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新型転換炉実証炉評価検討専門部会報告書



昭和56年7月20日
原子力委員会
新型転換炉実証炉評価検討専門部会

昭和56年8月4日
原子力委員会
   委員長 中川 一郎 殿
新型転換炉実証炉評価検討専門部会
部会長 白澤 富一郎

 本専門部会は、昭和55年1月29日付原子力委員会決定に基づき、新型転換炉に関する技術的、経済的評価等について、鋭意審議を進めてきましたが、このほどその結論を得たので、ここに報告いたします。

 1. 経緯と結論

(経緯)

 新型転換炉は、高速増殖炉とともに、その自主開発がエネルギー政策における重要課題であるとともに産業基盤の強化と科学技術水準の向上に大きく寄与するものとして、国会、政府、産業界の総意により官民協力して推進されることになり、昭和42年以来ナショナルプロジェクトとして動力炉・核燃料開発事業団が中心となりその開発が推進されてきたものである。

 その間、新型転換炉の開発の目標は、ウラン濃縮作業量を節減ないし不要とする天然ウラン専焼の当初の構想から進んで、我が国の核燃料サイクル上の位置づけにより、軽水炉の使用済燃料を再処理して回収されるプルトニウム及び減損ウランの利用を主体とし、微濃縮ウランをも利用することへ変更された。

 新型転換炉開発には軽水炉技術が積極的に活用できることから、実験炉段階を経ずに原型炉から着手し、大洗工学センターでの実規模試験データ等に基づき設計を進め、原型炉設計のチェックアンドレビュー(昭和44年10月)を経て建設が開始された。原型炉「ふげん」は昭和54年3月20日に定格出力で本格運転を開始し、また、「ふげん」の運転データにより設計手法及び設計コードの検証・改良がなされてきた。

 原型炉に続く実証炉については、昭和48年より基本構想の検討が開始され、概念設計を経て、現在、基本設計の段階にある。これと並行して、昭和51年より大洗工学センターで実証炉のための実規模試験が実施されている。

 実証炉の建設については、原子力研究開発利用長期計画(昭和53年9月原子力委員会決定)において、総合的な評価検討を行い、昭和50年代半ばまでに決定するものとしている。

 本専門部会は、原子力委員会の指示に基づき、新型転換炉実証炉の開発に関する今後の施策の確立に資するため、新型転換炉に関する評価検討を次の事項について行った。

① 新型転換炉実用化の意義
② 新型転換炉の技術評価
③ 新型転換炉の経済性評価
④ その他必要な事項

 評価検討にあたっては、総括分科会及び技術分科会を設けて審議を行い、その結果に基づいて総合評価を行った。

(結論)

① ウラン資源のほとんど全てを外国に頼らなければならない我が国にとって、原子力が期待されている石油代替エネルギーの中核としての役割を果たしていくためには、今後必要となる核燃料を安定的に確保するとともに、その有効利用を図ることが重要である。そのためには高速増殖炉の開発を推進するとともに、その本格的導入前にも、使用済燃料から回収されるプルトニウムや減損ウランをできるかぎり早期にリサイクルして活用することが望ましい。

 この観点から、核燃料サイクルを確立し、プルトニウムの利用を軽水炉及び新型転換炉で図っていくことが重要である。

 新型転換炉は、我が国が世界に先がけてプルトニウムの本格的利用をめざしている自主開発炉であり、プルトニウム及び減損ウランを有効かつ容易に利用できる特性を有している。これを実用化し、軽水炉と組み合わせて我が国の原子力発電体系に導入することができれば、プルトニウムの早期利用による天然ウラン所要量の削減等核燃料の有効利用を実現できるばかりでなく、プルトニウム蓄積量の調整による核物質管理上の経済的負担を軽減する等の利点があること、プルトニウム燃料加工等核燃料サイクルの産業化へのインセンティブが働くこと、さらに、国際的にも我が国における核燃料サイクルの早期確立の必要性について理解を得易くすることができること、などの多面的な効果を期待できる。

 また、その結果、原子力分野における自立性が高められ、我が国のエネルギー・セキュリティの向上に寄与するものと考えられる。

② 実用規模である電気出力60万キロワットへ大容量化した実証炉は、安全性、信頼性及び運転保守性の観点から検討した結果、原型炉「ふげん」の建設運転経験等のこれまでの技術開発の成果に加え軽水炉技術が反映されており、主として確認あるいは実証を目的とする追加的研究開発は必要であるが、実証炉設計で示された機能及び性能を実現できる見通しである。

 また、原子力発電の全発電設備容量に占める比率が大きくなった場合に必要となる負荷追従運転について、新型転換炉は制御上容易である等の技術的特長を有している。

③ 原型炉「ふげん」の建設費の実績をもとにスケールアップ等を考慮して予測した現設計の実証炉の建設費及び発電原価は相当割高になっている。

 この予測結果をもとに設備共用化、習熟効果等を勘案した本格的商業化段階における経済性の見通しによると、新型転換炉の発電原価は今後の新設電源のうち最も安価である軽水炉より割高ではあるが、将来原子力発電とともに積極的な建設が予定されている石炭火力発電等と比肩し得る見通しである。さらに新型転換炉は燃焼度の向上等の技術改良による経済性の向上も期待される。

 なお、新型転換炉の経済性について考慮する場合、プルトニウムの早期利用により資産の有効利用が図れること、及び減損ウランの利用が容易であること等の定量的評価が困難な経済的メリットがあることに留意する必要がある。

 以上のように、新型転換炉の経済性は軽水炉より割高になる見通しであるが石炭火力発電等に比肩しうるものと考えられ、また、我が国のエネルギー・セキュリティーの向上及び核燃料サイクルの確立への寄与等を考慮すると、高速増殖炉の実用化時期や軽水炉へのプルトニウム利用の見通し等との兼合いもあるが、現時点では、新型転換炉を原子力発電体系に組み入れることができるよう、官民協力して開発を進めていくことが望ましい。

 このため、資金分担、実施主体等について関係者の間で合意が得られることが基本的前提となるが、大容量化に伴う技術の実証及び経済性の見通しの確立を目的とし、なお進んでより一層の大容量化や燃焼度の向上等の技術改良による経済性の向上を検討するため、電気出力60万キロワットの実証炉を建設することが妥当であると考える。

 実証炉の建設、運転にあたっては、民間が積極的役割を担うことが適切と考えられる。この場合、実証炉が開発初期にあるため未経験の問題が多いこと等によりその建設費及び発電原価は相当割高になることも予測されること、我が国のエネルギー・セキュリティの向上に寄与すること等にかんがみ、国による適切な支援措置が必要である。

 なお、実証炉の建設・運転にあたって必要な研究開発については、国が積極的な役割を果すことが期待される。

 2. 新型転換炉実用化の意義

 エネルギー源の大部分を外国に頼らなければならない我が国にとって、エネルギー・セキュリティの目標は自主性の確保と安定供給の確保である。このためには、国際協調を図る一方で、基本的には自立性の向上の観点から、外国依存度を低減させることが必要であると考えられる。

 石油代替エネルギーの中核を占めることが期待されている原子力発電においても、ウラン資源供給のほとんど全てを海外に依存し、また現状では、ウラン濃縮役務をも外国に依存しながら、濃縮ウランのみを燃料として利用してきた。

 軽水炉による積極的な原子力発電計画を有している我が国にとって、今後ともウラン資源を海外に依存しつづけなければならないが、原子力の場合化石燃料と異なるのは、使用済燃料中に存在するプルトニウム等の核燃料をいわば自国資源として利用できることであり、核燃料サイクルを確立してその活用を図ることが是非必要である。

 このため、他の原子力先進国と同様に、軽水炉から高速増殖炉へ移行するという基本路線を推進するとともに、高速増殖炉の本格的導入前にも、使用済燃料から回収されるプルトニウムや減損ウランをできるだけ早期にリサイクルして有効利用することができるならば、天然ウラン所要量と濃縮分離作業量を削減することとなり、原子力における資源面での外国依存度の低減ひいてはエネルギー・セキュリティの向上に寄与できる。

 一方、原子力利用の特質として、天然ウランを外国から入手する場合及び原子炉、ウラン濃縮、プルトニウム燃料製造、再処理等を、技術導入するかあるいはそれらに関する役務を外国に委託する場合、特に核不拡散の観点から、ロンドン協議ガイドラインや二国間原子力協定にみるように、使用済燃料の再処理あるいはプルトニウムの貯蔵と利用に関し国際的規制をかけられ、その方法等について相手国の同意が必要となっている。また、国際核燃料サイクル評価(INFCE)での討議に見られるように、核燃料サイクル確立の要めである使用済燃料の再処理とそれから回収されるプルトニウムの利用については、その必要性を示すことが求められる可能性がある。

 我が国としては、核不拡散の目的に沿って国際協調を進めることを基本としつつ、同時に原子力分野における自立性を向上させて原子力利用の自主的な発展を図れるようにすることが、エネルギー・セキュリティの観点から重要である。

 以上のような観点から、新型転換炉の特長を踏まえその実用化の意義を次のように評価した。

(1) 天然ウラン所要量の削減等核燃料の有効利用

 ① 我が国は軽水炉-高速増殖炉の路線を原子力開発の基本としている。しかし、高速増殖炉の実用化時期と投入速度、軽水炉へのウランリサイクルの実用化時期等に不確実性があり、これらが遅れた場合我が国が必要とする天然ウラン累積所要量は、長期的ウラン需給の観点に立てば容易に確保できるとは言えない。このため、我が国における原子力開発利用の戦略としては、天然ウラン所要量をできるだけ少なくすることが重要である。

 新型転換炉は後述するように、プルトニウム及び減損ウランを有効かつ容易に利用できる特性を有しており、高速増殖炉実用化までの間、補完炉として投入しプルトニウムの早期利用を行うことにより、高速増殖炉の実用化が遅れた場合、あるいは早い時でもその実用化初期における投入速度が低い場合、天然ウラン累積所要量と濃縮分離作業量を削減することができる。

 ② 高速増殖炉実用化までの間、新型転換炉投入によりプルトニウムを積極的に利用することは、プルトニウム蓄積量を調整でき、その結果、核物質管理上の経済的負担、分裂性プルトニウムの減少等の問題を軽減し、資産の効率的運用を図ることになる。

 ③ 新型転換炉は、軽水炉の使用済燃料から回収されるプルトニウムと減損ウランを利用しうる他、さらに、高速増殖炉の実用化時期等諸般の情勢変化に応じて、濃縮ウランをも燃料として有効に利用しうるので、ウラン資源に乏しい我が国に必要な核燃料の弾力的活用が図れる。

(2) 原子力分野における自立性の向上

 ① 新型転換炉は、我が国独自の技術で開発してきた国産動力炉であり、その知見とノウハウは確実に我が国に蓄積されている。また、今後も実用化に必要な各種試験等を行う体制が整っており、外国メーカとの技術提携に束縛されず、我が国独自の技術として発展させることができる。さらに、輸出にあたっては自主技術であるため導入技術より有利であると考えられる。

 ② 高速増殖炉実用化の本格的プルトニウム利用時代を迎えるためには、これの地ならしとも言うべき過程を経る必要がある。例えば、長期間のリードタイムを必要とするプルトニウム燃料製造技術については、逐次スケールアップを図り、事業経験を積み、また、その実績を通じてプルトニウム利用に対する国民的コンセンサスを得るなどして、円滑な移行を果たす必要がある。このような観点からも、高速増殖炉の実用化に先立って、新型転換炉によるプルトニウムの商業的利用を進めることは、核燃料サイクルの産業化に寄与し、あわせて軽水炉へのプルトニウム利用にも有利に作用するものと考えられる。

 ③ 核燃料サイクルを確立し核燃料の有効利用を図ることを基本としている我が国としては、再処理の商業化が当面の課題である。新型転換炉の実用化は我が国が再処理の商業化を進め核燃料サイクルを確立しなければならない立場を具体的に示すものとなり、国際的な理解を得るための一助となる。

 3. 新型転換炉の技術評価

 電気出力60万キロワットの実証炉の技術評価検討は、動力炉・核燃料開発事業団から提案された実証炉設計について、安全性、運転信頼性及び運転保守性の観点から、特に「ふげん」と比較して改良された項目、軽水炉と比較して相違している項目及び新型転換炉の技術水準等に注目して、技術的検討を行い、実証炉設計の実現に対する技術的見通しを主眼に評価を進めた。さらに、これらの評価を基に実証炉開発に必要な研究開発についても検討した。

 その結果、実証炉はその設計で示された機能及び性能を実現できる見通しである。

 また、実証炉の設計を検討する中で明らかになったものも含め新型転換炉の特長を整理し、実証炉の技術評価の範囲を越えるが、さらに将来の技術的展望として、100万キロワット級への大容量化の見通しについても検討した。

 以上の結果をとりまとめると次のとおりである。

(1) 安全性

 限られた検討範囲ではあるが、実証炉の安全設計は、全体として「ふげん」を踏襲しており、これまでに蓄積された多くの研究開発と実証試験及び「ふげん」の運転実績により安全性は確保できる見通しである。

 TMI事故に係る安全対策事項の反映については、新型転換炉特有の系統・機器あるいは事故事象のため、軽水炉と異なる11項目及び運転員の誤操作防止対策の計12項目を選出し検討した結果、実証炉の設計は、一部実証試験による確認の必要なものもあるが、TMI事故に係る安全対策事項の要求を満足できる見通しである。

 耐震性については、サイト未定のためサイト条件を踏まえた詳細な検討は今後にゆだねられるが、一般的に厳しいと考えられる地盤地震動条件を想定し解析した結果、「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)から60万キロワットへの大型化等にともなう特別の問題はないとの見通しである。

(2) 運転信頼性

 実証炉の原子炉本体、燃料交換装置等は「ふげん」の実績を踏まえ、改良あるいは合理化するなど信頼性向上の配慮が払われている。また、「ふげん」においてみられた配管等の応力腐食割れの問題については対策が図られている。さらに、定期検査工程の短縮化が図られており、実証炉は12か月サイクル運転を前提として評価した結果、設備利用率70%程度は得られる見通しである。

 実証炉燃料はプルトニウム燃料を主体に装荷され、軽水炉の設計手法を基に「ふげん」の燃料の実績、海外炉における照射試験結果を反映して軽水炉なみの27,000MWd/tを達成するよう設計されている。なお、プルトニウム燃料棒については、最高約25,000MWd/tの照射実績はあるが、実証炉燃料等の照射試験を実施し、その健全性を確認する計画である。

 実証炉の炉心特性はプルトニウム専焼炉として適しているが、ウラン燃料の装荷も可能であり、その割合は50%程度である。なお、ウラン燃料全装荷炉心については、燃料集合体に関する開発が必要であるが、その実現性については見通しがある。

 新型転換炉は、(5)で後述するように負荷追従し易い特性があり、制御面では日負荷追従運転(燃焼末期の一部期間を除く)、ガバナフリー運転、自動周波数調整(AFC)運転の各制御ができる見通しである。なお負荷追従運転に伴う燃料集合体の健全性については、ペレット・被覆管相互作用(PCI)について解析・試験を進め、これらを踏まえ「ふげん」により確認することが必要であると考えられる。

(3) 運転保守性

 実証炉は、クラッドの低減等、被ばく低減対策が施されており、作業員の被ばく線量は軽水炉なみの見通しである。また、トリチウムに対しても、「ふげん」の実績を基に重水漏洩防止対策等をとっているので、実証炉の周辺公衆被ばく線量は、「ふげん」と同程度になると考えられる。

 実証炉の供用期間中検査は、軽水炉の規程の準用あるいは規程の趣旨に沿った検査ができる見通しであるが、検査性能の向上、作業員の被ばく低減のため、各種検査装置の自動化等の開発が続けられる。これらの装置等は実証炉の運転開始までに用意出来る見通しである。

(4) 実証炉開発に必要な研究開発

 実証炉運転開始までに必要とされる研究開発は確認あるいは実証を目的にするものがほとんどで、これまでの「ふげん」の開発経験を生かして設計を進めるので新規に開発に着手にするものは少ないと考えられる。

(5) 新型転換炉の技術的特長と展望

 新型転換炉は、減速材として中性子経済の良い重水を使用し、また、高温高圧の冷却材と常圧の減速材を分離した圧力管型炉であることにより、次のような特長を有する。

 ① プルトニウムと減損ウランを有効かつ容易に利用できる。

 すなわち、新型転換炉の燃料集合体では燃料棒が同心リング状に配列されているため、2種類のプルトニウム富化度をリング別に与えるだけで局所出力ピーキングを小さくし核熱的制限値を満足させることができる。このため、燃料製造時の工程及びプルトニウム管理を単純化できる。

 また、新型転換炉において高次プルトニウムを利用する場合、非核分裂性プルトニウムの影響をほとんど受けないので、製造時に分裂性プルトニウムの量をわずかに増加させるだけで同一燃焼度を保ち、炉心特性はほとんど変わらない。

 また、減損ウランを利用する場合は、減損ウランにプルトニウムを富化して使用するが、減損ウラン中の235U含有量と核分裂性プルトニウム量の和が一定であれば核特性はほとんど変わらない。さらに、新型転換炉の使用済燃料から抽出されるウランは、235U含有率が濃縮テール以下となるので、これを再濃縮する必要性はなくなり、廃棄又は高速増殖炉ブランケット燃料として貯蔵されることになる。このため、新型転換炉で減損ウランを利用すれば、その使用した分については236Uの累積を断つことができる。

 ② 冷却材ボイド係数がほぼ零のため外乱に対する原子炉出力の動揺が少なく、また、制御棒近傍の燃料の局所的出力変動が小さいため燃料へ与える影響が少ない等の特性から、負荷追従運転が容易である。

 ③ 炉心の出力分布が平坦化されており、取出燃料の燃焼度の分散が少なく軽水炉と同じ平均燃焼度であっても最大燃焼度が低い。このため、富化度を上げるだけで、最大燃焼度の制限を守りつつ平均燃焼度の向上を図ることができる。

 ④ 圧力管型原子炉は、構造上、運転中燃料交換の可能性がある。これが実現できれば、設備利用率の向上、破損燃料の迅速な取出し、装荷燃料の有効利用等の効果が期待できる。

 実証炉設計においては、以上の新型転換炉の主要な特長のうち、①プルトニウムと減損ウランの有効かつ容易な利用、②負荷追従運転が容易である、という特長がほぼ生かされている。③燃焼度向上については、適切な燃料交換計画、富化度分布の最適化等により大幅な向上についての実現の可能性がある。なお、④運転中燃料交換の実現のためには、燃料のPCI等の技術改良が必要であるので、長期的課題として検討することが望ましい。

 また、経済性を向上させる等の観点からは、先に述べた大幅な燃焼度向上の他、100万キロワット級への大容量化が課題であるが、現実証炉設計に基づき炉心性能及び機器・構造の観点から検討した結果、さらに詳細に検討すべき課題はあるものの、その実現については技術的可能性があると考えられる。

 4. 新型転換炉の経済性評価

 新型転換炉の経済性については、原型炉「ふげん」の建設費の実績をもとに、スケールアップ等を考慮して予測した現設計の実証炉の建設費及び発電原価と、さらに、これに同一サイト複数基設置による設備共用化、多数基導入による習熟効果を勘案して予測した本格的商業化段階における建設費、発電原価の見通しを評価した。

 経済性評価に用いた前提条件等には、多くの変動要因があるので、実証炉の建設費、発電原価は帯域で示すことにした。

 また、本格的商業化段階における経済性評価は、将来における建設費の低減効果に不確定要因が加わるなど、実証炉についての予測と同様の精度で評価を行うことは困難であるので、経済性の観点からの課題の摘出に資することを主眼とした。

 なお、経済性評価全体の基礎となっている実証炉建設費の予測方法としては、軽水炉との比較において新型転換炉特有の部分について個別積算を行う方法、あるいは全体的に積算を行う方法も考えられるが、サイトも未定であり、また実証炉の基本設計という現段階では時期尚早と考え、原型炉「ふげん」の建設費実績には原型炉であるがための割高部分があるとの懸念もあるが、これに基づいて実証炉へのスケールアップを主体とした予測を行った。

 以下に予測結果の評価と今後の課題について述べる。

(1) 実証炉の建設費

 実証炉の建設費は、主として「ふげん」の建設費を基礎とし、実証炉設計に基づいてプラントのスケールアップとエスカレーションを考慮し、別途追加(削除)設備等を積算し、これに建設中利子を加えて予測した。なお土地、構築物等については想定条件のもとに積算により予測を行った。その結果、昭和57年運開ベースにおける実証炉の建設費は2,960億円(低域)~3,225億円(高域)建設単価で49.3万円/KW~53.7万円/KWと予測した。

 実証炉設計に基づいた主要設備の物量比較では、実証炉は同出力の軽水炉より多くの物量が投入されている。この理由は、実証炉が重水炉であることのほか、初期開発の段階にあることによると考えられる。

 今後の課題としては、詳細な設計を進める段階で合理化を行い、機器・設備容量の最適化を図ることが重要である。

(2) 実証炉の発電原価及び燃料費

 実証炉の発電原価は昭和57年度価格で運開初年度21.8円/KWh~23.1円/KWh、16年平均で17.5円/KWh~18.4円/KWhと予測した。

 この結果で低域値を例にとると、初年度の資本費は発電原価のうち55%を占めるが、16年平均では占める割合が低下して51%になる。重水費については初年度で約6%を占めるが、16年平均では約3%を占めるに過ぎず、これは重水を定率法で減価償却するために初年度の負担が特に大きくなるからである。燃料費は初年度で18%程度、16年平均では17%程度である。発電原価の高域値を例にとると資本費の負担が2%程度大きくなり、それに伴ってその他の項目の比率が若干低下することになる。

 これらの分析から、重水費は長期的に見るとそれ程大きな負損とはならず、発電原価を低減させる鍵は資本費と燃料費にあると考えられる。資本費については、前述した合理化設計による建設費の低減が重要である。燃料費については、昭和57年度価格で運開初年度3.82円/KWh、16年平均3.02円/KWhと予測され、このうち成型加工費、再処理費、輸送費の合計が約70%を占めている。したがって、燃料費を低下させるための今後の課題としては、燃焼度を増加させ、燃料の取替量を少なくすることが重要である。

(3) 本格的商業化段階における建設費

 本格的商業化段階として、ここでは10基目を代表点として取り上げ、実証炉からの建設費の低減効果を検討し、その結果3割程度低減すると評価した。この結果を基に本格的商業化段階における60万キロワットプラントの建設費は昭和57年度運開ベースにおいて1,900億円(低域)~2,300億円(高域)、建設単価では32万円/KW~39万円/KWになると予測した。

 一方、国内における計画段階(一部着工済のものも含む)の軽水炉33基について調査した結果、分散があるが、平均出力96.9万キロワットで、昭和57年運開ベースに補正した建設単価の平均は28.2万円/KWとなる。この軽水炉33基の中には新型転換炉での想定に比べて立地条件の悪いものもあり、またサイト当りの基数も4基より少ないものが含まれているので比較の前提が一致しない点もある。これらの軽水炉は国内では21基目から53基目に相当するが、国内メーカーのシェアと当初から導入炉であったことを考慮すると、自主技術開発による新型転換炉の何基目に対応すべきかは判断が難しい。また新型転換炉についても当初から軽水炉の経験が活用されている。

 しかしながら、これを軽水炉の実勢平均建設費と見て比較するならば、新型転換炉の建設単価は軽水炉に対して1割強(低域)~3割強(高域)割高になっている。

 新型転換炉は重水炉であるために本質的に炉心寸法が大きくなり、更に重水系統設備が付加されることにより建設費が若干高くなることは避けられないが、今後の課題として一層努力を傾注し建設費を低減することが重要である。

 このため、今後商業化を進める段階ではさらに機器・設備の合理化及びシステム設計の最適化について検討する必要がある。

 さらに、経済性を向上させる等の観点から大容量化の検討も進める必要がある。

(4) 本格的商業化段階の発電原価及び燃料費

 本格的商業化段階の発電原価は昭和57年度価格で運開初年度16円/KWh~18円/KWh、16年平均13円/KWh~14円/KWhと予測した。

 一方、前記軽水炉33基の平均モデルケースの発電原価を試算した結果、運開初年度12.4円/KWh、16年平均で10.5円/KWhを得た。両者を16年平均で比較すると、新型転換炉の発電原価は3割程度高い。

 燃料費について軽水炉と比較すると、新型転換炉は3.7円/KWh(初年度)、2.8円/KWh(16年平均)、軽水炉は3.3円/KWh(初年度)、2.7円/KWh(16年平均)であり、両者はほぼ同等となっている。これは、両者とも大きな割合を占める再処理費が同一であり、また新型転換炉では、プルトニウム混合酸化物燃料の成型加工費がウラン燃料の成型加工費と比べて割高であるが、天然ウラン所要量が少なくかつ濃縮費が不要であることによりほぼ相殺されているためである。

 このような関係から、新型転換炉はウラン価格及び濃縮費の上昇に対しては影響を受けることが少なく、この点では軽水炉より有利な条件を有している。しかしながら、燃料費に占める成型加工費と再処理費の割合が大きいので、その負担を軽減するために燃焼度の向上を図ることが燃料費の低減に有効であり、本格的商業化段階への課題として検討しなければならない。

 以上の結果を総合的に評価すると、新型転換炉の経済性は、現時点での知見に基づいても、今後の新設電源のうち最も安価である軽水炉より割高ではあるが、将来原子力発電とともに、積極的な建設が予定されている石炭火力発電等と比肩しうる見通しである。さらに新型転換炉は、燃焼度の向上等の技術改良による経済性の向上も期待される。

 なお、新型転換炉の経済性について考慮する場合、プルトニウムの早期利用により資産の有効利用が図れること及び減損ウランの利用が容易であること等の定量的評価が困難な経済的メリットがあることに留意する必要がある。

 新型転換炉実証炉評価検討専門部会構成員
部会長 白澤富一郎 経済団体連合会エネルギー対策委員会委員長
青木 成文 東京工業大学教授
阿部 栄夫 富士電機製造(株)社長
天野 昇 日本原子力研究所副理事長
飯田 正美 動力炉・核燃料開発事業団副理事長
伊藤 俊夫 日本原子力発電(株)取締役会長(前関西電力(株)副社長)
鵜木 丈夫 電気事業連合会理事
川上 幸一 神奈川大学教授
熊谷 善二 (株)日立製作所理事(前日本開発銀行理事)
児玉 勝臣 通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官
(昭和55年2月26日から昭和56年3月3日まで)
佐伯 喜一 (株)野村総合研究所会長
向坂 正男 (財)日本エネルギー経済研究所会長
佐波 正一 東京芝浦電気(株)副社長
(昭和55年2月26日から9月5日まで)
柴田 鉄治 朝日新聞社論説委員
末永 聰一郎 三菱重工業(株)社長
高岡 敬展 科学技術庁長官官房審査官
高橋 宏 通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官
(昭和56年3月3日から)
都甲 泰正 東京大学教授
野瀬 正義 電源開発(株)副総裁
堀 一郎 東京電力(株)副社長
三島 良績 東京大学教授
森 一久 (社)日本原子力産業会議専務理事
吉田 陽吉 東京芝浦電気(株)専務取締役
(昭和55年9月5日から)
綿森 力 新エネルギー開発機構理事長
(前(株)日立製作所副社長)

新型転換炉実証炉評価検討専門部会総括分科会構成員
主査 向坂 正男 日本エネルギー経済研究所会長
青井 舒一 東京芝浦電気(株)常務取締役
(昭和55年6月19日から)
浅田 忠一 日本原子力発電(株)常務取締役
天野 昇 日本原子力研究所副理事長
飯田 正美 動力炉・核燃料開発事業団副理事長
一文字 正三 住友原子力工業(株)技師長
井上 力 電源開発(株)理事
浦田 星 (株)日立製作所専務取締役
川上 幸一 神奈川大学教授
川名 晃 日本開発銀行営業第一部長
近藤 駿介 東京大学助教授
田中 利治 三菱重工業(株)副社長
塚田 真一 科学技術庁動力炉開発課長
(昭和55年4月9日から昭和56年4月30日まで)
戸倉 修 資源エネルギー庁原子力発電課長
(昭和56年3月9日から)
豊田 正敏 東京電力(株)常務取締役
西中 真二郎 資源エネルギー庁原子力発電課長
(昭和55年4月9日から昭和56年3月9日まで)
濱口 俊一 関西電力(株)専務取締役
林 政義 中部電力(株)副社長
平池 恂 富士電機製造(株)原子力推進本部総括部長
堀内 純夫 科学技術庁動力炉開発課長
(昭和56年5月1日から)
牧浦 隆太郎 東京芝浦電気(株)常務取締役
(昭和55年4月9日から6月19日まで)
三島 良績 東京大学教授

新型転換炉実証炉評価検討専門部会技術分科会構成員
主査 青木 成文 東京工業大学教授
青木 一郎 三菱重工業(株)新型炉技術部長
(昭和55年8月8日から)
今井 隆吉 日本原子力発電(株)技術部長
(昭和55年4月24日から8月25日まで)
板倉 哲郎 日本原子力発電(株)技術部長
(昭和55年8月25日から)
大久保 忠恒 上智大学教授
大塚 益比古 電源開発(株)原子力部長
大村 達郎 東京芝浦電気(株)原子力事業本部原子力技師
是井 良朗 (株)日立製作所原子力事業部長
後藤 業明 関西電力(株)原子力管理部調査役
澤井 定 動力炉・核燃料開発事業団新型転換炉開発本部副本部長
志村 吉久 佐友重機械工業(株)原子力開発本部長代理
高橋 亮一 東京工業大学助教授
塚田 真一 科学技術庁原子力局動力炉開発課長
(昭和55年4月24日から昭和56年4月30日まで)
戸倉 修 通商産業省資源エネルギー庁原子力発電課長
(昭和56年3月9日から)
都甲 泰正 東京大学教授
鳥飼 欣一 日本原子力研究所大洗研究所長
西中 真二郎 通商産業省資源エネルギー庁原子力発電課長
(昭和55年4月24日から昭和56年3月9日まで)
藤井 祐三 東京電力(株)常務取締役
藤原 菊男 三菱重工業(株)原子力技術部長
(昭和55年4月24日から8月8日まで)
堀内 純夫 科学技術庁動力炉開発課長
(昭和56年5月1日から)
湯川 譲 中部電力(株)取締役
由利 達雄 富士電機製造(株)原子力部長

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