目次 | 次頁

原子力政策の展開を望んで



原子力委員会参与
(動力炉・核燃料開発事業団理事長)
瀬川 正男



 私達は日頃、日本の国民所得は自由主義諸国の第2位となり、いわゆる経済大国であるということを聞かされるが、一方で日本の防衛予算は他の先進国に比べて著しく低く、GNPのわずか0.9%程度であり米国等の批判を招いていることや、開発途上国等に対する対外援助費も到底先進国の一員としてふさわしくないともいわれる。

 しかし、対外貿易収支の面では石油、石炭等のエネルギー関係輸入が輸入総額の40%を越える現実を考えると、エネルギーの脱石油化を極力推進して、国力の充実を計り先進国としての振る舞いの実現を目指すことが、私共の義務であろうと考えざるを得ない。

 この様な状勢に基づいて、エネルギー需給長期見通しや代替エネルギー開発の構想等が掲げられているが、実行性のある政策としては、今後その裏付けが十分努力を要すると思うのである。また政策として迫力のあるものであるためには、その展開に伴なって地方の末端の政治面において、理解と協力が得られる様な雰囲気作りが今後益々重要であると考えられる。

 この様な状勢を背景として、原子力委員会は原子力政策の確立と展開に大いに重要な役割を果して頂くよう期待するものである。特に石油の重圧が今後長期に亘ることが予想されると共に、他面、原子力関係の政府予算は将来のための先行投資的な研究開発が多いことは免れない。

 過去における日本と他の原子力先進国との予算を比較する時、財政上の制約におされて、安全性の研究、核燃料サイクルの展開等かなり立ち遅れたと見做される。

 日本と西独の政府原子力予算を比較すると、最近は略々両者対等と見られるが、1965~1974年の10年間の累績値は、西独が日本の2.6倍という大きな差が見られる(次表)。


 米国の軽水炉技術を導入しながら、この様な過去における累績の差が、西独の国産原子炉と核燃料サイクル技術の輸出意欲と、国内の体系整備に追われる日本の実情との違いに現われてきたとも見られる。

 資金とか予算が技術開発の大きな要素である限り、政策の実行と展開に予算がタイミング良く調合されないと政策の効果に大きなズレが出る惧れがある。

 大型技術開発というものは、いろいろ難問題を抱えて、息の長い仕事であると痛感するものであるが、尚且つ多くの批判に対応しながら理解を求めてゆかざるを得ない。

 現在、新型転換炉の実証炉計画について評価検討も最終段階に入りつつあり、また高速増殖炉「文殊」も安全審査が開始される段階になった。新型炉開発も漸く実証化の段階に入りつつある訳であるが、ATR実証炉のコスト高がやはり議論の焦点の一つとなっている。

 ほぼ商業的に確立された軽水炉に比べて、新型炉の実証化段階で当面の経済性が不利なのは、わが国だけではなく、将来のエネルギー安定源及び核燃料サイクル体系を考慮して、各原子力先進国とも初期の不経済性を乗りこえて、その実用化に努力しているというのが実情である。例えばFBR開発で、最も前進しているフランスが現在建設中の実証炉「スーパーフェニックス-Ⅰ」の発電コストは軽水炉の2倍、続く工業的実証炉「スーパーフェニックス-Ⅱ」でも4~6基建設するとして1.3倍と予想されている。

 この様な事情は初期の軽水炉の場合にも経験されたことであり、米国で最初に経済性を達成した軽水炉とされるオイスタークリーク炉の前に、BWR型もPWR型もそれぞれ4基ずつ、実質的に原型炉ないし実証炉と見做される発電所を建設した段階を経由している。

 西独も先に述べた様に早期に巨額の開発費をつぎ込んで同様な経過を経ながら、軽水炉の国産化に成功している。

 この様に一つの炉型の商業的な確立までの経過は単純なものではなく、長期的判断に基づく政策的配慮と軽水炉を含めた核燃料サイクル上の考慮も必要であろう。

 私は、わが国が実質的に原子力先進国の名前に値する地位を得るために、日本型原子力技術の推進と核燃料サイクル体系の整備確立を目指して、原子力委員会がその政策の展開に勇往邁進されることを祈るものである。



目次 | 次頁