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食品照射研究開発中間報告書


昭和53年3月
食品照射研究運営会議

まえがき

 我が国の食品照射研究開発は、昭和42年9月、原子力委員会によって原子力特定総合研究に指定され、同時に定められた「食品照射研究開発基本計画」に基づき、計画的かつ総合的な推進が図られて来た。

 この結果、馬鈴薯に関する研究開発においては、所期の目標を達成し、昭和48年に我が国の照射食品第1号として実用化が図られ、馬鈴薯の端境期の価格安定に大きく寄与しているところである。また他の6品目(玉ねぎ、米、小麦、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品、みかん)についても、現在、鋭意研究開発が進められている。

 本運営会議においては、昭和48年7月「食品照射研究開発中間報告書」を取りまとめたところであるが、それ以降実施されてきた研究開発を含め、昭和42年度以来、昭和52年度までの研究成果の概要を改めて報告書として取りまとめたのでここに報告する。

 これまでの研究開発により、当初、予定した目標は、おおむね達成されているが、本文に記述するとおり、研究開発の状況及び最近の科学の進歩にかんがみれば、食品の健全性に関する研究等を今後とも、推進する必要があると認められる。

 したがって、当運営会議としては、昭和52年度に終了する予定であった現行の食品照射研究開発期間を昭和56年度まで延長し、引き続き原子力特定総合研究として推進する必要があると考える。

Ⅰ 「食品照射研究開発基本計画」策定の経緯

 原子力委員会は、昭和40年11月、「国民所得の向上にともない、我が国においても食生活は漸次改善されつつあるが、これに応ずる食品の供給体制の不備が指摘されている。なかんずく食品の輸送や貯蔵中の腐敗、虫害、発芽等による損失を防止して流通の安定化をはかることが強く望まれている。その対策の一つとしてすでに欧米諸国において実行化されつつある食品の放射線照射による保存性の向上をはかることが必要であり、我が国においても、食品照射に関する研究は、大学、国公立試験研究機関、民間等各分野において行われているが、これらは必ずしも計画的に行われているとは言い難い。したがって、このような現状に対処するため、食品の放射線照射に関する研究上の問題点である食品としての適性、照射技術、経済性等について総合的立場から研究体制を整備し、計画的に研究の促進をはかる必要がある。このため原子力委員会に食品射照専門部会を設置して食品照射に関する研究推進の大綱を定めるよう早急にその検討を行う。」として、学識経験者からなる食品照射専門部会を設置した。同専門部会は、食品照射研究の推進方策について研究推進上の問題点及び研究推進の具体策を約1年半にわたって審議し、その審議結果を昭和42年7月原子力委員会に答申した。

 原子力委員会は、昭和42年9月、同報告書の趣旨を尊重し、「食品照射の研究開発は、食品の損失防止、流通の安定化等国民の食生活の合理化に寄与するところが大きく、かつ、広範囲な分野の研究を結集する必要があるので、食品照射専門部会の報告を尊重しつつ、関係各機関の協力のもとに原子力特定総合研究として計画的に推進するものとする。」 として「食品照射研究開発基本計画」を策定し、食品照射研究開発を強力に推進することとした。

 この「食品照射研究開発基本計画」は食品照射の実用化の見通しを得ることを目標に、国民の食生活の改善に著しく寄与し得る食品を対象として、食品としての適性及び照射効果等を確認することにより、適正な照射線量を把握するとともに経済的な照射技術を確立することを意図としている。

 昭和42年9月に定められた本基本計画は馬鈴薯、玉ねぎ、米の3品目を対象としたものであるが、昭和43年6月に食品照射研究運営会議から提出された食品照射対象品目の選定及び共同利用施設の設置に関する報告を基として、昭和43年7月、原子力委員会は、小麦、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品、みかんの4品目の追加指定及び共同利用施設の設置の具体的内容を決定した。

 その後、昭和48年10月、原子力委員会は、健全性試験研究開発の進捗状況を勘案し、昭和49年度完了を目途にしていた食品照射研究開発期間を馬鈴薯を除く6品目について、昭和52年度まで延長した。

Ⅱ 原子力委員会決定による食品照射研究計画の概要

 1 研究計画

(1) 発芽防止を目的とする馬鈴薯については、昭和42年度から3年計画、玉ねぎについては、昭和42年度から6年計画とし、また、殺虫及び殺菌を目的とする米、小麦については、昭和42年度、昭和44年度からそれぞれ8年計画とし、また、殺菌を目的とするウィンナーソーセージについては、昭和43年度から10年計画、水産ねり製品については、昭和44年度から9年計画、みかんについては、昭和45年度から8年計画とし、各品目について毒性試験、栄養成分の変化に関する研究、衛生化学的研究等、食品として健全性に関する研究を行い、かつ照射効果の研究を行うものとする。

(2) この研究と並行して包装材、線源工業、微生物殺菌等の研究を行うものとする。

 2 研究開発の体制

(1) 食品照射研究運営会議の設置

 この研究開発を円滑に実施するため、原子力局に各実施期間の関係者、学識経験者及び関係行政機関の職員からなる食品照射研究運営会議を設けることとする。

(2) 共同利用施設の設置

 食品照射研究開発を推進するに際しては、大量試料の均一、かつ、経済的照射方法を確立するために必要な設備を備えた専用の照射施設が必要であるので、昭和45年度より稼動することを目途に関係機関の共同利用施設として設置することとする。 共同利用施設は、日本原子力研究所高崎研究所に食品照射試験場を設置し、20万キュリーのコバルト60を線源とするガンマ線照射施設、0.4~1MeV、1mA電子線加速器を線源とする電子線照射施設及び研究室を備え、大量試料の照射試験及びこれに必要な照射方法を把握するための中間規模試験並びに低温高線量照射のごとく関係機関の既有施設では実施できない照射試験を行いうる施設とする。

(3) 国際協力

 OECDの国際食品照射研究計画については、研究者の派遣、情報交換等を行い、その成果の活用を図るものとする。

(4) 研究開発の分担

 研究開発の関係各機関の分担は、原則として次のとおりとする。

 (イ) 農林省所属研究機関は、主として照射効果を把握するための予備的研究及び貯臓試験を行う。

 (ロ) 厚生省所属研究機関は、主として毒性試験、栄養成分の変化に関する研究及び衛生化学的研究を行う。

 (ハ) 通商産業省所属研究機関は、主として包装材の研究を行う。

 (二) 日本原子力研究所高崎研究所は、主として照射技術の開発を行う。

 (ホ) 理化学研究所は、主として微生物殺菌に関する研究を行う。

 (ヘ) 大学及び公立研究機関には主として基礎的な研究を期待する。

Ⅲ 研究開発の進捗状況と成果

 食品照射研究開発は原子力特定総合研究として「食品照射研究開発基本計画」及びその後の原子力委員会決定に基づき、昭和42年度から計画的かつ総合的に研究開発を推進してきた。これまでの研究開発の進捗状況と成果は以下に示すとおりである。

 1 馬鈴薯

 放射線照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究については、非照射馬鈴薯の休眠期をすぎると直ちに発芽を開始するが、休眠中の馬鈴薯に7キロラドから15キロラドのコバルト60のガンマ線を照射することによって、その味、香りなどの食品としての嗜好性及び健全性を損うことなく、室温中で収穫後8ヶ月間にわたり発芽を防止し得ることが確認された。

 また、照射馬鈴薯には、誘導放射能が認められないこと、照射馬鈴薯と非照射馬鈴薯とを比較するとその味、香り、栄養成分の差異はほとんど認められないこと、衛生化学的に問題視すべきものがないこと、サル、マウス、ラットを用いた短期毒性、長期毒性、次世代試験により照射馬鈴薯の安全性について問題視すべき点がないことなどが明らかとなった。また、照射技術についても、均一で効率的な大量照射技術について検討を進め、実用化への有効なデータを得た。

 以上の研究結果から食品照射研究運営会議は、昭和46年6月30日、「放射性照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究成果報告書」を作成して原子力委員会に報告した。

 厚生省においては、照射馬鈴薯について食品衛生法上の観点から種々の検討を行った。厚生大臣は、昭和47年2月28日、食品衛生調査会に対して照射馬鈴薯を食用に供することの可否及び食品衛生上の問題について同調査会の意見を求める旨の諮問を行った。同調査会は照射食品特別部会を設けて審議を行い、昭和47年8月14日、「実用線量で照射を行った馬鈴薯は食品衛生上安全である。」旨答申した。

 この答申の趣旨に基づき、昭和47年8月30日馬鈴薯に必要な法令等の改正が行われた。

 その後、馬鈴薯の実用照射装置の建設計画に関連して、線量を最低6キロラドとしても実用上有効であることが確認された。また収穫時に打撲や切傷を受けた馬鈴薯に照射しても、その後の貯蔵に支障ないことが確認された。さらに大型コンテナを照射容器として円周状コンベアで照射する方法が開発された。

 昭和48年、北海道士幌町農業協同組合がこれらの研究成果をもとにして馬鈴薯の照射施設を完成し、現在、馬鈴薯の供給安定に大きく寄与している。

※ 休眠期:馬鈴薯の休眠期は北海道(男爵等)で約100日、九州産(島原)で約50日である。

 2 玉ねぎ

 放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究は、健全性試験の一部を除き、所期の成果を達成している。

 非照射玉ねぎは、休眠期※※をすぎると直ちに発芽を開始するが休眠期の玉ねぎを収穫後2週間の風乾処理を行ったのち、3キロラドから15キロラドのコバルト60ガンマ線を照射することによって、その味、香りなどの食品としての嗜好性を損うことなく、室温中で収穫後8ヶ月間の貯蔵が可能であることが確認された。

 また、健全性については、照射玉ねぎには誘導放射能が認められないこと、照射玉ねぎと非照射玉ねぎとの間には栄養成分の差異もほとんど認められないこと、衛生化学的に問題視すべきものがないこと、マウス、ラットを用いた長期毒性試験、次世代及び催奇形性試験でも問題視すべき点がないことなどが確認された。

 また、収穫後3℃に冷蔵すればその間、内芽の伸長が抑制され、照射を適用できる期間がかなり延長されることもあった。

 照射技術については、コンベアによるパッケージ連続照射及び大型コンテナによる照射のそれぞれについて線量分布と照射処理能力との関係が調べられ、馬鈴薯の場合とほぼ同様の照射装置で実用照射できる見通しが得られた。

※※ 休眠期:玉ねぎの休眠期は北海道産(札幌黄)で約30日、本州産(泉州黄)で約60日である。

 3 米

 放射線照射による米の殺虫に関する研究について、現在までに得られた成果は以下のとおりである。

 我が国の代表的な貯穀害虫であるコクゾウ、ココクゾウの成虫及び各発育段階における放射線抵抗性を調べると成虫が最も強く、照射後3週間以内のLD99(99%致死線量)は約8キロラドであった。また、すべての発育段階から次世代の発生を阻害するための不妊化線量は10キロラドであった。一方、種々の国内産米の品質に及ぼす各種線量における放射線の影響を調べた結果、30キロラド以下の線量における照射米と非照射米との間には栄養成分の変化及び官能検査に有意差が認められなかった。また、ラットを用いた長期毒性試験は終了し、現在、マウス及びサルを用いた長期毒性試験、次世代及び催奇形性試験を実施中である。

 また、実用化に際しての照射方法としては、サイロ型照射装置による方法が有望とみなされているので照射処理能力毎時0.6トンの中規模照射装置を試作して流動試験及び殺虫試験を行った。その結果、実用規模の大型米麦照射装置設計のためのデータが得られた。

 さらに、コンベアによるパッケージ連続照射技術について検討した結果、実用照射が可能なことが明らかになった。

 4 小麦

 放射線照射による小麦の殺虫に関する研究については、小麦に寄生するコクヌストモドキ、コクゾウ、ココクゾウについて、どのような令期であっても10キロラド照射すれば、たとえ羽化してもその成虫の繁殖料がなくなるほか、ノシメコクガは20キロラドで不娠化が認められた。また、種々の国外、国内産小麦の品質に及ぼす放射線の影響を調べた結果、50キロラド以下の線量における照射小麦と非照射小麦との間には官能検査を含めた製パン適性試験において有意差が認められなかった。さらに、照射小麦と非照射小麦との間に栄養成分の差はほとんど認められなかった。ラットを用いた長期毒性試験は終了し、現在、マウスを用いた長期毒性試験及び次世代試験を実施中である。

 5 ウィンナーソーセージ

 放射線照射によるウィンナーソーセージの表面殺菌に関する研究は、ネト(細菌の集落)の発生防止による貯蔵期間の延長を目的とし、保存料及び殺菌料を使用しない羊腸詰めウィンナーソーセージを対象として実施した。

 その結果、ウィンナーソーセージに存在する細菌数は、照射の線量が増大するにしたがい対数的に減少した。また、ウィンナーソーセージを10℃以下で貯蔵した場合のネトの発生時期は、非照射ウィンナーソーセージと比較すると、100キロラド照射ウィンナーソーセージで5日間、300キロラドで7日間、500キロラドで9日間延長された。したがって、官能検査の結果を勘案してもウィンナーソーセージのネト発生を1週間抑制するのに必要な線量は300キロラドから400キロラドであることがほぼ明らかとなった。また、パッケージ照射実用化のためのデータとして、パッケージ内の吸収線量分布と線量均一度を明らかにした。

 非照射ウィンナーソーセージと照射ウィンナーソーセージの間に栄養成分の差は認められなかった。

 ラット、マウスを用いた長期毒性試験及びマウスを用いた次世代及び催寄形性試験は、現在、実施中である。

 6 水産ねり製品

 放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究は、殺菌による貯蔵期間の延長を目的とし、保存料及び殺菌料を用いない板かまぼこを対象として実施しているが、現在までに得られた成果は次のとおりである。

 種々の線量で照射したかまぼこの香りや食味などの官能検査の結果、実用上の許可限度の線量は300キロラド程度であることが明らかとなった。この300キロラド照射によるかまぼこは、品質的に改善され弾性、色調に関して好ましい照射の効果が認められた。

 照射かまぼこの微生物の消長と保存性について検討した結果、300キロラド照射後における低温又は室温貯蔵中の殺菌効果が認められ、これにより貯蔵期間が延長された。特に、これは照射後10~12℃で貯蔵した場合に顕著で、非照射かまぼこの2倍に相当する3週間の貯蔵にたえることが認められた。

 非照射水産ねり製品と、照射水産ねり製品との間に栄養成分の差は認められなかった。

 ラット、マウスを用いた長期毒性試験、マウスを用いた次世代及び催奇形性試験は、現在、実施中である。

 なお、今後は、サルを用いた長期毒性試験を予定している。

 7 みかん

 放射線照射による照射みかんの表面殺菌に関する研究は、最も生産量の多い温州みかんを対象としており、現在までに得られた成果は、次のとおりである。

 みかんの腐敗のほとんどは表面に附着した緑カビ、青カビによるが、これらの菌を殺滅して保存性を向上させるためには150キロラドから200キロラドの線量が必要である。しかしながら日本の温州みかんは、放射線感受性が高く、透過性の強いガンマ線処理では50キロラド以上の照射で照射臭が発生するため、ガンマ線による殺菌では実用性がないことが判明した。そこで透過性の弱い電子線を用いた照射の結果、200キロラドで香り、食味に影響を与えることなく殺菌効果があることが認められた。また、照射によって果皮に褐変を生ずる場合があるが、これは収穫後少くとも1か月以上経過したものを0.5MeV程度の低エネルギー電子線で照射し、3~5℃に貯蔵することでかなり抑制されることが認められ、試料等の照射に用いる電子線加速器は日本原子力研究所大阪研究所のものを用いることとし、そのために必要なコンベア装置の製作を行った。

 なお、今後は栄養成分の変化に関する研究、毒性試験等を行う予定である。

 以上述べたごとく、馬鈴薯の実用化という成果を挙げたほか、他の6品目についても研究が進展して着実に研究実績を挙げているが、馬鈴薯以外の6品目に係る研究開発は、計画に定められたスケジュールより遅れている。

 その第1の理由は、毒性試験の遅れである。研究計画では、1品目の毒性試験を3~4年間で終了することとしたが、生物実験に伴う不測の現象によって、特に玉ねぎ及び米の研究遂行が遅れた。例えば、玉ねぎの例では適正な投与量(玉ねぎ自体の毒性の影響が現われないような投与量)を見出すために計画外に約2年間を要し、また、より詳細かつ厳密な安全性評価に資するため世代試験を繰返す必要があった。

 第2の理由は、研究施設の整備が当初計画通り行われなかったため、研究が計画通り実施できなかったことである。すなわち、共同利用施設である電子加速器が計画通り設置されず、みかんの毒性試験等に必要な試験照射は、他の便宜的な措置として日本原子力研究所大阪研究所の低エネルギー電子加速器の利用を考慮せざるを得ず、みかんの大量照射技術の研究開発は、必ずしも円滑に推進できなかった。

Ⅳ 今後の研究開発の進め方

(1) 我が国の食品照射研究開発は、前章で述べたごとく馬鈴薯の実用化をはじめ多くの研究成果を挙げ、現在この分野で世界的にも注目を集めているところである。

 特に、馬鈴薯については、昭和48年に北海道士幌町農業協同組合が大型照射プラントを建設し、毎年約2万トンの照射馬鈴薯を2月から6月の端境期に出荷し馬鈴薯の供給安定に大きく寄与している。

 これは、基礎的研究から実用化にいたる一元的な食品照射研究開発計画を策定し、これを原子力特定総合研究に指定し、各関係機関の密接なる協調のもとにその研究開発を積極的に進推してきた結果である。

(2) しかしながら、玉ねぎ、米、小麦、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品及びみかんの6品目については末だ実用化段階に至っていない。

(3) これら6品目は、生産量、需要量の面で、我が国の代表的な食品であり、したがってこれら品目の食品照射が実用化された暁には、国民経済の立場から極めて大きな効果が得られるものと判断される。すなわち、玉ねぎの発芽防止、米、小麦に寄生する害中の死滅等による損失の防止、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品、みかんの保存期間の延長等による流通の安定化が図られ、特にウィンナーソーセージ、水産ねり製品に関しては、現在、使用されている食品添加物の代替となることによって、公衆衛生上の見地からも著しい効果が期待できるものである。

(4) したがってこれら6品目の食品照射については、その実用化の見通しを得ることを目標に、今後とも所要の研究開発を進める必要があると考える。

(5) 今後の研究課題としては、先ず、現行の研究開発計画において52年度までに完了することを予定していたが、前章で述べたような理由で成果の達成が遅れている長期毒性試験等を実施する必要がある。

 さらに、最近の科学の進歩に伴い、食品の安全性の評価については従来の短期及び長期毒性試験、繁殖性などをみる世代試験、発がん試験等に加え、新たに遺伝学的安全性試験が重要視されるようになった。我が国においても、昭和49年度から食品添加物等の安全審査にあたって遺伝学的安全性試験に関するデータが必要とされている。このため、新たに照射食品の遺伝学的安全性試験を実施する必要が生じている。

(6) 当運営会議としては、前章で述べたこれまでの研究開発の進捗状況及び今後、新たに実施すべき遺伝的安全性試験について慎重に検討した結果、玉ねぎに関する試験研究は昭和53年度、米、小麦に関する試験研究は昭和54年度、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品に関する試験研究は、昭和55年度、みかんに関する試験研究は昭和56年度完了を目途に、引き続き原子力特定総合研究として推進する必要があるものと考える。

(参考)海外における食品照射の状況

 海外においては、アメリカ、ソ連、西ドイツ、オランダ、デンマーク、イタリアをはじめ開発途上国においても活発に食品照射研究開発が進められ、すでに、馬鈴薯、玉ねぎ、小麦、肉製品、果実等約20品目が許可されている。さらに各国の事情に応じた研究開発が進められている。

 OECDは、食品照射の重要性にかんがみ、国際プロジェクト研究「新国際食品照射計画」(IFIP)を策定し、後援機関として積極的に研究開発を推進している。同計画には我が国をはじめ、24か国が参加し、現在、照射食品の健全性に関する試験の実施と評価方法等についての調査、検討及び情報の提供を行っている。

 IAEAは、熱帯地域の食糧事情改善のため、現在、アジア諸国での魚類及び水産加工食品の照射保存に関する地域プロジェクト研究(RPF)を推進中で、我が国の参加も要請されている。

 FAO、IAEA及びWHOは、食品照射の研究開発及び実用化が進展するに伴い、照射食品の健全性の確立が最も重要な課題になってきていることから、我が国をはじめ世界各国の専門家により構成された「照射食品の安全性に関する専門家委員会」を開催し、照射食品の安全性に関する討論、評価を行っている。

 昭和51年に開催された同専門家委員会では、遺伝学的毒性等広く健全性に関するデータをもとに総合的に評価し、馬鈴薯、小麦、鶏肉、いちご、パパイヤの5品目については、無条件承認(Unconditional acceptance)とし、米、玉ねぎ、魚の3品目については、暫定的承認(Provisional acceptance)としている。

(付録)食品照射研究運営会議委員名等及び開催日

イ) 構成員
座長 藤巻 正生 お茶の水女子大学家政学部教授
飯塚 広 東京理科大学理学部教授
岡 充 東京都立アイソトープ総合研究所長
佐藤友太郎 日本原子力研究所客員研究員
松山 晃 理化学研究所主任研究員
戸部満寿夫 厚生省国立衛生試験所毒性部長
栗飯原景昭 厚生省国立予防衛生研究所食品衛生部長
鈴江縁衣郎 厚生省国立栄養研究所食品化学部長
三浦 洋 農林省食品総合研究所食品流通部長
浜田 寛 農林省畜産試験場加工部長
笹島 正秋 農林省東海区水産研究所保蔵部長
村越 庚 通産省製品科学研究所基礎性能部長
石原 健彦 日本原子力研究所高崎研究所長
室橋 正男 日清製粉㈱取締役中央研究所長
大谷 藤郎 厚生省官房科学技術審議官
岸 国平 農林省農林水産技術会議事務局研究総務官
児玉 勝臣 科学技術庁長官官房参事官

ロ) 開催日

 第1回 昭和42年11月29日(水)
 第2回 昭和42年12月19日(火)
 第3回 昭和43年1月24日(水)
 第4回 昭和43年2月12日(月)
 第5回 昭和43年5月28日(火)
 第6回 昭和43年6月18日(火)
 第7回 昭和43年7月22日(月)
 第8回 昭和43年10月1日(火)
 第9回 昭和44年2月7日(金)
 第10回 昭和44年6月3日(火)
 第11回 昭和44年12月18日(木)
 第12回 昭和45年6月2日(火)
 第13回 昭和46年3月13日(土)
 第14回 昭和46年6月30日(水)
 第15回 昭和47年3月1日(水)
 第16回 昭和48年3月29日(木)
 第17回 昭和48年12月7日(金)
 第18回 昭和49年11月20日(水)
 第19回 昭和50年10月15日(水)
 第20回 昭和51年5月8日(土)
 第21回 昭和51年12月22日(金)
 第22回 昭和52年8月7日(水)

参考資料

1 食品照射研究開発の推進について (42.9.21)(略)

2 食品照射研究開発基本計画 (42.9.21)(略)

3 食品照射研究開発の進推について (43.7.4)(略)

4 食品照射研究開発の進推について (48.10.9)(略)

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