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原子力船研究開発の進め方について



昭和55年4月11日
原子力委員会

1 我が国は、原子力船の実用化に備えて、原子力船建造、技術の確立、運航技術の習熟、技術者及び乗組員の養成訓練等に資するため、昭和38年に日本原子力船開発事業団を設立し、原子力第1船「むつ」の建造を進めてきたが、諸般の事情により、その運航の開始は、当初の計画から大幅に遅延している。また、原子力船を取り巻く世界の現状をみると、我が国において原子力船の開発計画が立案された当時の見込みに反して、未だ原子力船実用化の動きが顕在化するには至っていない。さらに、第82回国会における日本原子力船開発事業団法の一部改正法案の審議に際しては、同事業団を研究開発機関に移行させるよう指摘された。

 当委員会は、このような状況にかんがみ、我が国における原子力船研究開発の進め方について見直しを行うこととし、昨年2月、原子力船研究開発専門部会を設置して、原子力船研究開発の課題、研究開発体制のあり方等について広範な調査審議を求めた。

2 当委員会は、昨年12月20日提出された同専門部会報告を基に慎重に審議を重ねた結果、以下のような考え方で今後の原子力船研究開発を進めることが妥当であると判断するに至った。

(1) 原子力船研究開発の必要性

 原子力船の本格的実用化の時期は、これまでの見通しに比べてかなり遅れる見込みであり、欧米先進諸国における原子力船の研究開発も、一時に比べると停滞気味と伝えられている。

 しかしながら、前記専門部会報告によれば、21世紀に入る頃には欧米先進諸国において原子力商船の導入が相当進んでいる可能性があると予想されているうえ、海外との貿易に大きく依存し、将来にわたる海運の安定的発展を必要としている我が国は、石油需給のひっ迫化が予想される将来において、海運に対するエネルギー供給面の制約を緩和することが求められている。このような見地から、大型・高速商船の分野において有望な新技術である原子力船については、我が国こそ、その実用化を図るべく、研究開発を積極的に推進する必要がある。

(2) 原子力船に関する研究開発のあり方

 原子力第1船「むつ」の建造計画が立案された当時、我が国においては「むつ」の設計、建造、運航の経験を積むことにより原子力船に関する技術体系が早期に確立され、その後は民間主導で原子力船の実用化が図られるものと考えられていたが、現在では、経済的な商船として、原子力船を実用化するためには、「むつ」の建造、運航に加えて、原子力船の経済性、信頼性の向上をめざした研究開発についても、国が中心となり、相当長期間をかけて取り組む必要があると考えられる。

 このため、小型・軽量で、かつ、経済性、信頼性の優れた舶用炉の開発を中心とする研究開発を長期的な展望にたって推進することとし、まず、開発対象として最適な舶用炉等の概念の確立に必要な設計評価研究を行い、その成果を踏まえて、以後の研究開発計画の具体化を図るものとする。

(3) 原子力第1船「むつ」の活用

 日本原子力船開発事業団設立以来、今日まで多額の資金を投入し、原子力第1船「むつ」の建造を進めてきたが、ようやく出力上昇試験を実施する段階に達したところで放射線漏れが発生し、以後5年半、開発の活動がほとんど進展しなかったことは遺憾である。

 原子力船の研究開発を進めるにあたっては、実際の運航状態における舶用炉の挙動等原子力船を運航することによって得られるデータ、経験が不可欠であることを考えれば、早急に「むつ」の修理を終え、運航試験を実地することが今後の我が国の原子力船研究開発の第1歩であり、これなくしては、我が国における原子力船研究開発の進展は期待できない。

 幸いにして佐世保港における「むつ」の修理についてようやくその緒につく見通しが得られた現在、今後速やかに修理が行われ、早期に運航試験が実施されることが期待される。今や、残されている最も重要な課題は、定係港の確定である。定係港の建設は相当の期間を要すると考えられるので、一日も早くこれを確定することが必要である。

(4) 原子力船研究開発体制

 日本原子力船開発事業団の今後のあり方については、昨年末、政府の行政改革計画の決定にあたって取りまとめた「日本原子力船開発事業団の統廃合問題について」(昭和54年12月27日原子力委員会決定)において既に当委員会の見解を明らかにしたところであるが、今後の原子力船研究開発を長期的な観点にたって進めるためには、当面は、同事業団を責任ある独立機関として、「むつ」に係る懸案事項の解決にあたらせるとともに、同事業団を改組し、前述のような原子力船の経済性、信頼性の向上をめざした研究開発の機能を付与することが必要である。

将来は、「むつ」が実験船として活用できることとなった段階において同事業団を他の恒久的な原子力関係機関と統合し、長期にわたって一貫した体制で原子力船の研究開発に取り組んでいくものとする。統合の具体的方法については、今後の「むつ」開発の推移を十分見極めたうえ、慎重な検討を経て決定するものとする。


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