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関西電力(株)美浜発電所第1号機の折損燃料棒片の回収状況及び同1号機運転再開に当たっての安全性について


昭和53年7月
科学技術庁通商産業省

 昭和48年に発生した関西電力株式会社美浜発電所第1号機(定格出力34万kW、運転開始昭和45年11月)の燃料体損傷事故に関し、科学技術庁及び通商産業省は、その原因究明のための調査及びこれに伴う事後措置を行うよう同社に指示したところである。

 このうち原因究明については、昨年8月9日その結果を明らかにしたところである。

 これと並行して実施されてきた折損燃料棒片の確認及び回収、運転再開に当たっての安全性の確認等の事後措置については、科学技術庁及び通商産業省は、原子力委員会、同原子炉安全専門審査会等の意見を聴き、慎重に検討してきたが、その検討結果は次のとおりであり、本件燃料体損傷事故に伴う事後措置は完了したものと考える。

1 損傷燃料体燃料棒の折損量

 損傷のあった燃料体は、昭和45年7月に初装荷燃料体として装荷された燃料体C-34である。

 その損傷状況は、図1及び図2に示すように、燃料体D面のバッフル板のコーナー部に位置する14番の燃料棒が上端から第2スパンの上部約1/4のところまで約80㎝欠落しており、その隣りの13番の燃料棒が第1スパンの上部約1/4のところから第2スパンの下部約1/4のところまで約90㎝欠落しているというものであった。

 この欠落部に相当する折損燃料棒片の重量は、ペレット片については約1,206g、被覆管片については約217gであった。

2 折損燃料棒片の確認及び回収の状況

 損傷燃料体発見当時、ペレット片については約527g、被覆管片については約152gが回収されたが、その後当時回収されなかった折損燃料棒片の確認及び回収を行なうため、昭和52年6月から、損傷燃料体が装荷、移動若しくは保管され、又は折損燃料棒片が移動したと考えられる下記(1)の設備について、通商産業省職員が随時立入調査を実施しつつ、下記(2)の方法により関西電力株式会社に確認及び回収作業を実施させたところ、下記(3)のような結果が得られた。

(1)対象設備

 対象設備は次のとおりである。(図3参照)
① 原子炉本体(燃料体121体を含む。)
② 一次冷却設備
③ 化学体積制御設備
④ 余熱除去設備
⑤ 安全注入設備
⑥ 試料採取設備
⑦ 燃料取扱設備(キャビティ及びキャナルを含む。)
⑧ 使用済燃料貯蔵設備(使用済燃料体44体を含む。)
⑨ 廃棄物処理設備
⑩ 燃料シッピングキャン

(2)確認及び回収の方法

 原子炉本体、蒸気発生器、加圧器、燃料取替用水タンク、使用済燃料貯蔵設備等については開放し、目視又はテレビにより確認を行い、配管、弁、ポンプ等については外表面からGMカウンターでγ線線量率を測定し、線量率の高い箇所(以下「ホットスポット」という。)を更に詳細に探査し、確認を行った。

 このような方法で存在が確認された折損燃料棒片のうち回収可能なものについては、開放点検が容易な設備内にある場合はつかみ工具又は吸引装置により回収し、開放点検が困難な設備内にある場合はホットスポット近辺のドレン弁開放によって得られるブロー水をストレーナでろ過して回収した。

上記の方法によって回収された折損燃料棒片のうち、ペレット片と推定されるものについてはα線サーベイによりペレット片であることを確認の上重定測量を行い、被覆管片と推定されるものについては目視で確認のうえ重量測定を行った。スラッジ状のものについては、ペレットの主成分であるウラン及び被覆管の主成分であるジルコニウムに着目して定量分析した。

 なお、その存在は確認されているが、各種配管の付着物、廃樹脂の付着物、フィルターの付着物等回収することが困難なものについては、可能な限り定量分析を行った。

(3)調査結果

 このような美浜発電所第1号機の各設備にわたる確認及び回収作業の結果、次のことが判明した。

① ペレット片については、原子炉容器、燃料体及び使用済燃料ピットから回収されたものは約50gであり、全調査対象設備からスラッジ状ウランとして回収されたものは約8gであった。

 その他テレビによる外観調査の結果、燃料体C-34及びこれに隣接する燃料体C-33にペレット片と思われる物質が存在することが確認され、その重量は約42gと推定された。

② 被覆管片については、使用済燃料ピットから回収されたものは約1gであり、全調査対象設備からスラッジ状ジルコニウムとして回収されたものは約368gであった。

図1 炉心バッフル板と燃料体C-34の位置関係

図2 燃料体C-34の損傷の状況

図3 対象設備

③ 廃樹脂貯蔵タンク内に貯蔵されている廃樹脂の付着物、冷却材フィルターの付着物、封水フィルターの付着物、測温抵抗体検出用配管の付着物、化学体積制御系配管の伏着物及び炉水からウラン又はジルコニウムが検出された。

 これらにつき定量分析を行った結果、廃樹脂、フィルター及び配管の付着物中におけるウラン並びに炉水に存在しているウランの量は約272g-UO2であり、廃樹脂、フィルター及び配管の付着物に存在しているジルコニウムの量は約8㎏であると推定された。

 なお、ジルコニウムについては、折損量を上まわる量が回収確認されたこととなるが、これは主に燃料棒の酸化ジルコニウム被膜のはく離によるものと思われる。

3 残余の折損燃料棒片の存在箇所の推定

 2で述べたような確認及び回収の結果、当該燃料体欠落部に相当するウラン量約1,206g-UO2に対して回収されたウラン量は約585g-UO2であり、残りのウラン量は約621g-UO2であった。この残りのウラン量のうち量的に把握されたウラン量は約314g-UO2であり、その大部分は廃樹脂貯蔵タンク内廃樹脂の付着物中に存在していることが判明した。従って、未だ量的に把握されていないウラン量は約307g-UO2となるが、これについては以下の(1)~(3)の理由から主に廃樹脂貯蔵タンク底部、燃料棒表面付着物及び燃料体C-34の内部にあるものと考えられる。

(1)廃樹脂貯蔵タンク内底部には、次の理由からウランが存在していると考えられる。

① 定格運転時においては、1時間当たり一次冷却材の約8%が化学体積制御設備の冷却材脱塩塔樹脂で浄化されることとなるため、一次冷却材ループを移動した折損燃料棒片の大部分が同樹脂に捕獲されると考えられること。

② 同樹脂は、昭和46年11月及び昭和51年5月に取り出され、廃樹脂貯蔵タンクに貯蔵されていること。

③ 廃樹脂貯蔵タンク内は、廃樹脂の固着防止のためバブリングが約70回にわたって行われてきたが、このバブリングを行うことによりウランが離脱することが別途実験により確かめられていること。

(2)燃料棒表面の付着物については量的に把握することができなかったがそれを採取し分析した結果、その中にウランが存在することが確認されている。

(3)燃料体C-34内部のペレット片の存在の確認については、テレビにより燃料体の内部まで詳細に調査したが、その損傷状況からみて、なおその調査にも限界があり残余のペレット片が存在している可能性が残っている。

 なお、一次冷却材は、冷却材脱塩塔及び冷却材フィルターで絶えず浄化されているほか、その一部を外部に取り出す場合は、ほう酸回収系又は液体廃棄物処理系のフィルター、蒸発濃縮器等で処理されることになっており、各段階において折損燃料棒片が捕獲されるしくみになっている。

 また、運転開始から今日までの気体廃棄物及び液体廃棄物について、それぞれ放射性物質放出量及び放出濃度の記録を確認した結果、いずれも法令で定められている基準等を下まわっており、本件燃料折損による外部に対する放射能の影響はないものと判断される。

4 安全性の検討

 当該折損燃料棒片の回収状況及び残余の折損燃料棒片の存在箇所は前述のとおりであるが、念のため運転再開に当たっての残留折損燃料棒片の存在を考慮して原子炉への影響評価を行った結果は以下(1)~(3)のとおりであり、同1号機の運転再開に当たっての安全性は十分確保されるものと考えられる。

(1)一次冷却材ループに残留している折損燃料棒片は、次の理由から微粉状のものと考えられる。

① 次の回収作業で固形状のものは可能な限り回収されていること。

② 原子炉停止中においても運転が継続されていた化学体積制御設備で最近まで使用されていた冷却材フイルター(昭和53年6月取替え)を調査した結果、固形状のものは確認されていないこと。

③ 燃料再装荷に当たっては、テレビによる外観調査により異物等が認められた燃料体は使用しないこととするとともに、また、再装荷燃料は洗浄していること。

(2)微粉状ウランは、一次冷却材放射能濃度の上昇をもたらすこと以外、原子炉の安全に対して影響を及ぼすものではないが、今回可能な限り回収されているので、運転を再開しても一次冷却材中のよう素131の濃度は回収作業前のそれを上まわることはなく、保安規定の制限値を十分下まわると考えられる。

(3)以上のとおり、今後の運転において残留折損燃料棒片の存在が安全確保上支障となることはないと判断されるが、仮に固形物であると仮定して、折損燃料棒片が支持格子部にひっかかった場合の限界熱流束比、折損燃料棒片が被覆管表面に付着した場合の温度上昇、折損燃料棒片による制御棒固着の可能性等を検討したところ安全確保上支障となるような結果は得られなかった。

5 運転再開に当たっての留意事項

 以上行ってきた運転再開に当たっての安全性の検討結果及び燃料体損傷事故再発防止対策のための措置状況にかんがみ、美浜発電所第1号機の運転再開に当たって、燃料体損傷事故に係る安全性は十分確保されるものと考えられるが、今後更に慎重を期し、次のことを実施させることとする。

(1)停止期間がすでに4年にわたるため、これまでに検査を実施した設備についても、その機能の再確認を十分行うこと。

(2)早期に必要な措置を講じ得るよう運転中の一次冷却材よう素濃度、希ガス濃度等の監視を強化すること。

(3)当分の間、一次冷却材よう素濃度、希ガス濃度等運転に関するデータについて2週間毎に報告すること。


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