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核物質防護専門部会報告書


昭和55年6月

原子力委員会核物質防護専門部会

まえがき

 本専門部会は、昭和51年核物質防護についての内外の諸情勢の変化に対応し、我が国の国情に即した核物質防護のあり方について調査検討を進め、所要の対策の確立に資するよう、原子力委員会に設置された。

 本専門部会は、昭和52年9月、第一次報告書を取りまとめたが、我が国の原子力施設においては、これに基づいた核物質防護措置を講じるための努力がなされてきており、第一次報告書は、その所期の目的を十分に果たしてきたものと考えられる。

 また、第一次報告書においては、核物質防護制度の一層の充実強化を図るために政府が講じるべき方策として、法制面の整備、対応体制の整備、関連研究開発の推進、国際協力の推進の四つを挙げたが、これらのうち、対応体制の整備及び関連研究開発の推進については、ワーキンググループを設け、より具体的な提案を行いうるよう、更に検討を加え、このたびその結論を得た。

 また、核物質防護の取扱いについては、単に国内事情のみならず、国際間移転等、国際的に共通な考え方をとりいれて検討すべき面もあり、核物質防護をめぐる諸問題については、国際的に種々の場において検討されてきたが、昭和54年10月、核物質防護条約草案が採択されるに至った。

 以上のような状況を踏まえ、核物質防護体制整備のための検討結果を、ここに本報告書として取りまとめた。


 Ⅰ 基本的な考え方

1. 核物質防護の必要性

 近年、世界的な趨勢をみると、原子力の開発利用の進展に伴い、核物質の取り扱い量及び核物質を使用する施設の数は、急速に増大してきており、核物質の輸送機会もまた著しく増加してきている。また、核爆発装置の製造に関する初歩的な知識の入手は、一般の人々にとっても不可能ではないといったことが言われており、一方では組織化された暴力集団等による不法行為に対する不安も増大している。

 このような状況を背景に、核物質の盗取等による不法な移転あるいは原子力施設に対する妨害、破壊行為の事件の発生が危倶されるところとなっているが、このような事件が社会に及ぼす影響は、極めて大きなものとなることに鑑み、核物質防護は近年極めて重要な問題となってきている。

 また、核拡散防止に関する国際的検討の場においても、核物質の不法な移転の防止が核拡散防止上、重要な課題のひとつであることが認識されてきており、そのあり方が真剣に検討されてきている。既に、1975年に国際原子力機関は、核物質防護のためのガイドラインを取りまとめ、(その後、1977年に一部改訂された。)各加盟国に対し勧告を行っている。

 更に、国際輸送中の核物質に対して、一定の防護措置が講じられることを主眼とする核物質防護条約草案が昨秋採択され、本年3月3日から署名のために開放されるに至っている。

 また、核物質防護に関する具体的な規制がロンドン・ガイドラインや米国の核不拡散法の中にもりこまれ、更に二国間原子力協定においても担保されようとする動きがある。

 我が国の核物質防護は、これらの動きも勘案しつつ努力がなされてきており、その現状は上に述べた国際原子力機関のガイドラインを概ね満たし得るものとなっている。しかし適切な核物質防護措置を講じるための諸制度を体系的に整備することは、原子力の開発利用を平和目的に限り、公共の安全を確保するという我が国の基本的原則の達成のために極めて重要なものである。また、前述のような核物質防護をめぐる近年の諸情勢と核燃料のほとんど全てを海外に依存せざるを得ない我が国の置かれている国際的立場を考え合わせれば、核物質防護体制に対する国際的信頼性を確保することが不可欠と考えられる。これらの状況を踏まえると今後とも我が国の核物質防護体制の整備については、より一層の充実強化を図り、万遺漏なきを期する必要がある。

2. 核物質防護制度の目的及び構成要素

 盗取等により不法に移転された核物質は、核爆発装置の組立てに使用される懸念があり、また、それらの核物質の不法な散布等が行われたり、原子力施設及び核物質の輸送に対する妨害、破壊行為が行われたりした場合には結果として公衆に対する放射線障害をもたらす懸念もある。

 我が国の核物質防護制度は、以上のような懸念が現実のものとならないよう、次の点を目的とすべきである。

・核物質の盗取等による不法な移転を防止すること。

・妨害、破壊行為を防止すること。

・不法な移転又は妨害、破壊行為の発生するおそれがある場合又は発生した場合において迅速かつ総合的な対応措置を講じること。

 このような目的を実現するためには、事業者等、治安当局及び規制当局が、それぞれ密接な連携を保ちつつ各自の責任を果たしていかなければならない。

 規制当局としては、個々の原子力施設又は輸送において実施すべき核物質防護措置の内容を明確にし、その義務付けを行うとともにその遵守、履行を定常的に確認することが必要である。

 また、事業者等としては、上記義務付けの遵守、履行に努める必要がある。これは基本的には核物質を取り扱う者としての各事業者等の責任においてなされるものであるが、核物質防護の特殊性に鑑み国としてもその盗取等による危険に対するため、事業者等との密接な連携の下に万全を期することが必要である。

 一方、核物質防護制度の目的は、上に述べたとおり核物質の不法な移転及び妨害、破壊行為の発生の防止と対応措置の迅速な発動にあるところから、治安当局の原子力施設周辺は輸送における警戒活動、緊急時における出動等の迅速かつ総合的な対応措置を可能とするための体制の整備が必要である。


 Ⅱ 事業者等の措置すべき核物質防護の要件

 核物質の防護措置を講じるに当たっては、前に述べた核物質防護の目的に照らしてその措置が核物質の不法な移転及び妨害、破壊行為の防止上十分機能するものでなければならない。そのような防護措置を具体的に講じるに当たっては、①核物質の種類と量、②妨害、破壊行為に対する施設の特殊性、重要性、③輸送の際の経路、手段等その他の種々の要素を検討しなければならない。

 これらの要素のうち、特に核物質の種類と量に着目して防護基準の区分けを行う方法は、国際原子力機関の核物質防護についての勧告等において採用されてきたが、中でも昨秋採択された核物質防護条約に掲げられた区分(別表1に示す。)が現在最も新しく、かつ適切なものと考えられる。

 防護上、妨害、破壊行為に対する施設の特殊性、重要性については例えば、実用発電所等の原子炉施設、再処理施設、プルトニウムを取り扱う燃料加工施設等は、それらが妨害、破壊行為を受けると公衆に放射線障害を引き起す潜在的可能性があり、この可能性については核物質防護の具体的要件を検討する際十分に考慮しなければならない。

 また、輸送については、陸上輸送、船舶輸送、航空輸送といった輸送手段、輸送の経路、核物質の形態、輸送容器の堅固さ等の状況を踏まえなければならない。

 一方、事業者等が講じるべき核物質防護措置の具体的内容としては、銃砲等の武器の所持制限があるなどの我が国の国情を踏まえれば、原子力施設又は核物質の輸送に対し不法な攻撃があった場合、その攻撃を速やかに把握し、その旨を的確に治安当局に通報するとともに、治安当局が、当該攻撃に対応し得るまでの間、防護設備等の物的な防護手段をもって、当該攻撃の達成を阻止、遅延させることを前提とし、所期の目的を達成するものとする必要がある。

 以上のように考慮すべき点は多くあるが、事業者等が講じるべき核物質防護の要件について整理すると次のようになる。

<事業者等が講じるべき核物質防護措置の要件の概要>

〇使用中及び貯蔵中の核物質防護の要件
 ・核物質防護のための区域の設定
 ・区域の監視
 ・区域の出入管理
 ・核物質の管理(所在、移動等の確認、封印、施錠等)
 ・侵入警報装置等の確立維持
 ・連絡通報体制の整備
 ・核物質防護の詳細に係る情報の管理
 ・緊急時における対応体制の確立
 ・核物質防護に関する設備、機器等の点検保守
 ・核物質防護のための組織体制の整備
 ・核物質防護に関する従業員の教育訓練
〇輸送中の核物質防護の要件
 ・核物質防護計画等の策定
 ・輸送責任者の付き添い
 ・核物質輸送中の連絡通報体制の整備
 ・輸送容器等の施錠、封印等
 ・核物質防護計画の詳細に係る情報の管理
 ・緊急時における対応体制の確立

 本報告書においては、講じるべき核物質防護の指針としては、核物質の種類及び量に着目して別表1の区分に従って、各区分毎に講じるべき要件を別表2として示したが、これを具体的な施設や輸送に対して適用するに当っては、単に核物質の種類及び量のみならず妨害、破壊行為の観点からみた施設の特殊性、重要性及び輸送の際の経路、手段並びに緊急時の対応体制等の種々の要素を勘案して総合的な検討を行い、効果的かつ実際的な対応の実施に万遺漏なきを期することが肝要である。


 Ⅲ 核物質防護制度の充実、強化のための方策

 核物質防護制度の充実、強化を図るため、国及び民間においては、次の方策を講じる必要がある。

1. 緊急時の対応体制の整備

(1) 緊急時対応体制整備の必要性及び緊急時の分類

① 緊急時対応体制の必要性

 核物質の盗取等による不法な移転、原子力施設等に対する妨害、破壊行為から核物質を防護するためには、あらかじめ事業者等が本報告書に示された所要の核物質防護措置を講じておくことが重要である。

 しかし、このような不法行為が発生した場合にあっては、これら事業者等の講じる措置に加えて治安当局及び規制当局の有機的な連携協力が核物質防護の目的を達成する上で不可欠であり、所要の対応体制の整備が必要である。

 こうした観点から、事業者等においてはあらかじめ緊急時に際してとるべき行動に関する緊急時対応プログラムを作成し、更に治安当局、規制当局においても適時に所要の対応が可能となるよう、その役割を明らかにしておくことが必要である。

② 核物質防護上の緊急時の分類

i)緊急時の定義

 「緊急時」とは、不法行為が発生するおそれがある場合、又は不法行為が発生した場合をいい、核物質が盗取等によって不法に移転された場合にあっては、当該核物質の正常な管理状態が回復された時まで、また原子力施設等に対して妨害、破壊行為が行われた場合にあっては当該妨害、破壊行為が終了した時までとする。

ⅱ)緊急時の分類

 原子力施設又は核物質の輸送において、緊急時が惹起した場合、時々刻々変化する状況に対応して、その各段階における最も適切な措置を講じることが必要であり、ここでは緊急時の状況の展開にしたがって以下の3段階に分類した。

(A) 段階Ⅰ
 不法行為が予測されるが未だ十分に確信できない段階

(B) 段階Ⅱ
 不法行為が十分に確信をもって予測できるか又は不法行為の着手があったが核物質は不法に移転されていない段階

(C) 段階Ⅲ
 核物質が不法に移転された段階

 なお、緊急時の状況の展開は、必ずしも一様ではなく、段階Ⅰから段階Ⅲの各段階が順を追って展開するとは限らない。例えば、いきなり段階Ⅱ又はⅢの事態が発生することもあり、また、それ以降の段階に至らずに途中の段階で終了することもある。

(2) 緊急時における対応措置

① 事業者等、治安当局及び規制当局は、不法行為の阻止及び処理、不法に移転された核物質の所在追求、迅速な回収等のため、緊急時の各段階ごとに、その能力、役割に応じ緊密な連携を保ちつつ、それぞれ以下に述べる所要の措置を講じる必要がある。

i)段階Ⅰ

(A) 事業者等は、緊急時対応プログラムに従い必要に応じ、治安当局、規制当局、地方公共団体、その他の関係機関に必要な情報を速やかに提供するとともに、警戒体制を強化するなど所要の措置を講じる。

(B) 治安当局は、事業者等との間に緊密な連絡を維持することなどにより、状況を的確に把握し警戒活動の強化等の措置を講じる。

(C) 規制当局は、事業者等との間に緊密な連絡を維持することなどにより情報の収集に努める。また、必要に応じ治安当局、地方公共団体、その他の関係機関との連絡を保つとともに、段階Ⅱ以降の事態の発生に備え、これに即応し得る態勢をとる。

ⅱ)段階Ⅱ

(A) 事業者等は上記i)(A)の措置を講じるほか、緊急時対応プログラムに従い、治安当局が不法行為に対応し得るまでの間、防護設備等の物的防護手段を活用することにより不法行為の遅延、阻止を図るとともに放射性物質による汚染等の発生の予防等に関しても万全の措置を講じ事象の拡大の防止に努める。

(B) 治安当局は上記i)(B)の措置を講じるほか、不法行為の制止、処理等のため必要な措置を講じる。

(C) 規制当局は治安当局が上記(B)の措置を講じる上で必要な情報を提供し、また、放射性物質による汚染等が発生するおそれがあると判断される場合には、治安当局、地方公共団体、その他の関係機関と緊密に連絡をとりつつ汚染等の予防のため所要の措置を講じる。

ⅲ)段階Ⅲ

(A) 事業者等は、その管理下にある核物質が不法に移転された場合、あらかじめ不法行為の対象ごとに定めた緊急時対応プログラムに従い、治安当局、規制当局、地方公共団体、その他の関係機関に不法に移転された核物質の種類、量等の詳細につき速やかに情報を提供する。

 また、治安当局の実施する捜査活動その他の諸活動に対し技術的援助その他必要な協力を行うとともに可能な範囲内で当該核物質の所在を追求する。

 更に、不法行為が終了し、核物質の所在が明らかになった場合には、治安当局及び規制当局の指導の下に当該核物質の迅速な回収に努め、その正常な管理状態の回復を図る。

(B) 治安当局は、核物質の不法な移転があった場合、当該犯罪行為に係る捜査活動その他の諸活動を行うとともに公共の安全を図るため、当該事業者等及び規制当局の協力を得て不法移転された核物質の所在を追求する。

 また、当該核物質の所在が明らかになった場合には、危険の拡大を防止するため、当該核物質周辺の立入禁止措置等所要の措置を講じるとともに、事業者等を指導してその迅速な回収を図る。

(C) 規制当局は、核物質の不法な移転があった場合において、当該核物質に関する情報収集により放射性物質による汚染等が発生するおそれがあると判断されるときは、治安当局、地方公共団体その他の関係機関と連絡をとりつつ汚染等の予防のため所要の措置を講じる。

 更に、当該核物質の迅速な回収のために必要な場合には、専門家を派遣し、事業者等に適切な指導を行い、また、治安当局に対して所要の協力を行う。

② 事業者等、治安当局、規制当局、地方公共団体及びその他の関係機関は、緊急時において、緊密な連携を保ちつつ適切な広報活動を実施する。

③ 不法行為とともに、これに起因して放射性物質による汚染等が発生した場合、当該汚染等に対する安全対策上の措置が講じられることとなるが、核物質防護上の緊急時対応措置を講じるに当たっては、当該安全対策上の措置との整合性に十分配慮する必要がある。

(3) 緊急時対応体制の整備

緊急時対応体制を確立、維持し、その実効性を確保するため、事業者等、治安当局、規制当局等はそれぞれ以下の諸点につき整備する必要がある。

① 事業者等が整備しておくこと。

i)治安当局及び規制当局等とあらかじめ打合せを行った上で緊急時の分類に従い、原子力施設にあっては事業所ごと、輸送にあってはその態様ごとに以下の基本要件を備えた緊急時対応プログラムを作成し、関係者にその内容を周知徹底させておくこと。

(A) 平常時の体制から緊急時の体制への速やかな移行(夜間の担当職員の速やかな動員等)
(B) 防護設備等の物的防護手段を活用することによる不法行為の遅延及び阻止(閉門、施錠の実施、輸送車両の不動化等)
(C) 情況の把握及び関係行政機関に対する必要な情報の速やかな提供(治安当局に対する連絡、通報等)
(D) 放射性物質による汚染等の予防
(核物質の隔離、輸送車両の避難等)

 なお、当該プログラムについては、核物質防護上機微な情報を含んでいることに鑑み、その管理に慎重を期する必要がある。更に、その作成に当たっては、人員及び資材の配備等に十分配慮するものとし、また、必要に応じ、これを適宜見直すものとする。

ⅱ)事業者等の管理下にある核物質が不法に移転された場合、治安当局の実施する捜査活動その他の諸活動に技術的援助その他の協力を行い得るようにしておくとともに、当該核物質の所在が明らかになった場合には、治安当局及び規制当局の指導の下にその迅速な回収を図り得るようにしておくこと。

② 治安当局が整備しておくこと。

i)緊急時における連絡体制を整備しておくこと。

ⅱ)施設の周辺又は輸送中において核物質の種類、量等に応じ実態に即した形で実施している警戒活動を更に充実するとともに、緊急時に速やかに出動等の措置を講じ得るよう対応能力の一層の整備充実に努めること。

ⅲ)不法に移転された核物質の所在の追求、発見された核物質周辺の立入禁止措置等の諸活動を実施するために必要な体制を整備しておくこと。

③ 規制当局が整理しておくこと。

i)緊急時における連絡体制を整備しておくこと。

ⅱ)核物質の不法な移転に際し、当該核物質の迅速な回収のために必要な場合には、専門家を派遣し事業者等に適切な指導を行い、また、治安当局に助言その他の所要の協力を行い得るようにしておくこと。

ⅲ)緊急時に備え、関係行政機関間の緊密な連携を確保し安全対策との整合性を保ちつつ的確な対応対策を講じ得るよう事業者等、治安当局その他の関係機関との間で十分打合せを行っておくこと。

④ 広報活動

 関係各機関は、円滑かつ適切な広報を実施し得るよう所要の体制を整備する必要がある。

⑤ その他

 核物質防護上重要な施設については、治安当局との間に無線を含む二重以上の連絡手段を確保するなど連絡通報体制に万全を期する必要があり、関係行政機関においても、事業者等の連絡通報体制の整備を促進するよう配慮すべきである。

2. 関連研究開発の推進

(1) 関連研究開発に関する基本的考え方
① 関連研究開発の必要性

 事業者等は、既に、本報告書に示された要件に沿った核物質防護措置を講じており、我が国の核物質防護は概ね国際的水準に達していると考えられるが、核物質防護をめぐる諸状況等を勘案すると今後とも具体的な核物質防護措置については、より一層の整備充実を図っていく必要がある。

 この場合、施設又は輸送中の一部の核物質防護措置が著しく有効性を持っていたとしても他の面で弱点があれば、システム全体としての核物質防護の水準は低下することに留意すべきであり、したがって施設又は輸送中の核物質防護措置がトータル・システムとして有効性、信頼性を有し、かつ、バランスのとれたものである必要がある。この目的を達成するため、適切な規制に必要な基準、指針、評価手法等についての関連研究開発並びに施設等の核物質防護システム及びその構成機器等の研究開発の推進が必要である。

 また、これに加えて緊急時における対応体制の整備に関する研究開発に対しても十分配慮する必要があるものと考える。

② 関連研究開発の実施の枠組み

 ①で述べたことを勘案すると核物質防護の目的を実現するために必要な関連研究開発は、以下の枠組みで実施することが適当である。

ⅰ)規制の体系
 国が、核物質防護に関する規制を行うために必要な研究開発

ⅱ)実施の体系
 施設及び核物質の輸送中に事業者等により講じられるべき核物質防護措置に必要な研究開発

ⅲ)対応の体系
 治安当局の対応体制の整備充実及び不法に移転された核物質の回収等の対応活動に必要な機器等の整備充実に必要な研究開発

(2) 関連研究開発分野

関連研究開発分野を前述の枠組みに従って体系的に整理すれば以下のようになる。

① 規制の体系に関する研究開発

 国は、各事業者等の実施する核物質防護措置の有効性等を確認する必要がある。このため国は個々の核物質防護措置が満たすべき基準及び指針を策定するとともに、核物質防護システム全体としての有効性及び信頼性を総合的に評価する手法を確立する必要があり、以下の4項目につき研究開発を進めるべきである。

ⅰ)不法行為の分析整理

 個々の施設及び輸送中において効果的な核物質防護措置を講じるためには、まずその前提となる不法行為の性格を明らかにする必要がある。このため、過去の犯罪例を考慮するのみならず社会心理学等を含めたより広範な視点からも施設等に対する不正行為発生の可能性を分折し、その態様を理解して、基準及び指針の策定並びに防護効果の評価手法の確立等に資することとする。

ⅱ)基準、指針策定のための基礎研究

 施設及び輸送中における核物質防護措置の効果を一定水準以上に維持するためには、ⅰ)から想定される不法行為を前提として個々の機器、設備等に関する基準及びシステム等に関する指針を策定することが必要であり、これに必要な基礎的な調査研究を進める。

ⅲ)核物質防護システムの総合評価

 核物質防護基準及び指針に基づいて個々の施設の核物質防護措置が講じられた場合にあってもなお、当該施設固有の地理的条件、施設条件、核物質の形状、賦存状況並びに警備状況等も考慮して更に総合的にその評価、確認をする必要がある。このため施設における核物質防護システムを一定の方式を用いて総合的に評価し、それがⅰ)から想定される不法行為に対して妥当な効果を持つことを確認するための総合評価手法に関して研究開発を行う。

ⅳ)機器、システム等の有効性、信頼性に関する実証試験

 核物質防護基準及び指針の策定並びに核物質防護システム総合評価等を行うためには、あらかじめその基礎となる機器等の性能等についてのデータを得ておく必要がある。このため、これらの機器、システムの性能等に関する各種実証試験の手法を開発するとともに、当該実証試験を行うこととする。

② 実施の体系に関する研究開発

 核物質防護関連機器、システム等に関して実用化、省力化、信頼性、経済性の向上等に重点を置いた研究開発を進めることとする。このための研究開発課題として以下のものが考えられる。

(施設)
 物的障害機器、検知・監視機器、核物質管理装置、その他関連機器、核物質防護のためのシステム

(輸送)
 核物質輸送車両、輸送容器、コンテナー、輸送中の通信連絡システム、警備車両、その他関連機器、設備等

③ 対応の体系に関する研究開発

 治安当局の対応能力の一層の整備充実を図るため必要に応じ関連研究開発を行うとともに不法に移転された核物質の回収等の対応活動に必要な機器等の整備充実を図るため、必要に応じ関連研究開発を行うこととする。

(3) 関連研究開発の実施体制及びその整備

 核物質防護に係る研究開発を効率的かつ円滑に推進していくためには、関連機関の役割を明らかにし、また、必要に応じ体制の整備等を図っていくことが必要である。

① 国の実施体制及びその整備

 現在、国は、核物質防護の規制体系の整備に関する努力を行っているところであるが、今後規制の内容を定量化し、規制をより有効なものとしていくために所要の研究開発を実施する必要がある。また、核物質防護に係る関連研究開発の総合的、計画的推進につとめるべきである。

 国の研究開発は、これを早急に行う必要があるため当分の間、既存の政府関係機関等において実施するのが適当であるが、当該研究開発は、核物質防護に関する技術の特殊性に鑑み、国は将来、専門的な試験研究を行う組織において集中的にこれを実施することも検討すべきである。

② 民間の実施体制及びその整備

 核物質防護の実施等に関する研究開発については、事業者等及び関連メーカー等民間が中心となって実施すべきものであり、所要の研究開発体制の強化充実を図ることを期待する。

③ 情報利用体制の整備

 核物質防護に係る研究開発の効率的かつ円滑な推進に資するため、その研究開発の成果等所要の情報の適切な処理と有効な利用を図ることとし、既存の体制を活用しつつ、情報の収集、処理、サービス等の機能の充実、強化を進めることとする。

(4) 研究課題等の見直し
 以上に述べたような核物質防護に関する研究開発は国際的合意及び国内的要請に沿ってこれを進めていく必要があるので、今後の内外の動向に照らし、必要に応じ所要の見直し

を行うべきである。

3. その他の課題

(1) 核物質防護に関する法制面の検討

 我が国の核物質防護措置は、既存の関係法令の実施運用により行われており、現状では、実態的に国際原子力機関の核物質防護に関する基準を概ね満たしうるものとなっているが、今後の原子力施設及び核物質の輸送の機会の増大及びこれに伴う核物質防護措置に関する社会的要請の変化に対応してその規制のあり方について、検討を進めていく必要がある。

 特に、国際的動向については、この数年核物質防護措置に関する基準等が国際的な場で策定されてきている中で、2か年にわたり検討されてきた核物質防護条約が本年3月署名のために開放されるに至っている。同条約は、国際間の協力が必要と考えられる国際輸送中の核物質の防護措置等を中心に規定するものであり、我が国を含む多くの国々による検討の成果である。このような点を鑑みれば我が国としてもこの条約については、積極的な検討を加えることが必要であり、国内核物質防護体制整備に係る法令についても同条約批准のための関係法令の一環として所要の検討を行うべきである。また、二国間原子力協定においても核物質防護に係る規制に関する条項の新設を求める強い動きがあり、所要の核物質防護措置を講じることは、国際的合意事項になりつつあると言いうる。

 この際、我が国としては、核物質防護に対する姿勢を明らかにし、もって平和利用担保と安全確保に関し、国際的信頼性を確保する意味からも核物質防護の規制のあり方について防護基準の適用等につき法制面の検討を加え、所要の体制整備を図るべきである。

 なお、核物質防護条約批准のためには、上に述べた核物質防護体制に係る法令とは別に、刑事法分野の法制面の整備も必要であり、この点については十分留意する必要がある。

(2) 国際協力

 核物質防護の問題は、各国の社会の実態に対応して検討されるべきものであると同時に、核物質の国際間移転の機会が著しく増大してきていること、核物質に関連する不法行為によってもたらされる影響が国際的広がりを持つ可能性があることなどから国際的な共通性を強く求められるものである。

 したがって核物質防護については、国際協力による成果が期待される面も多く、このような観点から核物質防護に関する共通事項の調査、関連研究開発等の面で積極的に国際協力を進めていくとともに、国際輸送中の核物質に係る緊急時対応体制の整備についても国際的な動向を踏まえつつ適切に対応していくとこが必要である。

別表1核物質防護の区分

別表2 核物質防護の要件
区分Ⅰ

1.使用中及び貯蔵中の核物質防護の要件
(核物質防護のための区域の設定)

1.1 核物質防護のための区域(以下「区域」という。)を設定すること。

1.2 区域の設定は、二重以上のものとすること。

1.3 設定した区域のうち、外部のもの(以下「外部区域」という。)は、フェンス等の障壁によって囲うこと。

1.4 外部区域の境界周辺には、適切な照明装置を設けること。

1.5 設定した区域のうち、内部のもの(以下「内部区域」という。)は、堅固な構造の障壁によって囲うこと。

(区域の監視)

2.1 区域は、警備を担当する者(以下「警備人」という。)により、所定の頻度及び方法で巡視すること。
 この場合、侵入警報装置等の機械的監視により補完してもよい。

2.2 特殊核分裂性物質を取扱う者は、職務交替時に、特殊核分裂性物質の不法な移転又は原子力施設に対する妨害、破壊行為が認められなかったことを確認し、その旨を、又は異常があると認められるときには、その旨を速やかに上級者に報告すること。

(区域の出入管理)

3.1 職務上常時区域の出入を行う者は、事前に許可を与えた者に制限すること。

3.2 上記3.1の者の区域の出入は許可を受けている旨を証明し得るものをもって管理すること。

3.3 臨時に区域の出入を行う者は、事前に当該者の信頼性確認のうえ許可を与えた者に制限すること。

3.4 上記3.3の者の区域の出入は、許可を受けている旨を証明し得るものをもって管理すること。

3.5 上記3.3の者が内部区域に立ち入る場合には、上記3・1により許可を受けた者の常時付添いにより管理すること。
 この場合、上記3.3の者と付き添う者との比率を制限すること。

3.6 区域への私用自動車の立入りは原則として禁止すること。

3.7 区域の出入口で、荷物及び車両につき、所定の検査を行うこと。
 ただし、3.1により許可を受けている者の荷物及び車両にあっては適時行うことで足りる。

3.8 必要に応じ、内部区域の入口には、金属探知器を、また、出口には、核物質検知器を設けること。

3.9 警備員のいない出入口には、錠及び必要に応じ侵入警報装置等を設けること。

3.10 鍵は、複製の可能性を最小とすること。錠及び鍵は、必要に応じ、適当な間隔により取換え又は構造の変更を行うこと。
 また、これらに不信な点が認められた場合には、速やかに取換え又は構造の変更を行うこと。

3.11 鍵に接近できる者は極めて少人数に制限すること。

(特殊核分裂性物質の管理)

4.1 特殊核分裂性物質の使用は、内部区域内においてのみ行うこと。

4.2 使用中の特殊核分裂性物質は、3.1により許可を受けている者又は警備人による連続的な監視のもとに置くこと。ただし、4.3から4.6の要件を満たしている場合はこの限りではない。

4.3 特殊核分裂性物質の貯蔵は、内部区域内に設置する貯蔵施設内においてのみ行うこと。

4.4 貯蔵施設は、堅固な構造のものとし、錠及び必要に応じ、侵入警報装置を設けること。

4.5 貯蔵施設の出入を行う者は、事前に許可を与えた者に制限すること。

4.6 貯蔵施設は、警備人により、所定の頻度及び方法で巡視すること。
 この場合、侵入警報装置等の機械的監視により補完してもよい。

(侵入警報系統の確立維持)

5.1 設置した侵入警報装置等(人の不法な侵入の感知装置、伝達装置及び表示装置により構成される。)は、信頼性のあるものとする。

5.2 主要な侵入警報装置等は、一次電源喪失の場合には、独立電源から作動できる状態に保つこと。

5.3 表示装置は、区域内又はこれに近接した場所に設けること。

5.4 表示装置は、警備人のよる連続的な監視のもとにおくこと。

(連絡通報体制の整備)

6.1 勤務中にある警備人と、警備人の詰所(警備室)との間に通報手段を確保すること。

6.2 区域内の主要な箇所と警備室との間に通報手段を確保すること。

6.3 警備室から治安当局への通報手段を確保すること。

6.4 治安当局への通報手段は、無線等を組み合わせた二重のものとすること。

(情報管理)

7.1 核物質防護措置の詳細に係る情報は不必要に分散されないこと。

(緊急時における対応体制の確立)

8.1 治安当局等とあらかじめ打合せを行った上で緊急時における対応体制を確立しておくこと。

(設備、機器等の点検保守)

9.1 核物質防護に関する設備、機器等は、所定の頻度及び方法で点検、保守し、その信頼性の維持を図ること。

(組織体制の整備)

10.1 核物質防護のための組織体制を整備しておくこと。

(従業員の教育訓練)

11.1 従業員に対し、その職務に応じ、核物質防護に関する教育訓練を行うこと。

2. 輸送中の核物質防護の要件

Ⅰ 輸送手段に共通の要件

(輸送計画の策定等)

1.1 荷送人は、輸送中(積替、通関等を含む。以下同じ。)の核物質防護措置に関する計画書(以下「輸送計画書」という。)を策定すること。

1.2 輸送計画書は、あらかじめ荷送人、荷受人及び運送人の間で協議し、調整を行ったうえで策定すること。

1.3 輸送計画書には、次のものを記載すること。

1.3.1 輸送方式(輸送手段、積付け方法等)に関すること。

1.3.2 輸送経路に関すること。

1.3.3 輸送関係者(荷送人、荷受人、運送人等)の氏名。

1.3.4 輸送中の警備に関すること。

1.3.5 厳密な受渡し地点及びその予定時刻。

1.3.6 輸送中の連絡通報に関すること。

1.4 輸送方式及び経路の選定にあたっては、特別の事由がある場合を除き、輸送時間、経由地、積替回数及び積替時間が最小となるよう配慮すること。

1.5 輸送経路の選定にあたっては、特別な事由がある場合を除き、自然災害等による突発的な事態が生ずる可能性が少ない地区を通過するよう配慮すること。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

2.1 荷送人は、輸送中の核物質防護の実施に係る責任者(以下「輸送責任者」という。)を準備し、輸送に付添わせること。

2.2 輸送責任者は、核物質防護上の措置について知識と経験を有する者であること。

2.3 荷送人は、輸送責任者に輸送計画書の要旨を携帯させること。

2.4 荷送人は、輸送中における警備人を準備し、輸送に付添わせること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 荷送人は、出荷後、直ちに、荷受人にその旨通知すること。

3.2 荷送人又は運送人は、輸送中、電話等により、あらかじめ指定した連絡場所(以下「指定連絡所」という。)へ連絡を行い得るよう連絡通報体制を整備すること。

3.3 荷送人は、指定連絡所との連絡の時間間隔又は連絡位置をあらかじめ定めておくこと。

3.4 輸送責任者は、上記3.3により定められたとおり、指定連絡所へ連絡を行うこと。

3.5 荷受人は、積荷が輸送計画書に記載された受渡し地点に到着したとき、又は予定時刻までに到着しないときは、速やかにその旨を荷送人に通知すること。

(施錠・封印等)

4.1 荷送人は、輸送容器又はコンテナーの開口部に、必要に応じ、錠及び封印(以下「錠等」という。)を付けること。

4.2 荷送人は、積荷が人手により容易に移動することが出来る場合は、コンテナー等へ収納する等の措置により、容易に移動することができないようにすること。

(輸送中の監視、点検等)

5.1 荷送人は、出荷に先立ち、又、荷受人は積荷受取り後直ちに、梱包及び付けられた錠等の健全性を検査すること。

5.2 輸送責任者及び警備人は、出荷に先立ち、妨害行為が着手されていないことを確認するため、輸送手段を検査すること。

5.3 警備人は、他の輸送手段への積替、他の積荷の積替及び通関時には、当該積荷を連続的に監視するか又は錠等を頻繁に点検すること。

5.4 警備人は、輸送中、当該積荷又は付けられた錠等を頻繁に点検すること。
 ただし、航空輸送の場合においては必要ない。

5.5 運送人は、当該輸送に従事する者以外の者が通常立入ることができる場所で積卸し等の取扱いを行わないこと。又、当該場所に積荷を置かないこと。

(情報管理)

6.1 輸送計画の詳細に係る情報は、不必要に分散されないようにすること。

6.2 定期的に反復継続する輸送は、出来る限り避けること。

(緊急時における対応体制の確立)

7.1 荷送人は、治安当局等とあらかじめ打合せを行った上で緊急時における対応体制を確立しておくこと。

Ⅱ 道路輸送中の核物質防護の要件

 道路輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送計画の策定等)

1.1 Ⅰ.1.5の要件に加えて、緊急時における代替経路を考慮しておくこと。

1.2 荷送人は、輸送の途中において積替を予定しないこと。

(輸送責任者及び警備人等の準備)

2.1 Ⅰ.2.1の要件に加えて、輸送に、輸送責任者を乗せた伴走車を付けること。

2.2 Ⅰ.2.4の要件に加えて、輸送に警備人を乗せた警備車を付けること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 Ⅰ.3.2の要件に加えて、荷送人は、積載車両、伴走車及び警備車との間に相互無線による通報手段を確保すること。

(輸送中の監視、点検等)

4.1 Ⅰ.5.4の要件に代えて、警備人は、輸送中、積載車両を連続的に監視すること。

4.2 警備人は、休憩等による停車時において、当該積荷を連続的に監視すること。
 ただし、積載車両が有蓋車両である場合にあっては、当該有蓋車両の監視で足りる。

Ⅲ 鉄道輸送中の核物質防護の要件

 鉄道輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送計画の策定等)

1.1 荷送人は、貨車で輸送を行うこと。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

2.1 Ⅰ.2.1及びⅠ.2.4の要件に加えて、荷送人は、当該貨車内又はその直前若しくは直後の車両に輸送責任者及び警備人を添乗させること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 Ⅰ.3.2及びⅠ.3.3の要件に代えて、荷送人は、あらかじめ指定した各予定連絡停車駅において、指定連絡所へ連絡を行うよう措置し、輸送責任者に指示すること。

(輸送中の監視、点検等)

4.1 Ⅰ.5.4の要件に代えて、警備人は、各停車地点ごとに、当該積荷又は有蓋貨車の錠等を点検すること。

Ⅳ 船舶輸送中の核物質防護の要件

 船舶輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

1.1 Ⅰ.2.1及びⅠ.2.4の要件に代えて、航海中荷送人は、警備人を付けるか、又は警備のための係を選任すること。荷送人は沖合停泊中、出入港時、荷役時及び通関時に輸送責任者及び警備人を付けること。

(積卸し時等の監視、点検等)

2.1 Ⅰ.5.5の要件に代えて、輸送責任者は積卸し等及び通関のための保管及び運搬時において、関係者以外の者が立ち入らないよう措置すること。

Ⅴ 航空輸送中の核物質防護の要件

 航空輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送計画の策定等)

1.1 荷送人は、貨物機を用いること。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

2.1 Ⅰ.2.1及びⅠ.2.4の要件に代えて、荷送人は出発空港及び各着陸空港において輸送責任者及び警備人を付けること。

区分Ⅱ

1. 使用中及び貯蔵中の核物質防護の要件

(核物質防護のための区域の設定)

1.1 区域を設定すること。

1.2 設定した区域は、堅固な構造の障壁によって囲うこと。

(区域の監視)

2.1 区域は、警備人により、所定の頻度及び方法で巡視すること。この場合、侵入警報装置等の機械的監視により補完してもよい。

2.2 特殊核分裂性物質を取扱う者は、職務交替時に、特殊核分裂性物質の不法な移転又は原子力施設に対する妨害、破壊行為が認められなかったことを確認し、その旨を、又は異常があると認められるときには、その旨を速やかに上級者に報告すること。

(区域の出入管理)

3.1 職務上常時区域の出入を行う者は、事前に許可を与えた者に制限すること。

3.2 上記3.1の者の区域の出入は許可を受けている旨を証明し得るものをもって管理すること。

3.3 臨時に区域の出入を行う者は、事前に当該者の信頼性確認のうえ許可を与えた者に制限すること。

3.4 上記3.3の者の区域の出入は、許可を受けている旨を証明し得るものをもって管理すること。

3.5 上記3.3の者が区域に立ち入る場合には、上記3.1により許可を受けた者の常時付添いにより管理すること。
 この場合、上記3.3の者と付き添う者との比率を制限すること。

3.6 区域への私用自動車の立入りは原則として禁止すること。

3.7 区域の出入口で、荷物及び車両につき、所定の検査を行うこと。
 ただし、3.1により許可を受けている者の荷物及び車両にあっては適時行うことで足りる。

3.8 警備員のいない出入口には、錠及び必要に応じ、侵入警報装置等を設けること。

3.9 鍵は、複製の可能性を最小とすること。錠及び鍵は、必要に応じ、適当な間隔により取換え又は構造の変更を行うこと。
 また、これらに不信な点が認められた場合には、速やかに取換え又は構造の変更を行うこと。

3.10 鍵に接近できる者は極めて少人数に制限すること。

(特殊核分裂性物質の管理)

4.1 特殊核分裂性物質の使用は、区域内においてのみ行うこと。

4.2 使用中の特殊核分裂性物質は、3.1により許可を受けている者又は警備人による連続的な監視のもとに置くこと。ただし、4.3から4.6の要件を満たしている場合はこの限りでない。

4.3 特殊核分裂性物質の貯蔵は、区域内に設置する貯蔵施設内においてのみ行うこと。

4.4 貯蔵施設は、堅固な構造のものとし、錠及び必要に応じ、侵入警報装置を設けること。

4.5 貯蔵施設の出入を行う者は、事前に許可を与えた者に制限すること。

4.6 貯蔵施設は、警備人により、所定の頻度及び方法で巡視すること。
 この場合、侵入警報装置等の機械的監視により補完してもよい。

(侵入警報系統の確立維持)

5.1 設置した侵入警報装置等(人の不法な侵入の感知装置、伝達装置及び表示装置により構成される。)は信頼性のあるものとする。

5.2 主要な侵入警報装置等は、一次電源喪失の場合には、独立電源から作動できる状態に保つこと。

5.3 表示装置は、区域内又はこれに近接した場所に設けること。

5.4 表示装置は、警備人による連続的な監視のもとにおくこと。

(連絡通報体制の整備)

6.1 勤務中にある警備人と、警備人の詰所(警備室)との間に通報手段を確保すること。

6.2 区域内の主要な箇所と警備室との間に通報手段を確保すること。

6.3 警備室から治安当局への通報手段を確保すること。

(情報管理)

7.1 核物質防護措置の詳細に係る情報は不必要に分散されないこと。

(緊急時における対応体制の確立)

8.1 治安当局等とあらかじめ打合せを行った上で緊急時における対応体制を確立しておくこと。

(設備、機器等の点検保守)

9.1 核物質防護に関する設備、機器等は、所定の頻度及び方法で点検、保守し、その信頼性の維持を図ること。

(組織体制の整備)

10.1 核物質防護のための組織体制を整備をしておくこと。

(従業員の教育訓練)

11.1 従業員に対し、その職務に応じ、核物質防護に関する教育訓練を行うこと。

2. 輸送中の核物質防護の要件

Ⅰ 輸送手段に共通の要件

(輸送計画の策定等)

1.1 荷送人は、輸送計画書を策定すること。

1.2 輸送計画書は、あらかじめ荷送人、荷受人及び運送人の間で協議し、調整を行ったうえで策定すること。

1.3 輸送計画書には、次のものを記載すること。

1.3.1 輸送方式(輸送手段、積付け方法等)に関すること。

1.3.2 輸送経路に関すること。

1.3.3 輸送関係者(荷送人、荷受人、運送人等)の氏名。

1.3.4 輸送中の警備に関すること。

1.3.5 厳密な受渡し地点及びその予定時刻。

1.3.6 輸送中の連絡通報に関すること。

1.4 輸送方式及び経路の選定にあたっては、特別の事由がある場合を除き、輸送時間、経由地、積替回数及び積替時間が最小となるよう配慮すること。

1.5 輸送経路の選定にあたっては、特別な事由がある場合を除き、自然災害等による突発的な事態が生ずる可能性が少ない地区を通過するよう配慮すること。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

2.1 荷送人は、輸送責任者を準備し、輸送に付添わせること。

2.2 輸送責任者は、核物質防護上の措置について知識と経験を有する者であること。

2.3 荷送人は輸送責任者に輸送計画書の要旨を携帯させること。

2.4 荷送人は、輸送中における警備人を準備し、輸送に付添わせること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 荷送人は、出荷後、直ちに、荷受人にその旨通知すること。

3.2 荷送人又は運送人は、輸送中、電話等により、あらかじめ、指定連絡所へ連絡を行い得るよう連絡通報体制を整備すること。

3.3 荷送人は、指定連絡所との連絡の時間間隔又は連絡位置をあらかじめ定めておくこと。

3.4 輸送責任者は、上記3.3により定められたとおり、指定連絡所へ連絡を行うこと。

3.5 荷受人は、積荷が輸送計画書に記載された受渡し地点に到着したとき、又は予定時刻までに到着しないときは、速やかにその旨を荷送人に通知すること。

(施錠・封印等)

4.1 荷送人は、輸送容器又はコンテナーの開口部に、必要に応じ、錠等を付けること。

4.2 荷送人は、積荷が人手により容易に移動することが出来る場合は、コンテナー等へ収納する等の措置により、容易に移動することができないようにすること。

(輸送中の監視、点検等)

5.1 荷送人は、出荷に先立ち、又荷受人は積荷受取り後直ちに、梱包及び付けられた錠等の健全性を検査すること。

5.2 輸送責任者及び警備人は、出荷に先立ち、妨害行為が着手されていないことを確認するため、輸送手段を検査すること。

5.3 警備人は、他の輸送手段への積替、他の積荷の積替及び通関時には、当該積荷を連続的に監視するか又は錠等を頻繁に点検すること。

5.4 警備人は、輸送中、当該積荷又は付けられた錠等を頻繁に点検すること。
 ただし、航空輸送の場合においては必要ない。

5.5 運送人は、当該輸送に従事する者以外の者が通常立ち入ることができる場所で積卸し等の取扱いを行わないこと。又、当該場所に積荷を置かないこと。

(情報管理)

6.1 輸送計画の詳細に係る情報は、不必要に分散されないようにすること。

6.2 定期的に反復継続する輸送は、出来る限り避けること。

(緊急時における対応体制の確立)

7.1 荷送人は、治安当局等とあらかじめ打合せを行った上で緊急時における対応体制を確立しておくこと。

Ⅱ 道路輸送中の核物質防護の要件

 道路輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送計画の策定等)

1.1 Ⅰ.1.5の要件に加えて、緊急時における代替経路を考慮しておくこと。

1.2 荷送人は、輸送の途中において積替を予定しないこと。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

2.1 Ⅰ.2.1の要件に加えて、輸送に、輸送責任者を乗せた伴走車を付けること。

2.2 Ⅰ.2.4の要件に加えて、輸送に警備人を乗せた警備車を付けること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 Ⅰ.3.2の要件に加えて、荷送人は、積載車両、伴走車及び警備車との間に相互無線による通報手段を確保すること。

(輸送中の監視、点検等)

4.1 Ⅰ.5.4の要件に代えて、警備人は、輸送中、積載車両を連続的に監視すること。

4.2 警備人は、休憩等による停車時において、当該積荷を連続的に監視すること。
 ただし、積載車両が有蓋車両である場合にあっては、当該有蓋車両の監視で足りる。

Ⅲ 鉄道輸送中の核物質防護の要件

 鉄道輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送計画の策定等)

1.1 荷送人は、貨物で輸送を行うこと。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

2.1 Ⅰ.2.1及びⅠ.2.4の要件に加えて、荷送人は当該貨車内又はその直前若しくは直後の車両に輸送責任者及び警備人を添乗させること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 Ⅰ.3.2及びⅠ.3.3の要件に代えて、荷送人は、あらかじめ指定した各予定連絡停車駅において、指定連絡所へ連絡を行うよう措置し、輸送責任者に指示すること。

(輸送中の監視、点検等)

4.1 Ⅰ.5.4の要件に代えて、警備人は、各停車地点ごとに、当該積荷又は有蓋貨車の錠等を点検すること。

Ⅳ 船舶輸送中の核物質防護の要件

 船舶輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

1.1 Ⅰ.2.1及びⅠ.2.4の要件に代えて、航海中、荷送人は、警備人を付けるか、又は警備のための係を選任すること。荷送人は沖合停泊中、出入港時、荷役時及び通関時に輸送責任者及び警備人を付けること。

(積卸し時等の監視、点検等)

2.1 Ⅰ.5.5の要件に代えて、輸送責任者は積卸し等及び通関のための保管及び運搬時において、関係者以外の者が立ち入らないよう措置すること。


Ⅴ 航空輸送中の核物質防護の要件

 航空輸送中においては、Ⅰの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送責任者及び警備人の準備等)

1.1 Ⅰ.2.1及びⅠ.2.4の要件に代えて、荷送人は出発空港及び各着陸空港において輸送責任者及び警備人を付けること。

区分Ⅲ

1. 使用中及び貯蔵中の核物質防護の要件

(核物質防護のための区域の設定)

1.1 区域を設定すること。

(区域の監視)

2.1 区域は、警備人により、所定の頻度及び方法で巡視すること。

 この場合、侵入警報装置等の機械的監視により補完してもよい。

2.2 特殊核分裂性物質を取扱う者は、職務交替時に、特殊核分裂性物質の不法な移転又は原子力施設に対する妨害、破壊行為を認められなかったことを確認し、その旨を、又は異常があると認められるときは、その旨を速やかに上級者に報告すること。

(区域の出入管理)

3.1 職務上常時区域の出入を行う者は、事前に許可を与えた者に制限すること。

3.2 上記3.1の者の区域の出入は許可を受けている旨を証明し得るものをもって管理すること。

3.3 臨時に区域の出入を行う者は、事前に当該者の信頼性確認のうえ許可を与えた者に制限すること。

3.4 上記3.3の者の区域の出入は、許可を受けている旨を証明し得るものをもって管理すること。

3.5 区域への私用自動車の立入りは原則として禁止すること。

3.6 警備員のいない出入口には、錠及び必要に応じ、侵入警報装置等を設けること。

(特殊核分裂性物質の管理)

4.1 特殊核分裂性物質の使用は、区域内においてのみ行うこと。

4.2 特殊核分裂性物質の貯蔵は、区域内に設置する貯蔵施設内においてのみ行うこと。

4.3 貯蔵施設の出入を行う者は、事前に許可を与えた者に制限すること。

4.4 貯蔵施設は、警備人により、所定の頻度及び方法で巡視すること。
 この場合、侵入警報装置等の機械的監視により補完してもよい。

(侵入警報系統の確立維持)

5.1 設置した侵入警報装置等(人の不法な侵入の感知装置、伝達装置及び表示装置により構成される。)は、信頼性のあるものとする。

(連絡通報体制の整備)

6.1 警備室から治安当局への通報手段を確保すること。

(情報管理)

7.1 核物質防護措置の詳細に係る情報は不必要に分散されないこと。

(緊急時のおける対応体制の確立)

8.1 治安当局等とあらかじめ打合せを行った上で緊急時における対応体制を確立しておくこと。

(設備、機器等の点検保守)

9.1 核物質防護に関する設備、機器等は、所定の頻度及び方法で点検、保守し、その信頼性の維持を図ること。

(組織体制の整備)

10.1 核物質防護のための組織体制を整備しておくこと。

(従業員の教育訓練)

11.1 従業員に対し、その職務に応じ、核物質防護に関する教育訓練を行うこと。


2. 輸送中の核物質防護の要件

Ⅰ 輸送手段に共通の要件

(輸送計画の策定等)

1.1 荷送人は、輪送計画書を策定すること。

1.2 輸送計画書は、あらかじめ荷送人、荷受人及び運送人の間で協護し、調整を行ったうえで策定すること。

1.3 輸送計画書には、次のものを記載すること。

1.3.1 輸送方式(輸送手段、積付け方法等)に関すること。

1.3.2 輸送経路に関すること。

1.3.3 輸送関係者(荷送人、荷受人、運送人等)の氏名。

1.3.4 輪送中の警備に関すること。

1.3.5 厳密な受渡し地点及びその予定時刻

1.3.6 輪送中の連絡通報に関すること。

1.4 輸送方式及び経路の選定にあたっては、特別の事由がある場合を除き、輸送時間、経由地、積替回数及び積替時間が最小となるよう配慮すること。

1.5 輸送経路の選定にあたっては、特別な事由がある場合を除き、自然災害等による突発的な事態が生ずる可能性が少ない地区を通過するよう配慮すること。

(輸送責任者の準備等)

2.1 荷送人は、輸送責任者を準備し、輸送に付添わせること。

2.2 輸送責任者は、核物質防護上の措置について知識と経験を有する者であること。

2.3 荷送人は、輸送責任者に輸送計画書の要旨を携帯させること。

(連絡通報体制の整備)

3.1 荷送人は、出荷後、直ちに、荷受人にその旨通知すること。

3.2 荷受人は、積荷が輸送計画書に記載された受渡し地点に到着したとき、又は予定時刻までに到着しないときは、速やかにその旨を荷送人等に通知すること。

(施錠・封印等)

4.1 荷送人は、積荷が人手により容易に移動することが出来る場合は、コンテナー等へ収納する等の措置により、容易に移動することができないようにすること。

(輸送中の監視、点検等)

5.1 荷送人は、出荷に先立ち、又、荷受人は積荷受取り後直ちに、梱包及び付けられた錠等の健全性を検査すること。

5.2 輸送責任者は、出荷に先立ち、妨害行為が着手されていないことを確認するため、輪送手段を検査すること。

(情報管理)

6.1 輸送計画の詳細に係る情報は、不必要に分散されないようにすること。

6.2 定期的に反復継続する輸送は、出来る限り避けること。

(緊急時における対応体制の確立)

7.1 荷送人は、治安当局等とあらかじめ打合せを行っておくこと。

Ⅱ 道路輸送中の核物質防護の要件

 道路輸送中においては、Iの要件を満たす外、以下の要件を満たすこと。

(輸送計画の策定等)

1.1 Ⅰ.1.5の要件に加えて、緊急時における代替経路を考慮しておくこと。

1.2 荷送人は、輸送の途中において積替を予定しないこと。

(輸送責任者の準備等)

2.1 Ⅰ.2.1の要件に加えて、輸送に、輸送責任者を乗せた伴走車を付けること。


備考

 本報告書においては「妨害、破壊行為」、「不法行為」、「治安当局」及び「規制当局」の四つの言葉は、以下の趣旨で使われている。

(1) 「妨害、破壊行為」とは、原子力施設又は核物質の輸送に対する故意の行為であって、放射線被曝によって直接又は間接に公衆の健康及び安全を脅かす可能性のあるものをいう。

(2) 「不法行為」とは、核為質の盗取等による不法な移転又は原子力施設等に対する妨害、破壊行為をいう。

(3) 「治安当局」には、当該地区の都道府県警察又は海上保安庁地方出先機関を含む。

(4) 「規制当局」には、地方出先機関を含む。


核物質防護専門部会構成員


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