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原子力の展望



原子力委員会委員長代理 清成 

(本稿は、本年2月の第18回原子力総合シンポジウムにおける講演内容を要約したものである。)



 我が国は世界で唯一の被爆国であり、それだけに核軍備の縮少、核兵器の廃絶を常に強く主張し続けなければならない。しかしながら、原子力は人類に与えられた天の恵みという一面も持っている。したがって、人類は叡智をもって原子力に取組むことが必要である。新しく核爆発実験をするような国があるので、そのためINFCEなどが必要となってきた。我が国は原子力の平和利用に徹することを信念とし、多少の不利があっても、進んでそれを実証する強い覚悟を持つべきである。

 総合研究開発機構の「エネルギー戦略の選択」という研究によると、20世紀の終りから21世紀の前半を石油から新エネルギー移行への過渡期としている。新エネルギーにもいろいろあるが、我が国のエネルギー需要規模からみて、量的、時期的に最も期待されるのは核分裂エネルギーであると考えられる。原子力の推進のためには、原子力委員会は昭和53年9月に改訂された「原子力開発利用長期計画」にもられた趣旨を継承して行くつもりである。原子力委員会の運営の方法としては、第一に客観的、科学的な事実認識、第二にその上に立ってのケース・スタディ、第三にそれを十分検討の上、国家的、民族的良識による判断を加えるようにすべきだと考えている。これは、要するに「筋を通す」ことに徹底するということでもある。

 エネルギー対策として、当面焦眉の問題は徹底した消費の節約、化石燃料の入手備蓄等であり、長期の需要問題としては、産業構造の転換、種々の価値観の変革等までも考慮すべきであろう。原子力においては、特に短期、中期、長期、超長期の問題を同時に考えなければならない。このためには、21世紀半ばまでをすべて一応念頭に置き、それから逆に現在何をなすべきかインターポレートする方が、整合性、緩急軽重の判断に利するところが多いのではないかと考えている。

 また、原子力の推進のためにはパブリック・アクセプタンスが重要である。パブリック・アクセプタンスを得るには原子力が安全を第一としていることの理解を得る必要があることは勿論であるが、同時にリスク・ベネフィットとコスト・ベネフィットの考え方の導入の必要性も理解させる必要がある。しかも、原子力は孫の時代のことを今着手しなければ手遅れとなり、エネルギー供給不足→産業構造の変革→GNPの減少→生活水準の低下という連鎖をたどらざるを得なくなって来るであろうという事実を、はっきりと国民に示して、国民がどのような選択をすればどのようになるのかということが判るようにしなければならないと考えている。

 今後は国際間の問題が多くなろうが、我が国は原子力の平和利用に徹するという不動の信念を常に披瀝し続けて行くべきであり、平和利用三原則を遵守すべきであり、また我が民族が生きて行くためにはこれしかないというような点については、力強く、粘り強く主張して理解を求めて行くべきだと考えている。



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