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随感


日本原子力船研究開発事業団
理事長 井上 啓次郎

 昨年12月1日、私は図らずも日本原子力船研究開発事業団の理事長を拝命しました。原子力第一船「むつ」の現状から将来にわたる重要性を考えるとき、その責任の重大さを痛感しますが、私の心境としては17年ぶりに里がえりというところであります。それというのも昭和38年8月の日本原子力船開発事業団設立当初、故石川一郎初代理事長のもとで原子炉担当理事を務め、1年3カ月基本設計に携ったからであります。

 わが国の原子力第一船「むつ」は原子力商船としてアメリカのサバンナ号、西ドイツのオットー・ハーン号につぎ世界第三番目(ソ連の砕氷船を除く)のものであります。

 この「むつ」は昭和47年8月完成、昭和49年8月洋上での臨界に成功しましたが、不幸にも「放射線漏れ」を起したため、以来、苦難の道を歩むことになりました。しかしながら、昭和55年8月からは遮蔽改修、安全性総点検が綿密に行なわれており、これらの工事は順調に進んでいまして本年8月末までには佐世保港を出航させたいと考えております。

 これからが原子力船「むつ」にとっては本番を迎えるわけでありまして、「むつ」の佐世保出港後は、青森県の地元の方々の御理解、御協力を得て大湊港に「むつ」を入港させて頂くことが何よりも重要であります。さらに現在、青森県むつ市の外洋に臨む関根浜では新しい定係港の調査を鋭意進めており、同新定係港の設計・建設を円滑に取り運び「むつ」開発を軌道に乗せることが必要であります。

 今後、安全性確保を第一義として「むつ」開発の総仕上げをするため全力投球する所存でありますから、地元は勿論のこと国民の皆様の御理解と御支援を切にお願いするものであります。

 思うに、事業団設立の当時、原子力商船の開発はホットなものでありましたが、現在では内外ともにクールなものが感じられます。

 しかしながら、21世紀に入って石油の枯渇時代になったとき、海運国日本にとって原子力商船が持つ役割は絶大なものがあると信じます。この点から原子力船「むつ」の建造・運航について経験を積み重ねることは、孫の時代への贈り物として有意義であり、必須なものであると思います。

 このため、昭和55年11月事業団法の改正により名称も「日本原子力船研究開発事業団」と改め、「むつ」の開発に加えて将来の船舶用原子炉の研究開発を推進することになっています。

 このような重い任務を肝に銘じ、菲才ながら全力を尽したいと思いますので、関係各方面からの御指導を賜りますよう心からお願い申し上げる次第であります。



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