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原子力基本法等の一部改正について


 6月7日、原子力基本法等の一部を改正する法律が参議院において可決、成立した。

 その内容は次のとおりである。

一 原子力基本法関係

1 基本方針
2 原子力の研究、開発及び利用は、安全の確保を旨として行うものとした。(第2条関係)
 原子力委員会及び原子力安全委員会の設置
 原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため、総理府に原子力委員会及び原子力安全委員会を置くこととした。(第4条関係)
3 原子力委員会及び原子力安全委員会の任務
(一)原子力委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項(安全の確保のための規制の実施に関する事項を除く。)について企画し、審議し、及び決定することとした。(第5条第1項関係)
(二)原子力安全委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画し、審議し、及び決定することとした。(第5条第2項関係)

二 原子力委員会設置法関係

1 原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)に関する行政の民主的な運営を図るため、総理府に原子力委員会及び原子力安全委員会を置くこととした。(第1条関係)
2 原子力委員会
(一)所掌事務

 原子力委員会は、次の各号に掲げる事項について企画し、審議し、及び決定することとした。

(1)原子力利用に関する政策に関すること。

(2)関係行政機関の原子力利用に関する事務の総合調整に関すること。

(3)関係行政機関の原子力利用に関する経費の見積り及び配分計画に関すること。

(4)核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること。(原子力安全委員会の所掌に属するものを除く。)

(5)原子力利用に関する試験研究の助成に関すること。

(6)原子力利用に関する研究者及び技術者の養成訓練(大学における教授研究に係るものを除く。)に関すること。

(7)原子力利用に関する資料の収集、統計の作成及び調査に関すること。

(8)前各号に掲げるもののほか、原子力利用に関する重要事項に関すること。(原子力安全委員会の所掌に属するものを除く。)(第2条関係)
(二)委員
(1)原子力委員会の委員を4人とすることとした。(第3条第1項関係)
(2)委員のうち2人は、非常勤とすることができることとした。(第3条第2項関係)
(三)庶務
 原子力委員会の庶務は、科学技術庁原子力局において総括し、及び処理することとした。ただし、科学技術庁原子力安全局又は関係行政機関(科学技術庁を除く。)の所掌に属する事項に係るものについては、それぞれ、科学技術庁原子力局及び科学技術庁原子力安全局において又は科学技術庁原子力局及び当該関係行政機関の担当部局において共同して処理することとした。(第12条関係)
3 原子力安全委員会
(一)所掌事務

 原子力安全委員会は、次の各号に掲げる事項について企画し、審議し、及び決定することとした。

(1)原子力利用に関する政策のうち、安全の確保のための規制に関する政策に関すること。

(2)核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち、安全の確保のための規制に関すること。

(3)原子力利用に伴う障害防止の基本に関すること。

(4)放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本に関すること。

(5)(1)から(3)までに掲げるもののほか、原子力利用に関する重要事項のうち、安全の確保のための規制に係るものに関すること。(第13条関係)
(二)組織
(1)原子力安全委員会は、委員5人をもって組織することとした。(第14条第1項関係)
(2)委員のうち2人は、非常勤とすることができることとした。(第14条第2項関係)
(3)原子力安全委員会に、原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会を置くこととした。(第16条〜第20条関係)
(三)委員長
 委員会に、委員長1人を置き、委員の互選によって常勤の委員のうちからこれを定めることとした。(第15条関係)
(四)庶務
 原子力安全委員会の庶務は、科学技術庁原子力安全局において総括し、及び処理することとした。ただし、科学技術庁原子力局又は関係行政機関(科学技術庁を除く。)の所掌に属する事項に係るものについては、それぞれ、科学技術庁原子力安全局及び科学技術庁原子力局において又は科学技術庁原子力安全局及び当該関係行政機関の担当部局において共同して処理することとした。(第21条関係)
4 原子力委員会及び原子力安全委員会と関係行政機関等との関係
(一)決定の尊重
 内閣総理大臣は、原子力委員会又は原子力安全委員会から決定について報告を受けたときは、これを十分に尊重しなければならないこととした。(第23条関係)
(二)勧告
 原子力委員会又は原子力安全委員会は、その所掌事務について必要があると認めるときは、それぞれ、内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長に勧告することができることとした。(第24条関係)
(三)報告等
 原子力委員会又は原子力安全委員会は、その所掌事務を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、報告を求めることができるほか、資料の提出等必要な協力を求めることができることとした。(第25条関係)
5 補則
連絡
 原子力委員会及び原子力安全委員会は、その所掌事務の遂行について、原子力利用が円滑に行われるように相互に緊密な連絡をとることとした。(第26条関係)

三 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律関係
1 原子炉の設置及び運転等に関する規制の改正
(一)原子炉を設置しようとする者は、次の各号に掲げる原子炉の区分に応じ、内閣総理大臣、通商産業大臣又は運輸大臣(以下「主務大臣」という。)の許可を受けなければならないこととした。(第23条第1項関係)
(1)発電の用に供する原子炉((2)から(4)までのいずれかに該当するものを除く。以下「実用発電用原子炉」という。)通商産業大臣
(2)船舶に設置する原子炉((4)に該当するものを除く。以下「実用舶用原子炉」という。)運輸大上
(3)試験研究の用に供する原子炉((2)に該当するものを除く。)内閣総理大臣
(4)研究開発段階にある原子炉として政令で定める原子炉 内閣総理大臣
(二)外国原子力船の本邦水域への立入りに伴う原子炉の保持についての許可は、運輸大臣が行うこととした。(第23条の2関係)
(三)内閣総理大臣、通商産業大臣及び運輸大臣は、(一)(4)に定める政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないこととした。(第23条第3項関係)
(四)主務大臣又は運輸大臣が(一)及び(二)により許可をする場合においては、許可基準の適用について、原子力委員会(平和利用、原子力利用の計画的遂行、及び原子炉の設置の経理的基礎に関する基準)及び原子力安全委員会(原子炉の設置、運転の技術的能力及び災害防止上支障がないことに関する基準)の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないこととした。(第24条第2項関係)
(五)主務大臣等は、原子炉の設置許可等の処分をしようとするときは、次の各号に定めるところにより、その同意を得なければならないこととした。(第71条第1項関係)
(1)内閣総理大臣が実用発電用原子炉以外の発電の用に供する原子炉(実用舶用原子炉を除く。)に係る処分等をする場合 通商産業大臣
(2)内閣総理大臣が実用舶用原子炉以外の船舶に設置する原子炉(当該原子炉を設置した船舶を含む。)に係る処分等をする場合 運輸大臣
(3)通商産業大臣又は運輸大臣が実用発電用原子炉又は実用舶用原子炉(当該原子炉を設置した船舶を含む。)、第39条に規定する原子力船若しくは外国原子力船に係る処分等をする場合 内閣総理大臣
(六)原子炉の設置許可の変更の許可等、設計及び工事方法の認可、使用前検査、定期検査、合併の認可等、保安規定の認可、原子炉主任技術者の選解任等の処分等は、それぞれ、(一)に定める主務大臣が行うこととした。(第26条、第26条の2、第27条、第28条、第29条、第31条、第37条、第40条及び第43条関係)ただし、設計及び工事方法の認可、使用前検査、定期検査については、実用発電用原子炉にあっては通商産業大臣が、実用舶用原子炉にあっては運輸大臣が、それぞれ、電気事業法又は船舶安全法に基づき行うこととしたほか、原子炉主任技術者に係る試験の実施等は、科学技術庁長官が行うこととした。(第73条及び第41条関係)
2 原子炉の設置及び運転等に関する規制の改正に伴うその他の改正
(一)核燃料物質等の運搬に関する規定の整備
(1)原子炉施設等が設置された工場又は事業所(以下「工場又は事業所」という。)において行われる核燃料物質等の運搬については、主務省令で定めるところにより保安のために必要な措置を講じなければならないこととするとともに、主務大臣は、基準違反に対し、運搬の停止等を命ずることができることとした。(第35条第1項及び第36条第1項関係)
(2)工場又は事業所の外において行われる核燃料物質等の運搬(船舶及び航空機による場合を除く。)については、総理府令(鉄道、軌道、索道、無軌条電車、自動車及び軽車両による運搬については、運搬する物についての措置を除き、運輸省令)で定める基準に従い、保安のために必要な措置を講じなければならないこととするとともに、内閣総理大臣又は運輸大臣は、基準違反に対し、運搬の停止等を命ずることができることとした。(第59条の2第1項及び第3項関係)
(3)工場又は事業所の外において運搬する場合において、災害防止上特に必要があるものとして政令で定めるときは、(2)に定める基準に適合することにつき、内閣総理大臣又は運輸大臣の確認を受けなければならないこととした。(第59条の2第2項関係)
(4)工場又は事業所の外において、災害を防止して公共の安全を図るため特に必要があるものとして政令で定める核燃料物質等を運搬する場合は、都道府県公安委員会に届け出なければならないものとするとともに、都道府県公安委員会は、運搬経路、日時等について必要な指示をすることができることとした。(第59条の2第4項及び第5項関係)
(二)核燃料物質等の廃棄に関する規定の整備
(1)工場又は事業所の外における核燃料物質等の廃棄については、総理府令で定める基準に従い、保安のために必要な措置を講じなければならないこととするとともに、内閣総理大臣は、基準の違反に対し、廃棄の停止等を命ずることができることとした。(第11条の2、第35条第2項、第36条第2項、第58条第2項及び第3項関係)
(2)工場又は事業所の外において廃棄する場合においては、政令で定めるところにより、その廃棄が(1)で定める基準に適合することにつき、内閣総理大臣の確認を受けなければならないこととした。(第58条の2関係)
(三)その他
 国際規制物資を使用している者の当該使用に関する記録は、総理府令で定めることとしたほか、報告徴収、立入検査等に関し、主務大臣の変更に伴う所要の改正を行うこととした。(第61条の7及び第64条〜第68条関係)

 なお、衆議院科学技術振興対策特別委員会及び参議院科学技術振興対策特別委員会において、次のような附帯決議がなされている。

原子力基本法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議

衆議院科学技術振興対策特別委員会
昭和53年4月19日

 政府は、原子力の開発利用に対する国民の信頼を確保し、その理解と協力を得るため、原子力の開発利用における安全の確保に万全の措置を講ずるとともに、本法施行にあたり、特に次の諸点について遺憾なきを期すべきである。

1 原子力安全委員会の委員は、その任務の重要性にかんがみ、専門的かつ大局的な見地から判断を行いうる権威者をもって、これにあてること。

2 第一次安全審査を行う行政庁の安全審査に係る顧問等の選任にあたっては、原子力安全委員会によるダブルチェックの本旨を損うことのないよう十分配慮して人選すること。

3 原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を十分に尊重しなければならないという規定の趣旨にかんがみ、原子炉の設置許可等に際しては、両委員会の意見を守って行政処分等を行うこと。

4 原子力安全委員会の運営にあたっては、その設置の趣旨並びに報告及び協力要求等の規定の趣旨にかんがみ、関係行政機関が行う原子炉の設置許可以降の規制全般についても必要に応じ原子力安全委員会が調査、審議を行うものとすること。

 なお、関係行政機関に求める協力には、実地調査への協力を含むものとすること。

5 原子力安全委員会及び原子炉安全専門審査会等の下部組織については、今後の情勢の推移に応じ、その拡充に努めること。

原子力基本法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議

参議院科学技術振興対策特別委員会
昭和53年6月5日

 政府は、本法施行にあたり、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。

1 原子力安全委員会の委員には、その任務の重要性にかんがみ、専門的かつ大局的な見地から権威ある安全審査を行い得る者をあてるとともに、今後の情勢の推移に応じ、これを補佐するスタッフの充実強化に努めること。

2 原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を十分に尊重しなければならないという規定の趣旨にかんがみ、原子炉の設置許可等に際しては、両委員会の意見を守って行政処分等を行うこと。

3 原子力安全委員会の運営にあたっては、その設置の趣旨にかんがみ、原子炉設置許可以降の各段階において、関係行政機関が行う規制全般についても、原子力安全委員会が必要に応じ調査、審議を行うものとすること。

4 原子炉設置の許可から運転管理に至るまで同一の行政機関が一貫して安全審査を行う体制となることに伴い、今後の情勢の推移に応じ原子力発電技術顧問会等の安全審査体制の拡充強化に努めるとともに、顧問の選任にあたっては、原子力安全委員会の原子炉安全専門審査会等の委員との兼職を回避する等ダブルチェックの実効性の確保に努めること。

5 安全研究の推進を図り、安全審査のための基準の整備に努めること。

6 原子力開発利用にあたっては、平和の目的に限るとの原子力基本法の基本方針を堅持し、国内保障措置体制の一層の充実を図ること。

右決議する。

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