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経済的、技術的観点からみた原子力開発の役割に関する調査研究



 原子力の開発利用は、エネルギーの安定的確保を主目的としているが、我が国の経済活動、技術開発にも大きな寄与をなすものである。原子力委員会は、(財)未来工学研究所の協力のもとに、我が国の原子力開発利用の経済的、技術的役割を明らかにすることを目的に、我が国の原子力産業と原子力技術の現状、波及効果等について調査を行った。

1. 原子力開発の経済的役割分析

 (1) 原子力産業は昭和45年頃から成長期に入り、50年代の高い成長率を背景に1兆円を越える市場を形成し(製造業全体の0.5%)、我が国経済の中で無視し得ない存在となっている。(表1)

 我が国原子力産業は、電気機械、造船、建設などの業種を中心に極めて多様な産業から構成され、そこでは特に大企業が大きな役割を果たしている。

 原子力産業の特徴は、需要構造が一元的で、かつ需要セクターが公益事業体としての電力や政府などの公的機関であるため、市場メカニズムが機能しにくく、産業としての自律的調整が容易でない点にある。(図1)

 しかし、近年は、新規参入企業の増大やその技術的蓄積に伴い、部品、材料、各種サービス分野では市場競争が激しく、また調達も多様化する傾向が見られる。

 (2) 従来の分析では、原子力市場の大半を占める原子力発電建設への設備投資は、他の代替発電技術への投資に比べて「設備容量(または発電々力量)あたりの誘発需要額は大きいものの、誘発係数(投資額あたりの誘発需要額)は変わりがない」とされてきた。しかし原子力機材・サービスの取引構造を考慮に入れ、原子力産業を内生化した産業連関モデルを用いた分析結果では、原子力産業を通じた原子力発電所建設への投資が誘発係数においても産業の平均を上回る値を示し、原子力開発が国内経済へ大きな影響をもたらすことが明らかになった。(図2、3)

2. 原子力開発の技術的役割分析

 (1) 導入技術に始まった我が国の原子力技術は、今や世界的水準に達している。すでに国産化率はほぼ100%を達成し、高い品質水準を要求される生産技術面においても設備件数の約40%は、産業用としては最も品質保証規格の厳しい専用設備が使用されている。また、原子力産業を対象にしたアンケート結果では、全製品項目の87%は「導入技術へのパテント等の支払もなく、完全自主設計・製造」であると答え、産業化された領域での我が国の原子力技術がすでに改良段階から自主開発段階に入っていることが示されている。

 しかし、原子力産業の最も主要な位置を占めるプラントエンジニアリング等組立・加工段階が高くなるに従って自主開発は低下し、とりわけ設計評価技術は、安全設計評価や運転・事故データ等で対外依存度が高い。

表1 原子力産業の成長性と他産業との比較

図1 原子力産業の鉱工業部門における設備投資、研究開発投資

図2 原子力産業の生産に伴う産業間の取引構造(昭和55年)

図3 原子力産業の生産及び雇用誘発効果

 (2) 原子力技術の波及効果を原子力産業を対象としたアンケート、特許データ等を基に定性的、定量的に分析した結果は次のようにまとめられる。

  @ 原子力分野への参入企業にとって、参入により得られた経営体への技術的波及効果は、大きく(@)品質管理体制やその技術、(A)設計・製造技術の向上、(B)新組織・人材の育成、(C)設備の増強や更新があげられる。中でも品質管理に関連した指摘は全体の6割近くを占め、原子力技術の最も主要な特徴が品質管理面にあることが示されている。(表2)

表2 原子力分野参入による経営体へのインパクト(アンケート結果)

表3 原子力技術の他分野への波及事例(アンケート結果)

  A 原子力技術の他分野への波及事例としては、耐震設計技術、信頼性や安全性評価技術等のコンピュータ利用技術が最も多く、次いで溶接、品質管理、自動化・遠隔化等の製造技術、新材料、材料加工等の材料関連技術が挙げられる。高効率フィルタのクリーン・ルームへの応用等要素技術面での波及事例も見られるが、全般的にはシステム技術やソフト技術としての影響が大きい。業種別ではプラントメーカーの属する電気機械、輸送機械(造船)、建設業での波及が顕著である。(表3)

  B 特許データによる要素技術面での定量的波及効果分析では、原子力技術は「測定・試験」や「物理的・化学的方法(沸騰、分離、混合など」等の要素技術と連関性が高いが、波及の“強さ”や“広がり”は他要素技術に較べて相対的には低い水準にある。

  C 以上から原子力技術は、構造や材料面での高度な信頼性にもとづいたシステム技術にその特徴が求められるため、特許等に示される要素技術としてよりもむしろソフトウエアによる設計技術や品質管理等の生産技術面での波及効果が大きい。


 
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