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原子力損害賠償制度問題懇談会報告書について


昭和53年12月26日
原子力委員会

 原子力委員会は、本日付けで原子力損害賠償制度問題懇談会から、原子力事業従業員の原子力災害補償、賠償措置額の改訂等に関する改善策について報告書の提出を受けた。

 当委員会は、報告の内容は妥当であり、この報告書に基づいて原子力損害賠償制度の改正が行われるべきであると考える。

 なお、当懇談会は必要な審議を終了し、報告書を提出したことにより廃止するものとする。


原子力損害賠償制度問題懇談会報告書

原子力委員会委員長
 金子 岩三 殿
原子力損害賠償制度問題懇談会
会長 金沢 良雄

 原子力損害賠償制度問題懇談会は、昭和53年10月19日以来3回の審議を行い、原子力損害賠償制度に関し早急に措置すべき点の検討を行い、結果を取りまとめましたのでここに報告いたします。

はしがき

 原子力事業従業員の災害補償に関して当面早急に講ずることが望ましい施策として、昭和50年の原子力事業従業員災害補償専門部会報告では、

 ① 認定に関する問題
 ② 被ばく線量の記録の問題
 ③ 補償体系について

の三つが取り上げられている。

 このうち、①の認定に関する問題は51年11月労働省において新通達「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準」が出され、また②の被ばく線量の記録の問題は、52年11月科学技術庁が被ばく線量の一元的な登録管理制度を発足させ、一応の解決をみている。

 ③の補償体系に関する問題は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号、以下「原賠法」という。)を改正して従業員損害を新たに原賠法上の賠償の対象として繰り入れを図るという問題であるが、これについては未だ手をつけられていない状況にあった。

 当懇談会はかかる法改正の内容について最近の状況をも踏まえて検討を行うとともに賠償措置額の改訂等についても検討を行った。

1 はじめに

 原賠法における原子力損害には現在原子力事業者の従業員の業務上受けた損害は含まれていないが、法改正を行いこれを原子力損害に加えるべきであるとの報告が昭和50年の原子力委員会の原子力事業従業員災害補償専門部会から示されている。

 原子力事業者の従業員の業務上受けた損害を含める意義は、既に原子力委員会専門部会の40年、50年報告にもかなり詳細に示されており、現時点においても基本的には変わるものではないと考えられる。

2 従業員損害の補償体系

 50年報告は、原子力事業者の従業員の業務上受けた損害を原子力損害に加えるに当たっては、労災保険制度による補償との関係について、運用に当たっては、労災保険の補償を超える部分について補償を行うようにすべきであるとし、このように措置することにより、一般第三者のための賠償措置額の減少を防ぐことができるとしている。

 ところで、労災保険が大部分年金化していること及び最近の判例の動向等を前提とした場合、労災保険給付等について既に給付を受けた部分はともかくとして将来給付されるであろう部分についてまで運用で労災保険を先行させる(将来給付されるであろう部分に相当する額を控除する)ことには無理があり、40年報告、50年報告の趣旨を貫くためには法律上所要の調整規定を設けることが必要と考えられる。

 調整の方法としては、形式上は全損害について原賠法の対象となり得るものとしつつ、労災保険等の給付を受けるべきときは、原子力事業者はこれらの給付に相当する価額については賠償の履行を猶予することができるものとするのが適当であり、労災保険等が責任保険的機能を有していることからも首肯できると考えられる。

 また、労災保険以外に原賠法と調整すべき法律については、損害てん補性を有するだけではなく、災害補償的性格を有するものに限るべきであり、当面、労災保険法のほかには、船員保険法、国家公務員災害補償法を考えるのが妥当であろう。

 なお、求償についても、現在の原子力損害賠償制度の体系に合わせて労災保険等の給付をした者から故意ある第三者に対して求償できるようにするのが望ましい。

3 賠償措置額等

 賠償措置額は、保険契約及び補償契約の締結や供託によって万一原子力損害が発生した場合、被害者集団に対する賠償の履行を確実ならしめる最小限のファンドとしての重要性を有しており、可能な限り民間の資金によって賠償を実現するという建前を採っている。

 この賠償措置額は昭和36年の法制定時には50億円であり、昭和46年の法改正時に60億円に引き上げられて現在に至っている。

 昭和46年以後の社会情勢の変化(物価上昇、賠償水準の高騰等)を考えると、上記60億円という額の実質は目減りしていると言わざるを得ない。

 また、現行原賠法は、補償契約の締結と政府による援助について、定期的に見直しをすることになっている。

 既に前回改正から7年余を経過しており、その間急激なインフレ、オイルショック等、経済情勢の変化も著しく、この際、前記措置額の目減りについて見直しを行うとともに、期限の延長を行うことが必要と考えられる。賠償措置額の引上げについては、実質的目減り分の回復が一つの指標となるが、保険引受能力上の制約もあり、100億円とするのが限度であり、期間延長については特段の事情変更がないことから従来の例にならい、改正から10年程度延長するのが妥当であると考える。

原子力損害賠償制度問題懇談会構成員
金沢 良雄 成蹊大学教授
星野 英一 東京大学教授
萩沢 清彦 成蹊大学教授
長橋 尚 電気事業連合会専務理事
森 一久 日本原子力産業会議専務理事
高松 実 全国電力労働組合連合会産業企画局長
山田 武 放射線問題連絡会議議長
真崎 勝 日本原子力保険プール専務理事
長崎 正造 日本船舶保険連盟会長
(順不同)
○は会長

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