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昭和59年原子力年報 原子力委員会
(解説)
「昭和59年原子力年報」は、昭和59年10月23日の原子力委員会において決定され、昭和59年10月26日の閣議に報告された。 本年報は第1章総論、第2章以降各論及び資料編から構成されており、以下に第1章総論を掲載する。 第1章 原子力開発利用の動向
1 最近のエネルギー情勢と原子力開発利用
(1) 緩和基調のエネルギー情勢下における原子力開発利用
第二次石油危機以降の長い世界経済の停滞、石油代替エネルギーの開発・導入、省エネルギーの進展等による石油需要の減少等を背景に、昭和58年3月OPECによる史上初の基準原油の公式販売価格の引下げが行われた。その後は、OPEC諸国の原油生産量は抑制気味に推移してきており、また、先進国の景気回復等に伴う石油需要が増加していること、中東情勢も厳しくなっていること等を背景に、原油価格は堅調に推移してきているが、当面はOPEC諸国の大幅な供給余力の存在等により、弱含みで推移するとみられている。 一方、国内においては、過去2度にわたる石油危機を経て、我が国産業は大きな構造的変化を遂げてきており、エネルギー多消費型からエネルギー寡消費型へとウェイトを移行しつつある。また、省エネルギーが経済社会に定着するとともに、原子力をはじめとする石油代替エネルギーの開発・導入は着実に進展してきた。この結果、エネルギー需要は、昭和58年度においては我が国の景気回復及び猛暑・厳冬という気候的要因等を反映して若干増加したものの、昭和55年度から57年度にかけては国民総生産が増加しているのにもかかわらず減少を示し、エネルギー供給の石油依存度は第一次石油危機当時の78%から最近では62%にまで低下してきている等我が国のエネルギー需給は構造的な変化を示している。 このような状況の中にあって、昭和58年11月、第18回総合エネルギー対策推進閣僚会議において、総合エネルギー調査会で改定された長期エネルギー需給見通しについて報告がなされ、了承された。同需給見通しを前回(昭和57年4月)のものと比べると、昭和65年におけるエネルギー需要は、前回の原油換算で5億9千万キロリットルに対し、4億6千万キロリットルと約22%下方修正された。また、原子力についても、供給全体に占める割合は殆ど変りないものの、設備容量ベースでは4,600万キロワットから3,400万キロワットヘと下方修正された。 また、同日、閣議において、「石油代替エネルギーの供給目標」が改定された。同目標では、原子力によるエネルギーの供給目標は、前回(昭和57年4月閣議決定)の昭和65年度において原油換算6,700万キロリットル(これに必要な原子力発電設備容量4,600万キロワット)から、昭和70年度において原油換算7,400万キロリットル(これに必要な原子力発電設備容量4,800万キロワット)へと変更されている。以上述べたように最近の内外のエネルギー情勢は緩和基調で推移しているが、一般的に、国際的な石油需給は1990年代には再び逼迫し、また、石油価格も1980年代後半以降、特に1990年代には上昇する可能性が高いとの見方がなされている。また、我が国のエネルギー供給の石油依存度は主要先進国に比べて依然として高く、また、石油輸入の多くを依存している中東地域における情勢は、イラン・イラク紛争の例を挙げるまでもなく、極めて流動的であり、我が国のエネルギー供給構造は脆弱性から脱却し得ていない。 したがって、将来にわたって低廉なエネルギーを安定的に確保していくためには、今後とも石油依存度の低減を目指すことが必要であり、原子力をはじめとする石油代替エネルギーの開発・導入努力は引き続き我が国の重要な課題であると考えられる。 原子力発電は経済性、大量供給性等に優れるばかりでなく、自主的な核燃料サイクルの確立及びプルトニウム利用等により国産エネルギーに準じた高い供給安定性を持ち得る点に化石燃料とは異なる際立った特長を有しており、前述の供給目標において定められた原子力発電の開発目標の達成に向けて、原子力発電の推進に積極的に努めるとともに、前述したような原子力発電の有するエネルギーセキュリティ確保上の特長を活かすべく、自主的な核燃料サイクルの確立及び新型動力炉の開発等に最大限の努力を払っていくことが必要である。 一方、石油危機以降、国際的なエネルギー需給の逼迫を背景として、需要量に見合う供給量の確保がエネルギー政策の第一の課題であったが、最近ではエネルギーコストの上昇が我が国の経済社会に大きな影響を与えることに鑑み、エネルギーコストの低減が供給量の確保と並んで我が国のエネルギー政策の重要な目標となってきている。したがって、今後、原子力発電を推進するに当たっては、一層の経済性向上に努力を払っていくことが必要である。 また、自主的な核燃料サイクルの確立、新型動力炉の開発等を目指した原子力研究開発は、長期にわたるリードタイムを要するばかりでなく、克服すべき技術的課題も少なくないので、上述のように原子力発電の開発目標が下方修正されても、これらの研究開発計画は緩めることなく推進していくことが必要である。 このほか、放射線利用も、原子力発電と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として、医療、工業、農業等の分野で幅広く進められており、国民生活の向上に大きく貢献している。 更に、原子力開発利用は、エネルギー分野、放射線利用分野以外でも我が国の発展に対して大きな寄与をなすものである。すなわち、経済的な面では、原子力発電は火力発電に比べ内需形成効果が大きい。また、原子力産業は高度な技術集約産業であり、この発展は我が国の産業構造高度化に寄与するものである。技術的な面では、原子力技術は、基礎的な技術から高度な先端技術まで幅広く総合化した技術であり、我が国の科学技術水準の向上に大きな役割を果たすものである。また、科学技術立国を目指す我が国にとって原子力のような高度なエネルギー技術を自主技術として保有することは、我が国の総合的なセキュリティを確保する上で意義は大きいと考えられる。 以上のように、我が国内外のエネルギー情勢は緩和基調にあるが、原子力開発利用は、我が国のエネルギーセキュリティ向上に大きく貢献するばかりでなく、経済的な面、技術的な面等でも大きな寄与をなし、我が国の経済社会の発展の基礎の一つとなっていることに鑑み、原子力委員会としては、今後とも国民の理解と協力を得て、引き続き原子力開発利用の積極的な推進を図っていくこととしている。 (2) 原子力発電の状況と今後の展望
イ) 原子力発電の状況
我が国は、脆弱なエネルギー供給構造の改善を図るべく、これまで原子力発電の開発に積極的に努めてきたが、今や我が国の原子力発電は、発電設備容量が2,000万キロワットに近づくとともに、運転も極めて順調に行われており、技術的にも経済的にも電力供給の中核をなすのに十分なものとなっている。 昭和59年には3基の原子炉が相次いで運開し、現在、運転中の商業用原子力発電設備は27基、総発電設備容量1,969万1千キロワットに達しており、昭和58年度末において総発電設備容量の12.7%を占めるに至っている。 昭和58年度においても原子力発電所の運転は極めて順調であった。原子力発電所の設備利用率は、昭和55年度に60%を超えた後も着実に向上し、昭和58年度には71.5%と、大規模な原子力発電設備容量を有するようになって初めて70%を超すまでになっている。これは、定期検査に要する日数を考慮するとフル稼働に近いものである。その結果、電気事業用の発電実績では、昭和58年度における原子力発電の総発電電力量に占める割合は20.4%と初めて20%を超えている。 また、原子炉等規制法及び電気事業法の規定に基づき報告された原子力発電所の事故・故障等は、昭和58年度においては27件、59年度は8月末までで7件であった。いずれの場合も放射線及び放射性物質による従業員及び周辺公衆への影響はなかった。 一方、建設中のものは、合計13基、総発電設備容量1,236万8千キロワット、また、電源開発基本計画に組み込まれている建設準備中のものは、合計4基、総発電設備容量407万5千キロワットである。 以上、運転中、建設中及び建設準備中のものの合計は、44基、総発電設備容量3,613万4千キロワットである。 このほか、動力炉・核燃料開発事業団が開発中の発電炉については、新型転換炉原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が運転中であり、また、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)が建設準備中である。 一方、世界の原子力発電については、昭和59年6月末において、原子力発電国は25カ国、運転中の原子力発電の設備容量は2億905万キロワットであり、我が国は米国、フランス、ソ連に次いで第4位である。 ロ) 新しい原子力発電開発目標
我が国の電力需要は、第二次石油危機以降低迷を続けたが、これは、景気の停滞によるほか、産業構造の変化、省電力の定着化等の構造的な変化による要因も大きいとみるべきであろう。昭和58年度には、景気回復等により対前年度比6.2%増と回復をみせており、今後は引き続き構造的な変化を伴いながら安定的な経済成長の下で着実に増大していくとみられている。 我が国の将来の原子力発電規模については、昭和58年11月の閣議において決定された「石油代替エネルギーの供給目標」の中で、昭和70年度において原油換算7,400万キロリットルを目標とすることが定められ、この目標を達成するための発電設備容量は4,800万キロワット(総発電設備容量の23%)、発電電力量は2,850億キロワット時(総発電電力量の35%)とされている。 この原子力発電の開発目標は、原子力発電は経済性に優れた大量かつ安定的な電力供給源であり、今後とも電力のベース供給力の中核として、安全性の確保に万全を期しつつ積極的な開発を進めていくことが望ましいという考え方の下に、立地状況及びリードタイムを勘案しつつ定められたものである。 また、昭和59年度電源開発基本計画においては、長期的な原子力発電の開発目標を昭和68年度約4,500万キロワット(総発電設備容量の22%、電気事業用)と定めており、さらに、より長期的な原子力発電規模の見通しとして、昭和58年11月の電気事業審議会需給部会は、原子力発電は、電力供給の中核的役割を担うものとして昭和70年度以降も着実に増加し、昭和75年度において発電設備容量は6,200万キロワット程度(総発電設備容量の27%、電気事業用)、発電電力量は3,700億キロワット時程度(総発電電力量の39%、電気事業用)になると想定している。 上述の閣議において決定された原子力発電の開発目標は、前回(昭和57年4月閣議決定)に比べると下方修正されているが、原子力発電は立地から運開までに長期間を要すること及び立地地域における合意形成は容易でないことに鑑み、今後、我が国としては、上述の原子力発電の開発目標を達成すべく最大限の努力を払っていく必要がある。 ハ) 原子力発電推進に当たっての課題
原子力発電を推進するに当たっては、大前提である安全確保をはじめ以下に述べるようないくつかの課題がある。 (@) 安全確保の徹底
我が国においては、安全の確保なくしては原子力開発利用の進展はあり得ないとの観点から、従来から安全確保に万全を期して原子力開発利用を進めてきている。 昭和41年に我が国で初めて商業用発電炉が運転を開始して以来、今日まで従業員に放射線障害を与えたり、周辺公衆に放射線の影響を及ぼしたりするような事故・故障等は皆無であり、その実績からも、今日、原子力発電所の安全性は基本的に確立しているといえる。 今後とも、安全確保を大前提として、そのための不断の努力を傾け、原子力発電の拡大に対応して、安全確保対策を一層充実させ、安全運転の実績を積み上げていくことが重要である。 また、安全確保のより一層の徹底を図るため、原子力施設等の安全研究が原子力安全委員会の下で定められた安全研究年次計画に沿って日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団を中心として進められている。 なお、米国エネルギー省が中心となって進めているTMI2号機研究開発計画に、昭和59年4月から日本原子力研究所、(財)原子力工学試験センター、電力会社及びメーカーが参加しており、炉心損傷事故研究等に必要なデータの入手が期待される。 (A) 信頼性及び経済性の向上
原子力発電規模が拡大し、我が国の電力供給に占めるウェイトが増大することに伴い、原子力発電が国民経済に与える影響も大きくなってきつつある。今後とも相当長期間にわたり軽水炉が我が国の原子力発電の主流となる炉型であることを考え併せると、軽水炉の信頼性及び経済性の一層の向上が社会的にも重要な課題である。 信頼性については、昭和58年度の設備利用率が70%を超えたことに示されるように相当高い水準にあるものと考えられる。今後、一層の信頼性の向上を図っていくには、軽水炉の技術的側面のほか、運転員及び保守員の資質の向上等の人的側面、あるいは、事故・故障情報の活用等の制度的側面からの改良も重要であり、関係者のより一層の努力が期待される。 経済性については、過去2度にわたる石油危機以降のエネルギーコストの上昇が我が国経済社会に大きな影響を及ぼしたととから、今後は、もとよりエネルギーの安定的な供給確保は不可欠であるが、それとともに、エネルギーコストの低減という社会的要請に積極的に取り組んでいくことが必要である。 最近の動向をみると、各発電方式とも建設費は上昇しているものの、化石燃料価格は低下しているため、火力発電の発電原価は、横這いないしはやや低下傾向にある一方、原子力発電の発電原価は上昇している。この結果、原子力発電は、他の発電方式に対しなお経済的に優位にあるものの、その差は縮小してきている。なお、原子炉の廃止措置に係る費用及び放射性廃棄物の最終処分に係る費用を考慮しても、原子力発電は石油火力発電及びLNG火力発電に対しては、なお優れており、石炭火力発電とほぼ同等とみられている。しかしながら、火力発電は燃料価格の変動を受け易く、中長期的には燃料価格は上昇傾向にあると考えられるのに対し、原子力発電は、燃料価格の変動の影響をうけにくいうえ、技術集約度が高いため、今後の技術開発努力により一層の経済性向上を図っていくことが可能である。 原子力発電の経済性向上を図るためには、設備利用率の向上及び発電原価に占める割合が高い建設費の低減が重要であると考えられる。特に建設費の低減については、通商産業省において検討が行われるとともに、電気事業者等により実際の原子力発電所建設に際し努力がなされているところであり、引き続き、官民一体となり、安全確保を前提としつつ進めていくことが重要である。また、後に述べるように濃縮、再処理等の国産化に向けての動きが具体化しつつあるが、それらに関連するコストも発電原価に与える影響は少なくなく、経済性向上の格段の努力を重ねることが重要である。 B) 立地の推進
原子力発電所の立地に要するリードタイムは長く、特に新規立地の場合は、相当長期間を要する。したがって、原子力発電の計画的推進のためには長期的展望に立った継続的な立地推進努力が必要である。立地の円滑化を図るためには、地元住民をはじめとする国民の理解と協力を得ることが最も重要である。 総理府が昭和59年3月に行った「原子力に関する世論調査」によると、将来の主力発電を原子力発電と考える者は初めて50%を超え、増加傾向にあるものの、原子力発電所に対して不安感を抱く者が前回調査(昭和56年11月)に比べ大きく増加している。その理由として、「事故や故障などで放射線(能)が漏れるから」のほか、「放射線(能)は目に見えないから」、「世間一般で危険と言われているから」等の漠然とした理由を挙げる者も少なくなく、今後とも、原子力発電の安全性に関しての知識の普及が必要である。また、原子力発電所の安全対策に対し信頼感を示す者は、前回調査で大幅に減少した後大きくは回復していない。前回調査における減少は日本原子力発電(株)敦賀発電所の事故の影響によるものと考えられるが、このように一度信頼を失うと、その回復は極めて難しく、かかる点を念頭に置きつつ、原子力発電所の安全運転の実績を積み上げていくことが重要である。 また、原子力発電設備等の立地の円滑化を目的として、各種広報活動が実施されるとともに、日本原子力研究所、(財)原子力工学試験センター等において実規模または実物に近い形での安全性実証試験が行われている。 さらに、原子力発電所の立地は、立地地域の人口をはじめ就業構造、産業、財政等の幅広い分野にわたって多大な影響をもたらし、地域の発展に大いに役立つものである。例えば、原子力発電所の立地に伴う地元への投資、雇用機会の確保等は、発電所建設終了後減少し、固定資産税収入は年ごとに低減することとなるが、これらは、市町村の財政に寄与するほか、人口の定着化、個人収入の増加等をもたらしている。また、国は、電源立地の円滑化に資するとの観点から、いわゆる電源三法を活用して、地域の生活基盤、産業基盤等の整備を通じて地元住民の福祉向上と雇用促進、産業振興等地元経済の発展に寄与するよう努めてきている。 なお、昭和59年7月、東京電力(株)福島第二原子力発電所原子炉設置許可処分に係る行政訴訟について、福島地方裁判所において第一審判決が言い渡され、国側主張が原告適格を除きほぼ全面的に認められた。この判決は、原子力発電を推進する上で大きな意義を有するものと考えられる。 (C) 軽水炉技術の向上
軽水炉は、発電用原子炉として世界で最も広く利用され、また、我が国においても既にかなりの実績をもった炉型であり、今後とも相当長期にわたり、我が国の原子力発電の主流となる炉型である。 軽水炉は、当初は米国からの技術導入により建設されてきたが、その後20余基の建設・運転経験の蓄積を通して導入技術の習得と国産化体制の整備が図られてきた。 現在では、高い設備利用率の達成に示されるように、軽水炉技術は我が国独自の技術として一応定着化したと言える。しかしながら、これまで我が国の軽水炉技術の拠り所であった米国では、原子力発電所の新規発注がなく、キャンセルが相次ぐ等原子力産業は停滞しており、軽水炉の技術開発のインセンティブも乏しい。このような状況下では、設計、建設、運転、保守、廃炉といった各面について我が国が軽水炉技術の開発に大きな役割を果たしていくことが重要である。 これまで、軽水炉技術の向上を目的として、三次にわたり軽水炉改良標準化計画が進められてきており、第一次計画の成果を全面的に取り入れた最初のプラントとして、昭和59年には、沸騰水型軽水炉では東京電力(株)福島第二原子力発電所2号機が、また加圧水型軽水炉では九州電力(株)川内原子力発電所1号機が、それぞれ営業運転を開始している。現在、昭和60年度を目途に進められている第三次計画においては、我が国のこれまでの軽水炉技術の向上を基に、在来型の軽水炉について更に一層の改良標準化を図るとともに、改良型軽水炉(APWR及びABWR)の開発を通して炉心を含むシステム全体としての改良及び標準化を行うこととしている。 なお、軽水炉技術の定着化時代を迎えた今日、今後の軽水炉技術の一層の進歩を図る観点から、先端産業分野における最新の技術的成果を可能な限り採り入れ、将来の原子力発電に対するニーズに適合した次世代型軽水炉の構想についての検討が、通商産業省において進められている。 (D) 原子炉の廃止措置
原子炉の恒久的な運転終了に伴って採られる廃止措置が適切に実施されることは、原子力発電を円滑に推進する上で重要な課題である。 原子炉の廃止措置は、安全確保を前提に、地域社会との協調に配慮しながら進め、さらに、国土が狭隘な我が国としては、敷地を原子力発電所用地として引き続き有効に利用することが重要である。このことから、我が国としては原子炉の廃止措置に関する方式は、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし、個別には必要に応じ適当な密閉管理または遮へい隔離の期間を経るなど諸状況を総合的に判断して決めることとしている。 原子力発電所の稼働年数は一般に30〜40年と考えられており、昭和70年代前半には商業用発電炉の中に廃止措置が必要となるものがでてくると考えられるので、それまでの間に所要の技術開発、諸制度の整備等を図っておく必要がある。原子炉の廃止作業は技術的には現時点でも既存技術またはその改良により対応できると考えられるが、作業者の被ばく低減等の安全性の一層の向上及び費用の低減を図る観点から技術開発を進めている。この技術開発については、日本原子力研究所において昭和56年度以来、動力試験炉(JPDR)をモデルとして除染、解体、遠隔操作等の技術開発を行っており、その成果を踏まえJPDRを対象に解体の実地試験を行うこととしている。 また、通商産業省においては、発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験が実施されるとともに、昭和59年3月から廃止措置のための基本シナリオ等について検討が進められている。 2 核燃料サイクル確立に向けての進展
(1) 自主的核燃料サイクルの確立
原子力発電は、経済性に優れ、大量かつ安定的な電力供給源として最も有望なものであるが、使用済燃料の再処理によって回収されるプルトニウム及びウランが国産エネルギー資源として扱うことができ、その利用によりウラン資源の有効利用を図ることができるとともに、資源面での対外依存度を低減できる点に、化石燃料資源とは異なる特長を有している。 原子力発電は、現在、軽水炉が中心であり、この軽水炉主流の時代が今後相当の期間にわたって続くとの見方が強まりつつあるが、軽水炉によるウラン燃料の利用という形態は、燃料の海外依存という点において基本的には化石燃料と変わるものでなく、プルトニウムの利用等の技術面での努力により資源面での対外依存度を低減し得るという、この原子力の特長を十分に生かすものでない。すなわち、自主的な核燃料サイクルを確立し、プルトニウムの利用等を図ることにより、原子力発電は、高い供給安定性を有する準国産エネルギーとして位置付けられ得る。 しがたって、エネルギー資源に乏しい我が国にとって、自主的な核燃料サイクルを早期に確立し、プルトニウムの利用システムの実用化を図ることは極めて重要である。 現在の我が国の原子力開発利用についてみると、原子力発電については順調な進展がみられる一方、また、核燃料サイクルについては、現在、ウラン濃縮役務及び使用済燃料の再処理の殆どを海外に依存している状態であり、このような状況下では、濃縮役務供給国の原子力政策、核燃料輸送をめぐる国際環境の動向等によっては、我が国の原子力発電及び研究開発の進展に支障を及ぼす事態も十分考えられる。また、放射性廃棄物に関しても、原子力発電所等で発生する低レベルの固体放射性廃棄物は現在敷地内に安全に貯蔵されているものの、その最終的な処分体制を確立するまでに至っていない。 これまで核燃料サイクル分野においては、動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が積極的に推進されてきており、ウラン濃縮及び再処理は、ウラン濃縮パイロットプラント及び原型プラント並びに東海再処理工場の設計・建設・運転等の経験を踏まえ、実用化移行段階に達している。このような段階を迎え、民間においては、これまでも再処理事業を行うことを目的として日本原燃サービス(株)が設立される等所要の準備が進められてきているが、昭和59年4月には電気事業連合会により、ウラン濃縮施設、再処理施設及び低レベル放射性廃棄物貯蔵施設の包括的な立地協力要請が青森県に対してなされ、さらに、同年7月には具体的な事業計画、立地地点が示される等、核燃料サイクル確立に向けての具体的な動きが活発化している。 以上述べたように、関係者の努力により自主的核燃料サイクルの確立に向けて具体的な進展がみられつつあることは、我が国の原子力開発利用を推進していく上で極めて、意義深いものがある。今後も自主的核燃料サイクルの早期確立を図るべく、官民一体となって、その推進に努めることが重要である。 このような状況の中にあって、原子力委員会は、我が国における核燃料サイクル全般にわたる関係施策の効果的な推進を図るため、核燃料サイクル推進会議を随時開催するとともに、再処理推進懇談会を設置し、我が国の原子力開発の長期的展望等を踏まえ、今後の使用済燃料の再処理の推進のあり方について調査審議を開始した。また、放射性廃棄物の処理処分に関しては、放射性廃棄物対策専門部会において、今後の推進方策について調査審議を進めているところであり、昭和59年8月には中間報告が原子力委員会に提出されている。 また、総合エネルギー調査会原子力部会においては、原子力発電開発規模の将来見通しの下方修正、核燃料サイクル分野における進展等の最近の情勢変化を踏まえて、昭和59年7月、核燃料サイクルの確立に向けての方策等を内容とする報告書をとりまとめた。 (2) 核燃料サイクルの状況
イ) ウラン濃縮
濃縮役務の安定供給の確保は、我が国の原子力発電の円滑な進展のためには不可欠である。現在、我が国は濃縮役務のほぼ全量を米国及びフランスに依存している。このような状況下では、役務供給国の原子力政策あるいは濃縮ウラン需給動向によっては、我が国の原子力発電が制約を受けることも考えられる。したがって、濃縮ウランの国産化は、濃縮ウランの安定供給を確保するとともに、プルトニウム利用を含めた濃縮以降の核燃料サイクルにおける諸活動に対する我が国の自主性を確保するためにも是非とも推進すべきである。 これまで、我が国は、動力炉・核燃料開発事業団を中心として、遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を推進してきている。同事業団は、昭和57年3月以来、岡山県人形峠においてパイロットプラントの運転を行っている。また、パイロットプラントに続く原型プラントは、民間の協力を得て同事業団が建設及び運転を行うこととされており、昭和58年11月には同プラントの立地地点が岡山県人形峠と決定された。昭和59年8月には同プラントに係る環境審査が終了しており、また、同年7月には同プラントに係る加工事業の許可申請がなされ、現在、安全審査が行われている。 一方、民間においても、ウラン濃縮の事業化に向けて、現在、電気事業者を中心に準備作業が進められており、昭和59年7月には電気事業連合会により、ウラン濃縮施設に関し、他の核燃料サイクル施設とともに青森県及び同県六ケ所村に対して立地の申入れがなされている。同施設は、電気事業者が主体となって設立される新会社によって建設・運転されることとなっており、今後、昭和66年頃運転開始を目途に建設準備を進めることとしている。また、メーカーにおいても、このような動きに対応して遠心分離機製造会社を設立すべく準備を進めている。 我が国のウラン濃縮技術は、遠心分離法を中心として研究開発が推進されてきており、動力炉・核燃料開発事業団による技術開発と運転経験の蓄積により、国際的な水準に達しているものと考えられる。先進諸国は濃縮役務の低コスト化を目指して技術開発を行っており、我が国としても国際競争力を有するウラン濃縮事業を確立すべく、信頼性及び経済性の向上を目指した技術開発を今後とも進める必要がある。かかる観点から、同事業団を中心として民間企業の協力のもとに、高性能遠心分離機の開発が進められるとともに、遠心分離機の経済性向上及び高性能化に必要な研究開発、六フッ化ウランガス処理系の合理化試験等が行われている。 一方、米国、フランス等において次世代技術として有望視されているレーザー法の技術開発が進展しているが、我が国においても日本原子力研究所及び理化学研究所において研究開発が推進されている。 ロ) 使用済燃料の再処理
再処理技術を確立し、自主的に再処理を行い得る体制を確立することは、国内エネルギー資源に殆ど恵まれない我が国が、技術の力をもって新たな国内エネルギー資源を創出することを意味するものであり、この確立によって初めて、自主的な核燃料サイクルを完結させることができ、また同時に、プルトニウム利用システムヘの道を拓くことができる。再処理が核燃料サイクルの要といわれる所以もここにある。また、再処理は、使用済燃料に含まれる放射性廃棄物を適切に管理・処分するという観点からも重要である。 現在、我が国では、使用済燃料の再処理は大部分を英国及びフランスに委託しているが、自主的な核燃料サイクル確立を図るため、再処理は国内で行うとの原則の下に、将来は国内の再処理工場により再処理需要を満たしていくこととしている。なお、回収されたプルトニウムの海外から我が国への移転には不確実な要因を多分にはらんでおり、この観点からも国内で再処理を行うことの意味は大きい。 これまで、我が国は、動力炉・核燃料開発事業団を中心に再処理の技術開発を推進してきている。同事業団の東海再処理工場は、昭和56年1月、操業を開始し、昭和58年度末までに合計約174トンの使用済燃料を処理し、約1トンのプルトニウム及び約164トンのウランを回収している。同工場では運転開始以来、種々のトラブルが発生したが、逐次それらを克服しつつ運転が続けられてきた。現在、溶解槽及び酸回収蒸発缶の故障により、昭和58年2月から同工場は操業を停止したが、遠隔操作により補修を行った。現在、新型溶解槽の据付け等を行っており、昭和60年初めにも操業を再開する予定である。以上のように同工場の運転はこれまで必ずしも順調なものではなかったが、建設・連転を通じて得た同事業団の経験は、我が国に再処理技術の定着化を図る上で貴重なものであり、今後の我が国の再処理開発計画に十分反映していかなければならない。 一方、民間においては、日本原燃サービス(株)により、当初昭和65年度運開を目途に再処理施設の建設準備が進められてきたが、このほど計画を変更し、再処理施設については昭和70年頃の運転開始を目途とし、このうち、使用済燃料受入れ貯蔵施設については昭和66年頃の操業開始を目途に建設準備を進めていくこととしている。昭和59年7月には電気事業連合会により、同施設に関し、他の核燃料サイクル施設とともに青森県及び同県六ケ所村に対して立地の申入れがなされている。 以上のような状況の中にあって、原子力委員会は、昭和59年5月、再処理推進懇談会を設置し、今後の再処理の推進のあり方について調査審議を開始した。同懇談会では、再処理技術の現状の評価及び今後の動向、長期的な再処理需給バランス等を踏まえつつ、国内再処理の長期的目標及びそれを達成するための方策等について検討を進めている。 また、再処理施設に係る技術については、再処理施設の大型化、運転の安定化等を図る観点から、主要機器及びプラントシステムの性能、安全性及び信頼性の向上、環境への放射能放出低減化、保障措置の信頼性向上等に関する技術開発が行われている。また、再処理施設の設計・建設に当たっては、東海再処理工場の建設・運転を通じて得られた経験や技術開発の成果を十分に活かすことが重要であり、動力炉・核燃料開発事業団と日本原燃サービス(株)との間で締結されている「再処理施設の建設・運転等に関する技術協力基本協定」に基づき技術移転の円滑化が図られているところである。 ハ) 放射性廃棄物の処理処分
放射性廃棄物の処理処分対策については国民から重大な関心が寄せられている。昭和59年3月に行われた「原子力に関する世論調査」においても、原子力発電所に対し不安に思うとする者の約30%がその理由として「廃棄物の保管や処理・処分などから」を挙げており、放射性廃棄物の処理処分方策の確立は喫緊の課題となっている。 原子力委員会は、放射性廃棄物対策専門部会において、放射性廃棄物対策に関する今後の推進方策について調査審議を進めてきているが、同部会は、昭和59年8月、低レベル放射性廃棄物及び極低レベル放射性廃棄物の陸地処分方策並びに高レベル放射性廃棄物及びTRU(Trans Uranium超ウラン)廃棄物の処理処分方策について、それまでの調査審議の結果をとりまとめ、中間報告書を原子力委員会に提出した。 放射性廃棄物は、原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物、再処理施設において発生する高レベル放射性廃棄物及び再処理工場、プルトニウム−ウラン混合酸化物(MOX)燃料加工工場等において発生するTRU廃棄物に区分され、処理処分について、それぞれ、その特性に応じて以下のような方策が採られている。 (@) 低レベル放射性廃棄物
原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち気体と液体の一部については、処理を行い、安全であることを確認した上で、それぞれ大気中または海洋中に放出されている。残りの液体廃棄物については濃縮してセメントもしくはアスファルトにより固化され、また、固体廃棄物については圧縮、焼却等の処理を行った後、敷地内に安全な状態で貯蔵されている。その累積量は昭和59年3月末現在、全国で200lドラム缶換算で約52万本に達している。これらの廃棄物の一層の減容化、安定化のための処理技術については、政府の支援のもとに民間が中心になって研究開発が行われ、着々と成果をあげているところであり、プラスチック固化、ペレット固化等のより減容性が高く、取り扱いやすい固化法が実用化段階に至っている。 低レベル放射性廃棄物の処分については海洋処分と陸地処分を併せて行い、極低レベルのものについては放射能レベルに合った合理的な処分方策の確立を図ることを基本方針としている。 海洋処分については、調査研究の実施、環境安全評価、国内法令の整備、国際条約への加盟等、所要の実施準備は終了しており、今後とも内外関係者の理解を得る努力を続けていくこととしている。なお、昭和58年2月に開催された「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)締約国会議において、海洋処分について科学的な検討を行い、その結論が出るまで海洋処分の一時停止を呼びかけることを内容とする決議が採択された。現在、各国の専門家の参加の下に、この科学的検討が進められつつあるが、我が国としては、海洋処分の安全性に対する一層の信頼性を確立するとの観点から、この検討に積極的に参加しているところである。 陸地処分については、現在、いわゆる低レベル放射性廃棄物として扱われているものの放射能レベルは多岐にわたっており、これを放射能レベルに応じて適切に取り扱う観点から、前述した放射性廃棄物対策専門部会の中間報告では、従来のいわゆる低レベル放射性廃棄物を、低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物及び放射性廃棄物として扱う必要のないものに3区分し、低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物についてそれぞれ放射能レベルに応じて合理的に処理処分する方策を示している。 また、陸地処分の推進にあたっては、低レベル放射性廃棄物を原子力発電所等の敷地外において長期的管理が可能な施設に貯蔵することが現実的な対応策と考えられており、その具体化のための努力がなされてきたが、昭和59年7月には電気事業連合会により低レベル放射性廃棄物貯蔵施設に関し、他の核燃料サイクル施設とともに青森県及び同県六ケ所村に対し立地の申入れがなされており、今後は、昭和66年頃の操業開始を目途に建設準備が進められることとなっている。また、国においてもその推進を図るため広く関係方面に対して貯蔵の意義、安全性等について理解を得るべく努めであるところである。 なお、陸地処分に係る試験研究については、現在、日本原子力研究所、(財)原子力環境整備センターを中心に試験研究が実施されており、その結果を踏まえて安全評価手法の整備等を図ることとしている。 (A) 高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物
再処理施設において発生する高レベル放射性廃棄物は、現在、東海再処理工場において安全な状態で貯蔵されている。 高レベル放射性廃棄物については、安定な形態に固化し、処分に適する状態になるまで冷却のための貯蔵を行い、その後地層に処分することを基本方針としている。 高レベル放射性廃棄物の固化処理及び固化体貯蔵技術については、動力炉・核燃料開発事業団を中心としてホウケイ酸ガラスによる固化処理に重点を置いて研究が進められており、今後はプラントの建設・運転を通じ昭和60年代後半を目途に技術の実証を図るとともに、処分に移行するまでの間の貯蔵プラントを建設することとされている。また、将来の新固化技術であるシンロック固化法については、昭和59年5月、岩動科学技術庁長官が訪豪した際、同国の資源エネルギー大臣との間で研究協力に関する口上書を交換しており、日本原子力研究所を中心に豪州との間で研究協力が昭和59年度から進められることとなった。 高レベル放射性廃棄物の処分技術については、動力炉・核燃料開発事業団が中心となり、地層処分に重点を置いて研究開発を進めており、地層の特性の調査研究、処分において必要とされる要因を具備した地層の選定作業、放射性物質の漏出を防止する固化体、キャニスター等の人工バリアの開発等を実施している。また、安全性評価及びその手法に係る研究開発は日本原子力研究所において行われている。今後、これらの研究開発の一層の進展を図り、2000年頃を目途に処分技術の早期実証を目指すものとされている。 このほか、日本原子力研究所において、長半減期の核種を分離する群分離技術等について研究開発が行われている。 一方、再処理工場、MOX燃料加工工場等において発生する超ウラン元素を含むTRU廃棄物については、当面は安全に貯蔵できるものの、今後発生量の増加が見込まれ、その特性に応じた処理処分方策の推進が必要であり、高レベル放射性廃棄物の研究開発等の成果を参考としつつ、その処理処分に関する研究開発が進められている。 (3) 核燃料サイクル施設の立地推進
昭和58年11月の動力炉・核燃料開発事業団によるウラン濃縮原型プラントの岡山県人形峠への立地の決定、昭和59年4月の電気事業連合会によるウラン濃縮施設、再処理施設及び低レベル放射性廃棄物貯蔵施設の青森県に対する包括的な立地協力要請、同年7月の青森県及び同県六ケ所村への立地の申入れ等、近時、核燃料サイクル施設の立地に係る具体的な動きが活発化している。これらの動きは事業者による立地推進努力の現れとして高く評価でき、国としても地元の理解と協力を得つつ支援していくこととしている。 しかしながら、核燃料サイクル施設の立地は原子力発電所と異なり既存の立地例が少ないことから、立地に対する理解を得るためには原子力発電所以上に困難があることも考えられ、立地地域の合意形成が円滑に行われるよう十分な配慮が必要である。このため、国民全体及び立地地域住民を対象とした官民一体となった積極的な広報活動の実施、地域振興施策の推進、立地に際しての各種手続き等を円滑に履行していくための地方公共団体も含めた関係行政機関の間の連携と協力体制の整備等を進めていくことが肝要である。 3 主要研究開発の進展状況
(1) 高速増殖炉
高速増殖炉は、その本格的利用によりウラン資源量に制約されることなく、長期にわたり安定的な電力供給を行っていくことを可能とするものであり、将来の原子力発電の主流となる炉型と考えられ、我が国においては、その開発は、これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきている。 実験炉「常陽」の建設・運転により技術経験の蓄積がなされてきており、その蓄積を踏まえ、現在、原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)について、昭和65年度臨界を目指して建設準備工事が進められている。また、関連する研究開発については、動力炉・核燃料発開事業団において、機器製作、安全性等に係る研究開発が行われており、また、民間においては、(財)電力中央研究所を中心に、耐震特性をはじめとする大型炉の概念確立に必要な研究が行われている。これらの成果は「もんじゅ」の次段階の炉である実証炉にも反映されることとなる。 この実証炉の開発については、原子力委員会は、既に、高速増殖炉開発懇談会を設け、研究開発及び設計の進め方、国際協力のあり方等今後の実証炉開発の進め方について、調査審議を行っている。また、実証炉の建設推進に当たっては、国と民間、特に、これまでの開発主体であった動力炉・核燃料開発事業団と実証炉開発の主体となる電気事業者との密接な協力が重要であることに対応し、昭和58年12月には、動力炉・核燃料開発事業団と電気事業連合会との間で、連絡・調整の場として高速増殖炉連絡協議会が発足しており、随時協議が行われている。 一方、国際協力については、自主開発を補完し、全体として整合性をとりつつ、より積極的に進めることとされており、従来から動力炉・核燃料開発事業団が中心となって進めてきている。最近、電気事業連合会あるいはメーカーにおいても国際協力の動きが活発化しており、今後とも、官民の緊密な連携のもと、積極的に推進することが重要である。 (2) 新型転換炉及びプルトニウム利用
新型転換炉は、プルトニウムの早期利用を図るとの観点から、我が国独自に自主開発を進めてきた炉型であり、中性子利用効率の高い重水減速炉であるため、プルトニウムはもちろん、回収ウラン及び劣化ウランも有効かつ容易に利用できるという特長を有している。 これまで新型転換炉の開発は、動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきており、昭和54年3月に運転を開始した原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が順調に運転されており、この原型炉の建設・運転により実用化に向けての技術経験の蓄積がなされてきた。 実証炉については、電源開発株式会社を建設・運転の実施主体とすることを決定している。その後、動力炉・核燃料開発事業団と電源開発(株)との間で昭和58年2月には相互協力についての基本事項を定めた「新型転換炉実証炉開発に関する相互協力基本協定」が締結され、また、同年12月には新型転換炉実証炉の合理化設計等の技術資料が動力炉・核燃料開発事業団から電源開発(株)へ引き渡され、電源開発(株)において基本設計が進められているところである。また、昭和58年8月から実証炉の建設予定地点である青森県大間町において立地環境調査が進められている。今後、1990年代初め頃の運転開始を目標に設計・建設を進めることとしている。 なお、昭和59年6月には、原型炉「ふげん」に、東海再処理工場で得られた回収ウラン及びプルトニウムによる混合酸化物燃料が装荷された。これは、我が国における最初の回収ウランのリサイクルである。 一方、軽水炉によるプルトニウム利用は、プルトニウムの早期利用を図る上で有力な手段である。これまで、この技術開発は電気事業者を中心として進められてきている。現在、少数集合体規模での照射計画が進められようとしているところであり、また、引き続いて実用規模(1/3炉心程度)での実証計画も検討されている。 プルトニウム利用に関連して、プルトニウム−ウラン混合酸化物(MOX)燃料加工及び高速炉燃料の再処理についても動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。 MOX燃料加工については、現在、新型転換炉原型炉「ふげん」用及び高速実験炉「常陽」用燃料加工施設が稼働しており、その経験を踏まえ、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」用(5トンMOX/年)の燃料加工施設の建設が進められており、また、新型転換炉実証炉用(40トンMOX/年)の燃料加工施設の建設準備が進められている。今後は、軽水炉でのプルトニウム利用、高速増殖炉の開発等の進展に応じ、その加工体制を整備していく必要がある。 また、高速増殖炉の使用済燃料については、プルトニウム含有量が多いこと及び熱中性子炉の場合よりも燃焼度が高くなると考えられること等から、基本的には従来の再処理技術をベースとしつつも高速増殖炉使用済燃料に対応した再処理技術を確立する必要がある。現在、東海再処理工場の経験を踏まえて研究開発が進められており、昭和58年6月に高レベル放射性物質研究施設(CPF)で「常陽」の照射済燃料から初めてプルトニウムが回収され、昭和59年9月には再び「常陽」に装荷され、実験炉規模ではあるが、初めて高速増殖炉の核燃料サイクルが完結する等順調な進展をみせている。 (3) 多目的高温ガス炉
我が国においてエネルギー供給源としての原子力利用は、これまで電力分野にのみ限られているが、エネルギー消費全体の70%近くを占める非電力分野においても原子力を有効に利用することは、安定なエネルギー供給を確保する上で重要である。 高温ガス炉は、1000℃程度の高温ガスが得られるので幅広い用途が期待され、原子力の非電力分野での利用を可能とする炉型である。当面の重要なステップである実験炉については昭和65年頃の運転開始を目途に建設するものとされている。 多目的高温ガス炉の開発は、昭和44年以来日本原子力研究所において進められているが、それらの成果を総合して実験炉の詳細設計を進めており、現在、システム合理化を行うための調整作業を行っている。また、実験炉と同程度の高温・高圧ヘリウム条件下で実験炉用機器の実証試験を行うことを目的とした大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)を使用した試験も開始されている。さらに、実験炉炉心の核的安全性を実証するための半均質臨界実験装置(SHE)の改造も、昭和59年6月には炉心部改造が完了し、来年度の臨界実験開始に向けて準備が進められている。 また、核熱の利用については日本原子力研究所において、実験炉に接続する利用系プラントについての技術的課題等の調査を行うとともに、水素製造に関する基礎的な研究を進めている。 (4) 放射線利用
放射線利用は、工業、農林水産業、医療等の分野への幅広い利用を通じて国民生活の向上に大きく貢献するものであり、原子力発電とともに原子力平和利用の重要な柱となるものである。 放射線利用に係る研究開発は、工業分野については日本原子力研究所高崎研究所等で、農林水産業の分野については農林水産省の試験研究機関等で、また、医療分野については放射線医学総合研究所を中心に進められており、種々の成果が挙がっている。 食品照射については、原子力委員会が策定した「食品照射研究開発基本計画」に基づいてこれまで研究開発が進められてきたが、バレイシヨについては既に実用化がなされ、玉ねぎについても、現在、実用化の検討がなされている。昭和59年1月には、科学技術庁において、関係国立試験研究機関の協力を得て、米と小麦について、これまでの研究成果を踏まえた報告書がとりまとめられており、米と小麦の食品照射は安全上問題がない旨の結論が得られている。また、その他の品目(ウィンナーソーセージ、水産ねり製品、みかん)についても研究成果をとりまとめているところである。今後は、国民の理解を得るとともに、関係者の協力の下に、これらの食品照射が実用化に移されることが期待される。 なお、国際的にみても、食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、国際原子力機関(IAEA)の合同専門家会議において、食品照射について、1,000キロラド以下の線量で照射する場合には安全上問題ない旨の結論が得られている。 医療分野においては、診断の面では、エックス線コンピュータ断層撮影装置(X線CT)が既に広く利用されているが、陽電子(ポジトロン)放出核種を用いることにより従来のX線CTによる診断では不可能な脳、心臓等における代謝及び機能診断を可能とするポジトロンCTも、現在、放射線医学総合研究所において工業技術院等の協力のもとに実用化に向けて開発が進められている。 また、治療面でも、がんの治療においては電子線、エックス線及びガンマ線による治療が広く利用されているが、さらに、速中性子線、陽子線、重粒子線等による治療法の開発が進められている。こうした中で、昭和59年度には放射線医学総合研究所において、治療効果が高く集中照射が可能な重粒子線による治療の早期実現を目指して、医用重粒子加速器の概念調査が開始された。 一方、昭和58年6月には、がん対策関係閣僚会議において「対がん10カ年総合戦略」が決定され、その中で放射線治療に関する研究は重点研究課題として選定されている。また、科学技術会議においても、同年7月に「がん研究推進の基本方策に関する意見」がとりまとめられ、がんの放射線治療を、特に重点を置いて推進すべき研究の一つと位置付けている。 (5) 原子力船
原子力船は、その舶用炉技術の向上によって、化石燃料による在来船では困難と見込まれる商船の高速化、長期運航等の実現の可能性があり、また、海運分野のエネルギー供給の多様化にも貢献することが期待される。従って、長い目で我が国の将来を考える時、原子力船研究開発を段階的、着実に進め、原子力船の技術、知見、経験等の蓄積を図っておく必要がある。 原子力船の研究開発を進めていく上では、実船による海上での種々の運航データの取得が不可欠であるため、日本原子力船研究開発事業団において原子力船「むつ」の開発を中心とした研究開発が進められてきた。 原子力船「むつ」については、地元との協定に基づき、関根浜新定係港を建設し同港に回航されることとされており、それまでの間、大湊港に係留されている。なお、関根浜新定係港の建設は昭和59年2月から開始された。 「むつ」による原子力船研究開発については、原子力船実用化の見通し、費用対効果、技術導入や陸上での模擬実験による研究開発の可能性等をめぐって、様々な議論があるところであるが、原子力委員会においては、昭和58年10月、原子力船懇談会を設け、原子力船開発の全体のあり方について調査審議を進めたところ、同年11月、同懇談会から原子力委員会に対し報告書が提出された。原子力委員会は、これを受け、審議を進め、昭和59年1月、原子力船研究開発の必要性及び進め方について決定を行った。即ち、既に修理の完了した「むつ」については、今後、諸試験、実験運航を行い、諸試験から最終的な廃船に至るまでの一貫したデータを取得することが、将来の原子力船研究開発にとって最も有効であり、また今後の「むつ」開発については、現下の厳しい財政事情に鑑み、極力経費の節減に努める等効率的な推進に留意すべきである旨、決定を行った。 その後、国会をはじめ関係各方面において、「むつ」の取り扱いについて様々な議論が展開されたが、原子力委員会としては、上述の決定を踏まえ、昭和60年度予算概算要求に際し、「むつ」による研究開発については、安全性の確保を大前提として、経費縮減を十分考慮しつつ、今後の舶用炉の研究開発に必要不可欠な知見・データを得るため、速やかに実験航海を行うこととし、そのために必要な新定係港の建設のための経費等について見積りを行った。今後の「むつ」による研究開発については、速やかに実りある成果が得られるよう期待される。 他方、日本原子力船研究開発事業団は、「むつ」の開発と連携して、経済性・信頼性に優れた小型高性能の舶用炉等の研究開発を行うこととしており、現在、概念確立のための設計評価研究を行っている。 なお、日本原子力船研究開発事業団は、行政改革の一環として、昭和60年3月31日までに日本原子力研究所に統合されることとなっており、このための「日本原子力研究所法の一部を改正する法律案」が、昭和59年3月、第101回国会に提出され、同年7月成立し、公布された。 (6) 核融合
核融合エネルギーの利用は、これが実用化された場合には極めて豊富なエネルギーの供給を可能とするものであり、人類の未来を担う有効なエネルギー源として、その実現に大きな期待が寄せられている。 我が国の核融合研究は、日本原子力研究所、大学、国立試験研究機関等において進められており、今日、世界的水準にある。 日本原子力研究所においては、世界的にみて、現在、最も研究が進んでいるトカマク方式により核融合炉の実現を目指した研究開発が行われている。その中核的装置とし臨界プラズマ条件の達成を目指した臨界プラズマ試験装置(JT−60)については、昭和60年4月の本体完成、昭和61年度の加熱実験開始を目途に建設が進められており、現在、本体装置の据付けも最終段階を迎え、昭和59年6月から総合機能試験が開始された。 一方、大学、国立試験研究機関等においては、各種のプラズマ閉込め方式の研究や炉心技術及び炉工学を含む広い関連分野における基礎的研究が行われている。 原子力委員会では、これらの大学、その他の関係機関とも緊密な連携を保ちつつ核融合の研究開発を総合的かつ効果的に推進するため、核融合会議を設置し、連携・協力の促進を図るとともに研究開発方策の検討を行っている。 JT−60に続く次段階の装置については、当面、トカマク方式を想定して研究開発を進めることとされているが、トカマク以外の方式についても長期的視野に立って研究開発を実施することとしている。 核融合研究開発は長期間の年月、巨額の資金及び多くの人材のみならず、広範な分野における高度な最先端技術を必要とするものであり、開発資金、人材等の効率的活用を図る必要がある。各種プラズマ閉込め方式に係る研究開発の進展状況を考慮すると、研究成果、関連技術の開発状況、国際動向等を勘案して、国全体として今後の研究開発計画について具体的に検討すべき時期に近づきつつあるものと考えられる。一方、国際協力については、我が国は、世界の4大トカマクといわれる大型の装置を開発しているリーダーグループの一員として、国際協力に積極的に取り組むこととしており、現在、二国間協力、多国間協力、国際機関を中心とした協力に積極的に取り組んでいる。 4 国際協力と核不拡散
(1) 国際協力
近年、原子力分野における国際協力の機運はとみに高まっている。特に、近隣アジア諸国を中心とした開発途上国の我が国の協力に対する期待が高まっている。我が国としては、従来からの先進諸国との協力のほか、開発途上国との関係強化を図るとともに、原子力先進国としての国際的責務を果たすという観点から、これら諸国との協力を積極的に行うこととしている。 国際協力を進めるに当たっては、「我が国が外国の原子力利用に関係する場合にも、原子力基本法の精神を貫くべきである」との原子力委員会決定を踏まえ、対処していくことが必要である。 イ) 先進国との国際協力
原子力分野における先進国間の国際的な研究協力は、安全研究協力、規制情報交換、高速増殖炉、核融合等多岐にわたる分野で、二国間、多国間あるいは国際機関の場を通じ、活発に行われている。高速増殖炉、核融合等の例を挙げるまでもなく、原子力研究開発は今後とも大規模化するとともに関連する分野もより広範になっていくものと考えられ、これらの開発には膨大な開発資金と多分野の人材を要するので、研究開発の効率化及び資金分担の観点から、国際協力の重要性が高まりつつある。 高速増殖炉については、高速増殖炉開発懇談会において高速増殖炉実証炉開発促進のための国際協力のあり方について調査審議が行われており、また、核融合分野においても二国間及び外国間の国際協力について、核融合会議において連絡・協議が行われている。また、昭和57年6月に開催された先進諸国首脳会議(ヴェルサイユ・サミット)において、それぞれ科学技術協力プロジェクトとして取り上げられ、その後、専門家会合等により協力の内容、枠組等について具体的な議論がなされ、昭和59年6月にはロンドン・サミットにおいて科学技術作業部会報告の中に両プロジェクトの作業の進捗状況がとりまとめられ提出された。なお、ヴェルサイユ・サミットにおいて提唱され、その推進が奨励されていた軽水炉の安全研究についても、昭和58年11月に日本原子力研究所と米国原子力規制委員会(NRC)との間でROSA−W計画の日米共同研究実施取決めが合意される等研究協力の推進が図られている。 原子力に係る国際機関である国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)及び国際エネルギー機関(OECD/IEA)においては、核融合、放射性廃棄物管理、安全研究等の分野で国際プロジェクトが積極的に推進されている。これら国際機関は、国際協力の場として今後ますます重要な役割を果たしていくことが期待される。 ロ) 開発途上国との国際協力
開発途上国の原子力開発意欲の高まりにつれて、放射線利用からエネルギー利用まで幅広い分野において、我が国の協力に対する開発途上国の期待は高まり、その内容も次第に明らかになってきている。 このような開発途上国からの協力期待に応えることは、原子力先進国としての我が国の国際的責務であり、各国の原子力開発が健全かつ安定的に発展し、原子力利用の実績及び信頼性が国際的にも高まることは、我が国の原子力開発利用の今後の円滑化に資するものであると考えられる。また、こうした協力が進み、関係が深まれば、長期的には相手国のニーズ及び技術レベルに応じた適切な機器輸出等が可能となり、更に、協力により得られる各国の原子力研究開発の成果、原子力発電の運転管理に係る情報等は、長期的観点に立てば我が国が原子力開発利用を進めていく上でも有益なものとなっていくものと考えられる。 開発途上国協力について、我が国は、従来よりIAEAの「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基づく協力、国際協力事業団(JICA)による政府ベース技術協力等を通じて、放射線・アイソトープの利用を中心に、資金の拠出、研修員の受入れ、専門家の派遣、各種ワークショップ・セミナーの開催等積極的に協力活動を行ってきている。 しかしながら、従来からの我が国の協力は、欧米原子力先進諸国と比べると、質・量ともに劣っており、今後、我が国は、上述した開発途上国協力の意義を踏まえ、所要の対応策をとっていく必要がある。 このような状況に鑑み、原子力委員会は、開発途上国との協力促進に資するため、昭和58年8月、開発途上国協力問題懇談会を設置し協力の進め方、協力の円滑化のための方策等について調査審議を進めてきたが、同懇談会は、昭和59年8月、報告書をとりまとめ、同年9月、同報告書を原子力委員会に提出した。同報告書においては、原子力分野の協力を我が国の開発途上国協力全体の中で重要な分野として適切に位置づけるべきものとしており、各国が長期的、計画的に原子力開発を進められるよう、各国の実情を適確に把握し、相手国の真のニーズに即した協力を進めていくことが重要であり、特に、開発途上国との人材交流は、今後最も重点を置くべき協力の方法であると考えられる旨指摘している。また、従来先進国に偏って実施されてきた国際研究協力は、開発途上国の原子力開発のための基盤整備に効果的であり、今後は開発途上国との間でもそのニーズに応じて研究交流を技術協力と合わせて積極的に推進していく必要がある旨述べている。 また、隣国である中国は、原子力発電所の建設を諸外国の協力を得つつ進めていく計画であり、昭和59年1月にはIAEAに加盟し、国際的動きが活発化している。 昭和58年10月に開催されたIAEA総会における中国のIAEA加盟承認に際し、安田科学技術庁長官は我が国代表として演説を行い、同じアジアに属する国としてその加盟を歓迎した。 我が国と中国との間の原子力協力は、従来民間ベースで行われてきたところであるが、昭和58年9月に開催された第3回日中閣僚協議において、原子力の平和利用分野における協力を促進・発展させるべく協議を進めていくことで両国の意見が一致した。これを受け、日中両国間の本格的な原子力協力を円滑に進めていくための枠組となる原子力協定を中心とし、両国政府間の協議が昭和58年10月以来行われているが、同時に、同国が建設を予定している秦山原子力発電所への原子炉圧力容器の輸出、中国におけるウラン資源の共同調査等、協定の締結を待たずとも行い得る協力が進められている。 このような状況の中で、原子力委員会は、将来の日中原子力協力の基礎固めを行うため、中国側の原子力開発の最高責任者である方毅国家科学技術委員会主任を昭和59年4月に招へいし、我が国の原子力開発の現状を紹介するとともに、原子力分野における日中協力について関係者と意見交換を行った。 (2) 核不拡散
我が国は、原子力基本法の下に原子力開発利用を平和目的に限って推進してきており、また、国際的にも「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)を批准するとともにIAEAの保障措置を積極的に受け入れることにより、原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進していることを世界に明らかにしている。 現在、我が国はウラン資原及び濃縮・再処理の役務の殆どを海外に依存している。従って、我が国の原子力開発利用に支障を来たさないよう、これら核燃料の輸入或いは移転及び役務の提供が円滑に行われることが不可欠であり、このためには我が国が原子力開発利用を平和目的に限って推進していることについて国際的な理解を得ていくことが重要である。一方、今後、我が国は、原子力技術の向上、原子力産業の成長を背景として原子力資機材、技術等の供給国となっていくと考えられるので、それらの受領国としての立場からばかりでなく、供給国として核不拡散のための十分な配慮を行っていくことが必要である。 国際的動向については、昭和52年から55年にかけて実施された国際核燃料サイクル評価(INFCE)における検討結果を踏まえ、核不拡散に関する新しい国際的制度や保障措置の改良等についてIAEAの場を中心として検討、協議が引き続き行われている。 なお、核不拡散問題は国際的な政治問題であり、各国の利害も絡み、国際的なコンセンサスを得ることは容易ではないが、我が国としてはNPTを中核とする国際的な核不拡散体制の確立に積極的に貢献していくことが重要である。 イ) 日米再処理問題
東海再処理工場の運転継続、民間再処理工場の建設等をめぐる日米間の再処理問題については、昭和57年8月の東京における協議以来、10回の事務レベル協議が行われているが、米国が長期的取決めの前提として依然として同国の国内法である「1978年核不拡散法」に基づく措置を採る必要があるとしていること等から、長期的取決めの早期決着の見通しは必ずしも楽観を許さない状況にある。 なお、東海再処理工場については、昭和56年10月の共同決定を昭和60年末まで暫定延長することとなった。 ロ) 多国間協議
INFCEにおいては「原子力平和利用と核不拡散は両立し得る」との基本認識が得られ、その結果を受けて核不拡散に関する新しい国際的制度として、国際プルトニウム貯蔵(IPS)、核燃料等供給保証(CAS)及び国際使用済燃料管理(ISFM)が提唱され、IAEAの場において検討がなされた。これらのうち、IPS及びISFMについては、それぞれ専門家会合において最終報告書がとりまとめられており、また、CASについては引き続き検討が行われている。 また、昭和59年7月には、西側原子力供給13国カ国が現行核不拡散体制の評価と改善のための方途について意見交換を行った。 ハ) 保障措置及び核物質防護
核不拡散のための重要な手段である保障措置については、我が国としては、国内保障措置体制の一層の充実等を図るとともに、定期的な日・IAEA保障措置合同委員会の開催を含め、IAEAと密接な連携を図りつつIAEAの保障措置体制の改善・合理化にも積極的に協力している。 また、保障措置技術については、所要の研究開発を行う一方、IAEAにおける保障措置技術の適用・改良に係る検討に積極的に参加するとともに、昭和56年11月に発足した対IAEA保障措置支援計画(JASPAS)を通じてIAEAによる国際保障措置を支援することにより国際的信頼性を高める努力を行っている。 一方、核物質防護については、近年、核不拡散上重要な課題の一つであることが認識され、所要の施策が講じられてきている。また、国際的には昭和55年3月、核物質防護条約が署名のため開放されている。同条約は21カ国の批准により発効することとなっているが、昭和59年9月現在、38カ国及びヨーロッパ共同体(EC)が署名し、このうち、10カ国が批准している。我が国も署名、批准に備え、諸般の準備を進めることとしている。 5 自立期を迎える原子力産業
(1) 我が国の原子力産業の現状及び今後の課題
原子力開発利用の着実な進展を図るためには、信頼性の高い機器、核燃料等が効率的かつ経済的に生産でき、かつ、十分な国際競争力を持つ原子力産業の発展が不可欠である。 原子力産業は、原子力関連機器の製造、核燃料サイクル関連事業、原子力関連の建設、輸送、各種サービス等の業を行うものの総称であり、多種多様な業種により構成されている。 (社)日本原子力産業会議の調査によれば、昭和57年度において原子力関係の売上実績を有する企業は約300社であり、売上高は約1兆1,700億円(最終需要相当分約9,100億円)、従事者数は約60,000人となっている。 また、その成長率に関しては、昭和50年度からの平均成長率でみると、製造業全般に比べ約2倍であり、他の成長産業と比較しても半導体には及ばないもののコンピュータと同程度である。 また、同調査によれば、原子力関係収支は近年黒字基調で推移しており、昭和31年度からの累積収支についても減価償却を考慮すると黒字に転換している。原子力産業全体としては、開発初期における投資が現在に至って回収されたことを示しており、経営的にも安定なものになりつつある。 一方、研究開発投資については、上記調査によれば、昭和57年度においては約710億円、対前年度比17%の増加となっている。この対売上高比は6%強であり、一般産業の1.5%に比べて高い水準にあり、原子力産業では研究開発活動が活発に行われていることが示されている。しかしながら、研究開発のウェイトを示す指標である研究開発特化係数(当該産業の研究開発費の対売上高比/全産業の研究開発費の対売上高比、平均的産業では1となる。)は近年、低下しつつあり、研究開発指向という原子力産業の特徴は次第に薄れつつある。これは原子力関連の売上高の増加によるものであり、産業分野としての発展に伴って起こる必然的な動きともいえる。 以上述べたような産業規模の拡大、経営面での安定化、研究開発指向の低下等の現象は、原子力産業が、産業として、いわゆる幼年期から脱し自立期へと移行しつつあることを示すものと考えられる。 一方、我が国の原子力産業の技術力は、これまでの着実な研究開発の進展を経て着実に向上してきている。軽水炉については、国産軽水炉が極めて高い設備利用率で稼動していること、また、プラントの建設工期も欧米諸国に比べて短いことに示されるように機器製造面、プラント建設面では相当高い技術を有している。一方、プラント設計面では当初技術導入に依存したことにより基本的には海外依存ではあるが、今日、我が国が主導的な役割を果たしつつ、海外の原子炉メーカーと協力して改良型軽水炉(ABWR、APWR)の開発が推進されるといった動きも出てきている。 また、核燃料サイクル関連、新型動力炉関連の技術についても、我が国の原子力産業は、動力炉・核燃料開発事業団の研究開発プロジェクトヘの参加を通じて相当の技術を蓄積してきている。 前述したように、現在、新型転換炉実証炉及び高速増殖炉原型炉の建設計画が進められてきており、また、核燃料サイクルについては立地が進展する等事業化に向けて計画が進捗しつつあり、原子力産業も、これらの計画が円滑に推進されるよう、その技術基盤を一層強化することが望まれる。 一方、我が国の原子力産業の需要構造をみると、これまで国内市場のみに依存し輸出を殆ど行っていないという点で、一般の我が国の産業形態から考えると特異な存在であるといえる。また、最終需要部門には電力会社、試験研究機関、大学・病院等があるが、電力会社の占める比率が圧倒的に大きく、原子力産業の操業度は国内の原子力発電所建設計画に大きく左右されることとなる。最近、原子力発電開発計画は下方修正されたが、その開発ペースが更に下回っていく場合には原子力産業の活力維持に支障が生じることも十分考えられる。今後、原子力産業の健全な発展を図るためには、原子力発電開発の円滑な進展のほか、原子力関連の輸出の推進、さらには長期的には発電以外の分野における原子力の広範な利用を図るための研究開発の推進等が必要である。 原子力関連の輸出については、これまで原子力発電プラントの部品・材料、放射線利用機器等の輸出がなされている。前述の調査によれば、昭和57年度において機器関連の輸出が約160億円、技術輸出が約40億円となっている。最近では、我が国の技術水準の高さを反映して原子炉機器輸出の引合いも来つつあり、昭和59年5月には、我が国の原子炉メーカーと中国との間で原子炉圧力容器の輸出について契約が成立している。今後の原子力産業の発展及び海外、特に開発途上国における原子力発電に対する需要を考えると、原子力発電プラントについても輸出がなされることが期待される。このため、原子力産業は国際競争力を保有すべく技術基盤の強化、経済性の向上等を図るとともに、核燃料サイクル関連サービス、人材の訓練、プラント保守等について整備を図る一方、国においても、原子力発電プラント輸出には巨額な資金、カントリーリスク等大きなリスクが伴うことに鑑み、金融面の対応策の検討等プラント輸出の条件整備に努めることが必要である。また、輸出に当たっては、核不拡散の確保が大前提であるので、核不拡散の配慮を十分行うことが不可欠である。 (2) 原子力の経済的・技術的波及効果
原子力は、エネルギー分野及び放射線利用分野において広く利用されているが、原子力産業の発展は経済的にも技術的にも大きな波及効果をなすものである。 イ) 経済的波及効果
(@) 内需形成効果等
我が国の経済は内需中心の経済運営が内外から期待されている。電源開発投資は、我が国の民間設備投資の約4%を占め、そのうち半分程度が原子力に対するものであり、原子力の内需形成効果は大きい。 発電に要する経費の内外投下割合をみると、火力発電については、燃料費(その殆どが海外に支払われる)の占める割合が大きく、一方、原子力発電については建設費の占める割合が大きいため、原子力発電は火力発電に比べると資金の国内投下割合が大きいといえる。また、原子力発電の燃料費のうち、国内支払分は現在では再転換・成型加工費のみであるが、濃縮、再処理等の国産化に伴い徐々にその割合を増すものと期待される。 (A) 他の産業への波及効果
原子力産業は多種多様な産業に関連を有する総合的なシステム産業であり、原子力関連の需要は、主として最終需要として、多くの産業に対して広く波及効果をもたらす。 昭和55年度産業連関表に基づき分析した結果によると、原子力産業に係る産業間の取引構造は、建設・土木及び電気機械部門からの納入が多く、また、鉄鋼部門の需要誘発効果が大きいことが示される。 また、生産誘発効果、雇用誘発効果とも原子力産業は全産業の平均を上回っており、全産業中相対的に高い波及効果を有していると評価できる。特に原子力機器・部品製造部門は製造業の中で雇用誘発効果が大きいが、これは原子力が高度な技術分野であるため多くの熟練技術者を必要とするためと考えられる。 ロ) 技術的波及効果
原子力技術は、高度な先端技術であり、科学技術立国を目指す我が国の科学技術水準の向上に大きな役割を果たすと期待されている。 原子力技術は多種多様な分野にわたる技術を幅広く総合化したものであり、広い技術分野に対して波及効果を有するが、特に次のような技術分野に波及効果が大きい。 @ 基盤的技術分野
イ 設計・分析技術(放射性同位元素利用による各種計測、非破壊検査等)
ロ 新材料の開発(高温材料、高耐食材料、高難燃材料等)
ハ 溶接技術(溶接精度、信頼性の向上)
A システム技術分野
イ 信頼性・安全性評価技術
ロ 品質管理技術
ハ 耐震設計を含む大型構造物の設計技術
ニ ロボット等自動化、遠隔操作技術
とりわけ、原子力技術は、極めて高度な信頼性が要求される巨大システム技術として、システムの評価技術、品質管理・品質保証、エンジニアリング技術等のシステム全体の管理技術向上に大きな貢献をしていると評価できる。 以上述べたように、原子力開発利用は、エネルギーの安定供給、放射線利用のみならず、経済的側面あるいは技術的側面からも我が国の発展に大きな寄与をなすものである。この点からも、原子力開発利用を積極的に推進する意義は大きいと考えられる。 |
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