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原子力開発利用長期計画について


昭和57年6月30日
原子力委員会決定

1. 原子力委員会は、昭和53年9月に策定した「原子力研究開発利用長期計画」に基づき原子力の研究、開発及び利用を積極的に推進してきたところであるが、我が国の原子力開発利用を巡る諸情勢は近年大きく変化してきており、この長期計画の中には、実態にそぐわない面も見られるに至った。このため、原子力委員会は、昨年2月、その見直しを行うことを決定し、長期計画専門部会を設置して広く各界の意見を聞きつつ、新しい長期計画について審議を進めてきた。

2. 先般、同専門部会における審議が終了したので、別添のとおり新しい原子力開発利用長期計画を決定する。

 原子力委員会としては、今後本長期計画に基づく施策を強力に推進していくものとする。

3. 長期計画専門部会は、本日をもって廃止する。

別添

原子力開発利用長期計画

昭和57年6月30日
原子力委員会

はじめに

 我が国における原子力開発利用の進展には目ざましいものがあり、既に原子力発電が電力供給の重要な一翼を担うに至っているばかりでなく、放射線利用も工業、農業、医療等の分野で幅広く進められるなど、今や原子力は国民生活や産業活動に不可欠のものとなっている。

 当委員会は、原子力開発利用を国民の理解と協力の下に計画的かつ総合的に遂行していくため、長期的指針となるべき計画を数次にわたって策定し、原子力開発利用に関する明確なビジョンを関係者はもちろん広く国民に提示するとともに、これに基づき所要の施策を講じてきたところである。

 前回の長期計画は、昭和53年9月に策定したものであるが、その後我が国の原子力開発利用を取り巻く内外情勢は大きく変化してきており、これらの変化に的確に対応し得る新しい長期計画の策定が必要となった。

 まず、石油代替エネルギーの導入が強く求められるようになり、その中核として供給安定性、経済性に優れた原子力発電に対する期待が一段と高まってきた。しかしながら原子力発電については、立地面の制約等からその開発は必ずしも計画どおりには進んでいない。前述のような期待にこたえていくためには、原子力発電及びそれを支える体系の自主的な確立を図るとともに、その開発に一層積極的に取り組んでいくことが必要となっている。

 次に、国が中心になって進めてきたプロジェクトが着実に進展し、そのうちのいくつかが実用化を達成していく段階を迎えている点が挙げられる。我が国の国情に即した原子力利用体系を確立する上での自主開発技術の重要性に鑑み、その実用化を円滑に進めていかなければならない。

 さらに、国際核燃料サイクル評価(INFCE)において原子力平和利用と核不拡散は両立し得るとの結論が得られた。これを踏まえ、我が国としては、国内の原子力開発利用を積極的に展開するのみならず、世界の核不拡散体制の確立に貢献しつつ世界的な原子力平和利用の推進にも積極的に協力していくことが必要となっている。

 当委員会は、以上の諸点に十分留意しつつ、21世紀を展望し、今後10年間における原子力開発利用に関する重点施策の大綱とその推進方策を明らかにする新しい長期計画を策定した。

第1章 原子力開発利用の基本的な考え方

 我が国の原子力開発利用は、この四半世紀の間に大きな進展を遂げ、原子力は国民生活や産業活動に欠くことのできないものとなっている。

 原子力発電については、1963年に我が国初の発電が行われて以来既に20年に及ぶ実績を積み重ねており、今や技術的にも経済的にも我が国の電力供給の中核をなすに十分なものとなっている。発電コストの面では、火力発電に比して相当低廉であるばかりでなく、発電コストに占める燃料費の比率が小さいため燃料価格の上昇による発電コストヘの影響が小さいこと、所要外貨が少なくて済むことなどの特色を有しており、中・長期的な石油・石炭の値上がり基調の中で、今後とも国民経済上の有利性をますます発揮していくものと考えられる。また、核燃料サイクル関連事業の確立及びプルトニウムの利用等により、国産エネルギーに準じた高い供給安定性が期待できることから、我が国のエネルギーセキュリティを確保する上で原子力発電のより一層の拡大が望まれている。

 また、発電以外の分野においても、各種産業の熱源としてあるいは船舶の動力源として、原子力エネルギーの幅広い利用が期待され、さらには、放射性同位元素あるいは放射線についても、今後とも工業、農業、医療等の分野で有効かつ広範に利用されていくものと考えられる。

 さらに、原子力関連技術は基礎的な技術から先端的な技術まで幅広く総合化された技術であるため、その開発は科学技術立国を目指す我が国の科学技術水準の向上に大きな役割を果たすものであり、また、原子力産業の強化は我が国の産業構造の高度化にも寄与するものである。

 このように、原子力は将来の我が国の社会・経済の発展及び国民生活の向上に大きな貢献が期待されるため、今後とも原子力開発利用を積極的に推進することとする。

 我が国の原子力開発利用を進めるに当たっての理念は当初から一貫しているところであるが、最近の内外情勢の進展を考慮して、今後の原子力開発利用における基本的な考え方を示せば以下のとおりである。

1. 平和利用の堅持

 我が国は、原子力基本法制定以来一貫して、民主・自主・公開の原則にのっとり、原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進してきており、また、核兵器廃絶という国民の願いを込めるとともに原子力の平和利用を促進することを期待して、「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」を批准している。今後とも、原子力基本法及びNPTの精神にのっとり、世界の核不拡散体制の確立に貢献していくとともに、我が国の原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進していくこととする。

2. 安全の確保

 我が国においては、安全の確保なくしては原子力開発利用の進展はあり得ないとの観点から、従来から安全の確保に万全を期して原子力開発利用を進めてきており、公衆に放射線による影響を及ぼすような事故は皆無であり、この実績からも原子力の安全性は基本的に確保されてきたと言える。また、1978年には、原子力基本法の基本方針に「安全の確保を旨とし」と明記されるとともに、主として安全確保のための規制及びその政策を担当する原子力安全委員会が設置され、さらに安全規制行政の一貫化が図られるなど、安全の確保のための新しい体制が発足し、従来に増して安全確保対策の充実が図られてきている。今後ともこの新しい体制の下で、原子力利用の進展に応じたよりきめの細かい安全確保対策を講じていくこととする。

3. 自主性の確保と国際協力

 我が国の国情に即した原子力利用体系を確立し、安定したエネルギー供給源として原子力発電を推進していくためには、天然ウラン及び濃縮ウランの確保、プルトニウムの利用等に関する我が国の自主性を高めていく必要がある。また、我が国は過去、軽水炉をはじめ多くを導入技術に頼ったが、これを消化吸収し、安全性・信頼性の高い技術とするために独自の研究開発努力を要した経験、さらには我が国の技術水準が極めて高くなったことから今後の技術向上は自らの努力によらなければならなくなったことを考慮すると、自主的に技術開発を進めることがますます重要となっている。このため、核燃料サイクルについての外的な制約を極力少なくするとともに、自主的な原子力技術体系及び原子力産業の確立を目指すこととする。

 同時に、我が国は、ウラン資源を海外に依存し、またウラン濃縮及び再処理についても少なくとも国内事業化が達成されるまでの間海外に依存していかなければならないこと、世界的な核不拡散体制強化の動きに積極的に対応していく必要があること、さらには、原子力研究開発の大規模化等に伴い国際的な共同研究の必要性が高まっきていること等から、国際協調に努めることも重要であり、「進んで国際協力に資するものとする。」との原子力基本法の基本方針にのっとり、開発途上国に対する協力等を含めて国際協力を積極的に進めることとする。

4. 計画的推進と社会・経済上の配慮

 原子力開発利用は、低廉なエネルギーの安定供給、産業構造の高度化、技術水準の向上等を通じ、我が国の社会・経済の安定的な発展に大きく貢献するものであるので、広く国民経済的視野に立ち国民全体の利益を重視するとの観点から、総合的かつ長期的な視野の下に、資金及び人材の確保とその有効利用に配慮しつつ、関係各界の協力を得て、これを計画的に進めることとする。その際、原子力利用の進展に伴って社会との係わりがますます大きくなっていくことに鑑み、原子力施設の立地と地域社会の発展との調和を図るとともに、原子力に対する国民の理解を深めるなど、原子力が社会に広く受容されるよう努めることとする。

第2章 長期展望と推進上の考え方

1. 原子力発電の開発規模

 我が国の電力需要は、経済成長率の低下を反映して伸びが鈍化する傾向にあるものの、今後とも国民生活の向上等に伴って着実に増大することが見込まれ、2000年には、国内エネルギー最終需要の約4割(1980年度は約3割)、1兆1千億キロワット時程度(1980年度は約5千億キロワット時)に達するものと想定されている。我が国の社会・経済の健全な発展を図っていくためには、電力需要のこのような増加に対応して低廉な電力を安定的に供給していくことが重要であり、そのような観点から、原子力発電は将来における発電の主流となっていくものと期待される。

 先般閣議において決定された「石油代替エネルギーの供給目標」においては、1990年度における原子力発電の供給目標値は原油換算で6,700万キロリットル、電力量で2,550億キロワット時とされている。これに必要な原子力発電設備容量は約4,600万キロワット(総発電設備の約22%)であり、今後1990年度末までに約2,900万キロワットの新しい原子力発電所の運転を開始する必要がある。近年立地地域の合意形成に要する期間が長期化していることを考慮するとこの供給目標値の達成は容易ではないが、原子力発電のエネルギー供給上の重要な役割に鑑み、その開発に最大限の努力が払われるべきと考える。このためには、よりきめ細かい安全確保対策を講じ、原子力に対する国民の理解を一層深め、原子力発電所の立地の円滑化を図っていくことが極めて重要であり、電気事業者はもちろんのこと関係行政機関の一層積極的な取組が強く望まれる。

 一方、より長期的な原子力発電規模の見通しについては、上述の電力需要想定の下に、2000年には総発電設備の約30%(1980年度は約12%)約9,000万キロワットと想定されており、これを踏まえ長期的な視点に立って我が国の原子力開発利用を計画的に進めていくものとする。

2. 核燃料サイクルの確立と炉型戦略

(1) 軽水炉は、発電用原子炉として世界で最も広く利用されている炉型であり、今後ともかなり長期にわたり我が国の原子力発電の主流をなすものと考えられる。したがって、今後ともその信頼性・経済性を一層向上させる努力を重ねるとともに、以下の方針に沿って核燃料の安定確保を図っていくものとする。

① 軽水炉の燃料となる天然ウランは海外に求めねばならないので、供給源の多様化に配慮しつつ、長期購入契約、自主的な探鉱開発、鉱山開発への経営参加等の多様な方策によりその安定確保を図る。

② ウラン濃縮役務については、現在ほとんどを海外に依存しているが、濃縮ウランの安定確保及び濃縮以降の核燃料サイクルに対する自主性の確保という観点から、国内におけるウラン濃縮の事業化を進め、国内供給の割合を高めていく。

③ また、予期し得ない核燃料の供給途絶にも効果的に対処し得るよう、適切な形態及び量の核燃料の備蓄を推進していく。

(2) 使用済燃料から回収されるプルトニウム及びウランは、国産エネルギー資源として扱うことができ、この利用によりウラン資源の有効利用が図れるとともに、原子力発電に関する対外依存度を低くすることができるので、以下の方針に沿ってこれらを積極的に利用していくものとする。

① 使用済燃料は再処理することとし、プルトニウム利用の主体性を確実なものとする等の観点から、原則として再処理は国内で行う。

② 再処理によって得られるプルトニウムについては、消費した以上のプルトニウムを生成することができ将来の原子力発電の主流となると考えられる高速増殖炉で利用することを基本的な方針とし、2010年頃の実用化を目標に高速増殖炉の開発を進める。

③ しかしながら、高速増殖炉の実用化までの間及びそれ以降においてもその導入量によっては、相当量のプルトニウムの蓄積が予想される。このため、資源の有効利用、プルトニウム貯蔵に係る経済的負担の軽減、核不拡散上の配慮等の観点から、プルトニウムを熱中性子炉の燃料として利用する。熱中性子炉としては、プルトニウムはもちろん減損ウラン及び劣化ウランをも燃料として有効かつ容易に利用できる新型転換炉を発電体系に組み入れることができるよう開発を進め、さらに、発電用原子炉として広く利用されている軽水炉によるプルトニウム利用を図る。この両者については、いずれもできる限り早期に実用規模での技術的実証を行うとともに経済的見通しを得ることが必要であり、1990年代中頃までには、その実証を終了し実用化を目指す。

3. 研究開発の重点

 原子力に関する研究開発は、今後ますます大規模化するとともに関連分野もより広範になっていくものと考えられるが、資金・人材の効率的な活用という観点から、原子力研究開発全体としての整合性を確保しつつ、今まで以上に重点的に研究開発を進めることとする。

 なお、その場合において、基礎的研究は、原子力利用推進の基盤として不可欠なものであり、また新しい技術の源泉としても極めて重要なものであるので、これら基礎的研究に必要な資金及び人材の確保について、十分配慮するものとする。

(1) 原子力に関する研究開発については、以下の方針に沿って進めていくものとするが、原子力利用の主要形態は、言うまでもなく原子力発電であり、原子力発電により大量のエネルギーを将来にわたって安定的に確保していくことが、我が国のエネルギーセキュリティの向上、ひいては社会・経済の安定的な発展を図る上で極めて重要であることから、原子力発電及びそれを支える体系の完成及びその自立性の確保に必要な研究開発に最も重点を置くこととする。

① 軽水炉の信頼性・経済性の向上等については、民間の自主的な努力を主体とし、国は、これに適切な支援を行うとともに、安全性に関する研究及び放射性廃棄物処分等の核燃料サイクルの確立に必要な研究開発を積極的に進める。

② ウラン資源の有効利用を図り自立性の高い原子力発電体系を構築する上で重要な新型転換炉及び高速増殖炉並びにその核燃料サイクルに関する研究開発については、できる限り早期に実用化できるよう積極的に進める。

③ 発電以外の分野におけるエネルギー源としての原子力利用を目指して進められている高温ガス炉及び原子力船に関する研究開発については、21世紀における原子力エネルギー利用の幅を広げておくという観点から、当面実験的段階まで研究開発を進め、その後は、具体的ニーズに応じ段階的に進めていく。

④ 核融合については、人類の未来を担う有力なエネルギー源としてその実現が世界的な願いとなっていることに鑑み、諸外国における研究開発の動向及び他の重要プロジェクトとのバランスに配慮しつつ研究開発を精力的に進める。

⑤ 放射線利用分野の研究開発については、民間に期待する点が多いが、医療分野等国民福祉の向上に資する分野及び放射線利用の幅を広げるための基礎的分野については、国が中心となって研究開発を進める。

(2) 以上の原子力に関する研究開発は、幅広い分野について基礎的段階から実用段階まで長期間にわたって総合的に進めていく必要があることから、国、民間及び大学の密接な協力の下に効率的に進めるとともに、常に評価・検討を行い、研究開発の進展、国際環境の変化等を踏まえつつ進めるものとする。

 また、原子力に関する研究開発は、長期的な視野に立って計画的に推進する必要があること、さらにそれを自主的に進めることが科学技術基盤の強化あるいは産業の発展に大きく貢献することに鑑み、原子力研究開発については自主的に進めることを基本とする。しかしながら研究開発の効率化を図るとともに、原子力先進国の一員として国際的に貢献するとの観点から、協力を進める際の我が国の主体性に十分配慮しつつ、国際的な共同研究開発計画にも積極的に対処するものとする。

4. 自主開発プロジェクトの実用化

 国が中心となり研究開発を進めてきたプロジェクトのうちのいくつかは、実用規模での技術の確認・実証と経済性の見通しの確立を図りつつ実用化を達成していく段階(以下「実用化移行段階」という。)に達している。

 実用化移行段階を迎えたプロジェクトについては、技術の完成度、経済性に加えエネルギーセキュリティ上の重要度、原子力開発利用の自主性の確保等の観点から総合的な評価を行った上で、国の適切な支援の下に民間が中心となって実用化を目指すこととする。

 実用化移行段階は、これまで国が中心となって進めてきた研究開発により得られた技術的成果を基に経済性を達成していく段階であると同時に、実用化に必要な民間の技術的基盤及び体制を形成していく段階でもあるため、この段階において建設される実用規模の生産プラントの建設・運転を担当する事業主体を中心にして、民間が主体的かつ積極的に実用化への課題に取り組んでいくことが望まれる。また、この段階は、技術開発の担い手が国から民間へ移っていく過渡期であるため、民間と国、特に事業主体、関係メーカー及びこれまで技術開発を進めてきた政府関係研究開発機関の緊密な連携が不可欠であり、また事業主体等に対し、国及び民間が適切に支援・協力することが重要である。

 このため、国は、蓄積された技術の移転が円滑に進められるよう十分配慮することはもちろん、この段階においても技術的・経済的リスクが少なくないことに鑑み、事業主体等に対し必要な支援を行うこととする。特に、動力炉・核燃料開発事業団は、蓄積された技術の民間への移転に加えて、事業主体等の求めに応じた技術開発、特殊な設備あるいは大型の施設を必要とする試験、安全性、保障措置等に関する研究等を実施することにより、実用化移行段階においても重要な役割を果たす必要がある。したがって、民間に技術を移転する場合の対価に対する考え方、さらに、技術開発の受託、技術・施設を含めた出資等の必要性に関し、関係者による検討が早急に行われ、その結果を踏まえて実用化への移行が円滑に進められるよう措置されるべきである。

 なお、国は実用化移行段階以前から、プラントの建設に当たって経済性を高める努力を行うなど実用化に配慮しつつ研究開発を進めておくこととし、民間も国の行う研究開発や研究開発施設等の運転等に参画することにより実用化の円滑化に資することが望まれる。

5. 核不拡散問題への対応

 我が国は、原子力基本法の下に原子力利用を平和目的に限って推進するのみならずNPT体制を支持し核不拡散体制の維持強化に協力し、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を積極的に受け入れることにより平和利用担保を世界に明らかにしてきた。

 しかしながら、第1に、我が国の原子力発電の規模の拡大及び核燃料サイクル事業の進展に伴って、国際的な保障措置体制の整備に関し、我が国の先導的役割が期待されるようになり、我が国の核不拡散問題への努力が世界的にも極めて重要な影響を持つようになっていること、第2には、我が国における技術水準の向上と原子力産業の成長に伴って、原子力資材・技術の海外への移転を検討すべき時期になってきたことから、国際的視野に立った核不拡散政策を主体的に推進していくことが一層必要となってきた。

 したがって、我が国としては、まず核燃料供給国との二国間協議については、核不拡散を担保することを前提としつつ、我が国が長期的な計画の下に進めている原子力開発に支障を来さないよう適切に対応するとともに、国内的には保障措置及び核物質防護に関する体制を国際的要請にも十分こたえ得るものとし、核不拡散に対する日本の国際的信頼を高めていくこととする。

 さらにこれに加え、今後INFCEにおける作業結果を参考としつつ、以下の方向で、核不拡散問題への我が国の対応をより積極的なものとしていくこととする。

① IAEAを中心に進められている保障措置の改善に協力していくとともに、IAEAの場で検討が進められている国際的なプルトニウム管理、あるいは原子力資材等の供給保証等に関する新しい国際的枠組み作りに対しても、現行NPT体制との関係を考慮しつつ、有効かつ効率的な形で実現するよう貢献していく。

② 今後、諸外国への原子力資材・技術の移転あるいは開発途上国に対する技術協力等原子力分野における国際協力はより活発化し、さらに将来的には、核燃料サービスに対する開発途上国の我が国への期待も高まるものと考えられる。そのような国際協力を核不拡散を担保しつつ円滑に進めるために、相手国との国際約束のあり方等を含め我が国として採るべき措置につき、今後検討を進めていく。

第3章 開発利用の進め方

1. 原子力発電
(1) 安全確保対策

 原子力発電所の安全確保には従来から万全を期してきたところであり、1966年に我が国で初めて商業用発電炉が運転を開始して以来、今日まで従業員に放射線障害を与えたり、周辺公衆に放射線の影響を及ぼすような事故・故障は皆無であるという実績からも、今日、原子力発電所の安全性は基本的に確立していると言える。しかしながら安全確保の努力は不断に行われるべきであり、今後の原子力発電の拡大に対応して安全確保対策を一層充実し、安全運転の実績を積み上げていく必要がある。

 このため国は、今後の原子力開発の進展に伴う業務量の増大に対処するため、安全審査、検査、運転管理体制等の充実強化を図っていくとともに、国際機関における安全基準作成事業への参加、諸外国との安全規制情報の交換等の国際協力を進めつつ、内外の運転経験を踏まえ、我が国の安全基準及び指針の一層の整備等安全規制の充実を図っていくこととする。

 一方、電気事業者は、ささいな故障も国民の原子力発電に対する不安感を高める要因となることに鑑み、より一層運転管理を徹底するべきである。運転管理については人的要素が大きいので、今後とも電気事業者は運転員の資質の維持向上に努めるとともに、今後の原子力発電の拡大に対応して、運転員の養成を図っていく必要がある。また原子力発電所のような複雑かつ高度な施設の運転においては人間と機械のインターフェースが極めて重要であることから、運転員に対する支援システムの開発、機械操作性の向上等を進め運転員の負担の軽減に努めることが望まれる。さらに今後の商業用発電炉の基数の増加に伴う定期検査作業量の増大に対応して、定期検査従事者の確保とともに技能の維持向上が重要であり、事業者による教育訓練体制を一層充実することが望まれる。

 なお、災害対策基本法に基づく防災対策については、今後とも、原子力発電所の万一の緊急事態に適切に対処できるよう国、地方自治体及び電気事業者における防災体制の整備・充実を図り、地域住民に不安が生じることのないよう努めるものとする。

(2) 軽水炉技術の向上

 軽水炉は、発電用原子炉として世界で最も広く利用され、また我が国においても既にかなりの実績を持った炉型であり、今後とも長期間にわたり我が国の原子力発電の主流となる炉型である。したがって、電気事業者及び機器メーカーは、その信頼性・経済性等の一層の向上に向けて不断の努力を続けることが望まれる。

 このため、国、電気事業者及び機器メーカーが一体となって2次にわたる軽水炉改良標準化計画を進めてきたが、今後これらの成果を踏まえ、炉心を含むシステム全休としての改良、負荷追従運転を可能とするための高性能燃料の開発、検査機器等の自動化・遠隔操作化等を内容とする第3次改良標準化計画を1985年度を目標に推進するものとする。またこれらの成果については電気事業者等において積極的に取り入れ、さらに民間が中心となって、一層の軽水炉技術の向上を図っていくことが期待される。

 また、原子力発電所の安定した運転と稼働率の向上に欠かすことのできない機器類の品質保証については、民間が主体となって行うべきものであるが、その一層の充実を図るため、国としても指針類の策定をはじめとする品質保証の基盤の整備等積極的な方策を実施していくこととする。

(3) 原子炉の廃止措置

 原子炉の恒久的な運転終了に伴って採られる廃止措置(以下「原子炉の廃止措置」という。)が、原子炉の設置・運転の場合と同様に適切に実施されることは、原子力発電を円滑に進める上で重要な課題である。

 原子炉の廃止措置については、安全の確保を前提に地域社会との協調を図りつつ進めるべきであり、さらに敷地を原子力発電所用地として引き続き有効に利用することが重要である。原子炉の廃止措置の進め方については、引き続き使用できる施設等の再利用を十分考慮した上で、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし、個別には必要に応じ適当な密閉管理又は遮蔽隔離の期間を経るなど諸状況を総合的に判断して決めるものとする。

 実際の商業用発電炉の廃止措置が必要となる時期は、1990年代後半と予想されるので、それまでの間に、技術の向上、諸制度の整備等を図っていくこととする。

 原子炉の廃止作業は、現時点でも既存技術又はその改良により対応できると考えられるが、作業者の受ける放射線量の低減等安全性の一層の向上を図るとともに費用の軽減を図る観点から、解体技術、除染技術、遠隔操作技術等を中心に、既存技術の実証・改良及び新技術の開発を進めることが望まれる。これらの技術開発等については民間が主体となって行うべさものであるが、国はこれに適切な支援を行うとともに、今後約10年位の間に、既に役割を終えた日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)を対象として、将来の商業用発電炉の廃止措置において活用し得る解体技術等の開発と実地試験を行うこととする。

 さらに、原子炉の廃止措置を円滑に進めるため、受益者の世代間の負担の公平化等を考慮した料金制度、税制等資金面の対応策、廃棄物の合理的な処理処分のあり方、安全規制等の諸制度等について、検討を進めることとする。

 なお、商業用以外の試験研究用原子炉等については必要な範囲において上記廃止措置の考え方及び方法を準用することとする。

2. 核燃料サイクル
(1) 天然ウランの確保

 我が国は、これまでのところ長期購入契約等により約20万ショートトンの天然ウランを確保してきているが、我が国における天然ウランの累積所要量は、1990年までに約13万ショートトン、2000年までには約31万ショートトンと見込まれており、なお一層ウラン資源の安定確保に努力すを必要がある。このため供給源の多様化にも配慮しつつ引き続き長期購入契約により天然ウランを確保するほか、自主的な探鉱活動を積極的に進めその成果としての天然ウランの割合を高めていくとともに、鉱山開発への経営参加等を進めていくこととする。

 自主的な探鉱活動については、動力炉・核燃料開発事業団による海外における調査探鉱を引つ続き鋭意推進するとともに、その成果を民間企業に円滑に引き継いでいくことが重要であり、プロジェクトの進展に応じて民間企業の参加の割合を高めていくなど、その具体的な引継ぎ方策について検討を進めるものとする。また、民間においても国による助成制度を有効に活用し、活発な探鉱開発を実施していくことが期待される。

(2) ウラン濃縮

 我が国の原子力発電に必要なウラン濃縮役務量は、1990年で年間約8,000トンSWU、2000年で年間約12,000トンSWUとなる見通しである。現在のところ米国エネルギー省及びフランス・ユーロディフ社と電気事業者との間の契約により、1990年頃までの原子力発電に必要な濃縮役務は契約済みであるが、それ以降は不足が生じ、単年度のバランスの上からは2000年頃において年間約7,000トンSWU程度不足するものと見込まれている。今後は、単に濃縮ウランの安定供給を確保するという見地ばかりでなく、プルトニウム利用等を含め核燃料サイクル全体の自主性を確保する観点から濃縮ウランの国産化を進めていくこととする。

 濃縮ウランの国産化に当たっては、動力炉・核燃料開発事業団が技術開発を行ってきた遠心分離法によりこれを推進することとし、海外との既契約分をも考慮して、その目標については、1980年代末までには商業プラントの運転を開始し、順次プラント能力の増大を図り、少なくとも、1995年頃に1,000トンSWU/年、2000年頃に3,000トンSWU/年程度の規模とすることが妥当である。

 この国産化の目標を達成するため、遠心分離法ウラン濃縮技術について信頼性・経済性の向上に努め、国際競争力を持つたウラン濃縮事業の確立を図ることとする。このため、以下の方針に沿って原型プラントを建設・運転するとともに、動力炉・核燃料開発事業団等において必要な技術開発を進めることとする。

① 遠心分離機の量産技術の確立、プラント設備の合理化等により、濃縮プラントの信頼性・経済性の向上を図るとの観点から、商業プラントに先立って原型プラントを早急に建設・運転することとし、民間の積極的な参画の下に、当面動力炉・核燃料開発事業団がこれに当たる。

② 原型プラントの規模としては200トンSWU/年程度と考えられるが、この建設・運転への民間の参画を通じて、動力炉・核燃料開発事業団に蓄積されてきた遠心分離法ウラン濃縮技術の民間への移転を円滑に進めていくことにより、ウラン濃縮事業の確立に資する。

 一方、民間においては、原型プラントの建設・運転に参画しつつ、商業プラントの建設計画の具体化を進めることを期待する。

③ 原型プラントは、その運転が安定化した段階において、ウラン濃縮事業の一部としての活用を図る。

 なお、我が国におけるウラン濃縮事業の進展に応じて、六フッ化ウラン転換についても事業化を図ることとし、民間において所要の準備が進められることを期待する。

 遠心分離法以外の方法による濃縮技術である化学法及びレーザー法については、それぞれ特徴を有しており、研究開発の進展により将来有用なものとなる可能性もあることから、民間において進められている化学法に関する研究開発に対して国は引き続きこれを支援することとし、レーザー法については、長期的観点から基礎的な研究開発を進めることとする。

(3) 使用済燃料の再処理

 我が国における使用済燃料の再処理需要量は、原子力発電の将来規模からみて、1990年には約1,000トン/年、2000年には約2,300トン/年と見込まれる。使用済燃料の再処理は、プルトニウム利用を進める上でのかなめとして重要であるばかりでなく、使用済燃料に含まれる放射性廃棄物を適切に管理・処分するという観点からも重要である。現在のところ、この再処理については大部分を海外への委託によって対応しているが、再処理は国内で行うとの原則の下に、既に稼働中の動力炉・核燃料開発事業団東海再処理工場に加えて民間再処理工場を建設し、将来の再処理需要を満たしていくものとする。このため、当面年間再処理能力1,200トンの民間再処理工場の建設を促進するとともに、さらに将来の需要の伸びに対応する再処理計画についても今後検討していくこととする。

 東海再処理工場においては、安定した運転実績を積み重ねるとともに、運転管理システムの改良、設備の改善等に努めることとする。

 現在、民間において1990年頃の運転開始を目途に建設計画が進められている再処理工場は、自主的な核燃料サイクルを確立する上で重要である。国としても、再処理施設の大型化に対応するために必要となる再処理主要機器に関する技術の実証、さらに、プラントの安全性・信頼性の向上、環境への放射能放出低減化、保障措置の信頼性向上等に関する技術面における支援を行うこととする。その際、動力炉・核燃料開発事業団は、蓄積された再処理技術に関する経験が同工場の設計、建設及び運転に有効に利用できるよう円滑な技術移転を図るとともに、技術開発面における協力を行っていくものとする。また、国は、同工場の立地の確保が円滑に進むよう支援するとともに、資金調達等についても適切な支援を行っていくこととする。

(4) 放射性廃廃物の処理処分

 放射性廃棄物は、それに含まれる放射性核種の種類に応じて時間とともに放射能が減衰していくという性格を有している。

 原子力発電所等の原子力施設において発生する低レベル放射性廃棄物のうち、気体状のもの及び液体状のものの一部については、法令で定められた基準を下回るようにして放出されているが、今後とも、放出低減化方針の下に放出管理の徹底に努めていくものとする。その他の液体状のもの及び固体状のものについては、発生量の低減を図り、発生した放射性廃棄物はできるだけ減容し、固化するなどの処理を行い、また、処分については、海洋処分と陸地処分を併せて行う方針とするが、極低レベルのものについては、放射能レベルに合った合理的な処分方策の確立を図る。

 現在、放射性廃棄物は原子力発電所等の敷地内の施設に安全に貯蔵されているが、敷地外において長期的な管理が可能な施設に貯蔵することについても、これまでの経験を踏まえ、早期に開始するよう諸準備を進めていくものとする。

 海洋における処分については、国際的な基準を踏まえ深海底に処分することとし、これまでに所要の調査・研究の実施、国内法令の整備、環境安全評価、国際協調の下にこれを進めるための国際条約への加盟等、所要の実施準備が進められてきた。今後は、内外の関係者の理解を得ることに努め、できる限り早期に試験的処分を行うこととし、その結果を踏まえて本格的海洋処分に移行することとする。

 陸地における処分については、トレンチ、ピット、構造物又は地下空洞への処分が考えられるが、所要の試験研究の成果を踏まえ安全評価手法の整備を図り、一連の処分技術を実証するため試験的な処分を実施した後、本格的な処分に移行することとする。さらに、長期間貯蔵され放射能の減衰により安全上問題がなくなったと考えられるものについては、極低レベルのものの合理的な処分方策に沿って適切に処分することとする。

 低レベル放射性廃棄物の処理は事業者等の責任で行うものとし、処分については、試験的処分等により見通しの得られた段階から原則として事業者等の責任において行うものとする。今後、小規模核燃料使用施設等からの廃棄物の共同処理の推進、本格的な処分の実施等に適切に対応していくため、技術的な検討を進めるとともに基準の整備並びに具体的な実施体制の確立及びそれに対応した所要の法令整備について検討を進めることとする。

 再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物については、安定な形態に固化処理し、一時貯蔵した後処分するものとする。高レベル放射性廃棄物の固化処理及びこれに伴う一時貯蔵については、再処理事業者が行い、国は技術の実証を行うものとする。また、処分については、長期にわたる隔離が必要であること等から国が責任を負うこととし、必要な経費については、発生者負担の原則によることとする。

 固化処理及び貯蔵の技術については、研究開発を進め、1980年代後半の運転開始を目途にパイロットプラントを建設し、これにより処理・貯蔵技術の実証を行うこととする。

 処分技術について、2000年以降できる限り早い時期に確立することを目標に地層処分及びこれに関連した研究開発を進めるものとし、当面地層に関する調査・研究、人工バリアに関する研究等を進めるものとする。

 また、以上の技術開発の他に、安全評価手法の開発、新固化方式に関する研究、群分離に関する研究等を推進することとする。

 なお、今後再処理工場の運転、プルトニウム利用の本格化等により、超ウラン元素を含むいわゆるTRU廃棄物(TRU:Trans-Uranium、超ウラン)の発生量の増加が見込まれる。TRU廃棄物は半減期の長い放射性核種を含むなどの特性があることから、高レベル放射性廃棄物に関する研究開発の成果をも参考としつつ、その処理処分に関する研究開発を進めるものとする。

 一方、海外再処理に伴う返還廃棄物については、近く仕様の提示が開始される予定であり、今後引き続き仕様の検討に必要な試験を行うとともに国及び関係機関の有機的な連携の下に、仕様の検討、国内受入れ体制の整備等を進めることとする。

(5) 核燃料の備蓄及び減損・劣化ウランの利用等

 原子力発電のエネルギー供給安定性を一層増すためには、予期し得ない核燃料の供給途絶にも効果的に対処し得るよう、適切な形態及び量のウランを備蓄しておくことが望ましい。特に当面は、軽水炉が主流であることから濃縮ウランの備蓄が最も効果的であるが、ウラン濃縮の国内事業化あるいはプルトニウム富化燃料の活用の進展とあいまって天然ウランの備蓄も必要となる。さらには濃縮工場から発生する劣化ウランについても、将来の高速増殖炉での活用あるいはプルトニウム富化燃料としての活用に備えて貯蔵しておくことが望ましい。このため、備蓄の具体的進め方について、国と民間の役割分担を含め検討するものとする。

 再処理により回収される減損ウランは、天然ウランよりも一般にウラン235の含有率が高く、資源的にはその利用を図ることが天然ウラン所要量の節減につながることから、プルトニウムを富化して新型転換炉等の燃料とするほか、再濃縮しあるいは他の濃縮ウランと混合し、軽水炉の取替燃料の一部として利用していくものとする。

 濃縮ウランの生産と同時に発生する劣化ウランは、高速増殖炉の実用化によって、資源として十分利用されることになるが、プルトニウムが量的に過剰な場合は、プルトニウムを富化することによって、新型転換炉で利用することも考えられる。

 一方、海水中に含まれるウランは、量的には相当なものであるが、技術的・経済的に妥当な方法で回収可能かどうか検討することが必要であり、その技術評価に必要な研究開発を進めるものとする。

3. プルトニウム利用と新型動力炉開発
(1) 高速増殖炉

 高速増殖炉は、発電しながら消費した以上の核燃料を生成する画期的なものであり、ウラン資源を最大限に利用し得るので、核燃料の資源問題を基本的に解決でき、将来の原子力発電の主流となるものと考えられている。高速増殖炉としては、プルトニウムとウランの混合酸化物燃料を用いるナトリウム冷却型炉を対象としており、実用化のための信頼性・経済性等の確立には、なお一層の開発努力を要する。しかしながらエネルギーセキュリティ上の意義に鑑み、出来るだけ早期に実用化されるべきであり、2010年頃の実用化を目標に開発を進めることとする。

 このため、実験炉「常陽」の運転等を通じて蓄積した技術的成果を基に、電気出力28万キロワットの原型炉「もんじゅ」を1990年頃に臨界に至らしめるよう早急に建設を進めるものとする。

 続いて、実用規模の発電プラント技術の実証・習熟及び性能向上並びに経済性の確立を図っていく実用化移行段階に移ることになるが、この段階では、まず原型炉の建設経験等の評価を十分に反映しつつ、1990年代初め頃に着工することを目標に実証炉計画を推進し、それ以降については実証炉の経験を踏まえつつ進めるものとする。

 実証炉計画を遅滞なく進めるため、早急にその開発体制を確立する必要があり、その際実証炉の建設・運転については、国の支援の下に電気事業者が積極的役割を果たすことを期待し、関連する研究開発については、民間の役割を増大させながら、引き続き動力炉・核燃料開発事業団を中心に進めることとする。また同事業団は、蓄積された技術的経験及び施設を利用して、安全設計基準の整備、安全審査等に必要なデータを提供するとともに運転要員の教育訓練等事業主体への技術的協力を行うものとする。さらに実証炉の建設が円滑に進められるためには、責任をもってプラントの受注・建設ができるメーカー体制が確立されていることが重要である。

 国際協力については、国と民間が緊密な連携を図りつつ上述の役割分担に応じて、自主開発を補完し、全体として整合性をとりつつ、より積極的に進めるものとする。

(2) 新型転換炉及び軽水炉によるプルトニウム利用

 高速増殖炉に先立ってプルトニウムの早期利用を図っていくため、新型転換炉の開発及び軽水炉によるプルトニウム利用に関する開発を進めるものとする。

 新型転換炉はプルトニウムはもちろん減損ウラン及び劣化ウランをも有効かつ容易に利用できる特性を有しており、また我が国が独自に開発を進めてきた炉型であって、同炉によるプルトニウム利用に関して核不拡散上国際的理解も進んできているものである。

 新型転換炉の開発については、既に原型炉「ふげん」の建設・運転により実用化に向けての技術的見通しが得られてきており、今後はこの経験を踏まえ、大容量化に伴う技術の実証及び経済性の見通しの確立を図るため1990年代初め頃の運開を目標に、電気出力60万キロワット程度の実証炉を建設するものとし、早急にその具体化を図ることとする。実証炉は商業炉への橋渡し役を担うものであることから、その建設・運転については民間が積極的役割を担い、国は新型転換炉開発の意義及び開発途上にある実証炉の経済性の予測等に鑑み、これに必要な支援を積極的に行うものとする。また、実証炉の建設等と並行して、その経験・成果を反映しつつ、信頼性・経済性の向上、より一層の大容量化に向けた技術開発に努めるものとする。

 軽水炉によるプルニウム利用については、既に海外において照射試験の実績等もあり、プルトニウムを熱中性子炉で活用する上での有力な手段と考えられる。

 このため、今後、数集合体規模での技術的実証試験を経て実用規模での実証を1990年代中頃までに終了することを目標に民間が積極的に進めることを期待し、国はこれに必要な支援を行うものとする。

 なお、熱中性子炉によるプルトニウム利用の実用化に当たっては、核不拡散政策との関連において国際的な環境を十分踏まえて進めるものとする。

(3) プルトニウム燃料加工及び高速増殖炉燃料の再処理

 新型転換炉の開発、軽水炉でのプルトニウム利用、さらには高速増殖炉の開発の進展に応じて、プルトニウム燃料の加工体制を整備していく必要がある。

 プルトニウム燃料の加工については、既に動力炉・核燃料開発事業団が、高速実験炉「常陽」及び新型転換炉原型炉「ふげん」の燃料加工を通じて、経験を積んできており、現在、さらに加工機器の自動化や遠隔操作を大幅に取り入れ、高速増殖原型炉「もんじゅ」の燃料加工を行うため、年間5トンの加工能力を有する施設(同施設は将来拡張することにより、高速増殖炉実証炉用燃料を供給することが可能である。)の建設に着手している。また新型転換炉の実証炉に必要なプルトニウム燃料の加工施設の建設計画が進められている。同施設は熱中性子炉用プルトニウム燃料加工技術の実用化への橋渡しとして技術開発上も重要なものである。

 今後、動力炉・核燃料開発事業団は、実用化に向けて、経済性等の向上を図るため、機器の大容量化・合理化の開発を進めることとし、民間は、実用化に備え、技術の移転が円滑に進められるよう動力炉・核燃料開発事業団の施設の運転等に積極的に参加することが期待される。

 一方、高速増殖炉の使用済燃料については、プルトニウム含有量が多いこと及び熱中性子炉の場合よりも燃焼度が高くなると考えられることから、基本的には従来の再処理技術をベースとしつつも高速増殖炉使用済燃料に対応した再処理技術を確立する必要がある。

 このため動力炉・核燃料開発事業団が中心となって、東海再処理工場の経験を踏まえ、国際協力を進めつつ、実際の使用済燃料を用いた再処理工程の研究、実規模でのプラント機器及びシステムの開発等を実施し、これらの成果を基に1990年代初め頃の運転開始を目途に高速増殖原型炉「もんじゅ」等の使用済燃料が処理できる規模の再処理試験施設(パイロットプラント)の建設計画を進めることとする。

4. 原子炉の多目的熱利用

 低廉なエネルギーを大量かつ安定的に供給することが可能な原子力を我が国のエネルギー消費全体の約70%を占める非電力分野においても有効に利用していくことは、エネルギーの安定供給の確保等を図る上で極めて重要であると同時に、原子炉の多目的熱利用を通じた地域社会の発展が期待し得るという点からも有意義である。

 このため、1,000℃程度の高温ガスが得られ幅広い用途が期待される高温ガス炉の開発を、国際協力も含め研究開発の効率化を図りつつ積極的に進めることとし、当面の重要なステップである実験炉については、1990年頃の運転開始を目途に建設するものとする。実験炉の建設・運転に当たっては、将来の多目的熱利用の実用化に円滑に移行できるよう、早い時期から民間の積極的協力を求めるものとする。

 実験炉の原子炉出口温度については、主として現在の材料をはじめとする技術開発の状況、実験炉の早期実現の必要性等を考慮して、設計温度は950℃程度とすることが適当であるが、将来の高温ガス炉の原子炉出口温度については、利用系における熱効率の向上、利用範囲の拡大等を考慮して、今後とも1,000℃以上とすることを目標に所要の研究開発を行っていくものとする。

 利用系の技術については、高温還元ガス利用による直接製鉄に関する研究開発において、その技術的見通しが一応得られているほか、将来核熱の利用が考えられる分野である水の熱化学分解法による水素製造、石炭液化・ガス化等についても研究開発が進められている。また、これらの熱を直接利用するもののほか、効率の高い発電も考えられる。高温ガス炉の開発に当たっては今後これら利用系技術開発との有機的連携を一層強め、高温ガス炉システムとして整合性のとれた形で開発を進めていくことが極めて重要である。また、利用系に関する技術開発を一層進展させるため、日本原子力研究所の大型構造機器実証試験ループの活用を考慮するとともに、実験炉に接続することが考えられる利用系プラントについては利用系技術の開発・実証に活用し得るよう汎用性のあるプラントになるよう配慮するものとする。

 原型炉以降の開発については、今後の利用系の技術開発の動向及び具体的ニーズを踏まえ、段階的に推進することとするが、民間が一層積極的に取り組み、その役割を増大していくことが期待される。

 一方、既存の炉として技術的に最も安定している軽水炉の多目的熱利用については、中小型軽水炉の利用を含め、条件によっては比較的早期に実現する可能性があり、所要の調査等を経て民間主導の下で進められるべきものであるが、利用系システムの開発、経済性の問題及び立地に関して国民の理解を得る等の社会的問題があり、これらの問題の克服について国は支援するものとする。

5. 原子力船

 海外との貿易に大きく依存し、将来にわたる海運の安定的発展を必要としている我が国にとっては、海運に対するエネルギー供給面の制約を緩和することが重要である。このような見地から、我が国こそ早急に原子力船の実用化の技術的基盤を固めておく必要があり、研究開発を積極的に推進するものとする。

 原子力船の研究開発を進めるに当たっては、実際の運航状態における舶用炉の挙動等原子力船を運航することによってのみ得られるデータ・経験が不可欠であることから、早急に原子力第1船「むつ」の修理を終え、過去の経験も十分踏まえ慎重な計画の下に所要の試験を行った上で、実験航海を実施するものとする。また、「むつ」の新定係港については、早期にこれを建設するものとする。

 さらに、我が国の長期的な海上輸送の展望の下に、将来実用化すべき原子力船の船種等を十分に検討し、それに合わせて研究開発を着実に進めることとし、当面、日本原子力船研究開発事業団において、信頼性・経済性の優れた小型高性能の舶用炉の設計評価研究を実施し、その成果を踏まえ、その後の研究開発計画の具体化を図るものとする。また関係試験研究機関においても、原子力船の基礎的研究及び安全性に関する研究を行うものとする。

 なお日本原子力船研究開発事業団は、今後他の恒久的な原子力関係機関と統合し、長期にわたって一貫した体制で原子力船の研究開発に取り組んでいくものとする。

6. 核融合

 核融合エネルギーの利用は、これが実用化された場合には極めて豊富なエネルギーの供給を可能とするものであり、人類の未来を担う有力なエネルギー源としてその実現に大きな期待が寄せられている。核融合エネルギー利用の実現は世界的な願望であり、特にエネルギー資源に恵まれない我が国としては、その実現に向けて精力的に研究開発を進めていくものとする。

 我が国における核融合研究は着実に進展し、今日では具体的に核融合炉を念頭においた研究開発段階に入りつつある。現在建設が進められているトカマク方式の臨界プラズマ試験装置(JT-60)による研究が順調に進めば、1980年代後半には臨界プラズマ条件(核融合反応を起こさせるためにプラズマに加えたエネルギーと発生したエネルギーが丁度つり合うプラズマの条件)が達成され、これによって核融合反応を制御し得ることが科学的に立証出来るものと考えられる。次の目標は、1990年代後半に自己点火条件(外部からエネルギーを与えることなしに核融合反応が持続する条件)を達成し、核融合が炉として実現し得ることを技術的に立証することであり、このため、トカマク方式の改良研究、高エネルギー中性子流に耐え得る材料の開発をはじめ遠隔保守、トリチウムの取扱い、熱輸送、超電導等に関する工学的研究開発及び安全性に関する研究を進めるとともに、臨界プラズマの諸特性等に関する実験・研究を積み重ねていくこととする。技術的な立証を行うための次段階の装置(「実験炉」と仮称する。)の具体的な建設計画及び実施体制は、JT-60の運転実績、核反応プラズマ研究等の成果、トマカク改良研究及びトカマク以外の閉込め方式の研究成果、関連技術の開発状況、並びに国際動向等を考慮して決めることとするが、当面、トカマク方式を想定して実験炉についての研究開発を進めることとする。

 トカマク以外の方式についても長期的視野に立って研究開発を実施するものとし、これらが臨界プラズマ条件達成の見通しを示し、炉として構想できると判断されるようになった段階においてトカマク方式との比較検討を行い、その後の段階の計画について検討するものとする。

 以上のような核融合研究の推進に当たっては、関係研究開発機関が各々の特徴を生かしつつ広範な研究課題に取り組んでいくことが重要である。日本原子力研究所においては、JT-60による臨界プラズマ条件の達成に努めるとともに、トカマク方式による自己点火条件の達成を目指した研究開発を行うこととし、大学、国立試験研究機関等においては、各種閉込め方式の研究、核反応プラズマ研究、トリチウムの生物影響等幅広い関連分野における先駆的・基礎的研究を行い、あわせて人材の養成に努めることを期待する。

 また国際協力については、各国で得られた知見を国際的に収集、検討、評価し、利用し合うことによって研究の基礎を拡充し、その質を高め、効率化を図るとともに、国際的な研究開発の分担あるいは共同開発により開発資金の低減化、開発リスクの低下を図る等の観点から、今後とも相互裨益の原則に立って、我が国の計画との整合性を十分に考慮に入れつつ、積極的に取り組むこととする。

7. 放射線利用

 放射線及び放射性同位元素の利用(以下「放射線利用」という。)は、工業、農業、医療等の分野への幅広い応用を通じて国民生活の向上に大きく貢献するものであり、原子力発電とともに、原子力平和利用の重要な柱であるので、今後ともその一層の普及・拡大及び利用技術の高度化を図っていくものとする。

 放射線利用技術の研究開発については、既に多くが実用化されている工業分野等ほ民間に期待することとし、国は主として、医療分野、農業分野及び放射線利用の幅を広げる基礎的分野の研究開発を進めることとする。

 医療分野では、特に加速器の利用により、診断及び治療面に目ざましい進展が見られており、また研究用原子炉による治療研究も進められている。今後も診断用標識化合物及びその製造機器等の開発並びに陽子線、重粒子線等の高LET放射線(放射線の進行方向に沿った単位長当たりの物質に与えるエネルギー量の多い放射線)による治療法の開発を進めていくこととする。特に後者については我が国における治療実績、加速器、原子炉等の現状も勘案すれば速中性子線、陽子線から重粒子線、π-中間子線という順序で実用化に向けて開発を進めていくことが適切であると考えられる。また、その研究開発に当たっては大型加速器の整備のみならず、医学、生物学、化学、工学等多分野の専門家の協力が必要であるため、協力体制を含め、十分評価・検討しつつ進めるものとする。

 農業分野については、害虫駆除、食品の長期保存、品種改良等に放射線が利用されており、今後とも研究開発を進め、一層の利用拡大を図るものとする。

 基礎的分野としては、機能性高分子材料の研究、生物の生理・生態研究等に加えて、放射線利用の拡大を目指して、バイオマスの燃料への変換、排煙・汚泥の処理等に放射線を利用するための研究等新たな分野における研究を行うこととする。

 今後の放射線利用の増大に対応して、現在大部分を輸入に依存している放射性同位元素について、経済性を勘案しつつ国内供給力を強化する等により安定供給を図っていくとともに、高レベルの放射性廃棄物を照射線源として有効に利用することについても配慮していくものとする。また、放射線利用に伴って発生する廃棄物の量の増大に対処するため、その処理処分体制の整備を図るとともに、廃棄物の種類等に対応した合理的な処理の方策を検討するものとする。

8. 安全研究

 原子力の安全性を今後とも高い水準に維持していくためには、今後の原子力利用の拡大と多面化に対応して、原子力施設等の工学的安全性及び放射線の影響に関する研究を推進し、安全基準の策定や安全審査に当たっての判断材料となるデータあるいは、原子力施設の改良・開発の基礎となる知見を蓄積していくことが重要である。安全研究については、今後概ね以下に述べる方向で進めるべきと考えられるが、その際国は、安全審査等に資するもの及び国が進めている研究開発プロジェクトと密接な関連を有するものを中心に、国際協力をも積極的に活用しつつ研究を進めることとし、安全審査等に資するものについては原子力安全委員会の策定する計画の線に沿って研究を行うこととする。

 軽水炉施設に関する工学的安全研究については、現在進められている事故時の諸挙動の解析などの研究を引き続き進めるほか、より広範囲の事象に関する研究を内外の情報をも参考にしつつ進めるものとする。また、今後の核燃料サイクル関連施設の拡充に備えて、それら施設に関する工学的安全研究については、臨界安全性、しゃへい安全性等各施設に共通する課題はもちろん、再処理施設、プルトニウム取扱施設等に特有な課題に関する安全研究を推進するものとする。なお新型動力炉等に関する工学的安全研究については、当面、開発の一環として推進することとする。また、軽水炉等に関する安全性実証試験の成果についても積極的にその活用を図っていくこととする。

 一方、環境放射能安全研究については、環境中における放射線及び放射性物質の特性・挙動等に関する調査・研究及びそれらによって受ける線量の評価法の開発、低レベル放射線の人体に及ぼす影響に関する研究並びに緊急時の安全確保に関する研究を一層強力に推進することとする。特に、今後のプルトニウムの利用の拡大や核融合研究の進展に備えて、超ウラン元素の内部被ばく研究及びトリチウムの生物影響に関する研究を重点的に進めるとともに、最近急速に発展しつつある生命科学の成果を踏まえた低線量放射線の生物影響に関する研究を今後とも強力に推進することとする。

 また、一部諸外国で行われている安全性の確率論的評価、さらに、他のエネルギー技術との安全性の相対比較の考え方等についても、安全性についての理解と判断に資するため、検討を進めるものとする。

9. 基礎研究

 基礎研究は、研究活動の基盤として、また、新しい技術開発の源泉として不可欠のものであり、今後とも長期的視点に立って、物理・化学分野、生物・医学分野、燃料・材料その他の工学的分野等の基礎研究を幅広く推進することとする。

 今後推進されるべき代表的な研究内容としては、まず物理・化学分野については、重イオン及び高エネルギー粒子線に関する物理並びにその応用についての研究、超ウラン元素に関する研究、環境保全やバイオマスのエネルギー利用等に放射線を有効に使用するための研究、また生物・医学分野については、放射線障害のメカニズムを解明するための研究、生体内の生理学的・生化学的挙動解明のための研究、高LET放射線によるがん治療研究、さらに燃料・材料その他の工学的分野については、燃料の照射試験、材料の中性子損傷に関するデータの整備、新材料の開発、原子炉及び核燃料の安全性に関する基礎データの提供に加え、エネルギー源としてのトリウムに関する基礎的な研究が挙げられる。その他、経済効果の分析、リスクの解析等に必要なシステム解析手法の開発など人文、社会科学を含めたソフトサイエンスの分野における研究も重要である。

 原子力分野における基礎研究は、他分野の基礎研究に比べ原子炉、加速器等の大型設備を必要とするものが多いので、今後とも計画的にそれらの大型設備の整備・改善を図っていくとともに、共同利用等によりその十分な活用を図っていくものとする。

 まず、研究用原子炉については老朽化しつつある汎用研究炉の改造を行うとともに、現在の材料試験炉に続くものの建設計画について検討を開始することとする。加速器については、特に重イオン及び高エネルギー粒子線に関する研究を充実するための科学研究用大型加速器の整備を推進するとともに、新しい放射線治療に関する研究の進展を図るための加速器を計画的に整備していくこととする。

 基礎研究の実施に当たっては、研究者独自の創意工夫と自主性が尊重されなければならないが、研究者相互の連携・協力を促進することも重要であり、大学及び日本原子力研究所を中心として理化学研究所、国立試験研究機関等の間の人材交流、共同研究を積極的に進めるものとする。特に多額の資金や多数の人材を必要とする分野については、研究計画について相互に十分情報を交換し、検討する場を設けることが有効である。

 また、基礎研究の分野においては、国際的な交流が不可欠であるので、諸外国との情報交流、学術的研究集会への参加等の国際協力を進めることとする。

10. 原子力産業

 我が国における原子力開発利用の着実な進展を図るためには、信頼性の高い機器、核燃料等を効率的・経済的に生産でき、十分な国際競争力を持つ原子力産業の発展が不可欠である。また、原子力産業は高度な技術複合産業であるため、他産業に対して大きな波及連関効果を持ち、我が国の産業構造の高度化に寄与するものであり、さらに、将来の輸出も十分期待し得るものである。

 このため、原子力産業の基盤の強化を図り核燃料サイクル分野を含めた国内原子力産業の自主的確立を図るとともに、将来の原子力発電プラントの輸出に向けて条件整備に努力することが必要である。

① 原子力産業の基盤の強化

 原子力産業は多種多様な業種により構成されているが、中でも原子力関連機器の製造業及び核燃料サイクル関連事業が特に重要であり、その基盤の強化あるいは育成を図ることが必要である。

 原子力関連機器の製造業は、まず、軽水炉についてプラント建設の経験の蓄積とプラント設計面での技術向上に努め、適切な競争と協調の下で国際競争力をつけていくことが期待される。さらに、政府関係研究開発機関が行う新型動力炉の開発に参加し、実用化に向けてその技術基盤を強化することが望まれる。また、核燃料サイクル関連事業に用いられる機器についても、製造技術の確立及び供給体制の整備を図るとともに、プラント全体の設計技術の向上を図る必要がある。

 核燃料サイクル関連事業としては、ウラン濃縮、核燃料加工、再処理等の事業が挙げられる。核燃料加工については、事業として定着しているが今後は素材面を含めて一層技術・経済性の向上に努めることが望まれる。ウラン濃縮及び再処理については、国と民間が協力してその技術的基盤の強化を図るとともに、経済性の向上とシステムの確立に努め、民間における事業化を推進することが望まれる。

② 原子力発電プラント輸出のための条件整備

 我が国の原子力産業は、現在、部品の輸出を行っており、今後ともその拡大が期待されるが、今後の原子力産業の成長及び海外、特に開発途上国における原子力発電プラントに対する潜在的需要を考えると、原子力発電プラントの輸出について検討すべき時期に達しつつあると思われる。

 このため、原子力産業は、自主技術の確立、プラント建設の経験の蓄積、核燃料サイクル関連のサービス事業の整備、金融面の対応策の検討等により、原子力発電プラント輸出の条件整備を図っていく必要がある。

 原子力発電プラントの輸出については、核不拡散の担保を大前提としつつ長期的視点に立って進めるべきであり、相手国の需要の把握・分析、原子炉の運転・保守技術の移転、人材の養成等について必要な検討を行い、十分な準備を進めることが望まれる。さらに、核燃料サービスのあり方についても、核不拡散上の配慮を含め十分検討しておくこととする。

11. 保障措置及び核物質防護
① 保障措置

 核燃料物質を輸入に頼らねばならない我が国が、原子力開発利用を円滑に進めていくためには、我が国が原子力開発利用を平和目的に限って推進していることについて国際的な理解を得ていくことが重要である。現在保障措置は、国際的に、原子力平和利用担保を確認する上で最も重要な手段とされており、この保障措置が我が国において有効に実施されることは、我が国の原子力開発利用を円滑に進めていく上での前提条件とも言うべきものである。

 このため、我が国は今後とも国内保障措置の拡充強化を図ることにより「日・IAEA保障措置協定」に基づく国際保障措置が効果的かつ効率的に我が国に適用される基盤を強化していくとともに、対IAEA保障措置支援計画等を通じIAEAによる国際保障措置を支援することにより、国際保障措置の国際的信頼性を高めていく必要がある。また国内保障措置は、二国間協定で定められた種々の核不拡散のための約束を合理的に遵守するためにも重要である。

 以上に鑑み、我が国においては、特に今後の原子力利用の進展に伴い、原子力発電所のみならず濃縮、再処理、プルトニウム関係施設等保障措置上重要な施設がますます増加しようとしていること、また、国際的にもINFCEの結論を踏まえてIAEAを中心に保障措置技術の改善が進められていることを考慮して、以下により国内保障措置体制を整備していくこととする。

 まず、IAEAと協力して、各原子力施設について、取り扱われる核物質の種類、量、形態等を考慮して、保障措置上の重要性に応じた合理的な保障措置の適用を図るものとし、核燃料サイクル全般にわたる核物質の流れ、特に核物質の施設間移動を連続的に追跡することにより施設における査察量の低減化・効率化を図るものとする。

 また、工程管理、品質管理等から得られたデータを保障措置計量管理に有効に活用するなどの保障措置の合理化を、施設への影響を考慮しつつ事業者の協力を得て推進することとする。

 さらに、今後、再処理施設、濃縮施設等保障措置上重要な原子力施設が大規模なものとなっても、タイムリーで効率的な核物質計量管理を行い得るように、施設設計の段階から、費用対効果の面も含めて、有効な保障措置の適用性を考慮するものとする。

 これらの成果が国際的に信頼性あるものとして受け入れられ、かつ、IAEA保障措置の合理化のための積極的な提言となるよう、IAEA等の場を通じ国際的に働きかけていくこととする。

 以上の施策を進めるため、保障措置情報の処理、保障措置のための試料分析等の業務を行っている核物質管理センターの機能を一層充実させるとともに、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等における保障措置技術に関する研究開発を一層促進していくこととする。

② 核物質防護

原子力開発利用の進展に伴い、核物質の取扱い量及びそれを取り扱う施設数、さらには核物質輸送の機会が著しく増加してきていることを踏まえ、核物質の盗取等に対して、今後とも万全を期していく必要がある。

 また、核不拡散の観点から、国際的にも核物質防護体制の整備が望まれており、核物質防護条約が採択され各国に署名のため開放されているほか核物質防護措置は原子力資材等の移転に関する原子力供給国グループのガイドライン(ロンドンガイドライン)にも織り込まれ、さらに、二国間原子力協定においても担保されようとする動きがある。これらにおいて要求されている具体的措置は、概ね1975年(1977年改訂)にIAEAが取りまとめ各国に勧告した核物質防護のためのガイドラインに沿ったものであり、我が国の体制はほぼこれを満たし得るものとなっている。しかしながら、核物質防護を巡る近年の諸情勢と核燃料のほとんど全てを海外に依存せざるを得ない我が国の立場を考え合わせると今後の原子力利用の進展に対応した適切な核物質防護措置を体系的に整備し、我が国の核物質防護体制に対する国際的信頼を確保していくことが重要である。

 このため、核物質の盗取等が発生する恐れがある場合、又は、発生した場合において事業者等、治安当局及び規制当局が有機的に連携協力が図れるよう体制を整備するとともに、事業者等が中心となって核物質防護システム全体の有効性、信頼性等を高めるために必要な研究開発を進め、国はその有効性等を確認し、また適切な規制を行うために必要な研究開発を推進することとする。

 さらに、関係行政機関において今後の原子力施設及び核物質の輸送の増大、核物質防護措置に関する国際的要請に対応して、必要に応じ核物質防護に係る法令整備等を図ることとする。また、核物質防護条約については、批准に備え、諸般の整備を進めることとする。

 核物質防護については、その防護水準につき国際的な共通性が強く求められるところから、情報交換等国際協力による成果が期待される面が多いので、以上の施策を進めるに当たっては積極的に国際協力を進めていくこととする。

12. 開発途上国との協力

 原子力分野における我が国の協力に対する開発途上国の期待は近年とみに高まってきている。このような期待に積極的にこたえていくことは、原子力先進国としての国際的責務を果たすという観点からのみならず、原子力利用を円滑に進めていく上で開発途上国との関係を深めておくという観点からも重要である。したがって、原子力分野における開発途上国との協力については、相手国のニーズを的確に把握するとともに、核不拡散問題に関する原子力先進国間の連携にも十分配慮しつつ推進することとする。

 まず、「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に基づく協力については、現在、アジア太平洋地域を対象に放射線利用に関する分野での協力が進められているが、放射線利用は、開発途上国においても、工業、農業、医療等の分野で非常に有益であること及び比較的容易に技術移転ができることから、今後とも各国の要請に応じ積極的に進めることとする。

 一方、石油価格の高騰に伴い、開発途上国におけるエネルギー問題は、先進国以上に深刻な問題となっており、原子力のエネルギー利用分野での我が国の協力に対する期待がますます高まってくると思われる。既に、エネルギー開発の一環として原子力発電を推進しようとしている開発途上国から研究炉運転、原子力に関する安全性、放射性廃棄物処理処分等の分野での協力が要請されており、我が国としては、核不拡散の担保を前提としつつも、可能な限り協力を行うことが重要である。この分野における協力については、当面、情報提供、専門家の派遣、研究者・技術者の受入れ及び研修等の協力を進めるとともに、長期的にはより緊密かつ広範に協力を進めるための諸般の方策について検討することとする。特に我が国と密接な関係にあり、しかもNPTに加盟している近隣諸国とは今後とも重点的に協力関係を深めていくこととする。

 なお、開発途上国との協力においては、国の役割が重要であると同時に、実際の技術の移転、人材の養成等民間の協力が必要な面も多い。したがって日本原子力研究所等国の関係機関をはじめ、大学、民間も含めて、国と民間が連携をとりつつ推進することが必要である。

第4章 開発利用推進上の課題

1. 開発利用関連資金

 本長期計画に基づき今後の原子力研究開発を進めていった場合、今後10年間に必要になると予想される研究開発関連資金は、今後の各プロジェクトの進捗状況及び環境条件の変化によっても変わり得るが、約5兆4千億円(1982年度価格)であり、この内訳は、新型炉開発その他原子力発電関係約1兆9千億円、核燃料サイクル関係約1兆9千億円、核融合その他基礎研究等約1兆6千億円となっている。このほか、民間が独自で行う研究開発及び軽水型原子力発電所の建設等に要する資金は、約14兆円(1982年度価格)と試算される。

 また、上記の約5兆4千億円のうち約1兆6千億円は、実用化移行段電において建設されるプラントの建設資金であり、事業主体が中心となって調達することが期待されるが、国が適切な助成に努めることが必要である。

 一方、残りの約3兆8千億円ほ、実用化移行段階の研究開発費並びにそれ以前の研究開発段階のプラント建設資金及び研究開発費であり、国が中心となって多様な資金調達手段を用いて確保すべく引き続き努力を行っていくこととするが、民間においても長期的視野に立ち、相応の資金を拠出し、積極的に協力することが望まれる。また、資金の効率的活用を図るため国際協力によって効果的に実施し得る研究開発については、国際的な共同研究として推進するよう努めるものとする。

2. 原子力関係技術者

 原子力開発利用を円滑に推進するためには、原子力関係技術者の確保及び養成を適切に行うことが不可欠である。

 1980年度末における原子力関係技術者数は4万5千人強(エネルギー利用分野で2万5千人強、放射線利用分野で2万人弱)と推定され、過去10年間で2倍強(エネルギー利用分野で3倍強、放射線利用分野で1.5倍程度)となっている。この結果、民間においては原子力利用を推進するに必要な人員がほぼ確保されていると考えられるが、政府関係研究開発機関の人員については今後の研究開発計画の進展に対応して、必要な技術者の確保に配慮する必要がある。

 また、将来必要となる技術者数については、原子力発電の将来規模等から推定すると、1990年度には、6万6千人程度(エネルギー利用分野で約4万人、放射線利用分野で約2万6千人)となる。原子力技術は、広範な専門領域にわたる総合技術であるため、これらの技術者を確保するためには原子力分野に限らず幅広い専門分野の技術者を広く確保し、企業内又は専門の研修機関において原子力専門知識について再教育することが重要である。研究機関における養成訓練については、技術者の再教育の場として、今後とも多様なニーズに応じて一層充実され、有効に活用されることが望まれる。また、民間から政府関係研究開発機関への出向制度も今後、新技術が研究開発段階から実用化へと進む場合に新しい知識を得る場として有効であり、今後とも一層積極的に活用されることが期待される。

3. 原子力施設の立地

 石油代替エネルギーの中核たる原子力発電の開発を積極的かつ計画的に推進していくためには、原子力発電所、核燃料関連施設、廃棄物処分施設等の原子力発電関連施設の立地を促進する必要があり、そのためには、今後とも安全確保対策に万全を期し、国民の信頼をかち得ていくことが最も重要であるが、安全の確保を前提として次のような施策を進めていくことが必要である。

① 国民の原子力に対する理解の一層の向上を図るとの観点から広報活動の充実に努める必要があり、国民が我が国のエネルギー安定供給上原子力発電が必要不可欠であることを理解し、原子力発電及び関連事業を主体的な判断の下に受け入れることができるよう一般的な広報活動のみならず、地元の人々の生活感覚に密着したきめ細かな広報活動の展開が望まれる。特に事故・故障が発生した場合には、その経験を原子力発電関連施設の運転等に適切に反映し再発を防ぐと同時に、正しい情報を的確に国民に伝えることが必要である。さらに、原子力発電関連施設の安全性に関する地元住民の不安を解消し、立地の円滑化に資するために、実規模又ほ実物に近い形で行われている各種実証試験の成果も積極的に活用すべきである。

② 地域振興策については、近年地元の要望が公共施設の整備による福祉の向上から、地元の雇用の増大等社会経済的発展へと広がりつつあることに鑑み、いわゆる電源三法の活用とともに在来の各種地域振興策をも十分活用して、地域の産業の振興を図るほか、地方自活体が地域振興ビジョンを立案するに当たって国が支援を行うなどにより、地域の実情に応じ、多様なものとしていくことが望まれる。

③ 原子力発電関連施設の立地の確保は、基本的には事業者が主体となって行うべきであるが、関係省庁及び関係地方自治体も緊密な連絡、調整を行い、手続きの円滑化等立地促進のための施策を協力して進めることが重要であり、このための体制の整備・強化を図る必要がある。

④ 地元住民をはじめ国民の関心が高い放射性廃棄物の処理処分及び原子炉の廃止措置については、これに対する正しい理解を得るよう努めるとともに、その技術の開発・実証等必要な方策を逐次実行に移していくべきである。

⑤ 将来の原子力発電所の立地地点選定の幅を広げ、原子力発電所の立地を促進する観点から、耐震設計等の要請を十分配慮した通常地盤立地方式、地下立地方式、海上立地方式等の新立地方式についても今後とも積極的に調査検討を進めていく必要がある。

 一方、原子力発電関連施設の立地のみならず研究開発施設の立地についても近年困難な事態が生じてきており、今後の研究開発推進上の制約条件になりつつある。このため長期的な見通しの下に、今後必要となる研究開発施設の用地を先行的に確保していくことに努めることとする。

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