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原子力発電の開発促進について



昭和55年11月28日談話
原子力委員会委員長
中川 一郎



1 本日、政府は石油代替エネルギーの供給目標として、原子力については昭和65年度において、原子力発電により2,920億キロワット時、原油換算7,590万キロリットルとすることを閣議決定した。

 この供給目標を達成するために必要な原子力発電の規模は、5,100万キロワットないし5,300万キロワットと見込まれているが、現在、運転中の原子力発電規模が約1,500万キロワット、これに建設中及び建設準備中のものを加えても約2,800万キロワットであるという現状に照らせば、今後の10年間以内に2,300万キロワットないし2,500万キロワットの原子力発電所を新たに開発しなければならない。

 我が国にとって原子力発電は、石油代替エネルギーの中で最も有望で、かつ、現実的な供給力となり得るものであるにも拘わらず、その実現の障害となっているのは立地問題であり、政府及び関係機関の格段の努力により、立地難を克服し、今回の目標を達成することが是非とも必要なことであると考える。

2 今日、原子力発電所の立地を困難にしている最大の要因は、原子力発電の安全性についての国民の不安が必ずしも払拭されていないことである。このため、今後とも安全確保対策に万全を期し、原子力発電所におけるトラブルの減少を図り、安全運転の実績を積み上げ、稼働率を高めて、国民の信頼をかち得ていくことが何よりも必要なことであり、原子力発電関係者及びこれを監督する行政機関等の一層の努力を望むものである。また、近年、原子力発電の必要性及び安全性についての国民全般の認識は高まってきているものの、地域住民を中心に原子力発電の安全性等をはじめ、原子力についてなお一層の理解を深める見地から、広報活動の拡充が図られるべきものと考える。

3 原子力委員会は、原子力発電の開発促進を現下の原子力政策上の最重要課題の一つとして認識し、立地難の打開のための効果的な方策の探求に努めており、去る9月に決定した「昭和56年度原子力関係経費の見積りについて」においても、立地促進のための施策をできる限り反映するよう努めたところであるが、今日、立地地域の合意形成期間が長期化する傾向の背後には、地域によって事情が異なる面があり、よりきめの細かい推進方策を総合的に展開していかなければならないものと考える。

 このため、
(1) 第1には、立地調査及び地域の合意形成の促進に、具体的状況に即して、政府自らがより積極的に対応することが必要であり、

イ 立地初期段階における情報提供等広報活動への支援措置
ロ 必要があれば国が適地調査を行うなど地域の受け入れやすい形での立地調査の支援措置
ハ 地域の合意形成について重要な役割を担っている地方自治体の主体的活動に対する支援措置
ニ 原子力発電所の安全上の問題についての臨機の対応措置

等について、既存の施策の改善も含め、より実効性のある方策を検討し、具体化を図っていくことが望まれる。

(2) 第2には、原子力発電所の立地と立地地域の福祉向上、地域の産業振興等との調和を図ることが必要であり、

イ 昭和56年度予算概算要求に織り込まれている原子力発電施設等立地協力交付金制度等の電源三法による新規制度を実現するとともに、既存の施策の改善も含め、より実効性のある方策を確立すること
ロ 地域振興に係る政府の各般の施策を進めるに当たり、立地地域について優先的に配慮していくなど政府全体として原子力発電所の立地促進に取り組むこと
ハ 更に、原子力発電所の立地に際しては、漁業との調整が避けて通れない問題であり、このことは一義的には当事者間の問題であるが、発電所の立地と漁業との共存共栄が図られなければならないという立場に立つて、国においても、漁業関係者に対し原子力発電の安全性等についての理解を求めつつ、両者の間で十分な調節が図られるよう配慮すべきであること

等が望まれる。

(1)及び(2)に関連する施策について、原子力委員会としては、関係行政機関におけるより真摯な取組みを強く望むものであり、加えて、原子力発電所の立地に係る諸手続を効率的に進めることにも留意し、発電所立地の一層の促進が図られるよう期待する。

 また、これまで地方自治体の協力が、原子力発電所の立地促進に大きく影響してきているが、発電所立地に伴う地域の振興等に対する政府の施策も充実されてきているので、地方自治体においては、エネルギーの安定供給を図るとの見地に立って、原子力発電所の立地について主体的活動を展開し、国のエネルギー政策への積極的な協力を強く期待するものである。

4 我が国を取り巻く厳しいエネルギー情勢の下で、原子力発電の開発を進め安定したエネルギー供給源とすることが、将来にわたる国民経済の発展を期する上で必須のことであり、このことについて国民各位の御理解を切望するとともに、原子力委員会としては、今後とも、原子力発電所の立地に関する関係行政機関の施策の展開を見守りつつ、必要に応じ所要の対応を行うとともに、また、核燃料サイクルの確立を含め、原子力開発全体を整合性をもって推進するなど原子力発電の開発促進のために一層の努力を傾注していく決意である。



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