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昭和52年原子力年報(総論)



はしがき

 本年報においては、昭和51年4月から昭和52年にかけての我が国の原子力開発利用の動向と今後の課題を、第Ⅰ部 総論、第Ⅱ部 各論、第Ⅲ部 資料編の構成によって明らかにしようとするものである。

 すなわち第Ⅰ部総論においては、第1章として、原子力開発利用の内外の動向を概観し、第2章においては、核不拡散の見地から新たな段階を迎えたともいえる原子力開発をめぐる国際情勢とその中での我が国の進路、更に第3章においては、原子力施設の安全の確保と故障等についての考え方及び原子力安全委員会の設置と安全規制の一貫化の問題に絞って記述することとした。

 第Ⅱ部各論においては、例年のとおり、我が国の原子力開発利用の動向を分野別に取りまとめた。第Ⅲ部は、関係諸資料を編集し、資料編とした。


総  論

第1章 原子力開発利用の当面の諸問題

(我が国のエネルギー供給に占める原子力の地位)

 昭和51年度の我が国のエネルギー消費は、石油換算で約3億9千万kl、国民1人当たり約3.5klであり、近年の経済の停滞を反映して、昭和48年度水準にとどまった。

 しかしながら、今後、我が国経済社会の発展を維持し、国民福祉の向上を図るためには、エネルギーの安定的な供給を確保することが必要不可欠である。昭和52年6月に発表された「総合エネルギー調査会需給部会」の資料によれば、省エネルギーに格段の努力をしても、昭和60年代前半には、エネルギー消費量は昭和50年度の2倍強になると見込まれている。

 我が国のエネルギー需給構造をみると、次のような特徴がある。

① 国内のエネルギー資源は、水力、石炭等をあわせても総エネルギー消費の10%程度を満たすのみで、輸入依存度が極めて高い。

② 国内の水力、石炭等は、その供給余力が乏しく、今後とも大幅な増加が望み得ない。

③ 全エネルギー供給の70%以上を輸入石油に依存しており、しかも石油の輸入先の約4分の3は中東地域に集中している。

 特に、主要なエネルギー源である石油の供給は、産油国の動向いかんに左右されていること、将来は量的制約も予想されること等からみて、今後とも不安定な状況にあると見なければならない。

 このため、我が国としては、石油に代替するエネルギー源の開発・導入の促進、石油の安定的供給確保、新エネルギー技術開発等エネルギー源の多様化の推進、エネルギー節約の推進等エネルギーの安定供給の確保に一層積極的に取り組んでいかねばならない。

 なかでも原子力発電は、石油代替エネルギーの重要な柱として、その推進は今後のエネルギー政策の上で最も重要なものの一つである。

 すなわち、

① 原子力は、ウラン-235 1gが完全に核分裂した際に得られるエネルギーが石油の約2kl分に相当するなど、比較的少量の核燃料により豊富なエネルギーが得られるため、燃料の輸送及び備蓄が化石燃料に比べて容易である。

② また、核燃料サイクル技術の確立によって、使用済燃料中の未燃焼のウラン及びプルトニウムを再利用することができる。

③ 以上の意味で原子力はいわば準国産エネルギーであり、長期的なエネルギー供給の安定化に貢献することができる。

④ 更に、現在研究開発の途上にある他の新エネルギーに比べ原子力発電は既に実用化されている技術であり、直ちに石油代替エネルギーとして利用することができる。

(原子力発電の現状と見通し)

 昭和41年7月に、日本原子力発電㈱東海発電所で産ぶ声をあげた商業用原子力発電所は、昭和52年10月現在14基、発電設備容量で約800万キロワットが営業運転に入っており、総発電設備容量の約8%を占め、九州地方の発電設備容量を上回るものとなった。このように、原子力発電は、既に、石油に代替するエネルギー源として、我が国のエネルギー供給上欠くべからざる役割を担うに至っている。

我が国の原子力発電の推移

 また、将来の原子力発電の需給見通しについては、現在、原子力委員会及び通商産業省の総合エネルギー調査会等において、見通しを進めているところであるが、先述の総合エネルギー調査会需給部会がまとめ、9月2日、総合エネルギー対策推進閣僚会議に報告した資料によれば、昭和60年度の原子力発電規模は、原子力発電をより一層強力に推進した場合で3,300万キロワット(総発電設備容量の18.8%)、対策を現状維持とした場合で2,600万キロワット(総発電設備容量の14.8%)とされている。

(原子力発電の安全性と立地に関する問題)

 昭和52年度に入って、定期検査等を通じて、沸とう水型原子力発電所の配管の応力腐触割れ等の故障が発見され、これの修理、補修のため運転停止期間が長引き、52年度上半期の設備利用率は総平均で40%を割ることとなった。

 しかし、これらの故障は、いずれも、あらかじめ組込まれている安全計測機器によって発見され、あるいは法令に定める定期検査時に発見されたものであり、それぞれ入念な原因探究と慎重な補修が行われている。したがって、これらは、いわば予防的に安全策を講じているものであり、それをもって原子力発電の安全性を疑うことは適当でない。いずれの場合も所要の補修が終了し次第、正常な運転が再開されることとなっている。

 一方、昭和51年12月の政府による立入り検査によって、美浜原子力発電所1号炉における燃料棒の折損事故が3年間余報告されなかったことが明らかとなり、世上の批判を招いた。この事故自体は、調査の結果、周辺環境への影響はなかったと判断されるが、このように原子炉設置者が、報告義務を怠ったことは、国民の不信あるいは安全に対する不安感を抱かせる要因となったことと反省される。これについては、原子力委員会は当該原子炉設置者に対し反省を求めるとともに、所要の対策を講じるよう要請した。関係省庁は、この要請を受け、厳しい措置を講じるとともに、今後再びかかる報告を怠ることのないよう指導している。

 このような故障等の現象が、国民の原子力に対する不安感を助長する要因となっており、それが、原子力発電所の新規立地等に当たって地元住民から反対を受ける一因となっていることも否定できない。

 原子力発電所の立地についてみれば、電源開発調整審議会の議を経て電源開発基本計画に組み入れられた原子力発電所の建設計画は、近年の経済の停滞とも相まって、昭和50年度、1基89万キロワット、51年度、1基110万キロワットであり、52年度では未だ1基も決定されていない。これらを含めて、計画として確定された我が国の原子力発電規模は、29基約2,200万キロワットとなった。原子力発電所の立地の促進を図るためには、より一層安全確保の徹底を図ることはもとより、原子力についての国民の理解と協力を得るための、きめの細い諸対策を講ずることが必要であると考える。

 政府においては、原子力発電所を含む電源開発の立地難を打開するため、総合エネルギー対策推進閣僚会議を昭和52年6月に開催し、地方公共団体との密接な連けいの下に、官民一体となって立地を推進するための諸対策を決定し、更に9月には、地元住民の福祉の一層の向上を図るため、電源三法の運用改善を骨子とする対策を決定し所要の措置を講じつつある。

(技術開発の進展)

 昭和52年に入って、これまで動力炉・核燃料開発事業団等を中心として進めてきた核燃料サイクル及び新型炉の分野における開発努力がようやく実ってきた。今後、これらの開発成果を踏まえて、核燃料サイクル技術を中心として、整合性ある総合的な技術体系確立へ向かって進むこととなった。

 また、日本原子力研究所を中心とした軽水路安全研究が、着実な進展をみせたほか、国公立試験研究機関等における原子力関係基礎研究も着実に進展した。

 このような進展を背景として、軽水路安全研究の分野では、米国等との共同研究計画が開始されることとなった。

核燃料サイクル

 ウラン濃縮技術については、これまでのカスケード試験を含む研究開発成果を踏まえ、昭和52年8月にウラン濃縮パイロットプラントの建設が着手された。

 また、昭和46年から建設を進めていた動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設は、通水試験、ウラン試験を経て、昭和52年9月から使用済燃料を用いての試運転に入り、昭和53年秋には、本格運転の予定となっている。

 また、再処理の本格化に備え、国内輸送体制の整備が着実に進められた。

新型炉開発

 昭和42年から、軽水炉に続く次代の原子炉として、動力炉・核燃料開発事業団を中心として開発を進めてきた高速増殖炉開発において昭和52年4月、その実験炉「常陽」が臨界に達し、その後、順調に低出力試験を終了した。また、昭和42年から産業界の協力を得て動力炉・核燃料開発事業団で開発を行ってきた新型転換炉の原型炉「ふげん」が、昭和53年春には臨界が予定されるに至っている。

 更に、日本原子力研究所における多目的高温ガス炉の研究開発も着実に進展し、実験炉の建設を予定している。

核融合研究開発

 昭和48年の数百万度のプラズマ生成・閉込めの成功などの研究成果を受けて、昭和50年度からは、原子力委員会の定めた第二段階核融合研究開発基本計画が実施されているが、本計画の中核をなす臨界プラズマ試験装置(JT-60)については、日本原子力研究所において、これまで詳細設計並びに主要機器の試作開発を終了し、本格的建設に着手する段階に至っている。一方、我が国は、従来、国際原子力機関(IAEA)、OECD国際エネルギー機関(IEA)の多国間協力計画に参加してきたが、日米二国間協力を積極的に行うとの福田内閣総理大臣の意向を受けて、昭和52年9月宇野科学技術庁長官と、シュレシンジャー米国エネルギー長官との間で日米協力を本格的に実施していくことが合意された。

(原子力船「むつ」)

 原子力船の開発については、昭和52年11月、第82回国会において政府提出の日本原子力船開発事業団法の一部を改正する法律案(同事業団法の廃止するものとされる期限を昭和62年3月31日まで延長)が、同延長期限を昭和55年11月31日までに短縮するよう修正の上、成立した。この修正の趣旨は、日本原子力船開発事業団の原子力船に関する研究機能を強化し、将来、研究開発機関に移行させるためのものであり、今後、その検討が進められることとなっている。

 また、原子力第一船「むつ」については、その遮へい改修及び安全性総点検を長崎県佐世保港で実施すべく、長崎県及び佐世保市に修理港の受入れ要請を行っていたが、昭和52年4月、佐世保市議会及び長崎県議会が相次いで受入れを受諾する旨の議決を行った。しかし、両者の間に核燃料体の取扱いをめぐって、意見の相違があるので、まだ解決をみるにいたっていない。

(国際的動向)

 昭和51年から昭和52年にかけて、我が国原子力開発利用にとって特筆すべきことは、それが国際的な影響を強く受けることとなったことである。これについては次章で詳述するが、その特徴は、従来、原子力開発における国際関係が、主として研究開発協力の推進を目的としていたものであるのに比し、核不拡散のための規制を強化しようという方向を強めたことである。

 資源国は新たなウラン政策を発表し、自国産ウランに対する発言権の強化を図る傾向にある。かかる動きを受けて、改めて、原子力平和利用と核不拡散との調和を見出すために、現在、多数国の参加の下に国際核燃料サイクル評価(INFCE:International Nuclear Fuel Cycle Evaluation)を開始している。

 今後、我が国の原子力開発利用を進めるにあたり、このような国際的な動きに積極的に対応していくことが重要である。

第2章 原子力開発利用をめぐる国際情勢と我が国の進路

第1節 核不拡散強化への動きと我が国の立場

 1 核不拡散強化の背景

(核拡散への懸念)

 昭和48年10月の石油危機を契機として、原子力発電は、今まで以上に石油代替エネルギー源として注目されることとなった。このため、昭和47年には、原子力発電所を運転若しくは計画中の国は、欧米先進諸国を中心に28か国であったが、産油国、開発途上国が競って原子力発電の導入を図るようになった結果、昭和52年6月末には43か国に増加した。このような中で、昭和49年5月には、インドが核爆発実験を行った。

 また、これまで原子力開発を進めていた西ドイツ、フランス及びカナダがパキスタン、ブラジル等への原子力発電施設あるいは再処理技術の輸出を行うなど、供給国として成長してきている。

 このように原子力平和利用が、核不拡散条約未加盟国を含めて拡大したこと、及び原子力施設、技術の供給国が増加してきたことを契機として、核拡散への潜在的可能性を増大させるのではないかとの危惧が国際的に次第に高まってきた。また、一方では、核物質取扱い量の急速な増大に伴って組織的な暴力集団等による盗難等不法行為のおそれも懸念されるに至ってきた。

 このため、核拡散をより効果的に防止するため、国際原子力機関による保障措置と、盗難の防止等に対処する核物質防護を両者一体として強化、整備することの必要性が国際的な共通の認識となった。

自由主義世界における原子力発電所の主な輸出入関係

(核不拡散条約に基づく保障措置の現状)

 現在、核不拡散の国際的体制は、核不拡散条約(NPT:Treaty on Non--Proliferation of Nuclear Weapons)に基づき、核爆発への転用を未然に防止するために国際原子力機関が保障措置を実施することを基本としている。11月末現在、101か国がこれに加盟している。また非加盟国においても、その要請がある場合には国際原子力機関の保障措置を利用することができる。

 しかしながら、非加盟国には、核兵器保有国であるフランス、核爆発実験を行ったインド、原子力施設の輸入問題で注目を浴びたパキスタン及びブラジル等があり、従って、全世界的に核不拡散条約の実効をあげるためには、これらの未加盟各国の早急な加盟が必要である。

 我が国は昭和45年2月に核不拡散条約に署名し、昭和51年6月に批准した。署名に際し我が国は「この条約を真に実効あるものとするため核爆発能力を有すると否とを問わず、できるだけ多くの国がこの条約に参加すること」、「核兵器国が、この条約の第6条に従い核軍備の削減、包括的核実験禁止等の具体的な核軍縮措置を採っていくこと」、「原子力平和利用活動がいかなる意味においても妨げられてはならないこと」等を要請する旨の我が国の立場を明らかにした。更に、同条約に基づき、国際原子力機関との間で保障措置協定を締結し、昭和52年11月国会の承認を得た。同時に、関連する国内保障措置体制整備のため、国際規制物資の適正な計量及び管理を確保するための計量管理規程、立入検査規定等についての「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規則に関する法律」(以下「原子炉等規制法」と略す。)の改正が成立した。

 これによって、我が国の保障措置体制、特に、査察体制の合理化が図られ、欧州原子力共同体(EURATOM)と同様の立場を確保することとなった。

 我が国としては、核不拡散条約加盟国の拡大を何にも増して推進すべきであり、そして、それと並行して、保障措置技術の一層の改善を図りつつ、核不拡散を一層効果的なものにすることが必要であると考えている。

(核不拡散強化の動き)

 原子力資材及び技術の輸出政策に関して意見交換を行うため、原子力先進7か国(日本、米国、ソ連、英国、フランス、西ドイツ、カナダ)により原子力平和利用先進国間会議(いわゆる「ロンドン協議」)が昭和50年4月以来続けられてきたが、参加国も現在15か国に拡大されている。

 また、核物質防護に関しては、昭和52年10月末に36か国の政府代表による国際条約の検討のための会議が開催され、条約化の準備が進められている。

 これらの動きと軌を一にして、米国は昭和51年10月のフォード大統領声明による濃縮・再処理施設及び技術輸出の一時停止の呼びかけ、議会での核不拡散政策強化のための活動の活発化等を背景として、昭和52年4月カーター大統領が新原子力政策を打ち出した。

 また、カナダ及びオーストラリアは、ウランの輸出に際して、その再処理・濃縮についての事前同意を条件とする等の新輸出政策を発表し、カナダはその政策の実施のために必要な原子力協力協定の改訂交渉を我が国及び欧州原子力共同体と行うに至っている。

 これら一連の最近の動きは、これまで核兵器への転用を防止しつつ、原子力平和利用を確保するために進められてきた国際原子力機関による保障措置、更には核不拡散条約体制を補強し、より一層効果的に核拡散を防止しようとするものであり、核不拡散条約に続く新たな段階に入りつつあることを示している。

核拡散防止措置の進展

 2 米国の新原子力政策の影響

(新原子力政策の経緯)

 米国では、前述のような核不拡散強化の国際的潮流と議会における核不拡散強化論を背景として、新しい原子力政策が、昭和51年の大統領選挙戦を通じて、次第に明らかとなった。昭和52年1月に就任したカーター米国大統領は、4月7日、使用済燃料の商業的再処理及びプルトニウムの利用を抑制することを骨子として新原子力政策を発表した。

米国の新原子力政策(52.4.7 カーター大統領発表)
 ①商業的再処理とプルトニウム・リサイクルの期限を定めぬ延期
 ②高速増殖炉の開発計画変更と商業化延期
 ③代替核燃料サイクルの研究促進
 ④ウラン濃縮能力の拡大
 ⑤核燃料供給保証のための国内立法
 ⑥濃縮・再処理技術、施設の輸出禁止の継続
 ⑦国際核燃料サイクル評価の実施

 この政策は、国内政策として発表はされたものの、核拡散防止の観点から、核燃料サイクルを国際的に評価し直そう、という提唱をはじめ、軽水炉に必要な濃縮ウランの供給保証、使用済燃料の大量貯蔵等の従来のウラン・プルトニウムサイクルに代わる代替案を伴ったもので、これまでの米国の原子力政策を大きく転換するものであったために国際的に大きな反響を呼ぶこととなった。

(新原子力政策の反響)

 すなわち、米国の新政策は、

 第一に、同政策が核不拡散の名のもとに、各国の原子力平和利用に直接・間接に影響を与える可能性があり、場合によっては核不拡散条約第4条で規定している原子力の平和利用における平等性の確保という理念に反するおそれがあること。

 第二に、世界のウラン資源には限度があり、特にウラン資源に乏しい国にとっては、核燃料の効率的な利用は不可欠である。その見地から、ウラン・プルトニウム核燃料サイクルが、最も現実的な方法と考えられ、各国においては、これまでその技術開発に力を注ぎ、再処理の分野では実用化の段階を迎えており、この実状認識が不十分であること。

 第三に、ウランの有効利用が困難となる結果、その需要が増加し、価格の高騰等需給上の混乱を招くおそれがあること。

などの見地から、我が国をはじめ、フランス、西ドイツなどウラン資源に乏しく、かつ、他の化石燃料資源にも限度がある諸国にとって、核不拡散への努力の必要性は認めつつも、必ずしも十分な説得力のあるものとは認め難いものであった。

 特に、我が国においては、日米原子力協定の第8条C項において、米国から輸入した核燃料を再処理する場合には日米間で共同決定を要することが規定されているので、我が国への影響が憂慮された。

第2節 日米原子力交渉の経緯とその意義

 1 我が国の対応と交渉の経緯

 米国の原子力政策の転換は、昭和46年以来建設を続けてきた動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設の運転を開始しようとしていた我が国にとって、直接的影響を与えるものとなった。

 すなわち、同再処理施設では、日米原子力協定の下で米国から輸入した濃縮ウラン燃料を再処理することとしていたため、我が国は、同協定第8条C項に基づき、再処理の実施について米国との共同決定を得るべく昭和51年夏より準備を進めていたところだったからである。

 本件に関する米国側の反応は、原子力政策の転換の徴候を反映して当初から極めて厳しく、米国で濃縮されたウランの再処理について同意を取り付けることは困難視された。

 こうした米国側の態度に対し、我が国は、原子力開発利用が我が国のエネルギー上の安全保障及び経済発展にとって必要不可欠であるとの認識の下に、

(1) 核拡散防止の強化には積極的に協力する。

(2) 原子力平和利用の推進と核拡散防止は両立させるべきである。

(3) 核不拡散条約においては、非核兵器保有国での原子力平和利用が保証されており、同条約の加盟国が原子力平和利用で差別されてはならない。

との点を基本的立場として交渉に臨んだ。

 交渉は、昭和51年末より始められ、52年1月に来日したモンデール副大統領と福田内閣総理大臣との会談、並びに、2月の井上原子力委員会委員長代理を代表とする使節団の派米により、我が国の基本的立場を米国へ繰り返し説明した。3月にワシントンで開かれた日米首脳会議において、福田内閣総理大臣は、①核兵器の不拡散には全面的に賛成であること、②資源小国の我が国にとって原子力の平和利用は、それと同様に重要であることを主張し、両国にとって受け入れられる解決策を見出すために、緊急な協議を続行することが合意された。日米首脳会談後、帰国した福田内閣総理大臣は、直ちに対米交渉の責任者として宇野科学技術庁長官を指名し、これを受けて宇野科学技術庁長官は、鳩山外務大臣及び田中通商産業大臣の3者による核燃料特別対策会議を開催し、対米交渉の国内体制を確立した。

 これらの準備を踏まえ、昭和52年4月にはワシントンで第一次日米交渉が行われ、再処理施設についての保障措置、運転計画、我が国の新型炉開発計画等、技術的、専門的事項について詳細な協議が行われた。

 また、5月に、ロンドンで主要国首脳会議が開催され、その際、当面の経済政策の話合いとともに、原子力の平和利用と核不拡散の両立の道をいかに求めるかということに関し、精力的な討論が行われた。その結果、核燃料サイクルの国際的評価作業を進めることを含めて、平和利用と核不拡散を両立させる方途について、国際的に検討を進めることが合意された。この会議に際し、福田内閣総理大臣はカーター大統領に対し、我が国の主張を再び強調するとともに、早期解決を強く要請した。

 このような経緯の中で、米国の理解も次第に深まり、早期解決の機運が高まった。

 6月に入り、ワシントンにおいて、新関原子力委員会委員を団長として第二次交渉が行われ、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設について、日米両国の専門家による日米合同調査を実施することが合意され、同合同調査が6月末から東海村及び東京にて行われた。

 この調査は東海再処理施設に関して、既存の方法を含む種々の再処理方法について、その技術上、経済上及び保障措置上の側面に関して、専門的、技術的調査を行った。その結果、本件に関する両国の共通の理解と認識を形成することができ、来たるべき第三次交渉における解決への道を開くこととなった。

 第三次日米交渉は、東京において8月29日から開催され、宇野科学技術庁長官とスミス核拡散問題担当大使との間の極めて卒直な意見交換を通じ、両国の主張の隔りを順次解決することができた。

 この結果、9月1日、我が国の主張に沿って、東海再処理施設を運転することに関し、両代表の間で原則的な合意が成立した。

 2 共同声明及び共同決定の内容とその意義

 日米両国は、昭和52年9月12日、日米原子力協定に基づき、東海再処理施設の運転開始に当たり、「合衆国産の特殊核物質の再処理についての日米原子力協定第8条C項に基づく共同決定」を行い、同再処理施設における当初2年間、99トンの使用済燃料の再処理について、同協定第11条の保障措置が効果的に適用されることを確認した。本共同決定に当たり、両国はこの共同決定に至る経緯にかんがみ、米国は原子力の開発が我が国のエネルギー上の安全保障及び経済発展にとって重要であることを認め、その結果、次のようなことを相互に了解した旨を共同声明とした。


共同声明の要旨

① 動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設を2年間、99トンまで、既定のプルトニウム単体抽出の方法で運転する。

② 我が国は、硝酸プルトニウムを酸化プルトニウムにするための転換施設の建設を2年間見合わせる。一方、米国は、我が国の新型炉等の研究開発用プルトニウムの供給確保を保証する。

③ この2年間、再処理施設内の運転試験設備(OTL:Operational Test Laboratory)等により、混合抽出法の実験を行い、その結果を国際核燃料サイクル評価に提供する。

④ 2年間の運転終了後、運転試験設備の実験結果及び国際核燃料サイクル評価検討の結果に照らして、日米両政府によって混合抽出法が技術的に実用可能であり、かつ、効果的であると合意された場合には、東海再処理施設を混合抽出法に改造する。

⑤ プルトニウム分離のための新たな再処理施設については、2年間、主要な措置をとることを見合わせる。

⑥ 軽水炉へのプルトニウムの商業利用を2年間延期する。

⑦ 国際原子力機関は、常時査察を含む保障措置を十分に適用できる。

⑧ 我が国は、本施設におけるセーフガーダビリティ及び核物質防護措置を改善する。

⑨ 我が国は、米国、国際原子力機関と協力して保障措置関連機器の試験を実施し、その結果を国際核燃料サイクル評価に提供する。


 この結果は、我が国の基本的な立場を貫き、また、現行の日米原子力協定の枠組を越えた新たな権利義務関係を生ぜしめることがなかったという意味で満足できるものであった。

 これとともに両国は、今後原子力平和利用と核不拡散とを両立させるために一層の努力をし、そのため国際原子力機関の強化及び国際核燃料サイクル評価について共同して貢献していくことが確認された。

 なお、共同決定における「2年間」は、国際核燃料サイクル評価の行われる期間を考慮した結果である。

 今回の日米原子力交渉の結果、自主的な核燃料サイクルの確立にとって不可欠な再処理施設の運転が始まることとなった。また、高速増殖炉開発に関しても、実験炉「常陽」の出力試験を計画どおり進め、原型炉「もんじゅ」の開発を進めるとの我が国の基本的立場を確保することができた。

 これらの成果に加えて、前述したウラン濃縮パイロットプラントの建設着手並びに第2再処理工場に関して、国内法制の整備、立地地点の選定等を進めることによって、我が国の核燃料サイクル確立に向かって大きく前進することとなる。

第3節 我が国の進路

 ウラン資源を海外に依存せざるを得ない我が国において、原子力を準国産エネルギーとして発展させていくためには、ウランを効果的に活用する核燃料サイクルの確立が必要である。

 このためには、第1に我が国の原子力発電計画との整合性のとれた自主的核燃料サイクルの確立を図るに必要な、法令の整備、事業化の促進等国内体制の整備を早急に進めるとともに、前節で明らかにしたような国際情勢に我が国が適切に対応していくことが何よりも必要である。

 第2には、このような自主的核燃料サイクル確立のための技術開発を中心とする原子力各分野の自主技術の開発が必要である。特に、自主技術は、国際的な場で我が国がその基本的立場を貫き、かつ、国際的に貢献していくためにも極めて重要なものである。

 以上の点にかんがみ、本節では、国際情勢への我が国の対応と自主技術開発の促進に関する基本的考えを明らかにする。

 1 国際情勢への適切な対応

(原子力開発利用に対する我が国の基本姿勢)

 原子力委員会は、昭和52年8月15日、「原子力平和利用と核不拡散の両立をめざして」と題する原子力委員会委員長談話を発表した。

 これは、我が国が、昭和31年に制定された原子力基本法に基づき、原子力の開発利用を平和目的に限ることとしており、更に、非核三原則を国是として堅持してきたことが、核兵器廃絶という我が国の不動の決意に基づいたものであることを明らかにしたものである。あわせて、核不拡散それ自体が原子力の平和利用を妨げるものとなってはならないとの、我が国の基本的考え方を述べるとともに、恒久平和の理念と、それを達成するためのあらゆる国際的な努力を前提とするならば、核兵器の不拡散及び将来におけるその廃絶と原子力平和利用の両立が可能であるとの見解を明らかにしている。

 原子力委員会としては、今後とも、この考えに基づいて、国際社会に貢献していくとともに我が国の原子力平和利用を円滑に推進していくこととしている。

(国際核燃料サイクル評価への対応)

 昭和52年4月、カーター米国大統領は、国際的な核燃料サイクルの評価を提唱した。同じ5月の主要国首脳会議では、エネルギー源として原子力開発促進の必要性並びに核不拡散の強化の重要性について合意されるとともに、これらの問題点を対象として研究を発足させることとなり、核問題主要国間予備会議を次の目的のために開催することが合意された。

イ) 核拡散の危険を回避しつつ原子力の平和利用を推進するための最善の方法につき予備的分析を行うこと。

ロ) 国際的な核燃料サイクル評価への付託事項を研究すること。

 これを受けて、昭和52年6月及び7月に核問題主要国間予備会議が開かれ、国際核燃料サイクル評価として検討すべき付託事項について協議した結果、10月19日から21日の間、ワシントンにおいて第1回国際核燃料サイクル評価設立総会が開かれ、いよいよ評価作業が始められることとなった。

 我が国の本評価作業参加について、原子力委員会は、昭和52年10月14日に、基本的考え方を発表し、我が国の基本的立場、すなわち、核燃料サイクルの確立が我が国にとり必要であり、また、原子力平和利用と核拡散防止とは両立するとの主張に関して、諸外国の理解と協調を求め、かつ、今後の我が国原子力政策の遂行に少なからぬ影響を及ぼすと考えられる本作業に、我が国の見解を反映させるために積極的に参加することを明らかにしている。この方針とともに、原子力委員会に国際核燃料サイクル評価対策協議会を設け、参加国内体制を整えている。

 本評価作業の実施に当たっては、我が国を始めとする諸国の強い主張により、次の原則によって作業を進めることが合意されている。

① 原子力平和利用と核不拡散の両立の方途を探求するために実施されるべきこと。

② 評価の実施に当たっては、プルトニウム利用を排除すること等、結果を予断することなく、客観的、技術的に作業を進めること。

③ 原子力平和利用のいたずらな混迷を避けるため、評価作業は2年間で終了すること。

④ 評価作業の期間中、各国の自主的な原子力政策の推進は阻害されないこと。

⑤ 評価の結果は、直ちに各国の原子力政策を拘束するものでないこと。

 国際核燃料サイクル評価は、核燃料サイクルの全分野について、技術的、分析的作業を行うものである。すなわち、この評価の第一の柱は、これまで開発を進めているウラン・プルトニウムサイクルについて、その必要性あるいは、核拡散防止措置の可能性及び有効性を明らかにするため、ウラン資源、濃縮能力、核燃料長期供給保証制度、再処理及びプルトニウム利用、更に高速増殖炉の各分野について、それぞれ検討することである。また第二の柱は、ウラン・プルトニウムサイクルに代わる核燃料サイクルと新しい原子炉の可能性を探究するため、使用済燃料及び放射性廃棄物の貯蔵、更に新しい核燃料とそれに適した原子炉等の分野について検討することである。

 なお、いずれの分野についても、開発途上国への配慮を加えることとなった。

 以上の検討を行うため、上述の検討分野ごとに8つの作業部会が設けられることとなった。

〈国際核燃料サイクル評価作業部会及び議長国〉

昭和52年10月21日決定
作 業 部 会共 同 議 長 国
① 核燃料と重水の入手可能性カナダ、エジプト、インド
② 濃縮の入手可能性フランス、西ドイツ、イラン
③ 技術、核燃料及び重水の長期供給保証オーストラリア、フィリピン、スイス
④ 再処理プルトニウムの取扱い、リサイクル日本、米国
⑤ 高速増殖炉ベルギー、イタリー、ソ連
⑥ 使用済燃料の管理アルゼンチン、スペイン
⑦ 廃棄物処理処分フィンランド、オランダ、スウェーデン
⑧ 新しい核燃料サイクルと原子炉韓国、ルーマニア、米国

 我が国は、これら8つの作業部会のうち、最も関心が高く、かつ、国際核燃料サイクル評価の中心的課題である、再処理、プルトニウムの取扱い及びその利用について検討する第4作業部会において、英国とともに共同議長国となることが決定された。

 我が国としては、共同議長国として、第4作業部会に貢献していく責任を果たしていくとともに、他の7つの作業部会についても積極的に参加することとしている。

(ウラン資源国への対応)

 国内のウラン資源に乏しい我が国としては、必要な天然ウランの供給を海外に依存せざるを得ない。各電気事業者は、昭和60年頃までに必要とする天然ウランを長期買付契約等により、既に確保している。しかし、ウラン市場の動向等を考慮すると、その後のウランの供給確保が懸念される。

 このため、原子力委員会としては、海外ウラン資源国における探鉱活動を促進し、開発輸入の比率を高めるよう予算面等の強化を図ってきている。

 最近、資源国のうち開発途上国においては、経済協力、技術援助と一体としてウラン資源開発協力を進めるという希望が強くなってきている。したがって、我が国としても、単にウラン資源開発という点からのみではなく、開発途上国との経済協力、技術協力をあわせた総合的な協力という観点から対処していくことが、ますます重要となっている。

 また、ウラン輸出に際しての核不拡散強化の動きも最近の傾向である。

 特に、昭和52年初頭以来、我が国のウランの主要輸入先であるカナダからの既存契約に基づく輸入が、カナダ政府の方針により停止している。

 これは、カナダ政府が昭和49年及び51年に発表した保障措置強化を目的とした新ウラン輸出政策の実施のために、既存の原子力協力協定の改訂交渉を日本及び西欧諸国に要求し、未だいずれも合意に達していないためである。

 他方、もう一つの主要輸入先であるオーストラリアも本年5月に、カナダと同様の政策を発表しているが、この新政策は、既存のウラン購入契約には適用されないので、当面問題は生じていない。しかし、新規契約による船積みの時点までに改訂協定を成立させることが必要となっている。

 我が国は核拡散防止の強化を支持するものであり、基本的には、両国のこの考え方にほぼ同意している。しかし、我が国に対し、米国経由で、濃縮されて送られてくるウランについて、米国と同時に、カナダ又はオーストラリアが、濃縮、再処理の事前同意等の規制権を持つという事態が予想される。今後、このように規制権が同一物資に対し、複数国から重複して行使されることとなると平和利用が実際上阻害されるおそれがある。この点から、現在、日加原子力協定改訂交渉は最終的な合意を得るに至っていない。

 我が国は、原子力平和利用と核不拡散とは両立できると考えており、本件は基本的な点での対立ではないため、今後、両国にとり満足のいく解決策が得られるよう、努力をすることとしている。また、この点に関しては、国際的な合意に基づいて行われることが極めて望ましいので、我が国は、原子力平和利用先進国間会議に本件検討のための作業部会の設置を提案し、昭和53年早々から、同作業部会で検討が行われることとなった。

 我が国としては、今後とも、資源国との総合的な協力関係の樹立に努める一方、核不拡散の原則に十分留意しつつ、我が国の立場について資源国の理解と協調を得ていくこととしている。

 2 自主技術開発の強化促進

 我が国のように資源の乏しい国が、原子力の開発利用を進めていくためには、自主技術開発を強化促進していくことが必要である。

 また、自主技術の蓄積は、原子力開発利用にとっての大前提である安全確保の面で国民の期待に応えることとなる。

 更に、我が国が国際社会の一員として貢献していく上からも自主技術に期待されるところは大きい。すなわち、核融合等、開発に膨大な資金と期間を要する分野においては、それぞれの国が協力してその開発を効率的に進める傾向が一段と強くなっており、このような協力に積極的に参加していくためにも、自主技術が必要である。

 原子力委員会は、我が国の原子力開発が、諸外国に比して遅れて着手された事情もあり、その初期においては、進んだ技術を導入し、技術基盤の確立を図ることに重点をおいてきたが、近年の原子力開発利用の進展に応じ、政府及び民間における新型炉、ウラン濃縮等原子力各分野の自主技術開発を推進してきたところである。

 これらが、それぞれ新しい段階を迎えた今日、更に開発を進展させるためには一層多額の費用を要するものと考えられる。したがって原子力委員会としては、技術開発の計画的・効率的遂行はもとより所要の開発資金の確保によって今後の技術開発の一層の推進を図ることとしている。その際、先に述べた新しい国際情勢に適切に対処していくため、核燃料サイクル分野における技術開発が極めて緊急と考える。

 この分野の技術開発課題としては、

① 濃縮ウラン確保のため、昭和52年8月に着工したウラン濃縮パイロットプラントの建設の推進等、遠心分離法によるウラン濃縮技術の確立

② 使用済燃料の再処理のため、動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設での運転経験の蓄積。なお、あわせて混合抽出法に関する研究開発の実施

③ 放射性廃棄物処理処分のため、廃棄物の固化技術、処分技術等の開発の推進

④ 高速増殖炉実験炉「常陽」の運転試験と原型炉「もんじゅ」の建設の促進

⑤ ウラン資源の効率的利用のため、新型転換炉「ふげん」の運転及びその開発の推進

⑥ プルトニウム利用のため、安全性を含めての研究開発及び実証試験の推進

⑦ 原子力施設及び核物質に関する保障措置及び核物質防護技術のより一層の改善のための研究開発の推進

等を、推進する必要がある。

 また、軽水炉に関しては、従来から導入技術を基礎として、その消化・吸収、改良等によって自主技術の蓄積に努め、実用化されてきている。しかしながら、故障等が発生した場合でも迅速かつ的確にこれに対応していくこと等安全性、信頼性はもちろん経済性の向上の見地からも、なお一層の自主技術の蓄積が必要であると考えられる。このため、第1には、炉の改良、標準化等を民間産業を中心として進めてきているところであるが、今後の一層の努力を期待しているところである。また、第2には、軽水炉の安全性試験研究について、日本原子力研究所を中心に進められている原子炉における反応度事故、冷却材喪失事故などに関する工学的安全性研究、また原子力工学試験センター等を中心とした信頼性各種実証試験を核として、安全基準の一層の精密化及び安全性の実証を目的としてその推進を図っているが、今後、なお一層、この分野の研究開発を進める必要がある。

 また、原子力の熱エネルギーの直接利用を目的とした高温ガス炉の開発は、エネルギー政策上重要であるので、その推進を図る必要がある。

 更に、核融合の分野では、我が国においては、従来から、大学における基礎研究並びに日本原子力研究所を中心とするトカマク型に重点を置いた研究開発が、精力的に進められ、米国、ソ連等の諸国と肩をならべる程の技術を有するに至っている。この技術蓄積を基盤として、トカマク型臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設を推進する必要がある。

第3章 原子力安全の確保

第1節 原子力施設の安全の確保と故障等についての考え方

(安全確保の基本的考え方)

 原子力開発利用の実施に当たっては、国民の健康と安全の確保が大前提であり、原子力委員会としては、原子炉、再処理施設等の原子力施設の安全を十分に確保するとともに、原子力施設から出される放射性物質によって、周辺公衆に影響を及ぼさないことを最優先するという立場を堅持してきている。

 原子力施設については、基本設計、詳細設計、建設運転等の各段階において、その安全性が担保される仕組みとなっているが、その安全が十分に確保されるためには、安全審査指針の整備、基本設計の安全審査等の原子力委員会の活動、原子力施設の建設、運転管理の各段階における行政庁の安全規制、原子力施設を構成する各種機器、部品を実際に製造する原子力産業、並びに、これら施設を現実に運転管理する原子力事業者及び原子力事業従事者の不断の努力と協力が必要不可欠であることは言うまでもない。また、先に述べたように、自主技術の蓄積は、経済性の向上をもたらすこと以上に、安全性・信頼性の向上にとって極めて必要なものであり、今後とも安全研究の推進を図って行くことが肝要である。

 このように、原子力委員会は、原子力施設の安全に関し、原子力施設の設計の基本的考え方を示すいわゆる基本的設計についての安全審査を行っているが、審査は次のような基本的な考え方に従って行われている。

① 当該立地環境において予想される地震・高潮等の自然事象に十分に耐えること。原子力施設の故障等の発生を防止することはもちろんのこと、仮に故障等が発生したとしても、それが拡大して、周辺公衆に放射線障害を及ぼす事態にまで至ることのないよう防止対策を講じた施設であること。

② 通常運転に伴って放出される放射性物質の量は、これによって周辺公衆の受ける放射線量が放射線障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることのみならず、「実用可能な限り低く」という放射線防護の考え方のもとに、管理し得る施設であること。

③ 万一、事故が発生したとしても、公衆の安全を確保し得るように、安全防護設備との関連において、十分に公衆から離れていること等の立地条件を備えていること。

これらの基本的考え方は、行政庁において詳細設計、建設及び運転の各段階を通じて、安全防護システム、放射能放出低減システム等の設計の認可、諸安全装置の機能に関する検査、運転等の保安管理のための保安規定の認可等において具体化され、安全の確保が図られている。なお、原子力施設の技術については、安全確保のための研究と技術の開発に重点が置かれてきており、原子力発電設備の改良・標準化の推進とともに、個々の部品に至るまで健全性、信頼性の向上が図られている。

 これらにより、原子力施設においては、周辺公衆に放射線障害を与えるような事故は一度も起こさないという実績を積み重ねてきている。

(故障等に対する安全確保の考え方)

 以上のような基本的な考え方のもとに安全確保が図られているが、更に具体的には次のような考え方のもとに、故障等の早期検知等によって適切に処置することとしている。

① 構成する機械類に安全余裕を持たせるとともに、安全上重要な施設・設備には、重複性、独自性を持たせる等、十分な安全余裕を持たせる。

② 機械類の誤動作、人間の誤操作等の可能性も考慮して、安全上重要な施設、設備機器については、誤動作及び誤操作を阻止するような構造とし、更に、そのような事態が発生した場合には、自動的に安全な状態に至らしめるような構造とする。

③ 機械類の損傷、故障等が完全かつ正確に予測し得ない可能性も考慮して、故障等を出来るだけ早期に検知するために、必要箇所に、監視警報装置を備える。また、停止状態においてのみならず運転中においても、その健全性確認のための試験が可能な構造とする。

 更に各施設は、これらの方針に従うよう製作、建設され、保守・管理の段階においては、前述の考え方と呼応させて、経年劣化が予想される機器等に対し定期的な点検・検査が行われ、故障等の早期検出とこれへの対応が講じられるようになっている。

(最近における故障等)

 昭和51年度においては、東京電力福島第一原子力発電所、関西電力高浜原子力発電所等において故障が発生し、法令に基づき、24件の報告が行われ、また昭和52年に入っても故障等がみられた。

 原子力発電所におけるこれらの故障等の発生に際しては、補修工事及びその安全性の確認を慎重に行うとともに、類似の事象が他の箇所、他の原子力発電所にはないか等について十分な点検を行うため、必要に応じ長時間にわたって運転を停止させていることもある。この結果、我が国全体での原子力発電所の設備利用率は、昭和52年度に入って、51年度に比べて低下した。

 しかし、これらの故障等は、内容的には、例えば配管あるいは制御棒駆動水戻りノズルの内面に「ひび」が発見されたもの等であり、いずれも定期検査又は計測機器により早期に発見され、配管については取り換え、制御棒駆動水戻りノズルの内面の「ひび」については余裕肉厚の範囲内での削り取りによる「ひび」の拡大の可能性の除去、系統の変更等の所要の対策が講じられており、今後とも原子力発電所の安全性は十分に確保され得るものである。また、再処理施設ホット試験については、脱硝塔ノズル配管からの水漏れ等の軽微なトラブルが生じたが、これらについてはそれぞれの対応措置が講じられ、安全性は確保されている。

 これらの故障等に伴う点検・修理等に際し、従事者の受けた放射線の量は、いずれも許容線量をはるかに下回るものであった。

 なお、これら原子力事業に従事する者の健康管理等は、極めて重要な課題であるので、これらの者が受けた放射線量の一元的な登録管理を行う放射線従事者中央登録センターが昭和52年11月に設立された。

 また、故障等については、安全確保に万全を期すため、監督官庁においてそれを正確に把握し、今後の原子力技術の改善に反映していくとともに、その正確な内容を公表することによって国民の不安解消に努める必要がある。

 このため、原子力施設において、故障等が発生し、又は発見された際には、軽微なものを含めて、遅滞なく規制当局に報告あるいは連絡される体制としている。それにもかかわらず、関西電力㈱美浜発電所における事例のように報告が行われなかったり、あるいは動力炉・核燃料開発事業団の東海事業所におけるトラブル等のように報告や連絡が遅れるような事例が見られた。このため、政府としては、このような故障等の発生に対しては、情報の報告、連絡に遺漏がないよう注意を行い、かつ、指導を行っている。

 また、これらの故障等に対しては、原因の徹底的究明と適切な対策を行うことが、安全の確保の上で極めて重要である。そのため、必要な調査、試験を実施の上、専門技術的な判断による措置を採ることとしている。

第2節 原子力安全委員会の設置と安全規制の一貫化

 原子力の開発利用の進展とその重要性の認識が深まるにつれ、原子力行政に対する国民の要求も多面化してきている。

 このような中で、原子力行政懇談会において、昭和50年12月原子力安全委員会の設置及び安全規制の一貫化を内容とする「原子力行政体制の改革、強化に関する意見」(中間取りまとめ)が取りまとめられた。

 原子力委員会は、この意見を踏まえ、当面の措置として、関係省庁が設計工事計画以降の認可等を行うに当たって原子炉安全専門審査会において意見を述べること等によって安全規制に実質的一貫性を持たせることとした。

 その後原子力行政懇談会は、公開ヒアリングのあり方、環境放射線モニタリング業務のあり方等について審議を行い、昭和51年7月最終意見を内閣総理大臣に提出した。

 政府としては、原子力に対する国民の一層の理解と協力を得て原子力開発を進めていく上で、原子力の安全確保の体制を強化することは、不可欠の措置であるとの判断のもとに、概略以下の内容のごとく原子力行政体制を改革、強化することとし、「原子力基本法等の一部を改正する法律」を昭和52年2月に国会に提出したが未だ審議中である。

① 原子力安全委員会の設置

 原子力の安全確保体制を強化するため、原子力委員会が有していた開発と安全確保に関する機能を分離し、新たに安全確保に係る事項を所掌する原子力安全委員会を設ける。後述の規制の一貫化により、各行政庁がそれぞれ原子炉の設置許可を行うが、行政庁は設置許可を行うに際し、その安全性につき、原子力安全委員会の意見を聞くことが義務付けられる。これに従い、各省庁は、まず第一次的に安全審査を行ってその結果を取りまとめて安全審査報告書案を作成し、これを原子力安全委員会に提出して再審査(ダブルチェック)を受ける。これらの各省庁は、原子力開発利用を推進する立場にもあるため、原子力安全委員会が再審査することによって安全の確保に万全を期し、国民の不信感が生じることのないようにするものである。

 また、原子力安全委員会は、原子力政策のうち安全規制に関する事項を企画、審議、決定することとされており、安全審査指針の策定等を横断的立場に立って行う。

 なお、原子力安全委員会は、国民との積極的な意見の疎通を図るとの観点から、公開ヒアリング等を開催して地元関係者の生の声を聴取することとしているほか、原子力安全に関する年報、月報等の刊行を行うことにより、広く安全に関する情報を公開し、国民の理解に資することとしている。

② 安全規制の一貫化

 原子力安全行政に関する批判の多くが、基本的安全審査から運転管理に至る一連の規制行政に一貫性が欠けている点に向けられていることにかんがみ、安全規制行政の一貫化を図る。すなわち内閣総理大臣が全ての原子炉につき設置許可を行い、その後の規制を通商産業大臣、運輸大臣等が行う現在の体制を改め、試験研究用原子炉及び研究開発段階にある原子炉については内閣総理大臣、実用発電用原子炉については通商産業大臣、実用舶用原子炉については運輸大臣が、それぞれ一貫して担当することとしている。


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