として確証試験機器の解体試験等を実施するとともに、民間再処理施設の建設に必要な海外導入技術の国内定着化等を図るため民間事業者の行う技術確証等に対し助成を行う。また、環境安全、保障措置及び高燃焼度燃料の再処理に関する試験研究並びに使用済燃料管理に関する技術開発及び原子力発電所内における貯蔵の技術確証等を行う。また、再処理施設の安全解析コードの整備を進めるとともに再処理施設の安全性を実証するために、耐食安全性実証試験、換気設備安全性実証試験、臨界安全性実証試験及び再処理施設安全性実証解析等を引き続き実施する。

 さらに、動力炉・核燃料開発事業団において、高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、実燃料を用いた実規模相当の試験を行うための施設の設計に着手するとともに、所要の研究を進める。

 プルトニウム利用については、軽水炉及び新型動力炉におけるプルトニウム利用方策に関する調査を行うとともに、軽水炉用プルトニウム燃料加工技術の確証を行う。また、高速増殖炉及び新型転換炉用燃料に利用するためのプルトニウム燃料加工技術の開発及び照射試験等を行う。また、プルトニウム取扱施設の安全性を実証するために、グローブボックスの耐震安全性実証試験を行う。さらに、プルトニウム航空輸送のための技術開発を行う。

 回収ウランを再濃縮して利用する技術の確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてUF6転換試験を進める。

 また、プルトニウム及びウランの効率的、計画的な利用を促進するため、核燃料サイクル評価システムの確立を図る。

(4)放射性廃棄物の処理処分
 低レベル放射性廃棄物の陸地処分については、陸地処分に係る安全性実証試験等を実施するとともに、極低レベル固体廃棄物の合理的処分に係る安全性実証試験を行う。また、敷地外施設貯蔵についても、安全性実証試験を行う。さらに、低レベル放射性廃棄物の陸地処分に関する新型容器、新型固化体等の開発及び放射性廃棄物処分の安全解析コードの整備を進めるとともに、原子炉の運転に伴って通常発生するものに比べベータ・ガンマ核種の濃度がかなり高い低レベル放射性廃棄物に関する処分技術等の開発に着手する。また、海洋処分については、関係諸国の懸念を無視して強行はしないとの方針のもとに慎重に対処する。

 さらに、民間が行う処理処分技術開発に対する助成を引き続き行う。また、アルファ廃棄物処理処分対策の調査研究等を行うとともに、低レベル放射性廃棄物再利用技術開発に着手する。

 再処理施設から発生する高レベル放射性廃液については、動力炉・核燃料開発事業団において、ガラス固化処理の技術開発等を進めるとともに、ガラス固化プラントの建設に着手する。高レベル放射性廃棄物の処分については、地層に関する調査を進めるとともに、人工バリア、天然バリア、地層処分システム、サイト調査技術等に関する研究開発を積極的に進める。貯蔵工学センターについては、ガラス固化体貯蔵プラント、深地層試験場等の基本設計等を行う。また、日本原子力研究所においては、処理処分に関する安全性評価に関する研究、日豪協力によるシンロック固化処理の研究等を行う。

 TRU廃棄物の処理処分については、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所において、固化技術の開発を進めるとともに、天然バリア中における核種移行に関する研究等の処分技術の開発を行う。

 また、海外再処理に伴う返還固化体については、我が国への受入れが円滑に行えるよう、受入れ・貯蔵システムに関する調査、検査機器の開発、仕様承認に関する調査を行うほか、動力炉・核燃料開発事業団において固化体物性等の試験を行う。さらに、放射性廃棄物輸送容器の安全性実証試験を行う。

4.動力炉の開発
 長期的観点に立った核燃料の有効利用を目指す次代の動力炉である高速増殖炉及び新型転換炉の開発を進める。

 高速実験炉については、運転経験を蓄積するとともに、高速増殖炉用燃料、材料の照射試験を行う。

 高速増殖原型炉については、設計研究、炉物理、機器、燃料・材料、安全性、蒸気発生器等の研究開発を実施するとともに、昭和67年度臨界を目途に建設を進める。また、高速増殖炉用燃料製造技術開発施設の建設、試運転を行う。

 さらに、高速増殖炉開発全般にわたる基盤的、共通的な研究開発を進めるとともに、配管系の合理化に関する研究等大型化のための研究開発を進める。また、同実証炉の大型構造設計に関する技術確証試験に着手する。

 新型転換炉原型炉については、定格運転を継続し、運転経験を蓄積するほか、供用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。

 同実証炉については、昭和71年度運開を目途に建設・運転の実施主体である電源開発株式会社において、用地取得等を進め、動力炉・核燃料開発事業団においては、プルトニウム燃料の改良、加工に関連する研究開発及び燃料製造技術開発施設の建設を進める。また、同実証炉の安全解析コードの整備を進めるとともに、建設、運転に必要な技術確証試験等に着手する。

 また、新型動力炉原型炉については、機器等の寿命信頼性等に関する実証試験を行うとともに安全性の実証解析等を実施する。

5.核融合の研究
 人類究極のエネルギー源である核融合動力炉の実現を目指し、その前提となる臨界プラズマ条件を達成するための研究を日本原子力研究所及び国立試験研究機関において、大学との連携を図りつつ推進する。

 日本原子力研究所においては、臨界プラズマ試験装置(JT-60)により加熱実験を行い、昭和62年末の臨界プラズマ条件達成を目指す。また、JFT-2M等を用いた非円形断面トーラスプラズマの研究、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学、炉工学技術の研究開発等を進める。また、トリチウムプロセス研究棟の整備等を行うとともに、トリチウムの取扱技術等の研究開発を進める。

 電子技術総合研究所においては、逆磁場ピンチ核融合装置(TPE-1RM15)等を用いて高ベータプラズマの研究を進める。金属材料技術研究所及び名古屋工業技術試験所においては、材料の基礎的研究を行う。

 なお、超電導磁石技術については、日本原子力研究所、電子技術総合研究所、金属材料技術研究所等において研究開発を進める。特に、日本原子力研究所において、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)の大型超電導磁石国際協力計画(LCT計画)に基づき、LCTコイルの共同実験を行うとともに、20メガジュール・パルスポロイダルコイルの開発を行う。日米協力では材料共同研究等を引き続き進めるとともに、新たに、ECとの研究協力を開始する。また、多国間の核融合研究協力については、OECD-IEAの研究協力プロジェクトとして、米国のTFTR、ECのJETと我が国のJT-60の間で大型トカマク装置の研究協力を行うなど、積極的に国際協力を推進し、我が国の核融合研究開発の効率的実施に資することとする。

6.原子力船の研究開発
 原子力船「むつ」については、日本原子力研究所において今後の舶用炉の研究開発に必要不可欠な知見・データを得るため効率的な実験を行うこととし、そのために必要な新定係港の建設を引き続き推進する。また、将来の舶用炉の開発のための研究を行う。

 さらに、船舶技術研究所においても、原子力船についての基礎的研究等を行う。

7.放射線利用の推進
 放射線の医学利用については、放射線医学総合研究所において、がんの治療成績の著しい向上が期待される重粒子線等の医学利用に関する調査研究を実施するとともに、重粒子線がん治療装置の詳細設計、加速器の製作及び所要の用地の取得を推進する。また、短寿命ラジオアイソトープによる画像診断技術の開発を推進する。さらに、国立衛生試験所、国立病院等においても、放射性医薬品に関する研究、がん治療研究等を推進する。

 また、日本原子力研究所において、放射線化学関係の研究、ラジオアイソトープの生産等を実施するとともに、種々のイオン粒子線を重照射することにより、耐放射線極限材料、機能材料、ライフサイエンス等の分野において画期的な新材料の開発、新技術の創出に寄与できる研究として、産・学・官の研究者から強い要望が寄せられている放射線高度利用研究については、62年度イオン照射設備の整備に着手するなど、積極的に推進する。さらに、国立試験研究機関においても、医療、工業、農業等の各分野における放射線利用に関する研究を推進する。

 また、鹿児島県奄美諸島及び沖縄県における放射線照射によるウリミバエ防除事業に対して必要な助成を行う。

8.原子力開発利用の基盤強化
(1)先端的・基盤的研究等の推進
 我が国独自の原子力技術の高度化を図り、また、新たな技術革新を生み出すためには、先端的・基盤的な研究を産、学、官の連携のもとに推進することが重要である。このため、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、理化学研究所等を総合的に活用し、新たに、先端レーザー技術、原子力プラント管理のための知能科学、材料の設計・創出技術、高レベル放射性廃棄物の有効利用技術に関する研究に着手する。

 日本原子力研究所において、高温ガス炉技術基盤の確立とその高度化及び高温に関する基礎研究のため、高温工学試験研究炉の建設準備に着手するとともに、大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)等を活用して、高温炉の要素技術開発を行う。また汎用研究炉JRR-3の改造、材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施する。さらに、タンデム型重イオン加速器については、一層の性能向上を図るとともに、核データの取得のための研究等を行う。高転換軽水炉については、炉物理、熱水力の研究を行い、炉の概念について検討を行う。

 理化学研究所においては、重イオン科学用加速器の前段加速器である線型加速器を用いて、重イオンに関する各種研究を継続するとともに、重イオン科学用加速器の後段加速器であるリング・サイクロトロンの建設を進め、一部実験を行う。

 このほか、国立試験研究機関においても、核融合、安全研究、放射線利用等の分野で基礎研究を実施する。

(2)科学技術者の人材の確保
 原子力関係科学技術者の資質向上のため、その養成訓練については、大学に期待するほか海外に留学生として派遣する。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において、養成訓練を引き続き実施する。

 さらに、長期的観点から、原子力研究開発の推進に必要な研究者等の人材確保に努める。

9.国際協力の推進
 原子力の平和利用と核不拡散を両立させつつ、我が国の自主的な核燃料サイクルの確立を図るという基本方針に立脚し、二国間協議の場において、我が国の原子力の平和利用の円滑な推進が図られるよう適切に対処していく。また、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の改善に協力していくとともに、IAEAを中心として行われている原子力資材の供給保証委員会(CAS)等の国際的検討の場に積極的に参加する。

 国際的な研究開発協力については、原子炉の安全研究、核融合に関する日米協力のほか、新型動力炉、高温炉の研究開発等の各分野に関し、米国、西ドイツ、フランス等との二国間協力等を進める。また、我が国原子力施設の規制の充実に資するため米国、フランス、西ドイツ等との規制情報交換を進める。基礎研究の分野においても、米国、フランス等と重イオン物理等の研究協力を進める。

 さらに、IAEAを中心として進められている原子力発電所の安全基準作成事業に参加するなど、IAEA、経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)等の国際機関の活動に積極的に参加する。

 開発途上国との協力については、近年とみに高まりつつある中国、韓国、アセアン諸国等からの協力要請に応え、核不拡散上の配慮をしつつ、原子力先進国としての国際的責務を果たしていくため、IAEA技術援助協力計画に積極的に参加し、「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定」(RCA)に基づくRI・放射線利用分野の協力等を引き続き進めていく。また原子力関係要人の我が国への招へい及び原子力技術アドバイザーの開発途上国への派遣並びに開発途上国原子力研究者の我が国研究機関への招へい及び我が国研究者の開発途上国への派遣等を引き続き行うとともに、新たに、開発途上国原子力関係管理者の招へい及び研修を行うなど、人材交流を中心とした協力も積極的に推進する。

 特に日中間の原子力協力については、61年7月に発効した日中原子力協力協定の下、今後、協力の一層の拡充を図る。

10.保障措置及び核物質防護対策の強化
(1)保障措置
 原子力の平和利用を確保し、核兵器の不拡散に関する条約を履行するため、国内保障措置体制の拡充強化を図る必要がある。このため、核物質に関する情報処理、試料の分析、査察等の業務を充実強化するとともに、IAEA等との協力を図りつつ、保障措置の有効性向上のための技術の研究開発を推進する。また、民間再処理施設建設の円滑化に資するため、IAEAにおける大型再処理施設保障措置適用性評価に関する検討に対し、必要な支援を行う。

 このほか、最近の国際動向を踏まえ、核物質等の新たな国籍別管理システムの開発に着手する。

(2)核物質防護
 原子力開発利用の進展に伴う核物質防護の重要性の増大に対処するため、核物質防護体制の充実強化のための施策を推進する。

Ⅱ 見積りの概要

 昭和62年度において、以上の施策を進めるために必要な原子力関係経費は、総額約3,669億円(一般会計約1,847億円、電源開発促進対策特別会計約1,822億円)、国庫債務負担行為限度額約1,401億円(一般会計約407億円、電源開発促進対策特別会計約994億円)と見積られる。

 原子力関係機関別の見積りについては、「Ⅲ 概算要求総表」に示すとおりであるが、主要な原子力研究開発機関別の見積りの概要を示せば以下のとおりである。

1.日本原子力研究所
 日本原子力研究所の総事業費は約1,094億円であり、これに必要な政府支出金は約1,000億円(国庫債務負担行為限度額約248億円)である。また必要な人員増は総計56名である。

 このうち原子力施設の工学的安全研究及び環境安全研究に必要な経費は約96億円(国庫債務負担行為限度額約49億円)であり、増員は8名、核融合の研究開発に必要な経費は約296億円(国庫債務負担行為限度額約10億円)であり、増員は27名、JRR-3の改造をはじめとする一般研究等に必要な経費は約322億円(国庫債務負担行為限度額約124億円)であり、増員は15名である。原子力船の研究開発に必要な経費は約88億円(国庫債務負担行為限度額約66億円)であり、増員は3名である。

2.動力炉・核燃料開発事業団
 動力炉・核燃料開発事業団の総事業費は約2,417億円であり、これに必要な政府支出金は約1,445億円(一般会計約647億円、電源開発促進対策特別会計約798億円)、国庫債務負担行為限度額約1,067億円(一般会計約73億円、電源開発促進対策特別会計約994億円)である。また、必要な人員増は、総計85名(一般会計28名、電源開発促進対策特別会計57名)である。

 このうち、高速増殖炉及び新型転換炉の開発に必要な経費は総額約1,314億円であり、これに必要な政府支出金は約942億円(民間拠出金約245億円、国庫債務負担行為限度額約780億円)であり、増員は32名、ウラン濃縮技術開発、探鉱開発等核燃料開発に必要な経費は、総額約477億円であり、これに必要な政府支出金は約260億円(政府保証借入金約117億円、民間拠出金約78億円、国庫債務負担行為限度額約16億円)であり増員は19名、再処理施設の運転等に必要な経費は総額約626億円であり、これに必要な政府支出金は約244億円(政府保証借入金約267億円、国庫債務負担行為限度額約271億円)であり、増員は34名である。

3.放射線医学総合研究所
 内部被曝実験棟の運営及び重粒子線等の医学利用、低レベル放射線の影響、トリチウムの生物影響等の特別研究の拡充強化等に必要な経費は約72億円であり、必要な人員増は2名である。

4.国立試験研究機関
 核融合、安全研究、食品照射等、原子力研究に必要な経費は約18億円である。

5.理化学研究所
 重イオン科学、サイクロトロン等の研究、重イオン科学用加速器の建設等及び赤外レーザーによるウラン同位体分離濃縮等の原子力研究に必要な経費は約36億円である。

Ⅲ 概算要求総表

1.昭和62年度原子力関係予算概算要求総表


2.科学技術庁一般会計概算要求総表


3.各省庁(科学技術庁を除く)一般会計概算要求総表


4.電源開発促進対策特別会計原子力関係予算概算要求表



5.原子力関係予算概算要求重要事項別総表






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